建前▶︎いらないと思ったけど前話で櫛田さん可哀想だったしw
本音▶︎櫛田さんがくーちゃんにどれくらい惚れてるかを分からせる目的で書きました
そのため甘々です
櫛田のクラス移動の話題も朝の1回で収まり、放課後を迎える。
帰り支度を済ませ、恵と共に教室を出る。
今日はオレの誕生日ということで恵の部屋でお祝いをされることになっているためこのまま寮へと戻る。
そうして何事もなく部屋の前まで行くと斉木の姿があった。
「あ、斉木くんだ」
「だな」
手には何かが入っているのであろう取っ手のついたダンボールを持った斉木がオレたちに気付くと空いた方の手を上げてくる。
『悪いな、これからお祝いデートという時に』
「いや……何か用、なんだよな」
じゃなければ斉木がここにいるというのはかなり珍しいことになってしまう。
オレの確認に斉木は頷くと手に持っていた手提げの付いたダンボールを渡してくる。
『ご飯以外も炊ける炊飯器だ。誕生日おめでとう』
「ありがとう。今年もいいのか?」
『気にするな。僕が勝手にやっていることだ』
プレゼントを受け取ったオレは素直に礼を言うと受け取った炊飯器を見る。
ダンボールに書かれた説明にはご飯以外にも煮込み料理やパン、ケーキが作れるというものらしく、オレがこの前恵とケヤキモールの家電量販店で見て気になっていたものだった。
値段が少し張るため自分で買うのや、恵に買ってもらうのは躊躇うものだったためスルーしていたが、まさか斉木から貰えるとは。
これが高いものであることは恵もわかったのか、斉木に問いかける。
「すご、これ高かったんじゃないの?」
『構わない。先行投資みたいなものだ』
「先行投資?」
無人島試験1位で宝探しゲームも最高額を見つけて体育祭でMVPにもなっている斉木には大したことは無いのだろうが、先行投資というのはどういうことだろうか。
『またこれでケーキやら作ってくれると僕も得ができるからな』
「なるほどな。そういうことならまた作ったら持っていこう」
「何それ!? 私聞いてないんだけど!」
以前にコーヒーゼリーを作ってみたが思いのほか気に入ったみたいだしな。
もしかするとオレにはパティシエの才能があるのかもしれない。
「そうだ。去年祝ってもらったから今年はオレからも祝いたい。斉木の誕生日を教えてくれないか?」
『それは秘密だ』
祝いはしても祝わせてはくれない斉木は用は済んだとばかりに恵に『邪魔したな』と言って、エレベーターは使わずに階段の方へと向かっていく。
「……斉木くんって変わってるし、なんか近づき難いイメージがあるけど、気を許した人には結構優しい感じ?」
恵は斉木と普段の学校生活での関わりはなく、特別試験で同じグループになったりすることもないから、奇行や成績の方が先行して本来のあいつのイメージを掴めていないらしい。
変人で近づき難い雰囲気があるのは確かだが、気を許さずともあいつは優しい人間だ。
それに知識も豊富で意外とノリもいい。
龍園と仲が悪いのかと思えば、2人でオレに変な知識を植え付けようとしてきたりもする。
「櫛田さんが惚れたのってどんなところなんだろ。登校中に一緒にいるのは見たことあるけど学校の中で話してるのはあんまり見た事ないなぁ。清隆は?」
「オレもないな」
しかしあの2人は去年の体育祭前から親交はあったはずだ。
船内試験で同じグループだったし、それがきっかけで話すようになったのかもしれないし、オレと同じく櫛田の裏の顔を目撃してしまって関わるようになったのかもしれない。
なんにせよ2人にしか分からないことを考えても仕方がない。
「早速これで何か作ってみるか」
「うん! 何作る!?」
「冷蔵庫の材料と相談してみてからだな」
出来るならご飯以外がいいなとオレは早く開けて説明書を読みたいという衝動に駆られていた。
去年といい、今年といい斉木のチョイスはオレを楽しませてくれる。
誕生日は分からないが、お返しはいくらでもできる。
……うん、恵には悪いかもしれないが、やっぱりこの炊飯器で初めて作る料理は斉木にやりたいから今日使うのは寮に据え置きの炊飯器にさせてもらおう。
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朝からくだらない話で気分を害された私はホームルームが終わってからの僅かな時間で斉木にメッセージを送った。
昼休みか放課後に話せないかと尋ねたら、1時間目が終わってから少しでいいなら昼休み、時間がかかるなら放課後という返信が来た。
私は放課後がいいと返すと、野暮用があるからそれが終わってからまた連絡すると返事が来る。
まるで放課後デートの約束をしているみたいだなと思いつつ、私は1日の授業を終えると私は寮へと向かった。
1度部屋に戻って髪を直して、制服の埃とかシワも取って、できることをしつつ斉木からの連絡を待った。
そして、15分くらいしてからメッセージが来た。
【斉木楠雄:何の話だ?】
メッセージでやらないよ、馬鹿じゃないのと思わず出てしまった言葉をそのまま打とうかと悩んですぐに消して直接話したいんだけどいいかなと送る。
どうせ斉木のことだからめんどくさいと思いながら、どうするか考えてくれてるのだろう。
私はすかさず【部屋行っていい?】と聞くと2分くらいして【わかった】と返事が来たのですぐに部屋を出た。
エレベーターでは誰かと鉢合わせするかもしれないけど、この時間は上に上がる生徒はいても降りる生徒は多くないため私はエレベーターで斉木のフロアに向かう。
そして、告白して以来となる斉木の部屋の前に立つと私は大きく深呼吸をする。
「すーっ、はーっ、すー……っ」
大丈夫大丈夫……今日も私は可愛いしいつも通り……でも無意識にハグとかハイタッチとかはもうしちゃダメ……あれでバレるとか思わなかったな……本当に恥ずかしい。
思い出したらまたベッドの上で転がって叫びたくなるくらいには恥ずかしい。
『入らないのか?』
「ぎょわぁっ!?」
なかなか来ない私を気にしてドアスコープから外を見たら私がいたから声をかけたのであろう斉木の言葉に私は声を裏返らせて叫ぶ。
「お、脅かさないでよ!」
言うと斉木は僕が悪いのか? という目で私を見てくる。
悪いでしょ、急に声掛けてきたんだから。
「入るからどいて」
部屋の主に言うべき言葉ではないけど、朝から余裕がない状態の続いている私はそう言って斉木を押し退けるように中に入る。
部屋に入ると斉木が何か飲むかと聞いてきて、いつもなら紅茶だと言うのに私は緊張が解けなくて何も答えられない。
『コーヒーでいいか?』
「あ……うん……」
ミルクと砂糖を入れて持ってきてくれたコーヒーを受け取りながらも私の頭の中はこの後のことでいっぱいだった。
だけど、そんな風にそわそわしている私を怪訝な目で見たりすることはなく斉木はマグカップ片手に勉強机前の椅子に座る。
『で、何の話だ?』
「え? えっと……」
さっきまでは緊張と恥ずかしさと余裕の無さで心臓バクバクだったのに、今は無表情ながらも私を気遣ってくれてるような声音で尋ねてくる斉木しか見えない。
しかし、話すことは話さないと気を取り直して朝にあったことをいつもの調子で愚痴るように話すことにする。
クラス移動をするのかか聞かれたこと、体育祭で斉木と組んだこと、須藤くんと小野寺さんのペアを倒してしまったことを責められたこと。
「篠原のやつなんもしてないくせに文句だけ言ってさ。私は斉木と2競技出たけどクラスの得点には貢献したし、あんなクラスのみんなの前で非難される筋合いはないでしょ」
『人間そんなもんだろ』
「それは……そうなんだろうけどさ」
淡々と言う斉木に、私は何も言えなかった。
篠原に文句を言われている時に過ぎったのは、斉木も私が篠原に言われたようなことを言われてきたんじゃないかなという想像。
「あのさ、斉木って実力を隠してたのって昔なにかあったりしたの?」
『薮からスティックだな』
「私の話ばっかりで斉木の話聞いたこと無かったから、知りたくなって」
斉木の頭の良さとか身体能力は努力してどうこうみたいなものじゃなくて生まれ持ったものなんじゃないかと思う。
聞けば兄さんもケンブリッジ大学に飛び級で合格したって聞くし、そういう家系なのかもしれない。
『別に大したことは無い。至って普通の学生だ、僕は』
どこが? と思うが何とも斉木らしい回答に私は思わず笑ってしまう。
「斉木のことが羨ましいよ」
なんでもできて、なんにでもなれる。
みんなから注目されて褒めそやされる。
私のなりたい理想の姿。
けれど、斉木はむしろそれが嫌で、なんでもできるから注目されて目立って、妬まれて叩かれるのが嫌で本当の自分を隠してしまう。
だから斉木から見れば私とかの方が羨ましく見えるのかもしれない。
「ごめんね、変な話ばっかで……って今更か」
『今更だな』
そう言って斉木が肩を竦めるのを見て私も笑う。
そして私はもう1つの本題を切り出す。
「そういえば今日綾小路くんと龍園くんの誕生日だけど、あんたの誕生日っていつなの?」
『ひ、み、ち、ゅ』
「……は?」
茶目っ気のある言い方ながらもいつもの平坦な口調で拒否られて私は真顔で聞き返す。
その反応に対して、斉木は一言だけ喋る。
『謎多き男みたいだからな僕は』
「いやいや、なんのキャラ設定」
それはみんなが斉木のこと知らないだけでしょ。
いや、知ってるんだけど表面的な変人でオールA+ってことしか知らない。
「教えたくないっていうならこっちで調べるけど……」
お兄さんに聞けば分かりそうだし、答えてくれなくても、文化祭もあるからその時に来るであろう斉木のお母さんに聞けば済むだろうと考えていると斉木が言う。
『8月16日だ』
「は?」
あっさりと暴露したことに私は呆けるがすぐに先程までの対応は何だったのかと疑問になる。
「って、とっくに過ぎてるじゃん! なんで言わないの!」
『聞かれなかったからな』
「聞いたよね!?」
メッセージアプリのステータスに表記できるはずの誕生日を隠していたから、なんで隠しているのかとか、いつなのかと聞いたことがあったけどその時もはぐらかされてしまって知れず終いだった。
『君の誕生日祝いをしてないのに僕だけ祝ってもらうのは変だろ』
「そんなことないって、誕生日っての気持ちでしょ気持ち。見返りとか求めてないし。私が祝いたい相手の誕生日を勝手に祝いたいだけ」
ムッとしながら言うと斉木は『やれやれ』と肩を竦める。
「……てか、もしかして家族以外であんたの誕生日知ってるのって私だけ?」
『まぁそうだな』
帆波ちゃんやクラスのみんなも知らない斉木の秘密を、私だけが知っている。
それは私にとっては至福であり、特別な何かを得たような心地だった。
けど、今回のはなんだか違う。
私は顔を赤らめて下を向いて、緩んでしまう頬を両手で押さえてしまう。
やばい。
無性に甘えたい。
「今日はなんにもしないって決めたのに……あんたのせいだかんね」
立ち上がった私に斉木は『また、薮からスティックだな』と言って身を引く。
「私にもお姫様抱っこしなさいよ」
『…………?』
「し、な、さ、い、よ!」
恥ずかしいんだから言わせないでよと怒ると斉木は意味がわからないという目で私を見上げてくる。
『無闇矢鱈にしちゃいけないってお母さんが』
「無闇矢鱈じゃないからいいわよ、ほら、さっさとして」
じゃないと泣く。
恥ずかしいし、聞いたら帆波ちゃんもしてもらったって言ってたし。
有栖ちゃんもしてもらってて、してもらってないの私だけだ。
なんか椎名さんも借り物競争か何かで連れていかれたって聞いたし。
『ハグしただろ、あとハイタッチ』
「帆波ちゃんともしてたでしょ!」
『……見てたのか?』
見てなくても耳に入ってくるものなの。
学校最強の話題なんてすぐに入ってくる。
あれだけお姫様抱っこしておいて付き合ってないからホモかEDなんじゃないかと言われてたり、人間には興奮できない異常性癖の持ち主だとか色々言われている。
「あんたそのうち屋根裏部屋のゴミとか言われるわよ」
『部屋が余計だな』
斉木は胡乱な目で私を見てくるが、私の覚悟は固い。
「私だけ仲間外れは嫌だし、2人がしてもらえたのに出来ないのは悔しい」
『意味が分からないな』
「あの2人には告られてないんでしょ? それなのにお姫様抱っこするのって不誠実じゃない?」
『……大丈夫か? 頭』
わからず屋の斉木はこれ以上何を言ってもしてくれなさそうなので、私は作戦を変更する。
「じゃあ私だけして貰えなかったってお義母さんに」
『しますしますさせて下さい』
学校最強と呼ばれる斉木にも弱点はある。
それを利用してして欲しいことをしてもらうというのは良くないことだけど、それでも今の私は我慢ができなかった。
背伸びをした私を斉木は難なく持ち上げると、思ったよりも高い視線になって私のドキドキは加速する。
こうして、そのまま……と思った時に斉木は歩き出すと玄関の扉を開いて私を外に出す。
『元気になったなら良かった。じゃあな』
そう言って扉を閉めた斉木に私はまたミスったかなぁとため息をついた。
普通に考えれば男女2人きりの空間で今みたいに勢いで何かしようとするのは確かに危険か。
「……わかったわよ。じゃあね」
ちょっと不服ではあるものの、私はその場を後にする。
普段よりおちゃらけた発言が多かったり、お姫様抱っこを渋々やってくれたのは私を元気づけるためだったと思えば私は嬉しくて嬉しくて、自然と笑ってしまう。
初恋は実らない、それに学生の間なら尚更。
そうは知りつつも私は歩いた道を振り返る。
「ほんと、変なの好きになっちゃったな」
そういえばクラスのみんなに斉木が好きって言ったこと言うの忘れてたけど、まぁいいか。
外堀が埋まっていけばもしかしたら……なんてね。
次回からはちゃんと文化祭編に入ります
くーちゃんの誕生日開示イベをやっておきたかったのと櫛田さんのカウセリングしておきたかったので
そしたらなんかイチャイチャになってた
急な気温の変化で頭おかしくなっちまったのかな
ママの言いつけを守るために身を粉にするくーちゃん
健気だ
月曜日は夕方か投稿しないかの2択となります
ではでは