海賊系白髪無口っ娘   作:ひょっとこ_

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 勢いと思いつきで書いてるけど、これで大丈夫なのだろうか……。
 という僕の私情はさておき、第六話です。


第六話

 雲一つない日本晴れ。常ならば、その蒼穹を見上げて風情に浸れるのだが、今の状況に限って言えば、むしろ曇りめの天候のほうが私にとって都合がよかった。というわけなので、青空よ、可及的速やかに曇り空に移行してください。切実に。

 海軍第一五三支部の演習場にて、容赦の欠片もない日光が磔の乙女の柔肌をじりじりと照りつける。剥き出しになっている素肌は、かれこれ三週間とちょっとほど日光を浴び続け、赤くなっている。これ絶対肌によくないよね……。それに加えて、お腹の虫が絶賛歌唱中っていう……、あーうー、恥ずかしい……。

 あと一週間、私はこれを我慢しなければならない。そうすれば、私は晴れて無罪放免である。べつに海賊の私にとっては、海軍からの評価などはどうだっていいし、なにより面倒くさいので、すたこらさっさと今すぐにでも逃げ出しても一向に構わない。だけれど、わざわざ目立つようなことをして海軍に顔を覚えられるのも、後々面倒そうだ。以上の理由から、私はこうして囚われの姫君ごっこに興じているわけである。

 それもこれも、話は私とあの緑髪の剣士がヘルメッポの狼を成敗したあの日に遡る。

 

 

 

 

 

「て、ててて、テメぇらぁ! オレの愛狼ちゃんをき、斬りやがったなぁ!!?」

 

 私と緑髪の剣士がヘルメッポ最強の手札であろう狼を斬り伏せたことで、彼は酷く狼狽し、海兵たちの後ろに逃げこみながらも怒鳴り声を上げた。

 

「ん……、手が滑った……」

「ああ、手が滑った」

 

 悪びれもなくそう宣う私と剣士の彼。図らずも被ってしまったセリフが、なにか彼に親近感のようなものを抱かせた。

 ヘルメッポはまったくもって悪気のなさそうな私たちを見て、ますます激昂し、喚き散らした。

 

「ウソつけぇ、あんな手の滑り方があってたまるかぁ! くそ、くそっ、舐めやがってぇ。おい、お前ら! あの二人を捕まえろ!」

 

 一連の騒動を傍観していた海兵たちが、ヘルメッポの言葉を聞き、やっとこさという感じで動き出す。

 抜き身のままの流麗な刀を肩に担ぐようにしている剣士の彼と私を包囲した海兵たちは、各々海軍ご用達のカトラスとピストルを抜き放ち、武装解除勧告を行った。

 無表情で上司というわけでもない阿呆の命令に従う彼らの瞳の奥に、僅かに光る意志を垣間見て、それなりの同情の念が湧く。苦労人の目だよ、ありゃあ。逆らうに逆らえず、無茶苦茶な命令ばかりをこなしてきたんだろうなぁ。

 

「最終通告だ。武装を解除した上で、任意同行をしてもらいたい」

 

 ヘルメッポの取り巻きの海兵たち、命名苦労人ズのことを勝手に不憫がっていると、いつの間にやら件の彼らが目の前まで接近してきており、こちらに向けてピストルを構えていた。どうも自分の世界に浸りすぎていたらしい。

 隣の剣士の彼は白く端麗な鞘にあの流麗な刀をとうに収めており、任意同行を承諾したらしく、すでに一人の海兵と共に歩き出していた。

 そのときすでに海軍の指示にはできる限り従う方針が頭の中にあった私は、言われるがままに鋼鉄製の右腕を再錬成し、元通りの腕の形に造り替え、同じく武装解除した海兵の一人を先導に海軍支部のほうへ足を向けたのだった。

 まぁ、あわよくば少し興味が湧いた剣士の彼と会話の一つや二つを交えられたらな、という打算込みであったのは認めないでもない。助けてもらったお礼もまだしていないわけだし、ね。

 

 

 

 

 

 それから紆余曲折あって、狼成敗の滅刑として、こうやって演習場で磔になっているわけだけれど、剣士の彼――ロロノア・ゾロというらしい彼とはそれなりに仲良くなれたのではないかな、と思う。

 ここシェルズタウンは、物心がついてから初めて訪れることのできた私以外の人間が住んでいる町で、そこで出会うことができた興味対象に、私は存外思い入れができてしまったようだった。

 磔にされていても寝てばかりいて眉間の皺が少し怖かったりするけど、私の辿々しい会話にも根気強く付き合ってくれたりするいい人のようだし、なんにせよ人と仲良くするのはいいことだろうと思う。それに、なんだかルフィもゾロのことをきっと気に入るだろうという予感がするのだ。

 ゾロが私たちの仲間に加わるかどうかは私の預かり知るところじゃないけれど、きっと悪いようにはならない。そんな、予感。リカちゃんと一緒になって寝たあの夜に感じたようなのではない、別の代物。

 あぁ、そうか、あの夜の嫌な予感の正体がなんとなくわかった気がした。

 大切な、身近な、親しいなにか、あるいは誰かを失ってしまうかもしれないときに感じる、あの感覚だ。長らく忘れていたそれを私はたしかに知っていた。

 

 

 

 

 

 ――――紅蓮に包まれる私の里とその上からさらに蹂躙を繰り返す凶暴極まりない島の猛獣たち。

 

 ――――きっかけは錬金術実験の小さなミス。それによって里を囲っていたダフトグリーンが一斉に枯れてしまったのが致命的だった。

 

 ――――繰り返される惨劇の中で私は……、なにをしていたのだったか……。

 

 ――――それからは、ただ里の皆、鋼鉄の腕を形見に消えてしまった同胞たちに会うことばかりを考えていた気がする。

 

 ――――そして、あの場所への扉を開けてしまったのだ。その中で、私は…………。

 

 

 

 

 

「――――……、っ!?」

 

 ……、私は今、なにを考えていた……?

 とても大切な、忘れてはいけないなにかを私は忘れているような気がする。

 常、胸中に渦巻いている物足りなさ、虚しさをいつにもまして強く感じている。

 これは、一体、なに……?

 

「おい、どうかしたのか」

 

 横目でこちらを見やるゾロは、先程唐突に頭をよぎったなにかのせいで挙動不審な私を心配してくれているのだろうか。

 だとすれば、少し嬉しい。

 さっきまで感じていたものが、僅かに和らいだような気がした。

 

「……、ん、大丈夫。ただの白昼夢」

「そうか。……、いや、待て、それは本当に大丈夫なのか?」

「ふふっ……、さて、どうだろう」

「お前……」

 

 ……、私は一体、何者なんだろうか。




 これでカノンの全貌がかなりはっきり出てきたんじゃないですかね。
 皆さんだいたい予想はついてると思いますが。

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