海賊系白髪無口っ娘   作:ひょっとこ_

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 投下ー。


第七話

 磔になっていると、言わずもがな暇である。

 あの雲はハンバーグ、あれはトゥルスの実、あそこのは肉……、なんてことをしてるといつの間にやら寝てしまっていたなんてのはざらにあることだ。

 食べ物のことばかりなのはご愛嬌とでも言っておこう。気にしてはいけないことだって世の中にはあるのだ。私のような乙女の周りでは特に、ね。

 ……、まぁ、とにかく、暇なのだ。隣のゾロは本当に寝てばかりいるし、話し相手と言ったらちょくちょく私たちの生存確認に来るヘルメッポくらいのものだ。

 徹頭徹尾シカトを決め込んでいるにだが、めげずによく来てくれている。しかし、そうすると彼は話し相手という括りには当てはまらないよね。なにせ、話そのものをしていないのだから。

 などと金髪マッシュルームのことを考えていると、ふと、甘ったるい匂いが鼻についた。

 風に運ばれてきたのだろうかと海風が吹いてくるほう、磔場と化している訓練場を囲む塀のその向こう側にある海のほうへ視線をやる。すると、塀から覗く六つの瞳と視線が重なった。

 

「あ……」

 

 そこには、麦わら帽子と眼鏡とシェルズタウンのとある料理店の看板娘がいた。

 塀の向こう側の見えないところに雪片もいるのだろう。そんな気がする。

 隣のゾロが鼻提灯を破裂させて、珍しく起き出す。そして、怪訝な表情で塀の上の三人を見やる。

 きっと、私は笑っていたと思う。

 見つけてくれた。私を。ルフィと雪片は私を見つけてくれたのだ。

 それがたまらなく嬉しかった。

 

 

 

 

 

 リカちゃんが塀を飛び降りて、訓練場を横切って私とゾロが磔になっているところにまで軽快に走りよってくる。

 

「カノンお姉ちゃん、緑のお兄ちゃん!」

 

 胸元になにやら包みを抱えたリカちゃんを私は、すぐさま帰そうとした。

 私の腹時け……、体内時計が正しければ、この時間帯は常日頃あいつが来る。

 

「お腹、すいてるよね? わたし、おにぎり作って来たの!」

 

 褒めて褒めてと言わんばかりの笑顔で胸元の包みを開封し、私とゾロへと差し出す。

 どうやらあの甘ったるい匂いの正体はリカちゃんお手製のおにぎりからのものだったらしい。塩と砂糖を間違えでもしたのだろうか。

 いや、それより早くこの子をここから去らせないと。マッシュルームが来てしまう前に。

 

「リカちゃん、ここにいちゃ、だめ……!」

「おい、ガキ。さっさとどっかへ行っちまえ」

 

 ゾロも私と同じ考えなのか、強い口調でリカちゃんを帰そうとする。

 

「おにぎり! はいっ!」

 

 一方リカちゃんは余程おにぎりを食べてほしいのか、花の咲いたような笑みと共に甘ったるそうなおにぎりを私たちに突きつけるだけで、動こうとしない。

 そして、いつものあの音がした。

 誰かが訓練場に入るために鉄門を開く音。

 

「ひぇーっひぇっひぇっひぇ、元気かよぉ? なぁ、おい、緑色に白いの!」

 

 最悪のタイミングでヘルメッポが来てしまった……。

 リカちゃんが隠れるような場所はこの訓練場の中にはない。今でこそ訓練場の出入口から私とゾロが影になっていることでヘルメッポには彼女が見えてはいないが、気づかれてしまえば最後、私の可愛い妹分になにをされるかわかったものじゃない。

 

「ちっ、相変わらずだんまりかよ……、つまんねぇな、おい」

 

 焦燥が俄然増してくる間にもヘルメッポとの距離がどんどん縮まる。

 リカちゃんは今になって自分がしでかしてしまったことの危険性に気づいたのか、顔を青ざめさせていた。そうまでして私たちにおにぎりを食べてほしかったのかとほんわかしている暇などなく、なんとかしなくてはと焦りばかりが肥大していく。

 そして……、

 

「あぁ、おい! なんでチビガキがこんなとこにいんだよ!」

 

 ついにリカちゃんが見つかってしまった。

 ヘルメッポは訝しげにリカちゃんを見やる。既知の人間であるのがわかると、今度はリカちゃんが抱える包みが気になり始めたらしい。

 

「おにぎり……? テメェ、チビガキ、こいつらにか、それ」

「そ、そう! 私を助けてくれたからっ、だからカノンお姉ちゃんと緑のお兄ちゃんに食べてもらうの!」

「はっ、ふざけんなよっ。こいつらはなぁ、一ヶ月なぁんにも食っちゃダメなんだよ!」

「なんでよ!」

「テメェに教えてやる義理なんざ持ち合わせてねぇんだよ! ふん、どうせならオレがちょっとばかし味見してやるよ、ひぇーっひぇっひぇっ!」

「きゃっ、や、やめて、やめてよ! それはカノンお姉ちゃんと緑のお兄ちゃんのなの!」

「知るか、そんなこと! どれ、あーん……」

 

 力任せに十程も歳が離れたリカちゃんからおにぎりの包みをかっさらったヘルメッポは、いかにも初めての手料理感溢れる歪で巨大、なにより甘ったるそうな匂いのするリカちゃん印のおにぎりを手に取ると、さっさと口の中へ放り込んだ。

 よくもあの大きさを一口でいけるものだなー、と思いつつ、咀嚼を繰り返すヘルメッポを観察する。

 なに、止めても止まらなかっただろうから止めなかっただけさ。無駄なことは極力しない主義なのだよ。

 なんて心中で言っていると、ヘルメッポの顔が三割増しで表現しにくく歪んだ。

 

「あ、あ、あっめええぇぇ!! おい、チビガキ! テメェ、おにぎりに砂糖塗り込んでんじゃねぇよ!」

「ひうっ……、だって、甘いとおいしいと思ったんだもん!」

 

 まぁ、初めての料理なんてそんなものだと思う。私の場合は島で仕留めた猛獣の肉を天然の塩で炙っただけだったから、失敗のしようがなかったけど。

 

「バカか! おにぎりは普通塩だろうがよ、し、お!」

「だ、だって! だってぇ……」

「くそっ、こんなもん、食えるかってんだよ! このっ、このぉ!」

 

 余程腹に据えかねたのか、ヘルメッポは余ったおにぎりを包みごと地面へ叩きつけ、さらには足で滅茶苦茶に踏みつけ始めた。

 

「やめて、やめてよぉっ! 食べられなくなっちゃう! お願い、やめてぇっ!」

「ひぇーっひぇっひぇっひぇっ! こんなもん食うやつなんざ、いやしねぇんだよ!」

 

 訓練場に響く笑い声と泣き声。対称的なそれらは笑い声の主の気の済むまで辺りに反射し続けた。




 切れが悪いですが、ご容赦を。

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