修学旅行も3日目に入った。
この学校に来てから寮生活、夏休みは無人島、冬には混合合宿と他の奴らと過ごすことの方が多くなっているため、集団生活というのも慣れてきた。
本来なら実家に帰って休眠したいところではあるが、誰が夜中に起き上がってくるか分からないため仕方なく旅館の一室で橋本、高円寺、時任と同じ部屋で寝泊まりしてやっている。
ゲルマニウムリングは必須であるが、3人とも夜更かしをするタイプでもなければ、変に話すタイプでもない。
高円寺はショートスリーパーとは言えど、寝れる時は寝る人間なので朝の4時まで熟睡している。
起きたあとはルーティンのトレーニングに出向いてはいる。
この修学旅行では班行動が鉄則であるが、学校はそこまで集団行動しろとは言ってこないため高円寺1人に任せている。
朝9時には旅館からバスが出発し、札幌駅近くへとやってくる。
3日目は市街地での自由行動ではあるが、学校に課せられた試験を回らなければならない。
午後5時までに予め決められた15箇所の目的地から、どんな組み合わせでもいいため、合計6箇所のスポットを巡るというものである。
各スポットの指定された撮影場所に辿り着き、グループ全員で記念写真を撮ることで1箇所巡ったと認められ、これを繰り返すというものだ。
失格条件は前述の通り、時間制限内にスポット巡りが6箇所未満で終わった場合のみ。
修学旅行4日目の自由行動が剥奪されて、午後4時までの勉強会が旅館内で実施される。
班によってはこちらの方がいいと思っている奴らもいるようだ。
また各スポットには得点が設定されており、6箇所で合計20点以上を得ることができたグループは報酬として全員が3万プライベートポイントを得られる。
ただし得点の大小は失格に影響しないため、報酬を目指すかどうかはグループに判断が委ねられることになる。
写真が不鮮明であったり加工の痕跡などが見られた場合などはカウントされないし、後者に関しては問答無用で失格となる。
あとは公共機関の利用回数などに制限はないが、タクシーでの移動は禁止されている。
どんな方法でスポットを巡ったかを記録する必要もあるらしく、テレポートも使えないだろうな。
スポット巡り自体は修学旅行前から説明を受けていたが、自由行動を賭けた試験のようなものや、プライベートポイント報酬のことはバスの中で説明されたばかり。
学校オリジナルのパンフレットには巡るべきスポットが書かれており、さらにはポイントも割り振られている。
札幌市時計台、さっぽろテレビ塔、北海道立近代美術館が1点。
中島公園、北海道神宮が2点。
札幌市円山動物園、北海道博物館、中央卸売市場場外市場が3点。
モエレ沼公園、白い恋人パークが4点。
藻岩山が5点、サンピアザ水族館が6点、定山渓温泉が7点。
そして支笏湖とウトナイ湖が8点となっている。
スポットに着いて終わりでは無いのが面倒ではあるが、撮る写真も集合写真などではなく、札幌市円山動物園なら園内にいるホッキョクグマもしくはホッキョクグマの館をバックにして撮影する必要がある。
「さてと、どう回るかだな」
グループごとにバスから降りて、第3班が集合したのを確認して橋本がつぶやく。
スポット巡りは6箇所回れば問題ないわけだが、その6箇所の選定も重要になってくる。
「みんな行きたいところとかあるかな?」
僕としては白い恋人パークと定山渓温泉に行きたいところだが、交通機関を利用しても2つの間を行き来するのに1時間半はかかる。
その道中のスポットを巡りたいところではあるが如何せん定山渓温泉が遠すぎる。
僕ならパッと行って戻ってくることができるが、他のみんなはそうもいかない。
特にこのグループには心臓疾患の関係で足の不自由な坂柳さんがいる。
「みんな時計台に行ってるね」
「歩きながら話した方が効率もいいですからね」
軽井沢さんと椎名さんはタイプが違うものの、同じ班ということもあり互いに相槌を打つくらいの仲にはなりつつあった。
そもそも、普段の軽井沢さんはカースト上位女子らしい振る舞いをしているだけで、人当たりは悪くない。
綾小路と仲良くしている椎名さんに思うところはあったようだが、3日目にもなればそれもかなり落ち着いていた。
「橋本くん、どこを回るかも大事ですが報酬のプライベートポイントを狙うかの相談もしておいた方がいいのでは?」
「あぁ、確かにな」
坂柳さんの提案に橋本は頷くと僕たちを見回す。
「6箇所回るのは確定として、報酬の3万プライベートポイントを取りに行くのはどうする? 俺としては狙えたらくらいでいいと思うんだが」
「私は行きたいところ回ってく方がいいかな」
「俺はお前らに合わせるが……報酬を取りに行くとなると坂柳が大変じゃないか? (高得点のところを狙いに行くと点々としていて撮影をしたら次という風にしないと間に合わないぞ)」
軽井沢さんが真っ先に自分の意見を言うと、時任は坂柳さんを心配そうに見た。
そして、坂柳さんは時任の気遣いに感謝を述べる。
「ありがとうございます。私の方は気にしないでいただくて大丈夫ですよ。ね、楠雄くん」
『僕は君の足じゃないぞ』
「ふふ、私には見えていますよ。やれやれと言いながら私を抱き抱えて歩く楠雄くんの姿が」
時任、その優しさは美徳だが僕に甚大なダメージが入るからこの修学旅行中は捨ててくれると助かるな。
一之瀬さんと椎名さんが私達も手伝うよと言ってくれてはいるが、そもそも僕は手伝う気はない。
「高円寺は? どうする?」
「最短で6箇所回り、あとは私の行きたい所へ……と言いたいところだがスウィートガールのこともある。今回は君たちの意見に従うつもりだよ」
「えっ(ほんとに高円寺くん? 違う人とかじゃなくて?)」
班の意見に合わせるというのはクラス内の高円寺とはかなりブレるようで軽井沢さんがかなり驚いていたが、高円寺は「話し合いが終わったら声をかけてくれたまえ」と手鏡を見始める。
「じゃあそれぞれで行きたいところを出し合って、ルートを考えていこっか」
ひとまずは時計台に行こうということになり、歩き出した班だが、不穏な足音が僕の耳には届いていた。
「おい、見たか今の女たち……めちゃくちゃ可愛かったぞおい(特に金髪で胸がでかいヤツ)」
「ありゃこの辺の人間じゃねぇな(携帯を何度も見ていたし)。俺らと同じ観光客だ」
「学年のヤツらに声をかけてあの女たちを攫うぞ。金髪で体格のいいやつ以外は大したことなさそうだ。袋にしてホテルに集めろ」
「いいっすねぇ。俺はあの髪の長い笑顔の可愛い女もらっていいすか?」
「じゃあオイラはあの小さい人形さんみたいな子がいいっす!」
「金髪は2人いるけど胸デカイ方はサザムさんっすよね。じゃあ俺は髪結んでる方にしようかな」
全員ダメに決まってるだろ。
「え?」
最近の修学旅行生は物騒なのが多いな。
旅行編にありがちなトラブルは前話で済ませているんだ。
「かはっ!?」
こっちはいつ告白されるかわからなくてビクビクしているというのに余計なトラブルを持ち込まないでくれ。
これで何度目だと思っているんだ。
話しかける程度ならまだしも攫おうという発想がイカれている。
「てめ、なにすんっピギュ」
「ジュウェン!」
僕には分からないが一之瀬さんや軽井沢さん、椎名さんと坂柳さんも周囲の人間からは好意を集めてしまうらしい。
それに高円寺や橋本、時任も他校の修学旅行生や地元の学生やOLの何人から見られていたりもする。
僕? 僕は根暗で地味で簡単に倒せそうな陰キャらしいからな。
声をかけられたり、好奇の視線で見られることはない。
他校や地元の人たちにはな。
「あれ? 楠雄くんどこ行ってたの? 昨日もだったけど、あんまり離れちゃダメだよ」
とりあえず、不穏な考えを持っている輩を壁に埋めて戻ってくると一之瀬さんから注意を受けてしまう。
外部の人間は問題ないんだが、僕は班内の人間に好奇どころか好感度900越えの視線を向けられている。
これ以上増えると流石の僕でも手に負えないというのに、3日間もいるからか、単純接触効果とやらも高まって一之瀬さんの好感度は900を越え始めていた。
坂柳さんも同じであり、椎名さんは880と2人に比べればマシな数値だ。
本当にそうか?
班外の櫛田さんも898と恐ろしい数値になっている。
第3班のスポット巡りは一之瀬さんと橋本が中心となり、全員の希望を可能な限り聞き入れて、市街地周辺のスポットや水族館を巡った。
勿論、坂柳さんが動ける範囲でだ。
この辺りのハンディキャップは学校側は想定していないのかと疑問にも思ったが、おそらく僕がいるからそれも解消できると思われたのかもしれない。
お姫様抱っこは市街地では目立つため僕の荷物を時任や橋本に持ってもらい、坂柳さんは僕の背中が定位置となった。
一之瀬さんと椎名さんも坂柳さんの事情に関しては理解しているため特に嫉妬のようなことはせず、観光スポットを回っていく。
結果、軽井沢さんと時任以外は体力もあったため少し休憩しながらにはなったが、学校指定のスポットを回り切り、残った時間は高円寺が行きたいと希望した場所を回った。
得点は20点には届かなかったが、班の全員が満足できる有意義な時間になったようだ。
そうして、宿泊先に戻ると夕食の時間になる。
昨日までは朝も夕も和定食、懐石料理だったが、今日の夜からは食べ放題のビュッフェ形式になる。
朝と夜の食事に関してはグループ行動は関係ないため、自由に空いた席で食べることになっている。
しかし、孤独のグルメを楽しみたい僕のところには連日誰かしらやってくる。
「よっ、楠雄。隣いいか?」
そう言ってそんなに食えるのかという量を盛りに盛った柴田が声をかけてくる。
昨日や一昨日はサッカー部の連中やグループのメンバーと食べていたが今日はこちらに来たらしい。
独りで食べたいところではあるが、それだけで断るほど僕も人の心がないわけじゃない。
好きにしろと返事をしてやると柴田は僕の隣に腰掛けた。
「北海道つったらカニだよな。石崎もめちゃくちゃ取っててさ。危うく無くなるところだったぜ」
そうか?
まぁ海の幸も豊富ではあるか。
僕としては酪農家の方々が作ってくれた乳製品やその他の畜産業や米農家の方々の作ったご飯などがメインだと思うがな。
ちなみに明日の夕食の目玉はジンギスカンになるらしい。
スイーツの方も更新されるらしく、今から楽しみである。
「楠雄はスイーツばっかだな。飯は食わないのか?」
もう食べた。
それに僕らの班は高円寺の希望で北海道味噌バターラーメンなるものを食べてきたからな。
あれはいいものだ。
「ラーメンか。バイキングもあるのに食べてくるなんて元気だな! (楠雄の胃はサイヤ人なのか?)」
お前が言うな。
まぁ北海道といえば味噌バターラーメンのイメージがあったから、僕も本場の味を堪能できて良かった。
坂柳さんはラーメンを食べるのが初めてだったらしく、最近ラーメンの美味しさに目覚めたばかりの高円寺に力説されていた。
意外な組み合わせではあるが、上手くやれているようで何よりだ。
柴田が今日の自由行動中の話をしているのを適当に聞きながら牛乳プリンを食べていると、葛城がトレーを持って席を探しているのが見えた。
僕はそれにちょいちょいと手招いてやると、こちらに気づいた葛城が歩いてくる。
「斉木と柴田か。相変わらず仲が良さそうで何よりだ。神崎は一緒じゃないのか?」
「おう、葛城。神崎なら同じグループの女子にお呼ばれしてそっちの方にいるぜ(なんだかんだでモテるみたいだな。羨ましいぜちくしょう)」
そういう葛城も戸塚の姿が見えないが。
指摘すると葛城は困ったように苦笑した。
「弥彦は自由行動ではしゃぎすぎたらしくてな。今は部屋で寝ているそうだ」
「マジか。つか、そんなところで突っ立ってないで座れよ。一緒に食おうぜ?」
「いいのか? (斉木に手招きはされたが……)」
断る理由がないな。
そう言うと葛城は「お言葉に甘えるとしよう」と言って空いた席に腰かける。
そして、僕たちの皿に乗った料理やスイーツを見て驚いたように呟いた。
「……なかなかユニークな皿だな」
かなり言葉を選んでくれたらしい。
葛城の方はどうなのかと見てみると、和食で固められた皿にある刺身料理に僕は興味を示してしまう。
「刺身か? それならまだ残っていたと思うぞ(スイーツのあとに刺身を食うのか? 変わっているな……)」
海の幸はまだ堪能していなかったからな。
しかし、せっかく食べるなら市場の卸したてというやつを食べてみたい気もする。
悩みどころだな。
「そういえば、斉木から借りた漫画。なかなか面白かった。まだ読んでいる途中ではあるが、兄貴は弟や妹を守るものというセリフは俺に響くものがあった」
「へぇ、葛城いいもん読んでるんじゃん。今どの辺なんだ?」
「どの辺と言われてもな……恥ずかしながら……面白くてな……ほとんど読み終わっている……修学旅行前に夜更かしはいけないと思ってな……あと1冊なんだが」
凄いスピードで読んでいるな。
この手の真面目タイプはのめり込むと没頭しやすいのは堀北元会長と同じか。
「すげぇな! え? じゃあ、卍解は出揃ってるよな……好きなキャラとかいるのか?」
興奮したように柴田が尋ねると、葛城は「そうだな……」とここ1、2週間で読んだ内容を思い返し「決め難いな……」と深く悩んでいた。
そんな葛城に柴田は「俺はなー」と自分語りを始めそうになったので、僕は刺身を取ってくると言って席から立つ。
色々と種類はあったはずなのだが、刺身コーナーには今やマグロ、鯛、サーモンしか残されておらず、厨房の方を見れば職人さんが鰤や鰹の用意をしてくれているようだったのでそれを待っていると佐倉さんに声をかけられた。
「あ、さ、斉木くん(や、やっと話せた……)」
伊達メガネを取り、髪も少し上げてイメージチェンジを果たした佐倉さんは学内でもそれなりに有名になっており、特に男子たちの間ではグラビアアイドルの雫に似ていると盛り上がっていた。
似ているというか本人なんだがな。
佐倉さんに会釈すると彼女も僕に頭を下げてきて、4歩ほど離れていた距離を2歩詰めてくる。
「斉木くん、お刺身好きなの?」
嫌いじゃないくらいだな。
佐倉さんも刺身を見に来たのだろうかと訊けば彼女は頷く。
「う、うん! (本当は斉木くんを見かけたからなんだけど……)あ、でも……あっちにお寿司もあったよ」
寿司か。
寿司食べたいという気分でもないが、真夜中3時に思い出して狂い出しては困るしな。
やっぱりやっぱり寿司食べたいと刺身コーナーから離れて寿司コーナーへと向かう。
親切にありがとうと佐倉さんにお礼を言うのも忘れない。
「ど、どういたしまして……(そ、そうだ、綾小路くんも斉木くん探してたし、一緒に……)」
「あ、愛里いたいたー、一緒に食べようよー」
「波瑠加ちゃん。うん、いいよ(斉木くん行っちゃったけど……他の誰かと食べてるかもしれないし、今日はうん、仕方ない、よね……)」
仕方ない仕方ない。
佐倉さんには悪いが長谷部さんを呼ばせてもらった。
葛城と柴田が千年血戦篇で盛り上がっているし、そこに連れていくのも偲びないからな。
とりあえず、3種マグロの食べ比べと寿司の方は鰤も鰹も残っていたのでそれらを取ってきて僕は席に戻ることにした。
先生たちの話は次にでも出来れば。
原作読み返してたら櫛田は龍園に弱み握られ、葛城はクラス移籍してるから陰湿ないやがらせにあってたりしてるんですがね、そんな事実は今作ではないので平穏そのものです。
本来なら退学してしまっている戸塚と佐倉にも少しフォーカスをあてましたを
佐倉はイメチェンモードというか雫に少し近い姿になっていますが気付く人しか気付いてない……というか男子高校生ってそんなにグラドル知ってんのか?って感じではある(山内か池は知ってたけど)
高円寺が大人しいのは今回自由行動すると翌日の自由行動が消えるし、くーちゃんと橋本とくーちゃんガールズ見ながら回れるのは今回だけで、行きたいと思っているところは卒業してから行けばいいかと思っているから。
大人になったな高円寺。
軽井沢さんが椎名さんに嫉妬とか敵視してないのは、椎名さんって斉木くんのこと……ってなったから。
女子部屋でほぼくーちゃんの話題が出てるのかもしれない(3人は聞かれない限りはくーちゃんの話はしてない)(軽井沢があんまり関わり無さそうだから内輪の話になるので)(でも聞いてきたから話してる)
時任が坂柳の心配してるのは好意を持ってるからではなく純粋な心配なので、坂柳からは不快に思われてないし、むしろ気をつかってくれることでくーちゃんに擦り寄る口実になるからもっと言っていいですよと思ってる
ではまた次回
修学旅行篇終わらせるまでは更新していきます