水のように優しくなってしまうかもしれない
修学旅行4日目、つまりは明日には学校に戻り再び寮生活へと回帰する。
2度目にして最後の自由行動ということもあり、思い残すことのない1日にしたいと橋本は躍起になっている。
グループでの行動が義務付けられている日中から夕方までは僕と一之瀬さんを2人きりにするわけには行かず、坂柳さんからも監視を受けている橋本は思うように動くことができない。
全ては今日の夜の一之瀬さんの行動次第ということになる。
それさえ躱してしまえば僕の勝ちだ。
そう考えていると既に着替えを済ませた時任が携帯を片手に声をかけてくる。
「3人とも、外で雪合戦をやるらしいぞ」
Dクラスの平田主導で自由参加で雪合戦をしようという動きがあり、Cクラスのグループチャットにもその話題が飛び込んできたらしい。
「雪合戦か。面白そうだし見に行ってみるか?」
そう言って橋本は僕と高円寺に問いかけてくる。
「楠雄が参加するというのなら私は構わないよ」
定位置で足を組んで寛いでいた高円寺がそう言えば、橋本と時任は僕の方を見てくる。
参加するかどうか別として見に行くだけなら構わないと言えば、橋本は指をパチンと鳴らした。
「よし、じゃあ女子の方にも声をかけるか(斉木が来るなら軽井沢以外は来るだろ)」
呼ばなくていいだろ別に。
4人で部屋を出て、旅館の外の裏庭に行けば、既に大勢の生徒たちが集まっていた。
平田を中心に柴田や石崎や葛城の姿が見え、どうやらチーム分けをしているようだった。
女子の方も橋本が声をかけたためなのか、僕らよりも少し先に来ていたのか一之瀬さんと坂柳さんの姿も見える。
朝から関わると疲れそうなので男子陣の方にいると、僕や橋本の存在に気づいた柴田が声をかけてきた。
「オッス! 楠雄! 橋本! それに高円寺と時任も来たのか! 3班は全員参加か?」
「お、朝から元気だな。参加するかは決めかねてるが見学にな」
苦笑しながら橋本が答えると、時任は裏庭中に集まる生徒たちを見渡す。
「すごい数だな。何かあるのか? 今回の雪合戦」
「ああ、プライベートを賭けた雪合戦でな、まぁ賭けと言っても参加資格は1000ポイント払って、勝ったチームが負けたチームからそのポイントを受け取るって感じだな。目指せ1000万ゼニーだ」
柴田の話に従えば雪合戦版の天下一武道会をやるらしい。
1000万貰う代わりにわざと負けてやるよという選手が現れそうだ。
ただし、実態はお土産を1つ2つ追加で買うお金が手に入る程度であるし、負けても1000ポイント失うだけならこの盛り上がりも納得はできる。
「しかし大丈夫なのか? 裏庭とは言え、旅館の敷地内だろ?」
「そこは洋介が確認してくれてるからOK! だぜ」
この旅館には高育の生徒以外は泊まっておらず、貸し切り状態であるためこの時間であれば問題ないらしい。
ルールは雪玉が被弾した生徒はコートから退出しなければならないという単純なもので、雪玉をキャッチしてもアウトらしい。
顔面セーフも雪玉のため無効なため、完全に回避のみしか許されないようだ。
雪玉にはある程度のサイズが必要でパウダー状で散弾銃のように投げつけたり、球が空中で飛び散ってしまうなどした場合は当たっても無効になる。
被弾に関しては自己申告と審判役の両方の判定が入るなど、かなりルールはしっかりしている。
「今のところ30人くらいだが、お前らはどうする?」
「当然参加するとも、そうだろう楠雄?」
するとは言ってない。
しかし柴田は聞く耳を持たず「わかったぜ」とサムズアップして平田たちのところへ向かう。
男女混合チームになるらしいが、さっさと負けてしまおう。
1000ポイントくらいなら構わないと言えるほどにはポイントには余裕があるしな。
締め切りまであと10分というところで話を聞きつけたのか堀北さんも姿を現す。
堀北さんが出るなら伊吹さんもと声を上げていた。
(あの2人は別チームの方が良さそうだね)
チーム分けを担当している平田はそんな2人の様子を見て、別チームに振り分ける配慮を見せていた。
同じチームにしては堀北さんはともかく伊吹さんは怒るだろうからな。
そして、櫛田さんが山村さんと西野さん、網倉さんを連れて現れると綾小路が声をかける。
「流石だな櫛田。山村たちも誘ったんだな」
「うん、せっかくだしね(西野さんと山村さんは出かけるまで部屋で待ってるって言ってたんだけどね)」
「それで正解だ」
なんだかんだ言って櫛田さんもあのグループとは上手くやれているらしい。
4日間グループとして過ごして少しずつだが関係も良くなっている。
綾小路としては参加するにしろ観戦するにしろ同じ時間を過ごした方が有意義と思っていたようで、櫛田さんの来訪を歓迎している様子だ。
綾小路と話す櫛田さんを見かけた堀北さんが声をかける。
「櫛田さんは参加しないの?」
「雪合戦? んー、私はいいかな。だれかに雪玉をぶつけるのは悪いし。そういうのは可哀想で見てられないから」
「そうなの? 斉木くんは出るって聞いたけれど」
「じゃあ出ようかな。平田くんに言えばいいんだよね?」
あまりの掌の返し具合に堀北さんや近くにいて聞いていた網倉さんもずっこけていた。
「え、えぇ……(本当に好きなのね……)」
(あわわ、帆波ちゃん大丈夫かな……大丈夫だよね? でも櫛田さんも髪伸ばしてて胸も大きいし……千尋ちゃんの言ってた斉木くんが髪長くて胸大きい子が好みって本当なのかも……)
僕の知らないところで酷い噂が流されようとしているな。
機会があったら白波さんの誤解は解いておくか。
とはいえ、それで別の誤解が生まれそうなのでやり方は考える必要はあるが。
参加する生徒はじわじわと増えていき、部屋に残っていたはずの龍園も橋本からの連絡を貰ったのかこの場に来ていた。
「龍園さん! 来てくれたんすね!」
「まぁな。ポイントがかかってるとなったら来ない訳にはいかないからな」
石崎と山田に出迎えられた龍園を加えて最終的に6チーム46人となった。
僕と高円寺、綾小路と櫛田さんと堀北さんといった強力なメンバーがいるチームのみ7人で他は8人チームになっている。
「龍園は石崎のチームじゃなくていいのか?」
「ハッ、高円寺とクソメガネがいるチームの方が確実だからな。たかが1000ポイントでも貰えるなら確実に取りに行くだろ」
自分たちだけで8人を集めたチームが3つあり、僕のチームの7人はいつもの3人に加え、平田が気を利かせたのか櫛田さんと一之瀬さん、堀北さんが入っていた。
……堀北さん?
「ありがとう平田くん。わがまま聞いてもらって」
「ううん。構わないよ(櫛田さんには文句言われるかもだけど……)」
気を逸らしていたため聞いていなかったが、どうやら堀北さんから申し出たらしい。
伊吹さんのチームと対決させるために最後の3試合目まで出番はないが他のチームを観戦することはできる。
石崎率いる男子8人で構成されたチームと同じく男子8人の須藤率いるチームが激突していた。
ただの雪合戦ではあるが盛り上がっているようで、僕の隣に来た坂柳さんも楽しそうに観戦していた。
「出られない人は出られない人でどのチームが勝つか賭けてるんです。私はもちろん楠雄くんのチームに入れましたよ」
今回の雪合戦はトーナメントや総当り形式ではなく、旅館への迷惑なども考慮してあくまで1試合だけ。
そのため3試合賭けるとなると3000ポイント必要になるが、賭けられる試合は1試合のみという制限がついている。
「今回の修学旅行、正直私はあまり楽しめないものだと思っていました(足のこともありますし、スキーにしろ自由行動にしろ迷惑をかける覚悟で来ましたから)」
しかし、そうではなかったと坂柳さんは僕の服の裾を握ってくる。
「楠雄くんと帆波さんたちのおかげで一生の思い出になりました。本当にありがとうございます」
そう言って笑顔を向けてきているのであろう坂柳さんの顔を瞬きしてから見て、僕は肩を竦めた。
『修学旅行はまだ終わっていないぞ』
「ふふっ、そうでしたね。では、多大なる戦果を期待しています」
第1試合は堀北さんに振られた怒りをぶつける須藤の活躍で須藤チームが勝利し、続く2戦目は柴田と平田のサッカー部対決が行われたが、油断していた柴田が負ける形で試合を終える。
しかし、真剣勝負というよりは遊びの延長に近かったためか、互いに楽しかったなと健闘を称えあっていた。
そして第3試合が始まる。
7人チーム対7人チームだが、こちらのチームには運動神経に優れた生徒が多く集まっている。
あちらのチームの男子には綾小路と葛城、戸塚、神崎がおり、女子は伊吹さんと小野寺さん、木下さん、そして綾小路に嵌められた山村さんがいた。
「ククク、雑魚ばっかりだな」
「そうは言うが山村以外は手強いぜ?」
「こっちのバケモン2人見て言えんのかよ」
龍園は勝ちを確信しているが、橋本はどうにも不安があるようで「本当にそうか?」と僕と高円寺に疑いの目を向けてくる。
僕にやる気はないが高円寺は声をかけてきたからにはやる気はあるはずだ。
傍から見てもテレパシーで聞いていても微塵も感じられないが。
「じゃあ、よーい、スタート!」
平田の合図で試合が始まると、2試合同様に前線で戦う生徒達に雪玉が集まるかと思われたが、僕と高円寺を早く潰さないといけないと思ったのか山村さんと綾小路以外は僕たち2人を狙ってくる。
僕と高円寺はそれを避けることなく受け入れるとコートの外に出た。
「何やってんだてめぇら!」
「やっぱりな……(どっちもやる気がないと思ったんだ)」
龍園からは怒りの声を上げられるが僕たちは気にすることなく外に出る。
すると、近くにいたみーちゃんが高円寺に尋ねた。
「あの、なんで雪合戦に……?」
「出ると決めた時はやろうと思ったんだがねぇ、私と楠雄がいるチームが勝つのは当然だろう? だからさ」
「は、はぁ……」
要するに手加減したか、あるいは僕と2人チームだけのチームが良かったということらしい。
だったら最初からそう言えよと思ったが、高円寺は気分屋であるため僕でも読めないことが多い。
気にしても仕方ないと僕らの居なくなったコートを見てみるが女性陣と文句を言いながらも龍園が善戦しており、1歩も引かない試合展開を見せていた。
最後は男女それぞれ龍園と綾小路、堀北さんと伊吹さんの一騎打ちとなり、綾小路と伊吹さんがそれぞれの相手を倒し、僕らは1000ポイントを支払うことになった。
その後は班での自由行動のため、再び集まり直した3班は昨日回らなかった北海道の観光地を回ることにした。
下調べを念入りにしてきた高円寺の案内という名の独断行動に着いていきつつ、橋本や時任たちも観光を楽しんでいた。
「ここのメロンソフトクリームは絶品と聞いてねぇ。どうだい楠雄、味の方は?」
悪くにゃい。
文句のひとつでも出るかと思われた高円寺の観光コースだが、美味しいものがたくさん食べられて僕も満足だ。
修学旅行も今日で最後。
今夜を乗り切れば僕たちの修学旅行は終わるのだ。
自由行動が終わり宿泊施設に戻ってきた僕は食事を終えて大浴場での入浴も済ませる。
消灯時間ギリギリまで部屋の外で過ごすと決めている僕は人気の少ないロビーに来ていた。
まだ夜の8時ではあるが、最後の夜ということもあってかロビーに生徒たちの姿はなく、僕はソファーに座って寛ぐことにする。
携帯は敢えて部屋に置いて通知関連は全てオフにしているため、電話やメールでの呼び出しには応じなくていい。
一之瀬さんには悪いが今日はやり過ごさせてもらおうとして、僕は急いでその場から立ち上がった。
「あ、いた! (やっぱりここにいた!)」
しかし風呂上がりにもかかわらず発汗を気にせず駆け足でやって来た一之瀬さんの到着の方が早かった。
まさか僕の行動を読まれるとは予想外すぎる。
「あ、ごめんね、急に……その、橋本くんが部屋にもいないし携帯置いていってるって言ってたから消灯時間まで1人で過ごすのかなって……」
全部読まれてる。
なんだかんだ言ってこの学校では1番付き合いが長い女子生徒ではあるからな。
男子なら神崎だが、神崎には僕の行動予測はできないし、する理由もない。
しかし、一之瀬さんにはする理由がある。
「その、少し時間貰ってもいいかな」
修学旅行の最後の夜というのは告白する方もされる方も悪くないシチュエーションなのだという。
告白以外にも修学旅行の夜というのは特別なものだ。
現に網倉さんがクラスのメンバーを集めて消灯まで話をしようと一之瀬さんを探している。
ならば彼女にむしのしらせやロビーで見たよという声を長せば僕はこの状況を脱することができるが。
"一之瀬を悲しませるようなことはしないでくれよ? "
……やれやれ。
柴田のあの言葉はまるで呪いみたいに僕の脳裏に残っていた。
しかし、僕はこれから一之瀬さんの告白を断らないといけない。
それは一之瀬さんを傷つけることに他ならない。
だからそれを避けるために告白されないように過度な接触は避ける。
話すにしても周囲に人がいる時に限定した。
告白する隙を与えないようにしてきたが最後は一之瀬さんの方が1枚上手で、彼女は心のどこかで断られることを覚悟して僕に声をかけてきた。
ならば、僕は……。
『わかった』
頷いて答えるのが最低限の誠意だと思ったため、そうすると一之瀬さんは一安心したように胸を撫で下ろす。
「よかった。……場所も変えていいかな? 人に聞かれたくない話なんだけど」
それは僕もそうだが、旅館内に完全に人気がない場所は従業員が使うような場所にしかない。
風呂の近くにあるボイラー室や電力管理をしているメーター室のような場所には僕らは入れない。
すると、一之瀬さんは躊躇うようにしつつも言った。
「外、出よっか」
外出が認められているのは午後9時までで、今の時間なら特に問題は無い。
それに好都合なことに外にいるのは見回りの坂上先生だけだ。
あの先生なら聞かれたとしても周りに吹聴するようなことはしないし、僕なら僕と一之瀬さんの声だけ聞こえないようにすることもできる。
一之瀬さんの後に続いて外に出ると雪が少しばかり降っていた。
「っ、寒いね〜」
互いに浴衣姿であるため、北海道の冬の寒さと雪の冷たさは身体にくるものがある。
僕は大丈夫だが、一之瀬さんは余計にだろう。
この先には高台があり、ライトアップされた景観を見ることができる。
この旅館に来た初日か2日目には高台に上っているため、雪の寒空の下にもう一度来るような物好きはそうはいない。
ウッドデッキの作りになっているこの場所に来ると一之瀬さんは足を止めた。
「ごめんね、こんなところまで」
風の音は強く、降り散る雪もあってか声は普段以上に遠くまで届かない。
ここで告白することを選んだのだろう。
一之瀬さんの言葉に気にしなくていいと首を横に振って問題ないと伝えると一之瀬さんは僕に向き直る。
「今日、楠雄くんには伝えたいことがあったんだ」
ここなら誰にも聞かれることはないと伝えれば、一之瀬さんは深呼吸を1つ挟み、息を整える。
雪が舞い散る夜空の下で、一之瀬さんはゆっくりと口を開いた。
「楠雄くんはさ、好きな人とかできたことある?」
いきなり告白ではないのか。
風邪をひかせると悪いからあまり長くなるのは困るが、幸いにしてこれから告白することもあって緊張している一之瀬さんの体温は高い。
そのため僕が遠隔でパイロキネシスで足元から温度を上げてやっても気付いていない。
雪の降る中でも一之瀬さんの頬は赤くなっていて、吐く息は白かった。
僕に話しかけるその瞳は潤んでいるようで、感情を抑えているようにも見えた。
「私はね。いるんだ。聞いたことあるかもしれないけど……」
嫌という程聞かされたが……不思議と中学時代までに経験したことに比べれば不快感はあまりなかったな。
うちの高校が特殊で閉鎖的だったせいもあるが。
それに相手が1人や2人じゃなかったのもある。
「今日はちゃんと、私の口から伝えようと思ったの」
僕はあそこにUFOがだとか、突然腹痛を起こしてという演技をすることもせずにただ一之瀬さんの言葉を待った。
「私、楠雄くんのことが好き。好きっていう言葉じゃ足りないくらい。大好きでも足りないくらい……好き、なの……」
僕は既に彼女の気持ちを知ってしまっているため、告白自体に驚きはない。
『なんで泣くんだ』
了承もしていないし、まだ振られてもないのに。
なにか僕が言ったならわかるが、その前から泣かれるとは思わずに僕は一之瀬さんに問いかける。
「ごめんね。楠雄くんが、恋人作ったりしないって、知ってるのに……私が、わがままで、伝えたいって思っちゃったせいで……困る、よね」
目の前で泣かれる方が告白されるより困る。
ひっく、ひっくとしゃくりあげる様に泣いている一之瀬さんを僕は見ていることしかできない。
「ほんとにごめんね、困らせて……謝ってばかりだし……私が勝手に好きになって、私のわがままで伝えたかっただけなのに……困らせるだけってわかってるのに……こんな、迷惑しかかけられない女の子に、好かれても……困る、よね……」
僕が何も言えなくなってしまっていると一之瀬さんは僕の手を握ってくる。
「お願い、でも、どうしても、もうちょっとだけ……一緒に、いて欲しい……明日からは、今まで通り、ちゃんと、するから……」
これで断れるほど僕は冷徹でもなかった。
一之瀬さんが落ち着くまでの間、僕は握られた手を振り払うことなく立ち尽くす。
本来なら、普通の男の子なら肩を叩いたり、こちらから抱き締めたり、涙を拭ったりしてあげるべきなのだろうが、僕にはそれが出来ない。
力加減ができないわけではなく、これから振る相手に希望を持たせるのは良くないと思っているから。
傷つけたくないのに、どうすればいいのか僕にはわからない。
この学校の教師ら生徒のほとんどは僕がなんでもできる人間のように言うが、僕もまた無力な時はある。
『迷惑じゃない』
「……えっ?」
傷つけないように、これからも同じクラスメイトとしてやっていくために、リーダーと切り札とやらの関係に傷がつかないように。
僕は柴田から貰った建前を手に、一之瀬さんの手を掴み返す。
僕には、人の考えていることは分かっても、その奥底にある本心までは正確にはわからない。
人の心は空模様のようにガラリと変わる。
昨日まで好きだったのに突然牙を剥いてくることもあれば、興味なさげだったのに急に詰め寄ってくる。
人間は愚かで、醜くて、卑劣なことを誰よりも知っているから。
超能力者として生まれて、このまま生きるしかないと悟った時に恋人を作る気は無かったし、本来なら友人なんてものも作る気はなかった。
ただ、迷惑なことにズカズカと僕のパーソナルスペースに入ってきては好き放題されて、僕もそれに付き合うしかなくなる。
普段は無口な僕でもやれやれ、迷惑なやつらだと愚痴りたくもなる。
けれど、一之瀬さんは僕のことだけではなく周りのことを考えて、自分のことを押し潰したりしながら懸命に生きてきた。
過去の罪と戦いながらもこの学校で変わろうと努力していた。
母親や妹さんに胸張れる人間として戻るために。
『僕は一之瀬帆波のことを心から尊敬している』
「そんな、こと……」
『ある。学年どころか学校唯一のオールA+がそう言うんだ。間違いない』
涙が止まった一之瀬さんは、目尻の涙を拭って鼻水を啜ると僕の手を握り直してくる。
「そう、かな」
『そうだ。そんな人から好かれて、迷惑とは言えない』
(ふぎゅっ!?)
だからこそ、もしかしたら。
本当にこれからの1年と少しで僕にも何かしら気持ちの変化があるかもしれない。
こうして手を握り返してもいいと、思っていたことを口にしてもいいと思えたように。
クラスメイトたちとご飯を食べたり、柴田や高円寺、橋本、龍園たちとくだらない話をしてやってもいいと思ったように。
櫛田さんや坂柳さんのわがままや、椎名さんの脳内ネタバレに振り回されてもやれやれで済ませてきたように。
これから過ごしていく1年で、恋人を……いや、さらにその先の関係を過ごしていく人との日々を想像できる日が来るかもしれない。
それは一之瀬さんなのかもしれないし、櫛田さんなのかもしれないし、あるいは坂柳さんや椎名さん、意外と佐倉さんや鬼龍院さん、天沢やまだ会ったことのない卒業後に会う人になる可能性もあるが。
『今は応えられないが、卒業する頃には僕も一之瀬さんのように気持ちが変わっているかもしれない』
「じゃあ、また、告白するよ。卒業式の日に必ず。絶対、私以外に目を向けられないくらい、楠雄くんに尊敬されるままの私でいて、次は楠雄くんから告白されるような女の子に……なるから」
だから、と握っていた手を離し、恥ずかしさを誤魔化すためか一之瀬さんは背を向けて言う。
「楠雄くんも、私が結婚して、これからの人生ぜんぶ捧げてもいいって思えるような男の子のままでいてね」
それは……また、随分と……ん?
……もしかして、これは、逆プロポーズというやつ、か?
「えっ!? あっ! えっと、今のは! えっと! ほ、ほら! 楠雄くんって付き合うなら結婚もするって! 言ってたし! 私の家はあんまり裕福じゃないから迷惑! か、かけちゃうかもだけどっ! これから、その、私が……絶対楠雄くんに後悔させないようにするから……その……」
そう言って一之瀬さんは手袋を履いている両手を顔に当てる。
「わぁぁあぁあぁぁ!! なに言ってるんだろう私〜!!!!! (もう無理! 恥ずかしいよ! 結婚とかその先とか楠雄くんが言うから〜!!! あーもう! 告白はできたからよしってことで!)」
何故か僕が悪いような言い方をして一之瀬さんはそう言うとバタバタと登ってきた階段を駆け下りていく。
『……おっふ』
危なかったな。
まさかそこまで考えていたとは……。
一之瀬さんの人生を捧げられるほどの器は僕にはないと思うが……。
ただ以前の僕ならしない返事をしてしまったな。
あの子の優しさにつけ込んで悪さをするやつらは多く、放っておけない気持ちもあって目を掛けていたせいでこうなってしまった感は否めないが……やはり母さんに近しい善性を感じていたせいもあるのだろうか。
一之瀬さんは随分と強かになったしもう1人でも大丈夫だとは思う。
しかし、どちらかが退学しない限りは1年は過ごすことになる。
卒業まで告白はして来ないがアピールはされるのか……。
これから起こるかもしれないことを想像して、それをクラスの連中から見守られることを考えると憂鬱だと思いつつ僕も自室に戻る。
部屋に戻ると橋本と時任にどうしていたのか聞かれたが、一之瀬さんとの会話で疲れた僕はもう一風呂入っていたとだけ言って眠った。
翌朝のチェックアウトを終えて新千歳空港へと向かい、昼前の便で羽田へと戻る。
飛行機では修学旅行が終わるという寂しさと共に充実感で満たされていて、全員が笑顔で修学旅行を締めくくった。
僕1名を除いて。
祝え!彼女こそが斉木楠雄を今作で初めておっふさせた存在!
その名も一之瀬帆波! 優しさと強かさを併せ持ったヒロインの誕生の瞬間である!
てことでまぁ書きたかったことが書けて余は満足じゃ……
雪合戦に負けた龍園は泣いていい
一之瀬は言いたいこと言えたし恥ずかしいことは言ったけど断られはしなかったのでかなりスッキリって感じ
高円寺だけ(ふむ、告白は済んだようだがあの感じだと断っても無さそうだねぇ〜楠雄の春はまだ先かな)と気付いている。
くーちゃんにしては優しいかとも思うけどあと1年はいるし、逃げても避けても結局告られるから諦めよ試合終了だって感じ。
くーちゃんにはクラス移動の手もありますがどこに行っても同じですからね。
一之瀬さんはあわよくばキスまでいこうとしてました。
可愛いね。
個人的に一之瀬さんはムッツリだと思うのってこれ前も言ったな
ボケたかな俺も
てことで修学旅行編は終わりです
ではまた次回
次で9……?早くない……?まぁええか……