豪華客船で過ごす日々も残り3日となった。
折り返しを過ぎた頃にはほとんどの人間がこの客船で過ごす日々を名残惜しく感じており、少しでも楽しく色濃く過ごそうと躍起になる人間が増えてきた。
僕はといえば部屋を出る予定さえなければ読書で時間を潰したり、柴田や神崎、渡辺や遊びにやってくるクラスメイトの会話に耳を傾けたりするだけ。
今日もそんな感じだろうなと思っていたところに早朝に全校生徒に対して学校から一斉にメールが送られてきた。
ちっ、誰だよ人が気持ちよく寝てるトキにメールしてくるバカはよォ〜と携帯をいち早くに開いた柴田が読み上げる。
「本日朝10時より百鬼夜行を開催しますだってよ」
「いや絶対違うだろ……宝探しゲームって書いてあるぞ」
「思う存分探し合おうじゃないか」
呪術は知っている渡辺が突っ込むと、柴田は満足そうに微笑む。
その1つ隣のベッドで神崎がメールの下の方に書かれている詳細を読み上げてくれる。
「自由参加で行われるボーナスゲームで、男女問わずに1名から参加可能。参加費は1万プライベートポイントで、実施日は今日で、詳細は午前10時までに5階フロア。説明を受けてから参加するかの選択が可能(特別試験というわけでは無さそうだな)」
船での特別試験はないと明言していたからな。
それでもしてきそうなのがこの学校ではあるが。
参加は自由で個人が背負うリスクは1万ポイントのみ。
詳細は10時から説明されるが、既に知っている僕としてはあまり興味のない話だ。
教師が船内の至る所に貼って回った二次元コードを読み取って、最大で100万ポイントが貰えるという宝探しそのもののゲームだ。
「宝探しって言うからにはポイントが貰えるって感じかな?」
「だろうな」
「うっし、俺は参加するぜ」
3人の方は参加に前向きらしく、食事が終わったあとに一緒に行く話を始めていた。
そして、そこには何故か僕も当然のように組み込まれていた。
4人で食事を食べて、少しゆっくりしてから指定場所の会場へと向かう。
全校生徒の半分ほどが詰めかけているホールを見渡して柴田と渡辺が口を開く。
「おーすっげぇ人だな」
「ほぼ全員来てそうだな」
「(この宝探しを好機としてプールや娯楽施設に向かっている生徒も見かけたし)いや半分くらいだろうな」
神崎の言う通り、これは自由参加であるため参加の可否を決定するのは個人に委ねられている。
神崎の言うように人の少なくなった施設で遊ぶためだったり、ポイントに余裕のある生徒や1万ポイント支払ってそれ以上のリターンがあるか不明瞭と考えている生徒は参加していない。
2、3分もすれば締切時刻を迎えて、前方のステージが騒がしくなってくる。
ゲームの内容を説明するために3年Bクラスの担任である高遠先生が出てくると共に月城理事長代理と司馬以外の先生の姿も見えた。
「皆さん、おはようございます。午前10時になりましたので、現時点でここに集まっている生徒で募集を締め切らせていただきます」
高遠先生の言葉と共に、入口に立っていた坂上先生と真嶋先生などがホールに通じる出入口の扉をゆっくりと閉める。
宝探しゲームの説明を始める前に、高遠先生がこのゲームが行われることになった経緯を話してくれる。
生徒会長の南雲が厳しい無人島生活に身を置きながら学年別で競い合ったあとは、親睦を深める意味でも面白く楽しめるレクリエーションをするべきと提案されたそうだ。
南雲も高遠に呼ばれて、参加する意志を持ってこの場に来た生徒たちの前に出る。
「(斉木も来たのか。柴田にでも連れてこられたか?)この度、学校の全面協力の下、ボーナスゲームが開催される運びとなりました。学校生活の充実と向上を目的とする生徒会の習いから、今回の発案に至りました」
生徒たちの前だからか穏やかに話す南雲に違和感を覚えていると、近くの女生徒がヒソヒソと話している声が聞こえる。
「南雲会長って最近爽やかっていうかまた一段とかっこよくなった気がしない?」
「わかるわかる。去年くらいはスカした感じもあったしね」
1月の混合合宿以来、目立った暗躍やらはしておらず、大人しくなったなとは思うが、かっこよくなったかは僕にはわからない。
今見てても骨が喋っているだけだからな。
学年を超えてパートナーが組めるといった説明と是非参加して欲しいという旨を伝えてマイクを高遠先生へと返す。
生徒会のメンバーは運営管理があるため、宝探しに参加出来ないためペアにはなれないようだ。
生徒会側の顔ぶれを見てみると、会長の南雲はもちろん、副会長の桐山、2年生役員の一之瀬さんと葛城、堀北さんに加えて唯一の1年生役員の八神の姿もある。
八神は無人島試験中も含めて隠れて色々と行動を起こしていたが、僕に負かされ、憎悪を募らせていた綾小路の口から直接ホワイトルーム生よりも僕が強いと明言されて以降は大人しくしている。
生徒会のメンバーは八神に起こったことやしてきたことは知らないため、葛城と一之瀬さんを中心にフォローしてやっているようだ。
(うっ、斉木……先輩)
たまたま僕と目が合った八神は一瞬引きつった表情を浮かべつつも、ぺこりと会釈をして葛城と共に事務作業へと向かっていく。
「それでは宝探しゲームの概要を説明しますが、複雑なルールはなく、非常にシンプルなものになっています」
船内の至る所に二次元コードの描かれたシールを合計100枚貼り付けてあるため、参加者はシールを見つけ出して、専用アプリで読み込んでプライベートポイントを手に入れるというのが今回の企画だ。
携帯1台につき読み込める回数は1度だけ、1度読み取られた二次元コードは無効になる他、シールを剥がしたり、ペンなどで落書きして読み込めなくする行為は厳重注意の対象となる。
二次元コードを写真で撮影し、ペアや他の者の携帯で読み込むことに関しては何も言われなかったので禁止事項に入っていないのだろう。
貰えるプライベートポイントは1番低いもので5000ポイント。
参加費の半分のポイントであり、これが全体のちょうど半分である50枚を占めている。
次に多いのが30枚の1万ポイントとこれなら参加費とトントンにはなるものの、参加して得られるポイントは0になる。
残る20枚の内訳は、10枚が5万、5枚が10万、3枚が30万、そして残りは50万と100万と隠されている二次元コードを見つける難易度に合わせて報酬額は変わるシステムになっている。
参加する生徒数が200人以上に対して、用意された二次元コードが100枚であるため、ポイントが貰えない生徒が出てくるのも避けられない。
しかしリスクを避ける手段として参加者は学年を問わずにペアを組むことが出来るという説明がされて1年生3人の思考が入ってくる。
(へぇ、学年性別問わずに生徒会の人間じゃなければ誰でもねぇ〜)
(ペアを組んだ状態で、ペアどちらかの携帯を使って二次元コードを読み込めば、その二次元コードの報酬が貰える……ですか)
(複数の二次元コードを見つけた時にペアだとどれを読み込むかで揉めそうではあるが、リスクとしては軽微だな)
天沢は僕と綾小路のどちらかと組もうと思っているのかどちらにしようかなと指を振り、七瀬は顎に手を置いて参加するかどうかを考えており、この手のイベントには来ないと思っていた石上もどうするかを考えているようだった。
二次元コードが貼られている場所は予め範囲が決まっており、トイレ、客室や従業員専用のフロアやバックヤード、室内は除外されている。
生徒が立ち入り禁止とされている階層にもシールは貼られておらず、簡単に言えば生徒の移動が認められている移動範囲にしかシールは貼られていないということだ。
「それから、こちらを支給させていただきます」
そう言うと、教員たちが一斉に紙を配り始めた。
僕のところには星之宮先生がやってきて渡す際に微笑みを向けてきた。
「一之瀬さんとのデート楽しかった? (楽しかったよね!? 楽しかったでしょ! 私なら絶対楽しいって言うわ!)」
うるせぇなこいつ。
迷惑顔をして次の生徒に配ったらどうかと暗に言うと「つれないな〜」と隣の生徒の柴田や神崎たちに2つ折りにされた紙を渡していく。
「チエちゃん先生上機嫌だな……(先生も楠雄と一之瀬がデートしてたこと知ってるんだな)」
「最近はお酒飲んでも潰れるまではいってないみたいだからな。彼氏が出来たとか、いい事でもあったんじゃないか?」
残念なことにそうでは無いんだよな。
まぁ、私には恋人ができないのに〜と絡まれるよりはマシかもしれないなと渡された船内地図を見てみる。
シールが貼られているエリアは色で塗りつぶされており、見慣れない文面と図形の記載もある。
基本的に運が大半を占めているこのゲームに少しだけ実力が関係する要素を混ぜておいたらしい。
3つのなぞかけ問題を解くことで3箇所の二次元コードの隠し場所がわかると言う。
「この3つに限っては問題を解かない限り見つけられないと考えてください」
なぞかけ自体はそんな大したものではないため恐らくは5万か10万ポイントの二次元コードに繋がるヒントなのだろうか。
参加受付は今から30分間で、各自の携帯から参加の有無を表明しなければならない。
僕のイカれたバッテリーをしている携帯の持ち主にも配慮してくれるのか、近くの先生に声をかけるようにというアナウンスもされる。
ほとんどの生徒が携帯を取り出して受付を始める中、数名退室していく生徒の姿も見える。
宝探しゲームの終了時刻は午後5時とやや長めである。
暇つぶしとしてはポイントが貰える可能性もあるため悪くないと思えるが、テレパシーのせいで100万と50万ポイントの二次元コードの場所を知ってしまっている僕が参加するのは不公平だろう。
神崎と渡辺は特に何も言わないだろうが、柴田の場合は退室することを伝えると引き止められる可能性が高いため、静かにその場を離れる。
退室者用に開かれたドアへと進んでいると、堀北さんが不正防止のために参加者は退室時に1万ポイントを支払う処理と同時に、学年別に名簿に名前を書くようにと伝達される。
第三者の携帯を利用した不正な参加を防ぐ目的のようだ。
それを聞き流して退室しようとしていると、僕が動いたのを見逃さなかった天沢が声をかけてきた。
「斉木せーんぱいっ」
無視するという手もあったが、用件も聞かずに立ち去っては後から喚かれた時に面倒だと思い、一応立ち止まる。
「もしかして帰っちゃうんですかぁ?」
そうだがと頷いてみると天沢は大袈裟に驚いてみせる。
「えぇっ!? もったいな〜! あ、じゃああたしと組んでくださいよ〜」
どっから飛んできたそのじゃあ。
「ほら、あたし友達いないじゃないですか〜?」
『そうだな』
「そうなんです! だから唯一知り合いの先輩である斉木先輩に組んで欲しいんです〜」
『綾小路と櫛田さんがいるだろ』
「えっ、そこで櫛田先輩紹介します?」
ジョークだと言ってみると(つまんねー)と天沢は天井を仰ぐ。
「綾小路先輩はちょっと憧れが強すぎて声掛けづらいっていうか〜(斉木先輩が知ってるかわかんないけど、綾小路先輩、彼女いるし。まぁいなくても声かけなかったけど)」
知ってる。
豆柴にねぇ、知ってる? と聞かれたら即答できる。
にしても、こいつ無人島であんなことされても、喫茶店で紅茶をしばきあったからか気安くなったな。
どうしたものかと考えていると「あれ? 斉木くんと天沢さんだ」と櫛田さんが近づいてきた。
「あ、櫛田先輩はろはろ〜」
「こんにちは、天沢さん」
ん? 櫛田さんのドス黒い思考が見えないがやっとテレパシーを失うことに成功したか?
そう訝しんでいると、櫛田さんがにこやかな笑みを浮かべながら「耳貸して」と小声で言ってくる。
「天沢には試験終わったあとに謝りに来てプライベートポイントも貰ったからそれでチャラにしただけだよ(特にアザとかも残らなかったしね)」
プライベートポイントはちゃっかり貰ったのか。
どっちが言い出したのかは知らないが、当人同士で片付いたのなら僕から言うことはない。
じゃああとは若いのでごゆっくりと踵を返そうとすると、服の裾を両端から掴まれた。
「どこ行くんですかぁ? せぇんぱいっ(一之瀬先輩がいないから誰も斉木先輩に絡んでこないかなって思ったら、やっぱり食いついちゃった)」
「帰っちゃうの? せっかくだから組んでみようよ(こんなのと組まれるくらいなら多少目立っても組もうかな。帆波ちゃんともデートしたみたいだし。というか、1年にも手つけられてるみたいだし、また剥がしとかないと。天然タラシだからなこいつ)」
天沢の読み通り、天沢が絡んできたことで僕に声をかけようと試みようとしてきたやつは何人かいた。
綾小路に、石上も入っているし、高円寺は「レディとのひと時を邪魔してはいけないねぇ」と平田と組んでいないならみーちゃんと組もうとそちらを探しに行った。
坂柳さんはこの場にはいないが、代わりに神室さんが現地調査員として送り込まれたようで(あいつまた女といる……)と信じられないという目で僕を見ていた。
橋本も僕と組もうと思っていたようだが、僕に近づいてくる櫛田さんとさらにもう2人の姿を見て撤退を決めていた。
「おや? もう先を越されてしまいましたか?」
「よりどりみどりですね斉木楠雄。そんなに結城リトになりたいのですか?」
何故か白石さんと森下さんまで来た。
僕から変な女の子を寄せ付けるフェロモンでも出ているのか?
四方を囲まれ、なぜか静かな空気になる僕の周りの様子を朝比奈さんが少し遠目から見ていた。
「わー、斉木くんモテモテだねぇ(金欠の楓花ちゃんがこの場にいないのは意外だけど、いたらあの場にいそうだなぁ)」
居なくてよかった。
いたら確実に今よりも面倒なことになっていたからな。
(本当にこの人モテるんだな……でも一之瀬先輩と櫛田先輩みたいにおっぱいおっきくなくてもいいんだ)
人の性癖を巨乳好きと断定するな。
それだと坂柳さんはどうなるんだ。
「わぁ、斉木くん人気なんだねっ。でもどうしよっか組めるのは2人ペアだから……」
「斉木楠雄は私と組んでもらいます。理由はそうすると橋本正義が苦い顔をするからです(と言いつつ、無人島試験終了後に開いたポイント差を考えると何かしら手を打ちたいですからね。斉木楠雄の強さの秘訣やクラスの弱点などを知れればと思うのが本音です)」
「私は楽しそうなのと、こういう機会でもないと話さないかなと思いましたので(頭もいいですし、いい声ですし相槌などを聞いてるだけでも楽しそうです)」
どうする? と4人からの視線が僕に集まる。
「じゃあ斉木先輩に決めて貰うのはどう? (まぁ斉木先輩としては誰でも良さそうだけどこうした方が面白そう……あとでシバかれたりしないよね?)」
「私はいいけど……(この中なら私でしょ、どう考えても)」
「私も構いませんよ」
「左右に同じくです」
僕はそもそもこの宝探しに参加する気は無いんだがな……どいつもこいつも人の話を聞かないし、聞こうともしないな。
天沢の言う通り、組むなら誰でもいいし、なんなら4人いるんだし君たちで組んでくれた方が早いんじゃないかと思う。
これなら柴田や渡辺たちの所に残っておけばよかったと思いつつ、僕は『やれやれ』と肩を竦めて、宝探しは運に左右されるなら運がいい人とが良いと無難なことを言って、ジャンケンで決めるように伝えた。
勝つのは誰になるのか。
からかい上手の天沢さんと、くーちゃんに下心のある櫛田と白石、打算のある森下。
勝手に戦え!
綾小路▶︎普通に友達だから組みたかった
須藤▶︎堀北とのこと相談したかった
高円寺▶︎言わずもがな
石上▶︎空助との鬼ごっこの結果とか、兄弟でどんな勝負をしてきたのか聞きたかった
朝比奈▶︎誰とも組む気配がなければ声かけようと思ってた
原作から消えたこと
小宮たちの怪我▶︎未然に防いだため無くなる。これに付随して池の告白イベも消えている。
池と篠原の交際▶︎上記のこともあって消滅。くーちゃんのアドバイスのあと告白はしたが、小宮と共に保留にされている。
時任と葛城の衝突▶︎葛城がクラス移動してないので消失。
天沢へのリベンジ、置き手紙の調査▶︎どっちも潰したので消失。大人しくなってる天沢と八神には(試験疲れかしら)で終わる。
一之瀬の告白と南雲の介入▶︎告白してくーちゃんを困らせたり、関係が拗れたら嫌だからと思いを口にしてない……というわけではなく、ちゃんと言葉にしようとしてるけどタイミングが掴めてないだけ。絶好の機会は超能力者が確実に潰してくる。
南雲は一之瀬のこととっくに諦めており、2人のというか、一之瀬の恋愛が成就するか見守っている状態。デートの様子は桐山が使った監視役から聞いており「もう付き合えよ!!」とキレた。
龍園が小宮たちを突き落とした犯人を追う▶︎くーちゃんが潰したため消失。龍園は船でのんびり遊んでる。
綾小路グループでのプールはしっかりと発生してます。
くーちゃん原作ブレイカーすぎるけど、こっちの方が遥かに平和だからええやろ……。
おまけ
堀北学の夏休み
▶︎家庭教師のアルバイトをしてそう。それか塾講師。
友人関係はほどほど。めちゃくちゃいるわけでもなく、少ないわけでもなく。
アルバイトのお金は生活費、貯蓄とかとは別にゲームとかゲーセンに使ってる。
大学、下宿先付近ではくーちゃんほどの実力者がいないため2週間くらいで天下統一。
その後強者を求めて大会に出てもそこそこいい成績を収めちゃったりする。
下宿しているので親は学がゲームにどハマりしていることを知らない。
ただ橘茜は知ってしまうため「一体誰が学くんにゲームを!?」となる。
学は特に隠すことなく「楠雄だが」と言う。
「楠雄!?下の名前呼び!?あのヘアピンメガネ何吹き込んでるんですか!?」
「橘もやってみるか?案外楽し」
「はい!やります!」
「そうか」
とそこそこ楽しい夏休みになっている。
来年にはここに金髪のスカしたやつが入るらしい。
終わり
また次回