柴田のキャラ崩壊がとことん止まらない!
週末も近づく木曜日の放課後、僕は柴田と共に図書室へとやってきた。
理由は単純で僕が柴田の勉強を見てやることになったからである。
「勉強するぞ、楠雄」
『……最高だぜ? シバータ?』
このセリフだけで「フュージョンするぞ、カカロット」というセリフのオマージュと気づけた僕をみんなは褒めて欲しい。
これまで柴田は一之瀬さんと神崎の主催する勉強会に参加しており、成果は退学となる平均点の半分以下よりも上であり、OAAの表示ではC+となっている。
しかし、難しいとされる次の試験ではやや心もとないのではと感じているらしい。
今まで通り、一之瀬さんや神崎に頼っていればいいのではと思っていたが、シバータの考えは違うらしい。
「神崎や一之瀬には悪いんだけどさ、あの2人、俺に付きっきりって訳じゃなくて全体を見なきゃいけないだろ? だから俺が分からないところが出た時にすぐに答えては貰えなくてさ」
それが柴田としてはタイムロスに感じるわけか。
なんでもかんでもドラゴンボールに絡めるわけではないんだなと改めて認識しつつ、僕もペアが決まって手持ち無沙汰ではあるし、たまにはいいかと了承する。
そして、集中できる場所として図書室を採用した。
図書室について室内に足を踏み入れると、椎名さんが彼女の指定席となりつつある席に座っており、僕と柴田の気配に気づいて顔をあげる。
「こんにちは、斉木くん。そちらの方は確か柴田くん、でしたね」
本の虫という言葉を体現する椎名さんは放課後になるとすぐにここに足を運んでいる。
そんな椎名さんに柴田は「オッス!」と明るい挨拶をする。
『今日は柴田の勉強を見るから邪魔にならないようにしておく』
僕がそう言うと椎名さんは瞬きを数度した。
「(斉木くんが勉強を見る……ですか。それは少し面白そうですね)あの、私もお邪魔でなければ近くで見させて貰ってもいいですか?」
「椎名も? でも、椎名って学力Aなんじゃ……」
「はい。けれど、斉木くんがどんな風に勉強を教えるのか興味があります」
私、気になりますと好奇心の怪物のような笑顔を浮かべる椎名さんを見て、柴田は納得すると僕へと振り向く。
「(龍園のクラスの生徒だけど楠雄と仲良さそうだし)俺は構わないぜ」
親指を立ててグッドサインを作る柴田と僕の返答が気になる椎名さんの目がこちらを向く。
本来ならお互い競い合うクラスであるため、そういったことは控えるべきなのだろうが……まぁ僕には関係ないか。
『わかった』
「ありがとうございます(良かったです)」
了承すると椎名さんは嬉しそうに笑う。
椎名さんも参加するならと僕と柴田は彼女の前の席に腰を下ろした。
「まずは何からやる?」
柴田の勉強なんだから好きにしていいぞと伝えると、柴田は苦手な数学からとノートを出す。
「タブレットになっちまったから持ち運びは楽だけど液晶ってのはどうにも慣れないよなぁ」
「分かります。私もできることなら紙のままが良かったです」
柴田の呟きに同意するように椎名さんが言うと、「だよなー」とほぼ初対面に関わらず会話が成立している2人に感心する。
椎名さんは自分から話すタイプではないが、共通の話題や興味のある事柄であれば問題なく話せるし、柴田はそもそものコミュ力が高い。
ほぼ初対面であるはずだが、思いのほか話せるようでよかった。
「で、この問題なんだけどさ。なんでこの答えになるんだ?」
見せてきた柴田に、僕は問題文と柴田の回答を見てから、解説を考える。
柴田の疑問はどうしたらこの答えになるかであるが、それを教えても柴田が次、これと似たような問題に正解できるとは限らない。
まずはこの答えを導くまでの過程を柴田が理解しているかだ。
基礎計算はできているし、あとはその応用だけなのでそれさえ覚えてしまえば完璧だ。
僕は柴田のノートに柴田が理解しやすいように書いていく。
そんな僕の説明を柴田は黙って聞いており、理解はできたようだ。
「つまりこの部分に公式を使えばいいのか」
『そうだ』
理解して貰えたのならと、似たような問題を解かせる。
すると、柴田はササッとその問題を解いて僕に見せてくる。
「こうか?」
『正解だ』
あとは類題を解いてもらって解き方を覚えてもらうだけだ。
類題を書き出してやっていると、柴田がふと呟いた。
「てか……わかりやすっ!? なんだお前ピッコロさんか!?」
呟いたってレベルじゃなかったし、あと僕はナメック星人じゃない。
「すげぇよこの解説ノート……これでノーベル賞取れるぜ……!」
取れるわけないだろ。
ノーベル賞舐めんな。
僕が呆れた顔で見ていると、椎名さんが柴田のノートに書いた解説を覗き込む。
「確かにこれは分かりやすいですね……(まるで柴田くんが分からないところを的確に突いた解説ですね)」
まあテレパシーで聞いたことを参考に書いたからな。
「というか、斉木くん字が綺麗ですねあ」
「言われてみればたしかに! 読みやすいぜ! 俺は究極の解説ノートを手に入れたのだー!」
浮かれすぎだろ。
あとそのセリフはピッコロだろ。
ピッコロは僕じゃないのか。
神崎と一之瀬さんはこんなのと毎回勉強会を……? と思っていたが、多分これ、僕がいるからだな。
あの2人はドラゴンボールネタを拾ってくれないから控えていたのだろう。
「騒がしいわね」
そんなこんなで勉強会を続けていると凛とした声が届く。
先に姿を見た椎名さんが「あら、珍しいお客さんです」と口にする。
視線を扉に向けると、そこには綾小路と堀北さんの姿があった。
静かなはずの図書室で大きな声が響いていたことに堀北さんは眉をひそめており、それを見た柴田はバツが悪そうに口を閉じた。
「今日は……柴田ほどじゃないが少し騒がしくするかもしれない。特別試験に関して1年生と話し合いをする」
綾小路が言うと、椎名さんは奥の端の席を勧めた。
理由は利用者にも迷惑にならないことと、誰かが近づいてきてもすぐに気づけるからだそうだ。
親切にそう教えてくれた椎名さんからのアドバイスを受け取った綾小路は改めて僕と柴田、そして椎名さんを見渡す。
「……にしても珍しい組み合わせだな」
僕と椎名さん、僕と柴田ならばともかくその3人が一緒となると普通は疑問に思うだろう。
綾小路の質問に椎名さんはクスッと微笑む。
「斉木くんが柴田くんに勉強を教えるというので興味を持って私も同席しているのです」
「なるほどな……」
椎名さんの説明に綾小路は納得したのか、先に行った堀北さんを追うように話を終える。
(ひよりのやつ、斉木の前ではああいう顔もするのか……)
どういう顔なんだろうか。
今はもう椎名さんの骨格しか見えないんだが。
何となく椎名さんのことを気にしている様子の綾小路は堀北さんがいる奥の端の席へと向かっていく。
「特別試験の話し合いかぁ……そういえば椎名はペア決まってるのか?」
「いえ、私はまだですね(龍園くんに待ったをかけられているので)」
「まあ椎名の学力なら引く手数多だろうしな」
僕の作った類題を解きながら柴田は椎名さんと雑談を交わす。
そうしていると、綾小路と堀北さんと話に来たのであろう七瀬が図書室にやって来る。
七瀬は僕の顔を見ると、こちらへ近づく。
「斉木先輩、綾小路先輩と堀北先輩の姿を見ていませんか?」
僕はその問いかけに奥の席を指さすと、七瀬も2人の姿が遠目から見えたようだ。
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げた七瀬が奥の席に移動すると、七瀬に気づいた堀北さんと綾小路が話を始める。
僕はそれをチラリと見てから柴田が解いている類題の解答を確認していく。
解いている問題は全部正解していた。
「より完璧になってしまったようだな……」
こいつ地頭は悪くないのか、理解力自体はあるからな。
難しいと感じてる問題や分からない問題全てを理解することは流石に出来ないだろうが、今から2週間コツコツ積み上げていけば80点くらいは取れるようになるだろう。
その後も柴田の勉強を見てやっていると、椎名さんが口を開いた。
「斉木くん、私も1つ解説をお願いしたい問題があるのですがいいですか?」
そう言ってノートを僕に見せてくる。
今は柴田は演習をさせているので問題ないし、僕はそれに首肯する。
問題は英語で、長文の英語問題だった。
問題文に書かれている英文はかなり難易度の高いもので、僕が見た限りでは大学受験レベルに近いものだった。
そんなものを高校2年生のこの時期に出題されるとは思えないが、今回のテストは難しいと言っていたため、出る可能性がないとは言いきれない。
英語の解説か。
単語を現代語訳していけば簡単に済むという問題ではなく、イディオムと呼ばれる複数の単語を組み合わせることで、個々の単語からは推測できない特別な意味や慣用的なニュアンスを表す引っ掛けの要素も入っている。
とりあえず一つ一つ紐解いて説明してやるが、こればかりは使われるイディオムを覚えていくしかない。
「流石ですね、解説を読まないと分からなかった問題をあっさりと……(疑っていたわけではありませんが、斉木くんの学力A+は事実のようですね)」
英語は単語と文法、慣用句を覚えればそう難しくは無い。
覚えるのが大変と言われれば、理科や社会なんて記憶力の教科だし、数学も公式や定理の暗記が大事だからどっこいだろう。
「楠雄、終わったぜ!」
柴田の勉強に戻ろうと思っていると、柴田が類題を終わらせていた。
これで数学については問題ないだろう。
今度は応用問題が載っている問題集を見ながら勉強をしていると、しばらくして綾小路と堀北さん、七瀬がこちらに近づいてくる。
話し合いが終わったから帰るという訳ではなく、要件があるのは僕だ。
「斉木、少しいいか?」
綾小路がそう聞いてくると、僕は仕方なく席から立ち上がる。
『柴田、悪いが続きは明日だ。また分からない問題や気になることがあればまとめておいてくれ』
「任せろ!」
分からなかった問題が解けるようになって自信がついたのか柴田は胸を張って言う。
そして、僕は3人が座っていた奥の席に連れて来られる。
話の概要自体はテレパシーで聞いていたが、一応は聞いておこうとどうして連れて来られたのかを尋ねる。
「私のクラス、1年Dクラスの生徒の多くは宝泉くんの指示に従って動いています。パートナーを組む条件として一定以上のプライベートポイントを2年生が払うのなら受けていいと。それ以外は何があっても契約するなと」
「そこで私がポイントを払っての契約ではなく、学力に不安のある生徒をカバーし合う形での、対等な協力関係を提案したの」
「だが、宝泉がまた面倒な条件を出してきた」
それのどこに僕が関係あるのかと言いたいどころだが……まぁ僕が宝泉に膝カックンを喰らわせたからか。
宝泉の敷いた個人主義によって上位層に位置する生徒たちは宝泉を恐れつつも自分を高く売り込めるためある程度の自由が利くが、学力の低い生徒はそうでもない。
だが、宝泉に反旗を翻したくても売り込む能力がない生徒は黙って宝泉の指示に従うしかない。
そんな彼らに一筋の希望の光が射し込んだ。
「はい。斉木先輩、貴方が宝泉くんを倒してしまったからです」
倒したつもりはないんだがな……確かに膝をつかせはしたが。
「宝泉くんは新たに契約してもいい条件に斉木先輩と、2年Dクラスの代表者として堀北先輩と綾小路先輩、須藤先輩の全員をある場所まで連れてくること。そうすれば残った1年Dクラスの生徒38人と2年Dクラスの生徒でペアを成立させてもいいと言っていました」
「膝カックンで落ちたのがそんなに嫌だったのか、宝泉は」
「そうみたいです」
綾小路の言葉に否定することなく七瀬は認めると、堀北さんがそういうわけだからと顔を向けてくる。
「協力して欲しい、と言いたいけれど」
「十中八九、宝泉くんは斉木先輩にリベンジするつもりです」
一応は当初の予定通り、学力の高い生徒はプライベートポイントでの自身の売り込みを許可しているらしく、今回の契約条件は学力の低い生徒向けに提示されたものらしい。
1人が成功させれば、1年Dクラスで自力でのパートナー成立が難しい15人が堀北さんたちとパートナーを組んでもいいことになる。
この話は当然、聞く前から知っていたので何の驚きもないが、ただただ僕が面倒事に巻き込まれたという話になる。
「でもその契約条件はいつ出たの? 私と綾小路くん、それに須藤くんのところには七瀬さんのクラスメイトは来なかったけれど」
「宝泉くんが2年Dクラスの3人は簡単に釣れるから斉木先輩との約束を先に取り付けて来いと言っていました。なので、先に斉木先輩のところに行ったんだと思います」
来ていませんか? という視線を受けた僕は首を横に振った。
なぜならテレパシーで先に察知して休み時間が終わるギリギリまで隠れていたからな。
僕を連れて来られなければ宝泉から暴行を受けるということであれば即時に対応したが、そうでも無さそうだった。
宝泉の目的は綾小路の退学と僕とのリベンジ。
そのどちらかを果たせるようにクラスメイトを使ってうまく立ち回らせている。
とりあえず事情を把握したフリは終わってもいいだろう。
「ポイントを取るか、斉木くんに頼るか。今のところ私たちに迫られている選択肢はこの2つ。どちらも私たちとしては取りたくはない。今回、斉木くんに話したのは無関係な立場にいないからよ」
堀北さんらしい考え方だな。
協力して欲しいというのは僕を慕っている1年生の説得の方らしいが、結局勝手にペアを組んだら宝泉にシバかれるか。
結局のところ1年Dクラスの生徒は今後、宝泉によって生活や精神に支障をきたしかねない。
「現状、1年Dクラスと組むには大きな壁が2つあるわね。宝泉くんを説き伏せることと、ポイントを欲しがる優等生を説得しなければならないこと。後者はどのクラスでも言えることかもしれないけど……」
そう言いつつ堀北さんは僕のことを見てくる。
「斉木くんがペアを組んだ生徒からポイントの徴収や逆にあなたに払ってペアになりたいという打診はあったのかしら」
『どちらもない』
即答すると堀北さんは「そう」とどこか安心したように呟く。
僕ならポイントを無心したり、逆にポイントを渡してまで契約するようなことはしないと確認したかったのだろうか。
「とりあえず、斉木くんには被害が出ないようにするわ。あなたに関する話はここまでよ。もし1年Dクラスの生徒から接触があっても断ってくれて構わないから。時間を取らせて悪かったわね」
堀北さんが言うと、綾小路と七瀬も小さく頭を下げてくる。
まぁ僕としては、何事もなく終わってくれればそれでいいため、関わらなくていいと言うのならそうさせてもらうだけだ。
僕は戻ると柴田は既に帰っており、椎名さんが1人で読書をしていた。
邪魔するのも悪いと思って声をかけずに置きっぱなしにしていた荷物を片付けていると椎名さんと目が合う。
(斉木くんも戻ってきたので、そろそろ帰りましょうか)
椎名さんは栞を挟んでパタンと本を閉じると帰り支度を始める。
結局、2人で図書室を出ることになった。
「何のお話だったか聞いてもいいですか?」
『不良には気をつけろという話だったな』
ざっくりと答えると椎名さんは顎に人差し指を当てた。
「確かに斉木くんの周りには龍園くんや橋本くん、あとは高円寺くんでしたか。あまり噂の良くない生徒が集まってますからこの学校の番長だと思われているのかもしれませんね」
こんなヒョロくて地味な番長で学校がまとまると思ってるやついる? いないよなぁ。
あと、やはりというか当然というか、アイツらのせいで変な被害を被ってないか?
……まずいなこのままだと平穏な生活を送る学園モノのはずが、すでに流行りから外れている弱そうな主人公が格上の不良やヤクザ達……この学校だと政府関係者か?
とにかく格上を倒していく下克上モノになってしまう!
なんとかしなければ……!
僕は心にそう誓って帰る前に勉強を教えてくれたお礼だと言われ椎名さんとコンビニスイーツを食べて帰った。
綾小路「……そういえば、生徒会活動の方はどうなんだ?」
堀北「本当に適当に思いついたかのような話の振り方ね。……そうね、今のところは問題ないわね」
綾小路「一之瀬や葛城とは上手くやれてるのか?」
堀北「あなたは私の母親か何かなのかしら……、上手くやれているかは分からないけれど、クラスのリーダー同士ということもあって情報交換できる相手がいるのはありがたい事だわ」
綾小路「そうか、良かったじゃないか」
堀北「ええ。斉木くんからの誘いに乗って良かったわ」
綾小路(堀北を生徒会に勧誘したのが斉木? ……堀北兄か南雲にでも頼まれたのか? それなら一之瀬や葛城という人選にも納得がいくな)
綾小路「オレは声をかけられなくてよかった」
堀北「貴方は誘っても入らないでしょう。でも、あなたと斉木くんが死んだ目をしながら働いているのは少し面白いかもしれないわね」
綾小路「それは……フッ、確かにな」
堀北「……あなたが笑った顔、初めて見たかもしれないわ」
綾小路「…………面白いと思えば誰でも笑うだろ」
てことでゴタゴタに巻き込まれていく楠雄
一応この話の時点で綾小路は天沢と接触済だしトムヤムクン振舞ってます
時系列だと多分4/15がこの話になりますので、この翌日に天沢が綾小路と軽井沢が勉強しているところにナイフを盗みに来るわけですね
そこに綾小路が満点とっても怪しまれないように勉強を教えてもらったというアリバイ作りのために呼び出されていたがために居合わせてしまった男とは……?
1日1日やってたらキリがないのであと2話くらいで1巻分は終わらせますね
てことでまた次回!
楠雄『僕そんなにやれやれって言ってるか?』
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言ってる
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言ってない
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分からない