そんな採掘漬けの毎日を過ごし、俺はついに全身を金の防具で覆えるほどの資源を手に入れていた。
さらに手に入れたのは、鉱石や防具だけではない。地下を探索していた中で数々の廃屋を発見しており、そこで『ヘルメスブーツ』や『瓶入りの雲』といった、移動を飛躍的に快適にしてくれる便利アイテムたちも確保していたのだ。
「なぁ、本当に勝手に持っていっていいのか? 確かに最後に誰かが使ったのはかなり前みたいな雰囲気だけど、元はと言えばここに住んでた人の持ち物だろ?」
『構わん。こんな地下深くの廃屋の惨状だ、持ち主もとっくに存在を忘れておろう。……いや、もしかしたら既に、この世界から忘れられた存在なのかもしれんがな』
「……不穏な言い方すんなよ」
そんなやり取りをしつつも、背に腹は代えられない俺は、ありがたくそれらを頂戴していたのだった。
◇
「さてと、それじゃあいっちょ、世界を救うための冒険に出かけますか」
『フン、近場を探索するだけで偉そうに言いおって。そもそも地上部の探索の方が、地下探索よりも圧倒的に楽であろうに』
本日は「神の本質」の提案で、地上部のマップ埋めと探索に出ることにした。 俺的には例のピンクスライムの件もあるし、自分自身を限界まで強化してから外に出ていきたいのだが、どうやら神の本質曰く『現状の装備ではほぼ限界』らしい。
『まさか日和ったか? 戦闘技術に関しては、地下探索で十分に学べたであろう』
確かに戦闘技術に関しては、地下で多種多様なスライムとやり合ったし、スケルトンという人型モンスターとの死闘もあった。さらに巨大な蜘蛛やワームといった化け物との戦いも、なんとかこなしてみせた。
まあ、全ては「神の本質」のQTEばりのナビゲーションありきではあるが。
だが、そんな数々の戦闘を経験した俺でさえ、あの初日に出会ったピンクスライムの剥き出しの殺意を超える存在には、未だ遭遇していない。それが俺にとっての「地上部で行われた唯一の戦闘」だったからこそ、無意識に地上探索に怖気づいていたのかもしれない。
……などと、己のチキンぶりを心の中で冷静に分析しながら歩いていれば、当然ながら足元がおろ
そかになるのも仕方のないことである。
『おい! 聞いているのか、前を見ろ!』
そして、脳内同居人の危機迫る警告に気づけないのも、また仕方のないことなのである。
——俺は見事に、地面にぽっかり開いた極小の縦穴へ、真っ逆さまに落ちていった。
◇
「おいおい……『幸運の蹄鉄』を持ってなかったら、結構なダメージ受けてたぞこれ」
『まったく、先が思いやられるわ……っと、これはこれは。運がいいのか悪いのか』
神の本質が何か言いたげな声を漏らしたため、着地点の空間を見渡してみる。 そこには、岩肌に突き刺さった一本の剣が、まるでこの空間の主であるかのように静かに存在していた。
『貴様が今使っているフレイルよりも、あの剣の方が圧倒的に扱いやすかろう?』
「言われなくても分かってるさ」
俺は両手で柄を握り、渾身の力を込めて足を踏ん張った。 みち、と岩が削れる手応えと共に、剣
は惜別の表情一つ見せることなく地面と別れを告げる。
『ほう、エンチャントソードか。なかなか良いものを——』
神の本質が言いかけた、その刹那だった。
どこからともなく吹き抜けた一筋の豪風が剣身を包み込み、それに共鳴するかのように、蒼かった刃が幻想的な翡翠色へと変貌を遂げる。
『ほう……珍しいものを見たな。まさか『テラグリム』を引き当てるとは』
拾い上げたその剣は、俺が強く握りしめることでようやく手応えを感じられるほどに軽く、そして静かに一閃すれば、まるで鎌鼬のように目にも留まらぬ速さで空を切り裂いた。
「棚から牡丹餅なのか、はたまた塞翁が馬なのか……」
壁にクライミングギアを引っ掛け、落ちてきた縦穴を登り直しながら、俺はそう独りごちるのであった。