宵越しのレベルは持たない ~サキュバスになった彼女にレベルを吸われ続けるので、今日もダンジョンでレベルを上げる~   作:パンダプリン

149 / 151
第137話 ただいま日常

「【超級】って……いや、まだ無理だろこんなの」

 

「さすがは先生とお姉様! さすがは私! まあ、大地と夢子も認めてあげましょう」

 

「う~ん……一応プレートワームやサイクロプスは、わりと楽に倒せるようになったけど、【超級】はねぇ……」

 

 はしゃぐ子犬はともかく、大地もこの状況を素直に喜ぶことはできないらしい。

 そりゃ、異世界に行きたいのだから、昇格するのは喜ばしいことだ。

 だけど、先日奇しくも【超級】の力の一端を味わってしまった。

 赤木さんの劣化した模倣ですら、出し惜しみのない全力でようやく対応できたのだから、俺はまだまだ【上級】が関の山だろう。

 

「さあさあ! さっそく【超級】の探索者として、【超級】ダンジョンをさくっと踏破しちゃいましょう!」

 

「待て」

 

「はい!」

 

 気が急いて引っぱってくるわんこをとりあえず止める。

 そういえば、赤木さんといえば、先日厚井さんとデュトワさんに回収してもらったっけ。

 そのときに厚井さんが店にきてくれって言ってたよな。

 今のうちに行っておくとするか。

 

    ◇

 

「よお、お前らか」

 

「久しぶり。厚井さんいる?」

 

「師匠なら工房にいるぞ。ああ、それとありがとな」

 

 店番をしていた杉田に礼を言われるが、心当たりがない。

 

「それってなんの礼?」

 

「例のスライムだよ。あのままだと探索者がいなくなって、俺たちも商売にならなかったからな」

 

「ああ、そういうことか。あのままだとこっちが困るってだけだったし、気にする必要はないぞ」

 

「それでもだ。ありがとな」

 

 律儀だなあ。というよりは頑固?

 どうやら杉田も順調にドワーフらしくなっているらしい。

 

「なんだ、お前らか」

 

「あ、どうも」

 

 杉田と会話をしていると、ちょうど作業が終わったらしく厚井さんが現れた。

 

「この前は、赤木さんのことありがとうございました」

 

「……いや、なんか悪かったな。あれも一応お前らの活躍を喜んであんなことしたんだろう……やめた。私がフォローする必要はないな。あれに遭遇したら逃げたほうがいいぞ」

 

 うんざりした様子で最後はフォローどころか、関わるべきでないと言われてしまった。

 本当に害しかないならそうなんたけど、たまに良いアドバイスくれるんたよなあ……。

 どう接するべきか困るという意味では、下手に駄目人間に振り切ってない分、たちが悪い。

 

「それで、この前の話だったな……その、言いにくいんだが」

 

 珍しい。厚井さんらしくなく、言葉を選んでいるというか、言いにくそうに口ごもってしまっている。

 頬を赤らめてもじもじした様子は、見た目も相まって小さな女の子のようだ。

 

「むむっ! まさか先生を好きになったんじゃないでしょうね! だめですよ! 先生はお姉様のですし、私は先生とお姉様のです!」

 

 落ち着け。そんなわけないたろう。

 そして後半の俺たちの飼い犬アピールは、もはやなんの因果関係もない。

 

「んなわけないだろう!……いや、別に烏丸をけなしてるわけじゃないから、そんなにキレるな」

 

「よしよし、落ち着こうな」

 

 ただでさえシェリルが騒いでいるのだから、紫杏までそっちに回らないでくれ。

 シェリルの顔に布を置いて落ち着かせ、紫杏は抱きしめて落ち着かせる。まるで猛獣使いになった気分だ。

 

「すみませんが、用件を手短に教えてくれたら助かります。このままじゃ、俺が大変なので」

 

「あ、ああ……えっと……お前、四大精霊様にお会いしたとか聞いたんだが」

 

 情報源は赤木さんか。別に隠すことでもないし、それは構わない。

 しかし、厚井さんって、意外にも精霊信仰者だったのか?

 

「会いましたよ。水と火の精霊なら」

 

「やっぱり、まだ現世界にもきてくれるのか!? ここに招くことは……いや、やっぱりいい」

 

 招くのは、さすがに難しいだろうな。

 なんか勝手に出て、勝手に評価を下して、勝手に帰ったし。

 さすがは精霊。生き方が自由にもほどがある。

 

「ちょっと、難しいと思います」

 

「そうか……やっぱりそうだよな。いや、いいんだ。忘れてくれ」

 

 俺の答えに目に見えて落ち込む厚井さん。

 この様子だとやっぱり精霊信仰者で、あわよくば精霊に会えるかもと思ったんだろうな。

 

「そんなに精霊に会いたかったんですか? あいつらちっちゃいくせに、わがままそうでしたよ」

 

 うん。まるで君みたいだね。

 そして、精霊信仰者相手にその言い方はよくないぞ、シェリル。

 

「お前、精霊様を馬鹿にしたら争いになるぞ。私以外には今みたいな発言しないようにしとけ」

 

 真剣な表情で詰め寄られたからか、シェリルもさすがに目をそらして素直に応じた。

 

「そんなにですか?」

 

「そんなにだ。ドワーフなんて、とかく気の短い連中ばかりだしな。ハンマーで殴られたり、溶かされて剣にされるぞ」

 

 俺が思ってたそんなによりも、はるかにやばかった……。

 

「まあ、そこまでする狂信者はめったにいないが、それにしたって気をつけろって話だ」

 

「肝に銘じます……シェリル、銘じてくれ」

 

「は~い」

 

 しかし、この言い方だとドワーフ全員が精霊信仰者みたいだな。

 なにか理由でもあるんだろうか。

 

「杉田も精霊信仰者なの?」

 

「いや、俺はそこまで……あ、はい。敬います」

 

 否定しようとした杉田だったが、厚井さんの一瞥により意見を変更したようだ。

 

「黎明の七女神の一人が、元々はドワーフだったってことは知ってるか?」

 

「はい。それは学校で習うので」

 

「鍛冶の女神ノーラ様は、火の精霊ヒナタ様の加護を授かり、鍛冶をしていたらしい」

 

 なるほど、火だしな。

 鍛冶とかで役立つような、なんかありがたい力とか与えてくれそうだ。

 

「それで、厚井さんも加護を授かりたかったと?」

 

「い、いや!? さすがにそこまで畏れ多いことは考えてねえよ? ただ、一度お会いしてみたかったってだけで……」

 

 憧れの存在ってわけだ。見た目はちんちくりんだったけどな。

 

「今度会えたら、なにか伝えておきましょうか?」

 

「い、いや! いいんだ! 私が一人前になったら、いつか精霊様もきてくれるかもしれない!」

 

 ……たぶん、あの精霊のことだから、適当に火を放てば面白そうとか言ってくると思うぞ。

 だけど、厚井さんの憧れを壊すのもかわいそうだし、俺が感じた精霊の印象は伝えないでおこう。

 

「それじゃあ、用事もすんだようですし俺たちはこれで……」

 

「ああ、待ってくれ。悪い、そっちが本題じゃねえんだ」

 

 なんだ。てっきり精霊に会いたいというのが用事かとおもった。

 少し慌てながら引き止める厚井さんを見るに、精霊への思いが抑えきれなかったのかもしれない。

 

「管理局の連中から、報酬もらったろ?」

 

「ええ、分不相応な昇格とか……現金とか。あとは対処に困るものまで」

 

「その対処に困るもの、私に預けてみないか?」

 

 それは願ってもない申し出だ。

 管理局からは、コロニースライムの死骸の一部が送られてきた。

 完全に嫌がらせにしか思えないような贈り物だけど、別に管理局が俺たちを嫌ってるとかではない。

 

 あのスライムはすでに消滅したが、完全に群れが全滅した証なのか、倒した場所からいくつかのドロップ品が現れた。

 その中身がスライムの一部。要するに通常の魔獣と同じく素材が戦利品となったわけだ。

 それを聞いたときに、ようやく俺たちはスライムの異変が終わったんだと実感した。

 ダンジョンの魔力が正常に働くようになり、倒した魔獣はドロップ品を落とす。

 これこそが、俺たちが知っている魔獣とダンジョンの関係なのだから。

 

「素材だけ持っててもしょうがないですからねえ。活用できる職業の仲間はうちにはいないし」

 

「だろうな。だからこその提案だ」

 

「もちろん、お願いします」

 

 これで、宝の持ち腐れにならずにすみそうだ。宝なのかな? スライムだし、あまり期待はできないか。

 それでも、無駄に所持しておくよりは、こうして活用してくれる人に預けるべきだろう。

 

 魔獣を倒して、戦利品を処理する。

 ああ、なんか久しぶりに探索者らしいことしてる。

 ようやく戻ってきた日常に、俺はたしかな充足感を得るのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。