やめたんですか
1年生編の方を2話ほど投稿していましたので一応毎日投稿継続してます
昨日は散々だったな。
カーテンの隙間から差し込む光が見えて、夜が明けて朝になったことを察して、僕はカーテンを開いた。
『やれやれ……』
降っていた雨は知らない間に雪になったのか一晩中振り続けたようで、昨日の朝よりも冷え込むわけがよくわかった。
東京はしばらく雪の日が続く予報らしい。
ホワイトクリスマスというやつか。
昨日はケヤキモールから帰ってきて少しだけ寝たが実にいい気分だった。
そう、この時までは。
時計を確認するとそろそろ実家に戻る頃合いかと実家に戻ってみたが、家の中はもぬけの殻という言葉がピッタリなほどいつもの我が家とは比べ物にならないくらい静かだった。
ハッピールームアカデミーもびっくりなほどに派手に装飾されたクリスマスの内装はなく、何かサプライズを企てている気配もない。
まさかとうとう悪の秘密結社が父さんや母さんを狙って……と思っていたがリビングの机に置かれた紙を見て僕は全てを把握した。
「くーちゃんへ。くーくんからくーちゃんは学校のみんなと過ごすって聞いたから、パパとママは夢の国へ行ってきます♡ チキンはくーちゃんたちが食べていいからね。帆波ちゃん達によろしくね」
おのれ、斉木空助。
やはり早めに潰しておくべきだったか。
余計なことを……と思ったが、母さんたちが夢の国に行くことを僕の前で黙っていられるはずがない。
サイコメトリーで手紙に触れて何が起きたか見てみるが、どうやら朝に僕が寮に戻ったのを見計らって空助が帰ってくる。
そして、そこで2人に僕が今日は戻ってこないことを言って、高級温泉旅館「夢の国」の宿泊券と飛行機のチケットを渡していた。
というか夢の国ってネズミーランドじゃなくて温泉旅館の名前かよ!
まぁ、僕も昼にチキンとケーキも食べてしまったし、家でのクリスマスパーティに固執する理由はない……と思ったらチキンは置いてあった。
ケーキはギリギリ買う前だったようだが、チキンの方は既に買ってしまったらしい。
焼くだけだし、寮で1人楽しくメリークリスマスと洒落込むかと僕は冷蔵庫を物色した。
チキンだけでは味気ないため、冷蔵庫からサイダーラムネやあとはビーフシチューでも作ろうとしていたらしい材料があったのでそれもいただく。
寮に戻り、解、捌と野菜を切り刻み、熱した鍋に油を敷く。
僕に料理ができないとでも?
包丁は上手く扱えないが超能力は使えるんでな。
煮たり焼いたりもお手の物だ。
まぁ寮にせっかくIHコンロがあるので使わない手はない。
玉ねぎを焼き、牛肉を焼いて、人参とじゃがいも、マッシュルームを放り込んで水を入れて煮て、火が通り具材が柔らかくなったらルーを溶かし入れたら終わりだ。
しかし、材料がぴったし4人分だったのを見るに空助も帰ってくる想定だったのかもしれないな。
火が通るまでゆっくりしておこうと鍋の前に椅子を持ってきてそこで本を呼ぼうとすると……ゾわりと嫌な予感というやつが走った。
『な、なんだ……?』
思わず身震いしてしまうようなざわめき。
それを証明するかの如く、姦しい女子の……それも聞きなれた声が聞こえてきた。
「じゃあ、また後でね」
「はい、後程合流しましょう」
一之瀬さんと坂柳さんがそう言って自分たちの部屋に戻っていくと、ドンキにでも言ったのかサンタ衣装に着替え始めた。
ケヤキモールにドンキなんてあったか……?
しかし、坂柳さんが着替えているのは正しく僕が予知で見た服とは違っていた。
いや、もしかすると僕の部屋に来てから更なる変身を見せるのかもしれない。
一之瀬さんと坂柳さんだけだと思っていたら、櫛田さんと椎名さんもいて、4人は恥ずかしくないのかサンタコスプレをして僕の部屋までやって来る。
部屋の前に来るまでは和気あいあいとしていたが、いざインターホンを鳴らすとなると怖気付いたのか、一之瀬さんが振り向いた。
「(そ、そういえば男の子の部屋のインターホン鳴らすのなんて初めてだ……は、初めてを楠雄くんに……)……え、えっと、誰が鳴らそっか!?」
「そもそも、アポイントは取ってあるんですか?」
「取っていませんよ」
そんなに堂々と言わないで欲しいな。
椎名さんが坂柳さんに確認するも、坂柳さんは微笑を浮かべて否定する。
「まぁ、こんなこと事前に言ってたら斉木くん断るだろうしね」
櫛田さんは苦笑いして言うが、事前に言われなくても断るぞこんなの……。
しかし、ああやってずっと部屋の前に居られるのも迷惑だな。
時間も時間なので徐々に寮に戻ってくる人間が増え始めている。
このままでは10分以内に隣の部屋の奴らが帰ってきてしまう。
どうしたものかと悩んでいたら櫛田さんがインターホンのボタンを押して、部屋の中にチャイムが響いた。
無言で開けると一瞬ビクッと4人が肩を震わせたが、笑顔を作って僕を見る。
「あー……えーっと……さっきぶりだね(やっぱりちょっと怒って……るよりは呆れてる顔だぁ……)今、大丈夫、かな……? あ、あははは……」
僕の顔色を窺っているのか、一之瀬さんはいつもより少し低姿勢で聞いてくる。
椎名さんと櫛田さんも似たようなものであったが、言い出しっぺなのであろう坂柳さんの反応は3人と異なり、むしろ逆に楽しんでいるように笑っていた。
「ふふっ、どうも楠雄くん。どうです? 美少女4人のサンタ姿は?」
『帰れ』
「……ぴえん(どうしましょう?)」
坂柳さんは怯えたように3人に目を合わせる。
それを見て櫛田さんが苦笑した。
「あはは、ごめんね、急に……その、斉木くんのお兄ちゃんから今日は斉木くん1人だろうって聞いて」
それはだいたい知ってる。
あいつのことだ、どうせ本心も建前も楠雄が1人だと可哀想とか彼女の1人くらい作れるようにだとか、思ってもいないことを並べてはいるが、結局は僕への嫌がらせが目的だろう。
ぶん殴ってやりたいが学校にもロンドンにも居候先の坂柳家にもいない。
逃げやがったな。
「くしゅんっ」
そう考えていると椎名さんが小さくくしゃみをする。
12月も半ばだ。
朝晩は冷え込んで当たり前だが、やはりミニスカサンタなんて着ているからだろう。
チッ、仕方ない。
このままここに居座られて風邪を引かれたりしても困る。
椎名さんだけ入れてやるかと思ったが、そうすると変に角が立つ。
しかし、坂柳さんを入れるのは……もういいか。
予知では坂柳さん1人だったし。
もしかしたら、あの予知は既に回避されたのかもしれない。
とりあえず4人を部屋に入れると、櫛田さん以外は来るのが初めてだからか物珍しそうに見ていた。
「(これが楠雄くんの部屋……結構片付いてる……)あ、ごめんね、急に来て。これ、良かったら……」
一之瀬さんがそう言ってケヤキモールで買ってきた菓子折の入った袋を手渡してくれる。
片付いているのは朝に掃除機をかけたりしたからだな。
こういうことを想定していた訳では無いが結果的には良かったのかもしれない。
鍋を見てくるから手を洗ってうがいをしたら帰ってくれて構わないと伝えてキッチンに向かう。
「鍋? 何か作ってるのかな?」
「とりあえず言われた通りに手を洗いに行きましょうか」
せっかくのクリスマスイブが随分と騒がしいことになったな。
煮立った鍋の火を止めて、ビーフシチュー用のルーを割って入れていると先に手洗いを終えたのか櫛田さんがキッチンにやって来る。
「え、意外。斉木くん料理とかするんだ……」
これくらいはな。
「包丁とまな板もう洗ってるんだ。すごいね。私全部終わってからだよ(ボールとかももう洗ったのかな?)」
そもそも使ってないからな。
調理器具やらはある程度揃えてはあるが使ったことはほとんどない。
母さんが父さんと出かけたりする時は家に何も無かったりするので自炊することはたまにあるが。
「でも、これ1人分じゃないよね? もしかして誰か呼んで食べるつもりだったり……」
材料が4人分だったのと、作り方に4人分と書かれていたからそれに沿ったが特に意味は無い。
櫛田さんはニコニコしながら鍋の中を覗き込む。
「あ、ビーフシチュー。美味しそうだね(なんか、新婚みたいな感じ……って、何考えてるの!?)」
君が何考えてるんだ?
そういうピンクなのは一之瀬さんだけで事足りているぞ。
そう思っていると、その本人が鍋の匂いにつられてやってきた。
「わー、いい匂い(ビーフシチューかな? 久しぶりかも)」
「すみません。手洗いうがいしてきました……」
椎名さんがそう報告してきて、その後に坂柳さんが同じようにやって来る。
キッチンに4人は多いな。
「楠雄くんの料理の腕が気になりまして」
「私も」
「私もです」
「同じく」
大した腕では無いと思うが、まあいい。
食べて行きそうだから、手伝ってもらうことにしよう。
チキンを焼いてもらい、一之瀬さんと櫛田さんが持ってきた菓子折を皿に盛る。
これで少しはらしくはなるだろう。
飲み物はサイダーラムネとシャンメリーしかないが、4人は構わないと了承する。
なんで僕が招いた感じになっている? と考えていると椎名さんがシャンメリーを注ぐためにグラスを持ってきて全員の元に置く。
4人分もグラスが必要になるとは思いもしなかったな。
堀北元会長に言われて、1年生の時に買っておいたのが役に立ったな。
シャンメリーやらラムネで乾杯して、僕はラムネに口をつけて、一息つく。
「ごめんね、急に押しかけた上にご飯まで……」
一之瀬さんは笑顔を浮かべ、櫛田さんが頷く。
坂柳さんは微笑を浮かべてビーフシチューを口にする。
「美味しいです」
「そうですね、お肉も歯ごたえがありながら柔らかくて食べやすいです」
別に感想を聞くために作ったわけでは無いが、美味しいのならそれで良いか。
流石に5人で皿を並べられるほどの広さのない机であるため、僕は勉強机前の椅子に座りながら4人の様子を眺めるが……まさかこの僕が他人とクリスマスイブを過ごすことになるとは思わなかったな。
この後は櫛田さんと一之瀬さんが洗い物をしてくれて、その間に椎名さんと坂柳さんは僕の本棚にあった漫画を試し読みしていた。
「葛城くんも最近漫画を読んでいるそうですね」
あぁ。
今は確かSKETDANCEを読んでいるんじゃないだろうか。
龍園はToLOVEるを勧めていたが、葛城にはあまり好ましくないだろうとやめるように言った。
椎名さんは進撃の巨人を読んでいて、巨人がなんなのか、どこから来ているのかなどを考えながら読んでいる。
櫛田さんたちが戻ってきたあとは堀北元会長が置いていったゲームとコントローラーでゲームをした。
警戒していた坂柳さんからの告白や一之瀬さんが逆プロポーズしたという話もなく、普通に楽しめたんじゃないだろうか。
僕はともかく彼女らは満足したようだしな。
「では、また」
「ごちそうさま。ビーフシチューおいしかったよ」
「斉木くんゲーム強すぎ……またリベンジするからね。今日はありがと」
「漫画ありがとうございます。読み終わったらすぐに返しますね」
玄関先で4人が口々に言う。
そして、一之瀬さんと櫛田さんが紙袋を差し出してきた。
「これ、いつものお礼にって桔梗ちゃんと選んだの」
「本当はメガネにしようと思ったんだけどね」
中身はスマートウォッチらしく、僕は時計を見ることは多い割にこの手のものは持っていなかったのでありがたく受け取ることにする。
「私達も何か用意した方がよかったでしょうか」
「そうですね、また後日買いに行きましょうか」
「いいんですか? (てっきり、有栖さんには嫌われてるものかと)」
「ひよりさんが言ったんですよ?」
去年、いや今年の3月にフリーザ並みにキレていた坂柳さんとは思えない態度には僕も驚かざるを得ない。
時間の流れというか、夏休みや修学旅行での時間もあってか2人は友人という関係に至れたらしい。
特別試験やクラス間の争いがなければこれが普通なのだろうが、あれらがなければ坂柳さんと椎名さんが接点を持つこともなかったのかもしれない。
僕も高育のシステムがなければ、ここまで人と関わることもなかっただろう。
「じゃあ、楠雄くん。メリークリスマス」
「(ちょっと早くない? けど、まぁいいか)うん、メリークリスマス」
「メリークリスマス」
「メリークリスマス、です」
別にメリークリスマスは24日に言おうが25日に言おうが、どちらも結局はクリスマスだから問題はない。
特にイエスの誕生日を祝う気持ちはないが、言われたからには返しておこう。
『ああ。メリークリスマス』
(……ほんと、ずるい顔。女子4人に囲まれても平然として、なんでそんな穏やかに言えるのよ)
(まさか楠雄くんと……好きな人とこんなことが言い合えるようになるとは、満場一致試験で退学しなくて本当に良かったです)
(毎年言えるようになりたいなぁ……そのためには来年も頑張らないとね)
(誰かとこうして過ごすクリスマスがこんなに楽しいものだなんて、悪くないですね)
4人はくすりと小さな微笑を浮かべると、玄関扉を出ていく。
そして、玄関扉が閉まると静寂が訪れる。
部屋に入っても音楽などはかけていないため、静寂に包まれたいつも通りの空間が戻ってくる。
ふぅと息を吐きながらベッドに寝転がり、天井を見上げる。
少し疲れたなと風呂はキャンセルして、瞼を閉じる。
それが昨日の出来事だった。
僕の勉強机の上には一之瀬さんと櫛田さんがいつものお礼と称してくれたプレゼントが入っている。
中身は最近流行りのスマートウォッチというやつで、僕に似合うと思ったのか黒緑のフレームのものだった。
僕の好みに合わせてか地味目のものを選んでくれたようだ。
窓の外を見ればまだ粉雪が舞い踊っている。
1人でいても、誰かといてもクリスマスはクリスマスだ。
友人と、クラスメイトと、恋人と過ごしていてもクリスマスという日は平等にやってくる。
中身に差はあり、思い出に残るかは分からないが……まぁ昨日のことは思い出の片隅くらいには残るだろう。
坂柳さんの予知をくーちゃんは回避したと思っているができてなかったりする
無から話を作るテンションじゃ無かったからかなり雑になってしまった。
くーちゃんが綾小路に向けられるはずだった好意を吸ってるように見えると言われて二次創作なんてそんなもんじゃないのか……? と思ってたら本編進められなかった。
まぁ僕も悩んだんですよ。
同じクラスの一之瀬はともかく、ひよりとか櫛田もくーちゃんに好意向けさせていいのかって。
でも、くーちゃんがあれだけのことして好かれないわけもないしなぁ……となり、今に至る。
まあひよりんはまだ戻れるかもしれない(好感度から目を逸らしつつ)
軽井沢、堀北、佐倉、松下、佐藤、長谷部からは好感度吸ってないし……。
まだ綾小路くんはオレの身体をみんなに貸すぞ!うおおおお!!!ができる。
そういえばその綾小路くん軽井沢さんと別れてるのか……
このペースでいくと年内には2年生編終わりそうですが、書きたいifなどもあるので1年生編と交互くらいに進めていこうと思います。
ではまた