2年生編以降の堀北妹が好きな人には申し訳ない。
体育祭の詳細が発表されてから4日が経った。
文化祭も控えている中、やはりまずは目下の体育祭に力を注ぐべきと考えたのだろう。
どのクラスも体育の授業だけではなく休み時間や放課後にグラウンドや体育館で体育祭に向けた練習を行っていた。
学年やクラスごとに公平に練習が出来るように設備も整えられていた。
初日から練習に積極的に参加していたのは2年Bクラスの男子たちで、参加人数はほぼ全員であり、練習への熱量は非常に高く、ああでもこうでもないと競技のコツについて話し合っていた。
純粋なスポーツや運動神経の競い合いにおいては2年Bクラスは他のクラスよりやや劣る。
良くも悪くも平均的な生徒が多く、上位入賞を取れる生徒は片手で足りるほどしかいないが、学力も合わせた総合力であれば、今のBクラスは一之瀬率いるAクラスにも引けを取らないだろう。
しかし身体能力では斉木や柴田のような突出した生徒がいないというのは個人主体となった今年の体育祭では致命的だ。
それを補うために葛城と坂柳が指示したのであろうことは目に見えてわかった。
葛城が戸塚や的場といったメンバーに声をかけつつ、練習を進めていた。
他のクラスの連中もいるが、そいつらの視線は2年生の生徒がクラス問わずに使えるフリーエリアに注がれていた。
「縄跳びってこのメンバーでいいの? 男女混合とは言うけどさ」
『僕に言われてもな』
2年Aクラスの生徒である姫野ユキと斉木が並びながら大縄跳びのために集結したメンバーを見ながら不安そうな表情を浮かべていた。
「学年混合の種目となりゃ学年で精鋭を集めるのは自然だが……役に立つかわからないちんちくりんがいるのはどうなんだ?」
「ふふっ、ご安心ください龍園くん。本番では万全を期した状態で楠雄くんに抱いてもらいながら跳びますから」
「そりゃ安心だな」
にこりと微笑む坂柳に、龍園は呆れたように笑う。
それに不満そうにしている櫛田と一之瀬もまた大縄跳びの参加者なのだろうかと見ていると、オレの視線に気づいた橋本がこちらにやって来る。
「よう綾小路、声かけようと思ってて忘れてたぜ」
「……そうなのか?」
オレもあの場に混ざっていいのかとメンバーを見渡すが、2年生オールスターという連中ばかりだ。
ただ坂柳のように病気でそもそもの身体能力が期待できない人間もいるが、斉木を中心に集まったメンバーは錚々たるメンツと言える。
「おや? これにも綾小路ボーイは参加するのかね?」
高円寺という大縄跳びなんて趣味じゃなさそうな人間もいれば、同じく龍園もいるのは奇妙な光景だ。
あの2人がいるのは偏に斉木楠雄の存在あってのものなのだろうが。
「お前と龍園で縄を回して欲しいんだとさ」
「は?」
誰だそんなことを言ったやつはと眉を顰めると橋本が笑う。
「斉木だよ。お前と龍園が参加しないなら適当なメンツでやるってさ」
斉木、姫野、一之瀬、橋本、坂柳、高円寺、櫛田、龍園、ひよりというメンツが叶うにはどうやらオレの参加が必要らしい。
オレとしてはこんな愉快なメンバーで1競技できるというのなら喜んで参加させてもらいたい。
しかし、そう我を出すと揶揄われるかもしれないので努めて平静に言う。
「まぁ、構わないが」
「っし! じゃあバレーに引き続きよろしくな綾小路!」
『ちっ』
ん? 今、斉木のやつ舌打ちしなかったか……?
『してにゃい』
そう誤魔化してくるが、確実にしていた。
睨んでいるとひよりが可笑しそうに笑う。
「斉木くん、噛んでますよ」
『失礼かみまみた』
「わざとだろ」
オレが突っ込むと斉木は舌打ちの理由を明かしてくれる。
『お前が断ればこの大縄はなかったことになったんだ』
「そうは言うがオレが断っても話は変わらなかったんじゃないか?」
『それはどうかな?』
「なに……!?」
それはどうかなと言われたらこう返すのが礼と言われたが、よく分からないな。
そう感じていると橋本が本番でも使う大縄を持ってきた。
「じゃ、綾小路。よろしく頼むぜ」
大縄か。
オレは縄の端を持って回す役らしい。
龍園と一緒に。
「チッ、足引っ張るなよ綾小路」
龍園は悪態をつきながらも律儀に縄の端を持ち「で、どっち向きに回す?」と問いかけてくる。
「よく分からないからお前に任せる」
「あ? お前大縄回したことないのかよ」
「そういうお前はあるのか?」
「ねぇよ」
あったのなら意外だなと思っていたら龍園も経験はないらしい。
じゃあなんでオレたちを指名したのかとなる。
オレと龍園が大縄未経験者ということを斉木が知っていたわけでもあるまい。
同じことを疑問に思ったのかひよりが斉木に訊く。
「どうしてあの2人に縄を回す役を?」
『誕生日が同じだから』
マジかと言う顔をオレと龍園はお互いに浮かべてしまう。
退学者を含まなければ初期は各クラス40人が4クラスで160人、学年の合計で480人ほどいれば1人くらいは被っても不思議では無いが、それがまさか龍園とは。
「なんで知ってんだよお前」
『石崎から聞いた。綾小路はチャットのアカウントに書いてある』
淡々とそう言った斉木は『やるならさっさとやろう』と縄を回すように言ってくる。
オレと龍園は少し納得はいかないが、身長は同じくらいだし体格も近い部類だ。
縄を回す側の条件としては合っているのは事実。
それにここでどうこう言っていても仕方がない。
「分かった」
オレが頷くと、斉木は近づいてきた坂柳を抱き抱える。
「……それはありなのか?」
大縄跳びで人が飛ばないというのは。
すると、一之瀬と櫛田がやや光のないように見える目で言う。
「確認したら特別条項でOKなんだって……」
「理事長の娘さんだから贔屓してるのかもね……」
「身体障害は仕方ないと思いますが……私も頼んだらしてくれるのでしょうか?」
ひよりが唐突にそんなことをぶっ込むものだから、斉木の浮かべる汗がどんどんと増えていく。
龍園と高円寺、橋本はそれをニヤニヤと見ていた。
「クク、相変わらず大変そうだな」
「友が人気で私はハッピーだよ」
「ほんと変わって欲しいくらいだわ」
あとでアイツら絞めるという目をした斉木が見えた気がするが、オレには関係の無いことだ。
しかし……最近は恵との交際関係が明るみになってから綾小路グループの集まりが悪くなっているオレにはどこか羨ましく思える。
綾小路グループは初めて出来た友人の集まったグループではあったため、思い入れがないわけではない。
けれど、どこかオレの中では違うという感覚はあったのだ。
一応、波瑠加が気を利かせて集まろうとは言ってくれているが愛理から了承の返事がなく、全員で集まる機会はなかった。
ただ、気になるのは愛里が寄越したメールだ。
【集まれなくてごめんなさい。でも、清隆くんが悪いとかじゃないから気にしないでください】
今まで当たり前だった集まりが消失したことで、オレの学校での過ごし方は変わった。
だが、これは予想できたことだ。
明人や啓誠と話す機会は減り、波瑠加もはじめは声をかけてきたが、恵といることが増えるとそれも3日もすればなくなる。
昼休みも似たようなサイクルを送っていたが、恵が佐藤らとご飯に行く時は図書室に顔を出していた。
しかし、体育祭の内容が発表されてからはひよりの姿はなかった。
ひよりもひよりなりに体育祭に力を入れているのか、あるいは……と斉木の方を見ていると、動きを見せなくなったオレに櫛田が声をかけてくる。
「綾小路くん大丈夫? ぼーっとしてるけど」
『いつも通りだな』
「いつも通りだねぇ」
「お前らはオレのなんなんだ……」
心配してくれた櫛田への返事よりも早く斉木と高円寺に言われてムッとしながら答える。
それに2人は微笑むと、ようやくそれぞれが飛びやすい位置につくと龍園がオレに視線を合わせてくる。
「じゃあ行くぞ」
「ああ」
縄を回し、地面に着く前に全員が跳ぶ。
縄の高さは十分でスピードも問題なさそうだ。
『大丈夫そうか?』
「は、はい……っ。あ、でも、もっと強く抱き留めてくれても」
『聞いた僕が馬鹿だったみたいなこと言わないでくれ』
いくら小さくて軽いとは言え、坂柳を抱えながらでも問題なく跳ぶという荒業を平然とした顔で行う。
オレでもできるだろうが、やれと言われてできるものでも無い。
しかも坂柳に負担をかけないようにとなると、難易度は上がる。
ただ、斉木が抱えることで別の負担は起きているかもしれないが。
50回ほど跳んだところで橋本が縄に引っかかり、一時中断となったタイミングでオレは斉木に話しかける。
「よく坂柳をお姫様抱っこしながら跳ぶなんて引き受けたな」
目立つことを嫌う斉木ならば色々と屁理屈を言って拒否するものかと思ったが、プライベートポイントマンの時のようにポイントを貰ったのだろうか。
どうなのかと視線で問うも斉木は目線を逸らして『ポイントを貰ったからな』と答えるが、それが嘘なのは明らかだった。
しかし、本人に言う気がないのであれば無理に聞くことはできない。
すると、高円寺が口を開いた。
「それに自力で気づけないうちは楠雄に勝つことは出来ないよ、綾小路ボーイ」
「……お前は知ってるのか?」
「知りはしないさ。ただ、察することはできる」
高円寺にはわかって、オレにはわからない。
斉木との関係値の差なのだろうか。
いや、斉木と知り合ったのはオレの方が早いし、交流も多かったはずだ。
真の実力を知ったタイミングは同じでも、共に居た時間はオレの方が長いと断言出来る。
しかし、それでもわからないのは一体と思案していると2度目の練習を始めようと告げられ、オレは龍園と共に縄を回し始めた。
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体育祭の詳細が発表されてから7日が経った月曜日に私は綾小路くんを連れてケヤキモールにあるカラオケ店に来ていた。
彼女持ちの彼とデートというわけではなく、ここは寮の部屋を除いてプライベートが保証された空間。
綾小路くんとは互いの部屋に入ったことはあるけれど、今回の話は2人ではない。
それは綾小路くんも通された部屋の広さから察したはず。
そして、私たちが入ってからすぐに今日声をかけた2人が予定の時刻ぴったりに姿を現した。
「悪い、待たせたか?」
「ごきげんよう、綾小路くん、堀北さん」
2年Bクラスのリーダーである葛城くんと坂柳さん。
2人は入ってくると綾小路くんに各々挨拶してから席に着いた。
意外だなと言いたげな顔をする綾小路くんに、私はもう1人呼んでおいた人間の到着を待ってから話すことを告げる。
「そうか。なら、俺はその間に体育祭に向けた練習メニューを作らせてもらう」
「私も手伝います。あとの来客が来るまでは互いに自由にしてても構いませんよね?」
「ええ、私も勉強しているから気にしないで」
綾小路くんが「オレはどうしてればいいんだ」と聞いてきたから「歌っていれば?」と言うと彼は腕を組んでソファーに背中を預けた。
そんな私たちのやり取りには目もくれずに葛城くんたちは聞かれないようにするためか携帯を取り出し、文字を打っている。
私は黙ってノートを取り出すと自前の参考書を取り出して勉強を始める。
それから時刻は午後5時10分過ぎ、ドアがノックされる。
私が返事をすると、室内の扉は外部からやってきた人の手でゆっくりと開かれた。
そこに姿を見せたのは、私が呼んでいなかった人物ではあったが、やって来た理由には納得がいく人物だった。
「お待たせしてすみません。連れてきましたよ」
「ありがとう椎名さん。相当苦労したんじゃないかしら?」
「いいえ、大丈夫でしたよ」
そう微笑んだ彼女はここまで手を引いてきたのだろう、私がここに来るように呼び出した人物を部屋に引っ張りこんだ。
「鈴音……なんでひよりに今日のことを伝えた」
「貴方1人を呼び出してくる保証はなかったもの。彼女なら要件さえ言えば無理にでも連れてきてくれると思ったのよ」
実際私の考えは正解だった。
龍園くんは舌打ちをして空いた席に座る。
「では、私はお暇しますね」
「わざわざありがとう。本当に助かったわ」
そう言って椎名さんが部屋を出るとAクラス以外のクラスのリーダーが集結するが、龍園くんは私と綾小路くんの方を見て眉を顰めた。
「櫛田じゃなくてお前らか。まぁ人選としては妥当だな」
「まぁ、桔梗さんはリーダー向きの気質ではありませんからね」
龍園くんと坂柳さんに言われて、私は何か言い返すべきか悩んで踏みとどまる。
こんなことで彼らのペースに呑まれていてはこれからの話し合いはできない。
声をかけたメンバーが合流したところで葛城くんが携帯を仕舞う。
「俺たちに話があるということだが、詳しく聞かせてもらってもいいか?」
「少し長い話になるかもしれないからドリンクを頼んでおいた方がいいと思うのだけれど、みんな何か希望のものは?」
私が尋ねると、各々飲みたいものを口にする。
葛城くんだけウーロン茶であったのはどこか彼らしく思う。
飲み物が届いてから、私は話を切り出した。
「あなたたちをここに呼んだわけだけれど……」
「んなの言わなくても大体わかる。一之瀬と神崎……いやあのヘアピンメガネがいない時点でな」
「現Aクラスをこの3クラスで協力して倒そう……そういう話ですよね?」
早速切り出そうとしたところで、その出鼻を龍園くんと坂柳さんにくじかれる。
「ええ、そうよ。Aクラスとのポイント差はかなり大きい。それをこの2学期で詰めておきたい。そのために同盟を結びたい」
「同盟か」
私の申し出に葛城くんは渋い顔をする。
この中では彼が1番同意を示してくれそうなものだけれど、その表情は硬かった。
「同盟とは具体的にどうする気だ?」
「今回の体育祭、全学年での競い合いと学年両方の側面を持っている。複数人でプレーする団体戦に勝てば等しく得点を重ねられるシステムを最大限に活かしたいの」
「Aクラスの独走を止めるためか。しかし、3クラスを巻き込むのはどうしてだ?」
「2クラスだけではあの強固な信頼関係を築いているAクラスには勝てない。そう判断したからよ」
葛城くんは私の考えに対して質問を投げてくるが坂柳さんと龍園くんは飲み物を持って話を聞くばかり。
全ての話を聞き終えてから判断するということなのでしょう。
しかし、その前に葛城くんは話を打ち切った。
「そうするのなら少し……いや2手遅かったな」
「え?」
「ククク、綾小路。お前、鈴音に何も言わなかったのか?」
ようやく口を開いた龍園くんが嘲笑うように綾小路くんに問いかける。
それに私はどういうこと? と隣に座る綾小路くんを見た。
「葛城の言う通りだ。手としては悪くは無いと思うが、提案するのが遅すぎたな」
「それはどういう……」
私だけが置いていかれているという状況に当惑していると坂柳さんがカップを置く。
「残念ながら堀北さんの望む一手は1人の生徒の存在で打ち砕かれているということです」
どこか嬉しそうに坂柳さんが言うと、龍園くんが続けて言う。
「そもそもの話だ。お前のクラスの主力2人……いや3人か。どこかの誰かにお熱でクラスの勝利よりも個人的な欲求を優先してるやつがいるよなぁ?」
「……ッ」
「そんなのを抱えてるクラスに、勝つために協力してくれと言われて俺たちが頷くと思ったのか?」
これが私が遅れたと言われる一手目。
クラスメイトたちの衝動、斉木くんとの対決を優先するという欲求を抑えさせることが出来なかった。
私のクラスには手を組めば、斉木くんを倒せるかもしれない生徒が揃っている。
ただ彼らは個人競技での勝負を希望していた。
そして、それを止められなかった私に落ち度があるとナイフを突き立てられる。
「お前が知らないのは意外だったが……俺以外のメンバー、さっき来た椎名もだが斉木といくつか団体競技に出ることになっている」
「えっ?」
「本登録は橋本が済ませているから、もうアプリでも見れるだろう」
葛城くんに言われて私は事前公開されている団体競技の登録者を見る。
すると、学年別男女混合大縄跳びや全学年6人制男子バレーに斉木くんと共に名を連ねている綾小路くんや龍園くんの名前を見つける。
「6人目は須藤にしたのか」
「あぁ、この前の縄跳びの後に橋本がスカウトに行っていた」
「なるほど、悪くない人選だ。柴田でもよかったが、オレとしては助かる」
隣で綾小路くんが葛城くんと気さくに話している。
いえ、考え方を変えれば団体競技には綾小路くん、高円寺くん、須藤くんの3人が入っている。
勝つことができれば貰える得点は多くなる。
しかし、その3人が参加する個人種目には斉木くんの名前があり、もし彼に全勝されれば……。
「わかったか? お前が2手遅れたわけが」
「……わからないわよ。なんでAクラスの生徒に勝負を挑んだり、同じチームで競技に参加するのか……これはクラスポイントにも関わる行事なのよ?」
意味がわからないわと心底思う。
綾小路くんを含めた4人の考えが分からずに頭を抱えた。
すると、葛城くんが同情するかのように優しい声で言う。
「そもそも、うちのクラスは斉木のことは橋本に任せて、鬼頭を軸に特殊競技での得点を得る方向でまとまっている。だから他クラスでもチームに入ってくれるというのなら受け入れはする。しかし、Aクラスを潰すというのは賛同し兼ねる。坂柳も俺もあいつには恩があるし、2000万返すまでは敵対するつもりはない」
「私は楠雄くんと出る男女混合大縄跳びに全てを注ぐのでご協力は無理ですね。残りの4競技に関しては最下位前提で出場しますし」
「2人はAクラスに上がる気はないの?」
「ないわけではない。ただ小細工を弄してもあのクラスには勝てないからな。正々堂々と俺たちにできることをやる。そう決めたんだ」
力強い意志を込めた瞳で言う葛城くんに、私は返す言葉が見つからなくなる。
高円寺くんと話した時も、彼は斉木くんとの勝負を優先すると言っていた。
1年経った自分の力がどこまで彼に追いついたのかを見たいのだと言う。
個人報酬は欲しいから、勝負して貰う種目以外も出て10種目出場するとは言っていたけど、斉木くんと団体競技に出ては意味がない。
そう思い返していると今度は龍園くんが口を開いた。
「俺も今回、鈴音のクラスと手を組んでAクラスを倒すプランを一度は思い描いた」
「え……?」
「お前たちのクラスは須藤や高円寺、そこのぼーっとした金魚のフンかと思ったらイカれてた綾小路のような学年を越えた実力者を抱えている。2年4クラスの中で身体能力の上位、選手層の厚さではトップだ。仲間にして足を引っ張られる心配はないと思っていたが、そいつらが揃ってあのバケモンに挑みに行ってるのを見てやめることにした」
理由はわかるだろと龍園くんはコーラを飲む前に呟き、そしてコーラを一気に飲み干す。
「いくら生徒の中じゃ優れているとはいえ、あのクソメガネの前じゃ俺らは全員アリみたいなもんだ。アリがどんなに集まっても所詮はアリ。戦車には勝てねぇよ」
「だったら、あなたも説得して……」
「俺のクラスの連中になら言ってやったが、他クラスのことまで面倒見れるかよ。こっちもこっちで特攻しようとするアルベルトや石崎を宥めてたんだ。クラスのリーダーとやらを自称するなら兵士の手網を握っとけ」
吐き捨てるように龍園くんは言うと、その場から立ち上がる。
「せめてお前が色仕掛けでも何でもして斉木を体育祭に出場させないとでも言えば、話に乗ってやったが……そんな発想も覚悟もないようじゃお前にはAクラスは無理だ」
上から見下ろすように告げられた事実に、私は言葉を失う。
「そんなこと私がさせませんよ。せっかくの楠雄くんとの体育祭をぶち壊されては困ります」
「クク、たしかにな。斉木を見世物にしてくれる礼だ。お前の分の料金は出してやろうか?」
「いりませんよ。あとそんなこと言ってたらまたアイアンクローって言って襲いかかってきますよ」
「やめろ思い出させんな……って、おい、何笑ってやがる綾小路」
「いや、お前と高円寺がいいように斉木にやられていたのを思い出すとつい、な」
私の知らない話ばかりが飛んできて、さらには口元を押さえて笑っている綾小路くんに驚いている私に龍園くんは持ってきたカバンを持つ。
「じゃあな鈴音。せいぜいお飾りのリーダーをやってろよ」
「待って……あなたは私にAクラスは無理だと言ったけど、あなたはなれるというの……?」
「……さぁ、どうだろうな。ただ、去年に比べりゃ道はハッキリしてるぜ」
そう言って不敵な笑みを浮かべると龍園くんは部屋を出ていく。
「話自体は悪くなかったし、龍園の言うようなことをしろとも言わないが、やはり決め手には欠けるのは事実だ。だが、俺たちのクラスにも声をかけてくれたことは感謝する。じゃあ健闘を祈っている」
葛城くんも頭を下げて坂柳さんと共に部屋をあとにする。
そして残された私は綾小路くんへと問いかける。
「……私は何を間違えたのかしら」
「お前は間違ってはいなかった。ただ行動に移すのが遅かった点は事実だな」
様子見は悪いことじゃないが、他の奴らが早すぎたと綾小路くんは組んでいた腕を解く。
「クラスの勝利のために協力してやりたい気持ちはあるにはあるが、あいつと戦える機会を逃したくない」
「……男子ってみんな馬鹿なのかしら。勝算があるというふうには見えないけれど」
「多分、お前の兄貴でもオレや高円寺と同じことをしたはずだ」
「それは……そうかもしれないわね」
兄さんは斉木くんのことを凄く可愛がる……ううん、評価していたように思う。
もし真剣勝負する機会があれば喜んで勝負を挑んでいただろう。
「あいつにはどこか……勝負をしたくなる気を起こさせる」
綾小路くんはそう言うと、グラスを傾けて残りのジュースを飲み干して立ち上がる。
「オレは帰るが、どうする?」
「……ごめんなさい。少し1人で考えるわ。部屋代は払っておくから、先に帰ってて」
何とか言葉を絞り出して言うと、綾小路くんは律儀に部屋代の半分を送ってから帰っていった。
1人になると私はため息をつく。
このままでは、私はAクラスに上がれない。
「それどころか、Dクラスに落ちる可能性だって……」
まだ体育祭は始まってもいないのに、もう負けてしまうことを考えてしまっている自分が情けない。
「勝ちたいのに、どうしたらいいのか全く分からない……」
Aクラスへ上がるチャンスは必ず訪れるはず。
けれど、斉木くんだけではなく、Aクラスのあの絆というものをどうにかしないと私たちに勝ち目はない。
どうすればいいか、私は必死に考える。けれど、時間は経てども考えは浮かんで来ない。
ただ無意味に時間だけが過ぎていき、私は体育祭を迎えることになった。
綾小路と龍園がひより呼びをやめてない(やめさせられてない)のはひよりがまだ自覚前だからです
あることを自覚したらやめるように言ってきます
いつになるのやら
堀北さんは成長フラグのほとんどをくーちゃんにへし折られてジムバッジ2個とかなので、須藤もたまに言うことを聞いてくれない感じになっています。
あと今回の同盟が仮に成立したとしても、堀北クラスの主力のほとんどはくーちゃんに何かと恩や興味があるので堀北に懐疑心を持つきっかけになりかねなかったので、同盟を拒否される方が今後の堀北さんのためになりました。
くーちゃんが坂柳をお姫様抱っこして縄跳び参加を認めたのは建前は白石さんからお願いされた(1年時の1度だけ可能な範囲で言うことを聞く権利)のでですが、それが無くても渋々手を貸すつもりではありました。
坂柳さんは見る分には体育祭を楽しめますが、出るとなると楽しくはないですからね。
お姫様抱っこはしたことあるし、少しでもいい思い出とやらができればと『やれやれ』言いながら手を貸したって感じです。
まぁ両親来ることは知らないんですけどね!!
こんなもんかな。
次回から体育祭開幕……のはず!
追記
大縄跳び参加した理由
綾小路▶︎声をかけられたから+楽しそう
橋本▶︎坂柳とくーちゃんが組むと知って
龍園▶︎声をかけられたから+メンツ的に勝ちそうだから
高円寺▶︎くーちゃんいるから
坂柳▶︎くーちゃんに抱き抱えてもらって跳べば競技も勝てて一石二鳥ではと考えたから
一之瀬▶︎トレーニング時にくーちゃんが坂柳と競技に出ると知って
櫛田▶︎上に同じ
椎名▶︎龍園から聞いた+楽しそうだから
姫野▶︎白石さんから頼まれてるくーちゃんを目撃して。個人競技だけじゃ勝つの難しいからという理由で入れてもらった
くーちゃん▶︎坂柳と白石に頼まれてという建前