ナズナのアトリエ ~悩める錬金術師とまほろばの神~ 作:匿名設定
雨が降り続いている。
それは朽ちかけたお堂であった。部屋の隅には蜘蛛の巣が張り、梁には蝙蝠のような得体の知れぬものがぶら下がっている。天井の一部からはときおり雨水がしたたり落ちてはいたが、雨露をしのげぬほどには壊れてはいなかった。薄暗い灯火に照らされた台座の上には恐ろし気な顔をした仁王像が立っており、侵入者を厳しい目で睨みつけていた。
「来たか」
ひとりの男が、呟く。
扉が開き、蓑を身につけて笠をかぶった男が入ってくる。蓑を脱いで露を払った際、男が腰に二本の刀を差しているのが見て取れた。
「幻宗斎は散ったようだな」
頬に傷のある若者、猿彦が答えた。
「ああ、粉になって崩れちまった。もう骨の欠片すら一片も残ってねえ」
「ふん」
男は笠をかぶったまま、微かに笑ったように見えた。
「奴は妄執に囚われすぎた。だから命まで捧げて消え果てた。物事にはなにごとにも、ほどほどというものがあるゆえ、な」
「俺みたいに、金に興味がありゃ助かったかもな」
一行の中にいた、女が口を開く
「アンタがあたしらの新しいお頭、ってやつでいいのかね」
「まあ、そうなるな」
「それで」岩のような逞しい体躯を持つ男が、低い声で言った。「お前がそれにふさわしいと、どうやって決める?」
男は無言だった。
「ぐあっ!」
無言のまま走り寄ると、抜く手も見せぬままに切った。一瞬の閃光の後に肘から先だけになった腕がぼとりと落ち、猿彦の姿は消えていた。
「間者の面ぐらい、見極めろ。あまり儂を失望させるなよ」
女は声も出ない。岩男は肩をすくめて言った。
「俺は、人を殺せれば、いい」
「お前はそれでよい」
男は満足げに言った。
「……それで、あたしらは何をすればいいんだい」
ようやく口を利けるようになった女が言った。虚勢でも張り通さなければ、目の前のこの男は彼女を容赦なく切り捨てるであろう。
「追って指示する。しばらくは、そこいらの民草でも攫って楽しんでおれ」
「あの錬金術師はどうしたい?」
女の問いに、男は苦々し気な表情を浮かべた。
「惨めに命乞いをして参ったわ。錬金術の秘密結社とやらによれば、今はそいつしか神器の利用の仕方を知らぬとのことよ。ならば、しばらくは使ってやる他はあるまい。利用価値が無くなれば、すぐに切る」
女は、やれやれ、といった調子で肩をすくめた。わざわざ切り殺されるために、南蛮から海を渡ってこんな世界の果てまでやってくるとは。もっとも、同情などする気もないし、していられる立場でもなかったが。
「神を、殺す」
男は笠を脱いだ。そこには、邪悪な笑みを浮かべた雷蔵の顔があった。
「我を邪魔するものは、八百万の神でも切り倒す。たとえそれが、“真なる神”であろうともな。まあせいぜいそれまで、英気を養っておくがいい。フ、フフ……」