夏の特別試験までに与えられた、3人までグループを組むことができる権利。
私のいる2年Aクラスではグループを確定させた生徒はまだいない。
その理由は他クラスとのチームアップをどうするかまだ検討している段階だから。
自クラスだけで組むことができれば、報酬であるクラスポイントを総取りできるけど、実際問題そうもいかない。
1位になれるかもしれない人に心当たりはあるけど、頼りきりになるのはいけないことだし、彼には彼の考えがあると思う。
私には私のできることをするため、グループ作りが解禁されてから初めての週末の金曜日の放課後に坂柳さんと会うためにケヤキモールにあるカフェに来ていた。
「こっちだ、一之瀬」
「ごめん、少し遅れちゃった」
教室を出る前にクラスメイトからの相談に乗っていたため、約束の時間より5分遅れたことを葛城くんに謝罪する。
けど、彼は「呼び出したのはこちらだ。これくらい遅刻には入らんさ」と気にしていない様子。
既に坂柳さんは席についているため、私も指定された向かい側に座り、対面する。
「来てくださったようですね、一之瀬さん」
「うん。急な連絡だったけど予定が空いててよかったよ」
坂柳さんには5時間目の休み時間に連絡を貰ったため、急すぎて驚いたのは事実だ。
多分、前触れなく私を誘うことでこの誘いが何のためか、何の話かを考える時間を与えないための戦略だと思う。
けど、坂柳さんは知らない。
私の隣の席に誰がいるのか。
もちろん、彼には何の相談もしていないし、彼に坂柳さんから連絡を受けたことは話していない。
ただ、冷静な彼ならどう考えるか、そう思案して私はこの話し合いに応じることにした。
葛城くんは此処に案内する為だけにいてくれたみたいで、坂柳さんに「話し合いが終わったら森下か白石に迎えに来させる」と言ってカフェから出ていく。
「それで、話し合いって夏休みの特別試験のことでいいのかな?」
私から切り出すと坂柳さんは目を細めてくる。
「へぇ……あぁ、いえごめんなさい。少し意外だったので」
「あれ? 違ったかな。こんな早い時期に、あのタイミングでの呼び出しだったから、坂柳さんならグループ決めのことかと思ったんだけど」
違ったのなら私の予測はまだまだ楠雄くんに遠いと凹むところだったけど、坂柳さんはニコッと微笑み「いいえ、正解ですよ」と答える。
やっぱり、グループ決めの話だったみたいだ。
「一之瀬さんのお考え通り、今回の件でお声をかけさせていただいたのは、私たちBクラスと貴方たちAクラスでグループを結成しようというものです」
確かに今の状況なら他クラスとの協力が必要不可欠だけど、まさか坂柳さんの方から言い出してくるとは思わなかった。
葛城くんならそこまで意外ではないんだけど、どちらの提案なんだろう。
「葛城くんも了承してくれていて、クラスの許可も取ってあります。あとは一之瀬さんが承認してくれれば、具体的な話し合いを進められます」
具体的な話し合い、か。
てっきり坂柳さんなら龍園くんや堀北さんにけしかけて、私たち以外のクラスと手を組んで潰しに来るって想定もしていたんだけど。
「私がAクラスと組む理由が知りたいですか?」
「え?」
そんなに顔に出てたかな。
ただ、私が予測してもそれは予測にしか過ぎないし、坂柳さんが教えてくれるのであれば教えてもらえる方が手っ取り早いかな。
「教えて貰えるなら、教えて欲しいかな」
「簡単な話ですよ。仮にA以外の3クラスが徒党を組んでも、楠雄くんには勝てないからです」
「そう、かな?」
やってみないと分からないと思うけど。
そんな言葉はすぐに飲み込んでしまった。
なぜなら私も同じことを思っているから。
多分だけど、楠雄くんがその気になれば、この学校の誰にも負けない。
それは私と神崎くんが思っていること。
そしてこの前楠雄くんに勉強を教えて貰って学力がBまで向上した柴田くんも言っていたことだ。
柴田くんは「怒れ楠雄! そうすればおめぇは全世界のどんなヤツにも負けねえ! どんなヤツにもな……」と言っていたけど、私もそう思う。
集団戦に陥ると、完全な単独1位は難しいかもしれないけど、それでも上位5位の中には入ることが出来ると思う。
「楠雄くんの実力はオールA+なんていう上限のある尺度では測れません。彼にはもっととてつもない実力があると、私は確信しています。まぁ、そうあって欲しいという願望もありますけどね」
体育祭での驚異的な走りに、この前のテストでの全教科満点、今までの特別試験で見せた閃きと洞察力、クラスだけじゃなく学年全体を支えるような発言と行動を知れば、誰もが納得することになる。
私もそうだ。
そして坂柳さんの言う、坂柳さん個人の願望というのがどういう意味なのかを理解できてしまう。
「ごめん、1つ聞いていいかな?」
「はい。私に答えられることなら」
「……坂柳さんは、楠雄くんのこと、す、好きなの?」
ちょっと周りのことを気にしながら、小さな声で尋ねてみる。
すると坂柳さんはポカンとして固まってしまう。
さすがにこれはマズかったかな。
「ご、ごめん! 変なこと聞いちゃったよね!? 今のは忘れて!」
恥ずかしさと申し訳なさで一杯になった胸を少し落ち着けるために冷たくなった紅茶を飲む。
そして、チラリと坂柳さんの顔を見ると……すっごく真っ赤に染まっていた。
「どう、なのでしょうか……すみません、その、恥ずかしながら、異性を好き、とやらになったのが初めて……なので……」
普段自信たっぷりで優雅に振舞う坂柳さんがここまで照れるなんて。
そんな顔を見せられたら、私までまた顔が熱くなっちゃうよ。
「多分、好きというか……その人のことを見ると嬉しくなったり、ずっと居たいとか、その人のためなら何でもしてあげたい……そう思えるのが愛だと言うのなら私は……楠雄くんのことを愛しているんだと思います」
「あ、愛っ!?」
そ、そんなところまで!?
で、でも、坂柳さんの言っていることはとても分かる。
非常にわかる。
私も楠雄くんのことを見るとドキドキしちゃうし……って考えるのも恥ずかしいや!
「ご、ごめんね、こんなこと聞いて……!」
「ふふ、私を辱めたのですから……これでおあいことはいかないことはわかっていますが、貴方の罪を暴き、広めたことの贖罪とさせてください」
「そ、そんな、私、もう気にしてないから……」
「これからは友達として仲良くしてくださいね? 帆波さん」
「ほ、帆波さん?」
「はい。私のことも下の名前で呼んでくれて構いませんよ」
坂柳さん……ううん、有栖ちゃんには敵わないなぁ、とため息を付きながら、私たちは笑い合う。
「それにしても、貴方は意外に乙女ですね」
「い、いきなり何!?」
「私はあえて言います。帆波さん、貴方も楠雄くんのことが好きなんでしょう?」
「にゃぁっ!?」
どうやら私の顔に出やすい部分もそうだけど、さっきの質問が決定打になってしまったらしい。
いや、まぁ、そうなるよね。
「う、うん……私は楠雄くんのことが好き、です。けど、その、付き合う気とかは……」
「まぁ、それは楠雄くんにもありませんしね。罪な方です」
呆れつつもどこか慈愛のある声でやれやれとため息をつく姿はどこか彼を思わせて、有栖ちゃんが本当に楠雄くんのことが好き、ううん、愛してるんだなって分かる。
「さて、互いの気持ちがわかったところで本題に戻りましょうか」
「あ、うん」
恋バナは一旦置いといて、BクラスとAクラスの同盟結成の件に入る。
学年内でグループを組むことを許されたけど、どうして有栖ちゃんたちが私たちAクラスの組もうと思ったのか。
「楠雄くんがいるからというのもありますが、堀北さんや龍園くんより、あなたが最も信頼できますからね。それに戦力の方も十分です」
私たちとのクラスであれば、有栖ちゃんが裏切らない限りは裏切ることはないという絶対的な信頼。
それが私たちにはあると言う。
「現在、AとBクラスのポイント差は302と大きくは見えますが、まだ1年以上ありますし、そこまで焦るものではないと思っています。それよりは龍園くんと堀北さんのクラスを引き離して安全圏に離脱しておきたいというのが私と葛城くんの本音です」
強引かつ変則的で、反則も厭わない龍園くんと、個々の力はどのクラスにも負けないポテンシャルを秘めているクラスを引っ張っている堀北さん。
特に堀北さんは一緒に生徒会に入ってからはよく話すようになって、身体能力の高さは体育祭で知っていたけど、学力も高くて、頭の回転も早い。
「正直言ってこの学校に来た当初は元Bクラスの帆波さんのクラスはそこまで脅威に感じてはいませんでした。努力と友情で勝利を掴み取るだなんて抽象的な考えのクラスとしか思っていませんでしたから」
そんな曖昧なものではこの学校では勝ってはいけない。
どのクラスも明確な、戦える武器を持っているのに初期Bクラスにはなかったと言われて「正直だね」と苦笑いしてしまう。
「ただその努力も到達点が楠雄くんなら並大抵の努力では済みません。貴方のクラスの素晴らしいところは、彼1人には任せようとしなかったこと。彼と戦うために努力と友情を重ねるクラスだったということです」
強者は常に孤独を抱えている。
走っても走ってもついてくる人はいなくて、振り向けば、みんな自分を見送るだけで手伝うことはせずにその結果を乞食のように待っている。
けど、私たちは楠雄くんを1人にしたくない、させちゃダメだと、彼に追いつくために走り続けた。
ただ当たり前のことを、私たちにできることをしただけのこと。
そのおかげでクラスの総合力は上がったし、Aクラスという立場になっても気負いすることなく、前を向くことができている。
「そんなあなた達だから楠雄くんは手を貸してくれるのかもしれませんね」
有栖ちゃんはどこか羨むようにして言葉を発する。
Bクラスが私たちと組もうと思った理由はわかったけど、具体的にどんなグループを作っていくかという話になる。
無人島サバイバルの説明があってから既に3日経っていて、既にグループは作られつつある。
「グループ作りが始まるのを待っていたので問題ありませんよ。どこもクラス単位では協力し合わない。リーダーや主力以外は個人の自由とわかったので」
「有栖ちゃんは誰と誰がグループを組んだのか把握してるんだ」
「気になる生徒だけですよ。全員は把握していられないので」
にこりと微笑んだ有栖ちゃんは話を続ける。
「私は去年同様、この足では無人島で動き回ることはできません。しかし、参加することは認めていただきましたので、半リタイアという形でスタート地点に留まり皆さんと同じようにルール内で戦うのなら参加してもいいと。意見を求められれば答えることができますし、難題に対しては共に取り組むこともできます」
もっともグループの最後の1人になってしまった場合はその時点でグループの敗退が決まってしまうが、有栖ちゃんはその特殊な枠で参加ができるらしい。
連絡を取り合う手段は必要になるけど、有栖ちゃんの頭脳が借りられるのは心強い。
「こちらからは男子は葛城くん、橋本くん、鬼頭くん。女子は私と神室さんの5名から好きに選んでいただいて構いません。Bクラスが誇る紛れもない主力です。帆波さんのクラスですと帆波さんに神崎くん、柴田くん辺りでしょうか?」
今名前が呼ばれたメンバーはまだ誰ともグループを組まずに様子を見ている状態。
「楠雄くんはいいの?」
「残念ながら初日に声をかけたのですが断られてしまいました」
そう言って見せてくれた携帯の画面には楠雄くんからのマジレスが並んでいた。
ただ、有栖ちゃんが嫌いだからみたいな理由ではなく、有栖ちゃんを気遣ってのものだった。
「ねぇ、この私以外の女の子なら組んでもいいってのは……」
「それは置いておいて私と組んでいただけるということなので3名分の保証金を出しますね。退学のリスクが高い生徒に合計で300万ポイント貸し付けますから」
携帯を素早く回収して、ややまくし立てるように早口で告げてくる有栖ちゃんの表情を見て、それ以上は何も聞けなくなってしまう。
ポイントがなくても3クラスが組んでAクラスを追い詰めてくるなんてケースになるよりはこの提案を受け入れるべきだと思っているし、契約金の話がなくても私は有栖ちゃんと協力することを選んだ。
あと2人分は欲しいところだけど、蓄えはこちらにもあるし、それはいいかな。
「契約成立ですね。2年Aクラスと2年Bクラスの共闘……これで安心して戦うことができそうです」
そう言って有栖ちゃんが早速お願いをしようとしてくるけど、それを口にする前に私が彼女の言葉を引き取る。
「最大限勝率を高めるために、Bクラスの主力に増員カードを渡さなきゃね。あとは便乗とか追加のカードも集めておきたいね」
「ふふっ、話が早くて助かります」
「龍園くんと堀北さんも手強い相手だけど……問題なさそうだね」
「ええ」
私も有栖ちゃんも2人を侮る訳じゃないけど、主力を固めて勝つための努力を惜しむことなく無人島サバイバルに臨むことを決める。
これからすることを確認し終えて互いに右手で握手をする。
「勝ちましょう」
「うん」
1年生や3年生にはもちろん、他のクラスにも負ける訳にはいかない。
この後迎えに来たのは白石さんと西川だった模様。
葛城くんは一之瀬さんを坂柳さんの席に連れてきたあとは立ち去ってます
(まだいるみたいな表現あったら教えてください)
(元々は神崎も入れて4人だったけど、途中恋バナさせることになったから神崎抹消して、葛城には引き上げてもらった悲しい過去がある)
神室とは仲直りというか、クラスが勝つために協力して欲しいと坂柳が頭を下げて仲間入りしてもらった感じ
手下とかではなく対等な仲間です
良かったね!
ただそのため世話係は外れたままなので白石や森下の世話の仕方に(甘やかしすぎだっての……)と遠目で見てる感じ
橋本も同じ理由で仲間入り
やることはやるんでポイント多めによろしくで〜すと言っている
鬼頭はAクラスになるための協力なので特に条件などなく参加
くーちゃんの持ち上げが過剰な気がするけど2人の前で見せてる実績を見たら……まぁ1位取れそうやな
ピンクレンズ効果もあるけど、贔屓目に見ずとも、くーちゃんがムラっけとあまのじゃくとスロースターターなしならいけるいける。
てことでまた次回!