宵越しのレベルは持たない ~サキュバスになった彼女にレベルを吸われ続けるので、今日もダンジョンでレベルを上げる~ 作:パンダプリン
「今日もいないな」
「例の絡んできたっていう探索者たち? いないほうがいいじゃない」
「そうだな。でも、あの連中いないと本当にこのダンジョン誰もいないんだな」
まるで初心者ダンジョンなみだ。俺たちの他には受付さんしかいない。
それほどまでに、このダンジョンが不人気だということだろう。
たしかに【初級】と同じくドロップなんて全然しないけど、経験値の効率はいいのになあ。
「まあ混んでるより助かるか。とりあえず、シェリルが釣って紫杏が加減しながら殴ってくれ」
ダンジョンの中へと進みながら、大まかな方針をみんなに伝えておく。
「お任せください!」
「はいは~い」
まずは俺と大地と夢子のレベルを少しでも上げておきたいからな。
そのため二人には悪いが、とどめだけを譲ってもらわなくてはいけない。
「俺が戦える程度のレベルになったら、俺とシェリルである程度ワームの生命力を削るから、大地と夢子はとどめのとき以外は魔力を温存してくれ」
「悪いね。僕たちだけ楽することになって」
「ふっ、しかたないですね。私が二人のことを守ってあげましょう。強くなりつつある人狼のシェリルが!」
「うん。よろしくねシェリル」
「あっはっはっは! ついに、認めることになりましたか! いいでしょう、私が大活躍してあげますから!」
シェリルは気分良さそうに先頭を歩きだした。
かわいそうだが、俺には体よく大地に使われているようにしか見えない。
「慣れたみたいだな」
「ダンジョンの中でまで、余計な言い争いするわけにはいかないからね」
「それじゃあ、今日も無理せずがんばろう」
「善でもそんなこと考えているんだね」
おい、俺を何だと思っている。
というか、余計な言い争いは避けるようにしていたんじゃないのか。
大地のほうを見ると、何食わぬ顔で笑っているだけだった。
◇
「毒も火も効くな。よかった、これで効かないようなら作戦も糞もなかった」
「インプより、いやボスインプよりもさらに効きにくいけどね」
「私のほうは、ボスインプよりは燃えやすかったわ。魔法を使うタイプじゃないからかしら?」
順調にダンジョンの中を進んでいく。
単独のワーム相手ならばすでに問題はなく、群れが相手でも前と同じ戦法で危なげなく戦えた。
大地と夢子のほうもレベルを上げながら、ワームにどの程度自分たちの魔法が通用するか検証してくれているが、悪い結果ではなさそうだ。
「さて、問題はこの先だな」
「この次の層に、その黒いワームが出るんだよね」
「前回はそうだった。たぶん入った瞬間に襲いかかってくるから、シェリルは回避に専念。俺が斬撃で鎧を破損させる。大地と夢子はなんとかその隙間に魔法を撃ってくれ」
層を移動していないので、作戦の最終確認を行う。
各々がうなずいたのを確認し、俺たちは再び黒いワームへと挑むべく次の層へと移動した。
「それでは、頼みます!」
前方から迫る巨大なワームに向かって、シェリルが勢いよく走っていく。
あまり頭はよくないためか、俺たちを脅威と認識していないためか、黒ワームは相も変わらずシェリルへと食らいついた。
当然、シェリルはその攻撃をあっさりと回避して、無防備な横っ腹が遠くに現れる。
「シェリル! いったん距離をとってくれ!」
「はいっ!」
攻撃に巻き込まないようにシェリルに一旦退避してもらいつつ、斬撃を可能な限りワームの胴体に命中させる。
目を凝らすと、たしかに出血はしていないが小さな亀裂ができているようだった。
「大地! 夢子!」
前回同様に、シェリルではなく体に傷をつけた俺に狙いを変える。
なので、今度は俺がみんなから離れてワームを引きつけなければならないが、その前に二人指示を出す。
「準備はできてるわよ!」
「あれだけ大きいと毒が回るまで大変そうだね」
俺が指示する前に二人はすでに魔法を構築してくれていたらしく、指示と同時にワームの体めがけて炎が飛んでいく。
夢子の魔法を行使する技術力・精密操作性の高さなのか、まるで黒い体の亀裂に吸い込まれるように、炎は内部へと侵入していった。
大地のほうの魔法は霧のように変化して、ワームの周囲を覆っている。
「くっさ! 効いてます! 鎧の中は、焦げ臭さとゴミみたいな匂いが混ざってめちゃくちゃです!」
ゴミみたいな匂いっていうのは、多分焦げたワームの匂いのことだろう。
大切なのは、中で焦げているという情報のほうだ。
それはこれまで攻撃が効かないと思っていたワームが、夢子の魔法でダメージを負っているということに他ならない。
現に、俺に向かって動き出していたワームは、その場で身じろぎしながら苦しみだした。
「おっけー! それじゃあ、このまま魔力使いきるまで攻撃続けるわ! 帰りは役に立たなくなるけど許してね!」
夢子は様子見をやめたのか、先ほど以上の火力でワームの内部を焼き続ける。
大地も同じなのか、ワームの周囲を覆っていた毒の霧はさらに濃さを増していった。
「まずい、暴れ出した!」
ついに大地の毒も効いてきたのか、ワームの巨大な口からおびただしい量の血が吐き出される。
それと同時に、焼き続けられ毒に侵され続ける苦しみからか、ワームはその巨体をめちゃくちゃに振り回す。
「き、きもい……」
いや、そんなこと言ってる場合じゃないな。
あのワームそれでも自分にダメージを与えている大地と夢子を狙って、少しずつにじり寄っている。
「そっちじゃないぞ。お前の敵はこっちだ!」
俺は斬撃を再び飛ばして、ワームの外装に傷を作り続けた。
傷が増えれば増えるほどに、夢子と大地の魔法はワームの本体へと届きやすくなる。
外装を傷つける俺と、本体に攻撃し続ける夢子と大地。
ワームはどちらを狙えばいいかわからなくなっているようだ。
「動きが止まった……?」
すると、気色の悪い動きをしていたワームの巨体が突如ぴたりと止まる。
なんか、やばそうな気が……。
「紫杏! 結界術!」
ワームはぷるぷると震えている。一見すると命が尽きる寸前で瀕死の状態のようにも見える。
だけど、なんだかまだそこまで弱っているようには思えなかった。
そのため、念のため紫杏に頼んで、あのよくわからないスキルを使用してもらう。
紫杏からの返事はないが、紫杏は突然の俺の頼みにも即座に応えてくれた。
「どひゃあっ!!」
シェリルの叫び声が聞こえる。つまり、向こうにも俺が食らった攻撃が届いているということか。
恐らくあの巨体で、周囲一帯を薙ぎ払うように攻撃してきたのだろう。
俺たちの周囲に薄い魔力の障壁が発生するのとほぼ同時。
突然強い衝撃に襲われて、体が勢いよく吹っ飛ばされたことだけがわかった。
結界に守られていたものの、結界ごと飛ばされたため体中が強く打ちつけられてしまう。
まずい……今の一撃で全身が激しく痛む。
職業を剣士に戻して、前衛になったはずの俺でこのダメージだ。
後衛である大地や夢子。回避を主体とするシェリル。そして何よりも、俺の紫杏は無事なのか!?
あたり一面は、砂ぼこりでまったく状況がわからない。
潮どきだ。このままでは死角からワームに狙われてしまうだろうし、帰還の結晶を使うべきだ。
「みんな無事か!?」
だけど、最低でもパーティの全員が無事か確認する必要がある。
各自で帰還したはいいが、誰かが気を失っていたとなっては最悪だ。
もう少し、緊急時にどう判断するか決めておくべきだった。
「シェリル無事です!」
「大地、夢子、紫杏。みんな無事だよ~!」
幸いみんな無事なようだ。ならば帰還の結晶で……いや、やけに静かだな。
あれだけワームが暴れまわって轟音が響いていたのに、俺の耳には仲間の声しか聞こえていない。
その疑念を晴らすかのように、砂ぼこりは消えていき視界が確保される。
「あ、危なかった……」
俺の目の前には、今度こそ動かなくなっていた黒いワームの死骸が倒れていた。
そうか、こいつも限界が近かったんだな。
「これ、本当に【中級】の魔獣なの? いくらなんでも強くなりすぎよ」
「なんとか、倒せてよかったね。もう魔力も限界だったし」
「ま、まあ……二人ともすごかったと思いますよ」
「シェリルもね」
さすがのシェリルも、大地と夢子なしではこのワームを倒せなかったと理解しているのか、いつもより素直に二人を褒め、大地もまたそれに答えた。
なんだか、これまでよりは素直にやっていけそうだな。
危険な相手ではあったけど、これで万事うまくいった。
そう思いたかったのに、残念ながら余計な水を差す声が聞こえてきた。
「へえ、まじであの化け物倒せるとはたいしたもんだ」