無人島サバイバル試験のグループ作りがあと1週間で終わろうとしている時、僕に生徒会の副会長である桐山から呼び出しを受けた。
僕は彼の連絡先を知らないため、同じ生徒会に属している一之瀬さん越しではあったが「話したいことがあるから放課後にケヤキモールにある庭園に来て欲しい」と伝言を受けた。
「何の話だろうね」
そう振ってきた一之瀬さんに僕は『さあ』ととぼけることもせずに素直に答えた。
常に校内全員の心の中を読んでいるわけではなく、ましてや自身とあまり関わりのない人間であれば聞き流しているため、桐山の目的はわからない。
ただ、堀北元会長とゲームをしている時に桐山は南雲に対してあまりいい感情を抱いていないという評価がされていた。
無能ではないが特別優秀ではない、その結果はAクラスからBクラスへの転落へと顕れていると口にしていた記憶がある。
堀北元会長を支持していたからといって、誰も彼もがあいつのような清廉潔白で優秀な人間になれるわけではないため仕方の無いことではあるが。
生徒会の活動を聞いている限りでは、南雲個人のやり方や考え方はどうであれ生徒会の運営自体は至って健全なもののようだ。
今年から生徒同士の諍い、特に暴力行為には寛大な目で見るとしている南雲政権ではあるが、どの学年も休む暇なく特別試験や定期試験と学校生活に追われており、表立ったぶつかり合いはない。
先日の宇都宮と椿の話していた件は事前に石上からも聞いていたが、僕の関与すべきことではないと判断して、彼らに答えに繋がるかもしれないヒントだけ与えて離れさせてもらっている。
と、話は逸れたが、桐山から呼び出される覚えはないが、行かないとまた面倒なことになりそうだと思って、ケヤキモールに足を運ぶ。
「来たか」
冬休み以来だなと言われるが、どうだったかと思案する。
南雲がいる時には決まって桐山の姿もあり、クリスマスと混合合宿で面を向かい合わせることはあったが話した記憶はない。
そんなことより、副会長が一体どんな用かと尋ねれば、桐山は無表情のまま告げる。
「そう結論を急ぐな。今日は少し時間を長く貰うことになる」
呼び出しておいてなんだその言い草はと首を捻る。
話の結論に至るまでに必要な話が長いということなのだろうが、僕には関係の無いことだ。
帰ろうとすると、桐山は僕の進路を塞ぐように立ち回り、こう続ける。
「(クソ、やっぱりこうなったか)わかった。単刀直入に言う。今回の特別試験で、俺は南雲に対して個人的な戦いを仕掛けたいと思っている」
クラスとしての決着はついているが、個人の能力は南雲に劣っていないという自負のある桐山は、何かしらの手段を使って自分の方が上だと示したいのだそうだ。
その邪魔を僕がすると思ったのか釘を刺すために呼び出したことはわかった。
南雲と争いたいのであれば、自分で勝手にすればいいことだ。
「南雲の邪魔をしないでくれ。それが俺の言いたいことだ」
『僕が邪魔をしたことがあったか?』
「……3月にお前の手元に1000万もの大金を南雲が送ったのを俺は知っている」
あれは生徒会役員を推薦し、入会させた報酬ということで受け取ったものだ。
まあそのポイントの中身は当時2年生だった桐山を含めた全員から徴収したものだ。
文句を言う資格はある。
あのポイントがあれば、誰かしらAクラスに引き上げられる可能性があった。
そう言いたいのだろうが、南雲が勝手にやったことであるため、僕に非はないはずだ。
『僕に南雲をどうこうする気はないぞ』
「お前になくてもお前が引き入れた連中にはあるかもしれないだろう」
そんなこと僕に言われてもな。
一之瀬さんと堀北さん、葛城が南雲のやり方を問題視しているという話は聞いていない。
暴力推奨というわけではなく、ある程度は見逃すというだけで訴えなどがあれば対応するのは以前と変わらない。
南雲の目指す学校はより実力がある者が上を目指せるというものらしいが、それに対してあの3人が口を挟むことは出来ても、それで南雲が止まるとは思えない。
それに南雲を邪魔したくない、止めたくない理由が学校の生徒のためではなく、桐山のエゴということも僕は十分に把握した。
南雲の提唱する、誰でもAクラスで卒業できる権利が欲しいだけ。
そのためには南雲の興味を唆る僕や、南雲の計画を邪魔する可能性がある役員3人が邪魔というだけ。
聞いてみればつまらない話だ。
『あの3人を止める権利は僕にはない』
「引き入れたのはお前だ。ならば」
『承認したのは南雲生徒会長だ。一生徒の僕に責任はあるのか?』
「……っ!」
大袈裟な例えにはなるが、ダイナマイトを発明した科学者がいて、それを使ってテロを起こしたら、ダイナマイトを作ったやつが悪いのか。
否、ダイナマイトを使ってテロを起こしたやつの方が悪い。
似たような話だ。
生徒会に推薦した僕と、受け入れた南雲。
どちらが悪いという話になれば、それは受け入れた南雲の責任になるはずだ。
無人島サバイバルで南雲と個人的な勝負をしたいと言いながらも結局のところはプライベートポイントをかき集めるために上位にくい込みたい。
僕や一之瀬さんたちが邪魔をしないようにと、当たり障りない建前を口にしようとしていたがそれは僕には無駄だ。
南雲への戦意も失せており、Aクラスでの卒業にしか固執していないその姿を堀北元会長はどう見るのか。
「この学校に入ったのにAクラス以外で卒業する事になんの意味がある。俺は才能を持ちながらも戦うことを放棄した連中と同じ末路を辿りたくはない。今の、無能や変人の集まるクラスと共に沈んでいくのはまっぴらごめんだ」
今も尚、何か言っているが僕には関係のない話でしか無かった。
これなら寮に戻ってアニメを見ている方が遥かに良かったな。
それに、桐山よりも少し面倒なのが来た。
「桐山」
(この声は……)
僕が言ったわけじゃない。
僕がここで立ち止まって話をしていたのは、桐山が向かおうとしていた先に客がいたからだ。
凛としたよく通る女性の声を聞いても、名前を呼ばれた桐山はすぐには反応しようとしなかった。
「桐山、聞こえていないのか?」
(なんでここにいる……)
先程よりも少し声量が大きくなり、流石に桐山も反応せざるを得ない。
噂をすればなんとやらと、どこか嫌そうにしながらも声の主の方へと向き直った桐山はその女生徒の名を呼ぶ。
「何の用だ、鬼龍院」
腕を組み、僕と桐山を視界に収めた鬼龍院さんは微笑み混じりに答える。
「フフ、ベンチで座っているのも退屈でね。少し歩こうと思って来てみれば、お気に入りの後輩といるようだったからな、声をかけた」
嬉しそうな鬼龍院さんに対して、桐山は不満そうな顔をしている。
「お前には関係ない鬼龍院」
先程言っていた才能を持ちながらも戦うことを放棄した連中かつ変人の1人である鬼龍院さんに声を荒らげて言った桐山は距離を取ろうと強引に歩き出そうとする。
「(こんなやつと一緒にいられるか)何をしている斉木、行くぞ」
「そんな男と過ごしていても、得るものは何も無いぞ?」
どちらとも過ごしたくはないから僕は別ルートで帰ろうかと思案していたら、桐山と鬼龍院さんは揉め始めた。
「お前といるよりは意義がある」
「それを決めるのは斉木だ。桐山、君は邪魔だからさっさと立ち去ってくれないか?」
鼻で笑う鬼龍院さんに、桐山は不機嫌そうに僕へと告げる。
「あの女は無視した方がいい。お前のためだ」
語気を強めて警告してくれるが、既に遅い。
僕は体育祭の時から彼女にロックオンされてしまっているからな。
綾小路を紹介してみたが、まだ吟味中と評価を下しておらず、興味以上の対象は僕で止まっている。
「お前はあいつのことをどこまで知っている?」
桐山と同じBクラス、つまりは元Aクラスの人間で、OAAでの評価も高い。
ただ性格に難があるため、周囲からの人気は薄い。
「お前たちの学年でいえば高円寺……お前も性質上近いか」
『は?』
「発言も行動も、まともに相手をするだけ時間の無駄になる」
僕と高円寺が同列、だと……?
そんな馬鹿な。
僕の方が常識があるし、倫理観もある。
クラスの輪を乱さないようにという協調性もある。
何を言っているんだこいつは。
何が俺には人を見る目があるだ。
「あんなのがいたから、俺はBクラスに甘んじたんだ」
小声で言う桐山に、それをどうにかするのがリーダーとしてのあるべき姿なのではと言おうとしてやめた。
僕にもあの手の自由人をどうにかするのは難しいからな。
「あいつは人として終わっている。3年間俺たちのクラスに対し自己の成績以外では一切貢献せず、単独行動ばかり。そのくせ身勝手な口出しだけはする。クラスの異物だ」
吐き捨てるように言う桐山から、改めて鬼龍院さんへと視線を向ける。
桐山が距離を取ったにも関わらず、彼女はこちらに近づいてきており、その瞳は獲物を見つけたかのように爛々と輝いている。
「君は邪魔だ桐山。2度も言わせるな」
「っ!?」
接近している鬼龍院さんに気づいていなかった桐山が耳元で囁かれ仰け反る。
「……ちっ(斉木は俺の忠告を聞くか分からないが、邪魔をするのなら叩き潰せばいいだけのこと。個人の力では圧倒できても次の無人島サバイバルは学年同士の戦いだ)好きにしろ、俺はもう行く、だが、忘れるなよ斉木、無人島試験で俺達には関わるなよ」
再度の警告をした桐山は南雲を呼ぶ目的もあって、一旦はこの場から去っていく。
じゃあ僕もと便乗したかったが、それを察知したのか鬼龍院さんに肩を掴まれ止められる。
「どこへ行くんだ斉木、私のここ、空いているぞ?」
僕がそれを埋める必要はないと思うんですけどもと若林のような返しを期待しているのか、そんなことを言ってくる鬼龍院さんに肩を竦める。
「立ち話もなんだ。あそこで座ろうじゃないか」
副会長の次は鬼龍院さんか。
最近はどうも同級生よりも先輩後輩に縁があるようだ。
ケヤキモールの随所に置かれているベンチの1つに座ると、鬼龍院さんは早速問いかけてくる。
「今回の無人島サバイバル、斉木はどの順位を目指している?」
特には決めていないな。
1人で挑むにしても、誰かと組むにしても退学にはならないように努める心意気ではあるが。
「1位を狙うつもりはなさそうだな。かく言う私もそうではあるが」
鬼龍院さんとしては上位報酬のプライベートポイントにしか興味がないらしく、クラスポイントやプロテクトポイントは二の次のようだ。
ついでに、手にしたお金はすぐに使ってしまうから常に金欠だと言う。
「南雲や桐山たちは当然1位を狙う。後輩たちの中にも君ほどでは無いにしろ有能な連中は揃っているのだろう? 今度の特別試験は、学校での1位を決める戦いだと私は考えている」
学校での1位を決めるにしてはせこい試験だなと個人的には思う。
グループ作りも実力の1つかもしれないが、試験の構造上、学年を支配している南雲が圧倒的に有利だ。
必要な能力は身体能力や学力だけではないと教師陣は言っていたが、総合力を競い合うというのであれば、3年間の積み重ねがある分3年生が有利となる。
「君なら単独1位を取れると私は見ているが、君にその気はなさそうだな」
少し残念そうにしつつも、僕の性格は理解してくれているのかそれ以上は無理強いしてこなかった。
退学しない程度に頑張れとエールを送ってくれる鬼龍院さんからの話は終わったと判断して立ち上がろうとすると、今度は肘の下あたりを掴まれる。
「そういえば、最近女遊びにハマっているらしいな。モテるのはいいことだが、節操がないのはあまりよろしくないぞ?」
何の事だと怪訝な顔をすると鬼龍院さんは怪しく笑う。
「フフ、一之瀬に、Dクラスの櫛田だったか? どちらかが君と付き合っているという噂を耳にしてね。君が特定の誰かとよろしくする気がないのは重々理解しているが、それを分かって踏み込まないでいる私の身にもなって欲しいな」
そんなこと言われてもな……。
僕としてもそれらの噂には辟易としているのだ。
僕はもちろん、櫛田さんはやんわり、一之瀬さんが激しく否定しているお陰で噂は鎮火傾向に向かっている。
鬼龍院さんが嫉妬するようなことは何もないと告げれば、彼女は納得がいってなさそうな目をする。
「そうか? ……わかった。重たい女は嫌われると言うし、ここで引いておくとしよう」
そう言って鬼龍院さんは小動物を追い払うように手で去るように合図を送ってくる。
重い軽いの問題ではないんだが、解放されるのであれば口ごたえする意味はないと僕は喜んでこの場から去ることにした。
この辺の桐山くん見てらんねぇぜ感が強くてね……9巻あたりも見てられないしね……くーくんが見たら「そりゃ勝てないよ君、だって弱いもん」とか言いそう
南雲はくーちゃんに勝負を挑まないのか▶︎南雲個人では挑まない(クリスマスでの約束) ただ学年単位では挑むぜって言う…… 集団戦法なら斉木だって! なお、くーちゃんは1000万ポイントの礼に受けてやるつもりだったが集団はちょっと……ってなってる
くーちゃんは南雲の邪魔をするのか?▶︎堀北兄から頼まれてた件以外は邪魔してない定期
鬼龍院さんはくーちゃんが好きなのか▶︎生物として好きみたいな感じ 男としてはまだときめいてないが軽く独占欲を出してるのでかかり気味
一之瀬さん、櫛田さんとの噂くしゅん▶︎本人たちが否定しているのと、くーちゃんが地味な見た目なこともあって懐疑的になりつつある。まぁOAAの成績に釣られて付き合うような一之瀬や櫛田じゃなさそうみたいな空気。
天沢のくーちゃん評価▶︎地味ーな感じ。でも大学レベルの問題正解できてるから頭はいいんだろうなって思ってる。運動能力は実際に見たことないから測りかねているが、須藤の少し上くらいなら大したことないかなって評価。
歩き方からして格闘技の経験もなさそうなのも上記の理由の一つ。
八神のくーちゃん評価▶︎櫛田と噂になっている男子生徒。そのため櫛田を動かすための利用価値はありそうと思っている。櫛田先輩が動かないと斉木先輩が〜的な脅しをかける的な。なお、そんなことすれば櫛田先輩から「やめといた方がいいよ絶対。私が嫌だからとかじゃなくて八神くんが危ないから」と強めに止められる。
パッと見の印象は天沢とほぼ同じで、不意打ちでしか宝泉に攻撃出来ない臆病者で、攻撃を避けられる目の良さはあるみたいと思いつつ、その視力の根源のメガネを壊せばいいと思っているが、本当にやめといた方がいい。
次点評価の南雲を見て大したことないなと思っているのも舐めてる理由の一つ
次で2巻ラストなはず……投稿空くと言いましたが何となくいけそうな気がする!ってことで書けたら書くくらいで書いて、書けたら投稿します
ではでは