僕と綾小路と天沢の3人でそれぞれ好みのクレープを食べた。
やはり新鮮な果実への並々ならぬ思い入れ、こだわりのあるスムージー屋の作ったクレープということもあって大変美味だった。
特に冬おすすめだと言う冬の果実たっぷりクレープは値段が張るものの、その値段に見合った満足感を僕に与えた。
フルーツも美味かったが生クリームや生地の甘みも強く、食べ応えも十分。
「斉木先輩って甘いもの食べてる時別人ですよね」
「あれが本性なまである」
クレープを食べていると天沢と綾小路が僕を横目になにやら話していたが、特に気にしない。
もきゅもきゅとクレープの食感、味を楽しむこと10分ほどで完食する。
用事の全て済んだ僕と綾小路にケヤキモールに留まる理由はなく、そろそろ帰るかと何か言うことなく立ち上がる。
「マジでヨーグルトメーカー買いに来て、クレープ食べに来ただけなんですね」
ケヤキモールに来た理由は既に天沢に話していたのだが、本気にされていなかったようで少し呆れられている様子だ。
「天沢はまだここにいるのか?」
「ううん、2人と話しながら帰ろうかなーって(私も暇つぶしがメインだったし)。あ、せっかくですし、お昼ご飯もどうです?」
「(部屋に戻っても特に何も無いからスーパーには寄る気だったしな)オレは構わないが……」
綾小路が僕はどうするかと見てくるが、わざわざこの2人と食べることもない。
特に食べたいものもないため、僕は帰ることを伝えると天沢は掌を返して「じゃあ帰りましょうか」と笑顔を浮かべる。
「オレじゃダメらしいな(天沢にもモテてるのか斉木。しかし、見る目はあるな。並大抵の男じゃホワイトルームから出てきた天沢の相手は難しいだろう)」
並大抵の男じゃない綾小路でもいいんじゃないか。
天沢が僕に興味を持っているのは無人島試験でのことと、文化祭でさりげなく助けたことが起因している。
慣れないことはするべきじゃなかったな……そうだ。
ここで僕がいかに頼りなく、人の心もなく、不甲斐ない人間かを見せれば天沢の興味もなくなるのではないか。
そう考えつつも今日はいいかと足は帰り道に向いてしまう。
来た時も通ったモールの入口近くには大型のクリスマスツリーが設置されている。
このクリスマスツリーの前で友達やカップルたちで写真を撮るというのが流行っていたらしいが、僕には関係の無いことだな。
そう思って通り過ぎようとすると天沢に服の裾を引かれる。
「明日には無くなっちゃいますし、3人で撮りません?」
クリスマスツリーの真下に来る前に天沢がそう提案してくる。
綾小路は相変わらず「オレは構わないが……」と僕の方を見てくる。
なんなんだお前は。
生殺与奪の権利すら僕に委ねてきそうだ。
昼前ではあるが、明日で撤去されてしまうため、多くの生徒が集まっている。
その人集りの中に昨日同じ部屋で同じ時間を過ごした見知った顔がいるとわかっている身としては変に面倒事になるようなことはしたくない。
しかし、僕が断る兆しを見せたからか、天沢は服の裾を掴む力を強める。
「私、先輩たちとの思い出、欲しいなぁ〜」
わざとらしく、上目遣いで僕に視線を向けながらあざとく言う天沢。
ホワイトルームでは人心掌握術の類を教えている様子はあったが、男性への媚び方なども教えているのだろうか。
そんな甘えは僕には効かないのだが、面倒なことに超能力者である僕は天沢の心の中にある願望を読み取ってしまう。
(こんなの先輩たちにしか頼めないし、先輩たちとしか撮る気ないし。初めてのクリスマスの思い出だから残るもので欲しいって言うのは恥ずかしいんだよね。でも、言ったところで嘘だと思われちゃいそうだし)
仕方がない、今回だけ付き合ってやるか。
ツリーの傍まで来ると、1年生の女子3人に囲まれる一之瀬さんの姿が見える。
それには当然綾小路や天沢も気付く。
「一之瀬だな(何をしてるんだ?)」
「ですねー」
撮らないのか? と僕は2人を待っていると、偶然通りかかった星之宮先生とその横を歩く茶柱先生が僕たちを見つける。
「おやおや? 珍しい組み合わせだ(1年生といるところなんてはじめてみたかも)」
最初に声をかけてきたのは星之宮先生で、その後を茶柱先生が追ってくる。
「で、天沢さんだっけ? どっちの彼女?」
「両方ですかね〜」
「生徒を揶揄うなチエ。そして天沢もチエの話に乗るな。斉木はフリーらしいが、綾小路の彼女は軽井沢だ(今はインフルエンザでいないのだろうか)」
茶柱先生がため息混じりに言うと、星之宮先生はニヤリと微笑む。
「ふふ、知ってます〜(綾小路くんは割とどうでもいいけど、斉木くんの彼女どころか婚約者は一之瀬さんって決まってるからね〜)っていうか、一之瀬さんと遊ばずに男の子と下級生と遊んでるんだ。一之瀬さんとは午後から? それとも夜? あ、意外と昨日の夜一緒だったりして……」
この女、成層圏の向こう側に吹き飛ばしてやろうか。
クラス全員に知れ渡っていたから時間の問題と思っていたが、やはり一之瀬さんが僕に逆プロポーズしたことは知っているらしい。
一応は良識があるのかそのことを口にはしないが、やはり生徒にするような質問ではない。
「チエ、担任だからってそんなに過剰に揶揄うな」
「だって焦れったいじゃーん。クラスのリーダーをしてる健気な女の子とミステリアスながらも情に厚い男の子との恋路を見せられたら、口の1つでも挟みたくなるの」
「お前なぁ……そんなんだから斉木先生にデートの誘い断られるんだぞ」
(断られたのか)
(そりゃねぇ……星之宮先生びっち臭いし……斉木先生優しいけど、なーんかみんなのこと劣等種としか思って無さそうだし仕方ないよねー)
まぁあいつがクリスマスだろうがなんだろうが、家族以外の誰かのために時間を使うとは思えないしな。
母さんと父さん、祖父母と僕以外のことは猿以下だと思っているし、同僚だからといって星之宮先生に誘いには乗らないだろう。
「う、うるさいなぁ。いいのよ。そもそもくーくん未成年だし。連れ込むには1年早いし。まだ慌てるような時間じゃないわ」
くーくん呼びされてるのかあいつ。
それは面白いかもしれない。
「先生たちはこれからどこに?」
「カラオケでーす。私たち教師にも楽しむ権利はありますから〜」
「斉木先生に断られたから私にお呼びがかかったというわけだ」
「えぇ〜? サエちゃんもノリノリじゃないの〜?」
「ノリノリなわけがないだろう……」
仲がいいのか悪いのか。
既に酔っ払っている雰囲気の星之宮先生を宥めながら、茶柱先生がカラオケへと引っ張っていく。
それを見ながら天沢が呟いた。
「ユニークな先生ですね」
酒癖の悪さは抜けたはずだが、空助に断られたのが余程ショックだったらしいな。
あれに付き合う茶柱先生の懐の深さに黙祷していると、ジーッと視線を感じた。
(楠雄くん、来てくれたんだ。でも綾小路くんと天沢さんか。あんまり見ない組み合わせだね)
女子同士の会話は終わったらしく、僕を待つように見つめてくる。
それに綾小路は「行ってきていいぞ」と言ってくるが、天沢はそうでもない。
「え〜、斉木先輩、先に私と写真撮ってからにしましょうよ〜」
ぐいぐいと腕を引きながら駄々を捏ね始める。
破けちゃうだろと引き剥がそうとするもあまりやりすぎると本当に破けてしまうかもしれない。
先に撮ると言ったのは天沢だが……と一之瀬さんを見てみると先程よりも2、3歩ほど距離が近くなっていた。
「いいんじゃないかな。先に撮っていいよ。3人で撮るんでしょ?」
「一之瀬はどうしてここに? (斉木と待ち合わせ……って感じじゃないよな)」
綾小路が一之瀬さんに問いかけると、思い出のために今日は色んな生徒とクリスマスツリーをバックに写真を撮っていたのだと言う。
別に疑ってもいないし、一之瀬さんが誰と撮ろうと気にしないのだが、一之瀬さんは事実だと証明するためか、携帯の写真フォルダを開いて今日の日付の部分を見せてくる。
「へぇ〜、すごいですね。さすが生徒会長」
「はは、生徒会は関係ないよ。これは私、個人の意思だから」
「しかし、一之瀬の人望がないとできることではないだろ」
写真の中には色々な生徒たちとクリスマスツリーの前で楽しそうに写真を撮る一之瀬さんの姿があり、学年や性別を問わずに色んな生徒と写真を撮っていた。
その写真を「へー」とスクロールしていた天沢の指先の動きがピタリと止まる。
(これ、一之瀬先輩と坂柳先輩に、櫛田先輩、あとは椎名先輩だっけ……なんでサンタコス? しかもこれ、女の子の部屋じゃないような……)
「どうしたんだ?」
「あー……一之瀬先輩、ちょっといいです?」
「ん? どうしたの?」
別に昨日の4人の衣装は扇情的なものでもなく、女子高生のコスプレにしては大人しかったが、何か変なところでもあったのだろうか。
「あ、これは……その……(昨日楠雄くんの部屋でクリスマス会したっていうのはあんまり言わない方がいいよね……)ちょっと仲のいい女の子同士でクリスマス会したってだけだよ?」
「本当ですかぁ? それにしては言い淀んでましたけど。あ、もしかして斉木先輩の部屋だったり?」
「ふぇ」
「え」
やれやれ。
一之瀬さんに嘘はつけないか。
致命的なまでに嘘が下手くそなのは誰かに……ああ母さんか。
そんな所まで似てなくてもいいんだが。
(斉木の部屋でクリスマス会だと……どうしてオレは呼ばれていないんだ)
呼んでもないのに4人が来たんだ。
僕がクリスマス会なんか開くわけないだろ。
そんなことよりここで長々と話していても時間だけが過ぎていくし、撮るならさっさと撮ろうと提案する。
「そ、そだね!」
「チッ(逃げられたか。先輩も一之瀬先輩には甘いなぁ。気のせいかな?)」
気のせいだ。
僕は基本的には誰に対しても同じ態度だ。
4人で写真を撮るのかと思いきや、一之瀬さんは綾小路に携帯を預けると、僕の手を引いてクリスマスツリーの前まで移動する。
「別に私たちならコソコソ撮らなくてもいいからさ(もう結構色んな人が逆プロポーズのこと知っちゃってるみたいだし……有栖ちゃんとの約束がなかったら撮影会みたいなことしなくても良かったんだけど)」
閉鎖的な学校だからか噂というものは駆け巡るスピードが早い。
京から鎌倉へと早馬で情報が伝わるよりも早いのではないのだろうか。
まあ天沢と綾小路のように知り合いが少なく、冬休みに噂話をするような相手がいない人間には伝わっていないようだが。
「もうちょっとくっついてもいいかな?」
これ以上?
一之瀬さんは僕の腕に手を回してくる。
「……当ててますよね、あれ(一之瀬先輩って意外と大胆?)」
「わざわざ当てなくても当たるんじゃないのか?」
「むぅ。女の武器ってやつですよね。私ももうちょっと大きくなればなぁ(七瀬ちゃんくらいは欲しいかも)」
「斉木はそういうのは気にしないと思うが」
その様子を見ながら天沢がジト目を向けては自分の胸に手をやっていた。
綾小路は淡々と呟きつつ、パシャパシャとシャッターを切る。
「ありがと、綾小路く……って撮りすぎだよ!? (何枚シャッター押したの!?)」
「いや斉木と撮りたかったのなら多い方がいいかと。そうだ、次はオレとも撮ってくれ」
「あ、うん。それはもちろん」
「じゃあよろしく」
「え……? (私とじゃなくて??)」
そう言って一之瀬さんに携帯を渡した綾小路は僕の隣へやって来る。
ん? 男2人でクリスマスツリーの前で写真を撮るのか?
「こういうのも悪くない。本当は軽井沢と撮るはずだったんだがな」
それなら天沢か一之瀬さんに頼めよ。
「軽井沢にお前と別れてもオレは元気でやっていると伝えたいんだ」
人の心とかないんか?
どうしてトドメを刺しにいくんだ。
いや、振られたのは綾小路側だから元気な姿を見せるのは間違ってはいない……のか?
まぁ綾小路とは腕を組んだりということはなく、普通に写真を撮る。
「2人とももっと笑いなよー(どっちも仏頂面だし)」
「先輩たちらしいですね〜(私も撮って待ち受けにしちゃお)」
2人で真顔でピースだけすると、2、3枚撮ってもらう。
その後は天沢とも撮り、元々撮る予定だった天沢と綾小路の3人や、一之瀬さんを加えた4人での写真も撮る。
「あとで送っとくね」
「オレのも送ろう」
「私のも送っときますね」
全員いらん。
わざわざ写真に残さなくても僕には必要ない。
そう思っているとまた見知った顔が近づいてきているのが聞こえた。
(確か、クリスマスツリーの前でしたよね……)
あの声は七瀬か。
次から次へと知り合いがやって来るな。
「あ! 一之瀬会長! 綾小路先輩! 斉木先輩! ……天沢さん」
「わー、私だけ露骨にローテンション」
僕たちを見つけた七瀬が小走りで近づいてくる。
ここで一之瀬さんが写真を撮っているという噂を聞いたらしい。
それも宝泉から。
七瀬を呼び出しておいて、自分は僕が怖いからと死角になる位置で僕が立ち去るのを待っているようだ。
「下手したら収拾が付かなくなるんじゃないか? このままいくと閉店になるまで撮影する羽目になるんじゃないのか?」
「あはは、たしかに。でも、全校生徒とツリーの前で撮影した伝説の女子生徒になれるかもね(ただ、もうお昼時だし。撮りたい人とは撮れたからそろそろ退散するつもりだけど)」
綾小路の質問に対して、一之瀬さんは冗談を混じえながら答える。
「皆さんも一緒なのですか?」
「私たちはたまたま通りかかっただけだから、気にしないでいいよん。七瀬ちゃん」
「そうなんですか? (綾小路先輩と天沢さんはわかりませんが、斉木先輩と一之瀬先輩は恋人のようなものと聞いたので一緒に撮っているのかと)」
噂が変な方向にねじ曲がりつつあるな。
僕と一之瀬さんはただのクラスメイトで七瀬や他の1年生が思っているような関係では無いのだ。
このまま僕がいると話がややこしくなる他、宝泉が出て来れないだろうから僕は先に帰ると告げる。
しかし、一之瀬さんは帰らせてくれなかった。
「えっ? せっかくだし、この後お昼ご飯行こうよ。あ、綾小路くんたちもどう? ロールケーキのお店なんだけど」
「いいのか?」
「お言葉に甘えちゃおっかな〜、ね、七瀬ちゃん?」
「わ、私もいいんですか!?」
「もちろんだよ。ね、楠雄くん?」
僕はロールケーキを食べるために生まれてきたんだね。
さて、さっさと撮ろう。
今すぐ撮ろう。
宝泉も引きずってさっさと撮らせよう。
「斉木先輩って本当に甘いもの好きなんですね……」
「七瀬ちゃん。その話もう終わったよ」
僕は甘いものが好きなんじゃない。
甘いものが僕のことが好きなんだ。
とりあえず、宝泉を連れてくるため気配を殺してやつに近づき背後を取ると『よぉ、宝泉』と声をかける。
「あ……!? アァッ!?? さ、斉木ッ!? い、いつの間に!?」
うるさいな。
ほら、一之瀬さんと写真撮りたいんだろ。
さっさと行くぞ。
「な、なんで俺が一之瀬先輩と写真を撮りたいって」
目を見ればわかると適当なことを言ってやりつつ、ここに何の用も無く来るお前じゃないだろと付け加えて連れていく。
そして、こいつとも撮ってやってくれと一之瀬さんに伝えると「全然いいよ」と承諾する。
連れられて猫のように丸くなった宝泉を見て七瀬がつぶやく。
「やっぱり宝泉くん、一之瀬会長と写真撮りたかったんですね」
「え? そうなの?」
「はい。実は宝泉くん、一之瀬会長のこと結構好きみたいで(ただ、ライバルどころか婚約者みたいなポジションに斉木先輩がいるので話しかけたりは出来ないみたいですが)」
「マジか」
綾小路も思わず驚く程には意外なことだったらしい。
「ここにいたのは偶然じゃないのか?」
「違うと思います。私、宝泉くんに呼び出されてケヤキモールに来ましたから。恐らく、1人では声をかけられないのと、万が一斉木先輩がいたら引き剥がしてもらうためではないでしょうか(まぁその必要はなかった訳ですが)」
視線の先にはぎこちなくも一之瀬さんと写真を撮り(めちゃくちゃいい匂いするな……結婚してぇ)とライナーみたいなことをボヤく宝泉が見える。
写真を撮り終えて、それを宝泉の携帯に送った一之瀬さんに小さく頭を下げ、そのまま帰るのかと思いきや、宝泉は舌打ちをしながら僕の方へとやってくる。
「1度しか言わねえぞ。………………アザシタ」
宝泉はそう言うとケヤキモールの外へと早歩きで出て行ってしまう。
「宝泉、感謝とか言うんだな(それも斉木に)」
「その辺は斉木先生がしつけてましたからね」
どうせ母さんから教えてもらったことを宝泉にも言っただけなんだろうな。
ありがとうとごめんなさいはしっかり言おうだったか。
空助も意外と教師らしいことをしているようだ。
「お待たせ。じゃ、そろそろ行こっか」
あとから来た3年生の2人組とも写真を撮って、ようやく落ち着いた一之瀬さんがこちらへやってくる。
かなり大掛かり、規模の大きなことにはなったようだが、クリスマスの思い出作りはできたらしい。
では、僕もクリスマスの思い出にロールケーキを食べるとしよう。
割と大所帯になってる。
Bクラスルートって一之瀬さんヒロインルートなのでは?▶︎そのようなことがあろうはずがありません。他のクラスのルートにおきましても一之瀬帆波ルートはどぉアアア!
Bクラスが発生するヒロインのルートは最多な気がする
Bクラスが社交的で、くーちゃんが他クラスとの関わりに対して忌避感ないのもあるけど。
天沢と七瀬ルートはあるのか?▶︎分からない……読み続けたものにしか……分からない……。
綾小路くん楽しんでる?▶︎去年のクリスマスより楽しいらしい。仲のいい友達とショッピング。後輩と合流してスイーツ。まぁ人並みの心持ってれば楽しいかも。
ではまた次回