11月29日、修学旅行当日の朝を迎えた今日、学校に全部で4台のバスが集まり、私服姿の2年生が全員整列する。
普通の学校であれば、制服で各々のルートで成田空港を目指して集合するところであるが、この学校の場合は学外に出る時はバス移動が常なので生徒たちは慣れた様子で待機している。
今朝の気温は5度を下回っているらしく、コートやマフラー、ウインドブレーカー、ジャンパーなどを着て冷たい風から身を守る生徒が多い。
パイロキネシスで温度調節が容易である僕もその例に漏れず母の編んでくれた奇抜な色のマフラーを首に巻き、地味なダウンコートを着ていた。
「みんなー、マフラーや手袋は今は使わなくてもカバンに入れておくのよ〜」
これから向かう北海道は更に気温が下がるため、学校側は念入りに生徒たちに手袋やコートなどの忘れ物が無いか確認を取らせている。
衣類を含めた荷物の最終チェック、携帯などの必需品のチェックが完了すると2年Bクラスの担任であり、2年生の学年主任のようなポジションにある真嶋先生が拡声器を使わずに声を張り上げる。
「まずは全員、体調不良もなく修学旅行を迎えられたことに安堵している」
今回の引率には担任の教師以外は同行しないようで、4台のバスそれぞれに2年生の担任が乗り込むことになっている。
1号車が星之宮先生、2号車が真嶋先生、3号車が坂上先生、4号車が茶柱先生と、現在のAクラスの担任から順番になっているが特に意味は無い。
バスの作りは全て同じだからな。
定刻になるとバスは羽田空港へ向かい、空港で飛行機に乗り、新千歳空港へと向かう。
今日の空模様は平和そのもので、季節外れの台風なども来ていないため、僕が格闘したりすることは無さそうである。
北海道に着けばそれからはバス移動となり、初日のスキー場へと向かう手筈になっている。
ここまではいい。
普通の当たり障りのない修学旅行である。
しかし、僕には1つ重要な問題を抱えている。
それは一之瀬さんが僕に告白をしようとしていることである。
告白と言えど、私実は万引きをしたことがあるのという自戒だとか許しを乞うようなものではない。
高校生らしい好きな人へと想いを伝える方の告白である。
告白させないように立ち回るか、告白する気が起きないように好感度を下げまくることをしまくるというのが僕の今までの対応策なのだが、他の相手のどうでもいい有象無象ならばこの手でいいのだが、相手は一之瀬さんである。
既に好感度は600を超えて680。
もはや、何をしても勝手に好感度は上がっており、ここ1週間は好感度メーターを可視化していたが、挨拶するだけでも2上がり、心を痛めながら無視しても(今日は機嫌が悪いのかな? あとでコーヒーゼリー持って行ってあげようかな……)と心配される上にコーヒーゼリーを持ってこられてさらに好感度も3上がる始末。
どうしろって言うんだよ。
単純接触効果が出過ぎているというレベルでは無い。
しかもこれが一之瀬さんだけではなく、櫛田さん、坂柳さん、椎名さんにも同じ現象が起きていると知った僕は頭を抱えた。
あの3人は告白してくる気はないようだが、なるべく顔を合わせないようにしなければならないと誓った。
グループ作成のための番号はバラバラにつけたが、横の繋がりを広げることを主目的としている修学旅行で上位の数字をつけた櫛田さんと椎名さん、一之瀬さんが同じ班になることはない。
坂柳さんはもしかしたら可能性としてはあるかもしれないが1人くらいなら何とかなる。
そう思っていた僕の姿はお笑いだったのだろう。
朝に発表されたばかりのグループ一覧の載ったページを携帯で確認する。
グループ番号 3
Aクラス 斉木楠雄 一之瀬帆波
Bクラス 橋本正義 坂柳有栖
Cクラス 時任裕也 椎名ひより
Dクラス 高円寺六助 軽井沢恵
いじめか?
何度見てもおかしなグループだ。
何かのバグかと思って再度読み込みをしても変わらなかった。
綾小路は学校側が選んだグループ分けに不満などはないとぼさいているが、こんなの不満しかない。
綾小路の方はグループ番号6で渡辺と網倉さん、鬼頭と山村さん、龍園と西野さん、そして櫛田さんとアクの強いグループではあるが僕のグループに比べれば遥かにマシである。
あいつの方は5人ほど交流がない生徒がいるのに対して、僕は時任と軽井沢さん以外は全員面識があるどころか好感度100超えのすげぇ奴という笑えないジョークのグループだ。
全員僕には1〜5をつけたメンバーなのだが、それは他のクラスもほとんど変わらない。
僕に40という低い数字をつけたのは龍園だけである。
そのことに関しては龍園らしく思うし、むしろありがとうと伝えたいくらいだ。
「そろそろ時間になりますので、荷物を入れた生徒からバスに乗ってください」
龍園の担任である坂上先生が呼びかけるとゾロゾロとバスの中に荷物を放り込んでいく。
グループ分けは完全なランダムではなかったのかと問いただしたいところではあるが、坂上先生は関与していないため八つ当たりのようになってしまう。
まさか今回も空助の仕業か?
そう考えてみるが、それなら時任や軽井沢さんではなく、龍園と櫛田さんを入れるはずだ。
荷物をバスの下に預けて、バスへと乗り込む。
行きのバスはクラス毎に分かれはするものの、座席指定はされておらず、自由席となっている。
「楠雄っ、一緒に座ろうぜ〜!」
僕の座る席は左手の窓側で景色が見えればそれでいいため、その条件さえ満たせれば隣は誰でもいい。
というのは冗談で今日に限っては柴田が名乗り出てくれたおかげで助かった。
一之瀬さんが僕に告白しようとしていることはクラスメイトたちには察知されておらず、示し合わせたかのように一之瀬を僕の隣にということはしてこない。
最後列から1つ前の席に座ってシートベルトを締めて、バスの発車を待っていると柴田が笑う。
「へへっ、北海道か。楽しみだなぁ」
沖縄への修学旅行を希望していた柴田もすっかり北海道へと気持ちを移しており、少年のような瞳で思いを馳せている。
こいつはいつもと同じ目だったな。
そう思って見ていると通路側に立つ一之瀬さんと目が合った。
「千尋ちゃん、この辺でいいんじゃないかな?」
「えっ? でも、ここだと麻子ちゃんたちと話せないんじゃ……?」
ちょうど通路を挟んで空いている右側の席を見ながら言う一之瀬さんに、白波さんは首を傾げる。
「あ、そうだね。じゃあ後ろにしよっか」
最後列の席は5人座ることができるため、一之瀬さん、白波さん、網倉さん、小橋さん、安藤さんの仲良しメンバーが座ることができる。
それを聞いて少し後ろにいた安藤さんが口を開く。
「うん、それがいいと思う! (そこなら柴田くんとも話せるかもしれないし!)」
柴田に仄かなというか、真っ当な好意を寄せている安藤さんが賛成すると一之瀬さんたちは僕たちの1つ後ろの席に腰を下ろした。
一之瀬さんを真ん中にして僕たち側に安藤さんと網倉さん、反対側に白波さんと小橋さんが座る。
数分経って、4台全てのバスにいる生徒の乗車が完了して空港に向けてバスは動き出す。
バスの移動中、席を立つことは許されていないが雑談は自由で、持ち込んだ食べ物や飲み物も自由に摂取して構わない。
隣の柴田は前についた展開式のテーブルを出すと、その上にジュースとポッキーの箱を置く。
「旅と言えばやっぱポッキーだよな」
赤角チリ毛虫のようなことを言って柴田は楽しそうにポッキーを食べる。
北海道への旅行でテンションが上がっているのが伝わっており、「楠雄も食うか?」と差し出してくる。
僕は2本貰うとパキッと2本とも咥えて食感と味を楽しむ。
「そういや、楠雄はスイーツ以外で食べたいものとか、どこか行きたいところとかあるのか?」
僕が楽しみにしているのはホテルの大浴場くらいだな。
先に下見に行ってきたが広々とした露天風呂があった。
外気浴が好きな僕としてはかなりポイントが高い。
「温泉好きなのか(知らなかったな。つか風呂って言うと斉木のアレのことを思い出しちまうな)」
もう記憶から抹消しておけよ。
今回は混合合宿の時のようなくだらない展開は無いことを願うばかりだが、それよりも一之瀬さんの方が危惧すべき点ではある。
「帆波ちゃんは良かったね、斉木くんと同じグループで」
「にゃはは、私は誰でも良かったんだけど(でも一緒に回れるのは嬉しいかな。なんだか神様に後押しされてるみたい)」
この世に神などいない。
いれば一之瀬さんに対して甘すぎるし、僕に対して試練を与えすぎだと制御装置なしのサイコキネシスでぶっ飛ばしてやりたい。
というか、小橋さんも狙っているのか僕が前の席にいるのに露骨なことを言い過ぎだ。
(あ〜あ、近くで見れないのが残念。というか斉木くんのグループ豪華すぎるでしょ。みんな可愛い女子だし)
代わって欲しいなら代わってやりたいところだ。
しかし、全員薄情なもので僕に対して誰1人として「代わってやりたいぜ」だとか「どんまい」とか言って来ようとしない。
柴田に至っては班が開示された直後に「よかったな!」と親指を立ててきていた。
他クラスの現状を知り、知らない仲の人間と交流を深めることが主目的なようだし、僕は時任と親交を深めるとしよう。
うちのクラスの時任克己ことかっちゃんと親戚のようだし、その手の話で会話を広げるつもりだ。
他にも龍園に対して反感を抱いているようなので龍園への愚痴で盛り上がれる可能性もある。
ふふふ、勝ったな。
軽井沢さんの方は綾小路の恋人であるし、僕に話しかけられては少し困るかもしれない。
これは僕は全く悪くないのだが、軽井沢さんに(清隆って私より斉木くんの方が好きなんじゃ……)という疑惑を向けられている。
ちなみに綾小路から向けられている好感度だと僕の方が高いので軽井沢さんの疑いは大正解なのだ。
いや、なんで手を繋いだりキスをしたりアレなことした相手よりも他クラスの友人の方が高いんだ。
ホワイトルームの教えはどうなってるんだ教えは。
そういうこともあって下手に刺激しないためにも、あちらから話しかけられたらという程度に収めると決めてある。
バスから降りて成田空港から飛行機に乗り込み、新千歳空港に着くと、空港のロビーで整列を始める。
飛行機では誰かが酔って吐くといったイベントもなく、あっという間に着いてしまったのでキング・クリムゾンさせてもらった。
「グループが全員員揃ったところから、バスの席決めを行うように。それぞれに割り振られた席を話し合って決めてくれ」
羽田まではクラスでの移動だったが、ここからはグループ行動が始まる。
1番から5番までの班を真嶋先生、6番から10番までの班を茶柱先生、11番から15番までを坂上先生、16番から20番までを星之宮先生が担当することになっている。
僕は3番の班であるため真嶋先生が担当してくれるのはありがたいが、班の人選は全くありがたくない。
「一緒のグループだね、楠雄くん(やった〜! 告白のことを考えると有栖ちゃんやひよりちゃんがいるのはちょっと心苦しいけど、橋本くんもいるし……大丈夫だよね)」
真嶋先生の先導するエリアへ向かう途中で朗らかな表情を浮かべる一之瀬さんにそう声をかけられるが、僕は全く大丈夫じゃない。
重い足を動かして真嶋先生のいる方へと向かうと、生徒たちの群衆の中でも異彩な2人が待っていた。
「よう、お2人さん。今日からよろしくな(まさか一之瀬と斉木が同じグループとはな。まさか直接サポートできるとは思わなかったぜ)」
「ごきげんよう、楠雄くん。帆波さん。5日間よろしくお願いしますね(ふふ、遂に私の時代……とはなりませんでしたが好きな人と友達との旅行は初めてですし。これはこれで悪くないかもしれませんね)」
橋本と坂柳さんは僕と一之瀬さんにそれぞれ言葉をかけてくれるが、僕は軽く手を挙げて応えるのみだ。
僕たちの次に椎名さんと時任がやって来る。
かっちゃんじゃない方の時任とはあまり関わりはないが、龍園に対して反発していることは知っている。
お互い大変だよなと挨拶をすると「お、おう……? (こいつ龍園と仲良いんじゃ……?)」と怪訝な顔をされた。
「時任くん。斉木くんなりの挨拶なので警戒しなくても大丈夫ですよ」
「そ、そうなのか?」
ふむ、龍園のせいで第一印象はあまり良くないらしいな。
しかし、これから5日もある。
僕が龍園と仲良くないということを示していくとしよう。
そして、少し遅れてDクラスから軽井沢さんと高円寺がやって来る。
(うぅ……、みんな知らない……ことは無いんだけどあんまり話したことない人ばっかり……椎名さんは清隆と図書室で仲良くしてるし、それに斉木くんはなんか清隆がぞっこんだし複雑なグループ……)
普段の軽井沢さんならカースト上位女子を演じて挨拶するところだが、やや入りにくい空気なのか「よろしくねー」と軽い挨拶で済ませる。
高円寺の方は僕にだけ挨拶をすると手鏡でヘアースタイルの確認を始める。
いつも通りのことなので橋本は全員が揃ったことを確認して口を開いた。
「じゃあ席を決めるか(一之瀬と斉木を隣にしてやりたいところだけど、このメンツだと難しそうだな)」
「せっかくですし、男女で座る方が交流が増えていいんじゃないでしょうか」
率先して発言した橋本に被せるように坂柳さんが手を合わせて提案する。
「私は楠雄の隣ならなんでも構わないよ」
「私は女子は女子で固まった方がいいと思うんだけど(みんな知らないし、高円寺くんと斉木くんとか特に気まずいんだけど)」
僕が高円寺と同レベ!?
いや、変人としてではなく、綾小路と仲がいいことに対しての嫉妬だろうな。
そうだな、そうに違いない。
『僕も軽井沢さんの意見に賛成だが、高円寺の隣は嫌だ』
「Why?」
「まあその方が無難そうだな……(どいつもこいつも我が強いことで)」
橋本が他のメンバーに確認を取ると、時任と軽井沢さんはすぐに頷く。
他の3人も思うことはあれどそれを表には出さずに頷いた。
「まぁそういうことなら仕方ありませんね(楠雄くんの隣が……)」
「うん、私もそれでいいよ」
「私も異論はありません」
言うと、女子たちは各々で話し合って一之瀬さんと軽井沢さん、椎名さんと坂柳さんとで座ることにしたらしい。
坂柳さんは1年次の学年末試験で椎名さんに遺恨ありという感じだったが、今年の夏休みの出来事からその気持ちは薄れているらしく早速2人で本の話に興じていた。
「あとは俺らか……(斉木が高円寺NGとなると、まあ俺が隣に座ってやるのが妥当か)」
いや、僕の隣はすでに決まっている。
話し合うことなく時任に声をかけると高円寺と橋本、女子3人の目がこちらに向く。
「え、いや、俺は……」
いいからいいからと僕が窓際に座り、通路側の席につくように言う。
「……はぁ(なんか座れよライナーって言われた気分だな)」
そんな大仰なことは言っていないんだが。
別に宣戦布告をするわけでもないし、気楽にいてくれたらこちらとしても助かるが、やはり龍園と仲がいいというイメージが良くない方向に影響を及ぼしているらしい。
(時任くん、斉木くんに気に入られているのでしょうか……?)
(橋本くんや高円寺くんとは仲良くないだろうし、1人だけ完全にアウェイだから楠雄くんが気にかけてるのかな?)
(楠雄くんの隣……)
(まぁ行きの席くらいは譲ろうじゃないか。私は寛大な心を持っているからねぇ)
(後ろと横からの視線が辛い……)
一之瀬さんからの告白は防ぐ、時任には僕が普通の男子生徒だと思ってもらう。
両方やらなくっちゃあならないのは辛いところだが、せっかくの修学旅行だ。
何かしらの目的は必要だろうと僕はスイーツ以外の目標を定めた。
班分けの意図
坂柳と時任、橋本と高円寺▶︎原作でも同じ班だったので合体
一之瀬、椎名▶︎神の悪戯
軽井沢▶︎櫛田以外なら誰でもよかったので名有のDクラス女子(堀北とか佐藤とか松下とかみーちゃんとか篠原とか)でルーレットしたら軽井沢だった
凡人「今回は僕は何もしてないよー。する意味もないし」とのこと。
班の人選が妙なのと一之瀬さんが告白してきそうなのとそれを橋本がサポートしようとしているΨ難が重なってお疲れ
龍園(羨ましくもなんともねぇがこの地味な班よりはマシだったな)
櫛田(なんで私じゃなくて軽井沢さんなわけ? 意味わかんないんだけど)
綾小路(あのグループだけ知り合い率高くないか?おかしくないか?修学旅行の主旨知らないのか?許されないだろあんなの。とりあえず高円寺は代われ)
ではまた次回
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