男が希少な異世界の未開地に転移したら都市伝説になった   作:パンダプリン

89 / 141
第89話 千切られた尻尾の先にはなにもなし

「どう? アキトが作った指輪なんだけど似合うかしら?」

 

「え、聖女様は、禁域の森の男にそんなものをいただけるほど、親しいのですか!?」

 

「さすが聖女様! ところで、その指輪って私たちも買えないでしょうか?」

 

「えっと……その……」

 

「ばかね。指輪なんて大切なもの、聖女様くらい特別な相手しかもらえるはずないでしょ」

 

「それもそうか。いいな~聖女様。その指輪見せてくれませんか?」

 

「えっ? あれ……?」

 

「いえいえ、あの方は交易の品として、指輪を作っているようなので、私たちが購入できる可能性もありますよ? ですが、アミュレットのときのように、偽物が出回ることもあるので、くれぐれも慎重に考えてくださいね?」

 

 なんだか、信者たちの中の私とアキトの関係が捏造されかけて、しどろもどろになっていると、エセルが助け舟を出してくれた。

 ……まあ、うまくいったし、次にいきましょう。

 

「あら、聖女様がいらっしゃるなんて、ありがたいわね」

 

「そんなにありがたがらないでよ。それより、店長知ってる? 禁域の森にいる男が、今度は指輪を作っているんだって」

 

「ええ! 本当ですか聖女様! 私たちアミュレットは購入できたので、指輪もぜひ欲しいです!」

 

 店主と話していたら、近くの席で食事をしていた女性たちが声をあげる。

 ……でも、そのアミュレットって。

 

「あの……その、アミュレット……」

 

「え、これですか? あっ、さては聖女様も欲しいんですね? あげませんよ~? これは私の大切なお守りなんですから」

 

「えっと……それは……」

 

「あら、楽しそうですね」

 

「お、王女様!」

 

「そのお守り、誰から買ったか覚えていますか?」

 

「ええっと……顔を隠していたし、次の日には露店がなくなっていたから、わかりませんけど、どうかしましたか?」

 

「ちょっと調べていることがありまして。ごめんなさい、一応また聞きたいことがあるかもしれないので、あなたの名前教えてもらえないでしょうか?」

 

「別にかまいませんが……」

 

「それと、もしも指輪が売っていたとしても、念のため本当に男が作った物か、よく確認してみてくださいね?」

 

「ええ、もちろんです!」

 

 よりによって王女にその場を収めてもらって、私たちは店の外へと出た。

 

「リティアさん。あなた、あの方にあれが偽物だって言おうとしてませんでしたか?」

 

「しょうがないじゃない。あんなに嬉しそうにしてるのに、偽物だなんて、教えてあげないとかわいそうでしょ?」

 

「この件が解決するまで、国民たちを混乱させるようなことは控えていただきたいのですが」

 

 そのとおりだけど、それじゃああの子がかわいそうだ。

 でも、あの場であれが偽物だと言ったところで、偽物を売ったやつがわかってさえいないので、あの子を悲しませるだけか……

 

 その後も私は、さまざまな町に出向いては噂を流そうとするも、噂の詳しい内容を聞かれて答えられず、王女の関係者や教会の関係者に助け舟を出してもらっていた。

 

「つ、疲れた……」

 

「あなた本当に、嘘が下手ですね……」

 

「そこが聖女様のかわいいところですから」

 

 うるさいわね。平然と嘘をつけるあんたたちが変なのよ。

 たかが噂を流すくらい簡単だと大見栄を切ったはいいが、いざやってみると自分には合わなかった。

 

「そんなに苦手なのに、なんであなた一人で噂を流そうとしているんですか?」

 

「そんなこと、わざわざ誰かに頼らなくても私一人でできると思ったのよ!」

 

「相変わらず、なんでもかんでも一人でこなそうとして……アリシアさんに助けを求めますよ?」

 

 それは勘弁してほしい……

 いや、優秀だし助かるんだけど、それ以上に疲れるのよ。

 あいつのわけのわからない思考につきあっていると。

 アキトは、よく毎日あれの相手をできているわね。

 

「とにかく、噂はちゃんと広まってるんだから問題ないでしょ」

 

「ええ、アミュレットのときと違って、指輪の偽物であれば判別できますからね。偽物を売っている者たちとお話をすれば解決です」

 

    ◇

 

「聖女様、今度はこの町で偽物の指輪が販売されています」

 

「ついに、うちで売る馬鹿まで出てきたの!?」

 

 急いで現場に向かうと、異常なほどの人だかりができていた。

 まだ逃げずに、その場で商売していることは一目瞭然。

 だけど、私はどうせまただめなんだろうなと考えていた。

 

「なにをしているのかしら?」

 

「なにって……ただの商売ですよ。ほら、ちゃんと許可も得ています」

 

 本気で負い目なんて感じていないのだから始末に負えない。

 また、なにも知らない末端の商人か……

 

「偽物を売る許可なんて誰もしていないと思うけど?」

 

「偽物……? なにを言っているんですか? ちゃんと銀の指輪ですよ、これは」

 

「ちゃんと男が作った指輪なの?」

 

「当然です。これは正真正銘、禁域の森にいる男が作ったと言われる指輪ですよ」

 

 自信をもってそう言ってのける商人の身柄を拘束する。

 

「な、なにをするんですか!」

 

「偽物よ、それ」

 

 もう、いちいち説明するのもうんざりしているので、私の説明も雑になっている。

 

「本物の指輪は精霊の魔力がこもっているの。ただの魔力が込められただけのそれは偽物よ」

 

 本当は、初期の特別な五つは、精霊の魔力なんて込められていない。

 それどころか、まったく魔力が込められていないので、これもまた見ればわかるのだけど、そこまで説明するのも面倒なので、省略することにした。

 

「そ、そんなの、そちらの情報が正しいとは限らないじゃないですか!」

 

「本人から直接確認したんだから、これ以上正しい情報なんてありえないわ。さっさと連行しなさい」

 

 もう聞き飽きている言い訳を前に、私は町に駐屯している騎士団に商人を引き渡した。

 だけど、あくまで末端の商人を捕らえただけで、どうせまた大元にはつながらない。

 何も知らない末端の商人を使って自分へは、決してたどり着けないようにしているのだから、本当に面倒な相手ね。

 

 私は被害者へ返金だけして、その場を後にすることしかできなかった。

 

    ◇

 

「あれ? 珍しいですね。今日は銀細工じゃないんですか?」

 

「うん、ちょっと考えがあってね。今のうちにたくさん作っておきたいんだ」

 

 最近では作るのをやめてしまっていた、木で作られた小さなお守り。

 アキト様は、ひさしぶりにその製作をしていました。

 ……でも、なんだかやけに数が多いですね?

 もしかして、またミーナさん経由で、森の外で売ってもらうんでしょうか?

 

「う~ん、やっぱり匂いはわかりませんね」

 

 作ったばかりのお守りを一つ手に取り、匂いを嗅いでみる。

 やっぱり、ソラ様みたいに、アキト様の匂いを感じることができないのが、少しだけ悲しいです。

 

「あ、いいこと思いつきました」

 

「アリシアがそう言うときは、大抵いいことじゃないんだよなあ……」

 

 む、失礼しちゃいます。

 私だってちゃんと考えているんですよ?

 アキト様の呆れ顔を払拭すべく、私は名案を口にしました。

 

「私がアキト様の匂いを覚えるまで、ずっと匂いを嗅ぎ続けるのはいかがでしょう?」

 

「ほら、変なこと言い出した」

 

 おかしいですね?

 それは名案だねと、私を抱きしめて匂いを嗅がせてくれるはずだったのですが。

 ソラ様とどこが違うのでしょう?

 やはり、毛皮ですね。今度クマの毛皮でもとってきましょう。

 

「これあげるから、いいこにしててね」

 

 次の名案を浮かべていると、アキト様は小さな木の実をくれました。

 あ、これ甘くておいしいんですよね。

 私はアキト様の作業を眺めながら、さっそく木の実を口の中で転がすことにしました。

 毛皮は今度にしましょう。今は、こうしてアキト様の作業を見ているだけで楽しいですから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。