宵越しのレベルは持たない ~サキュバスになった彼女にレベルを吸われ続けるので、今日もダンジョンでレベルを上げる~ 作:パンダプリン
「こんにちは。今日もダンジョンに挑戦ですか?」
「はい、それと昨日の話をもう少し聞きたくて」
やってきたのは、すでに踏破済みのコボルトダンジョン。
目的の一つは、受付のお姉さんに昨日の話を聞くことだ。
「昨日のと言いますと……生命力が減少する事件ですか?」
「ええ、あれからなにか新しい情報は入ってきましたか?」
「いえ、すみませんが昨日の今日ですので、昨日お伝えした以上の情報は……」
「新しい被害者も現れていないですか?」
「そうですねえ。各地のダンジョンの職員たちで情報を共有していますが、昨日は特になにごともなかったようです」
あまり望んでいない結果だな。
間違いなく紫杏は昨晩外出していない。俺と一緒に一晩中眠っていた。
だから、そこで被害者が増えるのが一番手っ取り早い無実の証明だった。
……被害者が出るのを望むのは正直申し訳ないけどな。
でも、それも空振りだ。
俺はこのまま毎晩のように、紫杏に抱きつかれるか抱きつくかしないといけないのか?
本気で頑丈な鎖で縛りつけておきたくなる。
「そうですか……ありがとうございました」
「職員の間で情報は共有していますので、なにかありましたらお気軽にお尋ねください」
◇
「ところでなんでまたこのダンジョンなの?」
紫杏の疑問ももっともだ。
踏破した以上は、別のダンジョンに挑んで功績を重ねておきたい。
だけど、ちょっとした実験も兼ねているので、今回は既知のダンジョンにしておきたかった。
「試したいことがあるからな。下手に知らない相手と戦って足元すくわれたくない」
「試したいこと?」
「ほら、さっき役所で職業変えただろ?」
「職員さんが困った顔してたねえ」
それは申し訳ないが、今後も変えていくからそろそろ諦めてもらおう。
「今の俺がレベル5まで上げたら、もう一度【剣術:初級】を取得できるはずなんだ。そうしたら、このスキルのレベルも上がるのか試してみたい」
非常に残念ではあるが、【環境適応力:ダンジョン】のレベルはもう上がらないと思ったほうがいいだろう。
なので、次は他のスキルのレベル上げで地力を上げていくことを目指す。
なんせ、俺だけは一日に上げることができるレベルが限られているからな。
翌日も残る力は、どんなものでも増やしておきたいのだ。
「まずは、さくさくっとレベル5まで上げちゃおう」
「がんばれ~」
所詮は低階層のコボルト相手だし、紫杏も特に俺を心配することなくゆるキャラみたいになってる。
もう少し俺のレベルが上がったら、俺の背中におぶさってきそうだな。
「このちょっとだけ素早いのがちょうどいいな」
襲いかかってくるコボルト相手に、コボルトの双剣の片側だけを両手で構えてしっかりと迎撃する。
たまにこちらの攻撃速度が間に合わなかったり、妙な俊敏さで攻撃を回避されるが、今回はそれがいい。
「よし、これでレベル5になったはずだ」
「さあ、どうなったかなあ?」
紫杏が俺の背中に体を押しつけてきた。
というか、そのまま足を胴体に絡みつけてきている。
やっぱり、俺におぶさることにしたらしいな。
「【剣術:初級Lv2】、よしいいぞ。思った通りになってる」
「じゃあ、これも5までは上げられそうだね」
「だな。剣術のレベルが上がることで、どこまで強くなれるかはわからないけど、1よりは2のほうが強いはずだろ」
実際どうなるんだろう?
【剣術:初級】よりは確実に強いだろうけど、【剣術:中級】と同等とかになるのかな?
そこまでのスキルを習得しているとなれば、【中級】ダンジョンでも通用する心強いスキルなんだが……。
「試すか」
次のコボルトと遭遇するために、さらにダンジョンの奥へと進むと、実験相手とはすぐに出会えた。
さて、さっきまでだとレベルやステータス差はかなりのものでも、その素早さは鬱陶しい程度には感じていたが……。
「よし、こい!」
俺の言葉に反応したわけではないが、コボルトはゴブリンのように愚直に一直線ではなく、機敏さを活かして後ろから攻撃しようとしてきた。
だけど、今はその軌道がなんとなく予測できるし、体勢を変えるのもかなりスムーズになっている。
余裕をもってコボルトを迎え撃ち腰から真っ二つにするが、手に伝わる感触は先ほどよりも軽く感じた。
「なんか今のかっこよかった! いや、いつもかっこいいけど!」
「そっか、ありがとう」
興奮した紫杏が抱きついてくるが、どうやら剣を扱う技量が増しているようだ。
やっぱり剣術のスキルレベルが上がったことで、剣での戦闘が楽になっているな。
「でも、さすがに【剣術:中級】ほどではないっぽいな」
「そうなの?」
「あくまでも、さっきよりちょっと体が動かしやすかったり、感覚が研ぎ澄まされてる程度だから、大幅な強化ってわけではないと思う」
それでも、確かな前進なので十分ありがたい。
まあ、【環境適応力:ダンジョン】みたいなバグのような強さは、最初から期待していなかったからな。
「スキルのレベルが上がれば、もっともっと強くなりそうだね?」
「そうだな。でも、それはまたレベルが下がってからだから、また明日だ」
紫杏がなにか考えている。
そして、悪いことを思いついたのか知らないが、あどけない少女のような表情から、やけに妖艶な笑みで俺の顔に近づいてきた。
「レベル……ここで吸ってあげよっか?」
「ば、馬鹿なこと言うなよ……」
くそ、紫杏のくせになんなんだ。その蠱惑的な表情は。
これもサキュバスになったせいなんだろうなあ……。
「ほら、くだらないこと言うなら離れて」
「嫌だ~!」
押しのけようとすると、いつものアホな紫杏に戻ったので一安心だ。
しかし、油断してるとさっきのように俺を誘惑してくるので困る。
「よそでそういうことするなよ?」
「そういうのって……こんな顔?」
だから、顔が近い。
「このっ」
一方的にからかわれてたまるかと、とりあえず紫杏の頬をひっぱっておく。
マシュマロみたいにやわらかいので、じつはけっこう気持ちがいい。
そして何よりも、こんな表情で誘惑されてもかわいいだけで、まったくそそられない。
「ひ~ん……彼氏がDVする人だったって、夢子に相談しないと~」
「残念だったな。多分夢子は俺の味方をする」
「私の親友なのに!」
俺の親友でもあるから諦めろ。
そして、日ごろの行いを悔い改めろ。
その日は検証もすんだため、適当にレベルを上げてから帰ることにした。
どうやら、レベル10以上にしても紫杏は全部吸い取ってしまうみたいだからな。
ここでがんばってレベルを上げることにはあまり意味がない。
◇
「ベッドの上では私のほうが強いって教えてあげる」
「いや、まじでお手柔らかに……」
「いただきま~す」
最近気がついた。
昼間いじめればいじめるほど、こいつ夜に俺に仕返ししてるな?
「私もスキル検証しちゃうもんね~」
こいつ! 【感度強化】を俺に使ってきやがった!
あ……これ、無理かも……。
ようやく耐えられるようになってきたはずのサキュバスの精気吸収。
それは、これまでで一番の快楽を伴うこととなり、俺の意識は闇の中へと消えていった。
消える寸前に、ちっぽけな意地で紫杏の体を拘束するように手足を絡めて抱きついたのだが……なんか、それが紫杏を余計に燃え上がらせた気がする。
大丈夫かな。明日の俺……。