あと前話のDクラスへの評価とか書き足してますので見てない方とかはまぁ見てください
4泊5日の修学旅行の説明が終わった後はグループ分けが自クラスだけではなく、他クラスとの混合ということが判明したため、クラス内では僅かな喧騒が起きていた。
仲良しであるAクラスのメンバーのみであれば誰と組んでも問題なかったが、他クラスともなるとコミュニケーション不足の生徒も多い。
昼休みになって今日は自席でご飯を食べようとしていたら神崎と柴田も僕の近くに来て食べ始めた。
「一之瀬と楠雄は問題なさそうだけど、きついやつはきついよなぁ」
「だね。斉木くんと一之瀬さんなら誰とでも上手くやっていけるだろうけど」
そんなわけないだろ。
僕だって苦手な相手はいる。
例えばそうだな……うん、考えてみたが思ったよりいないな。
龍園と高円寺もなんだかんだいってほぼ1年の付き合いになるし、扱い方は分かっている。
僕としてはむしろ龍園や高円寺のようなアクの強い人間とは逆の人間と組んだ時に僕が腫れ物扱いされたり、浮いた存在になる事の方が心配である。
可能な限りクラスの生徒を平等にグループ分けするとのことだから、各クラス男女2人ずつで、1つのグループは基本8名になる。
2年生全体は退学者が2人出ているため、8人グループで割り切れない。
性別の比率も可能な限り平等になるように調整するとのことだ。
グループは現地で学校が指定する場合と自由行動中は一緒にいなければならないが、宿泊施設内では単独行動してもいいとされている。
四六時中一緒という訳でもなくて安心だ。
まぁ就寝時間は一緒であるため、グループメンバーは静かで早めに就寝する人間が望ましいな。
「でも、他のクラスの生徒のことをよく知る機会って言う割には旅行中ずっと同じグループなんだね(私としては日替わりでグループが変わってくれた方が適当にやり過ごせるから良かったんだけど)」
自席から動かず前の席に座る姫野さんはそう言うが、学校側も考えなかった訳ではない。
しかし無為に大勢と触れ合っても相手を知れる訳では無いこと、姫野さんのように1日足らずでは上辺だけの付き合いになることも考えられたため、却下されたようだ。
グループが固定されると上辺だけの付き合いではやり過ごすことができないため、学校側の用意したテーマに沿って動くしかなくなる。
グループ単位での行動が守られていなければ自由行動の剥奪もあるらしいので、規律の遵守が必要となる。
「しかしプライベートポイントを現金化できるのはいい事だよな。多めに持っていっても帰ってきたらプライベートポイントに戻せるしな」
プライベートポイントしか持たない僕たち高育生は敷地外で買い物をする手段がないのだが、柴田の言うように事前に学校側にプライベートポイントと現金の交換を申請しておけば、現金を支給してもらえる。
グループ分けのこと以外はまともな修学旅行であることには違いないが、そのグループ分けが後々響いてくるかもしれない。
敵を知るということは敵の事情を知ってしまうということだ。
この学校に来る生徒のほとんどは何かなりたいものや叶えたい夢などを持っている。
その事情を知ってしまった時、今Aクラスのクラスメイトたちは何も思わずにはいられないだろう。
一之瀬さんや神崎のような聡い者は不安を感じているが、いつかどこかで知ることになるかもしれなかったことだ。
それぞれのクラスがAクラスを目指すということは、夢破れるクラスもあるということ。
それを再確認させるための修学旅行という見方もあるが、学校側の真意がどうあれ、僕はやるべき事は手短にやって、やらなくていいことはやらないスタンスを崩すことはないだろう。
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不安はあれど高校でたった一度きりの修学旅行に思い焦がれる生徒たちの熱量が下がらぬまま放課後を迎える。
僕は席を立ち、一之瀬さんや網倉さんたちから「また明日ねー」と帰りの挨拶を受け取りながら教室を出る。
そして、下駄箱に辿り着くと2年生の下駄箱の前で待つ天沢と七瀬の姿が見えた。
「やっほー、斉木先輩」
(本当に斉木先輩を待っていたんですか……)
他クラスのはずの2人がいるのは無人島試験のことを考えれば意外でもなんでもない。
手を振ってくる天沢と違って、七瀬は天沢の目当てが僕と知らなかったのか驚いた様子だった。
「綾小路先輩だと思った? 残念、斉木先輩でした〜」
「別に残念とは思いませんが……(意外だったから驚いただけですし)」
七瀬も天沢が綾小路を待っているとは思っていなかったため、天沢の煽りには当惑するしかない。
話す2人の間を縫って、下駄箱から自分の靴を取り出そうとすると天沢が声をかけてくる。
「あ、先輩。少し時間いいです? いいですよね? 栗子ちゃんになってからニッチでエッチなファンが出来ても暇そうですし」
「ちょっと天沢さん(あまりにも失礼や言い方です)」
「大丈夫だよこれくらい。先輩は友達とかクラスメイト傷つけなければなんも言わないから」
言わなくもないが、あえて言うほどでもないな。
ニッチとエッチは言いたかっただけなんじゃないだろうかと思いつつ、帰りながらでいいならと言うと天沢は上目遣いで見てくる。
「えぇ〜? いいんですか? 女の子2人を侍らせて帰っても。櫛田先輩や一之瀬先輩、あとは坂柳先輩とかに私たち嫉妬されません?」
嬉しいことにそんなことじゃ噂にならないレベルにまで来ているからな。
むしろ、2人の方が困るんじゃないだろうか。
そう言うと七瀬が首を傾げる。
「私たちがですか?」
総合評価A+で文化祭で女装して数多の生徒の性癖を破壊した僕に群がるハイエナと思われる可能性の方が高いということだ。
実際、朝の椎名さんもそう思って見てきた生徒は多いからな。
椎名さんはハイエナというよりは柴犬とかお茶犬とかその辺な気がする。
そもそも犬っぽくもないか。
それよりも何の用件かと聞けば天沢は「お礼が言いたいんです」と口にする。
「文化祭のとき、私と拓也のこと守ってくれてましたよね?」
何の話だ。さっぱり分からない。
「惚けちゃって〜先輩って強い上に優しいんですね〜しかも女装も可愛いし、私的にポイント高いです」
僕的にはポイント低いがな、そんな目立つ先輩。
天沢の馴れ馴れしさには既に慣れているが七瀬はそうでもないらしく、唖然とした表情で天沢のことを見ている。
「ん? どうしたの七瀬ちゃん? そんな変な顔して」
「い、いえ、その、天沢さんが斉木先輩と仲がいいものとは思わず……(無人島試験で何かあったことは分かりますが、綾小路先輩を退学させるために動いていたのであれば斉木先輩とは敵対していたはず。それがどうして……)」
仲良く見えるか?
眼科行った方がいいんじゃないかと思いつつ、靴を履き替えて後者を出ると2人も急いで靴を履き替えに行き、僕の後を追いかけてくる。
「待ってくださいよ〜」
お前らの足ならすぐに追いつけるだろ。
礼は受け取ってやったからもういいだろと邪険に扱うと天沢はまだ終わっていないと言う。
「先輩はあたしと拓也を退学にさせなかったんですか? あたし達に張り付いてたのが誰か知ってたんですよね? (綾小路先輩から聞いてたりするのかな)」
僕はただの通りすがりだぞと惚けてみるが仮にも教育施設で育った観察眼と勘の良さはある。
しらばっくれてもまた声をかけられたりするのであれば効果がない。
しかし、ホワイトルームのことやらは知らないという風に言うのは難しいな。
『誰かまでは知らないが、よくない人間だったんだろう? 後輩を守るのは先輩の務めらしいからな』
「その割にはボコボコにされたんですけど」
(ボコボコにされたんだ)
あれは躾なのでノーカウントだ。
そもそも僕が本気でボコボコにしてたらこの世に生きた痕跡すら残させはしないぞ。
「ま、理由はなんであれ感謝してるのと、そこまでするなら責任取ってくれるのかなーって思いまして」
(せ、責任!?)
取るわけないだろ甘ったれるなよ。
しかし、天沢にしろ八神にしろホワイトルームに戻れないのであれば、路頭に迷うことになるのは確定だが、この学校ならではの手段はある。
それにこの学校に留まる限りは、退学しない限り卒業までの生活は約束されているし、焦ることもないだろう。
プライベートポイントは最終的に学校側が買い取ってくれるシステムであるし、等価交換にはならないが、今からでも節約して置いておけば仮に半値だとしても相当な収入にはなる。
ある程度のお金を手に入れつつ、Aクラスで卒業できれば真っ当な就職先を見つけることもできる。
天沢たちが望むのであれば、両親を探し出して元の鞘に戻る選択肢もある。
親の方は空助が既に見つけているし、その気になれば受け入れるか社会的な抹殺と天秤にかけさせることもできる。
つまりその選択肢が選べるかどうかは天沢と八神の気持ち次第だ。
ホワイトルームなんてものに自分の子を送り出すような親ではあるが、金はあるみたいだしな。
責任は取らないが、残るなら在学中は適当に相手はしてやるつもりではあるし、悩みがあるというのなら綾小路辺りに吐き出せばいい。
直接の先輩であるし力にはなってくれるだろう。
「如何わしいバイトとかしたくないですし、斉木先輩か綾小路先輩が貰ってくれるのが私的には1番丸いんですけどね」
『それは無理だからAクラスで卒業して自立してくれ』
「ちぇー」
本気では無いと分かっているが、他人の生き血を啜ってでも生きる精神のあるホワイトルーム生ならやりかねないのが恐ろしいところだ。
櫛田さんや一之瀬さんたちだけでも厄介なのに、恋愛感情のない打算的な関係で天沢と付き合う気は無い。
「てか、結局誰が本命なんです? 一之瀬先輩? 櫛田先輩? 坂柳先輩? 姫野先輩? あとは椎名先輩でしたっけ? 意表を突いての綾小路先輩か高円寺先輩とか?」
(そんなにいるんですか……?)
誰一人として本命なんていない。
というか天沢のやつ僕の周りをうろちょろしすぎだろ。
「椿ちゃんとも親しげっていうか、怪しいですよね? あとは……」
『お口をチャック』
「はーい」
イタズラが上手くいった子供のような笑みを浮かべながら僕を見てくる天沢に呆れつつも、七瀬には悪い冗談だからなと言っておく。
そんな話をしているとお互いの寮が見えてきたため、天沢が口を開く。
「言いたいこと言えたし、そろそろお暇しようかな」
じゃあねーと1年生の寮へと向かう天沢を見送りながら、まだ隣にいる七瀬へと視線を向ける。
「天沢さん、以前よりも柔らかくなったというか明るくなった気がします」
そうか? 元からあんな感じだった気がするが。
同級生から見る天沢と、僕から見る天沢は違って見えるだろうから七瀬の感じ取った天沢が間違いとは言えないため、特に応じることはしないでおく。
「斉木先輩はすごいですね。色んな人を変えてしまう。宝泉くんと八神くんは大人しくなりましたし、椿さんにもこの学校から出てもいいから綾小路先輩を退学させたいという気持ちは薄れているような気配があります」
この子も結構よく見てるな。
一般家庭の出身なのに。
もしかすると超能力者なのかもしれないな。
「斉木先輩には宝泉くんのことや無人島試験で助けてもらいましたし、私にできることならどんな些細なことでも相談してください」
そんなことは起きないと思うが、断っても七瀬のようなタイプは無理やり押し切ってくるだろう。
七瀬の方も何かあればと言おうとしたが、こいつは綾小路関連で月城から勅命を受けている。
綾小路のことに巻き込まれてはたまらないし、そのことを知っていると知られるのも面倒だ。
『気持ちだけ受け取っておく』
「そう、ですよね。先輩なら自力で何とかできちゃいますもんね……」
そう儚げに呟いた七瀬は(栄一郎くんの置かれていた状況も先輩なら何とかできたのかもしれませんね)と脳内で考える。
「では、今日はありがとうございました。失礼します」
七瀬は軽く頭を下げてから寮に戻るため背を向けて去っていく。
僕はその姿を見送りはせず、これ以上ここに留まる理由もなかったため、2年生の寮へと歩き出した。
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午後7時を過ぎて11月ということもありすっかり日も暮れたきたどころか月は出ているかという頃だった。
こんな時間の来客というのは1年の時に杏と別れてからはあまりなく、最近になって1年の後輩が何人かという程度で、同級生の来訪というのは久しぶりだった。
それも他クラスの女子で、校内でも最も華やかでルックスのいい一之瀬帆波が来るとは俺も予想外すぎてびっくりしちまった。
「ごめんね、橋本くん、連絡もなしに。あ、ご飯食べてるところだったかな?」
「い、いや、今さっき食い終わったところだけど……」
この俺が中学生男子のような反応をしてしまうほどにはどうしていきなり一之瀬がと当惑しつつも、咳払いをして平静を保つ。
「どうしたんだ、こんな時間に。しかも、俺の部屋になんて」
「うん、ちょっと悩んだんだけどね。橋本くんにどうしても聞きたいことがあって」
生徒会帰りなのか制服姿のままの一之瀬はそう言うと「あまり時間は取らせないからいいかな」と遠慮がちに言ってくる。
「そりゃ大歓迎だが……正直言って驚いた。一之瀬にそんなに信頼されてるなんてな」
杏の件から俺は学年内ではあまりよく思われていない。
最近じゃそれもマシになってはいるが、やはり忌避する女子は多い。
自嘲するように言うと、一之瀬は優しげな声音で言う。
「私は橋本くんが良い人だって知ってるよ。それに楠雄くんの友達なんだし」
この答えで俺個人の用ではないと確信しつつも、そんな真っ直ぐに言われたら照れちまうし、その論法だと高円寺と龍園も良い人って枠組みに入ってしまうんだが、まあシンプルに嬉しいしありがたく受け取っておこう。
「そ……そうか。とりあえず要件を聞こうか。って、寒いよな! 部屋入るか?」
「ううん、大丈夫。その、私が部屋に入るところ見られるとお互い困るかもしれないし」
それはそうだが、お互いに修学旅行を控えている身。
風邪を引いて休むようなリスクは避けたいが、一之瀬としては好きな相手が他にいるのに異性の部屋に入るのには躊躇いがあるだろう。
部屋の前でも第三者に聞かれるリスクは高いため、俺は靴に履き替えて玄関から外に出る。
そして寮の外に出ると校舎に向かう途中にある自販機まで一之瀬と歩いていく。
この時間なら通りがかる生徒はいないし、誰か来てもすぐに見つけられる。
「この辺りでOKだ。それで? 聞きたいことって?」
「うん……実は……私……ははは、なんか恥ずかしいね」
秋の寒さに反応して染められたわけではない頬を見てるこっちの方が恥ずかしいわ。
10%位の確率で告白されるんじゃないかと思いつつ、一之瀬からの言葉を待つ。
言いにくそうにする一之瀬だが、意を決したように息を吸う。
「私ね、修学旅行で、楠雄くんに……告白、しようと思うんだ……」
………………あ、うん。
「え? まだ告白してなかったのか?」
「ふぇっ!? し、してないよ!?」
声が大きいし可愛い。
まぁしてないだろうな。
されても誰が相手でも振るって言ってたし。
冗談半分で一之瀬や櫛田でもかと聞けばあいつは迷わず頷いていた。
性欲とかないのかと龍園に煽られていたが『性欲でお前は彼女を作るのか? 猿め』と逆に罵っていた。
「まぁ修学旅行ともなればシチュエーションとしては悪くないわな」
言ってみたはいいが、あいつはシチュエーションとか全く気にしないだろう。
それは一之瀬もわかっているようで「違うの」と首を振る。
「楠雄くん、その、文化祭で女装してからさ、男の子にもモテ始めてて……」
お、おう……。
あいつの女装めちゃくちゃ可愛いから気持ちはわからんでもないが。
残念なことにあの姿が見られるのは最初で最後らしい。
ポイントを積まれても、コーヒーゼリーも積まれてもやらないとの事だ。
無駄な幻想を抱くのはやめておいた方がいいと思うぜ男性諸君と思いつつ、一之瀬の言葉に耳を傾ける。
「……それに、桔梗ちゃんとか有栖ちゃんも楠雄くんの好きそうっていうか、好きだと思うし……誰かと付き合われると、今まで通りの関係ってわけにはいかなくなると思って……けど、楠雄くんが誰とも付き合う気は無いってのは知ってるし、これからもそうなんだと思う」
勝算があるとかではなく、櫛田や坂柳の姫さんとかと付き合う前に、自分の思いは伝えたいということか?
斉木への好意は姫さんは分かりやすいが、櫛田は最近になって露見し始めたという感じだ。
まぁ体育祭でペア組んでる時は露骨だったしな。
それに櫛田は体育祭でMVPを取っているからクラス移動チケットも持っている。
ライバルがAクラスに来る前にという危機感から来るものなのかと思っていれば、一之瀬の気持ちは違った。
「でもさ、楠雄くんが誰とも付き合いたくないのって、付き合ってる人を傷つけたくないからなんだと思って……私なら、楠雄くんを傷つけることも、楠雄くんに傷つけられることもないから、その、付き合える……と思うんだけど……驕りが過ぎる……かな……?」
斉木が恋人作らないのは自分の時間が減るからとか、めんどくさい鬱陶しい煩わしいからとかそんな理由だと思っていたが、一之瀬は俺とは異なるアプローチだった。
「もしかして……それを聞きたくて俺のところに来たのか?」
「うん……橋本くんって楠雄くんと1番仲がいいイメージあるから」
お、おう。
マジか……シンプルに嬉しいなこれ。
俺って斉木と仲良いって思われてるのか……。
斉木が聞いたら『僕と? 橋本が?』と嫌そうな顔をしてきそうだが、俺としては喜ばしいことだ。
そうは言いつつも、クラス内に柴田と神崎がいるし、そっちの方が仲良いんじゃねぇかと思うが。
そう聞いてみると一之瀬は苦笑する。
「そうなんだけどね。クラスの子はこういう話するとすぐ盛り上がっちゃってさ、楠雄くんにバレると思うから……」
神崎辺りなら口は硬そうだが恋愛相談とかには向いてないだろうし、柴田は他のやつにポロッと話してしまう可能性はある。
「なるほどな。驕りかどうかか。それは俺にも分からんが」
ただ、この1年、斉木を見てきた俺から言えることはある。
「一之瀬が逃げたり隠れたりしない限りは、斉木はお前の想いを受け止めてはくれると思うぜ。その上で振られるってことはあると思うが……」
「……うん、やっぱりそうだよね」
悲しむことなく、どこか納得した様子だ。
斉木は告白されたくらいじゃ、自分から離れて行かない限りはそのままの関係を維持してくれるだろう。
ただ、逆に言えば離れた瞬間に興味を失うし、近づいてもこない。
ただ、一之瀬と斉木の距離感は付き合う前でもバグってたりするから付き合っていると見られてもおかしくはないんだが、今は言わないでおこう。
それにこれはあくまでも、俺の想像だが、斉木は一之瀬に恋愛感情はなくとも、他の特別な感情は持っているんじゃないかと思う。
俺や一之瀬が考えていることが正しいかは分からないが、それでも一之瀬の真剣さは伝わってくる。
斉木と同じく一之瀬も高校の間は彼氏や恋人を作らないと言って告白してきたやつを振っていたが、いつからか好きな人がいるからと言って振っていると聞いたことがある。
一之瀬のように、斉木にもまた恋愛観が変化している可能性はなくもない。
「一之瀬、頑張れよ。俺は応援してるぜ」
「ありがとう橋本くん。うん、橋本くんに相談してよかったよ」
そう感謝を述べて、嬉しそうにする一之瀬を先に寮へと帰らせる。
こんなところ斉木にでも見られたら勘違いされ……ないか。
あいつならまるでそこで見てたかのように状況を把握して『相談されてたんだろ? 良かったな』と真顔で言ってくるに違いない。
「やれやれ……」
変ではあるんだが、俺が会ってきた中では心の底から友達になれてよかったと思うやつのことを好きと言ってもらえるのはなんだか自分の事のように嬉しい。
しかもそれが学内でもトップクラスの容姿と性格をしているのだから鼻が高いってものだ。
一之瀬に塩を送ったなんて姫さんにバレれば殺されはしないだろうが、私にも協力してくださいと言われるんだろう。
普段の俺なら姫さんに喜んで協力するが、悪いが修学旅行が終わるまでは一斉派としてお節介焼きの橋本正義をやらせてもらうとするか。
斉木か一之瀬と同じ班になれれば好都合なんだが、斉木のやつは察しがいいからな。
班が違う方がサポートもしやすいかもしれない。
なんにせよ、修学旅行でやることができた。
斉木にはお節介で面倒なことかもしれないが、一之瀬のあの顔を見たら手助けせずには居られない。
逃げれば1つ、進めば2つ。
一之瀬帆波の決意と行動に幸あれと俺は月夜の下で願うことにした。
19時頃のくーちゃん『グラタンうまうま』
ママ「いっぱい食べてね〜」
って感じでこのことは知らないが、橋本と一之瀬の思考が筒抜けなので翌日には気付く。
翌日の昼休みの一之瀬(どうやって楠雄くんに告白しよ……)
翌日の昼休みの橋本(どうやって斉木と一之瀬を2人きりにさせようか……)
翌日の昼休みのくーちゃん『くそめんどくさいことになってる。何があったんだ一体』
てわけでまた次回