無から話を生み出すの久しぶりすぎる
クリスマスイブということもあり、ケヤキモールのそこかしこにカップルや友達連れが入り乱れており、僕は1人で通路の端っこを歩くばかり。
会ったことのない人間の誕生日の前日に良くもまぁ騒げるものだと感心するが、家に帰ると目の前を歩く生徒たちよりもはしゃぐ両親の姿を見せられるためあまり悪く言うのはやめようとケヤキモールの出口を目指す。
クリスマスだからと言って特別なことをする意味はないが、我が家では家族揃ってチキンとケーキを食べるという習わしがあり、それを17年も続けている僕としては馳せ参じないわけにもいかず、夕方になる前に帰路につくことにする。
まだ15時前ということもあってケヤキモールから寮までの道は空いており、人影もなく、照らす太陽も少し穏やかあるがその分寒々しい風が吹く。
昼にケーキとチキンを食べてしまったため、夜にも食べることになってしまうがこれは致し方ない。
とりあえず夜までは時間があるし、部屋に戻ったらゲルマニウムリングをつけてゆっくり読書といきたいところだが、僕には坂柳さんの予知問題を解決しなければならない。
タイミングは不明瞭だが、カーテンを締め切っているから夜であること、そして坂柳さんは確かサンタのコスプレをしていたので今日か明日ということは確定している。
まぁ大体僕の見た予知は当日になることが多いのだが、そうとも限らない。
しかし、流石に坂柳さんがクリスマスを過ぎてもクリスマスコスで僕の部屋にやって来る可能性は低いため、今日か明日と断定してもいいだろう。
そして、僕は今日の夜は実家に戻るため、あの部屋にいることはない。
つまりは明日であることは確定している。
そのためあのような状況に陥らないためには僕が部屋におらず、さらには坂柳さんを部屋に入れない。
この2つの条件がクリアされれば、チェックメイトというわけであるが、予知で見たことはほぼ確実に起こる。
ただし、それも目の前の石ころを退けるだけで変わったりすることもあるため、僕の部屋におらず、坂柳さんを部屋に入れないという行為があの予知に繋がる可能性も否定できない。
予知夢だとより詳細な流れが見れたりするのだが、あんな一瞬だけ見せられては分かるものも分からん。
これだから超能力は嫌なんだとポケットに手を入れたまま、部屋の鍵を開けて中へと入る。
部屋の片付けは朝に済ませてしまったため、ここでやることは特にない。
ふぅ、と息を吐きつつベッドに腰掛けると今日のこともあって肩の荷が降りたような感覚になる。
渡辺はスポーツジムに入ることができ、一之瀬さんとの食事は無事に終わり、白波さんの狂化も抑えることができた。
思えば、体育祭に文化祭、修学旅行と特別試験と行事が続いた中でようやくの冬休みであることに気づく。
振り返るのもそこそこにしつつ、僕は少し休むかと座り込んでいたベッドに背中を預けることとする。
幸いにして寮の連中のほとんどは外出しているようで聞こえるテレパシーも少ないから、ゲルマニウムリングをつけずともよく眠れそうだ。
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私が楠雄くんとカフェで分かれてから2時間ほど経って、手には桔梗ちゃんと選んだクリスマスプレゼントの入った紙袋が増えただけ。
女の子同士の買い物にしては軽い荷物だけで込められた想いはある……かもしれない。
なんて、そんな事を考えつつケヤキモールの中にある服屋さん、とは言っても普通の服屋さんじゃなくて、コスプレ衣装とかそういうのを取り扱っているところに行く。
高育の敷地外ならドンキとかになるのかな?
そんな感じのところに来ていた。
「これ、ホントに着るの?」
そこでクリスマスだからと売り出されているサンタ衣装を手に取った桔梗ちゃんが困り顔で聞いてきた。
桔梗ちゃんが手に取ったのは胸元が大きく開いてて寒そうだし、スカートも短い。
予定では着替えてから行くわけだし、エレベーターとか階段でも誰かに見られるととても恥ずかしいと思うし、楠雄くんに痴女と思われるかもしれない。
「うーん、そういう過激なのは着ない、かな」
「そうだよね! 良かったぁ……」
ほっ、と胸を撫で下ろして桔梗ちゃんは持っていた衣装を戻すと私に聞いてくる。
「帆波ちゃんは去年のクリスマス会で着たのがあるんだよね?」
「ううん、去年はレンタルしたよ」
昨年はクラスでクリスマス会をして、その時に場所を貸してくれたところが衣装のレンタルもしていたから柴田くんや麻子ちゃんたちで着たんだけど、今年は大部屋を借りるわけじゃないからここで買うしかないということになった。
でも、別にコスプレしなくていいんじゃないかなと言い出しっぺである有栖ちゃんを見る。
「ふふ、こういうのは着れる時に着ておかないと。私も含めて来年もこの学校にいるか分かりませんしね」
そんな不穏なことを言いながら有栖ちゃんは自分に合う衣装を探していく。
まぁこの学校には退学の危機と常に隣り合わせみたいなものだけど、この場にいる人達はよっぽどの事がないと退学しないんじゃないかなと思う。
足の不自由な有栖ちゃんの横で手伝いながら「これなんかいいんじゃないんですか?」とひよりちゃんがケープコートになっているサンタの衣装を手渡す。
「いいかもしれないですね。気に入りました。脱ぎ着しやすいですし、少し目立ちますが普段使い……は無理そうですね」
自分の姿を鏡で見ながら有栖ちゃんはそう言うと買う服を決めたらしい。
そして、私たちにも早く選ぶようにと急かしてくる。
「さぁ、皆さんも。早くしないと誰かに先を越されてしまいますよ」
それにひよりちゃんが困ったように笑顔を向ける。
「でもいいんでしょうか? 斉木くん、夜は予定があるんですよね?」
楠雄くんがクリスマスイブの夜は1人でなのかは分からないけどチキンとケーキを食べることに決めているのはみんな知っていて、楠雄くんもそのことは冬休みに近づくにつれて口にすることが増えていた。
クリスマスイブには決して予定を入れないという強い意志のようなものが感じられた。
まぁ楠雄くんは人の多いところは嫌そうにしつつも誘ったらなんだかんだで理由を見つけては来てくれる。
大抵はスイーツだけど、クリスマスに限ってはケーキを自前で用意しているからか必ず夜には帰ると決めているようだった。
その理由は私には分からなかったけど、桔梗ちゃんが口をひらく。
「斉木くんのお兄ちゃんから聞いたけど、ここに入る前は家族でパーティしてたみたいだよ」
「あのご家族ならそうでしょうね」
体育祭で初めて会った楠雄くんのお父さんとお母さんは、いつも無表情の楠雄くんとは正反対な性格だったけど、楠雄くんと同じくらい優しくて周りを明るくしてくれるようなとってもいい家族だった。
あの家族なら有栖ちゃんの言う通り毎年クリスマスパーティをしていてもおかしくはない。
15年もそんなクリスマスを過ごしていたら家族のところを離れてもそうしたくなって夜は空けているのかな。
「今年は斉木くんのお母さんたちは出かけるんだって」
「そうなの? っていうか、桔梗ちゃんなんでそんなに詳しいの?」
「お兄さんから聞いたんだよー」
なんでも「ボクも楠雄もいないんだし2人で楽しんで来なよ」とテーマパークのチケットと優待券とかを渡してあげたみたいで、2人は今日は夢の国を楽しんでいるらしい。
「いいなー」
私も楠雄くんと……生徒会長ならここにテーマパークとか作れちゃうのかな。
そう考えていると、有栖ちゃんが微笑む。
「私は家でゆっくりしたい派ですね。ひよりさんは?」
「私もです。それとあまり人が多いところはちょっと」
2人はインドア派みたいで、同じくインドア派であろう楠雄くんが外に出かけてしまうことはあまり想像できなかった。
「桔梗さんと帆波さんはどちらかと言えば外で過ごしたい派ですか?」
「私はそうでもないよ? 相手が行きたいって言ったら別だけど」
「私もかな。家族で家で過ごす方が好きかも」
クラスのみんなとぱーっとやってパンパカパーンって感じも嫌いじゃない。
ただ、好きな人と過ごすなら家の方がいいかなって思うかな。
「でも、家でクリスマスって言っても家族それぞれな感じするよね」
「ですね。私のところはケーキを買って食べて、翌日にプレゼントをいただいてという感じでしたね」
桔梗ちゃんの言う通り、クリスマスの過ごし方は家族それぞれだ。
ひよりちゃんのところは楠雄くんに近い過ごし方で、有栖ちゃんも似たようなものだと言う。
私のところはお母さんがその日だけビーフシチューを作ってくれて、とっても美味しかったのを今も覚えている。
「それより、斉木くんの部屋に行って大丈夫なんですか? 空助さん? が別に大丈夫なんじゃない? とは言ってても本人に言っていないというのは」
ひよりちゃんがそう言って不安そうな表情を浮かべる。それは私も思ったことだけど、私たちの不安を掻き消すように有栖ちゃんははっきりと言葉にした。
「大丈夫ですよ、楠雄くんならなんだかんだ言ってスイーツの1つでも持ち込めば部屋に入れてくれます」
「それはそうでしょうけど……」
楠雄くんの攻略法としては間違ってないんだけど、その大丈夫というのは一体どこから湧いて出てくるのかな。
まだ私もなんとなく会えるとは思っている。
じゃなきゃ、分かれた時にまた後でなんて言えなかったし。
「龍園くんや高円寺くんが声をかけている可能性などはないのですか?」
「あの2人は他学年の女性と遊ぶようですよ」
なんで知ってるんだろうと不思議には思うけど、深くは考えないようにしていると有栖ちゃんは私を見ながら言う。
「橋も……私のクラスの方で彼らと仲のいい生徒がそう言っていました」
「いや、そこまで言ったら分かっちゃうよ!」
あの2人と仲良くできるBクラスの生徒なんて橋本くんしかいない。
彼が冬休み返上で監視役か調査役をさせられてるんだな……と有栖ちゃんは悪びれる様子もない。
「まあ無理だった時は4人で仲良く女子会でもしましょう。帆波さんにはそろそろ修学旅行で何があったのか聞きたいですし」
「うぐっ」
それを聞いちゃいますか有栖ちゃん。
けど、まぁ私も言っとかないと……牽制とかじゃないけど、所信表明というか、告白予行練習みたいな……そういう感じにはなるかもしれない。
何言ってるか自分でもわかんないけど。
とりあえず、4人それぞれサンタ服の代金を支払ってお店から出る。
そのままケヤキモールからも出ると、暖かった室内の空気から一変して冬の寒気が襲いかかってくる。
「うぅっ、やっぱり12月の末となると寒いねー」
「体が冷えそうです。早く寮に帰りましょう」
口元に手を当てて息を吹きかけて悴んだ手を温める桔梗ちゃんにひよりちゃんが頷きながら自分の手も口に近づける。
有栖ちゃんの歩くスピードに合わせて
私たちも歩いて寮を目指す。
その途中でふと桔梗ちゃんが呟いた。
「にしても、このメンバーがクリスマスに一緒なんて昨年は思ってもなかったね」
言われてみれば確かに、クラスも性格も違う私たちがこうして一緒にいるのはなんとも不思議に思ってしまう。
「そうですね。3人はともかく、私がこの場にいるというのは信じられないことです」
そう言いながら有栖ちゃんは私の方を見上げてくる。
何かあったかなと考えているとその様子に有栖ちゃんは肩を竦める。
そして、少し声を低めにして話し始めた。
「やれやれ、君はもう忘れたのか? 今年の2月色々あっただろう?」
あ、2月って私が万引きしたことばらされたりばらした時のことか。
そういえば、有栖ちゃんが広めたんだっけ。
そう思い出していると変な声を出していた有栖ちゃんを責めるようにひよりちゃんと桔梗ちゃんがジト目を向ける。
「……もしかしますけど、斉木くんのマネですか?」
「有栖ちゃん、全然似てないからやめときなよ」
「うっ、そ、そうですか? クラスメイトには似てると言われるのですが……」
ズバズバと容赦のない2人に有栖ちゃんは苦虫を噛んだような顔をする。
そんなやり取りを見て、私たちがこうして楽しく話せているのが誰のおかげかを改めて考える。
私たちを繋いでくれているのは楠雄くんの存在だ。
桔梗ちゃんは他クラスの知り合いというくらいの距離感だったけど生徒会も一緒にやるようになったし、ひよりちゃんとは混合合宿で仲良くなって、有栖ちゃんは敵として出会ったけど、今は友達になれた。
そして、私たちはみんな楠雄くんのことが好きだ。
それが嬉しくもあり、少し辛いようにも思う。
友達だし、勝負は公平じゃないとダメ。
だから、私が選ばれなくても恨みっこなし。
そのはずなのに、やっぱり私が選ばれたいと思っちゃう。
私はずるい子だから、楠雄くんの全部が欲しい。
ツンデレで優しいところも、甘いものが好きなところも、たまにドジっちゃうところとか、全部好きだし全部私だけが見ていたい。
けど、それはきっとみんなも同じだと思う。
楠雄くんと結婚まで、その先まで考えているのかはわからないけど、私だけの楠雄くんにしてしまいたい。
だって、私が初めて本気で好きになった男の子だし、楠雄くんより好きになることはないと思うから。
まだこれから大学に行っても、社会人になっても出会う人はたくさんいるだろうけど、楠雄くん以上の人は考えられない。
「帆波ちゃんは? クラス一緒なんだし、結構得意だったりしないの?」
「えっ!? うーん、どうだろ……」
今ここでモノマネしちゃうと言わなくていいことまで言っちゃいそう。
けど、楠雄くんの口癖のやれやれとか悪くにゃいとかならいけるかな?
「というか楠雄くんって意外とあざといよね」
「今更だね」
「あれは天然じゃないんですか?」
「天然だからこそのあざとさというやつですよ」
私の呟きに桔梗ちゃんと有栖ちゃんは頷いてくれるけど、ひよりちゃんは首を傾げていた。
「いや男の子で甘いもの食べてる時に、美味しい? って聞いたら悪くにゃいって言うの普通にあざとくないかなって」
「そうなんですか? 斉木くんらしくて可愛いと思いますけど」
「可愛いかな……まぁ可愛いけど」
男の子に可愛いってのはなんか変だけど、確かに可愛くはある。
というか女装した時の楠雄くんめちゃくちゃ可愛いし。
その話をするとひよりちゃんが思い出したように言う。
「龍園くんがナンパしちゃうレベルですしね」
「そうなの!?」
めちゃくちゃ大きな声出ちゃった。
でも、それより龍園くんが楠雄くんをナンパ……えぇ、なんで? 好みだったのかな。けど、龍園くんは普通の女の子が好きみたいなのを言ってたって聞いたような……。栗子ちゃんは可愛くてミステリアスで度胸があって愛敬のある普通からはかなり外れた子なんだけど……。
私が混乱しているとひよりちゃんが冷静に答えてくれる。
「でも、中学の時に見た髪の長い女神みたいな女には負けるって言ってましたけど」
「どんな女性なんでしょうか」
「さぁ、ただおもわず、おっふ、って言ってしまうとかなんとか」
なんだろうおっふって、新しい言葉?
それとも、英語とかの略語なのかな?
その場にいたわけじゃないからよく分からないけど。
なんて思いを巡らせながら寮へと足を進める。
「じゃあ、また後でね」
「はい、後程合流しましょう」
私の言葉にひよりちゃんが頷く。
桔梗ちゃんとも後で、と挨拶を交わしてエレベーターから降りて、自分の部屋に向かう。
インフルエンザが流行っているということから、しっかりと手洗いうがいをして、私はサンタの服の入った袋を机の上に置いて、再び外に出る準備を整えるのであった。
空助「ハハ、弟のツガイを見つけ……幸せのためなら僕は楠雄の外堀を埋めることに協力するよ(このまま楠雄が1人で子孫や遺伝子を残さず死ぬのは人類の損失かもしれないし、あの4人の誰かがくっついてくれるならパパとママが死んでも楠雄がダークサイドに堕ちる可能性も減るしね。遺伝子的には誰と相性がいいのかな。髪の毛か何か採取できたら調べてみようかな)」
高円寺と龍園と仲のいい橋本くん「まぁ俺が斉木と遊んでない時点であの2人が動くわけでもないしな。高円寺はジムで斉木と会ったみたいだが、特に絡んでなかったし。まぁ年末に鍋パでもするか」
ではまた次回