ノッキングマスターの弟子のアカデミア   作:のんびり者

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 ちょっと前から超かぐや姫にドハマりしてるんだけど誰か見てない?



眼前の好敵手

 決勝戦開始。

 

 そのはずだった。

 

 観客席からは大歓声が上がり、プレゼント・マイクの実況が響き渡っている。

 

 しかし。

 

 競技場の中央に立つ針山瞬の意識は、そこにはなかった。

 

「……」

 

 目の前には爆豪がいる。

 

 だが、瞬の頭に浮かんでいたのは──轟だった。

 

 炎。

 

 氷。

 

 そして。

 

 自分のビッグバンによって場外へ吹き飛ばされた姿。

 

『……勝ったのに』

 

 あの時感じた虚しさ。

 

 あれからずっと、胸の奥に引っかかっていた。

 

(どうして轟は……)

 

(あそこで炎を使うのをやめたんだろう)

 

 緑谷との戦い。

 

 あの時の轟は違った。

 

 凄まじい氷を放ち、炎を使い、自分自身の力と真正面から向き合っていた。

 

 なのに。

 

 自分との戦いでは、炎を一瞬だけ見せた後、氷で防いだ。

 

(何か……理由があったのかな)

 

 考えれば考えるほど分からない。

 

 そのせいで。

 

 目の前の戦いへの意識が薄れていた。

 

「……」

 

 爆豪が構える。

 

 瞬も構えている。

 

 だが。

 

 明らかに違った。

 

 爆豪の目には、目の前の相手しか映っていない。

 

 対して瞬の視線はどこか遠い。

 

「……」

 

 爆豪の額に青筋が浮かぶ。

 

「……テメェ」

 

 瞬が反応する。

 

「ん?」

 

「何ボケッとしてやがる」

 

「……」

 

 瞬は少しだけ首を傾げた。

 

「ごめん」

 

「ごめんじゃねぇ!!」

 

 爆豪が怒鳴る。

 

 その声が競技場全体へ響き渡った。

 

「テメェ本気出せや!!」

 

 観客席が静かになる。

 

 爆豪は拳を握り締めた。

 

「俺はな!!」

 

「一位が欲しい!!」

 

「完膚なきまでの一位が!!!」

 

 爆発が掌で弾ける。

 

 パンッ!! 

 

「なのにテメェは上の空でコノ場にいやがる!!」

 

 さらに一歩。

 

「ヤル気がねぇなら帰れや!!!」

 

 怒気。

 

 殺気にも似た圧力が競技場を満たす。

 

 瞬は。

 

 初めて真正面から爆豪を見る。

 

「……」

 

 そこにいたのは。

 

 ただ怒っている少年ではなかった。

 

 自分の欲しいものを明確に理解し。

 

 そのために全力で戦おうとしている。

 

 勝ちたい。

 

 一位になりたい。

 

 そのためなら、自分自身の全てを叩き込む。

 

 そんな爆豪勝己の姿だった。

 

 瞬の目が少しずつ開いていく。

 

(……そうか)

 

 そして。

 

 一つのことに気づいた。

 

(俺)

 

(轟と同じことをしてる)

 

 轟は。

 

 自分との戦いで何かを抱えていた。

 

 そして瞬は、それに気づかないまま。

 

 ただ自分が望む戦いを求めていた。

 

 轟が何を考えていたのか。

 

 何故、炎を使わなかったのか。

 

 その事情を知らないまま。

 

「……」

 

 瞬は拳を握る。

 

(もしかしたら)

 

(轟にも、轟なりの理由があったのかもしれない)

 

 そう考えた瞬間。

 

「オラァ!!」

 

 爆豪が迫ってきた。

 

「!」

 

 爆発。

 

 瞬の目の前へ爆豪の拳が迫る。

 

 瞬は咄嗟に身体を捻った。

 

 ドォン!! 

 

 爆発が頬を掠める。

 

 熱風が吹き抜けた。

 

 瞬は後方へ跳ぶ。

 

 着地。

 

 そして。

 

 爆豪を見る。

 

「……爆豪」

 

「あァ!?」

 

 瞬の表情が変わっていた。

 

 先ほどまでの迷いが消えている。

 

「ごめん!!」

 

 爆豪の眉が動く。

 

「考え事してた」

 

 瞬は拳を握り締める。

 

「でも」

 

 口元が。

 

 ゆっくりと上がった。

 

「ここからが本番だ!!」

 

「……」

 

 爆豪が目を見開く。

 

 次の瞬間。

 

「ハッ!!」

 

 爆豪の顔に獰猛な笑みが浮かんだ。

 

「最初からそうしろやァ!!」

 

 爆発。

 

 瞬も同時に地面を蹴る。

 

 ドンッ!! 

 

 二人の距離が一瞬で消える。

 

 拳と掌。

 

 真正面からぶつかる。

 

 ドォォォン!! 

 

 衝撃が競技場を震わせる。

 

 観客席から歓声が爆発した。

 

「始まったァァァ!!」

 

 プレゼント・マイクが叫ぶ。

 

「ここからが決勝戦の本番だァァァ!!!」

 

 爆豪が爆発で押し込む。

 

 瞬がそれを真正面から受け止める。

 

 互いに一歩も引かない。

 

 瞬の目には。

 

 もう轟の姿は映っていなかった。

 

 今、目の前にいるのは。

 

 自分との勝負に全てを懸けている一人の少年。

 

 ──爆豪勝己。

 

 そして瞬もまた。

 

 ようやく。

 

 この戦いへ全てを向けた。

 

 体育祭決勝戦。

 

 ここから。

 

 本当の勝負が始まる。

 

 ────────

 

 爆豪の掌が炸裂する。

 

 ドォン!! 

 

 瞬の身体が横へ吹き飛ばされた。

 

 しかし。

 

 空中で身体を捻る。

 

 着地。

 

 ズザァァッ!! 

 

 足元の地面を削りながら止まる。

 

「……!」

 

 瞬の目が輝いた。

 

 今度は、迷っていない。

 

 目の前の爆豪だけを見ている。

 

「来いよ!!」

 

「言われなくても行くわァ!!」

 

 爆豪が爆発する。

 

 ドォン!! 

 

 瞬も踏み込む。

 

 ドンッ!! 

 

 二人が正面から激突した。

 

 拳。

 

 掌。

 

 肩。

 

 蹴り。

 

 爆発。

 

 互いの攻撃が、次々と交差する。

 

 爆豪は爆発によって瞬の死角へ回り込む。

 

「こっちだァ!!」

 

 ドォン!! 

 

 背後から爆発。

 

 瞬は振り返ることなく身体を沈める。

 

 爆風が頭上を通り過ぎる。

 

「そこ!」

 

 瞬が振り向きざまに拳を振るう。

 

 爆豪は両手を爆発させて後方へ飛ぶ。

 

「チッ!」

 

 空中で姿勢を立て直す。

 

 そのまま。

 

 さらに爆発。

 

 ドォォォン!! 

 

 瞬へ急降下する。

 

「食らいやがれ!!」

 

 瞬は両腕を交差させる。

 

 直撃。

 

 ドォォォォン!! 

 

 砂煙が競技場を包み込む。

 

「針山!!」

 

 緑谷が思わず立ち上がる。

 

 しかし。

 

 砂煙の中から。

 

 巨大な影が現れた。

 

「……効くなぁ」

 

 瞬だった。

 

 腕を下ろす。

 

 その顔には。

 

 笑み。

 

 爆豪の目が鋭くなる。

 

「テメェ……」

 

「すごいな、爆豪」

 

「何がだ」

 

「何度食らっても、まだ来る」

 

「当たり前だろうが!!」

 

 爆豪の掌が再び弾ける。

 

「俺は勝つんだ!!」

 

 ドォン!! 

 

 瞬も走り出す。

 

 今度は爆豪が迎え撃つ。

 

 爆発と拳がぶつかる。

 

 衝撃が何度も競技場を揺らす。

 

 観客席は完全に沸騰していた。

 

「すげぇ!!」

 

「どっちも引かねぇ!!」

 

「まさに決勝戦だ!!」

 

 プレゼント・マイクの実況が響く。

 

「両者とも一歩も譲らない!!」

 

 だが。

 

 戦いが長引くにつれて。

 

 二人の身体には確実に疲労が蓄積していく。

 

 爆豪の呼吸が荒くなる。

 

 瞬の額からも汗が流れる。

 

 それでも。

 

 二人とも止まらない。

 

「ハァ……!」

 

 爆豪が拳を握る。

 

「まだだ……!」

 

 瞬も拳を握る。

 

「俺も」

 

 爆豪が笑う。

 

「なら来い!!」

 

 ドォン!! 

 

 爆豪が一気に距離を詰める。

 

 瞬も真正面から迎え撃つ。

 

 爆豪の爆発。

 

 瞬の拳。

 

 衝突。

 

 そして。

 

 二人が同時に後方へ吹き飛ぶ。

 

 ズザァァァッ!! 

 

 互いに地面を削りながら止まる。

 

 静寂。

 

 二人は顔を上げる。

 

 視線が交わる。

 

「……」

 

「……」

 

 瞬が笑った。

 

「爆豪」

 

「あ?」

 

「これ、すごく楽しい」

 

 爆豪の口元が歪む。

 

「今さらかよ」

 

「うん」

 

「なら──」

 

 爆豪が両手を広げる。

 

 掌から。

 

 凄まじい爆発が巻き起こる。

 

「最後まで楽しめやァァァ!!」

 

 ドォォォォォン!! 

 

 爆炎が爆豪の身体を包む。

 

 爆発によって生まれた勢いを利用し。

 

 爆豪が一直線に突っ込んでくる。

 

 瞬の瞳が見開かれる。

 

「……来る!」

 

 瞬も。

 

 構えを変えた。

 

 脚を開く。

 

 腰を落とす。

 

 背中。

 

 肩。

 

 腕。

 

 全身の筋肉が連動する。

 

 拳へ力が集中していく。

 

 腕が黒く染まる。

 

 圧縮された力が。

 

 拳の一点へ集まっていく。

 

 緑谷が息を呑む。

 

「……あれは!」

 

 轟も競技場を見つめる。

 

「……」

 

 爆豪の両掌から。

 

 爆発が連続して発生する。

 

 ドン!! 

 

 ドォン!! 

 

 ドォォン!! 

 

 その勢いは。

 

 これまでとは比較にならない。

 

「行くぞォォォ!!」

 

 爆豪が叫ぶ。

 

 瞬も叫ぶ。

 

「爆豪ォォォ!!」

 

 二人が。

 

 同時に踏み込んだ。

 

 地面が砕ける。

 

 砂煙が吹き飛ぶ。

 

 距離が。

 

 一瞬で消える。

 

 爆豪の両手に。

 

 最大級の爆発が集まる。

 

「ハウザー……」

 

 瞬の拳が。

 

 さらに黒く染まる。

 

「ビッグ……」

 

 二人の目が。

 

 真正面から交わる。

 

「インパクトォォォ!!!」

 

「バァァァァン!!!」

 

 ──瞬間。

 

 爆発と拳が。

 

 真正面から激突した。

 

 ドォォォォォォォォォォン!!!! 

 

 凄まじい衝撃波が競技場を駆け抜ける。

 

 地面が震える。

 

 観客席の誰もが息を呑む。

 

 爆豪のハウザーインパクト。

 

 瞬のビッグバン。

 

 二つの全力が。

 

 真正面からぶつかり合った。

 

 そして──。

 

 体育祭決勝戦の勝敗を決める一撃が。

 

 今、競技場の中央で炸裂した。

 

 ────────

 

 ドォォォォォォォォォォン!! 

 

 爆豪のハウザーインパクトと、瞬のビッグバン。

 

 二つの必殺技が真正面から衝突した。

 

 衝撃波が競技場を駆け抜ける。

 

 地面が大きくひび割れ、砂煙が吹き飛ぶ。

 

「うおおおおおおお!!」

 

「すげぇ!!」

 

「どっちだ!?」

 

 観客席から無数の声が飛び交う。

 

 しかし、二人の耳には届いていなかった。

 

「ぐ……ッ!!」

 

 爆豪が歯を食いしばる。

 

 目の前にいる瞬は。

 

 自分と同じように。

 

 全力で拳を押し込んでいる。

 

「負け……るかァァァ!!」

 

 爆発がさらに膨れ上がる。

 

 瞬も吠えた。

 

「俺だってぇぇぇ!!」

 

 ビッグバンの衝撃がさらに増す。

 

 互いの技が押し合う。

 

 そして──。

 

 限界を迎えた。

 

「「うおおおおおおおおお!!!」」

 

 ドォォォォォォォォォン!!! 

 

 二人の身体が。

 

 同時に弾き飛ばされた。

 

「──!?」

 

 瞬の身体が宙へ舞う。

 

 爆豪もまた、凄まじい勢いで空中へ放り出される。

 

 二人の身体が。

 

 競技場の外へ飛び出していく。

 

「まずい!!」

 

 緑谷が叫んだ。

 

 爆豪は空中で身体を捻る。

 

「クソッ……!!」

 

 両手を前へ突き出す。

 

 だが。

 

 もうほとんど力が残っていない。

 

「まだ……だ!!」

 

 パンッ!! 

 

 小さな爆発。

 

 身体が僅かに浮く。

 

 しかし。

 

「ぐァァァッ!!」

 

 さらに一度。

 

 爆発。

 

 そして。

 

 もう一度。

 

 爆豪は必死に掌から爆発を生み出す。

 

 ボロボロになった身体を無理やり動かし。

 

 ほんの僅かに軌道を変える。

 

 そして──。

 

 ドサッ!! 

 

 爆豪の身体が。

 

 競技場内へ落ちた。

 

「……ッ!」

 

 爆豪は地面へ転がる。

 

 身体は限界。

 

 腕も震えている。

 

 それでも。

 

 まだ場内にいる。

 

 一方。

 

 瞬は。

 

 空中で姿勢を変えられなかった。

 

「……あ」

 

 視界の下。

 

 競技場の外側が見える。

 

 そのまま。

 

 身体が落下していく。

 

 ドンッ!! 

 

 場外の地面へ着地。

 

 衝撃で砂埃が舞う。

 

 瞬は仰向けになったまま。

 

「……」

 

 しばらく動かなかった。

 

 やがて。

 

「……痛ぇ」

 

 身体を起こす。

 

 腕。

 

 肩。

 

 背中。

 

 あちこちに痛みはある。

 

 だが。

 

 動ける。

 

「……まだ戦える」

 

 瞬は立ち上がろうとする。

 

 しかし。

 

 競技場の中から声が響いた。

 

「針山瞬、場外!!」

 

 一瞬。

 

 静寂が訪れた。

 

 そして。

 

「勝者ァァァ!!」

 

「爆豪勝己ィィィ!!!」

 

 歓声が爆発する。

 

「うおおおおおおお!!」

 

「爆豪が勝った!!」

 

「決勝戦を制したァ!!」

 

 瞬は。

 

 呆然と競技場を見る。

 

「……俺の」

 

 拳を握る。

 

「負け……?」

 

 悔しい。

 

 胸が。

 

 今まで感じたことがないほど熱い。

 

「……」

 

 瞬は自分の拳を見る。

 

 これまで。

 

 負けたことがなかったわけではない。

 

 だが。

 

 こんなにも。

 

 勝ちたかったと思ったことはなかった。

 

 こんなにも。

 

 負けたことが悔しいと思ったこともなかった。

 

「……悔しい」

 

 ぽつり。

 

 その言葉が口から出た。

 

「俺……」

 

 自分でも驚いている。

 

「負けるのって……こんなに悔しいんだ」

 

 その頃。

 

 場内では爆豪がゆっくりと身体を起こしていた。

 

「……クソが」

 

 勝った。

 

 確かに。

 

 自分が一位になった。

 

 それなのに。

 

 爆豪の表情は晴れない。

 

 視線の先。

 

 そこには場外へ落ちた瞬がいる。

 

「……納得できねぇ」

 

 拳を握る。

 

「俺は……」

 

 爆豪は瞬を心の中では認めていた。

 

 無個性。

 

 それなのに。

 

 自分と互角に戦った。

 

 真正面からぶつかり。

 

 最後まで引かなかった。

 

 だからこそ。

 

「テメェ……」

 

 爆豪は悔しそうに歯を食いしばる。

 

「なんで……場外何だよ」

 

 それは。

 

 勝利への不満ではない。

 

 最後の決着への不満だった。

 

 爆豪が欲しかったのは。

 

 誰もが認める一位。

 

 そして。

 

 目の前の相手を真正面から叩き潰したという実感。

 

 なのに。

 

 最後は。

 

 互いの必殺技がぶつかり。

 

 両者が場外へ飛ばされ。

 

 爆豪だけが個性で戻った。

 

 勝敗を分けたのは。

 

 ほんの僅かな差。

 

「……チッ」

 

 爆豪は顔を上げる。

 

「次は……」

 

 その言葉は。

 

 歓声に掻き消された。

 

 一方。

 

 瞬は場外でゆっくり立ち上がった。

 

 悔しさを噛み締めながら。

 

 それでも。

 

 口元が少しだけ動く。

 

「……そっか」

 

 初めてだった。

 

 こんな感情。

 

 勝ちたい。

 

 負けたくない。

 

 もっと強くなりたい。

 

 もっと──。

 

 もう一度戦いたい。

 

 瞬は拳を握る。

 

「爆豪」

 

 遠くの少年を見る。

 

「……次は負けない」

 

 爆豪はその声を聞き。

 

 ニヤリと笑った。

 

「上等だ」

 

 こうして。

 

 雄英体育祭決勝戦。

 

 勝者は──爆豪勝己。

 

 そして針山瞬は。

 

 この敗北によって初めて。

 

 ──「負ける悔しさ」──という感情を知った。

 

 ────────

 

 ──そして。

 

 雄英高校体育祭。

 

 全ての競技が終了した。

 

 巨大なスタジアムを埋め尽くしていた熱狂も、少しずつ落ち着きを取り戻していく。

 

 競技場中央。

 

 そこには、今回の体育祭を戦い抜いた生徒たちが並んでいた。

 

 身体にはまだ戦いの跡が残っている。

 

 汗。

 

 土埃。

 

 擦り傷。

 

 それでも。

 

 誰もが最後まで立っていた。

 

 壇上へ上がったのは、雄英高校の教師陣。

 

 そして。

 

 表彰台へ呼ばれた三人。

 

「それでは、今年度雄英高校体育祭──上位入賞者を発表する!」

 

 会場が静かになる。

 

「第三位!」

 

 呼ばれた名前。

 

「轟焦凍!」

 

 轟が表彰台へ上がる。

 

 拍手が起こる。

 

 しかし。

 

 轟の表情はどこか複雑だった。

 

 体育祭を通して。

 

 自分自身と向き合った。

 

 そして。

 

 まだ答えを出し切ったわけではない。

 

 その視線が、ふと横へ向く。

 

 そこには。

 

 瞬がいた。

 

 轟はほんの一瞬だけ目を合わせる。

 

 瞬も気づいた。

 

「……」

 

 けれど。

 

 今は何も言わなかった。

 

 いずれ。

 

 話す時が来る。

 

 そんな予感だけが残った。

 

「第二位!」

 

 会場が再び沸く。

 

「針山瞬!」

 

「……!」

 

 瞬が顔を上げる。

 

 ゆっくりと表彰台へ向かう。

 

 歓声が響き渡る。

 

「無個性ながら、驚異的な身体能力と戦闘能力を見せつけた針山!」

 

「なんと決勝戦では爆豪と最後まで互角に渡り合ったァ!」

 

 観客席から大きな拍手。

 

 瞬は少し気恥ずかしそうに頭を掻く。

 

「……二位か」

 

 さっきまでなら。

 

 ただの順位だった。

 

 だが。

 

 今は違う。

 

 胸の奥に。

 

 はっきりとした感情がある。

 

(悔しい)

 

 あの敗北が。

 

 まだ残っている。

 

 瞬は拳を軽く握った。

 

 そして。

 

「次は……一位を取る」

 

 小さく呟いた。

 

 その言葉を。

 

 すぐ隣にいた爆豪が聞いていた。

 

「……」

 

 爆豪が横目で見る。

 

「上等だ」

 

 短い言葉。

 

 しかし。

 

 それだけで十分だった。

 

「第一位!」

 

 会場の歓声が一気に膨れ上がる。

 

「爆豪勝己!!」

 

 爆豪が表彰台の中央へ立つ。

 

 拳を握り締める。

 

 堂々とした姿。

 

 だが。

 

 その表情には。

 

 どこか納得していない部分が残っていた。

 

 爆豪は横目で瞬を見る。

 

「……」

 

 決勝戦。

 

 最後の一撃。

 

 あの勝敗。

 

 爆豪自身は理解している。

 

 自分が勝った。

 

 ルール上は。

 

 しかし。

 

 あれだけの戦いをして。

 

 最後の最後に場外へ飛び出し。

 

 自分は個性で戻った。

 

 決して。

 

 完膚なきまでの勝利ではなかった。

 

「チッ……」

 

 爆豪が小さく舌打ちする。

 

 それでも。

 

 今は一位。

 

 その事実だけは変わらない。

 

 壇上から教師が三人を見渡す。

 

「今年の体育祭では、多くの素晴らしい戦いが繰り広げられた」

 

「そして、ここにいる全員が──」

 

「ヒーローを目指す者として、大きな一歩を踏み出した」

 

 生徒たちは静かに聞いている。

 

 その中で。

 

 瞬は競技場を見渡した。

 

 障害物競走。

 

 騎馬戦。

 

 そして。

 

 一対一のトーナメント。

 

 いくつもの戦いが頭をよぎる。

 

 最初はただ勝つことだけを考えていた。

 

 だが。

 

 今は違う。

 

 初めて知った。

 

 負ける悔しさ。

 

 相手と全力でぶつかり合う楽しさ。

 

 そして。

 

 勝利しても虚しいことがあるということ。

 

 体育祭は。

 

 瞬に様々なものを残していった。

 

 ふと。

 

「針山」

 

 声を掛けられる。

 

 振り向くと、轟だった。

 

「ん?」

 

「……決勝、見ていた」

 

「そっか」

 

 少しの沈黙。

 

 轟が口を開く。

 

「お前は……最後まで迷っていなかったな」

 

「……」

 

 瞬は少し考える。

 

「いや」

 

 そして笑った。

 

「俺も迷ってたよ」

 

「ただ……」

 

 瞬は轟を見る。

 

「お前のこと、まだちょっと気になってる」

 

 轟の目が僅かに揺れる。

 

「……俺のことか」

 

「うん」

 

「いつか教えてくれよ」

 

「何で炎を使わなかったのか」

 

 轟はしばらく黙る。

 

 そして。

 

「ああ」

 

 短く答えた。

 

「いつか話す」

 

「そっか」

 

 瞬は笑った。

 

「じゃあ、その時まで待ってる」

 

 二人の間に。

 

 小さな約束が生まれた。

 

 その少し離れた場所。

 

 爆豪が腕を組んで二人を見ていた。

 

「……」

 

「テメェら、いつまで喋ってやがる」

 

 瞬が振り向く。

 

「爆豪」

 

「次は負けねぇ」

 

 爆豪はそう言った。

 

 瞬は笑う。

 

「俺も」

 

 二人の視線が交差する。

 

 そして。

 

 体育祭の閉会を告げる鐘が鳴り響いた。

 

 ──こうして。

 

 雄英高校体育祭は幕を閉じた。

 

 しかし。

 

 針山瞬にとって。

 

 これは終わりではなかった。

 

 初めて知った敗北。

 

 初めて知った悔しさ。

 

 そして。

 

 全力でぶつかり合える好敵手。

 

 その全てを胸に刻み。

 

 針山瞬は。

 

 次の戦いへと歩き始めるのだった。





 超かぐや姫見てないならネトフリにあるから見てくれ〜
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