ナズナのアトリエ ~悩める錬金術師とまほろばの神~ 作:匿名設定
それはもうずっと昔、誰もがもう憶えていない遠い時代のお話……。
国産土命(クニウブスナノミコト)と国産土女姫命(クニウブスメノヒメミコト)のふたはしらの神さまが手を携えて天ノ逆鉾で海を突き、滴ったしずくからアヅマの島々が生まれました。
ふたはしらの神さまは力をあわせ、海水と土をこねて草木を生み、鳥や獣を生み、自分たちに似せた人間たちを生み出しました。そして天界に住まう自分たちの子孫、アマツハラの神人たちに命じたのです。
「お前たちが持つ神器を生み操る力を以って、人々を助け、地上に楽園を築きなさい」
これが、『天孫降臨』と呼ばれる神話上の出来事。
地上に降りたアマツハラ神族の生み出す不思議な道具、神器(シンキ)の力は大地を富ませ、嵐を鎮め、病を癒し、人々のあらゆる苦しみを取り除いたと云われています。
こうして地上は楽園となり、人々は平和と繁栄を謳歌しました。
しかし、永遠の約束された天界と異なり、時のうつろう地上に永遠というものはありません。永い時の果てに、アマツハラと人々は自らが持つ神器の力におぼれてしまったのです。彼らはやがて怠惰に蝕まれ、酒池肉林に耽り、ついには神器の生み出す富と力をめぐって争いまで起こすようになってしまいました。
国産土の神はこれに怒りました。そして天界に住まうもうひとつの子孫であるタカツハラ神族に天ノ逆鉾を与え、アマツハラ神族を滅ぼすよう命じたのです。
堕落し弱体化したアマツハラ神族には、武勇に優れたタカツハラ神族に抗う力は残されておりませんでした。わずかな抵抗の後にアマツハラは滅ぼされ、地上はタカツハラ神族が治めることとなりました。
これが第二の『天孫降臨』と呼ばれる出来事です。
タカツハラの人々は、アマツハラが堕落したのは神器という便利な道具に原因があると考え、神器を禁忌とみなしてそれを生み出すことも使うことも禁じました。ただ国産土命より授かった天ノ逆鉾のみを唯一の神器とし、これの周囲に社を築き厳重に封印を施して祀ったのです。
こうして極東の神秘的な錬金術、神器の技術は途絶えてしまいました。
無常なる時の流れの中で、やがて質実剛健たるタカツハラの繁栄も衰えてゆきます。隣国である大陸や半島、南の島々を渡ってやって来た海の民がアヅマへの侵入を繰り返し、タカツハラは各地で敗北し衰退してゆきました。そして半島の勢力争いに敗れたスメラギ神族の残党が再起を期すためにアヅマの島国に攻め込んできたとき、国産土命と国産土女姫命のふたはしらの神さまはスメラギの族長を王と認め、アヅマの島国を引き渡してどこかへと去ってゆきました。
それから長い年月が経ち、国産土神も国産土女姫神も、天津原も高津原も、全てが悠久の歴史の中へと消え果てた、そんな時代の物語――