星1評価結構心に来るな……
USJ襲撃事件から数日。
雄英高校には、再び生徒たちの笑い声が戻り始めていた。
まだ校舎のあちこちでは事件の話題が絶えない。
「ニュース、ずっとUSJのことやってるよな」
上鳴がスマートフォンを見ながら呟く。
「『雄英高校襲撃事件』か……」
瀬呂も難しい表情を浮かべる。
「まさか本当にヴィランが学校を襲うなんてな」
「怖かったけど……」
麗日が小さく笑う。
「みんな無事で良かった」
「うん」
蛙吹も静かに頷いた。
そんな会話を聞きながら、瞬は自分の席へ腰を下ろす。
腕や頬に巻かれていた包帯もほとんど外れ、残っているのは小さな絆創膏が数枚だけだった。
「針山!」
切島が笑いながら近付いてくる。
「もう怪我いいのか?」
「うん」
瞬は軽く腕を回す。
「ほとんど治った」
「ほとんどって……」
上鳴が苦笑する。
「普通はもっと寝込むんだけど」
「そうなの?」
「そうなの? じゃねぇよ!」
教室に笑い声が広がる。
その様子を見ていた緑谷も微笑んだ。
(事件の後なのに……)
(こうして笑い合えるのは、本当に良かった)
その時。
ガラリ。
教室の扉が開いた。
笑い声がぴたりと止まる。
入ってきたのは──
全身を包帯でぐるぐる巻きにした男。
相澤消太だった。
「「「先生!?」」」
クラス中から驚きの声が上がる。
「ええっ!?」
「もう退院したんですか!?」
「大丈夫なんですか!?」
相澤は眠たそうな目のまま教壇へ向かう。
「騒ぐな」
「見ての通り生きてる」
「死んでない」
あまりにも淡々とした言葉に、一瞬静まり返った教室は、次の瞬間どっと笑いに包まれた。
「その姿で言われても説得力ないですよ!」
上鳴が思わずツッコミを入れる。
「無理しすぎです!」
麗日も心配そうな声を上げる。
「病院で休んでてください!」
切島まで立ち上がる。
しかし相澤は小さくため息を吐いた。
「教師が休んでばかりじゃ、生徒が困る」
「それに」
教室全体を見渡す。
「お前たちは無事だった」
「それで十分だ」
その一言だけで、生徒たちは静かになった。
相澤らしい、不器用な言葉。
だが、その裏にある気遣いは全員へ伝わっていた。
ふと相澤の視線が瞬へ向く。
「針山」
「はい」
「傷は」
「もう平気です」
瞬は笑って腕を見せる。
「ちゃんと動きます」
「そうか」
短く頷くだけ。
だが、それで十分だった。
相澤は出席簿を閉じる。
「さて」
「事件は終わった」
「だからといって、お前たちが立ち止まる理由にはならない」
教室の空気が引き締まる。
「ヒーローは、どんな状況でも前へ進む」
「今日から授業を再開する」
誰一人として異論はなかった。
「返事」
「「「はい!」」」
力強い声が教室へ響く。
その返事を聞いた相澤は、小さく頷く。
「……よし」
その時だった。
廊下の向こうから、どこか聞き覚えのある豪快な声が近付いてくる。
「私が普通にドアからやって来た!!」
教室の空気が一変する。
「この声……!」
「オールマイト!」
生徒たちが一斉に扉へ視線を向ける。
次の瞬間、勢いよく扉が開いた。
────────
勢いよく教室の扉が開く。
「私が普通にドアからやって来た!!」
教室へ響き渡る力強い声。
そこに立っていたのは、誰もが知る平和の象徴──オールマイトだった。
「「オールマイト!!」」
教室中が一気に活気づく。
先ほどまでの真面目な空気はどこへやら、生徒たちの表情には自然と笑顔が浮かんでいた。
「先生!」
「もう来たんですか!」
「今日は何の授業ですか!」
矢継ぎ早に飛ぶ質問に、オールマイトは豪快に笑う。
「ハッハッハ!」
「そう慌てることはない!」
腕を組み、生徒全員を見渡す。
「今日は諸君へ、一つ知らせがある!」
その一言で教室が静まり返る。
「知らせ……?」
緑谷が首を傾げる。
切島は腕を組む。
「何だろうな」
瞬も静かに耳を傾けた。
オールマイトは大きく息を吸う。
「USJでの事件により、中止を心配する声も多かった」
「しかし!」
教室全体を見渡しながら、大きく宣言する。
「今年も予定通り開催される!!」
一拍の静寂。
そして──。
「雄英体育祭だ!!」
一瞬遅れて。
「「「おおおおおっ!!!」」」
教室が歓声に包まれた。
「やったぁ!!」
「待ってました!」
「燃えてきた!」
切島が拳を突き上げる。
上鳴は飛び跳ねながら喜ぶ。
麗日は目を輝かせた。
「体育祭!」
「テレビで見たことある!」
オールマイトは満足そうに頷く。
「その通り!」
「雄英体育祭は、全国から注目される一大イベント!」
「プロヒーローたちも数多く視察へ訪れる!」
「言わば──」
人差し指を立てる。
「未来のヒーローたちの公開オーディションだ!」
その言葉に、教室の空気が変わる。
笑顔だった者も。
興奮していた者も。
全員の表情が少しずつ真剣になっていく。
「プロが……見る」
瀬呂が息を呑む。
「つまり」
飯田が静かに頷く。
「ここで結果を残せば、将来へ大きく繋がるということですね」
「その通り!」
オールマイトは力強く答えた。
「体育祭は、諸君の実力を世へ示す最高の舞台だ!」
緑谷は拳を握る。
(ここで……)
(僕の力を見せる)
(みんなに認めてもらうためにも)
轟は腕を組んだまま静かに目を閉じる。
(勝つ)
(それだけだ)
爆豪は不敵に笑った。
「当たり前だ」
「優勝は俺だ」
その強気な一言に、教室の空気がさらに熱を帯びる。
そんな中、瞬は小さく首を傾げていた。
「体育祭って……そんなにすごいんですか?」
その一言で、教室が静まり返る。
「え?」
「知らねぇの?」
切島が目を丸くする。
「うん」
瞬は苦笑する。
「山で育ったから、見たことなくて」
「テレビもほとんど見てないし」
「そ、そうだったのか……」
上鳴が納得したように頷く。
麗日が笑顔で説明する。
「雄英体育祭はね、日本中の人が見るくらい有名なお祭りみたいな大会なんだよ!」
「プロヒーローもいっぱい来るし、毎年すごく盛り上がるんだから!」
「へぇ……」
瞬は純粋に感心したように頷く。
「そんなにたくさん人が来るんだ」
「なら」
少しだけ笑う。
「みんなの頑張ってる姿も、たくさんの人に見てもらえるね」
その言葉に、緑谷たちは思わず笑みを浮かべた。
自分が目立つことではなく、仲間全員の活躍を喜ぶ。
それが針山瞬という少年だった。
オールマイトはその様子を静かに見つめ、小さく微笑む。
(やはり、この少年は……)
(どこまでも人のために動く)
その在り方こそ、ヒーローに最も必要な資質なのかもしれない。
教室には、体育祭へ向けた期待と熱気が満ち始めていた。
────────
ホームルームが終わると同時に、教室は一気に賑やかになった。
「体育祭か!」
切島が勢いよく立ち上がる。
「燃えてきたぜ!」
「プロヒーローが見に来るんだろ?」
上鳴も興奮を隠せない。
「ここで活躍できたらすげぇよな!」
教室中で体育祭の話題が飛び交う。
「どんな競技なんだろう」
麗日が首を傾げる。
「毎年内容は違うって聞いたことあるよ」
緑谷が答える。
「だから何があるのかは当日まで分からないんだ」
「そうなんだ」
芦戸が目を輝かせる。
「余計に楽しみ!」
その様子を見ながら、瞬は静かに笑った。
「何をやるか分からない方が面白そうだね」
その言葉に切島が頷く。
「確かに!」
「何が来ても全力でやるだけだ!」
少し離れた席では、轟焦凍が静かに目を閉じていた。
(何の競技でも関係ない)
(勝つ)
その瞳には静かな闘志が宿る。
一方、爆豪は机へ肘をつきながら鼻で笑った。
「競技なんざ何でもいい」
「全部ぶっちぎって優勝するだけだ」
その言葉に教室の空気が少し張り詰める。
飯田が眼鏡を押し上げながら立ち上がった。
「諸君!」
「体育祭は雄英高校の代表として挑む重要な行事だ!」
「互いに全力を尽くし、正々堂々競い合おう!」
「おう!」
切島が真っ先に応える。
「負けねぇぞ!」
緑谷も静かに拳を握る。
(みんな強い)
(だからこそ、僕も負けられない)
瞬はそんな仲間たちを見回し、小さく笑う。
「みんな、本当に楽しそうだね」
「当たり前だろ!」
上鳴が笑う。
「雄英体育祭だぞ!」
「日本中が注目する大会なんだから!」
瞬は照れくさそうに頭を掻いた。
「じゃあ俺も」
「全力で頑張るよ」
その一言は決して大きな宣言ではなかった。
しかし、その場にいた誰もが思う。
(その"全力"が一番怖いんだけどな……)
誰からともなく苦笑が漏れ、教室は再び笑いに包まれた。
こうして一年A組は、それぞれの決意を胸に、数日後に迫る雄英体育祭へ向けて歩き始めるのだった。
────────
放課後。
雄英高校の校舎は、いつも以上に活気に満ちていた。
体育祭の開催が発表されたことで、校内のあちこちでは自主練習に励む生徒たちの姿が見える。
「もっと速く!」
「もう一本!」
グラウンドでは切島と瀬呂が汗を流しながら走り込みを続けていた。
別の場所では、芦戸や麗日が互いに動きを確認し合っている。
「体育祭かぁ……」
麗日は空を見上げ、小さく笑った。
「緊張するけど、楽しみだね」
「うん!」
芦戸も元気よく頷いた。
「思いっきり暴れちゃお!」
一方、校舎裏の静かな一角。
そこには、一人の大柄な少年が立っていた。
針山瞬。
ラフなタンクトップ姿のまま、ゆっくりと目を閉じる。
静かに息を吸い。
ゆっくりと吐く。
次の瞬間。
ダンッ!!
地面を踏み込む。
その一歩だけで周囲の土が弾け、小石が宙へ跳ね上がる。
さらに。
拳。
肘。
膝。
踵。
一つひとつの動きを確かめるように、型を繰り返していく。
速さではない。
力任せでもない。
一撃、一撃を身体へ染み込ませるような鍛錬だった。
「……まだ足りない」
瞬は自分の拳を見つめる。
(ジジイなら、ここで満足するなって言うだろうな)
ふっと笑みがこぼれる。
「もっと強くならないと」
「もっと人を守れるように」
その言葉を聞いていた者がいた。
「励んでいるな」
振り返ると、そこには相澤消太が立っていた。
全身にはまだ包帯が巻かれている。
「先生」
「もう動いて大丈夫なんですか?」
「問題ない」
相澤はいつもの調子で答える。
「医者には止められたがな」
「やっぱり」
瞬は苦笑した。
二人の間に、しばらく静かな時間が流れる。
やがて相澤が口を開いた。
「体育祭」
「優勝を狙うか」
瞬は少し考える。
そして、ゆっくり首を横に振った。
「優勝できるなら嬉しいです」
「でも」
「俺は勝つことより」
「今の全力を出し切りたい」
「それで誰かに認めてもらえたら、もっと嬉しいです」
飾らない言葉だった。
相澤は静かに頷く。
「……お前らしい」
「はい」
その時。
「おや」
聞き慣れた低く明るい声が響いた。
二人が振り向く。
そこには、自販機で缶コーヒーを片手にしたオールマイトが立っていた。
「話が聞こえてしまったよ」
「オールマイト」
「安心した」
オールマイトは穏やかに微笑む。
「力を持つ者ほど、勝利だけへ囚われやすい」
「だが君は違う」
「人を守るために強くなろうとしている」
「その気持ちは、決して忘れてはいけない」
瞬は少し照れながら頭を掻く。
「ありがとうございます」
「でも」
「ジジイにも同じことを言われました」
「ほう?」
オールマイトが興味深そうに笑う。
「立派な師匠を持ったようだ」
「はい」
瞬は迷いなく頷いた。
「世界で一番尊敬してます」
その真っ直ぐな笑顔に、オールマイトと相澤は静かに目を合わせる。
(技術だけじゃない)
(この精神性もまた、その師匠が育てたものか)
夕日が校庭を朱色に染める。
体育祭まで、あとわずか。
それぞれが、それぞれの目標を胸に秘めながら、その日へ向けて歩み続ける。
そして誰も知らない。
全国が注目するその舞台で、一人の"無個性"の少年が、常識を覆す戦いを見せることになるということを。
雄英体育祭──。
その幕が上がる日は、すぐそこまで迫っていた。
読んでくれてサンガツ!