『ほう……まさかこのような解があったとはな』
「だろ? 己を知り、武器を正しく理解してこそ戦士は輝くんだぜ」
俺がドヤ顔で胸を張ると、頭の中の同居人はやれやれと息を吐くような気配を見せた。
『だが、十分な研鑽を積んだ後ならいざ知らず、ついさっき拾ってきたばかりの武器でギャンブルのような真似をするものではない。それに、我がもっと安全な作戦を示していたではないか』
どうやら「神の本質」は、俺の無茶な行動に呆れつつも、それ以上に「無事に生き残ったことへの安堵」が勝っているようだった。
「しかしまぁ、よくもこんな分かりやすい袋を隠し持っていたものだな。体内にこんなデカい袋が入ってたら、叩き切ってる途中で気づくと思うんだけど」
俺は手に取った『青地に黄色の王冠が刺繍された宝袋』をつつきながら、思わずメタ的なツッコミを入れる。
『……深く考えなくて良いことまで考えるな。今は素直に勝利の報酬を受け取っておけ』
納得したような、しないような気分のまま袋の中を覗き込んでみると、そこには見覚えのない機械、スライムの粘液でできたフック、そして王冠の装飾が施された青いバッジの三点が入っていた。
『ふむ、固形化機か。それを用いれば、あの不快なスライムどもをブロックや家具として有効活用できるだろう』
「このフックは……うーん、今使ってるダイヤモンドフックの方が扱いやすいな」
試しにスライムフックを構えていると、「おっと、王を倒されたから親討ちか?」と思わせるタイミングで、一匹のブルースライムがぴょんと目の前に現れた。
スライムレインの時と同じように咄嗟にテラグリムを構えたものの、スライムはこちらに襲いかかる気配すら見せず、俺の足元をそのまま素通りしていった。
『その青いバッジは『ロイヤルジェル』という。それを身につけていれば、スライムの木っ端どもは恐れをなしてお前には近寄らん』
「へえ、キングを討伐した証ってわけか」
構えを解いて周囲を見渡すと、確かに遠くのスライムたちがこちらをチラチラ見ているものの、襲いかかろうと近づいてくる者は一匹もいなかった。
「しかしまさか、冒険初日からこんな大惨事になるなんて思ってもみなかったよ。……今日はもう帰って休んでもいいよな?」
『好きにしろ……と言いたいところだが、流石に我も鬼ではない。今日は拠点に帰って羽を休めるのも手だろう』
神の本質が言い終わるより早く、俺は既に拠点へ向かって歩き出していた。
「で? 今日の俺の戦いっぷりはどうだったよ? 特に最後の交差なんて、我ながら痺れたろ!」
『……確かに、最後の貴様の機転を利かせた一撃には我も驚かされた。そこに関しては、称賛を送るとしよう』
「おお!」
『だが、決して驕るなよ。油断こそが真の大敵だ。……そうやって、不意の油断から命を落とした者など、ごまんといるのだからな』
「はいはい、分かってまーす」
そんな軽口を交わしながら、俺たちは茜色に染まり始める帰路につくのであった。
◇
——余がこの竜の聖域で眠りについてから、どれほどの月日が経ったのだろうか。
目を閉じていたのは、ただ微睡むためか。 或いは、この暗く淀んだ世界から目を背けるためであったか。
ある者は余のことを「神の如きカリスマを持った軍神」だと呼んだ。 ある者は余のことを「悪逆非道を極めし暴君」だと呼んだ。
だが、それを謳う者共はもう既にこの世を去った。 そして余だけが最後に生き残り、全ての罪悪感を背負うことになった。
かつて追い求めた神々の邪悪さについて。 あるいは、余のメカが如何に「Exo」級の力を持っていたかについて。 ただ、この暗闇の中で自問自答を繰り返していた。
ふとあたりを見渡すと、死したドラゴンたちが静かにざわめいているのを感じる。 天を仰ぎ、ひときわ強く瞬く星の光を我が目に焼き付ける。
——そして、余はまた静かに目を閉じる。
『運命に導かれし者よ。世界を救いたくば、この残酷な世界を今一度制してみせよ』
◇
[データアーカイブ:設計番号 - EX-000]
[記録者:Draedon]
[対象:コードネーム“テラリアン”]
観測ログを更新する。
惑星テラリアにおける「神の欠片(オーリックソウル)」の波動検知レベルが、直近の124時間で急激な変動を見せた。驚くべきことにノクサスによって粉砕されたグーズマのオーリックソウルはまだ存在しており、8つ目のオーリックソウルとして新たな宿主と完全に同調を果しえた。
興味深い事象だ。
過去の膨大な生物学的データにおいて、人間の肉体がオーリックソウルの高負荷に耐えうる確率は0.0000000012%以下と算出されている。常人であれば肉体は焼き切れ、精神は即座に崩壊するのが論理的帰結であるはずだ。
しかし、当該個体は生存している。 そればかりか、記憶の大部分を喪失し、身体操作の基礎すら持たぬまま、この過酷な世界に放り出された。
本日、当該個体は地上部において大型群体生命体『キングスライム』との接触を果たした。 戦闘データをリアルタイムで解析。初期段階において、第8の指示による回避行動の正確性は98.4%に達していた。ここまでは予測の範囲内である。第8のソウルが肉体を外部から補正しているに過ぎない。
だが、戦闘の最終局面に至り、極めて不条理な変数が観測された。
当該個体は第8の提示した合理的撤退案(フックを用いた回避行動)を能動的に破棄。 直前に入手した未知の装備『テラグリム』の性能特性を、死線という極限の緊張状態の中で一瞬にして正確に再定義した。
「一撃離脱」から「音速の連撃」への戦術転換。
正面からの交差攻撃を成功させ、その結果キングスライムの構造は一瞬で無力化され、消滅。
統計的異常値だ。
知識も経験もない個体が、極限状態において生存確率0.03%の突撃を選択し、かつ一瞬で武器の最適解(連撃)へ到達するなど、確率論としてあり得ない。
単なる偶発的な幸運か。それとも、第8のソウルが与える未知の精神的覚醒作用か。
ふむ。極めて好ましい不確定要素だ。
暴君ヤリムは未だ玉座で深い眠りについている。災厄の魔女は呪いから解き放たれ姿を消した。 この退屈で静滅した世界に、ようやく僕の好奇心を刺激する「未定義の変数」が現れた。
コードネーム“テラリアン”。 お前がどこまでその不完全な肉体で運命のシステムに抗い、僕の最高傑作の領域へと到達できるか——
観測を継続する。
[ログ終了]