ようこそ超能力者のいる教室へ -2年生編-   作:オールF

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なぜそうも簡単に人を退学させるんだよ!死んでしまえ!

原作もアニメもこの辺り好きなので興が乗ってしまった


包囲網/虎の尾を踏む

 試験11日目、俺は計画通りに朝の6時半すぎには俺のグループと三木谷を含んだフリーグループ6つを使って高円寺と斉木のテントの包囲に成功していた。

 見張りを任せていた俺と三木谷はフリーグループのメンバーである諸岡に状況を尋ねた。

 

「まだテントに動きはないな。2人ともゆっくり寝てやがる。体調でも崩して1日寝たままだったらこっちも楽なんだけどな」

 

 その話を聞いて三木谷が俺に提案をしてくる。

 

「テントから出てくる前に囲んで妨害したらどうだ? 片付けられないようにしたら、高円寺たちも動きようがないだろ?」

「片付けを妨害すれば、それだけ指定エリアに向かう時間を遅れさせることができる。だが、その状況を第三者に見られたり、本人たちに撮影されたらどう言い訳するつもりだ?」

 

 妨害するにしても一目でそうだとわかる行動は慎むべきだ。

 理事長代理はある程度のトラブルは容認すると言っていたが、片付けの妨害行為はペナルティの対象になる可能性が高い。

 教員や試験担当の位置をGPSサーチできないし、高円寺単独なら見張りを立ててやるという選択肢もあるが、撮影されそれを教員らに見せられたらおしまいだ。

 

「当初の予定通り、2人がテントを片付けて移動を開始するタイミングで仕掛ける。もし、1年や2年、あるいは課題の設定に向かう大人に遭遇した時には、すぐにアイツらから2メートル以上距離を開け」

 

 触れ合うほどの距離まで詰めると、それもまたペナルティを受けるかもしれない。

 炎天下の中、2人が動き出すのを待っていると7時前に斉木がテントから出てきた。

 そして、見張られていることなど知らないはずの斉木の目線が崖から見下ろしている俺たちに向けられた。

 

「ッ!? お、おい! あいつ!」

「落ち着け。たまたまだ」

 

 空を見上げたらたまたま視界に入っただけに過ぎない。

 慌てて引っ込んだ三木谷たちを見れば、見張られていたことには気づいてしまっただろうが。

 

「グッモーニング、楠雄」

 

 斉木がテントの撤収を始めた頃に高円寺も起き上がってきて、斉木へと挨拶をしてから高円寺もテントの撤収を始める。

 朝食などは各々で済ませたのか7時を迎える前に出発準備を完了し、高円寺がタブレットを手にして7時の試験開始を待っている。

 出ていくのにはベストなタイミングだと思い、俺は三木谷たちを引き連れて高円寺たちの所へ歩き出す。

 静かに近づいてはいるが、高円寺はタブレットの操作を止めずに顔をあげることはしない。

 斉木も俺が近くにいることには気づいているはずなのに、それを高円寺に報告することなく木陰で体育座りで時を待っていた。

 俺たちに気づいているのに気づいていないフリをしていると判断した三木谷が詰め寄ろうとするのを目だけで制してから、俺は高円寺へと声をかけた。

 

「少し時間を貰えるか、高円寺、斉木」

「私たちに何か用かな?」

 

 視線はタブレットに注がれたままで、高円寺は顔を上げようともしない。

 先輩に対する態度とは言えないが、高円寺六助に一般的な常識がないことは分かりきっている。

 

「今回の特別試験、お前たちがここまで活躍するとは思わなかった。それだけの実力がありながら、何故今まで真面目に参加してこなかった?」

 

 2人にそれぞれ目線を向けると、高円寺と斉木は「楠雄が答えるかい?」『最初に声をかけられたのは高円寺だろ』とどちらが俺と話すかを決めていた。

 その様子を見て三木谷が苛立ったように口を開く。

 

「あいつら……!」

 

 落ち着けと手で制していると高円寺が斉木の方へと歩いていく。

 まさか逃げる気かと警戒して輪を作り囲むような陣形を取らせていると、高円寺が拳を握る。

 

「1回勝負でいいかな?」

『ああ』

 

 なんの事だと疑問に思っていると、高円寺は笑った。

 

「最初はグー! ジャンケン」

『ぽん』

「ふっ……、流石は楠雄だねぇ……」

 

 何故かジャンケンをはじめ、負けた高円寺は感心するような声を出して、仕方なさそうに俺へと目線を向ける。

 

「間もなく朝7時だ。君たちも急いで指定エリアに向かう準備をすべきじゃないのかな?」

 

 コイツら……ジャンケンで俺と話すのをどっちにするのか決めたのか? 

 

「おい、桐山」

「ああ、舐められたものだな」

 

 しかし、ふざけたヤツらではあるが実力は確かだ。

 俺は俺の目的を果たすために、口を開く。

 

「今日1日、いや2日ほどお前たちにはこの場所から動かないでもらいたい」

「私たちに得点を稼ぐな……ということかな?」

「そうだ」

 

 当然、高円寺がこんなことを言われても肯定し首を縦に振るわけがない。

 

「君が誰だか私は知らないが、それが無理な相談であることは少し考えれば分かることだ。しかしそれでもここに大勢を引き連れてきたということは……聞き入れない場合は移動を邪魔する覚悟を持ってきているということだね?」

「このまま特別試験を続けても、おまえたちが1位を取ることはない」

 

 2人グループの高円寺、斉木に対して2位の南雲は7人。

 3位に付けている俺たちも6人だ。

 ここまで快進撃を続けてきたことは認めるが疲れが出てくるこの後半戦、獲得できる得点も下がっていくと見ていることを伝える。

 

「それなら私たちのことなど構わなくてもよいのではないかね?」

「念には念をということだ。それに、下級生かつ2人だけのグループと上位を競っているというのは、3年生の立場としては受け入れがたい。もちろん素直に従ってくれるのなら悪いようにはしない。生徒会長である南雲を味方につけておけば、お前たちの学校生活はより安定する」

 

 強便手段で抑えつけられるか、素直に従って南雲に恩を売るかという2択を高円寺と斉木に対して用意したが、時刻が7時になるとタブレットに11日目最初の指定エリアが表示されると、それを確認した高円寺はゆっくりとバックパックにタブレットを片付ける。

 斉木も立ち上がり、バックパックを背負うのを見ていると高円寺はこう言った。

 

「私たちは先を急ぐので失礼するよ」

 

 俺の提案を拒否すると共に高円寺と斉木は瞬間的に加速してフリーグループの包囲網の穴をすり抜けた。

 

「な、おいっ!」

 

 囲まれているとは言っても、人がすり抜けるには十分な余裕があった。

 俺を含めて毛ほども油断していなかったのなら話は変わるが、3年生、それも生徒会副会長の命令を無視して逃げだすとは思っていなかったのだろう。

 

「追うぞって、速ぇ!?」

 

 そう叫ぶ三木谷だが、高円寺と斉木のスピードはバックパックを背負って11日もこの島にいた人間とは思えないものだった。

 

「慌てるな。あの2人のペースに合わせると痛い目を見るぞ」

「のんびりしてる場合かよ! 取り逃したんだぞ」

「着順報酬は取られてしまうが、そこまでだ。あの2人が逃げ回ることを選択したのなら悠長に課題に参加出来なくなるということ。逆に堂々と課題に参加するようならそこで追いつけばいい」

 

 冷静に考えれば分かる話だ。

 高円寺たちがどのエリアに向かったかを方角だけで決めつけることはせず、GPSサーチがあるのを活かして追い詰めていけばいい。

 だと言うのに三木谷は焦りがあるのか駆け足で2人を追いかける。

 7時から三木谷を先頭として2人を追跡しているが、俺たちは全く追いつけずにいた。

 追いかけている間にも2人は課題に参加し、足を止めているというのに追いつけない。

 

「どういうことだ……?」

 

 訝しむ俺は何故か足を止めていた先頭の三木谷たちに追いつくことになる。

 

「どうしたんだ?」

「い、いや……高円寺たちに追いつこうと思ったんだが……」

 

 言い淀む三木谷に、俺はGPSサーチをかけてみるとその理由に納得する。

 ここから先は行き止まり、道という道はあらず、あるのは崖のみだが。

 

「まさか、あいつら……これを下ったのか……?」

 

 ここをショートカットできたのならば高円寺たちが200メートル先で課題をこなすため止まっている証左になる。

 回り道をして安全に進んだとして、その頃にはあいつらはまた移動を始めているだろう。

 フリーグループに同じテーブルのグループはおらず、仮にいたところでアイツらの動きが不規則すぎて参考にならない上に回り込める可能性も高くない。

 その高円寺たちの動きが再び止まったのは追いかけ始めてから7時間後だった。

 三木谷が3回サーチをかけたところ、近くに課題が発生していないにも関わらず、高円寺たちはその場に留まっていた。

 

「妙だな30分くらい動いてないぞ」

「近くで課題が出ているというわけでもないな」

「ああ。あと200メートルで高円寺たちに追いつくぜ」

「今度は油断せずに確実に追い込む。いいな」

「言われるまでもない」

 

 恐らくは15時のエリア指定を待っているのだろうと俺たちは今のうちに距離を詰めるべく動き出す。

 そして追いかけてから7時間後にして、ようやく高円寺たちと再会を果たす。

 その姿を見ることで動きのなかった原因を理解する。

 斉木と高円寺は木と木の間にハンモックを作って昼寝をしていたのだ。

 俺たちは呆れつつ顔を見合わせる。

 代表して三木谷が近づき、語気を強めて言い放った。

 

「起きろ2人とも、逃げ出しといて昼寝なんて随分と舐めてくれるじゃないか。それとも10日以上も全力で駆け巡ってたんだ。流石に疲労困憊で眠らずにはいられなかったか?」

 

 この状況を見れば眠りたくなくても眠らざるを得なかった。

 三木谷がそう想像するのも分からなくもない。

 ただハンモックを用意して寝ているという点が引っかかり、俺には予定外の休息には見えなかった。

 三木谷の声で目を覚ましたのか高円寺がむくりと起き上がり、静かに微笑んだ。

 

「それはどうかな?」

「強がるなよ。今日は大人しく休んでろ。先輩の優しい意見には耳を貸すもんだぜ」

「今日は休む? おかしなことを言うんだねぇ」

 

 ハンモックの上から取り囲まれている状況を理解しつつも高円寺は慌てることなくハンモックから降りると片付けを始める。

 斉木も起きると速やかにハンモックをしまってストレッチを始めていた。

 斉木の方は分からないが、高円寺の目には活力が漲っており、斉木と同じくストレッチを行い、眠っている間に固まった筋肉などを解していく。

 その様子を見て当惑したようにグループのやつが言う。

 

「なんだあいつら……」

「無理すんなよ。少し休んだだけで疲れが抜けるなら誰も苦労しないんだからな」

 

 強気に詰め寄る三木谷に、ストレッチを終えた高円寺が微笑む。

 

「ノープロブレム。私の体力は既にパーフェクトにまで回復しているからねぇ」

 

 単なる虚勢とも取れるが、余裕を見せる高円寺に俺は言葉を向ける。

 

「確かに元気には見えるが、お前たちは10日あまりを誰よりも全力で駆け抜けたはずだ。着順報酬と課題でも1位を繰り返し取っているのがその証拠だ。常人離れしたスタミナもとっくに限界を迎えているはずだ」

「限界を迎えるようでは、それは常人の域を出ていないと考えるがね」

「……なんだ、まさかまだ限界ではないとでも言うのか?」

 

 そんなことは有り得ないと嗤う俺に高円寺は即座に切り返してきた。

 

「もちろんだとも。私も楠雄もまだまだこんなものではないさ」

「大ボラ吹くのも大概にしとけよ高円寺。あとで苦しくなるのは自分だぜ?」

 

 手を広げ太陽を味方につけたかのような輝きを見せる高円寺に、三木谷が口角を上げる。

 

「いくらお前たちでも長期に及ぶ激しい移動や課題を繰り返していれば、疲労は嫌でも蓄積されるはずだ。それをある程度リセットするために寝ていたんだろう?」

「時間は有限だからねぇ。休める時に休む。楠雄と決めていたことさ」

「こんな短時間の睡眠じゃ回復量はたかが知れている。万全を期すためにもっと休んだ方がいい」

「やれやれ、これだから有象無象は困るねぇ……」

 

 ため息を吐き、俺たちを見下すような発言をする高円寺に敵意が集まる。

 そんな中で斉木が口を開いた。

 

『高円寺はショートスリーパーなんだ。それもただのショートスリーパーじゃない。(スーパー)、ショートスリーパーだ』

「あ? いきなり喋ったかと思ったらなんだお前」

『加えて極端にレム睡眠が少ない体質なんだ』

 

 三木谷は斉木の言った意味がわかっていないようだが、俺はそれなら高円寺の休息時間が短いことに合点がいった。

 人間の1日の平均睡眠時間は7時間から8時間程度が理想とされており、日々の健康を維持する上ではそれ以上でもそれ以下でも快適な睡眠を取れたとは言えない。

 だが、ショートスリーパーは6時間未満でも健康を維持できる素質の持ち主のことを指す。

 そして、レム睡眠が少ないということは脳が眠っている状態が長く続き、脳と身体をしっかりと休めているということ。

 堂々と眠るなんておかしいと思ったが、そういうことならこの2人が体力だけではなく、回復力も優れていることになる。

 厄介だな。

 コイツらが常人とは違うと言うのは本当らしい。

 普通ならペース配分を考えてはいても、誰もが疲労し、疲れを感じる。

 普段歩いている通学路や廊下とは異なる、舗装されていない高低差の激しい道を進むだけでも足は休みたいと悲鳴をあげ、もう試験を続けたくはないと心が折れそうになる。

 それが一般的な生徒たちの深層心理。

 この前提があるからこそ、この2人を封じることは難しくないと考えていた。

 前提が崩れ去ってしまったのなら、三木谷が取る行動は一つしかなかった。

 

「レムだかラムだか知らねぇが大人しく……」

「待て三木谷」

 

 好戦的な三木谷に、俺は穏便にことを進めるために割って入る。

 別に用はないと2人に伝えると、15時からの指定エリア発表がされると高円寺はタブレットを見て、すぐにその方角へと歩き出した。

 

「いいのかよ桐山」

「良くは無い」

「だったら!」

 

 既に多くの生徒が効率を大きく落としている中、高円寺たちは初期からほぼ変わらずにペースを維持している。

 高円寺の方は日々絶え間なく肉体を鍛え上げていることは明白で、無人島の特別試験もトレーニングの一環としか捉えていない。

 斉木の方は見た目は普通の男子高校生にしか見えないが、堀北先輩と南雲を凌ぐ脚力を持っていることから歩行もあまり苦ではないのだろう。

 

「仕方ない、戦略を切り替える。課題を封殺するぞ」

 

 ここでやらなければコイツらの得点を伸ばし続けるだけ。

 周辺の課題を確認し、高円寺たちよりも先にたどり着き、課題に参加し、あいつらの枠を奪う。

 参加されても1位になれないように妨害する。

 妨害と言っても直接何かをすると試験官から注意やペナルティを受けるため、プレッシャーを与えたり、ルールに抵触しない範囲で追い詰めるよう指示を出す。

 しかしその内容には不満があるのか、三木谷は唇を尖らせていた。

 だが、俺の認識がまだまだ甘かったと思わされるのはここからだった。

 18人で三角形の陣形を取りつつその中心に高円寺たちを置き、更に俺がトランシーバーで連絡を取りながら仲間を呼び出す。

 これから何が行われるのかなど考えることもなく、高円寺たちは歩き続けており、動きを止めたり、静止したりすることはしない。

 言葉での説得で1位を諦めさせることはできず、多人数での囲い込みによるプレッシャーを与える効果も薄い。

 だからこうして、制止を聞かず行動する高円寺たちを囲い込んだまま移動し、2人が狙う課題に先回りする作戦に切り替えた。

 しばらくは取り乱すこともなく付け回していたが、少しずつ焦りのようなものが生まれる。

 歩いているだけのはずの高円寺と斉木のスピードは、傍目に見れば競歩と見間違うほどに速く、追いかけるだけでスタミナの消費が激しい。

 単に同じ速度で歩くだけでも、強烈に疲れを感じ始めていた。

 そこに三木谷が「強がってんじゃねぇぞてめぇら!」と叫んだことで高円寺が笑う。

 

「やれやれ騒がしいねぇ。楠雄、少し静かなところに行こうか」

『ああ』

 

 そんな言葉と共に2人は先程の競歩のようなスピードが可愛く見えるほどのスピードで歩き出した。

 

「こ、今度は逃がすな! 囲め!」

 

 距離を取りつつ追っていたがこれでは逃げられると三木谷たちに距離を詰めるように指示を出すも、判断も行動も遅かった。

 閉じ込める前に高円寺たちは駆け抜けるように鮮やかな足並みで俺たちを置いていく。

 俺や三木谷を含めてフリーグループには身体能力B以上を集めた精鋭ばかり。

 なのに、俺たちが追いつくことができない。

 

「クソ! は、速ぇ!!」

「おい、三木谷、勝手な行動は!」

「うるせぇ! 2度も逃げられてたまるかよ! 捕まえて強引にでも引きずり倒してやる!」

 

 指示を無視し三木谷たちが2人を追いかけていくのを見て、俺は「バカどもが……」と悪態をつく。

 意味もなくあの2人が走り出すわけもないため、課題を目指しているのか、指定エリアを狙っているのかを見極めようと試みるも、分析に向かない相手であることを思い出してタブレットを閉じた。

 結果、高円寺たちは驚くことに指定エリアに辿り着いてからすぐにE3へと引き返して課題に参加していた。

 

「ば、化け物か……? あいつら……」

 

 遅れること数分、俺たちが追いついた時には課題は締め切られており、課題が終わるまで待つことを強いられるが、追いかけ疲れた俺たちとしてはありがたい。

 しかし、それは課題に参加していない高円寺も同じこと。

 斉木は英語のテスト課題に取り組んでおり、出ていない高円寺は木陰で目を閉じ休んでいた。

 1年生から3年生まで参加可能な英語のテストは斉木の圧勝であり、8点を獲得していた。

 参加者には俺の同級生の堂道、生徒会に属する2年生の葛城の姿もあったが同率2位という結果に終わっていた。

 

「さすがだな斉木。見事なものだ」

『葛城も3年生に並ぶのはすごいことだと思うが』

「お前に比べれば大したことは無い」

 

 葛城は斉木が生徒会に推薦したこともあるためか、2人は互いを褒め称え合っていた。

 葛城のグループは確か8位……2年AクラスとBクラスの合同男子グループであるため、斉木に声をかける神崎という生徒の姿も見えた。

 そんな中で高円寺が目を覚ましタブレットを斉木に見せていた。

 

「楠雄、次はここだ」

『了解』

「もう行くのか」

「お前たちのペースには驚かされるな……」

 

 呆気に取られる神崎と葛城を置いて高円寺たちが駆け出した。

 教員たちの目があったため、課題の場所から離れたところで一気に距離を詰める算段だったが、それも追いつくことの出来ない速さで動く高円寺たちに翻弄される。

 課題という課題を先回りしようとした結果、1度たりとも阻止することは出来ず、3年生としてのプライドをズタズタに引き裂かれてしまう。

 

「く、クソッタレが……!」

 

 膝に手をつきながら絶え絶えに息を吐く三木谷の瞳の先には、課題を終えて優雅に休む高円寺と同級生に話しかけられる斉木の姿があった。

 

「斉木くん、お水ありがとう」

『気にするな。有り余っているからな、納豆もあるぞ』

「納豆は水分奪いそうだけど……でも、納豆があるならお米が欲しくなるね」

『おにぎりでいいならあるぞ』

「あるんだ……でも、ありがたく貰っておこうかな」

『お粗末』

「えっ? 私これ食べたらはだけるの?」

 

 交友関係は狭そうだと思っていたが女子とも話せるだけのコミュ力はあるみたいだ。

 じゃなきゃ社会貢献性は高くないか。

 

「あいつ女子と楽しそうに話やがって……」

「斉木は普段通りだが……確かクラスメイトの網倉と小橋だな。一之瀬といるのを見たことがある」

 

 恨み節を吐く諸岡に、俺が補足してやるが特に聞いている気配は無い。

 納豆とおにぎりを受け取った小橋たちは斉木に手を振って去っていく。

 斉木と高円寺を止める術はもはや皆無に等しい。

 穏便な手にこだわるのならば、だが。

 斉木と高円寺が次の課題へと移動を始める前に包囲網を作り、2人が同級生たちから離れたタイミングで俺は高円寺に声をかけた。

 

「これは最後の警告だ。明日1日だけでいい。俺たちに従って他に何もせずにジッとしていろ。それだけでいい」

 

 1日だ。

 1日あれば南雲は1位を取り返してそのまま逃げ切ることができる。

 

「お、おい今の点差を1日じゃ無理だろ……! 2日にするべきだろ」

「明後日はもう上位グループを確認できなくなる。猛追してくるグループがないとも限らないが、誰かを抑え込むよりは自分たちの得点を伸ばすことに集中すべきだからな」

 

 高円寺たちに今日含めて3日も人員を割くのは得策とは言えない。

 最小限の見張りを残して2日止めさせればいいと三木谷は言うが高円寺たちが呑むとは思えない。

 

「敗北する状況を素直に受け入れると思うか?」

「それはやり方次第だろ」

 

 ここまで不満を抱えつつ従ってきた三木谷が反旗を翻してくる。

 

「できるのか? お前に」

「できる、いややらないとダメだろ。やってみせたら俺にAクラス行きのチケットを用意してもらう」

 

 そう言って俺を押しのけるように1歩前に出た三木谷は高円寺たちに言い放つ。

 

「話は聞いていたな。明日、明後日とお前たちにはここでジッとしておいてもらう」

「そういうお願いかね?」

「いや命令だ」

「ふむ、聞けない願いなのだが、断るとどうなるか聞いても?」

「最悪お前たちには退学してもらうことになるな」

 

 そう言うと三木谷は数人の仲間を高円寺たちに近づける。

 言葉にせずとも、これが暴力による制圧であることは火を見るよりも明らかだ。

 脅しを受けても高円寺は不敵な笑みをやめず、斉木は成り行きを見守るように黙っているかと思えば『はぁ』と呆れたようにため息を吐いた。

 

『負け犬根性極まれりだな』

「……なに?」

 

 岩の上で胡座をかき、足に片肘をつきながらつまらなさそうに斉木は俺たちを見下ろす。

 

『正直驚いた』

「何がだ?」

『分からないか? この人数で僕たちに勝てると思ってる脳みそに驚いたと言っているんだ』

 

 瞬間、空気がヒリついたのがわかった。

 それは三木谷や他の3年が斉木の態度にイラついたとかそんなものではない。

 沈黙を保っていた斉木の発する圧倒的なプレッシャーに、身の毛がよだつような感覚。

 三木谷は舌打ちしながら斉木から目を逸らす。

 

『君たちは南雲のように、ただがむしゃらに得点を重ねていれば良かったんだ。そうすれば3位か4位にはなれていた』

「そんなのお前らが動かなければ」

『僕たちが動かなければ取れない2位と3位に何の価値があるんだ? 八百長してまで得た勝利に意味があるのか?』

「あるに決まってんだろ! お前はAクラスだからそんなことが言えるのかもしれないが、俺たち3年生はな!」

『そこだ。僕が負け犬根性極まれりと思っているのは』

 

 胡座を解き、立ち上がった斉木は俺たちを値踏みすることなく、価値もないと見下した目を向けてくる。

 

『南雲は常に虎視眈々と勝利の機会を窺ってきた。だから今の地位にいる。既に勝負を放棄し、おこぼれを待っているだけの君たちの相手をしているより、南雲の相手をしている方が僕も高円寺もまだ退屈はしない』

「そうだねぇ、生徒会長は私たちにアイスクリームをくれた上で交渉してきたわけだしねぇ。彼の方が私たちの価値をわかっていると言えるねぇ」

 

 勝利に対する飢え。

 そして交渉するための準備。

 そのどちらも俺たちは南雲に劣ると下級生に突きつけられる。

 

「桐山、もういいよな?」

「……好きにしろ。ただ退学沙汰にはするなよ」

 

 11日目最後の指定エリアが発表されると同時に、高円寺はタブレットの画面を確認し、方角を定める。

 それを見て三木谷は慌てて指示を出して囲いこんだ。

 

「言ったろ! ここでジッとしてろってな!」

「私にしては珍しく親切心からの警告をするがこれ以上楠雄を怒らせない方がいい」

「うるせぇ! もしお前らが突き飛ばすような真似をしたら宣戦布告と取るぞ!」

 

 三木谷が吠えると、高円寺は斉木へと目を向ける。

 

『高円寺、今回の着順報酬は捨ててもいいか?』

 

 高円寺に確認を取るように尋ねる斉木に、高円寺も「構わないが、ここで摘むつもりかい?」と確認を取る。

 

『そろそろ鬱陶しくなってきたからな。ハエや蚊がいないのにウロチョロと……少し乱暴、しようか?』

「ッ!?」

 

 右手の親指で人差し指を折るようにパキッと骨を鳴らし、不気味な笑みを浮かべる斉木に、三木谷は仰け反った。

 余裕そうな表情を浮かべていた高円寺も意外そうに斉木を見ていた。

 

「やれやれ……君たちはとんでもないモンスターを呼び覚ましてしまったようだねぇ」

 

 やれるもんならやってみろという挑発的な雰囲気を放つ斉木と高円寺に、後輩相手に大勢で囲いこむ情けない構図であることは理解しつつも、これが俺たちが生き残るため、果てはAクラスに上がるための唯一の道となれば三木谷たちのやることは一つだった。

 

「いいんだよな三木谷!? ここでやっちまって!?」

「……ああ! いざとなったら斉木か高円寺と一緒に落ちてやるだけだ! やるぞ!」

 

 掛け声と同時に、三木谷、諸岡らの精鋭が突っ込む。

 三木谷が背後から羽交い締めにするため、残りの2人は正面と左側から斉木へと突進する。

 一見すると同時に飛びかかっていて対処が難しく見えるが、この3人は特別喧嘩慣れしているわけじゃない。

 それに、誰も本気で殴ったりしようとはしていない。

 どちらかと言えば、誰かが斉木をリタイアさせればいいと言う他人任せな思考。

 それが斉木にも透けて見えたのか、斉木はため息を吐くとその場で飛び上がった。

 

「なっ!? って!?」

「痛っ!?」

「っあ!」

 

 体格のいい3年生3人の突進を跳躍で避けて、驚いた3年生同士を正面衝突させる。

 勢いもあってか、3人は頭突きを食らわせ合い、疲れの影響もあってかその場に倒れ込んだ。

 

「おい、あいつ5メートルくらい跳んだんじゃ……」

「バカ、2メートルくらいだろ……」

 

 どちらにせよ助走のない垂直跳びでその高さまで跳べるのは化け物でしかない。

 倒れ伏した3人を踏まぬように着地した斉木の鋭い目がまだ動ける俺たちへと突き刺さる。

 

『次』

「……ッ!」

 

 この瞬間、俺たちは悟った。

 高円寺の言う通り、とんでもないモンスターを呼び覚ましてしまったと。

 大抵の場合、普段温厚なやつがキレると恐ろしいものだが、斉木楠雄はその中でも最上位でキレさせてはいけない相手だったと後悔させられる。

 

『普通に試験を続けるか、ここで僕に心身共に折られて惨めな卒業式を迎えるか、どっちがいい』

「っあ、あ、ああああ!!!」

「嫌だ! いやだああああっ!!」

 

 メンバーの1人に向けられたプレッシャーは、そいつをこの場から逃げ出させるには十分なものだった。

 1人が逃げれば1人、また1人と次々と斉木から距離を取っていった。

 

「っあ……」

 

 気を取り戻すも、圧倒的な力の差を見せつけられて恐怖に目を丸くし、言葉を発することもままならない三木谷。

 それでも、ここまで高円寺たちを追ってきて得点を取らせるのを阻止したいという気持ちがあるのか斉木に手を伸ばそうとする。

 それも事前に察知された斉木の睨みに手を止めると「ヒゅッ」とあまりの恐怖で尻もちをつき後ずさっていく。

 

『高円寺、行こう』

「ン、OKだ」

 

 俺たちの戦意喪失を確認して、斉木と高円寺はバックパックを背負って指定エリアへと走り出した。

 その後ろ姿を見ることしかできない俺たちは明確に負けた。

 惨めなほどに。

 

「あ、クソ、クソォ!!」

 

 三木谷は地面に這い蹲るように膝を突き、地面へ拳を叩きつけていた。

 

「な、なん、なんなんだよっ、あいつは!? ふ、普通じゃないっ!!」

「計画通りにいかない相手はいつでもいるものだが、あれは南雲以上の化け物だ……」

「あいつの言う通り、俺たちはこうやって地べたを這うことしかできないのかよ!?」

 

 あんな変人の後輩たちにバカにされて、コケにされて、哀れまれて。

 俺たち3年生の心はボロボロだった。

 必要であれば手を出すことも考えていた俺も、斉木のオーラに気圧されて動くことが出来なかった。

 あんなやつに南雲はまだ挑んでいるというのか? 

 

「心配するな三木谷。斉木があそこまでの強者なのは予想外だったが……どんな相手にも弱点はあるはずだ」

 

 追いかけていてわかったのは高円寺は孤高であるのに対して、斉木はそれなりに友人がいるということ。

 斉木が手を緩めないなら、クラスメイトを……と思ってそこまで落ちる気はないと首を振る。

 しかし、薄々ではあるが最初からこういう展開になると想定したため、斉木のあの気配以外に動揺はない。

 もう邪魔はしてこないと確信している2人に一泡吹かせるための前座に過ぎない。

 多人数で妨害しておきながら実害を与えるどころか無様に逃げ出した。

 これで3年生など大したことがないという印象を2人は持っただろう。

 これこそが俺の狙いだったが……斉木の言う通り、素直に試験に臨む方が3年生としてはマシな結果で終わるかもしれない。

 そう思わされた1日だった。

 





試験中か試験後にくーちゃんと高円寺に南雲の方がマシ発言を聞いた南雲さん
「あいつら……くそ……先輩を舐めやがって……」←認められて少し嬉しいちなみに南雲の交渉は課題が被ったら勝負しろよというだけで2人とも「まぁそれくらいなら別に」という感じ。課題が被ったら拒否権もないしね。
アイスクリームくれたのもある。
その点桐山たちは脅迫と実力行使なのがダメやね。

葛城、神崎グループ▶︎男性リーダー同士のチーム。頭は堅いけど実力はあるので上位50%に入ってる。役目を終えたら鬼頭が合流してくる。
小橋、網倉グループ▶︎Aクラス同士のグループと見せかけてBクラスの山村もいる。当然くーちゃんは山村に気づいているので水と食料を渡している。
お水ありがとう以降は小橋のセリフ。
桐山が山村に言及してないのは気付いていないから。

原作だと3年生など大したことないと高円寺に思わせる作戦をしてるんだけどこの後どうしたんや……読んでも読んでも南雲腹パンされて指揮系統乱れて負けたことしか分からんかった。
桐山にとって南雲が腹パン気絶するのは予想外ってのもあったんやろうが、南雲に頼りきりすぎるやろ……

2年生グループが奮闘しているのはあしながおじさんのせいと、3年生の一部があしながおじさんを止めに入ったり、ペースを乱されたりしてるからです
この妖怪なんでもありだな……
そりゃPK学園では大人しくして…………たかな…………?

2年や1年にも勝てるかもという希望を与えるはずだった南雲さんは負けていられねぇ!とめちゃくちゃ頑張ってる。

くーちゃんがキレたのはこれよりも前から3年生の監視を受けてること、常にべったり張り付いて卑屈なテレパシーばっかり飛ばしてきて『そんなに1位を取らせたくないなら僕らに勝てばいいじゃないか……』とイラついてたり、フリーグループのメンバーの1人が網倉たちを見て(あいつらの誰かを人質にして斉木たちを脅せば……)とか考えて踏み込んではいけないところに来たからです。
高円寺はくーちゃんの機嫌が悪くなってるのは察してたけど、くーちゃんから挑発するまでいってるとは思ってなかったので3年生たちに警告した感じです

めちゃくちゃ長いの書いたのと早めに見てもらいたいのでいつもより少し早めに投稿するので、明日(23日)は投稿なしです
24日も別班の活躍とか次第では書けなくなるかもなので、25日になるかもですが安心してください
無人島サバイバル編は最後まで書くからさ!
俺、無人島サバイバル編書いたら学校行くよ……ってことでまた次回
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