宵越しのレベルは持たない ~サキュバスになった彼女にレベルを吸われ続けるので、今日もダンジョンでレベルを上げる~   作:パンダプリン

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第37話 見ず知らずのフロムメモリー

「え、直ったの? すごいね二人とも」

 

「ああ、どうもプレッシャー感じすぎて、虚勢を張っちゃってただけみたいだったぞ」

 

「それはわかってたんだけど、何回言ってもやめてくれなかったのよねえ」

 

「シェリルはかわいいよ!」

 

 大地と夢子にシェリルと正式にパーティを組むことを伝えた。

 そして、二人に対しても、少しはましな態度をとるようになったはずだとも伝えると驚かれた。

 それが今朝のできごと。

 

「はんっ! 私は最強の人狼にして最強のパーティの一員なんです! もう周りの顔色をうかがっていた臆病な獣人もどきは、いないんですよ!」

 

「……なんか悪化してない?」

 

「あ、あれ、なんで? こら、シェリル! 大地と夢子に正直になるって約束しただろ!」

 

「うっ……わ、私は正直ですよ? 正直に考えた結果、二人より私のほうが強いのでは、と思ったのです!」

 

 うん? なんか、自信をつけたはいいが、それが変な方向に向かってしまってるな。

 というか、大地と夢子は強いというかえげつないぞ。あまり喧嘩を売るとろくなことには……。

 

「う~ん、とりあえず毒状態にするね?」

 

「ひっ! 鬼畜! 腹黒! こんなのと付き合う夢子は趣味が悪い!」

 

「とりあえず、火で囲んで逃げられなくするわね~」

 

「ああっ! これだから大地と夢子は! これだから!」

 

 自分より弱いと思って侮ってるんじゃないなこれ。

 たぶん、昔からこんな折檻を受け続けてるから、ねじ曲がった関係になってるんじゃないか?

 

「先生ヘルプ! あなたのパーティメンバーがピンチです!」

 

「大地って色んな種類の毒を扱えるのか?」

 

「そうだね。まだまだ種類は少ないけど、例えばこの前馬鹿犬に使ったお腹を下す毒とか、今使っているのは麻痺毒だね」

 

「となると、やっぱり大地ならインプダンジョンを優位に探索できそうだな」

 

「状態異常の上限ってやつだね。僕の場合は、ほとんど無意味な状態まで効力を落とした毒で、魔法を無効化まではできそうだよ」

 

「ああ! 先生が検証オタクモードに入ってしまっています! お姉様!? 身動き取れない人狼の丸焼きができそうですよ!」

 

「……う~ん、ちょっと口が悪いかな? そういうところもかわいいけど、少しだけ反省しよっか」

 

「パーティが揃ってるはずなのに味方がいません! 話し合いもせずに昼間から首を吊るのは、人狼としてもアウトですよ!?」

 

 徐々に内に向かって燃えていく炎の壁は、中心で動けなくなっているシェリルの尾の先を焦がしてから消えた。

 けっこう余裕あったな。大地と夢子の折檻もずいぶんと慣れている様子だった。

 スキルを習得したのは最近だけど、これまでも別の方法で似たようなお仕置きしていたんだろうな。

 

「それで、僕たちに話したいことってなんなの?」

 

「ほら、今ちょっとシェリルが言ってただろ。自分が人狼だって」

 

「え、そんなの昔から知ってるけど……」

 

 あれ、シェリルはずっと狼獣人のふりをしてきたって話じゃなかったか?

 

「ええ!? だって、私のこと狼獣人として扱ってたじゃないですか!」

 

「だって、あんた狼獣人の真似するようになったじゃない。そう扱ってほしいのかと思ってたんだけど……」

 

「始まりの四女神に憧れてるのかと思ってたよ」

 

 どうやら、ヒーローに憧れる少年や魔法少女に憧れる少女のように、温かく見守ってあげていただけのようだ。

 そりゃそうだよな。この二人が本来の種族に気がつかないはずないか。

 

「せ、先生。私、人狼でもよかったみたいです」

 

「だから言っただろ。それに、シェリルのことはもう認めてくれてる人たちもいたじゃないか」

 

 スケルトンダンジョンでの行いが噂されてか、人狼という種族について語っている掲示板も見かけるようになった。

 そこから魔族へのエロ談義に変わってしまっていたが、残念ながらサキュバスの有力な情報は見つからなかった。

 

「というか……満月の姿知ってるんだから、人狼って知ってるに決まってるでしょ」

 

「……あ!」

 

 なんだ、そこまで知ってるのなら狼獣人と勘違いはしないよな。

 シェリルは今気がついたかのように驚いている。

 

「こ、これで勝ったと思わないでくださいよ! 腹黒! イケメン! ショタ! あぁっ……!」

 

 恥ずかしくなったのか、今さらどう接すればいいかわかってないのか、シェリルは大地に捨て台詞を吐いて逃げようとした。

 ……が、お腹を抱えてトイレへと駆けこんでしまった。

 

「ユニークスキルで便利になったのは、シェリルへのお仕置きが一瞬で終わることだね」

 

「それ、魔獣にも効くのならめちゃくちゃ強くない?」

 

「残念ながら効かない相手も多いし、効く相手でも相手次第ではひどいことになった……」

 

「ひどいこと?」

 

「糞尿を垂れ流しながら、必死に襲ってくるゴブリンは二度と相手したくない……」

 

 珍しく、大地はげんなりとした様子でそう語った。

 うん、たしかにあいつらなら平気で戦闘を続行しそうだし、そんなの見たくもないな。

 

「そういえば【中級】に昇格したしパーティを組んでいるのだから、そろそろパーティ名も必要になってくるんじゃない?」

 

「申請しないといけないんだっけ?」

 

「そうだね。呼び名がないと不便だから、そこでパーティ名も記載することになるはずだよ」

 

 パーティ名か、考えてもいなかったな。

 やっぱり無難に、属性や色や金属と単語の組み合わせかな。

 

「善と紫杏の愛の巣」

 

「捕食者と餌」

 

「あんたら、自分のことなんだから真面目に考えなさいよ……」

 

「というか、善のほうは紫杏がサキュバスってばれちゃうでしょ」

 

「最強魔族パーティです!」

 

 若干やつれた様子のシェリルが戻ってきた。

 やっぱり最強って言葉好きなんだな。この子。

 

「俺、魔族じゃないんだけど。というか、紫杏がサキュバスだとばれるとまずいし」

 

「いや、紫杏のことは悪魔だと思われてるだろうから、そこは問題ないんじゃない?」

 

 たしかに、見た目はどう見ても魔族だったなこいつ。

 魔族要素が主にベッドの上だけだから忘れていた。

 

「はっ! 善が私にえっちなことしてほしいって考えてる!」

 

「善……あんたねえ」

 

「そこまでは考えてないだろ!」

 

「ちょっとは、考えてたんだ……」

 

 俺が不利になる気しかしない。なるほど、さっきのシェリルの気持ちが少しわかったぞ。

 こんなときは話題を元に戻してごまかそう。

 

「ニトテキアっていうのはどう?」

 

「ニトテキア……。どういう意味だ?」

 

 大地の提案は聞いたこともない単語だった。

 

「昔、異世界で栄えていた魔族の国の名前らしいよ。淫魔戦争よりもさらに前だから、とっくになくなってるだろうけど、異世界を目指すのならゲン担ぎにはいいんじゃない」

 

「なるほど、名前に魔とかつけるよりは、そっちのほうがいいかもな」

 

「魔族以外お断りにされると、私と大地が入れなくなるしね」

 

「……」

 

 とりあえず、その名前で決めてしまうかと思ったのだが、紫杏の様子がおかしい。

 

「どうした紫杏? 他の名前のほうがいいか?」

 

「ううん、その名前でいいと思うよ。でもなんだろう、どこかで聞いたことある名前のような……」

 

「世界間の交流が始まったころの国の名前だからね。自分のルーツを調べているときに見かけたんじゃない?」

 

「う~ん……そうかも?」

 

 紫杏は紫杏で自分のことをわりと調べているんだな。

 ともかく、これでパーティ名も決まったことだし、今後は正式にパーティとして活動することにするか。

 

「大地と夢子もちゃんとパーティに入ってくれよ?」

 

「まずは、相性がいいそのインプを相手にしてみるよ。【中級】でもないのに、【中級】パーティに入ると体面が良くないからね」

 

「俺たちは気にしないんだけどなあ……」

 

 二人がパーティに入るのは、どうやらもう少し先のことになるみたいだ。

 ほっとしたような残念そうな、シェリルの複雑な顔のことは指摘しないであげよう。

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