とある科学の令和冷戦   作:大体三恵

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気づかう観測者たち

【定点観測】学舎の園、なんか雰囲気変わってない?

 

1:名無しの都民

今日の湾岸定点カメラ、見てる人いる?

 

 

6:名無しの都民

警備詰所の前い生徒がめっちゃ集まってたね

 

 

7:名無しの都民

東側の通用門

海上保安庁の定点映像を民放が再配信してるやつ

 

 

11:名無しの都民

警備員らしき人を囲んでるけど、お嬢様と揉めてるの?

 

 

17:名無しの都民

>>11

そんな感じしない。みんな必死そうだけど、手を握ったりしてる

 

 

22:名無しの都民

ついに百合が生徒外にっ!

 

 

25:名無しの都民

>>22

そういうノリでも雰囲気でもないぞ。

警備員さん泣き崩れてる

 

 

30:名無しの都民

毎日、キリリと立っていたあの警備員さんが!

 

 

31:名無しの都民

>>30

え、ええ……

毎日見てるんですか?

 

 

33:名無しの都民

>>31

定点カメラが置かれてから毎日みるだろ

学舎の園のだぞ

あの門の向こうの百合を想像してだな

毎日みてたら警備員さんに惚れた

 

 

38:名無しの都民

>>33

おまわりさん

 

 

39:名無しの都民

定点カメラガチ勢なのか警備員ガチ勢なのか

で、そんなこと今まであった?

 

 

40:名無しの都民

挨拶くらいはしてたような気がする

だけど長話してたのとかも見たことない気がする

 

 

 

43:名無しの都民

園内で重大発表があるとか言ってたから、それが関係してるとか?

 

 

 

47:名無しの都民

>>43

警備員解雇とか?

 

 

52:名無しの都民

>>47

なら本人に直接先生がいうだろ

生徒から言わんわ。

 

 

53:名無しの都民

発表が契機になっているのはたしか

大人な警備員が生徒たちの前で泣くほどのこと──

つまり、学舎の園が元の世界へ帰るってことなんだよ!

 

 

54:名無しの都民

Ω ΩΩ<ナ、ナンダッテー

 

 

60:名無しの都民

ガチ、帰還方法の発表だったのかも

日本政府は問い合わせたの?

 

 

65:名無しの都民

>>60

日本「なにかあったのですか? お帰りになるのですか?」

学舎の園「いえ、むしろ帰るのは困難になってます」

日本「あ、はい」

 

さっきこういうやりとりしてたって、ニュースで言ってるでしょ

 

 

75:名無しの都民

どうも警備員だけでなく、職員さんとかお店の人とも仲良くなっているらしい

 

 

77:名無しの都民

設備職員の人とお出かけしてるって

 

 

85:名無しの都民

前も一緒に食事してたのかな?

そういう話聞かないけど

 

 

96:名無しの都民

店員さんの買い出しに、生徒たちが一緒にぞろぞろいちゃいちゃ

 

 

99:名無しの都民

百合の飲まれた

 

 

104:名無しの都民

行こう

東京もいずれに百合に呑まれる

 

 

105:名無しの都民

前から生徒同士の距離が近かったが、ついに大人も巻き込まれたか!

 

 

107:名無しの都民

以前は制服で別れてたのに、いまは混じり合ってる

 

 

112:名無しの都民

百合でなくても、一人にしないという空気が感じられる

 

 

113:名無しの都民

これ、もしかしてもう帰れないって判明したから

共依存が強くなったんじゃね?

 

 

118:名無しの都民

>>113

あっ……

それは有り得るな。

もうみんな一緒に生きていくしなない覚悟だこれ

 

 

119:名無しの都民

重大発表ってそれだったのか。

自暴自棄にならず、それが数日でここまで事態好転なら見上げた子たちだ。

 

+ + + + + + + + +

 

 学舎の園で、なにか重大発表がなされたという翌日。

 

 日本政府の合同連絡室では、掲示板よりも高解像度の映像が、複数の画面に並べられていた。

 学舎の園側の同意を得て設置された定点観測機器と、東京湾周辺の警戒監視設備から得られた映像である。

 

 これら監視の目的は、軍事的なものだけではない。

 

 いろいろ思惑はあるが、表向き園内社会の安全性を確認する意図がある。嘘ではないし、主目的だ。

 交渉相手である学舎の園が、正常な共同体として機能しているかを確認することも、重要な任務だった。

 

「本日十二時から十六時までの映像です」

 

 担当官が画面を切り替えると、警備詰所の前で十人を超える生徒が、一人の女性警備員を囲んでいる。

 別の画面には屋外の休憩所。制服姿の生徒たちと、作業服を着た施設職員が、同じテーブルを囲んで昼食を取っていた。

 

 さらに別の画面では、店舗従業員と見られる女性が、生徒二人と並んで歩いている。

 

「大きな変化といえば変化だが、集団トラブルがあったとかではないですね?」

 

「はい。生徒以外を派閥化するなど取り込みの様子も、争いの兆候はありません。むしろ成人構成員に対する慰労、相談、交流と見られます」

 

「以前からあった行動ではなかったと聞くが?」

 

 内閣官房の職員が尋ね、担当官はその通りですとうなずく。

 

「このような交流は生徒同士では頻繁に確認されていました。しかし、成人構成員を対象とした接触は限定的でした」

 

 担当官は、発生件数を示す表を画面へ出した。

 

「本日、園内での重大発表後、生徒から警備員、店舗従業員、施設職員への自発的接触が急増しています」

 

 生徒たち2,643人を集め、屋内競技場で行われたと言う重大発表とはなにか?

 世界へはもちろん、日本国への通達もない。

 学校らしい重大発表だったのか、もしや元の世界へ帰るという帰還方法が見つかったのか?

 たんなる女性だけという閉鎖環境において重要だというだけで、政治的にも能力、経済的にも関係がなく、日本国が軽々しく介入するわけにいかない繊細な事柄なのか?

 

「では、この変化は発表内容と関係していると言うのかね?」

 

「時間的には、その可能性が高いと考えられます。会話するだけでなく、休憩時間の同行、昼食への招待、手を握る、肩や腕へ触れる、軽度の抱擁などが確認され始めました」

 

 一人の官僚が眼鏡を外し、目頭を押さえた。

 

「若い女性たちのことです。報告書の表現には気をつけてください」

 

「すでに担当間では『接触対象の拡張』で統一しております」

 

 画面には、生徒から差し出された飲み物を受け取る警備員が映っていた。

 

「最初は職員たちが泣き崩れたりと、なにかトラブルがあったのかと思ったが……。単純に以前より親密になった、という理解でいいのか?」

 

 防衛省から派遣された担当者が、学舎の園で起こった変化について簡潔にしてもらいたいのか訊ねてきた。

 

「少し違います」

 

 複雑化を望んでいない防衛省の担当の期待を裏切る分析官が答えた。

 

「既存の親密な集団内で接触の強度が増した形ではありません。接触行動の対象となる範囲が広がっています」

 

「深くなったのではなく、広くなった? 生徒たちだけではなくなったと?」

 

 大型画面へ、発表前後の人間関係を模式化した図が表示された。

 園内で行われた重大発表前は、生徒同士を結ぶ線が大半を占めている。

 

 発表後は、その線が警備、店舗、設備、行政補助を担う成人構成員へ伸びていた。

 

「園内にいた職員や店員を、女子生徒たちが同じ共同体の一員として再認識した可能性があります」

 

「これまで仲間ではなかったというのか?」

 

「機能上は仲間でした。しかし心理的には、生徒社会と成人の職業集団が分かれていたのでしょう」

 

「我々にも覚えがあるな。用務員のおじさん、給食のおばさんなどと慕うが、どこの誰か、どこに住んでいるか、どの生徒と仲がいいかなど考えなかった」

 

 誰かの感想に、みなが無言で頷く。

 

「そういえば用務員のおじさんの仕事をずっと眺めていた記憶はあるが、話かけて名前を聞こうなどと思ったこともなかったな……。つまり彼女たちの間で、その境界が薄くなった?」

 

「少なくとも、園内部ではその傾向が見られます」

 

 分析官は最後の部分を強調した。

 現時点で、日本側の支援員や交渉担当者へ同様の行動が向けられた事例はない。

 園内で起きた変化を、そのまま外部関係へ拡張して考えるべきではなかった。

 

「これにより、治安上の評価は?」

 

 人間関係が大きく変わった場合、予期せぬ活動が起きる場合もある。

 この懸念に警察庁の担当者が答える。

 

「好転してるといえます。孤立者の発生を住民自身が抑制し、警備や店舗従業員が精神的に不安定になった場合も、生徒側が早期に察知できる可能性があります」

 

「それはいいが……。今後、意思決定への影響はでるかね?」

 

「共同体としての結束は強くなります。反面、内部の誰かに危害が加わった場合、従来以上に一体となって反応する可能性があります」

 

 少女たちを取り巻く環境は良くなったが、だからといって扱いやすくなったわけではない。

 互いを支える社会は、同時に、互いを守る社会でもある。

 

「……いいじゃないか。内部で安定化が進んでいるなら、それを妨げる必要はない。職員と店舗従業員への支援物資は、学校単位ではなく職域ごとの要望も聞くようにしてくれ」

 

「警備要員への休養確保のため、交代要員の準備があることも提案します」

 

「そうしてくれ。生徒に慰められるまで働かせたとなれば、こちらの支援体制にも問題がある」

 

 担当官たちが頷いた。

 責任者は、もう一度画面を見ると、生徒たちと職員が、同じテーブルで昼食を取っていた。

 遠距離映像では、何を話しているかまでは分からない。

 ただ、彼女たちが笑っていることだけは分かった。

 

「閉鎖的になったのではなく、内側で広がったのか」

 

 誰に聞かせるでもなく、責任者が呟く。

 

「少なくとも、悪い兆候ではないな」

 

 画面の端で、作業服姿の職員が立ち上がった。

 生徒の一人が空になった弁当箱を受け取り、別の一人が職員の腕を引いて、もう少し座っていくよう促している。

 

 合同連絡室の若い分析官は、その映像を見ながらネット上の表現を思い出した。

 

 生徒の百合が、大人に伝播している。

 

 正式な記録には、こう記された。

 

『重大発表後、学舎の園内部において、生徒層から成人構成員への自発的な接触・交流行動が増加。既存関係の深化ではなく、共同体意識の対象範囲が拡張したものと推定される』

 

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