歴史改変能力者は世界の裏を日本に生やしたい   作:無異常世界

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第二話

過去へ行ける。

 

拓真は、充電ケーブルを持ったまま動かなかった。

 

さっきまで眠気しかなかった頭が、一気に冴えている。

 

意味が分からない。

 

なのに、できると分かる。

 

手を伸ばせる。立ち上がれる。目を閉じられる。

 

そういう、自分の身体についていちいち説明されなくても知っている感覚に近かった。

 

ただし、ひとつだけ決定的に違う。

 

そんなことができる人間だと、拓真自身が今の今まで知らなかった。

 

「……いや」

 

声に出すと、少しだけ現実味が戻った。

 

ベッドの上でスマートフォンを握り直す。

 

画面にはいつもの時刻が表示されている。

 

部屋も変わっていない。

 

壁も、机も、脱いだ服も、そのままだ。

 

何かが起きたようには見えない。

 

なら。

 

拓真は、まず明日を思い浮かべた。

 

明日の朝。

 

仕事へ行く時間。

 

そのさらに先。

 

何もない。

 

いや、何もないという言い方も違う。

 

過去を考えた時にだけある、あの妙な「届く」感じがない。

 

ただ日時を想像しているだけだった。

 

「未来は……無理?」

 

断定はしない。

 

できないのか。

 

やり方が違うのか。

 

単に今は分からないだけなのか。

 

そこまでは分からない。

 

拓真は今度は、少し前を意識した。

 

風呂へ入る前。

 

夕食の最中。

 

仕事から帰る前。

 

昼。

 

そのたびに、感覚があった。

 

そこへ行ける。

 

行こうと思えば、実行できる。

 

胸の奥が急に熱くなる。

 

「マジかよ……」

 

笑いそうになった。

 

思わず口元を押さえる。

 

本物。

 

第一話であれだけ考えていたものが、突然、自分の側から現れた。

 

心霊動画でも、都市伝説でも、誰かが作った話でもない。

 

まだ何ひとつ証明していない。

 

それでも、少なくともこれは、自分の意思とは別に存在している感覚だった。

 

試したい。

 

今すぐ。

 

拓真は、夕食の少し前を思い浮かべた。

 

感覚が返る。

 

あとは踏み込めばいい。

 

そう思った瞬間。

 

指が止まった。

 

「……待て」

 

その時間には、自分がいる。

 

当たり前だ。

 

今日の夕食前なら、今日の自分が家にいる。

 

では、そこへ今の自分が行ったらどうなる。

 

入れ替わるのか。

 

過去の自分が消えるのか。

 

二人になるのか。

 

もっと単純に、同じ場所へ出れば危ないのか。

 

何も分からない。

 

分からないまま実行するには、さすがに大きすぎた。

 

拓真はスマートフォンのメモを開いた。

 

少し考えてから打つ。

 

『時点移動らしき感覚』

 

『未試験』

 

『未来側――反応なし』

 

『過去側――反応あり』

 

そこで一度止めた。

 

続ける。

 

『確認すること』

 

『身体ごと移動するのか』

 

『移動先にその時点の自分がいる場合どうなるのか』

 

『持ち物はどうなるのか』

 

『元の時点へ戻れるのか』

 

最後の一行を見て、拓真は眉を寄せた。

 

戻れる保証がない。

 

今の自分から未来側へは、少なくとも同じ感覚では届かない。

 

なら、「ちょっと過去へ行って、確認したら戻る」を最初から当然だと思うのは危ない。

 

もっと小さく。

 

失敗しても致命的になりにくい形にする。

 

そこまで考えたところで、拓真はスマートフォンを伏せた。

 

「今日やるのはやめよう」

 

口に出して決める。

 

能力らしきものが消える可能性はある。

 

朝になったら、全部気のせいだったと思うかもしれない。

 

それでも、眠気と興奮で判断が鈍っている状態で試す理由にはならない。

 

拓真はベッドへ横になった。

 

目を閉じる。

 

当然、すぐには眠れなかった。

 

* * *

 

翌朝。

 

目を覚まして最初に確認したのは、時刻だった。

 

次に、昨日のことを思い出す。

 

過去へ行ける。

 

感覚は残っていた。

 

「……ある」

 

眠気が一気に引いた。

 

昨日の夜だけの錯覚ではない。

 

少なくとも、自分の中では継続している。

 

拓真は起き上がり、もう一度だけ未来と過去を分けて意識した。

 

未来側には、やはり届く感じがない。

 

過去側にはある。

 

昨日と同じだ。

 

階下へ降りると、母の真由美が朝食の準備をしていた。

 

理央は先に席についている。

 

「おはよ」

 

「おはよ。兄ちゃん、寝不足?」

 

「ちょっと」

 

「夜更かし?」

 

「まあ」

 

嘘ではない。

 

理由を言っていないだけだ。

 

真由美が振り返った。

 

「仕事でぼーっとしないでよ」

 

「しないって」

 

「昨日も遅かったんでしょ」

 

「普通」

 

「普通って言う人の普通は信用ならない」

 

理央が笑った。

 

いつもの朝だった。

 

父の浩一はもう家を出ている。

 

テレビから流れるニュースも、食卓の空気も、昨日までと何も変わらない。

 

拓真だけが、変なものを抱えている。

 

言おうとは思わなかった。

 

まだ、何も確認していない。

 

過去へ行ける気がする。

 

それだけを家族へ話して、何になる。

 

まず自分で確かめる。

 

話はその後だ。

 

* * *

 

「相良、眠そうだな」

 

午前の作業中、大野真吾に言われた。

 

「ちょっと寝不足です」

 

「ゲーム?」

 

「違います」

 

「じゃあ動画」

 

「それでもないです」

 

「じゃあ何」

 

「考え事です」

 

「一番危ないやつじゃん」

 

真吾が笑う。

 

拓真も少しだけ笑って、手元へ視線を戻した。

 

仕事は仕事だ。

 

昨日まで何も起きなかった設備が、今日だけ都合よく超常現象を起こしてくれるわけではない。

 

確認する項目を飛ばさない。

 

異常がなければ異常なしとして処理する。

 

何かあれば勝手に触らず、必要な手順を踏む。

 

いつも通りにやる。

 

今、自分が持っているかもしれないものとは別の話だ。

 

その区別が、むしろありがたかった。

 

頭の片隅ではずっと、過去のことを考えている。

 

だからこそ、目の前の作業は普段以上に意識して切り分けた。

 

昼休み。

 

拓真は一人になれる時間を作り、スマートフォンを開いた。

 

地図を見る。

 

最初に試す場所。

 

家の中は駄目だ。

 

過去の自分や家族と重なる可能性がある。

 

職場も論外。

 

人も設備もある。

 

人気の少ない場所。

 

周囲が見える。

 

車道や水際から離れている。

 

移動先に誰かが立っていても、すぐ危険になる場所ではない。

 

候補をいくつか見て、河川敷で手を止めた。

 

広い。

 

開けている。

 

時間を選べば、人とも距離を取れる。

 

少なくとも、最初の一回を試す場所としては家よりましだった。

 

拓真は昨夜のメモへ追記した。

 

『最初の試験』

 

『近い過去』

 

『人の少ない開けた場所』

 

『自分がその時点にいた場所から離す』

 

『車、水、段差から離れる』

 

『持ち物は最低限』

 

『一度だけ』

 

書いてから、しばらく画面を見た。

 

ここまでやっても、安全だとは思えない。

 

何が起こるか分からないのだから当然だ。

 

それでも。

 

何も考えず部屋から飛ぶよりはいい。

 

スマートフォンを閉じる。

 

胸の奥では、昨日からずっと同じ感情が消えていなかった。

 

怖い。

 

それ以上に、試したい。

 

* * *

 

仕事を終え、拓真はまっすぐ家へ帰った。

 

夕食も普段通りだった。

 

「今日も眠そう」

 

理央に言われる。

 

「朝よりはまし」

 

「考え事、終わった?」

 

「まだ」

 

「そんなに?」

 

「ちょっと大きいやつ」

 

「転職?」

 

「なんでそうなる」

 

「仕事の人が言う『考え事』ってだいたいそれじゃない?」

 

「偏見だろ」

 

真由美が横から口を挟んだ。

 

「変なことするなら先に言いなさいよ」

 

拓真の箸が一瞬止まる。

 

「変なことって」

 

「急に仕事辞めるとか、大きい買い物するとか」

 

「ああ」

 

「何その反応」

 

「いや、別に何もない」

 

少なくとも、その二つではない。

 

本当のことを言えば、もっと変だ。

 

食事を終え、自室へ戻る。

 

拓真は机の上へ必要なものを並べた。

 

スマートフォン。

 

財布。

 

家の鍵。

 

必要以上には持たない。

 

リュックへ入れていく。

 

最後に、メモを開いた。

 

項目を見直す。

 

そして、一番上へ新しい一行を足した。

 

『最初の目的――本当に過去へ行けるのか確認する』

 

それ以上は欲張らない。

 

仕組みを解明するのも。

 

歴史がどうなるのか考えるのも。

 

自分が二人になるのか確かめるのも。

 

まず、本当に起こるのかを見てからだ。

 

拓真はスマートフォンをポケットへ入れた。

 

部屋を見回す。

 

昨日までなら、ただ外へ出るだけだった。

 

今日は違う。

 

もし本当にできるなら。

 

ここから先で、自分は初めて、世界にあるはずのないことを実際に確かめる。

 

拓真はリュックを背負った。

改稿前verだけ見て切られたら困るんですが、消した方が伸びると思いますかね?

  • 消した方が伸びる
  • 消さない方が伸びる
  • どっちでも良い
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