男が希少な異世界の未開地に転移したら都市伝説になった   作:パンダプリン

71 / 141
第71話 Ein Loch ist im Eimer

 チサトに案内された場所は、大小さまざまな花が咲き乱れた美しい場所だった。

 たしかに、これだけ巨大な花まで咲いているなら、アルラウネとかいそうな雰囲気だ。

 しかし、あたりを見回してみると、そこにはただの花が咲いているだけで、肝心のアルラウネは見当たらない。

 

「チサト、道間違えた?」

 

「……」

 

 首を左右にふるチサト。どうやら、ここで合っていると主張しているようだ。

 

「エルマ、アキトさんを連れてきたわよ。起きられそう?」

 

 イオさんは巨大な花に話しかけたかと思うと、その花はもぞもぞと動きだし、花の上に緑の肌の女性の上半身が現れた。

 

「あ、ありがとうイオ」

 

 エルマと呼ばれたアルラウネは、寝起きの人のように目を二、三、またたかせると、俺とソラのほうを向いた。

 

「はじめまして、神狼様、神狼様のつがい様。私はアルラウネのリーダーのエルマと申します」

 

 神狼様はソラだけど、つがいって俺のことか?

 なんか勘違いされてるけど、いまにも倒れそうな弱々しいアルラウネに対して、わざわざ訂正するのもかわいそうだな。

 

「俺は秋人で、こっちはソラ。よろしく」

 

 必要以上に恐縮されそうだし、無駄な問答が発生するため、敬語は使わずに簡単に名乗っておく。

 

「あつかましいお願いなのですが……イオたちのように、私たちもお救いいただけないでしょうか」

 

 ほら、きた。

 やっぱり、もういっぱいいっぱいになってるから、俺たちに助けてくれって用事じゃないか。

 なんの解決策もないまま来ちゃったけど、本当に大丈夫なんだろうか。

 

「……」

 

 チサトを見ると、チサトは親指を立てて任せろと言わんばかりの態度で答えた。

 いいんだよな? もうなんとかするって答えちゃうよ?

 

「えっと、俺たちにはエルマさんたちを助ける方法がわからないけど、このチサトがなんとかできるかもしれない」

 

「え、その方は……土の精霊様!?」

 

 ああ、そんな急に大声を出すから、むせちゃってるじゃないか。

 とりあえず背中をさすってあげると、楽になったのかなんとか落ち着いたようだ。

 

「あ、あの……すみません。私なんかに触れさせてしまって」

 

 申し訳なさそうにするが、気にしないでもらいたい。

 というか、裸の女性の背をさするって、俺の方が悪いことしてる気がするし。

 動くたびにゆれるから、落ち着いてほしい……

 

「いてっ」

 

「……」

 

 ソラに甘噛みされて、チサトにすねを軽く蹴られる。

 ソラのほうは痛みはないし、チサトもかなり加減してるので痛みはほとんどない。

 だけど、二人がご立腹なのは言葉がなくても理解できる。

 そうだね。こんなときに変なこと考える俺が悪かった。

 

「ごめんごめん。チサト、アルラウネを助けることはできる?」

 

 チサトはしかたないというように、ため息をついてから地面を手で触る。

 ペタペタと触ってわずかに移動し、また地面を触ってと繰り返す。

 地質の調査でもしているのか?

 

 あたりをうろうろと動き回っていたチサトは、元の場所へと戻ったかと思うと、しゃがんで両手を地面につけた。

 うちの畑の土をよくしてくれたときのあれと同じだ。

 チサトの手のひらから地面へと、光が流れていく。

 さすがに畑よりも広範囲だからか、あるいは畑以上に土の魔力が枯渇していたのか、たっぷりと時間をかけて土に光を注いでいく。

 

「終ワッタ」

 

「そっか、お疲れ様」

 

 チサトは何事もなかったかのように、こちらにトコトコと歩いてきた。

 ちょうどいい高さに頭があったので、思わずなでてしまう。

 はいはい。わかってる。お前もなでてほしいんだな。

 

 もうセットでなでるのにも慣れてきた。

 ソラとチサトをなでながら、エルマさんに伝える。

 

「土の状態を改善したみたいですよ」

 

「す、すごい。こんなに魔力に満ちたおいしそうな土、初めて見た」

 

 土においしそうという感想をつけるのは、彼女たちぐらいだろうな。

 だけど、お気に召したようでなによりだ。

 もしかして、これでアルラウネたちの飢餓問題も解決するのか?

 だとしたら、あっさりと解決したチサトってすごいんだなあ。

 さすがは精霊といったところか。

 

「みんな、精霊様が土壌を改善してくれたわよ。起きて食事にしましょう」

 

 エルマさんの声を聞き、そこら中の花々から女性の裸体が上半身だけ生えてくる。

 すごい人数だ。ここにある花のほとんどが眠っているアルラウネだったのか。

 

「あっ……すみません。お客様の前で急に食事なんて始めて」

 

 なにも食べているように見えないんだけど。

 もしかして、もう土から栄養とか魔力とかを吸い取り始めているのか?

 まあ、なんにせよ。俺たちのことなんて気にしてる場合ではない。

 

「気にしないで。というか、死にそうなほどお腹空いてる人たちに、食事をするなとか言わないから」

 

「すみません。ありがとうございます……」

 

 普通に会話しながらも食事してるのか、便利だな。

 でも、食事をするのなら、やはりちゃんと口から味わいたいし、うらやましいとは思わない。

 

「……匂うのう」

 

「えっ、なにが?」

 

 黙って俺とエルマさんの会話を聞いていたシルビアが、ぽつりとつぶやいた。

 なにか変な匂いでもするのか?

 俺の鼻には、アルラウネたちの良い香りしか感じないんだけど。

 シルビアくらい鼻がいいと、別の匂いがわかるようだ。

 

「あれ、エルマ様……おかしいです」

 

「どうして……だって、さっきまであんなに」

 

「土に魔力がありません」

 

 食事をしていたはずのアルラウネたちがざわめく。

 魔力がない? それはおかしくないか?

 俺にはわからないけど、エルマさんがついさっきまで、土に魔力が満ちていると言ってたじゃないか。

 

 足りなかったのか?

 アルラウネたち全員が食事をするには。

 

「チサト、悪いんだけどもう一度」

 

「……!? ナンデ? 土ガ、枯レテイク……」

 

 チサトにもう一度、魔力を土に補充してもらおうとしたのだが、チサトはやけに狼狽した様子だった。

 土が枯れてるだって?

 

 たしかに、土の様子がなにかおかしい。

 俺たちが見ている前で、みるみるうちに土から水分が失われていく。

 うるおいを失った土は、ついにはヒビが入り、不毛の土地のようになってしまった。

 

「……そんな。私たちの土が」

 

 エルマさんたちが、体から力が抜け落ちたように落ち込んでしまった。

 素人目の俺にすらわかる。こんな場所で植物のような彼女たちが生きていくことはできない。

 その様子を見ていたチサトは、めずらしく感情を表に出していた。

 怒っている。だけど、なにに対して?

 

「ナニカガ地下ニイル。枯レタ土ヲ戻スコトハデキルケド、コノママダト、マタソイツノセイデ枯レチャウ」

 

「地下になにかが? そいつがアルラウネたちより先に、土の魔力を喰い尽くしたってことか」

 

 だとしたら、ずいぶんと大食漢がいたものだ。

 そもそも、アルラウネたちが栄養失調気味だったのも、その何者かが先に土を貪っていたせいってことか。

 

「あれっ? この状態からでも土を戻せるの?」

 

 聞き間違いじゃなければ、チサトはたしかにそう言ったよな?

 こんな完全に枯れてしまった土を、元に戻せるっていうのか?

 本当にすごいな精霊。

 

 俺が確認すると、力強くチサトはうなずいた。なんとも頼もしい。

 それなら、地下にいるという元凶をなんとかすれば、アルラウネたちの問題が今度こそ解決できるかもしれない。

 今回は魔力の暴走は無関係なので、残念ながら俺は役には立てないが、チサトを含めた頼りになる仲間たちがこれだけいる。

 きっと、アルラウネたちを救えるはずだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。