作者の動力源になるのでマジでお気軽に感想ください
雄英体育祭第一種目──障害物競走。
その決着は、誰もが予想しなかった結果となった。
一位、緑谷出久。
二位、針山瞬。
三位、爆豪勝己。
四位、轟焦凍。
巨大モニターへ順位が映し出されると、会場は大歓声に包まれた。
「やりやがったぁぁぁ!!」
プレゼント・マイクの興奮した声が響く。
「一年生トップ四人が決定!! しかも一位は緑谷少年! 二位には無個性の針山少年だァ!!」
観客席ではどよめきが広がっていた。
「無個性で二位……?」
「障害物競走をあの順位で終えるなんて……」
「化け物だろ、あの一年」
一方、競技を終えた瞬は息を整えながら、額の汗を腕で拭っていた。
隣から声が掛かる。
緑谷だった。
「最後、危なかったよ」
瞬は苦笑する。
「俺は驚いたよ」
「まさかあんな方法を思いつくなんて」
緑谷は照れ臭そうに笑った。
「咄嗟に思い付いただけだから」
「でも勝ちは勝ちだよ」
「おめでとう」
「ありがとう」
二人は笑い合う。
その少し離れた場所では、爆豪が地面を強く踏み付けていた。
「チッ……!」
悔しさを隠そうともしない。
「クソが……」
さらに轟も静かに瞬たちを見つめていた。
(緑谷……)
(針山……)
(次は負けない)
それぞれが次の競技へ意識を向け始める。
やがて、プレゼント・マイクが再びマイクを握った。
「さぁさぁ!! ここからが体育祭の本番だァ!!」
観客席から歓声が上がる。
「第二種目の発表だァ!!」
巨大スクリーンへ映像が切り替わる。
その中央へ、大きく文字が映し出された。
『騎馬戦』
「おお──ーっ!!」
歓声とどよめきが一斉に巻き起こる。
「騎馬戦!?」
「学校でやるやつか!」
「でも雄英の騎馬戦だぞ……?」
生徒たちもざわつき始める。
プレゼント・マイクはニヤリと笑った。
「もちろん普通じゃねぇ!」
「障害物競走の順位によってポイントが決定!」
モニターへ点数が表示される。
一位──一千万ポイント。
二位──百五十ポイント。
三位──百四十ポイント。
四位──百三十ポイント。
以下、順位ごとにポイントが割り振られていく。
そして。
一位・緑谷出久の欄だけが大きく赤く表示された。
『10,000,000 POINTS』
一瞬。
競技場全体が静まり返る。
「……え?」
「一千万?」
「桁、間違ってないか?」
誰もがモニターを見つめる。
プレゼント・マイクは満面の笑みで叫んだ。
「間違ってねぇ!!」
「一位には──全部乗せだァ!!」
「つまり緑谷少年一人で逆転可能!!」
「狙うならアイツだァ!!」
その瞬間。
会場中の視線が、一斉に緑谷へ突き刺さった。
「…………」
緑谷の顔が青ざめる。
「え」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
観客席は爆笑に包まれた。
一方、瞬はその様子を見て苦笑する。
「大変そうだな」
「他人事じゃないよぉ!」
緑谷は泣きそうな顔で叫んだ。
「二位の針山くんだって狙われるよ!」
「え?」
瞬が顔を上げると、周囲の生徒たちがすでにこちらを見始めていた。
「百五十ポイント……」
「針山も狙い目だ」
「でも近付きたくねぇ……」
「あの人に騎馬戦で勝てるのか?」
そんな声があちこちから聞こえてくる。
瞬は困ったように頭を掻いた。
「どうしよう」
「まずは仲間を探さないと」
体育祭第二種目──騎馬戦。
制限時間十五分。
四人一組で騎馬を組み、互いのポイントを奪い合う団体戦。
そして、この競技から本当の駆け引きが始まろうとしていた。
────────
スタートの合図と同時に、演習場全体が一斉に動き出した。
「行くぞ!」
「狙え、一千万ポイントだ!」
無数の騎馬が入り乱れ、土煙を巻き上げる。
その中で、ひときわ異様な騎馬が静かに前進していた。
針山瞬。
その両肩には障子目蔵。
左右の腕には、峰田実と蛙吹梅雨が峰田の"もぎもぎ"でしっかりと張り付いている。
四人でありながら、その姿はまるで一体の巨大な生物だった。
「やっぱデカすぎるだろ、あれ!」
観客席から思わず声が上がる。
身長一九五センチの瞬。
さらにその肩の上には長身の障子。
障子は複数の腕を広げ、高所から競技場全体を見渡していた。
「右前方、三チーム接近」
「左後方、二チーム」
「正面は空いている」
落ち着いた報告。
「了解」
瞬は短く返事をすると、必要最小限の動きだけで進路を変える。
その動きは驚くほど滑らかだった。
肩の障子はほとんど揺れず、腕へ張り付いた梅雨と峰田にも負担が伝わらない。
「ほんっと揺れねぇ!」
峰田が感心する。
「瞬くん、すごく乗りやすいわ」
梅雨も驚いたように呟く。
「山道を走る方が大変だから」
瞬は笑いながら答えた。
「これくらいなら平気」
その一方で。
彼らを狙う騎馬も少なくなかった。
「一千万ポイントだ!」
「囲め!」
五チーム。
六チーム。
四方八方から一斉に迫ってくる。
しかし。
「峰田」
「任せろ!」
峰田は待ってましたと言わんばかりに頭から紫色の玉を引き抜く。
「くらえぇぇぇ!!」
ボンッ!!
ボンッ!!
ボンッ!!
無数のもぎもぎが空中へばら撒かれた。
「うわっ!」
「足が!」
「引っ付いた!」
床。
騎馬。
タイヤ。
人。
触れたもの全てが粘着し、動きを奪われる。
「今よ!」
「任せて」
梅雨が長い舌を一直線に伸ばした。
シュルッ!!
一人。
二人。
三人。
もぎもぎへ張り付いた相手を次々と引っ張り倒していく。
「わぁぁぁ!」
「落ちる!」
ドサドサッ!!
あっという間に数チームが崩壊した。
観客席がどよめく。
「連携が凄い!」
「一人じゃなくて四人で完成してる!」
プレゼント・マイクが興奮気味に叫ぶ。
「見ろイレイザーヘッド!」
「針山チーム、ほとんど戦ってねぇ!」
「動くだけで相手が勝手に崩れてくぜ!」
相澤は静かに頷く。
「あれでいい」
「全員が役割を理解してる」
「無駄がない」
障子が再び周囲を確認する。
「爆豪チーム接近」
「左側」
瞬は視線だけを向けた。
爆豪勝己もこちらを睨んでいる。
「チッ」
「あのデカブツ……」
爆豪は舌打ちする。
巨大すぎる。
高すぎる。
正面からでは鉢巻へ届かない。
さらに。
周囲には紫色の粘着玉が大量に散らばり、近付くだけで足を止められる。
「今は無理だ」
爆豪は即座に判断した。
「他を潰すぞ!」
「おう!」
爆豪チームは方向を変え、別の高得点チームへ向かっていく。
その様子を見送った峰田が胸を張る。
「逃げた!」
「俺たち最強じゃねぇ!?」
瞬は苦笑する。
「油断は駄目」
「まだ始まったばかりだから」
「その通りだ」
障子が静かに言う。
「轟チームもこちらを観察している」
視線の先。
轟焦凍もまた、巨大な騎馬を静かに見据えていた。
「……届かない」
冷静に分析する。
障害物競走で見せられた圧倒的な突破力。
そして今度は、全員が噛み合った鉄壁の布陣。
(正面から崩すのは得策じゃない)
轟もまた、一度距離を置く判断を下した。
結果として。
競技開始から数分。
百五十万ポイントを持つ針山チームへ真正面から挑むチームはいなくなっていた。
その巨大な騎馬は、まるで戦場を悠然と歩く要塞のように、競技場の中央を静かに進み続ける。
しかし。
その均衡を破ろうとする者たちが、少しずつ動き始めていた。
────────
開始の号砲から数分。
雄英グラウンドは、もはや騎馬戦とは思えぬ乱戦へと変わっていた。
土煙が舞い、無数の騎馬が入り乱れる。
しかし、その中心では一つの騎馬だけが異様な存在感を放っていた。
針山瞬チーム。
騎手は障子目蔵。
左右の腕には、峯田実と蛙吹梅雨が"もぎもぎ"によって張り付き、まるで四本腕の巨人のような姿となっている。
その中心で、一九五センチの巨躯を誇る瞬が、全員を支えながら駆けていた。
重さなど感じさせない。
足取りは驚くほど軽い。
「右から三騎!」
障子の複製した耳が、周囲の音を拾う。
「距離十五メートル!」
「了解」
瞬は進路を僅かに変える。
正面から向かってきた三つの騎馬が、一斉に飛び掛かった。
「ポイントをもらうぞ!」
「一気に囲め!」
しかし。
「梅雨ちゃん」
「任せて」
梅雨の舌が一瞬で伸びる。
バシュッ!
一頭の騎馬を絡め取り、勢いのまま横へ引き倒した。
「うわぁぁぁっ!」
さらに。
「くらえ!」
峯田が笑いながら大量のもぎもぎを投げ放つ。
紫色の玉が雨のように降り注ぎ、残る二騎の足場へ張り付いた。
「しまっ──!」
「動けねぇ!」
騎馬は完全に停止する。
その隙を逃さず。
「今」
障子の腕が大きく伸びる。
ヒュッ!
額当てへ触れ、ポイントを奪い取った。
ピーッ!
『ポイント移動!』
「よし!」
障子が静かに頷く。
瞬は立ち止まらない。
そのまま速度を落とさず駆け抜ける。
「……やっぱり速い」
観客席で緑谷が思わず呟く。
「あの巨体であの機動力……」
「しかも針山くん自身は攻撃してない」
「移動だけに集中してる」
オールマイトも腕を組む。
「役割分担だ」
「騎馬の土台が動きに専念し、仲間が攻撃する」
「実に合理的だ」
一方。
瞬たちを遠巻きに見つめる騎馬があった。
物間寧人率いるB組。
「面白い」
物間は笑う。
「狙うなら緑谷たちが最優先」
「だが……」
その視線は瞬へ向く。
「二位の針山チームも十分高得点」
「放っておくには惜しいね」
だが。
不用意には近付かない。
先ほどから何チームも返り討ちに遭っているのを見ていたからだ。
「障子」
瞬が小さく声を掛ける。
「今の順位は?」
障子は周囲を見渡す。
「緑谷たちはまだ一位圏」
「爆豪と轟も動いている」
「俺たちは現在、上位集団だ」
「でも、一千万ポイントには誰も届いていない」
「そうか」
瞬は頷く。
「なら焦らなくていい」
「俺たちは俺たちのポイントを守ろう」
「うん!」
梅雨が笑う。
「それが一番賢いわ」
「決勝へ行ければいいんだもんな!」
峯田も珍しく真面目な声で言う。
瞬は再び前を見る。
目指すのは一位ではない。
まずは確実に決勝へ進出すること。
そのためなら、無理に緑谷たちの一千万ポイントへ飛び込む必要はない。
その時だった。
「前方!」
障子が鋭く叫ぶ。
「五騎!」
「来るぞ!」
瞬は速度を落とさない。
その口元には、静かな笑みが浮かんでいた。
「迎え撃とう」
巨大な騎馬が、再び土煙を巻き上げながら戦場を駆け抜ける。
そして騎馬戦は、いよいよ終盤へと突入していく。
────────
騎馬戦終了まで──残り一分。
グラウンド全体の空気が一変していた。
「あと一分だ!」
「ポイントを守れ!」
「まだ逆転できる!」
これまで慎重に動いていた騎馬までもが、一斉に勝負へ出る。
その混戦の中を、針山瞬の騎馬は変わらぬ足取りで駆けていた。
「障子」
「状況は?」
肩の上の障子が六つの目で戦場全体を見渡す。
「緑谷チームはまだ一千万ポイントを保持」
「爆豪チームと轟チームが執拗に追っている」
「他のチームもほとんどが緑谷へ集中している」
瞬は小さく頷いた。
「俺たちは?」
「現在決勝圏内だ」
「ただ、後ろから二騎」
「狙われてる」
「了解」
瞬は進路をわずかに変える。
その瞬間だった。
「今だぁぁ!」
二つの騎馬が左右から挟み込むように飛び込んできた。
だが。
「梅雨ちゃん」
「任せて」
梅雨の舌がしなやかに伸びる。
左側の騎馬の前衛を絡め取り、勢いを逸らした。
「うわっ!」
その隙に。
「ほいっと!」
峯田がもぎもぎをばら撒く。
紫色の球が地面へ張り付き、右側の騎馬が足を取られる。
「しまっ!」
「動けねぇ!」
その間に瞬は二騎の間をすり抜ける。
巨体とは思えない滑らかな動き。
誰一人、瞬の身体へ触れることすらできない。
「速ぇ……!」
「本当に人間かよ!」
観客席から驚きの声が漏れる。
モニター室ではオールマイトが静かに頷いていた。
「針山少年は終始役割を崩さない」
「自ら攻めず、仲間を最大限活かす」
「土台として理想的な動きだ」
その頃。
戦場の中央では、緑谷たちを巡る壮絶な争奪戦が続いていた。
爆豪が吼える。
「デクゥゥ!!」
轟の氷が地面を走る。
無数の騎馬が激突し、砂煙が舞い上がる。
障子がその様子を見つめ、小さく呟いた。
「……すごい戦いだ」
「でも」
瞬は前だけを見据える。
「俺たちは俺たち」
「うん」
障子も力強く頷いた。
残り三十秒。
『残り三十秒!』
アナウンスが響く。
その瞬間、今まで様子を窺っていた数騎が、一斉に瞬チームへ向きを変えた。
「今なら取れる!」
「囲め!」
「二位のポイントだ!」
四方向から迫る騎馬。
しかし瞬は慌てない。
「しっかり掴まって」
そう言うと。
ダンッ!!
瞬は大地を力強く蹴った。
凄まじい脚力で一気に加速する。
「なっ!?」
「速っ!」
四騎の包囲網は、一瞬で置き去りにされた。
そのまま障害物を縫うように駆け抜け、誰も追いつけない距離まで離してしまう。
「これなら!」
峯田が笑う。
「誰も追いつけねぇ!」
梅雨も微笑む。
「もう大丈夫そうね」
残り十秒。
『十!』
『九!』
カウントダウンが始まる。
瞬たちは最後まで気を抜かず、一定の速度で走り続けた。
『三!』
『二!』
『一!』
『終了ォォォォ!!』
ブザーが鳴り響く。
その瞬間、全ての騎馬が止まり、グラウンドは大きな歓声に包まれた。
「終わったぁ!」
「疲れた!」
「やったー!」
瞬はゆっくりとしゃがみ込み、障子を肩から降ろす。
梅雨と峯田も腕から離れ、大きく息を吐いた。
「お疲れ」
瞬が笑う。
「みんなのおかげで守り切れた」
障子は静かに首を振る。
「違う」
「土台が瞬だったからだ」
「お前が一番大変だった」
「そうそう!」
峯田も珍しく真面目な顔で頷く。
「俺たち、ほとんど揺れなかったし!」
梅雨も穏やかに笑う。
「最高の騎馬だったわ」
瞬は照れくさそうに頭を掻く。
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
その時、プレゼント・マイクの声が競技場中へ響き渡る。
「さぁ結果発表だぁぁぁ!!」
巨大モニターへ順位が映し出され始める。
果たして、決勝トーナメントへ進出する十六名とは──。
体育祭は、いよいよ一対一の戦いへと舞台を移していく。
読んでくれてサンガツ!