束の間のバカンスのΨ難
2週間にわたる長くも短い無人島サバイバル試験が終わって翌日の8月4日。
今日から8月10日までの7日間はこの豪華客船で休日を過ごすことになっている。
おかしいな、試験は14日もあったのにその休みが半分とは。
5日間の疲れが2日で取れると思っている日本社会の縮図のようだ。
一応、昨年のような船内での試験はないことが約束されてはいるが、南雲生徒会長主導のもとミニゲームのようなものはあるらしい。
参加するもしないも自由らしいので気が向けばくらいに留めておく。
昨年の船も豪華ではあったが、今年はプール、フィットネスジム、映画館、コンサートホール、展望台浴場にショッピングエリア、カフェテラスなどの飲食店と挙げればキリがないほどの娯楽施設が存在している。
今日からそれらを全て満喫する権利を得たわけだが、7日で足りると思っているのだろうか。
しかし、僕としては常に大勢の生徒や僅かな教職員や乗組員のいるこの船は喧しくて仕方がない。
かと言って、実家に帰ろうにも4人1部屋の客船内では頻繁に部屋を空けていては否応にも目立ってしまう。
そのため仕方なく、実家や寮の硬い寝心地のベッドとは異なる一流ブランドのベッドで横たわることにしている。
そういえば8月1日は無人島にいたことと、試験結果を反映するために確定が遅れていた8月のクラスポイントが発表された。
今日の朝に通達があり、確定したクラスポイントをもとにプライベートポイントも支給されている。
2年生の8月のクラスポイントは一之瀬さんのAクラスが1318ポイント、葛城・坂柳さんのBクラスが1007ポイント、堀北さんのCクラスが590ポイント、龍園のDクラスが585ポイントとCとDが肉薄する結果となった。
クラスポイントは如実に差が出ているが、一之瀬さんと葛城・坂柳さん、加えて龍園は自身やクラスメイト含めて僕と高円寺のグループに指定したグループのプライベートポイント報酬の半分を追加で得ることのできる便乗カードを使ったため、追加で50万プライベートポイントを得られている。
これらのポイントをクラス運営に使うのか個人で使うのかはわからない。
だが、クラスのリーダーをしている彼らのことだから、集金して今後の試験などに利用する可能性が高いだろう。
高円寺は僕と同じく、得られるプライベートポイントを倍にする追加のカードを持っていたため200万プライベートを得たが、あいつは自分のために使うと言っていた。
まぁ、元々持っていたカードではないため、譲ってくれたみーちゃんに1割渡すらしいが。
クラス争いに興味は無いが結果的にクラスポイント上昇に手を貸してしまったのは否めない。
高円寺への借りを返す目的の方が大きかったので、暫くは大人しくしておこうと心に決めていると、同室の渡辺が声をかけてきた。
「なぁ、斉木さっきのメール見たか?」
返却された携帯に、今日から2日間だけ船内にあるフィットネスジムの傍にある休憩スペースで無人島特別試験の結果の詳細が公開されるという連絡が来たらしいな。
僕の携帯は2週間で充電がなくなったのでうんともすんとも言わないが。
昨日は上位3組、下位5組しか発表されていなかったし、全体の順位を気にする生徒も多いだろう。
そうなると、生徒が一気に押し寄せて面倒なことになるのは確実だ。
掲示は今日から2日間されているし、僕の順位は1位であることは知っている。
他のグループが何位かなどは興味が無いし、わざわざ行かなくても掲示場所が分かっているのなら千里眼で見ることもできる。
「俺は何位だったんだろうなぁ……結構頑張った方だと思うんだけど」
「だったら見に行ってみるか?」
ぽつりと呟いた渡辺に、シバータというあだ名がクラスに浸透してしまった柴田が声をかける。
「でも、シバータも斉木も順位は確定してるだろ? 別に見に行かなくてもいいんじゃないのか?」
「他のやつの順位とか気になるじゃん……って言っても、確かに上位組がいったら嫌味みたいになるかもな」
「すぐに行きたい気持ちも分からなくは無いが、少し時間を空けてからの方がいいかもしれないぞ」
渡辺と柴田の会話に寝ころんでいた神崎が身を起こす。
「自分の順位や知り合いの順位が気になるのは他の連中も同じだからな。今頃は掲示場所は人集りができているんじゃないか?」
「た、確かに……」
神崎の意見に渡辺は頷く。
「じゃあ俺も夕食の帰りとかに覗くくらいにしとくかな(この3人に比べれば大した順位じゃないし)」
今回渡辺が同室なのは、ペア試験のあとに今まで本気を出していなかった僕を非難した後に、渡辺自身僕のことをよく知らないのに酷いことを言ってしまったと後悔したらしく、この夏休みを通して知ることができればと柴田に提案したらしい。
元々は昨年と同じく浜口が同室になる予定だったが、交友関係の広い浜口は渡辺との交代を了承して今に至る。
「3人はこの1週間どうするんだ?」
渡辺の問いかけに最初に答えたのは柴田だった。
「特に決めてないなー。サッカー部の奴らと飯食ったり、カラオケくらいかな? あとはクラスで祝勝会とか?」
「祝勝会? (グループチャットではそんな話は見なかったが……)そんな話がもう出たのか?」
「いや出てないけど」
柴田の突拍子のない発言に神崎がズコッと体勢を崩し、気を取り直したように渡辺の質問に答える。
「……俺も柴田と同じで特に決まっていない。誘いがあれば応じるし、なければ部屋で読書でもしよう」
次いで神崎がそう返答する。
「じゃあ、最後は斉木か?」
渡辺は最後に僕に尋ねてきた。
『船内のカフェテラスや飲食店街を回る予定だ』
そう言うと、神崎が顔を顰めた。
「またスイーツか」
当たり前だろう。
パンフレットの調達し、出店している店を調査し、優先順位を決定。
その後、順番に回っていき、最終日には1番美味しかったものを味わい尽くすつもりだ。
これ程有意義な時間が他にあるだろうか。
いやない。
そう力説したところ、渡辺の表情は引きつってはいないものの意外そうであった。
「斉木ってマジでスイーツ好きなんだな……」
「好きというか愛だな」
柴田が呆れたようにそう言うと、ベッドに背中を預けた。
「ま、昨日の疲れがまだ残ってるから今日は昼まで寝るぜ」
「俺もそうしようかな……ふくらはぎとかまだ痛いし……」
「俺もそのつもりだ(移動以外にも運動系の課題でかなり身体を使ったからな)」
3人は昼までは部屋にいるつもりらしく、各々違う体勢でベッドに寝転がった。
そうなると必然的に動くことになるのは僕ということになる。
適当に戻ると伝えると、柴田と渡辺がひらひらと手を振り、僕を見送ってくれる。
僕は部屋を出て、カフェテラスの集まる飲食店街を目指すことにした。
船の中に街があるというのは奇妙なものだが、実際に存在しているのだから仕方がない。
船内マップで飲食店街と書かれている場所を確認すると、2階層に分けて作られており、1階と2階にそれぞれ別の飲食店が入っている。
そしてその周りには、食事後にウィンドウショッピングができるようにと洋服店や雑貨屋などが集まっており、まるでケヤキモールのようになっていた。
ここに食べ物屋だけでなく様々なお店が存在しているとなると、数日に渡って楽しむことができるだろう。
10時を過ぎたばかりなのと、結果発表を見に行っている生徒が多いためか人通りの少ないフードエリアに着く。
僕はまずガイドマップを手に入れると、 早速何があるのかをを見ることにした。
昨年もすごかったが、今年はどうだろうか。
『ほぅ……』
思わず声が漏れてしまった。
これらのカフェテリアや菓子店の誘致を決めたのが、一体誰かは知らないが、本当に素晴らしい場所だ。
和風から洋風にイタリアンまで、ジャンル別に分けられているし、1店舗1店舗がテレビや雑誌に紹介されたことのある有名店ばかり。
それをわざわざそこまで足を運ばなくても食べられようにするとは、少しやるようになったじゃないか高度育成高等学校。
金額設定は学生の財布には優しくない価格ではあるが、千里眼で見てみると本来の価格と相違ないところがほとんどであるし、プライベートポイントが支給された後ではあまり気にならない額だな。
『まずはゼリーから試してみるか……』
昼食前であることと、いきなり高いものから食べていては感覚が狂いかねないので安全なものから行くことにした。
僕が選んだのはケーキセット。
値段は紅茶もついて2000ポイント。
おかしいな、ゼリーを食べに来たはずなのに。
『ふむ、悪くないな』
うん、やはり目に狂いはなかったな。
紅茶もケーキに合わせたものが選ばれており、僕が美食家であれば『トッレビアッーン!』と椅子から立ち上がっていたことだろう。
初日からこんな美味いケーキと紅茶が味わえるとは……2週間真面目に頑張ったかいがあったな。
ケーキを食べ終わり、紅茶のおかわりをもらって優雅な午前を過ごす。
午後ティーは午前に飲むと極刑だが、これは午後ティーじゃないからな。
ポイントに余裕はあるし、追加でモンブランでもいっとくかと考えてからあることに気づく。
この船での会計時の支払いは高育の敷地内同様、携帯端末を使って行う。
携帯端末の中に電子化されたお金、プライベートポイントが入っているからだ。
もちろん、僕も携帯は所持している。
携帯は持ち歩いてこそ携帯としての意味が出るからだ。
ただそれも、充電がなくなり電源が入らなくなってはただの薄い金属とガラスの板でしかないわけだが。
『……』
どうしよう。
電気を発生させる超能力は使えなくもないが、扱いが難しい。
調整をミスるとこの携帯の充電をマックスどころか、バッテリーを膨張させて爆発ということにもなりかねない。
それに電気を発生させているところを監視カメラや肉眼で捉えられるのも厄介極まりない。
監視カメラを無効化し、店員の視線を念力などを使って外させている間にエレクトリックで携帯の電源を入れれるところまで充電を注ぐ。
無理だな。
できなくは無いがどれか1つでもミスすると豪華な船旅から小型船で強制帰還ということになってしまう。
こんなことなら柴田か渡辺を引き摺ってでも連れてくるべきだったな。
昼時になればこの辺りに人も集まって知り合いが来てくれる可能性はあるが、この店に入店してくれるとは限らない。
支払いに現金が使えない以上アポートも出来ないしな……いや、モバイルバッテリーを……って、どうせ使わないと思って寮に置いてきたな。
バッテリーを誰かのと入れ替える……のは少し心が痛むな。
虫の知らせ的なもので知り合いに来てもらうのも手だが、借りを作って面倒なことになるのも嫌だし、一之瀬さんや椎名さんならそんなこともないかもしれないが善意につけ込むのなぁ……と考えていた時だった。
(マジでこんなところにいやがった……柴田から聞いた時は半信半疑だったが……)
もう加害性のある解決方法しかないなと思い始めていた時にそいつはやって来た。
普段の学校生活では面倒事の種でしかないが、この豪華客船ではその限りでは無い。
それにアイスをくれた礼は既に済ませているため、この場の支払いをしてもらったら今日中にポイントを返せばことは済む。
僕は僕のことを見つけて店に入ってきた男をじっと見る。
「……ンだよ、そんなにじっと見やがって……どうして俺がここに来たのか気になるのか?」
僕を探していた理由くらいはとっくに分かっているし、そんなことに今は興味がない。
最終日に奮闘していたから今日は寝たきりかと思ったがそうでもなかったらしい南雲雅は僕の前に座った。
「柴田に聞いたらスイーツ巡りをしてるって聞いたからな。アイスをたかった時といい、本当にスイーツが好きらしいな」
『好きじゃない。嫌いじゃないだけだ』
「ややこしいな……ってなんだその不気味な顔は?」
不気味な顔?
どんな顔かはよく分からないが、僕は今最高に機嫌がいいからな特に聞かないでやろう。
それに、いつもなら聞かずに立ち去る用件も直接ちゃんと聞いてやろうじゃないか。
僕に不都合な話というわけでも無さそうだしな。
南雲に代わっておすすめの紅茶を頼んでやる。
気分を落ち着けるハーブティーよ。
「どうしたんだお前のテンション……(スイーツ食ってる時はこんなもんなのか? あと、ハーブティーじゃなくて紅茶じゃねぇか……)」
いつもはこんなに良くない。
ただ超能力を使わずに危機を脱せたことが嬉しいだけだ。
「まぁいい。話ってよりは警告だ」
ざっくり言えば、僕のせいで下位5組が3年生になったと思っている桐山が他の3年生何人かを使って僕に詰問を考えているという話だった。
「俺はやめるように言ったが、桐山は不服そうでな。1位になれなかった俺の責任問題だとは思うんだが、あれだけの差をつけられての負けだ。うちのクラスの連中は納得してるんだが、他がな」
『詰問や命令でしか後輩を従わせられないのか? 束ねる副会長の程度も知れるな』
そもそも、桐山に関しては無人島試験前から僕に対する制限ばかりで見返りなどが無かったからな。
僕にポイントを稼ぐな、上位に入るなと言うのならそれなりの見返りを提示するのが交渉に乗るか乗らないかの判断基準になるのいうのに、あいつはそれすら無かったからな。
その点、目の前の南雲の方が態度はアレだが、交渉のテーブルにつかせるだけの材料は用意してくるだけマシだな。
「おっしゃる通りだ。一応、俺の方で目を光らせておくから船内で接触してくることはない」
別にそんな事しなくても僕なら簡単に掻い潜れるから問題ないが、勝手にやって貰えるというのならそうしてもらうか。
「警告とその対策は以上だ」
『そうか』
じゃあ、話を聞いてやった見返りを貰うとするか。
といっても、すぐに返すが。
「は? 携帯の充電が切れてるからポイントを貸してくれ? (……何言ってんだこいつ)」
素直に言ってやると南雲は驚愕の表情を浮かべた。
そんな変なことを言っただろうか。
「払えるポイントがないのに俺の紅茶も頼んだのか……」
南雲は僕の言い分に眉間に皺を寄せ、頭を抱えた。
「なんでその状態で堂々と甘味食ってんだよ……お前やっぱり変だぞ」
『食い終わってから気付いたんだ。たまにあるだろ』
「ねぇよ」
『それで、ポイントを貸してもらえるのか?』
しつこいようだが、このままでは無銭飲食になってしまうからな。
「(こいつには無人島試験で課題に付き合ってもらったし、今回の件もある。それに恩を売って損することはないからな)まぁ、別にいいが。気をつけろよ?」
南雲は僕から伝票を受け取るとQRコードで支払いを済ませてくれた。
「この学校じゃ携帯は生活の必需品だ。充電をし忘れて、電源が入らないなんてのはDクラスでもやらないぜ」
僕は悪くない。
バッテリーがイカれてしまっているからな。
同じ轍は踏みたくないから、夏休みが終わり次第、新しいものに交換してもらうことにしよう。
「そうだ。お前となずなと鬼龍院が遊びたがっていたから、特別に俺たちとプライベートプールで遊ぶ権利をやるがどうする?」
メンツが濃いし、2年生が僕だけというのは気が引けるな。
「別にほな……一之瀬や鈴音や葛城、あとは綾小路だったか。俺かなずなが知ってるやつなら呼んでもいいぜ? あ、高円寺は呼ぶな」
南雲も無人島試験では高円寺の自由人ぶりを嫌という程見せられたためか、共通の知り合いであるにもかかわらず予め拒絶してきた。
まぁ高円寺なら誘っても断ると思うがと言ってみるが、南雲は呆れたように僕を見てきた。
「お前が来るなら誘いに乗るんじゃないのかあいつは」
その可能性はあるが、多人数で遊ぶタイプでは無いし、僕と勝負したり協力するということがなければ来ない可能性の方が高い気がする。
『とりあえず、検討はしておこう』
「(来ないやつのセリフだな……)わかった。なずなと鬼龍院には期待するなと言っておく」
というかなんで南雲が鬼龍院さんとそんな話になったのかが気になるが、変に首を突っ込んで面倒なことになるのは避けたい。
店を出たあと僕はひとまず携帯の充電をするために自室へともどるのだった。
クラスポイントは割と適当です
ただ2年生大勝利だったからこんなもんかな
柴田のことシバータ呼びしてるのはクラスの半分くらいで神崎、姫野みたいな真面目な感じのやつは柴田呼びのままです。
くーちゃんの周囲の変化▶︎みんな疲れて部屋にいるのとくーちゃんが人混みに近づいてないので何もないように見えるが……2日目以降だ……いいものがみれるやもしれんぞ?
南雲と鬼龍院の接点▶︎「いきなり斉木と2人きりで遊ぶのは無理だからお前(南雲)から声をかけろ」と鬼龍院が南雲に言ったため。朝比奈も楠雄と遊んでみたいと言ったので仕方なく。
くーちゃんが小宮や木下を助けて、南雲じゃなくて桐山のプライドをへし折って、ホワイトルーム生の心をへし折ったせいで4.5巻のイベントほぼ無くなってしまってて草なんだ
坂柳が天沢に声かける理由もないし、堀北と伊吹との因縁もなくなってるけど……まぁないならないでええわな。
てことでまた次回
今月は2日に1回くらいの頻度で更新できたらなーと思います