仮面ライダーネクスト電王   作:ヴィルヘルム星の大魔王

1 / 1
次の行き先は、過去か未来か


一話 美少女の幼馴染やってます

 

 野上祥太郎は、物心ついた時から自分自身に違和感を抱いていた。まるで、自分の中に知らない自分が存在していることを、彼がその存在に関わる切っ掛けになったのは、小学三年生の頃である。

 

 祥太郎はどこにでもいる大人しい少年だった。数人のクラスメイトと遊ぶくらいの社交性はあるが、基本的に、誘われない限りは本を読んでいる。そこに、柄の悪いシャツを着たガラの悪い男子三人が、祥太郎の机に近付いてきた。

 

 リーダー格と思われる男子は、ニヤニヤしながら祥太郎から本を取り上げる。本を奪われたことに、祥太郎は本がある方に目を向けた。本を奪った男子は、クラスのガキ大将的ポジションであり、学年一の暴れん坊として有名だった。

 

 

 「うわっ!?急になんだよ!?」

 

 「野上~、お前っていつも本ばっか読んでるよなぁ、お前みたいなのを本の虫っていうんだぜ?やーい、本の虫!虫野上!」

 

 「「虫野上!虫野上!」」

 

 ガキ大将の言葉に同調する後ろの二人。祥太郎は、自身の悪口を言われても興味を示さなかった。それよりも、読んでいた本を奪われたのは、途中までしか読んでいない彼にとって痛手なのである。

 

 

 「それ借りた本なんだから返してよ」

 

 「知らねえよ!落として汚れても借りたお前の責任になるんだからな、おれらは関係ねえよ。いくぜパース」

 

 「へーいパース」

 

 「へいへーい」

 

 いじめっ子のリーダーにくっ付いている二人の取り巻きは、空中に本を放り投げては、三角形のような形でパスを渡し、祥太郎を揶揄う。

  

 

 

 「ちょっと、祥太郎に本を返しなさいよ」

 

 「すいちゃん?」

 

 「はあ?うるせえぞ星街、邪魔すんじゃねえよ」

 

 「祥太郎から無理やり本を取り上げて、そのうえ、」

 

 「いじめじゃねえよ。ただの遊びだよ」

 

 「祥太郎が本気で嫌がってるでしょ」

  

 「うっせえな!女子だからって調子に乗んじゃねえぞ!」

 

 「ふぅん?下らないことしてるアンタ達よりはマシだけどね?」

 

 「舐めやがって!」

 

 「きゃっ!?」

 

 「すいちゃん!?」

 

 いじめっ子の男子は、すいせいの身体を突き飛ばした。すいせいは、教室の冷たい床に尻餅をつく。

 祥太郎は、助けてくれた幼馴染に被害が及び、悲痛な声を上げる。いじめられている自分を助けるべく、ガキ大将と取り巻きに立ち向かった彼女。自分が立ち向かい、やめてと訴えればいいだけなのに、ガキ大将たちの行動がエスカレートしないよう、穏便な態度で済ませていた事が仇となり、彼女を傷つける未来に進んでしまった。

 

 (なぜ、すいちゃんが怪我しなきゃいけないんだ。嗚呼、そうか、ぼくが弱いからだ)

 

 心の奥底から沸き出す衝動、すいせいを傷つけたガキ大将といつまでも弱いままな自分に対する黒い感情。

 それは、怒り。喜怒哀楽の内、憤怒の感情が祥太郎の深層心理から呼び出される。

 

 

 すいせいを助けに立ち上がろうとした瞬間、ドクンと心臓が高鳴り、彼の意識は闇に落ちた。

 

 次の瞬間、ガタリと椅子を動かし、すいせいの所へと移動する祥太郎。いじめっ子だけでなく、クラス中の視線が彼を見る。

 

 「おい、大丈夫か?」

 

 「あ、ありがと」

 

 「てめぇら、いい加減にしやがれや」

 

 「祥太郎?」

 

 すいせいは、彼から手を差し伸べられて立ち上がる。そして、突然雰囲気が変わった祥太郎の姿を見て愕然とした。いつもの優しめな顔からは怒気が溢れ、黒い髪に所々赤いメッシュが色づき、瞳は紅く染まっている。声も子供特有の高い声と比べて少し低く、前髪は後ろに逆立っていた。

 

 

 「あ?なんだよ野上、文句あんのか?女に守られてる弱虫がよぉ!」

 

 「弱虫が!」

 

 「弱虫弱虫!」

 

 「言いてえことはそれだけか?」

 

 祥太郎は、ガキ大将の胸倉を掴み上げ、頭を後ろに大きく振りかぶり、額を叩きつけた。

 

 

 

 「はっ!?」

 

 

 祥太郎の意識が目覚め、気づけば、眼前のいじめっ子たちは泣いていた。周囲の生徒たちは、怯えた表情で祥太郎を見ている。握ってある状態の右手を見れば、殴った衝撃でじわじわと痛みが伝わる。祥太郎の後ろにいる星街だけは、ポカンとした顔で彼を見ていた。

 

 その後、騒動に駆け付けた先生が喧嘩両成敗ということで四人を説教する。だが、喧嘩した記憶が無い祥太郎としては拭い切れない違和感が残る。そして、すいせいに怪我をさせたいじめっ子のリーダーは、追加で説教を受けていた。

 

 「おい、お前、ちょっと面貸せや」

 

 続いて、中学に上がった頃だ。中学校の番長と名乗る生徒から喧嘩を売られた。どうやら、顔が気に入らなかったらしい。何たる理不尽だと感じながらも、祥太郎は事を穏便に済ますべく、喧嘩をやんわりと断る。

 しかし、それが相手の逆鱗に触れたらしく、いきなり殴りかかってきた。頬に突き刺さる鈍い痛みに、祥太郎は咄嗟に目を瞑る。視界が暗く染まった瞬間、小学生の頃と同じように意識が闇へと落ちる。

 

 「しゅ、しゅびばせん、もう、堪忍してください」

 

 祥太郎の意識が戻り、目の前には青痣だらけで顔が腫れた番長が、泣きながら土下座していた。謝罪を受け入れると、番長は脱兎のごとく逃げ出す。訳も分からない様子だったが、祥太郎は鞄を持って、帰宅し始めた。

 

 「おはようございます!ボス!」

 

 次の日、例の番長は祥太郎に対して礼儀正しく挨拶してくる。その光景を目撃した生徒達によって、祥太郎が番長を屈服させた裏ボスという事実無根な噂が飛び交った。

 

 記憶が無い間にトラブルを起こしたり、トラブルに巻き込まれている。そんな自分が怖くなり、父親に頼んで精神科を受診したことがある。精神科医の酸賀は、カルテを見て、祥太郎に病名を告げた。

 

 

 「ふむ、断定はしないが、君は解離性同一障害の可能性が高いね」

 

 「解離性同一障害…ですか?」

 

 「そう、分かりやすく言えば、多重人格だね。君の精神に潜んでいる複数の人格が、君の意識と引き換えに行動している。発症の原因はカウンセリングで話を聞いた限り、祥太郎君、若しくは、君の親しい人に危害が及ぶ場合に発動することが多いみたいだ」

 

 「複数の…人格」

 

 祥太郎の症状を後ろで聞いた父親の表情には、心当たりがあるのか。どこか不安げで心配そうな様子で息子を見つめていた。多重人格を中学生にも解りやすく説明した酸賀は、カルテを置いて、祥太郎と父親に向き直る。

 

 

 「多くの人は、過去に何かしらの心理的外傷を負ったことで発症する一種の防衛反応です。お父さん、個人のプライバシーなのは重々承知ですが、念の為お聞きしてもよろしいですか?」

 「幼い頃、息子は事故に巻き込まれまして」

 「そうですか、ありがとうございます」

 

 酸賀医師が言うには、解離性同一障害、つまり、多重人格に明確な治療法は存在せず、事前にメッセージを残し、他の人格と共存することを目指すという精神的療法が主流であった。

 

 いつ、他の人格がトラブルを起こすかは、祥太郎自身も判明していない。その為、幼馴染の二人だけに話した。

 いつも仲良くしていた二人から嫌われるだろう、距離を置かれて関係性が拗れていくだろう。そう思う祥太郎だが、二人の反応は意外なモノだった。

 

 「「そっか」」

 

 「は、え?二人とも、なんか軽くない?」

 

 「すいちゃんは気にしないよ。どんな人格でも、祥太郎は祥太郎だもん」

 

 「みこも、困っているしょうたろーを見捨てる程、薄情じゃないにぇ」

 

 二人の軽い返事に、逆に祥太郎が戸惑う。戸惑い気味な祥太郎を見たすいせいは、ポツリと胸の内を吐露した。

 

 

 「それよりも、嬉しかったよ。祥太郎も辛いはずなのに、私達に話してくれて」

 「辛いときは三人で痛みを分かち合い、嬉しいことは喜び合う。それがみこたちだにぇ」

 「みこちが真面目な事を言ってる。明日は槍が振るのか?」

 「なんだと、すいちゃん!みこだって真面目になるわい!」

 

 『ぷっ、あはははは!』

 

 いがみ合っていた二人だが、なんだか面白おかしくなり、祥太郎も含めて三人で笑い合う。

 

 ああ、いつものすいちゃんとみこちだ。素直に話してよかった。そう思った祥太郎は、かけがえのない二人との日常を宝物のように感じた。

 

 月日は流れ、祥太郎たちも高校生となる。小学校・中学校と同様に、さくらみこ、星街すいせいと通学路を歩いていた。 

 

 

 「祥太郎~!すいちゃんは今日も~?」

 

 「ああ、かわいいかわいい」

 

 「適当すぎるっつぅの!」

 

 「おふっ!?お、重「ああ゛?」いえ、何でもないれす」

 

 「しょうたろ~、みこは今日も~?」

 

 「ああ、ポンコツポンコツ」

 

 「あんだお!?馬鹿にしてんのかテメェ!?」

 

 ぷくぅと頬を膨らませるすいせいは、祥太郎の背中に飛び乗る。背中にのしかかられ、女子に言ってはいけない言葉が漏れだす。すいせいは、ドスの効いた声で、彼の口を塞ぐ。

 すいせいの名乗りに乗っかったみこは、祥太郎の馬鹿にした態度を見て、憤慨する。桜色髪のアホ毛を揺らして、訂正しろと圧を掛ける。すいせいの圧と比べて可愛らしいみこの圧に、祥太郎は平然としていた。

 すいせいは、祥太郎の背中にのしかかるが、無反応な彼の様子に釈然とせず、背中越しに問いかける。

 

 「おいおい、可愛いすいちゃんが当ててるんだぞぉ。嬉しくないのかよぉ」

 

 「ごめん、当たってるの気付かなかったわ」

 

 「は?コロス」

 

 「うごごご、首、首を締めるなぁ」

 

 祥太郎の失言に、すいせいは彼の首に腕を回し、ギリギリと締め上げていく。顔を蒼褪める祥太郎。すいせいの身体から黒いオーラが発せられ、顔の大部分が黒く染まる。そして、三白眼になった片目だけが見え、余計に怖さが増していく。。

 

 

 

 「すいちゃんの地雷を踏むとか、しょうたろーも救えんにぇ」

 

 みこは、やれやれと呆れた様子で二人のやり取りを見ていた。

 

 「まぁ、みこの方がすいちゃんより大きいけどにぇ~」

 

 みこが呟いた一言に、三人の時間が止まる。祥太郎の首を締めていたすいせいは、彼の背中からスタッと、素早く飛び降り、指の骨をパキパキと鳴らしながら、みこに歩み始める。口元は笑っているが、眼は笑っていない。

 巻き添えを喰らいたくないという一心で、祥太郎は二人から静かに距離を取る。触らぬ神に祟りなしだ。

 

 「み~こち?」

 

 「おっと、急がないと遅刻するにぇ!では、あでゅー!」

 

 「あっはっはっは、逃がさないよ~!み~こ~ち~!」

 

 すいせいは、ハイライトの無い瞳のまま、どこからともなく取り出した金斧を構えて、みこを追いかける。

 祥太郎は、二人から遅れないよう、猛ダッシュで二人を追いかけた。

 

 

 私立電想学園。芸能科、総合表現科、映像科、普通科の四学科で構成された私立高校であり、学園都市を代表する学び舎だ。また、ユニークな個性を持った生徒が数多く在籍しており、学園都市随一のマンモス校として知られる。

 

 祥太郎は、普通科に在籍している。すいせいとみこは芸能科の生徒だ。クラスも学科も違う三人だが、芸能科のレッスンや部活がない放課後は、仲良く下校している。そして、すいせいとみこの縁で、芸能科との知り合いが多い。

 

 「野上君、おはよう」

 「おはよう、春先さん」

 

 席に座る祥太郎に挨拶してきたのは、隣の席の春先のどか。彼女は、芸能科の生徒で構成されたアイドルプロダクションのスタッフ兼広報アナウンサーとして活動している。ライトブラウンな髪色とショートボブが特徴的な美少女だ。

 

 「おはよぅ、野上君」

 「しぐれさん、おはよう」

 

 のどかに続いて挨拶してきたのは、白いポンポン付きベレー帽、猫背気味な背中が特徴なしぐれうい。

 彼女の正体は、人気イラストレーターだ。しぐれういは、男女の壁を感じさせないあっけらかんとした性格で、自称常識人だが、好きな物が女子高生という電想学園に相応しい変わり者である。また、芸能科にいる大空スバルとは仲が良く、スバルからは『かあちゃん』と親しみを込めて懐かれている。

 

 「おう、お前ら。今から朝のホームルーム始めんぞ」

 

 『如月先生、おはようございます』

 

 「今日も元気いっぱいでいいな!先生は嬉しいぜ!」

 

 前時代的なリーゼントの髪型を決める若い男の名は、如月弦太朗。名門天ノ川学園高校で教師を務めた経歴を持つ熱血系の男性教師だ。また、祥太郎たち普通科の担任でもある。弦太郎は、出席名簿を教壇に置き、自身が受け持つ生徒の出席を取っていく。

 

 「赤見カルビ」

 

 「はーい」 

 

 「天羽しろっぷ」

 

 「はいっ!」

 

 

 グルメブロガーの赤見カルビ。学園都市一、個人情報が筒抜けな動画クリエイターの天羽しろっぷ。そこから、しぐれうい、野上祥太郎、春先のどかと続き、最後の生徒で出席確認が終わる。

 

 「和気若芽」

 

 「はい」

 

 「よしっ、全員いるな」

 

 弦太郎は、出席簿を閉じて、朝の連絡事項を伝えた。ホームルーム終了のチャイムが鳴り、一時間目の準備時間となる。

 

 

 四時間の授業を終えた生徒たちの待ちに待った昼休み。鞄から弁当を取り出した祥太郎は、教室を出て、屋上へと向かう。

 電想学園は、屋上を解放している稀有な学校だ。その代わり、転落事故防止としての柵。また、校内いじめや飛び降りを防ぐべく、防犯警備カメラが設置されている。それだけ、生徒の安全と治安維持に力を入れていることが窺える。

 

 

 「こっちだにぇ、しょうたろー」

 「早くしないとお昼終わるよ」

 「待ってくれ、すぐ行く」

 

 すいせいは、お気に入りのリンゴジュースを飲んでいる。彼女の隣に座っているみこは、おかずのタコさんウインナーを摘まみ、つるっと箸から滑らせた。赤いタコさんが地面に落下していく。口をあんぐりと開けるみこち。

 ストローを口に含みながら、眼を見開かせるすいせい。しかし、無常かな。タコさんウインナーは、地面から二回弾み、汚れ塗れとなった。みこは、おかずが一つ減った事に声を上げる。

 

 「にぇー!?みこのタコさんウインナーがー!?」

 「あー、みこちドンマイ」

 「みこち、俺のウインナーを分けてやるから、そう落ち込むな」

 

 祥太郎は、自身の弁当箱を彼女の前に差し出す。

 

 「しょうたろー、俺のウインナーだなんて…まだお昼だよ。お下品だにぇ」

 「お下品はお前だ、むっつり巫女」

 

 下ネタと勘違いしたみこは、頬を赤らめながら弁当箱ではなく、祥太郎のズボンを見る。彼女の誤訳を理解したすいせいは、彼女を窘める。それに対し、てへっと舌を出すみこち。祥太郎は、オヤジ臭いみこちの言動に苦笑いするのみ。

 

 「あ~今回の弁当は、結構自信あるんだ。よかったら、二人とも食べてみてくれ」

 

 下ネタに興味がある高校生らしい空気だが、お昼休みが過ぎてしまう為、祥太郎は仕切り直す。

 祥太郎の弁当の中身は、海苔と卵のふりかけが掛かった白米、紫蘇挟みのハンバーグ、ウインナー、出汁巻卵、ほうれん草の胡麻和え、骨なし鮭切り身のバター焼き、里芋の煮っころがし、デザートの苺である。

 

 「みこは、卵焼きっ!」

 「あたしも卵焼き!」

 

 五切れ中、二切れの卵焼きを受け取り、モグモグと咀嚼する二人。食べた瞬間、顔を俯かせて、無言になった。

 無反応な二人に、流石の祥太郎も首を傾げ始める。

 

 「ど、どうした?大丈夫か?」

 「出汁の風味が効いてて美味しいにぇ」

 「祥太郎の卵焼き、美味しいよ。でもね」

 「「乙女として複雑!」」

 

 納得いかないという表情を浮かべる二人から褒められる祥太郎、賑やかで平和なお昼時間を過ごすのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。