乗り遅れるなよ!
2年生の2学期最後の特別試験に向けて、オレたちDクラスは連日勉強を繰り返す日々が続いていた。
勝利しても得られるクラスポイントは微々たるものであり、それだけではまだCクラスに追いつくことは難しい。
しかし、それでもAクラスに近づくためには必要なポイントだと堀北と櫛田がクラスメイトたちに伝えたため、クラスは勝利に向かって突き進んでいる。
昼休みに入ると直ぐに大勢は食堂へと向かうのが常であったが、教室には半数以上の生徒が残っており、持参した弁当やコンビニなどの弁当を取り出して、食事をしながらでもできる勉強に取り組んでいた。
特別試験が発表され、さらに櫛田がクラス移動せずこのクラスに残ることを宣言してからは士気も高まっている。
「愛里〜、ここわかんないよ〜」
「えぇ……っ……あ、そこならわかるかも……」
クラス内でもOAAの総合力で最下位争いをしていた愛里がおそらくは斉木からの教えを受けて成長したこともあり、それを知らずともクラスでは自分たちもやればできるはずと前向きな空気が漂っている。
その成果もあってか、園田や池といった今まで勉強には後ろ向きだった生徒たちもみーちゃんや櫛田を教師役に添えていることもあって休み時間は勉強に前のめりになっていた。
池の彼女である篠原はその様子に不服そうではあるが、クラスの勝利のためと割り切っているため口出しをすることはあまりない。
それは櫛田が以前ほど男子との距離感を詰めるような行為が減ったことや、斉木に対して好意を持っていることを伝えていることもあるかもしれない。
「みんなやる気があって良かったね」
そんな和気あいあいとしつつも勉強に取り組むクラスメイトたちを最後方の席から眺めていたら平田に声をかけられた。
「退学がかかっていない試験でここまで前のめりなのはいい傾向だな」
「そうだね。ただみんな寝不足みたいだし、本番前に倒れてしまわないか心配だけど」
それは本堂や池たちに言ってやったらいいんじゃないかとオレは平田から目線を切りつつ、クラスに点々と存在する勉強グループを見やる。
退学を回避するために勉強する。
彼氏彼女のために勉強する。
なりたいもの、Aクラスになるために勉強する。
理由は様々ではあるが、原動力がなければ人は頑張ることができない。
須藤にしてもそうだ。
愛里の場合もまたオレに認められるためなのだろうか。
これまではその努力に踏み出すまでが難しい生徒も多かったが、こうしてクラス全体がまとまりを持ってくることで着実にAクラスへと近づくことができる。
ただ現Aクラスの一之瀬クラスは体育祭で1位を逃しはしたものの、それでもオレたちDクラスとのクラスポイントの差は果てしない。
ただ、来年の今頃はどうなっているか分からない。
「そういえば、こういう時は龍園くんのクラスが妨害してくるものだと思ったけど大人しいね」
「言われてみればそうだな」
あいつらなら昼休みだろうが放課後だろうが勉強会をしているクラスに問答無用で踏み込んでくるものだと思っていた。
やり方は単純だが集中力の切れやすいうちのクラスには効果はある。
ただそれも堀北や櫛田、平田によって簡単に対策されるため、龍園は無駄だと思ってやっていない可能性もある。
「龍園くんも変わったってことかな。修学旅行でも大人しかったんだよね?」
「まぁな」
他校の不良と喧嘩しようとしたり、鬼頭と揉めた以外は大きな話題はなかった。
今回の試験では露骨な挑発や邪魔もなく龍園は真面目に試験に取り組んでいるのか、あるいはうちのクラスより勉強が不得手な生徒が多くなりつつある現状を鑑みて試験を放棄するのか。
何もしてこないことを安心する生徒もいれば、オレのように何か別の思惑があるのではないかと考える生徒もいる。
本人に聞いたところで適当にはぐらかされるのがオチだろう。
それに今回のような筆記試験に特化した特別試験ではできることが限られている。
龍園が取りそうな四六時中監視、プレッシャーを与え続けることや、試験前日に下剤を仕込むというアウトゾーンな手も効率的ではない。
「平田く〜ん、ごめん、ちょっと代わってもらっていいかな?」
「うん、わかったよ櫛田さん」
櫛田に呼ばれ、平田は池の教師役を引き継ぐ。
そうなると代わりに櫛田がやってくる……なんてことはなく、櫛田はお弁当袋を片手に教室を出て行く。
新たに生徒会長になった一之瀬に声をかけられて櫛田は生徒会役員になった。
おそらくは生徒会室に行くのだろうと見守っているとオレに突き刺さる視線がある。
その方向を見てみると松下、佐藤と勉強しつつも、何故かこちらを睨みつけてくる恵の姿があった。
「どうしたの恵ちゃん」
「ううん、別になんにもないよ!」
佐藤に問いかけられて恵は視線をオレから外してくるがどういう意図があったのかは不明だ。
櫛田を見つめていたのが気になったということなのだろうか。
一見すれば嫉妬と呼ばれる感情に見えるが、オレがひよりと図書室で話したと言った時とは異なる表情。
文化祭以降に恵が向けてくるようになった視線の正体は不明のままだ。
オレとの時間は減っていないし、冬休みには一緒にクリスマスプレゼントを選ぶ約束をしている。
ただその時に斉木に誕生日祝いをしてもらったお返しがしたいという話をした時にもあの視線を受けた気がする。
まさか男に嫉妬するということはないだろうが、やはりどういう感情が渦巻いているのかは後学のために知っておきたいところだ。
そして、特別試験以外は平穏無事な生活を過ごしながら、特別試験も終わり、ついに2学期の終業式を迎えた。
毎学期のことではあるが、終業式であるため体育館で先生方の話を聞かされる。
それが終わると後回しにされていた南雲の引退セレモニーがあり、そして生徒会長である一之瀬の就任挨拶があった。
「2年Aクラスの一之瀬帆波です。南雲生徒会長からバトンをいただき、この度、高度育成高等学校の生徒会長に就任させて頂くことになりました。これからよろしくお願いします」
南雲が堀北兄から生徒会長の座を引き継いだのは体育祭の後だったため、今回の新旧生徒会の交代はやや遅めと言える。
これは去年に南雲が言っていたが例年は12月であり新体制に移行するのを早めたからだと言う。
だがそれでも総選挙の手間を省き、ほかの役員の任期を伸ばそうと努力した南雲がいかに生徒会長として辣腕を奮ってきたかという証明でもあるだろう。
OAAやクラス移動チケットという、実力主義に特化した学校に変えていくという公約は果たせたと言える。
堀北兄が伝統あるこの高校の規律を守り、南雲が実力主義に特化した高校に変えていきつつある中で一之瀬はどんな学校を目指すのか。
「恥ずかしながら私は前年に卒業された堀北元会長や前生徒会長の南雲会長のような高尚な理念やこうあるべきという指標を持ってはいません。けれども、ここにいる皆さんがAクラスであってもなかろうとも、笑って、この学校に来て良かったという気持ちで卒業できるような学校にしたいとは思っています」
その宣言に、去年のような沈黙はなく、むしろキラキラと輝く一之瀬の瞳に吸い寄せられるように感嘆の声をあげる生徒は多かった。
反対にAクラスでの卒業がゴールと思っている生徒からの心象はあまりよくない。
これがDクラスの堀北のセリフであればAクラスであってもなくてもという言葉に現実味を持たせられたかもしれない。
しかし、一之瀬はAクラスの生徒だ。
当然、Aクラスの人間に言われても胸に響かない生徒はいる。
「この学校は実力主義です。けど、そんな学校でも友達を作って、遊んで、笑って、恋をして……そんな本来学生が経験することも私たちにはできます。だから、Aクラスになれなくても悲観することなく学生本来の楽しさを損なって欲しくはありません」
この学校に来たやつの大半は自身の希望する就職先や進学先が確約されているという謳い文句を見てやってきている。
だが、一之瀬の言うように学生が本来経験すべき青春のひと時を得ることもできる。
一之瀬としてはAクラスでの卒業に囚われずに学生本来の楽しみも謳歌して欲しいということなのだろうか。
そう考えていると一之瀬は突然、自身の過去について話し始めた。
「知っている人の方が多いかもしれませんが私は中学時代に万引きをしたことがあります。父がいなくて、母子家庭で貧しかったために、誕生日プレゼントの貰えなかった妹のためと私は万引きをはたらきました」
今の2年生と3年生なら大半は知っているであろうことだが、自分から掘り返したことにざわめきが起こる。
この場で知ることになった1年生も同様だ。
「理由はなんであれ万引きは犯罪です。私は犯罪者として生きていくしかありませんでした。けど、この高校に来て、私は変わろうと思いました。私の過去を知らないここでなら新たにやっていけると思ったからです」
しかし、一之瀬のその決意も、一之瀬のあの優秀な能力と社交的な性格にも関わらずBクラスという不信感が坂柳に過去を暴かれる結果となった。
「でも、過去はいつまでも私に付き纏って来ます。実際、私はクラスのみんなや同級生たちと話している時にも、私は過去に万引きをした。悪い人間なんだと苛まれていました。けど、私に、こんな私でも嫌いになることはない、尊敬していると言ってくれる人がいます」
一之瀬の言葉に2年Aクラスがざわめく。
「千尋ちゃん?」
「ううん、私じゃないけど……」
「尊敬は誰かしら言いそうではあるが」
一之瀬に好意を向けているらしい白波が候補に上がったようだが、彼女は首を振る。
言いそうな人間の心当たりは他にはいない……というわけでもないようで、一之瀬がわざわざそのエピソードを話すということは……と1人の男子生徒に視線が集まっていた。
「私はその人のおかげで過去は過去で、未来はどうにだって変えられる。その事を教えてもらいました。だから皆さんもAクラスで卒業できなくとも、この学校でよかったと思えるような思い出を、大切な人を見つけられるような学校にしていくため、私は生徒会長とこれからの学校作りをしていきたいと思います。改めてこれからどうぞよろしくお願いします!」
そう強く言い放った一之瀬の所信表明に
生徒たちは自然と拍手をする。
Aクラスでなければならないと躍起になっている生徒からすれば余計なお世話と思うものも多いだろう。
しかし、そんな緊張感も薄れていき、少しずつ変化していくのかもしれない。
終業式が終わると、教室に戻ってからは部活の大会などで優秀な成績を収めた生徒の表彰を簡易的に行い、冬休みの注意事項を受ける。
その後、茶柱先生から特別試験の結果発表が伝えられた。
誰もが固唾を飲んで聞かされた結果は、僅差ではあったが自分たちのクラスの敗北。
「そんな……なんでだよ!?」
特別試験まで勉強の日々を送っていた池はその結果を受け入れられずに声を張り上げる。
それに茶柱先生は同情するように事実のみを伝える。
「正答数という観点ではお前たちの方が上だった。しかし、学力D以下の生徒はCクラスの方が多い。お前たちが作戦を持ってテストに挑んだように、Cクラスも勝利のための作戦を取っていたということだ」
堀北が立てた作戦は問題に挑む生徒の先頭を頭のいい生徒にし、必要最低限の問題を2問解かせる。
その後の残された時間で問題文を読ませて学力の低い生徒に簡単な問題を解かせるべく、問題文を読み込む。
次の生徒の入れ替わりのタイミング、次の生徒は学力が低い生徒にしておき、入れ替わりの一瞬でハンドジェスチャーで解くべき問題を伝えるというものだった。
試験中に会話、携帯や筆記、メモを用意することは許されていない。
しかし、ハンドジェスチャーに関しては禁じられていないため、どの問題番号を解くべきかというのをハンドジェスチャーで示すことでオレたちDクラスは学力の低い生徒たちが問題を探す手間を省いたのだ。
それでもCクラスには勝てなかった。
今までの試験のように、各クラスの生徒、誰がどの問題を解いて何問正解したかを事細かに知ることができる。
テストを受けた順番、使用した待ち時間なども開示されるため、Cクラスの戦略も知ることができる。
すると、Cクラスは先に頭のいい生徒、ひよりや金田に難易度の高い問題を解かせて、簡単な問題は残しておくという方法を取ったらしい。
解く順番も学力が高いやつから低いやつとなっており、高い生徒が最低限の2問を解きつつ、B以下の生徒では解けないであろう問題を処理することで正答率を高めつつ、学力C以下の生徒に正解させて点数をあげる作戦だ。
正答率が高くとも、点数では劣っていたというのも納得のできる結果だった。
その差はたったの2点。
龍園もかなりギリギリの戦いをしたということだろう。
その龍園も学力C+ながらも難易度としては高めの問題、A-は必要であろう問題を解いていた。
正答率が勝っていても負けは負けだ。
しかし、その事実を悲観することはないと堀北と櫛田、平田がクラスに呼びかけることで沈んでいた空気を取り戻させる。
「明日からの冬休み、初日から無理はせず、知恵熱で高まった頭を冷やすのも大切だと思う。お前たちはよくやった。その悔しさは3学期で晴らして欲しい。以上だ」
そう茶柱先生に告げられて解散となり、オレは恵と帰るため待っていると、堀北が声をかけてきた。
「ごめんなさい、あなたにも協力してもらったのにこんな結果になってしまって」
「堀北は悪くない。むしろ、短い時間でよくやったと思うが」
堀北が立てた戦略自体は悪くなかったが、クラスの総合力が上がっているという点が仇になってしまった。
もし須藤や愛里の学力がEやDのままであれば加算される点数が多くなり2点差は簡単に覆っただろう。
ただ今回は下のクラスが下克上しやすいように作られた特別試験。
AからDと格付けされているクラスだが、実際の総合力は葛城・坂柳クラスがAである。
その葛城・坂柳クラスも一之瀬クラスの方が学力B以下が多いこともあって、葛城・坂柳クラスの方が正答率で勝るものの点数では敗北していた。
正答率88%という数字は誇るべきものであり、葛城・坂柳の完全敗北というわけでもない。
ただまたオレたちと一之瀬クラスの差がより開いてしまったことは事実だ。
「先生の言う通り、この悔しさをバネにまた3学期から頑張るしかないんじゃないか」
「そうね……」
堀北はそう力なく呟くと背中を見せて教室から出ていく。
そんな背中を見送ると恵が声をかけてくる。
「堀北さん、大丈夫かな」
話している様子は見ていたのか恵が心配そうに言うため、オレは首を横に振った。
「あれくらいじゃ堀北は参らないと思うが」
「そっか。そうだよね」
オレの回答に恵は納得したように頷く。
「ま、私たちも冬休みくらいはしっかり休んで3学期から、だよね」
「復習くらいはしておいた方がいいと思うが」
「うっ……そう、だよね……」
形はどうあれ特別試験と2学期がやっと終わったかと思えば、リベンジを目指すことになるDクラスとしては歩みを止めることはできない。
1分1秒の油断が1日1ヶ月後の不利益を迎えることになりかねない。
「そういえば、冬休みのことなんだけど、ちょっと話さない?」
恵にそう言われて少しだけ頭の中でイメージしてみる。
今のところクリスマスにプレゼントを買い合う予定くらいしかないが、他にもなにかしたいということだろうか。
斉木を見ていてというわけじゃないが、オレは恵を恋愛の教科書として見つつ、恵の依存体質、寄生先がないと不安で生きていけないという体質を治すことはやめた。
今は恵のことが好きになれるようにこうして付き合っているが、その兆候は見られない。
男女の付き合いにあるというトキメキや高揚というものはなく、オレにあったのはまだ成長できる、学びの機会があるのだという喜びのみ。
これは恋愛による高揚とは異なるものであるため、恵がもたらしてくれた感情ではない。
手を繋ぐ、抱き合う、キスをする、男女のまぐわいをすると学生の男女交際にあるステップは踏んできたがどれもオレの心を突き動かすようなものはなかった。
相手が恵だからなのかもしれないと、オレが特別視しているらしいひよりと付き合えば変わる可能性はあるが、そのひよりの心がオレにあるのか斉木にあるのか悩ましいところだ。
「また別のこと考えてる……」
教室を出て、寮へと戻り、恵の部屋で明日からの話し合いをしようという時に恵からそう指摘される。
「悪い。冬休みはどう過ごそうかと考えていた」
「ホントに?」
嘘をつく理由はないと言ってみるも恵の顔は晴れない。
大抵の場合、こういう時は手を繋いだり甘い言葉を囁いたりすると機嫌が治るものだが、今日の恵は違った。
「冬休み、私以外と遊ぶ予定とか入れてないの?」
「今のところは無いが、誕生日プレゼントを貰ったお返しに斉木には何かお返しをしようと考えている。それくらいだな」
「斉木くん、ね」
お返しをするということは前々から言っていたため、恵が今更噛みつくことはないと思われる。
そのお返しが気になるのか恵はじっとオレを見てくる。
「その時に遊びに行ったりしないの?」
「もちろん聞いてからにするつもりだが、斉木のプレゼントを買いに行くから、一緒に行った方がいいかもしれないな」
「そんなのどうでもいいじゃん」
恵は一度、深呼吸をしてからオレに迫ってくる。
「そんなにお返ししたって、お礼のお礼のお礼のお礼のお礼……って果てしなく続くだけでしょ!? だったら最初から受け取らなきゃいいじゃない!」
「それは無理だ。一度でも拒否すれば仲を悪くする上に、そういった恩を仇で返すような行為をする人間だと評価が下がる」
「斉木くんはそんなことで清隆のこと嫌いになったりするような小さいヤツなの?」
「そんなことは無いが、オレの気持ちの問題だ。貰ったら返す。というのは当たり前のことじゃないか?」
実際、2年連続で誕生日プレゼントを貰っているのにオレだけ何も返せていないというのは不義理なことだ。
今回は恵もいるし、斉木に喜ばれるようなお返しをしたい。
とはいえ、斉木のことだから甘味の類いならハズレを引く事はないとも思うが、その手のものは貰い飽きているだろうし、形に残るものをあげたい気持ちもある。
「当たり前のことだけどさ、なんか変だよ。清隆、斉木くんの話をする時だけ、いつもと全然違うもん」
「そうか?」
そんなことは無いと思うがと言おうとして恵は立ち止まって大きく口を開く。
「違うってば!!」
そこまで言うと恵は俯いたまま押し黙ってしまう。
下手に触れるよりも落ち着くのを待とうとしたが、恵は小さく言葉を続けた。
「あーもう! 馬鹿!」
「……なんだって?」
「鈍感! 唐変木! 朴念仁! お坊ちゃま! バーカ!」
「子供か?」
お坊ちゃまってなんだと情緒不安定な恵に困っていると「もういい!」とその場で拳を握った。
殴られるのかと身構えたが振りかぶる素振りなどはなく、恵はそのままオレの正面に立って睨みつけてくる。
「清隆は斉木くんのことばっかり! そんなに斉木くんが好きなら斉木くんと付き合えばいいんだよ! 清隆が私のこと、女の子としては見てても好きな人として見てないのはもう分かってた! それでも、それでも……私は……っ!」
顔には涙を浮かべて、クラスで上位カーストに位置する女の子の顔とは思えないほどぐちゃぐちゃになった様相で恵はオレに言い放ってくる。
「修学旅行で斉木くんの話、たくさん聞いたの、私はどんな男の子なのかよく知らないから。そしたら、坂柳さんも、一之瀬さんも……、みんな楽しそうに、嬉しそうに話すの……それを見て、気付いたの、好きな人の話をする時って、好きな人といる時ってみんな笑顔になるんだって……でも、清隆にはそれがなかった……ううん、私にはそういう顔を向けてくれなかった……」
「言っただろう。オレは他のやつより感情の起伏が」
「そんなことない……っ、清隆、斉木くんの話とか、斉木くんといる時とか、斉木くんが高円寺くんとかと話している時、私が見たことない顔してたもん……っ」
そう指摘されて、堀北の前で笑った時のことを思い出す。
あの時も確か、オレと斉木が生徒会で死んだ目をして働いている姿が目に浮かぶと言われて、オレがそのことを想像して笑ってしまった。
物心というものがついた時には感情を失っていたこのオレが、入学当時に無理に今どきの高校生を演じたわけでもないのに自然と笑みを零してしまっていた。
「ごめんね、清隆……私じゃ、私じゃ清隆のこと、幸せに、笑顔にさせてあげられなくて、本当にごめん……」
怒りに満ちていたはずの恵はいつの間にか、静かに涙を流しながら、何度も謝罪の言葉を述べてくる。
恵と過ごす時間はオレの知的好奇心を満たしてくれるものだった。
だからこそ、オレにとって恵との付き合いは非常に有意義なものだった。
けれど、それは一方的なもので、オレは恵との関係性を満たしてあげようとしていなかった。
「恵……」
「ごめんね、清隆……ほんとに、ごめんなさい……」
どう声をかけていいのかわからなかった。
オレもそうだが、恵もそうだった。
きっと、互いに恋愛経験が不足しているせいだと思い込むには都合が良すぎる。
本当はオレの心の中に、どこかでずっと引っかかっていた。
恵といても心が満たされない、オレが求めるものを与えてくれない。
自分の中の欠落に気付きつつも、仕方の無いことと割り切って自己完結していたオレは恵を傷つけていた。
そして、目の前で泣く恵を見ても申し訳なさや罪悪感よりも、どうしてオレは斉木の前でのみ違う表情を見せられるのかという戸惑いが生じている。
「ごめんね、清隆……これ以上、私たち、もう、無理だよ……」
それは本来、オレが2年生の終わりに口にしようと、恵と付き合い始めた時に決めていたことだった。
しかし、その言葉は恵に先に言われることになった。
予想外のことにオレは、恵との関係で初めて高揚感を得ていた。
「そう、だな」
オレから言い出していれば恵を傷つけることになっていた。
それに恵から言い出させたということは、恵の根幹にある寄生先がいなくなるという不安は解消されているということになる。
それに、恵はオレが守るべきということも今の学校でならなくなっている。
このまま付き合っている方がホワイトルームからの刺客にも弱点として機能してしまう為、別れた方がオレとしても都合がいい。
「あたしたち、互いに、なんて言うか舞い上がっててさ、勘違いしちゃったんだよ。きっと」
「……そうかもしれないな」
別れ話をしているとは思えないほど淡白なやり取りのあと、オレは先程通ったばかりの玄関の扉へと目をやった。
「今までありがとね。さよなら、綾小路くん」
「あぁ、達者でな軽井沢」
オレの目的だった軽井沢を誰かに頼らないと生きていけない人間を、1人で生きていけるようにするという目的は達することができた。
悲しそうにしつつも、無理やり作った笑顔を少しだけ見て、オレは振り返ることなく恵の部屋を出た。
「まさかオレは斉木のことが……?」
そんなはずはないと断言することが……今のオレにはできなかった。
多様性が認知され、認められる時代になりつつある現代においては同性同士で好意を抱き、そして付き合うことは珍しいことではない。
それに照らし合わせて言えば、オレが斉木に友達以上の気待ちを持ち合わせていたとしてもおかしくは無いのだろう。
斉木に向けるこの気持ちが愛によるものなのかはわからないが、オレはまだ知らないことが多すぎると認識することができたのは恵と付き合った中でも大きな収穫だったかもしれない。
幸いにして、オレは今日から恋人のいない人間となるためフリーダムな存在となる。
「明日からの冬休み、少し楽しみになってきたな」
恵との買い物の予定はなくなったが、斉木にクリスマスプレゼントを買い、それをあげる予定はそのままだ。
一緒に買いに行く相手がいなくなっただけで支障はない。
オレだけの力で斉木を喜ばせることができるか。
フッ、ホワイトルームの最高傑作の腕の見せどころだな。
その頃のくーちゃん▶︎ケヤキモールで渡辺と柴田と神崎とでおやつもぐもぐにつき綾小路のことを知らず(スイーツに夢中+テレパシー圏外)
軽井沢は綾小路見てて、綾小路は斉木見てて、斉木はコーヒーゼリーの事見てる
軽井沢▶︎綾小路▶︎斉木▶︎コーヒーゼリー
みたいな図式
軽井沢から別れを切り出させるのは既定路線でしたが、まさか感想欄で指摘されるとは思わず……君たちも二次創作を書け!
このタイミングなのも予定通りです
なお、軽井沢の不信感のピークは栗子の時(綾小路から写真を撮ろうと言い出していたから)
軽井沢が話を聞いたメンツにひよりがいませんが(椎名さんは斉木くんのこと好きって言ってなかったし……まぁ友達としては好きかもだけど、清隆には言わなくていいか)的な判断
一之瀬が告ったことは女子組にはバレましたというか、一之瀬がバラしました
一之瀬「卒業式の日にもう一度告白して、OK貰ったら結婚するんだ……」
白波「あパァ〜!?」
小橋「そこまで話が進んでいたなんて……(なんでその場にいなかった私……!)」
網倉「部屋に帰ってくるなり寝ちゃったのはそういうことだったんだ……でも、うん、すごいね。あの斉木くんに告白までいけるなんて……」
一之瀬(そうかな?桔梗ちゃんにも告白されたって楠雄くん言ってたし……)
女子はお祝いムード
男子は柴田とか浜口が気づきかけ
まあ3学期にはクラス全員にバレると思われ(なんなら冬休みにバレる)
姫野はくーちゃんに恋愛感情は?(感想でちょいちょい見るので)
▶︎なくはないけどクラスメイトとしての関係でいいかなって思ってる。付き合う気ないって言ってるし、付き合えても長続きしなさそう。もし仮に付き合うなら卒業して再会したらくらいの気持ち。
ただくーちゃんからモーションがあったら普通に付き合う。
って感じです
負けヒロインとか言うなよ!
姫野さんは負けてない!
これにて9巻のこと終わり。
書くと決めてたことは書いたからええでしょう。
桐山の件も大きくしようとしたけど、したところでやなで早々に片付けました。
てことで次から9.5です。
9.5も原作と話が変わっているので全部はやらないかもですが珍獣たちとの鍋パとか変な話は入れたいと思います
ではまた次回