ようこそ超能力者のいる教室へ -2年生編-   作:オールF

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戦いとは、常に二手三手先を読んで行うものだ
坂柳さん視点と椿視点


動き出す1年生

 試験が始まってから5日目。

 無人島を照りつける太陽の熱さは変わらないまま、無人島を歩き回っている生徒たちの体力を容赦なく奪っていきます。

 そんな中、身体の不自由な私はスタート地点であるD9の港にいます。

 それぞれの順位が開示され、自分たちが下位ではないことを確認できたことで精神的余裕が生まれ、肉体的疲労を和らげようと多くの生徒が集まっています。

 ここでは物資が追加購入できるだけではなく、医療テントで手当てを受けたり、シャワールームがあるので汗を流すこともでき、綺麗に管理されたお手洗いを利用することができます。

 無人島を歩き回った生徒たちにとってはオアシスであり、この島で唯一安心して身を委ねることができる拠点と言えます。

 ランキングが出るまでは指定エリアのついでに立ち寄る人がほとんどでしたが、この慌ただしさは昨日から。

 それにこのD9エリアでも課題はあるもの。

 オープンウォータースイミングと呼ばれる、スタート地点からゴール地点までの約2kmの海を泳ぐ課題で、今日まで行われてきた課題の中でも非常に身体能力が問われるものです。

 その分得られる得点は20点と1番の高さを誇っています。

 エリアとしては到達しやすく、休み明けであれば参加できそうと思いがちですが、それでもやはり躊躇してしまうもの。

 それに今日の海はご機嫌ナナメ。

 プールを泳ぐのとはわけが違いますし、危険が伴うのは事実。

 けれども、そんなリスクを背負っても価値のある競技にエントリーしている生徒の中に高円寺くんの姿を見つけました。

 ということは、と私はビーチチェアに預けていた背を起こして、周囲を見渡します。

 

「あっ」

 

 すると、やはり楠雄くんの姿が見えました。

 高円寺くんが課題に参加している間、シャワーを浴びたり、休息を取ったりするのでしょうが、できることなら少し話したいと思い、ビーチチェアに立て掛けていた杖を手に取ります。

 そうして杖を地面について立ち上がろうとすると楠雄くんが僅かにこちらを向き、そして向かって来るのが見えました。

 私の会いたい、話したいという気持ちが伝わってしまったのでしょうか……。

 

「こ、こんにちは楠雄くん」

 

 僅かに上擦ってしまった声で、私のところに来てくれた楠雄くんに挨拶します。

 すると楠雄くんも挨拶を返してくれて、自然と横に立ってくれました。

 久しぶりに間近で見る横顔はいつもと変わらず、美しい。

 高円寺くんと共に課題に挑戦していますし、指定エリアも毎日移動しなければいけないのですから、疲労は溜まっているはず。

 それにこの暑さなら、いくら楠雄くんでも疲れるに決まっています。

 けれども、それを微塵も感じさせないのは何故でしょうか。

 いつまでも黙っているわけにもいかず、私は努めて平静を装って言いました。

 

「楠雄くんのグループは順調そうですね。2人グループにもかかわらず1位を独走。流石の一言です」

『僕は高円寺のあとをついて行っているだけだがな』

「またまたご謙遜を」

 

 こうして砂浜にパラソルを立てて、ビーチチェアで優雅に腰をかけている私とは大違い。

 私もできることなら皆さんのように島を歩いて、得点に貢献したいという思いがありました。

 健康であったのなら楠雄くんとも同じグループを組んで一緒に過ごせたかもしれません。

 

『一之瀬さんと柴田とは上手くやれているのか?』

「はい。2人ともとても親切で、半年前にしたことを根に持つことなく、接してくれていますよ」

 

 私のグループメンバーは帆波さんと柴田くん。

 私の心臓が悪いが故に長距離の歩行が出来ず、半リタイアという形で試験に参加しています。

 稼働人数が2人であるため到達ボーナスは1度に2点しか入りませんが、リタイアした生徒のいるグループが貰えない着順報酬の方は例外的に認めてもらっています。

 私は意図的なリタイアではなく、特殊な立ち位置故でしょう。

 

「課題が終わるまで30分はかかると思いますし、どうぞゆっくりしていってください。とはいえ、シャワーや給水を希望なら無理にとは言いませんが」

 

 一緒にいたいという気持ちはありますが、無理強いするつもりはありません。

 楠雄くんには楠雄くんのペースがあります。

 

『ここでいい』

「そ、そうですか」

 

 パラソルの下にできた日陰に座った楠雄くんはここからでも見えるオープンウォータースイミングの様子を見守ります。

 課題に参加する生徒たちが浜辺から歩いて入水し、準備につきます。

 それから間もなくして、男子のスイミングが始まりますが。

 

「圧倒的ですね」

 

 高円寺くんはスタートから後続を突き放すようなスピードでゴールまで一直線に、優雅に豪快に独走していきました。

 エリアからエリアへの移動をしてきた体力の消耗を感じさせない彼だからこそ楠雄くんとグループが組めるのでしょう。

 

「今回の特別試験、随分と高円寺くんはやる気に満ちていますね。楠雄くんだけでも厄介なのに、他グループにしてみれば同じ人間とは思えないでしょうね」

 

 高円寺くんをやる気にさせているのは楠雄くんがいるからかもしれませんが。

 

「楠雄くんは身体能力が問われる課題には参加しないのですか?」

『初日はローテーションでやっていたんだが、途中から運動系はあいつがやってる』

 

 変人かつ超人にして自由人。

 底の見えないポテンシャルも持っています。

 報酬である20点を加えて、2位の南雲会長のグループをさらに引き離しました。

 ただ今後、南雲会長のグループは間違いなく私が考えているようにグループの最大人数を増やして、6人グループになる。

 6人になった南雲グループは加速度的に得点を増やすことが見込まれ、今は独走状態の楠雄くんたちを猛追するでしょう。

 

『終わったみたいだし、声をかけてくる』

「もう、ですか?」

『早く声をかけないとずっと半裸のままなんだ』

 

 楠雄くんは苦労していないと思いましたが、高円寺くんのナルシスト気質なところには困っているようで『じゃあな』と私に背を向けます。

 

「楠雄くん、その、頑張ってくださいね」

 

 私がエールを送ると、楠雄くんは片手を上げて応えてくれました。

 そのまま高円寺くんと合流した楠雄くんは彼の着替えを待ち、戻ってきた高円寺くんと共に次の目的地を目指し始めました。

 

 

 ###

 

 

 試験6日目の午後9時。

 夜とはいっても蒸し暑い大気が周りを満たす中、F9エリアに1年生を代表する数人が集まることになっていた。

 Aクラスからは高橋くん、Bクラスからは八神くん、Cクラスからは私と宇都宮くん。

 Dクラスからは宝泉くんが来る予定だったけど、多分来ないかな。

 高橋くんたちは同じグループだけど、私は別のグループにいて、バラバラに散っていった私たちが出会うことは本来なら難しいけど、特別試験が始まる前に予め落ち合う場所を決めていれば問題はない。

 それに、浜辺で焚き火をしていれば発見もしやすいだろうしね。

 焚き火の前で来ないと思われる宝泉くんを待っていると八神くんが声をかけてきた。

 

「椿さん、宝泉くんはまだ到着していないようですね」

「まぁ来ないんじゃないの? 俺1人で綾小路を退学させてやるって言ってたし」

 

 しばらく待つには待つけど、30分が限度かなと話していると高橋くんがお腹を押さえて立ち上がった。

 

「悪い皆……ちょっとお腹痛いからトイレ。結構時間かかるかも」

 

 そう言って慌ただしく駆け出して森の中へ入っていった高橋くんを見送った八神くんは私のことを見てきた。

 

「全員揃ってからの方がこちらとしては好都合ではありますが……」

 

 何かを呟いているが、私は気にすることなく事前に買っていた飴玉を舐める。

 そうしていると、八神くんから宝泉くんと高橋くんがいない中で具体的な案を聞かせてほしいと提案してくる。

 今回この集合を提案したのは私だけど、私はOAAでも今までの学校生活でも目立った活躍はしていない。

 それなのに今回難なく集合をかけられたのは後押ししてくれた八神くんのおかげだからだ。

 

「僕は1年生全体が協力し合うべきだと当初から一貫しています。仮に椿さんに深い考えがなかったとしても、状況を確認できるだけでも有意義と考えていましたから」

 

 この集合は八神くんにとってもメリットがある。

 だから、話に乗ったと言う。

 

「あのさ八神くん。1つ面白い話教えてあげようか?」

「面白い話ですか。とても興味があります」

「だけどその面白いことを聞いたら……何も保証できなくなるけどね」

「……まさに面白い話ですね」

 

 少しだけ警戒した様子の八神くんだけど、後には引かないから私の言葉を待っている。

 八神くんは私と宇都宮くんが裏では綾小路先輩を退学させようと企んでたって言っていた。

 一見して例の試験に参加しているのは宝泉くんや天沢さんだけと思えるが、私たちも狙っていたと考えていたと。

 それは当たりだ。

 1人の生徒を退学させたら2000万ポイントが貰える。

 誰だって魅力的に感じるものだ。

 

「そうかも知れませんが、僕は違います」

 

 きっぱりと否定する八神くんに私は目を細めた。

 

「違う? 悪いけどとてもそうは思えない。人畜無害そうな顔してるけど、本当は綾小路先輩の退学を狙ってるんじゃないの?」

 

 下手したら宝泉くんや天沢さん以上に、綾小路先輩の退学を望んでいる。

 そんな気がする。

 

「どうしてそう思うんです? 僕は入学から今日まで綾小路先輩に何もしていませんよ」

 

 そう宣う八神くんに、どうだかと私は彼の目を見る。

 

「何となく見れば分かるんだよね。洞察力にはちょっとした自信があるから、さ」

 

 八神くんはいつも浮かべている笑顔は崩さなかったけど、その表情はそこから動かせずに固まっている。

 

「敵は味方のふりをするって言うじゃん? 八神くんなら信用しきったところをブスリって……普段の八神くんからは想像も出来ないような展開。それをたくらんでた。違う?」

 

 瞳の奥を覗き込むと、八神くんは私と合っていた視線を外してくる。

 

「あなたは……」

 

 何か言いたげだった八神くんのことは無視して、こちらが抱えている状況を整理する。

 

「まあ、それはともかくとして。今、ちょっと不味い状況なんだよね」

「不味い状況、ですか」

 

 今の綾小路先輩には七瀬さんがずっと張り付いてる。

 しかも綾小路先輩本人から同行の許可を得てついて回っていると、見かけた1年Cクラスの生徒が教えてくれた。

 一応GPSサーチで確認してみたけど、2人ともC3のエリアにいるし間違いはない。

 これが宝泉くんと天沢さんの作戦ならば、悠長にはしていられない。

 

「早いうちにこっちも何か手を打たないと、もし宝泉くんが綾小路先輩を退学させたら勝ち上がり確定が決まっちゃうし。出来れば八神くんがどんな手を使って退学させようとしてるのか、参考までに聞かせてもらいたいのよね」

「ですから僕は何も……」

 

 聞いてるからにはこっちだって確信めいたものがあるんだけどな。

 ただ何をしようとしているかの見当はついている。

 

「協力する姿勢を見せてもらわないと色々損することになるよ?」

「損……?」

 

 正直、波多野くんを退学させた可能性の高い八神くんの策に乗じるのは不本意だけど、綾小路先輩を退学させるためなら敵の手でも取ってみせる。

 

「大切な人の身に危険が迫る、とかさ」

「ま、まさか櫛田先輩に何かするつもりじゃ……!」

 

 櫛田? 

 櫛田先輩って確か斉木先輩と付き合ってるって噂になってる2年生の女子だよね。

 学年問わず人気者で人脈は広い。

 そんな先輩と八神くんが繋がっている。

 どういうことか説明してもらおうと私は八神くんへと圧をかけるように問いかける。

 

「櫛田先輩が、何?」

「い、いえ、すみませんが、僕からお話することは何もありませ……っ!?」

 

 顔を背けようとした八神くんの背後に立っていた宇都宮くんが、八神くんを拘束する。

 

「どういう、つもりかな……宇都宮くん」

「悪いな八神、俺はお前のことは嫌いじゃないが……仕方がない」

「ぼ、僕は1年生は全員味方だと考えています。不用意に争うことはやめませんか」

 

 最初に火種を作っといて……って最初は宝泉くんか。

 けど、彼は1年生の退学は企ててなかった。

 その点は八神くんよりはマシかもね。

 ただ、波多野くんを退学させたのは八神くんが犯人とは確信してるけど、証拠になるものはなにもない。

 それを見つけ出すためにも近づいておこうと考えていたけど、今は綾小路先輩の退学が優先かな。

 八神くんが櫛田先輩を使って綾小路先輩を退学させようとしている。

 それはどうしてなのか、どんな風に活かすつもりなのか。

 言えないと口を噤む八神くんに宇都宮くんの羽交い締めが強くなる。

 

「言えないってことは、やっぱり関係あるんだね。白状しなよ」

「僕は、僕は櫛田先輩を……」

 

 まぁこれも八神くんの何かしらの作戦なのかもしれないけど、櫛田先輩をどう使うのかは気になる。

 どの道八神くんが黙っていても、櫛田先輩に聞きに行くだけだしね。

 結局、八神くんは櫛田先輩の過去と、その事実を知っている綾小路先輩と堀北先輩のことを話し始めた。

 知られたら今まで櫛田先輩がこの学校で築き上げてきた信頼が揺らぐ過去を聞かされた私は空を仰いだ。

 

「ふ〜ん……」

 

 櫛田先輩の過去を知っているのは同じ中学にいた堀北先輩と八神くん、そして偶然裏の顔を目撃してしまった綾小路先輩だけ。

 八神くんはそう思っているかもしれないけど、そんな過去を抱えた女の人があの斉木先輩に近づくのかな。

 あの全てを見透かしてくるかのような眼に、全てがバレていないにしても、ある程度のことは察しているかもしれない。

 高橋くんが帰ってくる前に八神くんから櫛田先輩と七瀬さんを利用して綾小路先輩を退学させるプランを聞く。

 それを聞いた私と宇都宮くんは顔を見合わせた。

 

「俺はいいと思う。もし成功すれば退学、退学にできずとも何らかのダメージを与えられるかもしれないしな」

「私は……」

 

 正直、完璧に上手くいくとは思わないし、GPSサーチに使える得点には限りがある。

 

「確認なんだけど、櫛田先輩は綾小路先輩に退学して欲しいって思ってるの?」

「はい。最初はそんなことないと嘘をついていましたけど、本性を指摘してからはできるもんならやってみてよと言っていましたよ」

 

 宇都宮くんから拘束を解かれた八神くんが答える。

 櫛田先輩の言い方に若干引っかかるものがあるし、結局実行するのが櫛田先輩なのも引っかかる。

 まぁ失敗するかもしれないけど、何もしないよりはいいか。

 そう考えた私は八神くんの策に乗ることにした。

 




だいぶスキップしてるけどとりあえず楠雄と高円寺がたった2人でめちゃくちゃやってるってことが分かればOKです。

櫛田さんには堀北も綾小路も退学させる理由はありませんが、過去のことがバレるのを避けたい本人としては従わざるを得ず、また誰かに話せばそいつもターゲットにすると脅されています
八神に斉木を退学させられるとは思っていませんが、協力するフリして逆に八神の弱みを握ってやろうと脅されてるフリをしているという状態です
まあそれも八神にはバレていますが、彼にとっては誤差です
真の誤差は脅した相手に霊長類最強の女でも勝てないセコムがついているということくらいでしょうか
八神のわからせはまだですが、櫛田の顔にビンタしたり髪引っ張ったりするメスガキがいるらしいんですよ〜

ではまた次回
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