瞬間瞬間を必死に生きるという言葉があるように、学生にとっての夏休みは1日1日が大切なものとなる。
無人島で2週間過ごしたこともあり、豪華客船で過ごす1週間は天翔龍閃のように過ぎ去っていく。
同じ24時間でも無人島と豪華客船とでは、時間の流れが異なるように感じるのは僕だけではないだろう。
特別試験中は指定エリアの発表時間などを気にしていたが、この豪華客船で時間を気にする事はあまりない。
せいぜいカラオケにプライベートプールの制限時間やら、映画、昼食、夕食の時間といった細々としたものばかりだ。
多くの生徒たちの疲れも抜けきったようで僕の孤独で孤高なスイーツタイムは2日目にして危機を迎えていた。
昨日は南雲と別れてから携帯の充電に2時間ほどかかったが、なんとかおサイフケータイとしての役目を全うさせることが出来るようになった。
2週間ぶりに開いた携帯には1桁増えた所持金と、豪華客船にいる間に遊べないかという旨のメッセージがいくつか来ていた。
その中で意外だったのは小橋さんからのメールだった。
明日……つまりは今日、夜の8時から慰労会をしようと言うのだ。
クラス全体で勝ったわけではないから祝勝会としていないのだろうが、いつも通りであればやることは変わらないはずだ。
ただ、集合場所がどう考えても小橋さんたちの部屋であるため、その中にAクラス40人が入るとは思えない。
全員が来るとは限らないため、この不安は考えすぎかもしれないが。
気が向けば行くくらいにしようと、フル充電にした携帯を手にどこへ行くかを考える。
船内の通路は昨日と打って変わって人混みに溢れており、どこに行ってもこれは変わらないというのは想像に容易かった。
特に夏の暑さを軽減しながら楽しむことができるプールは恐ろしい人混みだろう。
となると、僕の行先はなるべく人のいないところになるわけだが、いくら巨大な豪華客船とはいえ全校生徒が至るところにいるため、どうしても150m圏内に誰かしらは入ってきてしまう。
僕の1人静かに過ごすというプランは崩壊を迎えるかに思えたが、そんな僕にも武器はある。
ゲルマニウムリングである。
これをつけていれば僕のもとに他人のテレパシーが入ってくることはない
全生徒、職員、乗組員などがゴキブリと化してしまう特級呪物であるが、ゲルマニウムリングを付けている限り僕は孤独で孤高な時間を手に入れることが出来るのだ。
つけるタイミングを見誤ると地獄の始まりではあるが、逆に状況を見誤らなければなんの問題もない。
ひとまず今日は映画あたりで時間を潰すかと考えていると柴田が声をかけてきた。
「なぁ、楠雄、今から一之瀬たちがプールに行くから一緒に来ないかって」
そんなお誘いは僕のところには……来てるな。
一之瀬さんと小橋さんから来ていた。
一之瀬さん、網倉さん、白波さん、小橋さん、神崎、柴田、浜口のほぼいつものメンバーと化したグループでプールで遊ばないかという誘いだ。
ただそこに安藤さんも加わるらしい。
安藤さんとは昨年の船内試験で一緒になったこともあり、たまにではあるが教室でも喋る程度の親しさはあるため、僕は特に問題は無い。
ただあまり人混みに行くのは疲れるなと思っていると、話を聞いていた渡辺が口を開いた。
「それ、俺も行ってもいいかな? (網倉も来るだろうし)」
「いいだろう」
やや偉そうながらもシバータとして認識されている柴田の返事に渡辺は気にすることなく「サンキュな!」と喜んでいた。
「俺はやめておく(プールとなると人が多いだろうしな)」
『僕も遠慮しておく』
神崎に便乗するように僕も誘いを断ると柴田は残念そうな表情を浮かべた。
「(まぁ神崎も楠雄もまだ無人島試験の疲れが抜けてないのかもな……それに2人とも人混みを嫌うし)いいだろう」
頷いた柴田は渡辺と2人で部屋を出ていく。
神崎は映画を観に行くらしく、上映時間まで本屋に行くと言って部屋を出ていった。
ふむ、これで部屋には僕1人か。
これならゲルマニウムリングをつけて読書ができるが、どうやらそうもいかないらしい。
『やれやれ、だな』
今の僕は無人島試験が終わって以降、2つの問題を抱えている。
1つ目は昨日南雲の言っていた桐山を筆頭とする一部の3年生に目をつけられていること。
2つ目が……と考えていたところでこの部屋に向かってきていた生徒にドアがノックされる。
ドアの向こうには無人島試験中に綾小路と行動を共にしていた七瀬翼の姿が見える。
「すみません、斉木先輩はいらっしゃいますか?」
客船内の客室はどうやって紐付けしたのか分からないが、その部屋で寝泊まりしている人間の携帯をかざすことで開けることができる。
このため、僕は昨日ポイントも払えないどころか、部屋に入るのにも誰かに開けてもらわねばならない状況にあったことは今は置いておく。
外から開ける手段は教員や一部乗組員の持っているマスターキーのみであり、他の部屋の生徒に僕が部屋の中にいると断定する方法はない。
そのためこのまま居留守を使うこともできるが、七瀬がまた時間を置いてから来た時に柴田や神崎がいれば応対するように言われるだろう。
その状況になって、変に勘ぐられても面倒なのでドアを開ける。
「あ、おはようございます。斉木先輩」
挨拶してくる七瀬に小さく会釈を返す。
「もしかして、寝てられましたか?」
僕の眠りを邪魔したのではないかと気を遣う七瀬に首を振ると、七瀬は安堵したように息を吐く。
「それならよかったです。すみませんが聞きたいことがあるので少しお時間をいただいてもよろしいですか?」
丁寧な申し出に最近の1年生はこんなのだったかと首を傾げそうになるが、今まで相手してきた1年生たちがおかしいだけなのかもしれない。
僕も堀北元会長や南雲には最初の方は普通に後輩らしく接していたしな。
多分。
『時間もあるし構わないが』
「ありがとうございます!」
了承すると深々と頭を下げてきた七瀬は、顔をあげるとその話をどこでするかを考え始める。
その候補の中にこの部屋があったのは些か問題が多すぎるので僕にしては珍しく自らカフェに行こうと提案する。
「え? いいんですか? (部屋から出たくないのかと思っていたんですが)」
1年生の女子と2人きりで部屋で過ごすことに比べれば些細な問題だ。
昨日と同じく昼食前のためやや閑散としたカフェに入る。
このカフェはジェラートがウリらしいためそれを頼むと、七瀬も同じものを頼んでいた。
「そういえば試験お疲れ様でした。2人グループで1位なんてすごいですね」
僕がすごいんじゃないと首を振ってやると、七瀬は毅然とした表情で言う。
「いえ、そんなことはありません。時折先輩方をお見かけしたり、クラスメイトの方からお話を聞きましたが斉木先輩は学力課題を全問正解。それに話したこともないのに食料や水を分け与えてくれたと」
水は私もいただきましたし、と七瀬は僕を持ち上げてくる。
「私は斉木先輩はすごい方だと思います。高円寺先輩がリーダーをしていたようですが、課題でご一緒する度に思いましたが身体能力は非常に高いものでした。だから、それについていける斉木先輩も相当なものだと私は考えています」
そんなに褒めても何も出てこないぞと思いつつ、本題に入って欲しいなと急かすと七瀬は微妙な笑みを浮かべながら頷く。
「そう、でしたね」
佇まいを正した七瀬は僕に聞きたいことというのを聞き始める。
「1つ目は天沢さんのことです」
七瀬曰く、天沢と合流した後、しばらくは行動を共にしていたが13日目の夜にいなくなったかと思えば、最終日の昼過ぎに何食わぬ顔で戻ってきたという。
『それがどうかしたのか?』
「いえ、グループを組む前や試験開始直後はその、舐め腐った態度だったのが合流してからは大人しかったんです、天沢さん」
それはいいことなんじゃないのかと店員が持ってきてくれたココアとジェラートを受け取る。
七瀬も同じように受け取りながら、それらに口をつけることなく僕に話を続ける。
「それで天沢さんに聞いたんです。何かあったんですかと」
聞いたのか。
「そうしたら天沢さんが言ったんです。井の中の蛙だって知っちゃったから調子に乗れないと」
意外だな。
あのメスガキキャラをやめたのか。
高校生らしい人格を形成する訓練を受けたらしいが、八神の穏やかなキャラと違って、ホワイトルームという環境で生まれ生き抜いたという自負からくるものだったからそれが折れれば辞めざるを得ないのか。
「そして、天沢さんに井の中の蛙と教えたのは斉木先輩ではないか。私はそう考えています」
天沢からあの場に僕と櫛田さんがいた事は聞いているんだったな。
「何があったか知りたかったら斉木先輩か櫛田先輩に聞いてみたらと言われたので聞きに来たんですが、斉木先輩が言いたくなかったら言わなくても大丈夫です」
いいのか。
なら、僕から言うことはない。
想像に任せるとだけ言うと七瀬は素直に頷いた。
「わかりました……(多分斉木先輩と櫛田先輩の仲を引き裂こうとした天沢さんが斉木先輩に返り討ちにされた……という所でしょうか)」
いや、その理屈はおかしい。
そもそもなんで僕が天沢を分からせた前提なんだ。
「違うんですか?」
全然違うと僕は仕方なくあの日あったことを話すことにした。
椿から櫛田さんが綾小路を退学させるために八神に利用されているのを聞いたこと。
それを聞いて櫛田さんのGPS反応がある場所に行くと天沢と争っていたこと。
それを止めるために間に入ったこと。
「なるほど、そういう事だったんですね……(天沢さんがしおらしくなった理由は分かりませんが……やっぱり宝泉くんのようにけちょんけちょんにされてしまったのでしょうか)」
七瀬には僕のパワーとスピードを見せたことがあるため、天沢への教育は勝手に想像してくれると判断して説明しなかったがいいように納得してくれたようだ。
「では、次の質問なんですが……」
『その前にジェラートを食べてしまってもいいか?』
僕がそう問いかけると七瀬は思い出したかのような表情を見せる。
「あ、そうでしたね。すみません」
謝る七瀬に気にするなと言ってジェラートを食べる。
見た目の割に甘さが控えめなこれは悪くない。
僕に倣うように七瀬もジェラートにスプーンを入れ、一口食べた七瀬は「おいしい」と表情を緩めた。
僕は黙々とジェラートを食べるが、七瀬はジェラートの美味しさに感動しているのか「これ美味しいですね」と共感を求めながらジェラートを食べ進めていた。
「斉木先輩はいつもこんなに美味しいのを食べてるんですね。羨ましいです」
流石に毎日は食ってない。
週に2、3回くらいだろうか。
満足そうに微笑んだ七瀬は最後の一口を食べる。
僕が皿を空にするのとほぼ同時に七瀬もジェラートを完食する。
「本当に美味しかったですね」
『ああ』
残りのココアに口をつけながら、続きを聞く。
「あ、そういえばそうでした」
ジェラートの美味しさに忘れてしまったようだ。
大丈夫だろうかこの子。
「斉木先輩がどうして食料や水を配り歩いていたのか、それが聞きたいんです」
渡す時にも言った気がするが、課題でバックパックに入らないくらい貰ったからだ。
捨てるくらいなら誰かにあげた方がいいだろうという昨今のフードロスの観点からも僕の行為は理にかなっている。
だから、特に恩を売ろうだとか感謝される気はないため、クラスメイトたちにはそう伝えておいてくれと言っておく。
少し驚いたように目を丸くした七瀬は僕の言葉を飲み込むと僅かに微笑んだ。
「(あれだけのことをしておいて見返りがいらない……やっぱり……)そうですか……分かりました、ありがとうございます」
『もう大丈夫か?』
立ち上がる僕に七瀬も慌てて立ち上がる。
「はい。付き合っていただきありがとうございました」
お役に立てて何よりだ。
伝票を手に取り、会計に向かうと七瀬が焦ったように言う。
「あ、自分のは払います!」
別にポイントは有り余っているから構わないが、これ以上無償で何かすると最悪絞首台という結末になるかもしれない。
ほら、無償の善意も1周回れば怖く見えるというやつだ。
「本当にお時間いただいてありがとうございました。クラスメイトのみなさんには私から説明しておきます」
丁寧に礼をする七瀬に、頼んだと伝えると彼女はまた一礼してカフェを後にした。
充電の確認がてら携帯を見ると12時を過ぎていた。
カフェエリアはそうでもないが、飲食店街は先程と売って変わって人集りが多くなっていそうだが、これも仕方がないと受け入れるしかない。
実家でのんびり食べる手も考えたが適度にポイントを使っておかないと後で怪しまれると面倒なことになる。
7日間のうち食事は船内で食べることになるからバランスよく食べたいところだなと、パンフレットのスイーツやカフェのページではなく和食、洋食、イタリアンといったものを眺めながら店を選ぶ。
無人島では携帯食料やおにぎり、サンドイッチが多く、試験終わりの夜の結果発表時に洋食を食べている。
ということはイタリアンやインド料理、ネパール料理もいいかもしれないと、僕はイタリアンや海外の料理を扱っている店を見てみる。
そうしていると僕に視線が集まっていた。
「斉木先輩だ」
「昼飯かな?」
「なぁ、無人島でのお礼に声かけてみないか?」
「(確かに僕もお礼がてら少し話してみたいけど)迷惑かもしれないし、それにほら、斉木先輩、人気者だろうしこれから誰か来るかもしれないじゃん」
(クソ、斉木のやつ呑気にしやがって……今に見てろよ……)
餌付け……をしたわけじゃないが、課題報酬で得た食料や水を1年生や同級生に分け与えていたことが災いしてか、僕は船に戻ってきてから好奇の視線に晒されることが多くなった。
その中に混ざっている桐山配下と思われる3年生の監視の視線に比べればマシではあるが、目立つのを嫌う僕としては居心地が悪い。
こんな衆人環視の中、イタリアンなどの外国料理を食べていては小洒落たイキリ野郎と思われて目立つ可能性があると判断し、僕もただの一般的な生徒ということを主張すべく、ビッグマックを食べようとファーストフードが並んでいるエリアへと足を向ける。
「あ、斉木先輩じゃん」
すると、目の前から隣にいつもいる宇都宮がいない椿が僕を見て手を上げてくる。
それに僕は一礼して通り過ぎようとすると、普段驚いたりしなさそうな椿の目が僅かに見開かれる。
(え、ほぼ無視じゃん)
僕とは逆方向に歩いていたはずの椿は引き返してこちらまで寄ってくる。
「無人島でのことまだ怒ってるの?」
そう問いかけられて僕は『はて』と首を傾げた。
『特に怒ってないが』
「え? 綾小路先輩を退学にさせようとしたから怒ってるんじゃないの?」
僕が怒るわけないじゃないか。
僕は平和主義者で通っているからな。
むしろ、綾小路の退学を邪魔した僕のことを椿は恨んでるんじゃないかと思っていたくらいだ。
「斉木先輩の立場からすれば邪魔するのが当然っていうか、私も宇都宮くんも2000万に目が眩んでたんだよ(まぁ私の目的は綾小路先輩の退学だったから2000万は建前だけど)」
だから怒ったり恨んだりしていないと言う椿だが、心の奥底にある目的を知っている身としてはやはり恨まれているのではと感じるものだ。
椿を見ていると、椿は胡乱なものを見る目つきになっていく。
「で、なんで避けてくるの?」
『避けてたなら僕は話さないぞ』
「……あぁ、デフォルトでそういう感じなんだね(この人のキャラがイマイチわかんないな)」
どうやら納得してくれたようなので『じゃあ昼飯を食べるんで』と伝えてドナルド・マクドナルドというピエロの立っている看板を目指して歩き出す。
「昼ごはん、ハンバーガーにするんだ」
『ああ』
「(他にも美味しそうな店とかあるのに何故にマック……?)そういうのって大体食べ尽くしてから行き着くところじゃない?」
言われてみればそうだな。
だが、みんなが和食や洋食、イタリアンを楽しんでいる中、僕はビッグマックを食べたと言ってみたくなったのかもしれない。
そんな理由を話しても椿には怪訝に思われるだけだろうから話題を変えてみる。
『今日は宇都宮は一緒じゃないんだな』
「別にいつも一緒ってわけじゃないよ。実際は特別試験の時くらいだし」
ポケットから棒付きの飴を取り出して、包み紙を破いて口に入れて舐め始めた椿は「クラスメイトとかにもたまに聞かれるんだよね」とやや辟易とした様子で付け加える。
「宇都宮くん、悪い人じゃないんだけど、直情的っていうか、試験の時以外は特段絡まなくてもいいかなって」
話題として適当に振っただけなので、1年生の内部事情などサラサラ興味がない。そのため、僕は深く聞かずに椿と共にハンバーガーショップに入る。
『椿も何か食べるのか?』
「え? (まぁお昼まだだけど……マックか……)んー、ちょっと考えるんで先頼んでもらっていいよ」
食べるのか。
ただ興味本位でついてきただけだと思ったんだが。
まぁいいかとビッグマックセットを注文しできるまでに席を確保しておく。
といっても、椿の言う通り豪華客船で食べるものではないのか、店内は昼時にも関わらず座れる場所が多く、受け取り口に近い席を取る。
椿は結局ソフトツイストだけにしたようで、単品の注文だったのもあってか僕より先に商品を受け取り、僕の前に座る。
『どうして前に座るんだ?』
「えっ? (隣の方が良かったってこと?)ごめん、私、別に先輩のことそういう目では見れないっていうか……」
なんでそうなる。
一緒に食べる必要はないだろうと空いてる席を見渡して言ってやると、椿は「なんだ」と安堵のため息を吐いた。
「昼ごはんくらい良くない? 先輩付き合ってる人とかいないんだよね?」
そういう問題じゃないと思うが。
僕はご飯くらいは1人で静かに食べたいと思うだけだ。
「そうですか」
モニターに僕の頼んだ商品ができたと番号が表示されたため、取りに行き、椿の座る席とは別の席に座る。
「じゃあいただきます」
にも関わらず席を移ってきた。
割と強かだな椿。
律儀に合掌し、声に出す椿。
まぁいいかと僕も手を合わせて『いただきます』と言うとビッグマックを手に持ち、一口齧る。
試験終わりの2日後、僕はビッグマックを食べた。
これで決まりだな。
「そういえば斉木先輩、うちのクラスの子達に食料や水配ってたって話聞いたんだけど」
またその話かよ。
その話はもうとっくに終わったんだよ。
なんならメールで石上にも「うちのクラスの奴らに水と食料を恵んでくれるのはいいんですが、お礼をしたいと後を絶たないので何とかしてください」と言われているところだ。
大方、椿のいるCクラスでも似たようなことが起きているのだろう。
とりあえず、見返りを求めたわけじゃないから適当に折り合いをつけてくれとクラスメイトに言うように頼んでおく。
「はぁ、まぁ分かったけど……」
僕は別に正義の味方とかそう言うんじゃないが、見返りを期待したらそれは正義じゃないらしいんでな。
「もし斉木先輩に兄……はいるんだったね」
ああ公にいることを言うのが恥ずかしい兄がな。
「そうなんだ……あのさ、もし斉木先輩に姉がいたとして、その存在を何年も親に隠されていて知らなかった。でも突然ある日、本物の家族だと言われて、それで家族として好きになれる? もちろん正真正銘血の繋がりはあるとしてね」
あの両親だから本当に姉がいたとしたら政府公認だろうが非公認だろうがテロリストに連れていかれようが取り返す気がするからその仮定は仮定でしかないが。
それに僕に隠し事もできないしな。
『好きになれるかはその姉の性格次第だろうな』
「そう、だね。私も斉木先輩に近い感情を抱くと思う。完全に別々に育ってきたところでいきなり家族として受け入れて接するのは難しいし」
例え話にしては具体的すぎる感情を吐露する椿の話をジュースを飲みながら聞く。
「だけど、相手に特別な事情があって悲しい過去があったって分かったら、それを知って寄り添いたいと思う感情が出てくる。離れ離れだった姉のことをもっと知りたいと考える」
その結果が綾小路の退学に繋がる理由は、本人の口からは聞けないがテレパシーで心を覗き見ることができる僕には分かってしまう。
『優しいんだな君は』
「斉木先輩ほどじゃないよ」
僕は僕の都合で動いた結果だ。
どう捉えられてもいいが、正義の味方だったり、善人を気取るつもりはない。
『君はこの高校にはお姉さんのために?』
「……例え話だって言ったよね」
『例え話にしては具体的すぎるな』
感情の籠り方も強く、自身の体験に基づいた話にしか聞こえないし、テレパシーがなくとも椿の話と断定できただろう。
「どうだろうね。それを言うには好感度が足りないかな」
『そうか』
お互いに知られたくない話や、超えてはならない一線というものは存在する。
椿が綾小路さえ退学にできればこの高校に留まる理由はないというのは、姉のためというのはよくわかった。
綾小路と椿が同時に退学になれば、椿の目的は果たされる。
綾小路と自分の卒業を待っていては遅いと判断したのだろう。
「でも、話を聞いてくれてありがと。それとクラスメイトを助けてくれたこと。あそこで私と宇都宮くんを先生たちに突き出さなかったことも。おかげで、私たちの学年からは誰も退学者が出ずに済んだ」
1年生が退学せずに済んだのは3年生の勇み足の部分も大きいが、責任をもって指揮をとった椿の手腕も大きいだろう。
元々は少人数のグループを蹴落とす方針だったが、それもリスクある行為と理解して真面目に得点を重ねたり、大グループを形成して下位5組から脱出できるようにと頭を回していた。
『そんなに感謝しても綾小路を退学させるのには手を貸さないぞ』
「知ってるからいいよそれは(夏休みまでっていう制約がついてるし、今からじゃ難しいし)」
まぁ1年生も月城と綾小路の父親に遊ばれた被害者のようなものだ。
付け加えるなら椿は家族が被害者になっている。
『手を貸してやれるとしたら綾小路を君のお姉さんに会いに行かせてやるくらいだな』
「えっ?」
そう言って僕は席から立ち上がると、椿のソフトツイストのコーンについていた包み紙も捨てに行ってやる。
「先輩、今のは……」
『気にするな、例え話だ』
椿のお姉さんが寝たきりになった原因はホワイトルーム、綾小路の父親やその関係者にあるが、お姉さんを立ち上がらせることができるのは綾小路清隆ただ1人。
僕には全くもって関係のない話だが知ってしまった以上は見て見ぬふりというわけにもいかない。
それを綾小路本人が拒否しても今のあいつなら見に行くくらいならと頷いてくれるだろう。
だが、その話をするのは卒業が見えてからになるが、それもそう遠くは無い話だろう。
クラスメイトの誘いを断って後輩の女子とスイーツを食べて、ビッグマックを食べたやつがいるらしい。
本当は没話は3つ合体!!させたのになるのでちょっと話が変だったりするところがあるかも
削り忘れてたらすまない
ちなみに石上もちゃんと出てくる予定だったがメールだけの登場になった悲しい過去あり
端おったけど白波が綾小路に助けられるイベントは存在しているが、グループのメンバーが小橋ではなくなってるのと、一之瀬の好きな人が綾小路ではなくなってる関係で綾小路が女子会に呼ばれるイベントが消えている
代わりにくーちゃんが呼ばれているが、くーちゃんはまだクラスの何人かで集まる慰労会だと思っている
椿のお姉さんって一体誰なんだ……そんな本編じゃなくてDVDやBluRayの特典でしか明かされない存在なわけ……
まぁ俺ガイルも特典で3年生編やったので珍しくもないんですけどね?
寝たきりというか精神的に不安定みたいな話だとは思うんですけど、寝たきりでも変わらないと思って寝たきりという表現にしてます