宵越しのレベルは持たない ~サキュバスになった彼女にレベルを吸われ続けるので、今日もダンジョンでレベルを上げる~ 作:パンダプリン
これか……。
帰宅後にとある掲示板の書き込みを見つけた。
俺と同じく【環境適応力:ダンジョン】が【中級】ダンジョンで発生しなかったという報告だ。
【中級】昇格後でよくある疑問らしく、【中級】の初心者ともいえる者たちの掲示板で想像通りの回答がされていた。
適応力は後述されている場所でしか力を発揮しない。そのため、【中級】以降では残念ながらほとんど意味がなくなるらしい。
なんでだよ。ワームダンジョンを名乗ってるんだから、あそこもダンジョンでいいだろ。
もっとがんばれよ、【環境適応力:ダンジョン】。
俺があの場所はダンジョンだと信じることで力を発揮してくれないだろうか。
無理だろうな。さっき挑んだときだって、あそこはダンジョンだと信じて疑わなかったのにあの結果だ。
便利なスキルだったのになあ……。
「どうだった? って、ダメみたいだね。その顔だと」
「そんなに表情に出てるほど落ち込んでるように見えるか?」
「ううん。でも善のことだし、簡単にわかるのさ。私は」
「これからは、しっかりとレベルを上げてから上に進むことになりそうだ。一匹倒しただけで一気にレベルが6まで上がるほど、雑魚の経験値も高いからな」
奥に進むのなら、30くらいは欲しいよなあ。
情けないけど、最初は紫杏に瀕死にしてもらって、とどめだけ譲ってもらう必要がありそうだ。
「あとは、シェリルをどうするかだな」
あいつの場合は、単純な嫌悪感から魔獣と戦えない。
気持ちの問題か……。なら、【高揚】でごまかせたりしないだろうか。
今のシェリルなら無謀な突撃をしないから、狂化状態で攻撃されて大怪我をする不安も以前よりは少ない。
……攻撃する一瞬だけ狂化状態とかになれたら一番いいけど、できないかな。明日シェリルに聞いてみるか。
「重いんですけど」
「女の子になんてこというの!?」
背後から抱きつかれ、頭に乗せられたのは二つの脂肪の塊。
考えに集中できない……。
「今はシェリルのことを考えていたんだけど」
「だから、誘惑してみました」
……なら、しかたないか。
一応最低限の案は浮かんだことだし、これ以上他の女のことを考えると食われそうだ。
「考え事終わったみたいだね。じゃあ、吸うね?」
どちらにせよ、俺は食われる運命から逃れることはできないらしい。
「今日はあまりレベル上がってないから、加減してくれないと死ぬぞ。俺が」
「おっけ~。その分ねちっこく時間かけて吸ってあげる」
めちゃくちゃ寸止されまくった……。
明日からはもっとレベル上げようと俺は誓うのだった。
◇
「先生! 私に秘策があります!」
翌日合流したシェリルは目を閉じていた。
そんなことしていたら危ないぞと注意しようとするも、匂いで周囲の状況がわかるらしく、危なげなく移動しているので何も言えない。
「もしかして、見なければワームも大丈夫とか?」
「はいっ! 匂いだけならあんなのただの腐葉土みたいな魔獣ですから!」
「そういうもんか。それなら【高揚】は使わなくてもよさそうだな」
「はい? 【高揚】でどうにかなりそうなんですか?」
俺はシェリルに昨日考えたことを伝えると、シェリルはひどく感銘を受けた様子をみせる。
「そ、そんな可能性が……勇気が出るだけのスキルではなかったのですね。つまり、使いこなせたら最強に……」
「なら、どっちも試してみて、やりやすいほうでいくか」
◇
「昨日ぶりですね。今日も無理せずにがんばってください」
「ありがとうございます」
改めてやってきたワームダンジョン。
受付さんは笑顔で見送ってくれるが、昨日ひと悶着あった探索者たちは、俺達を見てひそひそと話しているみたいだ。
まあ、直接絡んでこないのなら特に問題はないか。
「昨日言ったとおり、悪いけど最初は紫杏が弱らせてくれる?」
「は~い」
ワームが現れると同時に叩き潰すように紫杏が殴る。
昨日と違って吹き飛ばされることもなく、ワームは足元でピクピクと虫の息になっていた。
これでとどめだけ譲ってもらえば簡単にレベルが上がる。
「レベルは……やっぱり6までは上がるみたいだ」
「あと二、三匹頼む」
「おっけ~」
紫杏は襲ってくるワームを淡々と返り討ちにしていく。
そのたびに経験値だけはもらっているのだが、本人がいらないと言ってるとはいえどうにも申し訳ない。
「悪いな。ちゃんともらった分は夜返すから」
「ぜ、善からのお誘い! よ~し、ダンジョン中のワーム倒しちゃおっかな~」
「いや、そろそろシェリルにも戦わせてあげて」
紫杏のおかげで二、三匹どころではないワームを狩ることができた。
すでにレベルは14まで上がったため、適応力がなくても少しは安心できると思う。
最低限、帰還の結晶で逃げるくらいはできるだろう。
「だってさ、次はシェリルの番だよ~」
「はいっ! 匂いはもうわかりました。人狼の力見せてやります!」
砂の中を移動するワームの影がシェリルに迫る。
そのまま直接襲いかかるも、ワームの攻撃をシェリルは見事に避けてみせた。
「お~、本当に匂いだけであんなに動けるんだな」
「鼻がいいんだねえ」
「これならいけます!」
宣言どおり、シェリルは無防備なワームの胴体に爪で攻撃をしかける。
さすがに一撃で両断とまではいかないが、その攻撃は確実にワームに効いているようだ。
「かなりタフだな。シェリルの攻撃をあれだけ食らってもまだ動いている」
さすがは【中級】といったところか、そう簡単には倒せない相手みたいだ。
そう簡単に倒している紫杏は、もうなんか色々とおかしい生き物だ。
「さすがに複数相手だと厳しそうだけど、一体だけなら問題なさそうだねえ」
長い戦いの末に、無傷ではあるが体力を消耗したシェリルが戻ってくる。
しかし、本当に目を閉じたまま勝つなんて、大したもんだ。
「勝てました! 時間はかかりましたけど、なんとかなりそうです!」
「うん、偉い偉い」
紫杏に頭をなでられ嬉しそうにするシェリル。
これでシェリルも紫杏も、ここでやっていけるとわかったわけだ。
となると、あとは俺が足手まといにならないかどうかだな。
「というわけで、最後は俺がやってみようと思う」
「大丈夫? 無理しないでいいんだよ?」
「ふっふっふ……先生がピンチになったら、いずれ最強になる人狼シェリルが助けてあげましょう」
「それは、私の役目だよね?」
「は、はいっ! もちろんです」
後ろにいるので声だけしか聞こえないが、紫杏がシェリルを威圧したんだろうなってことはわかる。
なんとも頼りになるパーティメンバーだ。油断はせずに気負わずに挑んでみよう。
「先生、前から来ます!」
「それも私が教えたかった~」
「ありがとう二人とも。さて、剣術だけでどこまでいけるか……」
剣を構えることで諸々の能力が上昇したことがわかる。
よしよし、剣術のほうは問題なく発揮できているな。
これで剣術まで不発だったら、俺は本気で紫杏とシェリルに守られながら進むことになっていた。
「そろそろか……」
俺を丸ごと飲みこもうと、砂の中から巨大なワームが上空へ勢いよく飛び出した。
まるで地面から急に巨大な柱が生えてきたかのようで、まともに食らえばひとたまりもなかった。
むしろ、食らうのはワームのほうで、俺は食われるほうか……。
後方に跳躍したことで、そんなくだらないことも考えつつ無防備な胴体へと駆け寄る。
ぶっとい胴体を両断する気持ちで、思い切って剣を振るう。
すると、思っていた以上に剣はワームの体に食い込んだ。
「おおっ!? なんか、想像より柔らかかった!」
ワームは突如体に刃物が差し込まれた痛みからか、体をうねうねとくねらせて暴れ出す。
なるほど……シェリルじゃないけど、これは気色悪い。でかいから余計にそう思える。
さすがにこの状態のワームの近くにいると危険だと判断して、一度離れるとワームは俺に向かって突進してきた。
「冷静に観察すると調べた通りだな。攻撃の威力は高いけど全部大振りだから、落ち着いて対処すれば無傷で倒せる」
ただでさえ、剣術のおかげで感覚が研ぎ澄まされているため、さすがにワームの攻撃は簡単に避けられる。
そして、ついでに剣を体に突き刺すと、ワームは自らの突進により勝手に体に傷をつけていった。
切れ味がいいからなんとかなっていたけど、下手な武器でこれをするとワームに引きずられていたかもしれないな。
「善~、もうちょっと~!」
「がんばってくださ~い!」
声援を受けながらも、とどめを刺すためにワームの頭に上る。
そして、剣を突き刺すとワームは完全に動きを止めて黒い煙となって消滅した。
「ドロップはなし……これも調べた通りだな。慣れたら倒しやすいけど、ドロップ率が低すぎてうまみがない」
でも、だからこそ【中級】の足掛かりとしてはちょうどいい。
俺はさらにレベルが上がった感覚を受けながら、なんとか適応力なしで魔獣を倒せたことに安堵した。