とある科学の令和冷戦   作:大体三恵

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ピスキーの後方で、撹乱せずに見守る者

「海を渡らせるな!」

 

 華央人民共和国防空軍 東海防空管区司令部の意向はそれだけだった。

 

 命令だが、意向というレベルだった。

 

 未確認飛行物体を撃墜せよ、とは言わない。

 武器の使用を許可する、とも言わない。

 ただし、本土へ到達させるな。というなんとも都合のいい話だ。

 

 華央人民共和国東部、上海湾岸防空基地司令官の梁徳成少将は、受話器を握ったまま、返答を数秒遅らせた。

 

「確認することを許可させてください」

 

『何をだ』

 

「海を渡らせるな、とのことですが、具体的な対処権限についてです」

 

 回線の向こうで、露骨な苛立ちが漏れた。

 

『梁少将。いいかね? 未確認飛行物体が、我が国の本土へ向かっている』

 

「承知しています」

 

『ならば、本土へ到達させるな』

 

「領空への進入を拒否するという意味でしょうか。それとも海岸線への接近を許すなという意味でしょうか」

 

『上空も飛ばすな』

 

「しかし、相手の意図はまだ確認されていません」

 

『日本側の説明を信じるのか』

 

 ありえない背景を知っている梁は、すぐには答えなかった。

 

 東京湾に、巨大な島が突然出現した。

 その島は海面に接しておらず、空中に浮遊している。

 そこから飛び立った正体不明の飛行物体が、日本の戦闘機を振り切り、華央国へ向かっている。

 

 日本政府から伝えられた説明は、骨董無稽のそれだけだった。

 

 基地の作戦部は、ほとんど迷わずに別の筋書きを組み立てた。

 浮遊島など存在しない。

 存在したとしても、それは本件とは無関係だ。

 

 一連の不可解な報告は、すべて日本側が用意した隠れ蓑である。

 

 日本、あるいはその背後にいるアメリカが、新型の長距離兵器を開発した。

 垂直発射が可能で、航空機を上回る速度を持ち、従来の識別信号に応答しない。

 その実戦試験、あるいは威力偵察のために、華央国本土へ撃ち込んできた。

 

 事前の政治的責任を回避するため、正体不明の島から発進したという物語を作った。

 東京湾に異常が発生したという大量の通信そのものが、偽装工作である可能性もある。

 

 作戦部長は、自信を持ってそう説明した。

 

「敵は我々に考えさせようとしています」

 

 彼は作戦室中央の地図を指しながら言った。

 

「これは航空機なのか。ミサイルなのか。島とは何か。敵意はあるのか。考えている間に、相手は海を越える」

 

「日本側は映像も航跡も送ってきている」

 

 梁が言うと、作戦部長は冷笑した。

 

「送ってきたからこそ怪しいのです。通常、日本政府がここまで迅速に軍事情報を開示しますか」

 

「今までに通常ではない事態が起きているなら、あり得る」

 

「浮遊する島を信じると?」

 

「信じるとは言っていない」

 

 梁はレーダー画面へ目を向けた。

 未確認飛行物体を示す輝点が、東シナ海上を高速で西進している。

 数分で防空識別圏だ。

 

 日本側の戦闘機二機は長野見上空で振り切られた。日本海に出る前にだ。かなりの加速である。

 遅れてF-15はアフターバーナーを使ったようだが、加速度で負けているうえに引き離され、五分といういささか異常な使用時間のあと帰投していった。

 物体は明らかに華央国本土を目指していた。

 

 その進路上には上海がある。

 首都ではないが、国家の生命線の一つだった。

 なによりどの国家にもメンツがある。

 

『梁少将』

 

 受話器から、上官の声が聞こえる。

 

『まさか、あれが上海の上空を通過するのを見物するつもりではないだろうな』

 

「交信を試みています」

 

『では応答は』

 

「ありません。判別不能の電波のみ返ってきます」

 

『ならば敵性物体だ』

 

「応答方式が一致していない可能性もあります」

 

『そんな話をしているのではない』

 

 梁は目を閉じた。

 上層部は、命令の形を完成させようとしない。

 撃墜を命じれば、判断の責任は司令部に残る。

 

 撃墜して戦争になれば、命令を出した者が問われる。

 だから、海を渡らせるな、とだけ言う。

 本土上空を飛ばすな、とだけ言う。

 

 実際に何をするかは、現地の司令官が判断したことにする。

 

 ──撃て。ただし、お前の責任で。

 

 そういう圧力(命令)だった。

 

「交戦規定の変更を、文書で要求します」

 

『時間がない』

 

「では、口頭で結構です。対空兵器の使用許可を」

 

『私は本土へ到達させるなと言っている』

 

「了解しました」

 

『確実に対処しろ』

 

 こうして回線が切れた。

 梁はしばらく受話器を戻さなかった。

 

「記録はしてあるか」

 

 通信参謀が答える。

 

「すべて録音しています」

 

「複製して保管しろ。一つは基地外へ送れ」

 

 作戦部長が怪訝な顔をした。

 

「必要でしょうか」

 

「必要になる」

 

 自分が裁かれる時に。

 梁は心の中で、その後を続けた。

 

 レーダー画面では、未確認飛行物体がなおも接近している。

 

「第一迎撃隊、発射準備」

 

 梁は命じた。

 作戦室の空気が変わった。

 部下達の顔つきも変わった。

 

「使用弾種は通常弾頭のみ」

 

「命中しなかった場合は?」

 

「第二波を出す」

 

「核弾頭搭載迎撃弾は」

 

「使用しない」

 

 作戦部長が一歩前へ出た。

 

「司令官、相手が新型戦略兵器なら、通常弾頭で止められる保証はありません」

 

「だからといって、正体不明の一機へ核を使えば、相手が何であろうと戦争になる」

 

「上海に着弾してからでは遅い」

 

「核使用の権限は我々にはない」

 

「ですが――」

 

「発射準備!」

 

 梁の声が作戦室の雑念を切った。

 管制官たちが復唱していく。

 湾岸部に配置された地対空ミサイル部隊が、未確認飛行物体を追尾する。

 

 物体は航空機のように飛んでいる。

 しかし航空機としては加速が異常だった。

 旋回による速度低下もほとんどない。

 

 機体形状についても、各レーダーの推定が一致しなかった。

 

「目標、迎撃圏内まで二分」

 

「日本側から再度通信」

 

「内容は」

 

「未確認飛行物体は日本政府の管理下にない。攻撃を控えるよう要求しています」

 

 作戦部長が吐き捨てる。

 

「予定どおりの文言です」

 

「返信しろ」

 

 梁は言った。

 

「我が国の領空へ接近している。直ちに進路を変更させよ」

 

「日本側は、制御不能だと」

 

「ならば、なおさらこちらで止めるしかない」

 

 言葉にした瞬間、梁は自分が上層部と同じ論理に入り込んだことを自覚した。

 

 止めるしかない。

 

 誰も、その先を言わない。

 

「第一波、発射可能」

 

 管制官が報告する。

 梁はレーダー画面を見つめた。

 

 光点が海を渡ってくる。

 

 本土へは入れられない。

 だが、撃てば何が起きる。

 日本の新兵器なら、軍事衝突になる。

 

 アメリカの兵器なら、世界大戦の可能性がある。

 

 本当に未知の存在なら、どんな報復を受けるかさえ分からない。

 それでも、撃たなければ、自分は命令違反で失脚する。

 もし上海に何か落ちれば、失脚だけでは済まない。

 なによりそこには一族の家族がいる。

 

「発射」

 

 梁は命じた。

 数秒後、湾岸の夜空を炎が裂いた。

 地対空ミサイルが複数、未確認飛行物体へ向かう。

 

「誘導良好。維持! ……継続! ────捉えました!」

 

「目標、回避運動! これは……」

 

「速いぞ!」

 

 光点が急激に進路を変えた。

 通常の航空機なら、搭乗員も機体も耐えられない旋回だった。

 

 最初の二発が空を切る。

 

 続く一発は、目標の直前で軌道を逸らした。

 

「誘導異常!」

 

「妨害されています!」

 

「どこからだ」

 

「目標そのものです!」

 

 ミサイルが、見えない手で押し退けられたように曲がった。

 さらに二発。

 一発は飛行物体から放たれた何かに直撃され、空中で爆発した。

 

 もう一発も、弾頭が作動する前に破壊された。

 

「第一波、全弾無効! 成果確認取れず」

 

「第二波! ……発射!」

 

 梁は命じ、伝達され、基地の発射機が再び火を噴く。

 今度は高度と方位をずらし、複数方向から包囲する。

 未確認飛行物体は速度を落とした。

 

「効いています!」

 

 作戦部長が叫ぶ。

 

「回避に集中しています!」

 

「航空隊を接近させろ」

 

「危険です」

 

「今しかない」

 

 梁は航空管制席を見る。

 

「第三迎撃飛行隊の二番機を出せ」

 

 基地に残された最新鋭の機体。

 華央国が多額の外貨と政治的譲歩を費やして導入した、虎の子の制空戦闘機だった。

 迎撃機もあるが……ここは、ソ連から獲得した高性能機が望ましい。

 

 撃墜のためではない。

 

 接近し、目標を確認するためだ。

 駆けつけることより、食いつくことが最条件だ。

 

「搭乗員に伝えろ。攻撃する必要はない。映像を持ち帰れ」

 

「目標から攻撃を受けた場合は」

 

「自己判断で退避を許可する」

 

 言葉にしながら、梁はそれがほとんど死刑宣告に近いと理解していた。

 

 それでも飛行隊長は復唱した。

 

『了解。映像を持ち帰ります』

 

 制空戦闘機が海上へ飛び出す。

 

 地対空ミサイルの第二波は、なおも未確認飛行物体を追い回していた。

 命中はしないが、相手の動きを一時的に鈍らせている。

 

「航空隊、目標まで四十キロ」

 

「三十五」

 

「三十」

 

 その時、新たな警報が鳴った。

 作戦室内の全員が振り返る。

 

「何だ!」

 

「内地から弾道弾発射!」

 

 梁は耳を疑った。

 

「どこの部隊だ!」

 

「戦略第二軍管区。発射地点、内陸部!」

 

「弾種は?」

 

 担当官が答えられない。

 しかし、表示された識別符号を見れば分かった。

 

「核弾頭……だ」

 

 誰かが呟いた。

 

 梁は受話器を掴んだ。

 

「どこの誰が許可したぁっ!」

 

「こちらには事前通告がありません!」

 

「発射部隊につなげ!」

 

「回線が閉じられています! 自主的に隔離した反応です!」

 

 作戦部長は青ざめながらも言った。

 

「戦略部隊が、敵の突破を国家存亡の危機と判断したのでは?」

 

「馬鹿な!」

 

 梁は机を殴った。

 

「上海沖で核を使うつもりか!」

 

 弾道ミサイルは高高度へ上昇し、海上の未確認飛行物体へ向けて軌道を変えた。

 

 核弾頭が空中で炸裂すれば、相手だけでは済まない。

 

 電磁パルスは都市機能を麻痺させ、沿岸に甚大な被害をもたらすだろう。

 

 放射性降下物が後からくる。

 

 そして何より、米ソが核攻撃の開始と誤認する。

 

「全周波数で発射中止を呼びかけろ!」

 

「既に飛翔段階です!」

 

「自爆指令はこちらから打てるか?」

 

「戦略部隊の暗号が必要です!」

 

 梁には何もできなかった。

 

 自分が命じた通常迎撃とは別に、内地の誰かが核兵器を撃った。

 

 責任の所在を押しつけ合う者たちの中で、一番過激な判断をした者が先に引き金を引いた。

 

「未確認機、弾道弾を捕捉した模様!」

 

 レーダー上で、未確認飛行物体が大きく向きを変える。

 

 本土へ向かうのをやめた。

 核ミサイルの予測進路へ、自ら近づいていく。

 …………近づく?

 逃げるのではなく?

 

「何をする気だ」

 

 誰にも分からない。

 

「海隼一号、目標へ接近!」

 

 部下が制空戦闘機が決死の覚悟で近づいている。これが無駄になるのか? と梁は拳を握った。

 

「距離、十五キロ!」

 

「映像、入ります!」

 

 作戦室の大型画面に、戦闘機から送られてくる映像が映った。

 

 最初は、光の塊にしか見えなかったが、次第に輪郭が見えてくる。

 

 航空機ではないとみな思った。

 少なくとも、梁が知るどの航空機にも似ていなかった。

 

 巨大な金属骨格に、ツノのような複数の砲身。

 翼とも兵器架とも判別できない構造。

 

 人間が乗るために作られたというより、人間の身体へ巨大な兵装を無理やり接続したような外観だった。

 

「なんだ、あれは……」

 

 先ほどまで、日本かアメリカの最新兵器だと言っていた作戦部長の声から、確信が消えた。

 絶対に新型ミサイルではない。まず巡航兵器でもない。

 

 画面が拡大される。

 

「搭乗部を確認!」

 

「撮れたのか!」

 

 操縦席らしき空間に、人影が見えた。

 

「人間がいるのか」

 

「三人です!」

 

 映像解析担当が叫ぶ。

 

「三人……全員、小柄です」

 

「兵士か」

 

「装備が見えません」

 

 さらに倍率が上がる。

 輪郭が鮮明になる。

 目標が自らを照らすように、ほのかに発光しているため、特にコクピット付近がよく見えた。

 梁は言葉を失った。

 

 少女だ。一人ではない。三人とも少女だ。

 

 先頭の少女が、もう一人を抱えるように座っている。

 

 その背後から、三人目が二人へ覆い被さるように密着していた。

 日本の女子学生服に見えるが、それが間違っていても、戦闘機へ乗る服装ではなかった。

 

「子供か……?」

 

「偽装です。マネキンです」

 

 作戦部長が反射的に言った。

 いやな偽装だ。たしかに撃つのを躊躇(ためら)う。悪魔の発想だ。

 

 だが、その声は弱かった。

 映像の中で、三人が何かを言い争っているように見えるからだ。

 

「もういい! 海隼一号を離脱させろ!」

 

「了解!」

 

 通信が飛んで、映像が乱れる。夜空が回って海が映る。かなりの急旋回だ。

 次の映像はまた未確認の目標の映像だった。

 後ろから追いかける形になっている。 

 

「……なんだ? また追っているのか?」

 

「あの……司令」

 

「なんだ!」

 

「ここまできたら最後まで撮影すべきだと……。子供のために」

 

「あいつ、馬鹿か!」

 

 情報を届けるためではなく、どうやら子供達を見守って逝くつもりのようだ。

 贖罪のつもりか、と梁は心の中で叫んだ。

 

 核ミサイルは上空から急速に接近していた。

 

「弾頭起爆まで推定五十秒!」

 

 未確認飛行物体の装甲が展開する。

 その直後、操縦席から一つの人影が飛び出した。

 

「脱出した!」

 

「いや、落ちていない!」

 

 少女は空中にいた。

 

 落下しているのではない。

 

 飛んでいる。

 連続性のない、まるでコマ落ちのような飛行だ。

 

 何の装備もない。

 パラシュートも、翼も、噴射装置も見えない。

 それでも少女は夜空を駆け、核ミサイルへ接近していく。

 

「海隼一号、撮影を続けろ!」

 

 梁は叫んだ。

 

 少女は核ミサイルの側面へ並んだ。

 その周囲で青白い光が走る。

 次の瞬間、ミサイルの姿勢が崩れた。

 

「誘導停止!」

 

「弾頭部から電気的反応消失!」

 

「起爆回路が落ちています!」

 

「なにがおきている? あれがやってるのか? そんなことができるのか?」

 

 核弾頭が無力化された。

 少なくとも、監視装置はそう示していた。

 ミサイルは推力を失い、弧を描いて海へ落下していく。

 

 少女はその直前に離れ、空中をコマ落ちする踊りのように未確認飛行物体へ戻った。

 

 どうやって戻ったのか、映像を見ていた誰にも説明できなかった。

 一瞬、姿が消えたようにも見えた。

 次の映像では、もう操縦席へ収まっていた。

 

「弾道弾、海面へ落下!」

 

「核反応なし!」

 

「衝撃確認……爆発なし!」

 

 作戦室の空気が抜けた。

 誰かが椅子へ崩れ落ちた。

 

 梁自身も、机に手をつかなければ立っていられなかった。

 未確認飛行物体はしばらく海上に停止していた。……空中に停止できるのか。

 

 華央国本土へ進むことも、攻撃を返すこともしなかった。

 

 やがて、ゆっくりと機首を東へ向ける。

 

「反転します」

 

「本土から離れていく……」

 

 未確認飛行物体は、来た航路を戻り始めた。

 やっかいでやばい、意味のわからない飛行物体は再び日本方面へ。

 梁はレーダー画面を見つめた。

 

 自分の命令で、ミサイルを撃ったが、全弾を無力化された。

 内地からは、許可系統すら不明な核ミサイルが発射された。

 

 それも無力化された。それも理解できない方法で。

 

 相手は報復せず、引き返した。

 

 責任問題は避けられない。

 

 司令官としての経歴は終わったかもしれない。

 だが、それより心配なことがある。

 

「全面核戦争には、ならないかもしれない」

 

 梁は小さく呟いた。

 核ミサイルはただ海へ落ちた。

 世界を焼く最初の一発にはならなかった。

 

「海隼一号は」

 

「帰投中です」

 

「映像は」

 

「記録に成功しています。光学映像、赤外線映像、ガンカメラ、すべて正常です。より解像度の高い記録が期待できます」

 

 映像担当官の声が震えていた。

 これは世界で唯一の映像だ。

 

 航空機ともミサイルとも似つかない飛行物体。

 

 その操縦席に密着して乗る、三人の少女。

 

 そして空中へ飛び出し、核ミサイルへ追いつき、その弾頭を無力化した少女。

 

 これを持ち帰った。

 撃墜できなかったという失敗とは比較にならない。

 世界の軍事常識を根底から覆す情報だった。

 

+ + + + + + + + +

 

 数時間後、梁は中央からの回線で事情聴取を受けた。

 通常ミサイルの発射責任。

 未確認飛行物体を本土近くまで接近させた責任。

 戦略部隊との連携不足。

 

 質問は厳しかった。

 

 だが、解任の通知は来なかった。

 

 撮影した映像の価値が、梁を救ったのだ。

 

 そして何より、映像は作戦部の筋書きを否定している。

 日本が新型ミサイルを撃ち込んだのではない。

 少なくとも、通常の国家が運用する兵器ではなかった。

 

 三人の少女が乗っていて、一人は空を消えながら飛ぶ。

 

 核兵器を破壊せず、爆発もさせず、機能だけを停止させている。

 中央で開かれた最初の極秘会議では、正式な呼称が決まらなかった。

 

 未確認少女搭乗飛行兵器。

 人型操縦者三名を伴う特殊航空物体。

 対核能力保有未知兵装。

 

 どれも長い。長すぎた。

 情報量が多いのだ。

 表意文字でこれならば、英語は30文字くらいになりそうだ。

 

 やがて、会議に出席していた一人の高官が、映像を見ながら呟いた。

 

「天女だな」

 

 別の者が答えた。

 

「天女が三人いる」

 

 その呼び名は、冗談として始まった。

 だが、正式な名称が決まるまでの仮称として記録へ書き込まれた。

 以後、華央人民共和国の上層部で、あの三人の少女はこう呼ばれることになる。

 

 三天女、と。

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