海賊系白髪無口っ娘   作:ひょっとこ_

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 投下ー。


第八話

 罪人に肩を入れし者同罪とみなす。

 海軍大佐斧手のモーガンの名でそう記された立て札、リカちゃんにその意味するところを恐怖心と共に刷り込むように覚えさせようとするヘルメッポ。

 気がすむと、今度は連れの海兵にリカちゃんを塀の外へ投げ捨てるようにと無茶な命令を言いつけた、というより、怒鳴りつけた。

 泣き崩れていたリカちゃんを優しく抱えあげた海兵は何度も彼女の耳元で謝っていたが、やがて塀の外へと命令されたとおりに――どう見ても嫌々という様子だったが――投げ捨てた。

 

「どうやって抜け出した、あいつ……」

 

 そんなゾロのセリフを耳に残して地を蹴った私は、宙へ投げ出されたリカちゃんの小さい体を飛び上がった先で受け止めていた。

 えへへ、ごめんね、ゾロ。実は縛られるとき咄嗟に縄に細工をしてたんだよね。ていうか、普通に錬金術で縄の性質を脆く造り変えただけなんだけど……、まぁ、普通はそんなことできっこないか。

 

「え、お姉……、ちゃん?」

「ん……、呼ばれて、飛び出て、じゃじゃじゃじゃーん……」

 

 言ってみたものの少し恥ずかしくて、腕の中のリカちゃんから目をそらす。

 いや、そんなことを考えている場合でもないかなと、ぐんと跳躍具合が縮み始めたことに危機感を抱くが、そこはそれ、頼れる相棒の出番だったりする。

 ぐるぅっ、とため息のように喉を鳴らした純白の体躯の愛豹――雪片が私とリカちゃんの着地予想地点へと一瞬で移動する。

 

「んっ、さっすがぁ……」

 

 一ヶ月近く顔を合わせない、ということなど考えたこともなかったが、考える必要すら感じたこともなかったりする。

 それほど、信頼している。

 

「ね、雪片。ありがとう……」

「ぐるっ」

 

 些か嬉しそうな声音で応えてくれた雪片の横っ腹に受け止められる形で無事着地した私とリカちゃん。

 二本の足をそれぞれ地につけたリカちゃんは、つい先程泣いていたことも忘れて、いきなり宙へ放り出されたのをきちんと受け止めてくれた雪片にさっそくご執心のようだった。

 

「わあぁ、すごーい! 真っ白、おっきぃ!」

「るるるぅ」

 

 さて、一つやるべきことができた。

 ああ、その前にルフィにもお礼を言わなきゃ。

 

「……ルフィ、ありがとう」

「おお、なんだよ?」

「私を見つけてくれて……」

「ああ、ていうか、カノンっ、おめぇのせいですっげぇメンドくさかったんだぞ!」

「えぇ……」

 

 なぜお礼を言って逆に非を突き付けられねばならぬのか。

 

「私、なにか、した……?」

「いや! たぶんなんもしてねぇ!」

 

 ますますわけがわからないよ、ルフィ……。

 

「あの、すみません。あなたがカノンさん? ですよね?」

 

 塀の上から訓練場を覗きこんでいた三人目である桃色の髪をした眼鏡の少年が問うてくる。

 そういえば、この人のことも気になってはいたのだ。新しい仲間の人か、あるいはルフィに連れ回されている被害者か、いや、どっちも本質的には大した違いもないんだろうけど。

 

「そう、です。私に、なにか……?」

「ああ、いえ、そのですね。ある人物から預り物があるというか……」

「預かり、物……?」

「その、はい……、これ、なんですけど……」

 

 少年が彼の懐から取り出された封筒を差し出してくる。黒地に金色で装飾され、ご丁寧に蝋で封をしてあるそれは差出人無記入のいかにも怪しげな風体だった。

 

「ん、これ、差出人は……?」

「えっと、はい、ノワールと名乗るお綺麗な方で……、あなたの、カノンさんのことをお母様と呼ばれていましたけど……」

「お母、様……、……っ!?」

 

 そう呼ばれる心当たりは一つだけなら、ある。もし、そうなら……、ああ、なんということだろう。

 ノワールか。かつてはそう名乗っては……、いや、名すらない存在であったというのに、私に手紙まで出してくるなんて……。

 

「ノワール……」

 

 封筒と同じように黒地に金色の装飾が優美な便箋にはたった一行だけが書き記されていた。

 

 

 ――――私は、人間になる。

 

 

 短く端的なその一文は、それが持つ意味を嫌というほど私に理解させた。

 近々、ノワールと会うことになる。そのことで今は頭がいっぱいになった。

 

 

 

 

 

「で、そのノワールってのがまたメンドくさいやつでな、そいつのせいでこの島に来るのにだいぶかかっちまったんだっ」

「いや、知らねぇよ。つか、お前らどっか行け。ここは俺の場所だ」

 

 ゾロが磔になっている前で堂々と話し込んでいる私、ルフィ、コビーくん、リカちゃんの一行。

 といっても、ルフィがここ三週間ほどの土産話――まぁ、そのほとんどがノワールへの愚痴だったけど――を一方的に喋っているだけだけど。

 ヘルメッポとそのお付きはルフィと雪片が失神させている。というわけで気兼ねなくこうしているわけだけど、仮にも海軍支部でこの長時間の間警戒の巡回兵が一人も通りがからないのは、果たしてどうなんだろうか。

 

「というわけでな、おれは今、一緒に海賊をやる仲間を探してるんだ」

「ちっ、話の脈略がねぇぞ、くそったれ。にしても、はっ、海賊だと? 自分から悪党に成り下がろうってのか。ご苦労なことだな」

「……なんだ、お前、おれの夢を馬鹿にすんな。おれの意志だ。海賊になりたくてなにが悪い。それに、おれがなりたいのはピースメインだ。モーガニアなんかと一緒にすんな」

「ちっ、ああ、そいつは悪かった。精々頑張ってくれ」

「ん! 謝るなら、許す!」

「はっ、で? まさか、縄をほどいてやるから力を貸せだのと言い出すんじゃねぇだろうな」

「いや、別にまだその気はねぇよ。お前、悪いやつだって評判らしいし」

「……、世間でどう言われてんのかは興味ねぇ。俺は俺の信念に後悔するようなことはなに一つやった覚えはない! これからもそうだ。そして、この状況も生き延びて、俺は自分がやりてぇことを成し遂げる!」

「ふーん、そうか。まぁ、おれがそんなんになったら、一週間で餓死する自信があるけどな!」

「俺とてめぇじゃ、気力が違うんだ。てめぇの仲間になろうっていう物好きを探すなら、他を当たれ」

「ああ、じゃあ、また来るな」

「ちっ、もう来んな……」

 

 存外仲がよさそうな二人。立ち去ろうとするルフィから視線をそらしたゾロは物憂げな様子で、空を見上げた。

 

「あっ、麦わら帽子のお兄ちゃん! 町に行くならわたしの家に寄って行ってよ! お母さんがきっとご馳走してくれるよ!」

 

 リカちゃんはゾロと私に手を振ると、笑顔でルフィの背へ飛び付いていった。ヘルメッポをはったおしたので、だいぶ気が楽になっているらしかった。

 

「あ、じゃあ、ぼ、僕もお先に失礼しますっ」

 

 足早にルフィのもとへ駆けていくコビー君。気が弱そうだから、よっぽどここにいるのに緊張していたのだろう。

 さて、私も行こうかな。もうここに縛られている理由もないし、もう海兵たちと一戦交えて海賊だって名乗っちゃったしね。それに、わかってはいたけれど、私に縛られるような被虐趣味はないみたいだし。あったらあったで、困るけど。

 

「じゃあ、ゾロ、私も、行くね……。またね……?」

 

 すでに塀を越えて町のほうへ行ってしまったルフィたちを追いかけるために、ゾロに背を向ける。

 

「……、ちょっと待て、白いの」

 

 ……、むぅ。たしかに私の髪はどうも色素が抜けきってるっぽいけどさっ。私にはカノンっていう名前があるのにっ、もうっ。

 

「それ、取ってくれ」

 

 どれだよう、と振り返り、ゾロの視線が示す先にはリカちゃんお手製のおにぎりだったもの。

 

「……お腹、壊すよ……?」

「ガタガタぬかすな。黙って食わせろ。落ちてるの、全部だ。あー」

 

 上からの姿勢で言いつけて、大口を開けてスタンバイするゾロ。

 ……、まぁ、いいけどね。ふふっ、私、ゾロのこと結構好きかも。

 ヘルメッポが泥の塊に変えてしまったおにぎりを拾い上げ、ゾロの口元へ運ぶ。

 

「はい、あー、ん……」

「……、っ!? っっっ!?」

 

 ばりばりと音を鳴らして砂利、泥と共に咀嚼し、飲み込む。

 きっと、こういうのを男前とかっていうんだろうなぁ。

 

「おいしかった……?」

「ごふっ……、ああ、あのガキに伝えてくれ。うまかった、ごちそうさまでした、ってな」

「ふふっ……、ん、絶対、伝えるっ……」

「なら、さっさと行け……」

「ん、また、ね。あと、私の名前、カノン、だから……」

「ちっ……」

 

 嫌そうな顔をしたゾロは口をもごもごと動かしながら、でも、いつものように寝ようとはせず、なにかを考えているようだった。




 いつもよりちょい長め、かな……?

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