高度育成高等学校初となる文化祭は大盛況の中、予定通り午後4時に終わりを迎えた。
事前の説明通りに会計アプリは強制的にシャットアウトされて、以降売上を計上することが出来なくなる。
文化祭の売上が集計され、順位が確定し、結果発表がされるのは2時間後の午後6時となる。
文化祭が終わったとはいえ、完全閉店を終える最後まで当たり前の対応が求められることに変わりはない。
閉店のため、最後まで残ってくれていた客たちは席を立ち始め、来賓たちはメイド喫茶への感想を思い思いに生徒たちに伝え帰っていく。
1番人気だった茶柱先生の姿は既になく、彼女は午後4時になった途端に脱兎のごとく教室から逃げ出していった。
あの格好で走り回るとそれなりに目立つとは思うが、女装男子も似たようなことをしているため杞憂かもしれない。
全ての客が帰り、クラスメイトたち全員がメイド喫茶に集合したのは5時半を迎える頃になった。
「高円寺くんは?」
「斉木くんとAクラスにいるって柴田くんが言ってたよ」
唯一この場に来ていない高円寺に関して、堀北が行方を知っている人はいないかと尋ねると、 平田が苦笑しながら言う。
平田の答えに堀北は呆れるように頭を押さえた。
「本当に彼、斉木くんのこと好きなのね」
無人島試験までなら友人として、親友としてという意味で捉えられたが、女装姿を解禁した斉木相手だと違う意味にも聞こえてくる。
高円寺のことだから流石にアッチ側に行くことはないだろうが。
堀北が代表して労いの言葉をかけつつ、統括を行う。
午後6時になる前には片付けは全て終了し、あとは結果発表を待つのみとなった。
そして文化祭の結果が発表されると、堀北は携帯の画面を見つめて驚きを顕にした。
「まさか2年生だけで上位を独占することになるとはね……」
堀北の言うように1位から4位は2年生の4クラスが総ナメしており、1位はオレたちDクラス、2位は栗子のいた一之瀬クラス、3位に龍園クラス、4位に坂柳、葛城クラスと続いた。
「すっげ、なんだこの結果……」
「栗子のインパクト凄かったもんな……いや来賓の人たちは元々の斉木の姿知らないはずなのにな」
「あれはどう見ても女にしか見えなかった」
「Bクラスも葛城くんがなんだかんだ動いてたみたいだね」
男子たちの話題はみんな栗子に注がれており、本命がいるはずの池と須藤ですら最初に口にしたのは栗子の話な辺り、オレや高円寺がおかしくなかったことが証明される。
女子たちは茶柱先生のコスプレのことや、龍園と坂柳・葛城クラスが3位、4位になっていることに驚くことなく受け入れている。
「綾小路くん」
「万事計画通り……とはいかなかったな」
「そうね」
堀北クラスが上位を取ることは大前提として、龍園のクラスも上位に食い込むことは堀北と龍園の間で取り決めがあったと言う。
しかし、堀北の想定ではAとBクラスを出し抜いてどちらかを4位未満にする想定だったはず。
だが、男女逆転喫茶という奇抜な発想ながらも栗子と一之瀬をメインに据えたことによる収入を得ていたAクラスと、全容は分からないながらも葛城の緻密かつ安定した出し物と坂柳の知略を合わせたことによって4位に入っている。
「流石は現、元Aクラス同士ということかしらね」
「そうだな」
堀北は知る由もないが、上位4位を2年生で独占するという計画は文化祭の準備が本格化してきた時、龍園と坂柳から提案があった。
堀北が知らないのはその時Dクラスの代表として集められたのが櫛田であったためだ。
Aクラスからは一之瀬と斉木、Bクラスからは葛城と坂柳、Cクラスからは龍園とひより、そしてDクラスからはオレと櫛田がその話し合いに参加した。
場所はいつも通りカラオケルームで8人ということもあり、大部屋を使用しての話し合いとなった。
「坂柳から大凡のことを聞いたが、どういうつもりだ龍園」
全員が集まり、飲み物が揃ったところで口を開いたのは葛城だった。
坂柳も龍園もクラス同士仲良くやろうというタイプでは無いため、今回の話を持ってきたことは葛城にとっては不吉の前兆のように思えたのだろう。
「どういうつもりもねぇよ。無人島試験の時と同じだ。上位4位だけがクラスポイントをプラス100得る権利があるのなら、2年だけで独占した方が都合がいい。違うか?」
「それはわかるが、お前がクラス闘争を捨てたことに疑問が生じている。これが一之瀬や櫛田の提案であったのなら俺も疑いはしない」
「誰がクラス闘争を捨てたって言った? 学年だけでやる行事や試験ならこんな提案はしない。今回は他学年も絡んでいる。後々のことも考えれば2年だけで上位を取る方が建設的だろうが」
そうだろと坂柳に視線を向けると坂柳は斉木に擦り寄っていて話を聞いていない。
それに舌打ちした龍園は一之瀬へと目線を向ける。
「オイ、一之瀬、なんでクソメガネを連れてきた。1人連れてきていいとは言ったがそいつはリーダー格じゃねぇだろ。しかもこういう話し合いには向かない存在だ。神崎はどうした」
確かにこういった話し合いにはいつもは神崎を連れて来ているイメージがあったが、今回は斉木を連れてきている。
どういう意図があるのかと気になるのはオレも同じだ。
「いやぁ神崎くんは文化祭の指揮で忙しいから……」
そう目を逸らしながらちょんちょんと自分の指先を突き合わせる一之瀬の反応は、神崎の多忙さ故の理由ではないとバレバレだった。
完全に一之瀬の私的な理由なのは明白だった。
『邪魔なら失礼するが』
「あ、楠雄くん、ここのいちごパフェ新しくなってるよ」
『まぁそれを食べてからでも遅くないな』
「一之瀬テメェ、スイーツでそいつのこと釣りやがったな……」
「はは……お恥ずかしながら……」
それ以外で釣れる理由がないと苦笑いする一之瀬に櫛田とひよりも頷く。
「まぁ斉木くんだし……」
「帆波さんだけ1人で来るという訳にも行きませんし、人選としては妥当じゃありませんか?」
櫛田は呆れつつ、ひよりの方は神崎を気遣ったという一之瀬の建前を尊重した言い方をする。
斉木は話し合いには参加せず、ただパフェを食べに来たというだけで邪魔はしないというのなら問題ないんじゃないかとオレが口添えすると龍園は渋々といった様子で頷いた。
「まぁいい。それで? お前らはどうする?」
「上位を目指すのは当然だ。だが協力というのはどうする気だ?」
今回の文化祭では他クラスへの資金援助や原料の譲渡などは禁止されている。
例えばAクラスで紅茶の茶葉が切れたとして、CとDが余っているから渡すということは出来ないというわけだ。
「クラスの皆さんを焚き付けるような戦略が手っ取り早く効果的なんじゃないでしょうか」
「勝った方がプライベートポイントを受け取るとか、負けると退学しちゃうんですみたいな感じの?」
「対立の演出自体はオレも考えていたが4クラスとなると規模が大きくならないか?」
ひよりの提案に一之瀬が具体案を出すも、それだけでは4クラスが上位というのは難しいのではとオレが言ってみる。
「1位と2位はうちと鈴音のとこで取る。同じメイド喫茶だからな。3位と4位は一之瀬と葛城のとこで取れるように調整しろ」
「しろってお前な……本当にどういうつもりだ? 他の学年に営業妨害になるようなことでもする気か?」
「クク、バレなきゃそれもやっていいが、3年の連中の監視網は厄介だからな。純粋な勝負で勝ち取る。それなら誰も文句は言わねぇだろ?」
龍園にしては真っ当なことを言い始めたため、坂柳とひより以外は龍園を懐疑的な目で見つめる。
特に斉木は『転生したのか?』とよく分からないことを尋ねている。
「オレは転生したからって本気出すようなタイプじゃねぇよ。つか、この前も言ってたなそれ」
「楠雄くんに賛成するわけじゃないけど龍園くんにしてはまともというか、不確定な方法を取るんだね」
斉木の発言に鬱陶しいという顔をする龍園に、一之瀬も同調するように言う。
「オレらの学年は見た目のレベルはいいからな。3クラスでコンカフェやってもそれなりの収益は取れるだろ。Aの次はC、Cの次はDと回らせるようにするか、1つのクラスごとに客層を絞るかは応相談だが、コソコソとこすい真似するよりは確実性はあるはずだ」
「なるほどね。私はいいと思うよ。男女逆転喫茶もイロモノ感はあるけど、帆波ちゃんや柴田くんがいるならいい線いくかもしれないし」
「私のクラスも元々は1年生と協力して上位を狙う気でしたが、龍園くんからの提案を受けて趣向を変えることにしました。あなた方のクラスの宣伝をやりつつ、葛城くん主導で稼いでいこうと思っています」
龍園の要求の全貌に気付いている櫛田と坂柳は受け入れる方向のようだ。
2年生だけでクラスポイントを受け取れたとして総額400ポイント。
月々で評価されている素行の部分がマイナスされなければ1人当たり1万ポイントもの収入が追加され、それが4クラス分ともなればかなりの額になる。
「龍園、お前まさか」
「あくまで保険だ。南雲の真似事じゃねぇが、プライベートポイントはあるに越したことはないだろ」
勝つために有効な手段であれば、仲間を欺き、敵とも手を取り合う。
オレが思い描いていた龍園ならば取ることはないと思っていた選択肢に驚きつつも、龍園の視線の先にいるいちごパフェを幸せそうな顔で食べている斉木を見て大方のことは察することができる。
堀北ではなく櫛田なのは融通の利きやすさと察しの良さからだろう。
今の堀北には龍園の提案の全てを理解することは出来ない。
クラスを焚き付けるための策はCとDクラスのみで作成し、AとBもまた奇策を用いて上位を取ることを約束する。
まぁこの時にはAがまさか栗子を用意してくるとは思っても見なかったが、結果的には2年だけで上位を獲得するに至った。
オレはオレで1位を取るためにビラの準備や茶柱をメイドに仕立てるなどの策も用意していたが、4クラスで手を取り合う策がここまでハマるとは。
何も知らない堀北ではあったが、その実クラスのために全力を尽くし、櫛田の陰ながらのフォローもあってクラスのリーダーとして役目を全うできた。
本当は出し物のリークもするつもりだったが、勝った方がプライベートポイントを受け取るだったり、負けるとCクラスの誰かが退学になるという話だけで十分そうだったからな。
葛城や櫛田の言うように確実性のないプランも多々あったが、2年生のリーダー陣の知恵と熱意で乗り切ることができた。
カラオケルームでポツリと斉木の呟いた言葉の意味がなんとなくわかる気がした。
『目指すは努力友情勝利だな』
「俺らが少年ジャンプって柄かよ」
「ジャンプ、確か漫画雑誌というやつか。俺はあまり読んだことがないが、面白いのか?」
『百聞は一見にしかずだ。今度読みに来るか?』
「いいのか?」
『葛城さんなら喜んで歓迎するっすよ』
「弥彦の真似か? にしてはあまり似てないが……」
斉木ってどこか葛城に甘いような気がするのは気のせいだろうか。
それは女子たちも感じているのか一之瀬、櫛田、ひより、坂柳の4人で集まって小声で話している。
「楠雄くんって葛城くんに優しいよね」
「まぁ真面目で優しい人が日の目を見るようにしてあげたいって感じはあるよね」
「私も気になりますって言ったら行ってもいいんでしょうか?」
「楠雄くんのお部屋にお呼ばれするなんて……羨ましいですね」
オレは呼んでもらえないんだろうか。
4クラス同盟の話から斉木と龍園が葛城に合いそうな漫画を言い合い、女子とオレがソワソワしていたら龍園が「女はりぼんとかちゃおでも読んでろ」と煽ったところで龍園が揉みくちゃにされていた。
「……綾小路くん、聞いてる?」
「すまない。なんだ?」
「さっきの佐藤さんたちに話した件、本当に私の手柄にしてしまってよかったの?」
龍園クラスがうちの対抗馬として和装のコンセプトカフェをやったことや、敵対していることをアピールしたこと、茶柱をメイドに仕立て上げる計画は全て堀北が立案したものとした。
1位に貢献したのは紛れもなくオレのおかげだと堀北は言うが、堀北をリーダーとして成長させるためには必要な経験値だ。
「以前のあなただったら、今回の計画の仲間に私を入れなかったんじゃないの?」
まだ話していないことは多々あるが、堀北をリーダーに据えているのはオレなりの目的があるからだ。
しかし、まだ龍園や坂柳と渡り合うには少し早いというか、あの2人にまだ敵として見られていない節がある。
櫛田はリーダーや参謀よりは仲介役や他クラスの情報収集に充てた方がいい。
それは本人も分かっているのか、堀北がリーダーとして振る舞っている時はサポートに回っている。
ただ、櫛田の手には体育祭1位の報酬としてクラス移動チケットか200万プライベートポイントのどちらかの選択権が握られている。
仮に櫛田がクラス移動をしてこのDクラスから居なくなれば、Aクラスになるのはより一層困難になるだろう。
それほどに今の櫛田桔梗の持つ能力はこのクラスに必要な力だ。
今のところクラス移動をする気配はないが、櫛田の考えていることはわからない。
あいつは修学旅行が終わるまではクラスに残るとは言っていたが、ではその先は?
「堀北、櫛田とは最近どうなんだ?」
「また薮から棒……というわけでもないわね。櫛田さんのことは私も考えているわ。私に対してはいつも通りよ。最近はお菓子作りを教えているけれど、クラス移動するかどうかの話はしていないわね」
オレの質問の意図を理解してくれた堀北は端的に答えてくれる。
結局は櫛田の自由意志だが、Aクラスを本当に目指すのであれば櫛田は欠かせないピースになる。
堀北もそれは重々承知のはず。
「そうか。説得はしないのか?」
「クラスのリーダーとしてはするべきなんでしょうけど、友人としては応援したい気持ちもあるもの」
友人、か。
あの1匹狼を気取り、兄からは孤高と孤独を履き違えてると叱られていた堀北からは考えられないことだ。
「よかったな、友人ができて」
「嫌な言い方ね。まぁ初めての友人にしてはクセが強い気がするけど」
「お前が言うか? って……危ないな」
堀北もクセの強い性格をしているのにと言おうとしたら流石にコンパスは出て来なかったが足が出てきて踏まれそうになる。
穏やかになったように見えて手が出てしまうところは兄貴譲りなのかもしれない。
オレは自分の身内はあの男しか知らず、世間一般の家族というものがよく分からなかった。
松尾親子はオレのせいで悲惨な結末を迎えてしまって会えず終いであり、堀北兄妹も過去の因縁というやつから兄の卒業まで普通の兄妹とは程遠い関係だった。
そして、オレが目にした斉木家族は仲睦まじく、愛というものに溢れた関係性を保っていた。
オレもあの男の子としてではなく、斉木の母や父のような親に育てられていれば何か変わったのだろうか。
そんな考えても仕方の無いことはすぐさま振り払い、教室の外から見える夕焼け空を見た。
「そろそろ日も暮れるし、帰ろう」
「……そうね。今日は色々と疲れたわ」
学校としても、そしてオレとしても初めての文化祭はこうして終わりを告げた。
2年生の各クラスに100クラスポイントが加算され、差は縮まることもなければ離れることもないという結果に終わった。
これを吉と取るか、凶と取るかは今後のオレたちの行動や考え方次第となるだろう。
クラスポイントは計算してませんが無人島試験後のポイントにだいたい100前後加算していただければ
クラス変動なしです
相変わらず龍園、堀北クラスは厳しめです
くーちゃんの男子生徒の評価ですがなんだかんだで葛城がぶっちぎりにいいです
原作佐藤くんにはちょっと劣るけど
龍園、高円寺、橋本の斉木軍団(橋本がそう呼称した)は悪くないけど目立ってしょうがないと不満げ
その話をすれば龍園と橋本から「お前が言うな」と言われる模様
龍園はかなり丸くなっているというか、丸くならないとピンクの悪魔が飛んでくるので。
女子に揉みくちゃにされたのもくーちゃんが羽交い締めにして押さえたせい。
櫛田はリーダー向いてねーと思いつつもやれって言われたらみんなの櫛田桔梗としてはやるけど、一之瀬みたいな民主制を取りそう
ちなみにくーちゃんいる時はいいとこ見せたいからめちゃくちゃちゃんとやって疲れて倒れて『やれやれ』される。
ちなみに5位は3-B(桐山クラス)で6位に3-A(南雲クラス)がいる
南雲は上位取る気なかったけどくーちゃんと一之瀬に指摘されたこと直したらウケがよくなったのと、タイムアタック制も入れたりとまた入りたくなる要素も取り入れたから思ったより売上上がった
「あいつらに礼してやらないとな……生徒会権限でケヤキモールの上に観覧車とか作れねぇかな」
なお5位に沈まされた桐山はブチ切れだったりする
これにて文化祭編は終わりです
次回は修学旅行編ですが、拙僧旅行に行くためしばらく投稿あきまする。
申し訳ありませんがしばしお待ちくだされ。
ではでは。