お暇なら見て行ってください
上院の民選議員の皆様へ連絡を取り終えることが出来ました。
皆様は姉の代わりに代表代行に就く事、そして国内復興と被災者救済を優先する為に世界安全保障条約に参加しない事に賛成してくれました。
というか『サクヤ様なら安心だ!』と口にする方がチラホラといらっしゃったんですが、私は政治の分野でそこまで信用を得た覚えはありませんよ……。
次は五大氏族の方々へ話を通すのですが、アメノミハシラにいるロンド・ミナ・サハク様は『貴様が動くのなら民に塁が及ぶことはあるまい。その覚悟と信念、見事通してみよ』とあっさり協力を約束してくれました。
少し拍子抜けの感は否めませんが今は一刻を争う時、ありがたいと思う事にしましょう。
マシマ家は当主のタツキ様はセイランよりなので説得は望み薄と思っていたのですが、電話連絡の時点でアッサリ門前払いされてしまいました。
まあ、五大氏族の方が塩対応なのは覚悟していたので仕方がないですね。
トキノ家のご当主様は2年前に父と共に自決し、次代を担う方が幼い事もあって現在は政治から身を引いています。
セイラン家はトキノ家の代わりに下級氏族から上がってきた形ですね。
当然ですがセイランには話を持って行っていません。
今は無駄な事をしている場合ではありませんので。
となれば、多数決を見越して五大氏族の最後の一家キオウ家を味方に付けねばなりません。
そこで私が向かったのは外務省の庁舎。
その中にある『オーブ外務省外郭団体・国際協力機構管轄組織・国際災害救助隊』、通称『
「久しぶりね、サクヤ」
「お久しぶりです、ミヤビ様」
実はこのОDR、キオウ家の令嬢であるミヤビ・オト・キオウ様が司令を務めているのです。
「長い間、顔を見せる事もなかった不義理、お詫び申し上げます」
「仕方ないわよ、カガリに閉じ込められていたんだから。あのシスコンったら、本当に何をトチ狂ってるのかしらね」
頭を下げる私に肩をすくめるミヤビ様。
実はミヤビ様とは幼少からお付き合いがあります。
五大氏族各家はオーブの共同運営者であると同時に、政策が対立した時にはライバルとなる関係。
とはいえ、そう言った事情は子供にはあまり関係ありません。
年末年始の会合や建国祭などの催しがあれば、大人が難しい話をしている間に集まって遊ぶ事も普通にありました。
コトー・サハク様が買ってくれた『ドカポン』や『桃鉄』というゲームは本当に楽しかったですね。
姉さまを始め年長組の雰囲気が険悪に見えるときもありましたが、あれは気のせいでしょう。
そんな集まりの中でミヤビ様は私やマシマ家のトーヤ様などの年少組をよく可愛がってくれました。
お父様のお話では、赤ん坊だった私の世話を巡って姉様と何度か喧嘩になったとか。
本人曰く弟妹が欲しかったらしく、私達に対する態度は相当な甘やかし方だったのを憶えています。
何度かお風呂へ連れ込まれた事もありましたが、その辺はミヤビ様の名誉を守る為にも口にするのは止めましょう。
「ミヤビ様。2年前、私の浅慮によって皆様の顔に泥を塗ってしまったこと、お詫びのしようもございません」
再度深く頭を下げる私にミヤビ様は一度ため息をつきます。
「謝るところが違うわよ、サクヤ。ここは無茶な真似してミヤビお姉様に心配かけてごめんなさい、でしょ」
呆れた口調で私の頭に軽くゲンコツを落とすミヤビ様。
そう言ってくれるのはうれしいのですが、『ミヤビお姉様』の部分にツッコミを入れるべきでしょうか?
「そもそも、あの件に関して文句を言う権利はないわ。どれだけ無茶な方法でも貴女が国民を守ったのは事実。私達が国外の安全な場所にいて、何もできなかったこともね」
言葉を転がすミヤビ様の顔には自嘲の色が深く刻まれています。
「それに貴方だって勝算が無かったわけじゃないでしょう。でなければ、あの紋が入った短刀なんて使わないでしょうし」
思わせぶりなミヤビ様の言に私は苦笑いを浮かべます。
お母様に力を貸してほしいと願掛けしただけで企みなどは無かったのですが、なにやら深読みされてますね。
「例の中継に家紋が映ったお陰で国内外の日系人は怒髪天を衝いたわ。ネットでも現実でも大暴れで、見ているこっちも怖くなるくらいだったもの。ウチの次に日系人が多い大西洋連邦なんて、さぞかし大変だったでしょうね」
「それについてはアズラエル理事から苦情を言われました。会社の株価が酷い事になってると」
「あんな悪趣味なイベントを主催したんだから当たり前よ。まあ、そのお陰で連合は貴女との約束を守らざるを得なくなったんだけどね」
『ザマぁないわ』と笑うミヤビ様。
式典などでは深窓の令嬢と思われている彼女ですが、実はこっちが素だったりします。
「──世間話はこの辺にしましょうか。それで今日は何の用なのかしら?」
話を切り替えたミヤビ様に、私は自分が考えている事を話しました。
「なるほどね、貴女の読みは悪くないわ。ユウナの馬鹿ならカガリがいない内に大西洋連邦に尻尾を振るでしょうし」
「はい。そこでお尋ねしたいのですが、現状で大西洋連邦と保障加盟国の連合はザフトに勝てると思いますか?」
そう問いかけるとミヤビ様の視線が鋭くなりました。
「何故そんな事を?」
「もし連合が優勢であるなら、保障への加入も吝かではないと考えます。彼等がザフトを倒せば、次に矛を向けられるのは協力を拒んだ国ですから」
「ウズミ様が守ったオーブの理念を捨てるつもり?」
「ミヤビ様、国とは民です。理念ではありません」
圧を込めた問いを放つミヤビ様の顔をまっすぐに見て私は答えます。
「どんな国でも民なくば、そこはただの土地。そして施政者も国民の承認を得られねば裸の王様でしかありません。国は民の生命と財産を守り、多くの人々が安心して生活を営むことで初めて国足り得るのです」
私がこの考えを持ったのはお母様から『民のかまど』という逸話を聞いたのが切っ掛けです。
古代に日本を統べた仁徳天皇は、高台から国中を見渡した際に食事を作るための煙が家々から出ていないことに気づいたと言います。
そこから国民が困窮している事を察した彼の皇は、民の生活を案じて税金や労役を3年間免除したそうです、
もちろん税が入らねば皇の生活は貧しいものになります。
仁徳天皇は食事も着る者も倹約して、宮殿の屋根の茅の穿き替えも行いませんでした。
皇の想いが通じたのか、民は熱意を持って働くようになり、次第に豊かさを取り戻していきました。
そうして再び民の家々からかまどの煙が上がるようになると、仁徳天皇は着る者は傷み宮殿が荒れていても『朕はすでに富みたり。民こそ、朕の宝なり』と喜んだそうです。
「たしかに理念は大切でしょう。コーディネーターとナチュラルが共存する我が国なら猶更の事です。ですが理念に傾倒して民を蔑ろにするのなら、オーブに未来はありません。何故なら民こそが国の宝。国民が裕福となり、幸せに暮らす事こそが国が富む唯一の方法なのですから」
2年前にお父様が理念を護る為に連合と戦ったのは、世界情勢を視野に入れていたからでしょう。
当時は地球とプラントが絶滅戦争の様相を呈していました。
ならばこそ二つの勢力が行きつくところまで行ってしまう前に、歯止めとなる中立の存在が必要だった。
もちろんオーブの他にもスカンジナビア王国や赤道連合など中立国は他にありました。
ですが対立する二国の間に入れる国力があるのは、オーブ以外になかった。
故に地球連合に与するわけにはいかなかったのです。
ですが、未熟な私はお父様のように世界を守る為に動くような真似はできません。
限界まで両手を広げてもオーブの国民と大切な人を抱え込むのが精一杯。
ならば、懐の中の宝物を全力で守る事は決して間違いじゃないはずです。
「まったく。ウズミ様が貴女を後継者にしなかった理由が分かったわ」
「もちろん、国の理念を軽んじているわけではないですよ。二者択一となった場合、私は民を取るというだけで」
「分かっているわよ、そのくらい」
私が慌てて補足すると、ミヤビ様はクスクスと笑って机から携帯端末を取り出しました。
「現在のところ、戦争はザフトが優勢ね。当然だわ。ブレイク・ザ・ワールドの影響で地球全土が疲弊しているもの」
流れるような指捌きで端末を操作すると、現状でのザフトと連合の戦歴やおそらくこちらが分かる限りの戦力が現れました。
「おお、流石は外交官ですね。こんなにもデータを集めているなんて」
「ОDRの本業とは少し外れてしまうけど、情報はどれだけあっても困らないからね」
そんな事を話しながらデータを見ていると、連合はかなり負けが込んでいるようです。
「とくに痛いのが、このフォックストロット・ノベンバー作戦の失敗よ。なにせ核ミサイルまで持ち出した結果が大敗だもの」
そこから戦場は地球の衛星軌道上や地球の中へと広がり、連合は劣勢に陥りつつあるという事ですか。
「今回は何処を落とし所にするつもりなんでしょうね?」
「分からないわ。前の様に互いが動けなくなるくらいに疲弊するなんて事はないでしょうし」
おそらく、このまま戦い続ければ息切れするのは連合が先です。
大西洋連邦を含めて多くの国々は復興や被災者の救援で、金食い虫の戦争などやっている余裕は無い。
そこを無理やりに軍を出しているわけですから、国力や財政が疲弊するのは当然でしょう。
「ところでギルバート・デュランダル議長は、どのような方なのでしょうか?」
ふと気になったので私はミヤビ様へ訊ねてみます。
戦後処理を担ったアイリーン・カナーバ前議長からバトンを渡され、疲弊したプラントの国力増強に尽力した方。
滅私の傑物という噂を聞いていますが、外交で鍛えたミヤビ様はどのように見ているのでしょうか?
「噂通り優秀な人なのは間違いないわ。前職は学者というだけあって、何が起こっても取り乱す様子を見た人はいないそうよ。ただ……」
「ただ?」
「腹に一物持ってるのは間違いでしょうね。まあ、政治家なんて誰でもそうなんだけど、あの男は他とは別な気がするの」
「他の政治家とは別、ですか? もしかして世界征服の野望とか?」
「もしくは世界の変革者かもね。私は直接会ったことが無いから勘みたいなモノよ。話半分で聞いておいてちょうだい」
なるほど。
ミヤビ様はああ言ってますが、油断ならない人物と見た方がいいでしょう。
まあ、姉さまもそんなに長く国を開けないでしょうし、私が相対する可能性は低いですけどね。
「ありがとうございました。では私が代行になったら、当初の予定通り保障への加入にはNOを突きつける事にします」
「あら、私はまだお父様に貴女を支持するように口利きするとは言ってないわよ」
キョトンとする私にミヤビ様はニヤリと悪い笑みを浮かべます。
「私に口利きしてほしかったら、一つ条件を飲んでもらいましょうか」
「その条件とは?」
いったいどんな無理難題を突き付けられるのでしょうか?
金銭は無理ですね。
姉様が帰ってきたらミヤビ様へ有利なポスト……というのも難しい。
考えてみましたが、11歳の監禁少女に出来る事なんてほとんどありませんでした。
これは腹を切って…いえ、ミヤビ様へは逆効果か。
「それは私の呼び方をミヤビ姉様に直すこと」
「えぇ」
何が来るかと身構えていたのですが、予想の斜め上な条件が飛んできました。
「だって、昔は『ねえさま、ねえさま』って引っ付いてくれたのに、小学校に上がった頃から他人行儀になってしまったもの。正直寂しかったのよ? 妹分が一線引いてきたみたいで」
「お、おぅ」
ミヤビ様の言には憶えがあります。
私としては小学生になったのだからと、淑女として分別を付けたつもりだったのですが……。
「わかりました。それではよろしくお願いします、ミヤビ姉様」
「う~ん、もう少し可愛く『お願い、ミヤビお姉ちゃん!』って言ってくれないかな?」
「お…お願い、ミヤビお姉ちゃん」
「はい、任されました。お父様はしっかり説得しておくからね!」
その言葉にもう一度頭を下げて、私はОDRの指令室を後にします。
……なんでしょうか。
大切なモノをゴッソリ削られたような気がします。
◆
「ふざけるな! こんな事が認められるか!!」
それから数時間後、行政府の会議室にヒステリックな怒号が響き渡りました。
声の主はユウナ・ロマ・セイラン。
紫の髪が特徴な優男です。
怒りに顔を赤くしながら喚き散らすその様は、物事が自分の思い通りにいかなくて癇癪を起こす子供のようです。
「認めるも何もないわ。オーブは合議制で運営する国。そしてアスハ、キオウ、サハクの三家と上院の民選議員全てがサクヤを首長代行となる事を認めた。手続き的には何の問題も無い筈よ」
そんなユウナ様をミヤビ姉様が冷たく突き放ちます。
「何を言うか! ユウナは現代表であるカガリの夫だぞ! 妻の不在は夫が務めるのが当然だろうが!!」
「そ…そうだ! その娘は私達の顔を潰したんだぞ! それにまだ子供じゃないか!!」
そんなユウナ様を庇うようにお父上であるウナト様、そしてマシマ家当主のタツキ・マシマ様が反論します。
「何を馬鹿な事を! カガリ様がいないからこそ、再度上院で代表を選出したんだろう!」
「そうだ! 縁故で座れるほど国家代表の椅子は軽くない!!」
「顔を潰されたのは、子供に責任を押し付けてお前達が逃げたからだろう! 自分のやった事を棚に上げて馬鹿な事を抜かすな!!」
そんな二人に民選議員の方達からヤジに似た反対意見が飛びます。
「黙れ、庶民共! 縁故というんだったらサクヤもそうじゃないか! それにコイツはまだ子供なんだぞ!!」
「サクヤは過去に一度国家を代表して動いているわ。そして国民を守るという結果だって出している。──まさか忘れたわけじゃないでしょうね?」
ユウナ様の暴言に民選議員の皆様の視線が厳しい物に変わり、ミヤビ様の表情も怒りを帯びてきました。
「あのような野蛮な策を評価する気か! 時代遅れの蛮族が取るような自決など、理念に被れて自爆したウズミと同じだ! 政治の手腕などと言われてたまるか!!」
「いやいや、その言い方は無いんじゃないかな?」
顔を真っ赤にして叫ぶウナト様、それに異を唱えたのは意外な人物でした。
「お父様……」
「予想通りに大荒れのようだねぇ。微力ながら助太刀に来たよ、ミヤビ」
和装を粋に着こなした銀髪の男性、それはキオウ家当主であるウミト・ミツ・キオウ様でした。
「ウナトさん、そしてタツキさん。娘の言った通り、オーブは五大氏族の合議制で運営する国家だ。今回の件は三対二で決着が付いているし、民選議員の皆さんもこちらに味方している。これをひっくり返そうというのは、ルール違反が過ぎるでしょう」
「ぐっ! だが……!!」
「それにね、先ほどのいい方もよくない。たしかに世間的に見れば野蛮なのは認めるけど、アレはサクヤちゃんも計算づくでやった事だよ。彼女は母君であるアサヒ様から受け継いだ血を最大限に利用したのさ。そうする事で国内外の日系人へ働きかけた。彼等の目がオーブと大西洋連邦へ注がれるようにね」
すみません、ウミト様。
そんな腹積もりは全くありませんでした!
「タツキさん、貴方はこの子に顔を潰されたと言っていたね。だが、考えてみてほしい。この子をそうぜざるを得ない状況に置き去りにしたのは、自爆したウズミさんを含めた私達大人なんじゃないかな?」
ウミト様の問いにタツキ様はバツが悪そうに顔を背けます。
「あの時、海外にいた五大氏族…いや下級氏族でもいい。大人が責任を取る為に国へ戻っていれば、サクヤちゃんが腹を切る事なんて無かった。けれど私を含めて誰一人動かなかったじゃないか」
「あの時は連合に占領されていたのだぞ! どんなルートを使って戻れというのだ!?」
「戻れるさ。連合に『オーブの代表として敗戦の責任を負う、だから入国を許可されたし』と連絡を入れればね」
ウミト様の返答に思わず絶句するウナト様
相手が二の句を告げられないと分かると、ウミト様は私の前に立ちました。
「すまなかったね、サクヤちゃん。あの時、私達は君に多くの重い物を押し付けてしまった。すぐに謝ろうと思ってたんだけどカガリさんがああだし、何よりどんな顔をして会えばいいか分からなくてねぇ」
そう言って頭を下げるウミト様。
私は彼の謝罪に首を横に振ります。
「いいえ。私の浅慮で皆様の顔に泥を塗った事は事実、タツキ様を始め氏族の方々がお怒りになられるのは当然です。それに母は常日頃、私に首長を担う家の人間としての心構えを教えてくれました。『時至らば国や民の為に死ぬ事が我等が使命』と。私はそれに従っただけでございます」
「その考えは首長では……いや、いいよ」
私の答えにウミト様は何とも複雑な顔を浮かべましたが、いったい何が言いたかったのでしょうか?
「う…うるさい、うるさい! 僕はカガリの夫なんだ! 代表代行の座は、この国を動かす資格は僕の物だ!!」
頼りにしていた大人二人が黙り込んだのがいけなかったのでしょうか?
癇癪を起こしたユウナ様はついにミヤビ姉様へ襲い掛かりました。
「ミヤビ!」
ウミト様が声を上げる中、私は彼の脇を通り過ぎると懐から扇子を引き抜き、怒りで顔を歪ませたユウナ様の前に立ち塞がります。
「サクヤッ!?」
「この…クソガキィッ!!」
助走の勢いを乗せて振り下ろされるユウナ様の拳。
それが顔に届く前に私は手首の辺りを畳んだ状態の扇子で打ち据えました。
「ぎゃっ!?」
力で勝る相手の攻撃は正面から受けるは愚策、このように勢いを利用して逸らすのが常道です。
ユウナ様の打撃を左へ受け流すと、私は彼の懐へ入り込みます。
そして小柄な事を利用して扇子の先で右の脇の下を突き上げました
「あ…がぁっ!?」
脇の下は腋下とも言われる人体の急所です。
ここには腕神経叢というという巨大な神経の束が通っています。
それ故に打撃を受けると激痛が走り、一時的に腕の感覚喪失や運動麻痺を引き起こすのです。
また、この場所は圧迫止血が出来ないので刃で切りつけると失血死を狙えます。
最後に痛みのあまり膝をついたユウナ様の首筋へ、私は広げた扇子の先を突きつけました。
「そこまでです、ユウナ様。貴方も今は五大氏族に名を連ねる方、見苦しい真似はお止めください」
「ひっ!?」
自身の首筋に食い込んでいるのが、紙や布ではなく鋼である事に気付いたのでしょう。
ユウナ様は小さく悲鳴を上げます。
「ほう、小具足術か」
「さすがね、サクヤ。ところで鉄扇なんて何処で手に入れたの?」
「カガリ姉様が護身用にと持たせてくれたのです」
短刀と同じ感じで振るえるし、広げれば小さな盾や刃としても使えるので重宝しています。
ちなみにウミト様が口にした小具足術とは、脇差・短刀を用いた日本古来の格闘技術の事で『小具足腰之廻』と呼ばれる事もあります。
私が学んだ技は竹内流の流れを汲むそうです。
「ユウナ様が納得いかないのは百も承知です。ですが、私も所詮は姉様が帰ってくるまでの繋ぎにすぎません。どうか、今だけは代行の座をお任せいただけませんでしょうか?」
「わ…わかった……」
穏やかに話していますが、首に食い込む鉄扇の感触から拒否は許されない事を察したのでしょう。
ユウナ様は反対の矛先を収めてくれました。
その答えを聞いて鉄扇を外すと、ユウナ様は這う這うの体で会議室を出ていきます。
「お前達……後悔するぞ!」
「ウナト殿、待ってください!」
続いて捨て台詞と共にウナト様、そしてタツキ様が立ち去りました。
ユウナ様に対しては少しやり過ぎとは思わないでもありませんが、私を信じてくださる方に手を出そうとしたのです。
年齢と体格差を加味して、このくらいは正当防衛の範疇に入るでしょう。
「すみません! 大西洋連邦のジョセフ・コープランド大統領から連絡が来ています」
鉄扇を懐へしまったところで、行政府の職員の方が駆け込んできました。
「行ってきなさい、貴女がやると言ったんだから。あと、カガリからのゲンコツは覚悟しておくこと」
「何かあったらフォローはする。正しいと思う事を為しなさい」
「……行ってまいります」
ミヤビ姉様とウミト様の励ましを背に私は会議室を後にします。
怒りに燃える姉様のお仕置きは怖いですが、これも国のため。
今回は頭を差し出す覚悟を固めましょう。
オーブ氏族に与えたハラキリの影響(【恨み】が付いてる人物がサクヤを恨んでいる)
アスハ家
カガリ・発狂寸前
ウズミ・あの世で見ていて罪悪感で吐血
アサヒ(母親)・流石我が娘! こっちに来たら褒めてあげよう!!
サハク家
ミナ・死に際の微笑み、見事! アメノミハシラの民は任せるがよい!
キオウ家
ウミト・まさか過ぎて呆然。その後罪悪感で吐いた
ミヤビ・腹を裂いた瞬間に気絶。サクヤが生きている事を確認するまで不眠症に。
トキノ家
当主自爆でそれどころじゃなかった。
マシマ家
タツキ・ウズミに続いて娘まで! これ国外にいる俺の面目丸潰れやんけ!
自殺するなら周りに迷惑が掛からんようにしろよ!!【恨み】
セイラン家
ウナト・ウズミ…いや、これはアサヒの影響か。
時代遅れ甚だしいが、これでは儂とセイラン家の面子が……【恨み】
ユウナ・なんだ、あのガキ。頭おかしい!
なんでアイツのイカレた行動で僕たちが責められるんだ!?【恨み】
前上院民選議員たち・嘘やろ! マジでやりおった!
これ疎開してる俺等立つ瀬ないやん!!【恨み】
国内にいた下院議員たち・ワシら何も聞いてないんですけど!?
助かったけど、無茶せんといてくれ!!