ノッキングマスターの弟子のアカデミア   作:のんびり者

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 またせてすまない。超かぐや姫のBlu-rayが届いてな。



受け継ぐ名

 

 雄英体育祭から数日後。

 

 振替休日が終わり、再び登校日となった朝。

 

 山の中にある家。

 

 その一室で、瞬は一人、ベッドに腰掛けていた。

 

「……俺、あんなに悔しいの初めてだよ」

 

 ぽつりと呟く。

 

 体育祭決勝。

 

 爆豪との戦い。

 

 最後の最後で場外へ落ちた瞬は、あの日からずっとその敗北を引きずっていた。

 

 勝負そのものは楽しかった。

 

 爆豪と全力でぶつかり合ったことも忘れられない。

 

 けれど。

 

 負けた。

 

 その事実だけが、胸の奥に残っている。

 

 すると。

 

「うふふふ、それはね」

 

 返事が返ってきた。

 

「瞬がまた一歩、大人になった証拠よ」

 

「そうなのか?」

 

「そうよ」

 

 穏やかな声だった。

 

 瞬は少し考える。

 

 そして。

 

「……そっか」

 

 小さく笑った。

 

「だから、その気持ちは大切にしなさい」

 

「うん!」

 

 瞬は嬉しそうに頷く。

 

「ありがとう、クーちゃん」

 

「どういたしまして」

 

 それだけの会話。

 

 いつもと変わらない朝の一幕だった。

 

 瞬にとっては。

 

 それが当たり前だった。

 

 だが──。

 

 ガチャ。

 

「瞬」

 

 廊下から声が聞こえる。

 

「もう起きてるか?」

 

「ん?」

 

 扉が開く。

 

 次郎が顔を覗かせた。

 

「おう。今行くところ」

 

「そうか」

 

 次郎は部屋の中を軽く見渡す。

 

 しかし。

 

 そこにいるのは瞬だけだった。

 

「……さっき何か喋ってなかったか?」

 

「え?……いや」

 

 次郎は少し首を傾げる。

 

「廊下まで声が聞こえてたからな」

 

「ああ」

 

 瞬は何でもないように答えた。

 

「ちょっと考え事してただけ」

 

「そうか」

 

 次郎はそれ以上追及しなかった。

 

 体育祭が終わってから、瞬が決勝戦のことを何度も思い返していることは知っている。

 

 初めて味わった敗北感。

 

 それがよほど印象に残っているのだろう。

 

「……そんなに悔しかったか?」

 

「うん」

 

 瞬は素直に頷いた。

 

「すっごく」

 

「そうか」

 

 次郎は少しだけ笑う。

 

「なら、いい経験になったな」

 

「……うん」

 

 瞬も笑った。

 

「俺、もっと強くなりたい」

 

「爆豪に勝ちたいか?」

 

「もちろん」

 

 即答だった。

 

 その目には、以前にはなかったものが宿っている。

 

 悔しさ。

 

 闘争心。

 

 そして。

 

 次へ進もうとする意志。

 

 次郎はそんな瞬をしばらく見つめた。

 

「……なら、まず遅刻しないことだな」

 

「え?」

 

「時計」

 

「……」

 

 瞬が壁の時計を見る。

 

「──やばっ!!」

 

 慌てて鞄を肩へ掛ける。

 

「行ってきます!」

 

「おう。気をつけてな」

 

「行ってきまーす!」

 

 瞬は勢いよく部屋を飛び出していった。

 

 廊下を走る足音が遠ざかっていく。

 

 次郎はその背中を見送り。

 

「……まったく」

 

 小さく息を吐いた。

 

 そして。

 

 先ほどまで瞬がいた部屋へ視線を戻す。

 

 何の変哲もない、いつもの部屋。

 

「まさか……な」

 

 そこには。

 

 誰もいなかった。

 

 次郎はそれ以上気にすることなく、静かに扉を閉めた。

 

 ────────

 

 雄英高校。

 

 朝のホームルーム前。

 

 1年A組の教室には、体育祭を終えた生徒たちの明るい声が響いていた。

 

「いやぁ、体育祭すげぇ楽しかったな!」

 

 切島が机に手をつきながら笑う。

 

「俺は騎馬戦でめちゃくちゃ緊張したけどな!」

 

「私は障害物競走の時点でかなり疲れました……」

 

 八百万が苦笑する。

 

「でも、みんな凄かったよね!」

 

 麗日も楽しそうに話す。

 

「特に最後の決勝戦なんて、会場中が凄いことになってたし!」

 

「そうそう!」

 

 上鳴が身を乗り出す。

 

「爆豪と針山のアレだろ!? あれはマジでヤバかった!」

 

「ビッグバンだっけ?」

 

 芦戸が瞬を見る。

 

「名前からして強そうだよね!」

 

「え? そうかな?」

 

 話題を振られた瞬は、少し照れたように笑う。

 

「まあ、技の名前はジジイが付けたんだけど」

 

「確か針山くんのお師匠様だっけ?」

 

「うん。昔から使ってる技だから」

 

「へぇー!」

 

 教室のあちこちから声が上がる。

 

 そんな中。

 

「でも、やっぱり一番印象に残ってるのは爆豪じゃない?」

 

 瀬呂が言った。

 

「最後のあの勝負、すげぇ迫力だったし」

 

「そうだな」

 

 轟も静かに頷く。

 

「互いに最後まで戦っていた」

 

「……」

 

 瞬は少しだけ黙った。

 

 そして。

 

「うん」

 

 小さく笑う。

 

「俺も、忘れられないよ」

 

 悔しかった。

 

 今でも思い出せば胸の奥が熱くなる。

 

 けれど。

 

 あの戦いで初めて知った。

 

 負けることが、こんなにも悔しいということを。

 

 そして。

 

 だからこそ、もっと強くなりたいと思えることを。

 

「次は勝つ」

 

 瞬が呟く。

 

「何ブツブツ言ってやがる」

 

 爆豪が自分の席から睨む。

 

「別に?」

 

「どうせ俺に勝つとか考えてんだろ」

 

「正解!」

 

「上等だ、針山ァ!」

 

 再び二人の間に火花が散る。

 

「また始まった……」

 

 緑谷が苦笑する。

 

「ははは!」

 

 瞬は笑う。

 

 そんな朝だった。

 

 体育祭を終えて。

 

 それぞれが少しずつ変わり始めている。

 

 そんな中──。

 

 ガラッ。

 

「席につけ」

 

 教室の扉が開いた。

 

 相澤が入ってくる。

 

「おはようございます!」

 

 生徒たちがそれぞれ挨拶する。

 

 相澤は教卓へ向かうと、いつものように気だるげな表情で全員を見渡した。

 

「体育祭が終わったばかりで浮かれているところ悪いが、次の話をする」

 

 教室が静かになる。

 

「体育祭でお前らの姿を見たプロヒーローから、職場体験の指名が来る」

 

「職場体験!」

 

 生徒たちが反応する。

 

「そうだ」

 

 相澤は続ける。

 

「体育祭は、ただの学校行事じゃない。プロからすれば、お前らがどういう力を持っているのか、どういう動きをするのかを見る機会でもある」

 

 瞬は真剣に話を聞いていた。

 

「そして、その評価によって指名が届く」

 

 つまり。

 

 体育祭で見せたものが。

 

 今度は、実際のプロヒーローへと繋がっていく。

 

「ただし、その前に一つやっておくことがある」

 

 相澤は黒板へ向かった。

 

 チョークを手に取る。

 

 そして。

 

 黒板に文字を書く。

 

 ヒーローネーム

 

「これを決めてもらう」

 

「ヒーローネーム!?」

 

 一斉に声が上がった。

 

「そういえば!」

 

 切島が身を乗り出す。

 

「ヒーローってみんな名前持ってるもんな!」

 

「確かに!」

 

 上鳴も頷く。

 

「俺だったら、やっぱカッコいい名前がいいよな!」

 

「名前……」

 

 緑谷は考え込む。

 

 麗日も腕を組む。

 

「どんなのがいいかなぁ」

 

 教室が再び騒がしくなっていく。

 

 相澤はそんな生徒たちを見ながら淡々と言った。

 

「ヒーローネームは、ただのあだ名じゃない」

 

 その一言で、少しだけ空気が変わる。

 

「自分がどういうヒーローを目指すのか」

 

「どういう存在として人前に立つのか」

 

「それを名前に込めることになる」

 

 瞬は黒板を見つめた。

 

「……自分がどういうヒーローになりたいか」

 

 呟く。

 

 考えたことがなかった。

 

 自分は無個性だ。

 

 それでもヒーローを目指している。

 

 だったら。

 

 自分の名前には、何を込めればいいのだろう。

 

「それぞれ考えておけ」

 

 相澤が言う。

 

「今日、この場で決めてもらう」

 

「よっしゃあ!」

 

 切島が拳を握る。

 

「絶対カッコいい名前にするぜ!」

 

「私も!」

 

 芦戸が楽しそうに笑う。

 

 教室中が、自分だけの名前を考え始める。

 

 そんな中。

 

 瞬も腕を組んだ。

 

「うーん……」

 

 考える。

 

 強そうな名前。

 

 カッコいい名前。

 

 覚えやすい名前。

 

 いろいろ浮かんでは消えていく。

 

「……難しいな」

 

 そして。

 

 ふと。

 

 瞬は自分自身の名前を思い浮かべた。

 

 針山瞬。

 

 この名前を持って。

 

 自分はこれから、どんなヒーローになっていくのだろう。

 

 体育祭で味わった敗北。

 

 それによって生まれた悔しさ。

 

 そして。

 

 もっと強くなりたいという気持ち。

 

 その全てを抱えたまま。

 

 瞬のヒーローネームを決める時間が──。

 

 始まった。

 

 ────────

 

 教室の空気が、一気に賑やかになった。

 

「じゃあ、まず俺から行くぜ!」

 

 切島が勢いよく立ち上がる。

 

「俺のヒーローネームは──レッドライオットだ!」

 

 黒板へ堂々と名前を書く。

 

「おおー!」

 

「カッコいいじゃん!」

 

「だろ!?」

 

 切島は満足そうに胸を張った。

 

 続いて、芦戸。

 

「私はピンキー!」

 

 明るく名前を掲げる。

 

「いいじゃん!」

 

「可愛い!」

 

 教室に笑い声が広がる。

 

 その後も。

 

 八百万。

 

 上鳴。

 

 耳郎。

 

 瀬呂。

 

 尾白。

 

 蛙吹。

 

 それぞれが自分の個性や目指す姿に合わせて、ヒーローネームを決めていく。

 

 そして。

 

「次は俺だ!」

 

 飯田が立ち上がった。

 

 眼鏡を押し上げ、真剣な表情で黒板へ向かう。

 

「私のヒーローネームは──インゲニウム!」

 

 その名には、兄への尊敬。

 

 そして、自分も兄のようなヒーローになるという決意が込められていた。

 

「いい名前だな!」

 

 切島が笑う。

 

「ああ!」

 

 飯田も力強く頷いた。

 

 そして。

 

「次」

 

 相澤が名簿を見る。

 

「緑谷」

 

「は、はい!」

 

 緑谷が立ち上がる。

 

 黒板の前に立ち、少しだけ迷う。

 

 そして。

 

「僕のヒーローネームは……デクです」

 

「デク?」

 

 麗日が首を傾げる。

 

「うん」

 

 緑谷は少し照れながら笑う。

 

「昔、かっちゃんにそう呼ばれていた名前なんだけど……」

 

 一度、爆豪を見る。

 

「今は、この名前を自分のものにしたいと思って」

 

「……」

 

 爆豪は何も言わない。

 

 ただ。

 

「勝手にしろ、デク」

 

 そう吐き捨てる。

 

「うん!」

 

 緑谷は嬉しそうに笑った。

 

 そして。

 

「次」

 

 相澤が名簿へ目を落とす。

 

「針山」

 

「はい!」

 

 瞬が立ち上がる。

 

 教室中の視線が集まった。

 

「お前は決まっているか?」

 

「……」

 

 瞬は少し黙った。

 

「決まってます」

 

「ほう」

 

 相澤が僅かに眉を上げる。

 

「言ってみろ」

 

 瞬は黒板へ向かう。

 

 チョークを手に取る。

 

 そして。

 

 大きく書いた。

 

 ノッキングマスター

 

「……ノッキングマスター?」

 

 上鳴が読み上げる。

 

「なんか凄そうな名前だな!」

 

「うん」

 

 瞬は頷いた。

 

「これが俺のヒーローネーム」

 

 そう言った瞬の顔には、いつもの明るい笑顔が浮かんでいる。

 

 けれど。

 

 その名前には。

 

 瞬自身だけが知っている意味があった。

 

 ──少し前。

 

 山の中にある家。

 

 訓練を終えた瞬に、次郎が言った言葉。

 

『瞬』

 

『なんだ? ジジイ』

 

『お前がこれから名乗る名前を、ワシが決めてやる』

 

『俺の?』

 

『ああ』

 

 次郎は瞬を真っ直ぐに見つめていた。

 

『ノッキングマスター』

 

『……ノッキングマスター?』

 

『そうだ』

 

 その言葉には。

 

 普段の次郎にはない、重みがあった。

 

『それはワシがかつて名乗っていた名だ』

 

『……』

 

『そして、今度はお前が名乗れ』

 

 瞬は驚いた。

 

『俺が?』

 

『ああ』

 

 次郎は静かに頷いた。

 

『その名は、ワシにとって最高の称号だ』

 

『だからこそ──』

 

『お前がその名に恥じぬ男になれ』

 

 その時。

 

 瞬は笑った。

 

『……分かった』

 

『俺、ノッキングマスターになる』

 

 ──そして現在。

 

「ノッキングマスター……」

 

 瞬は黒板に書かれた名前を見つめる。

 

 ただの名前ではない。

 

 これは。

 

 次郎が前世で名乗っていた称号。

 

 そして。

 

 今世の瞬へ託された、最大の称号だった。

 

「その名前、どういう意味なの?」

 

 麗日が尋ねる。

 

 瞬は少しだけ考え。

 

「俺の大切な人から貰った名前なんだ」

 

 そう答えた。

 

「そっか」

 

 麗日は笑う。

 

「じゃあ、大事な名前なんだね」

 

「うん」

 

 瞬は力強く頷いた。

 

「すっごく大事な名前だ」

 

 そして。

 

 黒板に書かれたその名を、もう一度見る。

 

 ノッキングマスター。

 

 いつか。

 

 自分がこの名前を名乗ることに、誰も疑問を抱かないようなヒーローになる。

 

 この名に相応しい強さを。

 

 この名に相応しい優しさを。

 

 そして。

 

 この名に相応しい生き方を。

 

「俺」

 

 瞬は拳を握った。

 

「この名前に恥じないヒーローになる」

 

 その言葉に。

 

 相澤は静かに瞬を見る。

 

「……そうか」

 

 短い一言。

 

 けれど。

 

 それ以上、何も言わなかった。

 

 瞬は席へ戻る。

 

 その顔には、迷いがなかった。

 

 体育祭で負けた。

 

 だから、もっと強くなる。

 

 そして。

 

 いつか。

 

 この名前に相応しいヒーローになる。

 

 それが。

 

 針山瞬にとっての、新しい目標になった。

 

 ────────

 

「なあなあ、みんな指名どれくらい来た?」

 

 上鳴が興味津々といった様子で周囲を見回す。

 

「俺は結構来てたぜ!」

 

 切島が嬉しそうに笑う。

 

「俺も!」

 

 瀬呂も自分の紙を眺めながら答える。

 

「私は……こちらです」

 

 八百万が届いた指名の数々を確認している。

 

「すごい数……」

 

 麗日が思わず声を漏らす。

 

 体育祭。

 

 それは学生たちにとっての競技会であると同時に。

 

 プロヒーローたちが未来のヒーロー候補を見定める場でもあった。

 

「俺も来てるぞ!」

 

 上鳴が得意げに胸を張る。

 

「マジかよ!」

 

「へへっ!」

 

 そんなやり取りが続く中。

 

「……針山は?」

 

 誰かがそう尋ねた。

 

「俺?」

 

 瞬が振り返る。

 

「指名、来てるの?」

 

「うん」

 

 瞬は自分の机の上に置かれた大量の書類を見せた。

 

「こんなに」

 

「多っ!?」

 

 教室中から声が上がった。

 

「うわぁ……」

 

 峰田が目を見開く。

 

「第2位ってやっぱスゲェな……」

 

 指名の数だけではない。

 

 その中には、瞬の戦闘力や身体能力に注目したプロヒーローたちからの指名がいくつも届いていた。

 

「いいなぁ……」

 

 峰田が羨ましそうに呟く。

 

「俺なんて──」

 

「まあまあ」

 

 瞬が笑う。

 

「体育祭で頑張ったんだから、峰田にもきっと来るって」

 

「そういう問題じゃねぇんだよ!」

 

 峰田が頭を抱える。

 

「俺もモテたいんだよぉ!」

 

「そこなの!?」

 

 麗日が思わず突っ込む。

 

 教室に笑い声が広がった。

 

 体育祭を終え。

 

 それぞれが、自分の進む道を少しずつ見つけ始めている。

 

 そんな時だった。

 

「針山」

 

 教室の前方から声がした。

 

「はい?」

 

 瞬が振り向く。

 

 そこには相澤が立っていた。

 

「あとで職員室に来い」

 

「職員室?」

 

「ああ」

 

 相澤はそれだけ言うと、教室を出ていく。

 

「……?」

 

 瞬は首を傾げた。

 

「俺、何かしたかな?」

 

「さあ?」

 

 緑谷も首を傾げる。

 

「でも相澤先生が呼ぶってことは、何か大事な話かも」

 

「うーん……」

 

 瞬は考える。

 

 しかし。

 

「まあ、行けば分かるか!」

 

 いつものように笑った。

 

 そして。

 

 放課後。

 

 瞬は職員室へ向かった。

 

「失礼します」

 

 扉を開ける。

 

 中には相澤がいた。

 

「来たか」

 

「はい」

 

「こっちだ」

 

「え?」

 

 相澤は立ち上がる。

 

「校長室へ行く」

 

「校長室?」

 

「ああ」

 

 理由を聞く暇もなく。

 

 相澤は歩き始めた。

 

「……何の話なんだろう?」

 

 瞬は首を傾げながら、その後をついていく。

 

 やがて。

 

 校長室の前へ到着する。

 

 相澤が扉をノックした。

 

「失礼します」

 

 扉を開ける。

 

「どうぞ」

 

 中から声が返ってきた。

 

 そこにいたのは。

 

「おや」

 

 机の向こうに座る根津校長。

 

 そして。

 

「やあ、針山少年」

 

「……オールマイト!?」

 

 瞬が目を丸くする。

 

「どうしてここに!?」

 

「まあまあ、落ち着きたまえ」

 

 オールマイトが笑う。

 

 相澤は部屋の端へ移動する。

 

「座れ」

 

「はい」

 

 瞬は椅子へ腰を下ろした。

 

 根津校長が紅茶を一口飲む。

 

「体育祭、お疲れ様だったね」

 

「ありがとうございます」

 

「素晴らしい試合だったよ」

 

 オールマイトも頷く。

 

「爆豪少年との決勝戦は、実に見応えがあった!」

 

「……あはは」

 

 瞬は少し照れたように笑う。

 

「負けちゃいましたけどね」

 

「しかし、君は最後まで諦めなかった」

 

 オールマイトが優しく笑う。

 

「それはヒーローとして、とても大切なことだ」

 

「……」

 

 瞬は少しだけ驚いた。

 

「ありがとうございます」

 

 根津校長も微笑む。

 

「それにしても、たくさんの指名が来ているようだね」

 

「はい」

 

「君ほどの身体能力を持つ無個性の生徒は、やはり珍しい」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ」

 

 根津は楽しそうに笑う。

 

「さて」

 

 そして。

 

 紅茶を机へ置いた。

 

「少し昔の話をしようか」

 

「昔の話?」

 

 瞬が首を傾げる。

 

「そう」

 

 根津の表情が僅かに変わった。

 

 先ほどまでの柔らかな雰囲気が。

 

 ほんの少しだけ消える。

 

「君は──」

 

 一拍。

 

「暴獣二狼という名前を知っているかい?」

 

「……?」

 

 瞬は考える。

 

 聞いたことがない。

 

「……いや」

 

 首を横に振る。

 

「知らないです」

 

「そうか」

 

 根津は静かに頷いた。

 

 オールマイトもまた、表情を引き締める。

 

「では」

 

 根津は椅子へ深く腰掛けた。

 

「昔、この街に──」

 

 そこで。

 

 言葉を止める。

 

 瞬は黙って根津を見る。

 

「一人のヴィジランテがいた」

 

 ヴィジランテ。

 

 法に認められたヒーローではない。

 

 それでも。

 

 人を助けるために夜の街を駆け回っていた者たち。

 

「その男は、誰からも認められていたわけではない」

 

「それどころか」

 

 根津の声が少し低くなる。

 

「恐れられていた」

 

 瞬の表情から笑みが消える。

 

「……恐れられて?」

 

「ああ」

 

 オールマイトが静かに頷く。

 

「彼が戦った相手は、普通の犯罪者だけではなかった」

 

 根津が続ける。

 

「そして、いつしか人々は彼をこう呼ぶようになった」

 

 一拍。

 

「──暴獣二狼」

 

「……」

 

 その名が。

 

 校長室に静かに響いた。

 

 瞬はまだ知らない。

 

 その名前が。

 

 自分の人生に深く関わることになるなど。

 

 そして。

 

 この先に待つ話が。

 

 今まで聞いたことのない──

 

 自分の知らない過去へと繋がっていることを。

 

 根津は静かに口を開いた。

 

「では、少し長い話になるが──」

 

 そして。

 

 物語は。

 

 過去へと遡る。

 





 皆も超かぐや姫見ろよな〜
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