レイヴンウッドの私生児 (Reivun'uddo no Shiseiji) 作:T_rav_weezi1997
私は呪われた子として生まれた――少なくとも、それが父の口癖だった。
私の髪は茶色で、瞳は淡い緑色。そして首には、まるで刺青のようにも見える痣があった。
私の名はアッシャー・レイヴンウッド。人間王国の名門貴族に生まれた。しかし、私は庶子だった――そして父は、その事実を幼い頃から何度も何度も私に思い知らせた。
私の幼少期は、秘密に包まれていた。父、ベルゼ・レイヴンウッドは、私という存在を徹底的に隠していたのだ。実際、私の本当の出生を知っていたのは、家族以外には誰もいなかったと思う。
家族といえば、私には二人の妹がいた。二人はまだ幼く、私が庶子であることなど理解も気にもしていなかった。彼女たちにとって私は、ただの優しいお兄ちゃんだった。
一方で兄は違った。何かを命令するとき以外、ほとんど私に話しかけることはなく、私を家門の汚点としか見ていなかった。
幼い頃の私は、衛兵たちの兵舎で手伝いをしながら過ごすことが多かった。そこで剣術に強い興味を抱くようになった。
幸運なことに、ゼイク卿は私を気に入り、幼い頃から剣の腕を鍛えてくれた。彼は私を「天性の才能がある」とまで褒めてくれた。
だが、そのすべてが十六歳の誕生日に変わった。
私は父の執務室へ呼び出され、政治的な取り決めの一環として、永久にエルフ女王国へ移り住むことを命じられた。
「今日からお前の名はアッシャー・ブラックだ。人間王国の大使として友好関係を維持する役目を果たせ。だが余計な真似はするな。あの国では、お前はこの屋敷で私が生かしている庶子以下の存在なのだからな。」
私は何も言えなかった。
ただ呆然としながら、小さく頷くだけだった。
だが心の奥底では、不思議と安堵していた。
牢獄のような場所からようやく解放されるのだ、と。
唯一心残りだったのは妹たちのことだけだった。それでも、これでよかったのかもしれない。いつか彼女たちも兄と同じように私を見るようになるかもしれない。そうなる前に別れられた方が、二人との思い出は美しいまま残る。
出発はすぐだった。
命令を受けてから、わずか一週間後には荷物をまとめ、私はエルフ女王国へ向かう旅路についていた。
父が私に与えたのは、一振りの古びて錆びついた剣だけだった。
祝福された剣だという言い伝えがあるらしいが、父はそんなものは迷信だと笑い飛ばし、「ガラクタだ」と言い捨てた。
それでも私は嬉しかった。
その剣は幼い頃から私が振るい続けてきた相棒であり、それを持っているだけで、不思議と心が落ち着いた。
旅路は驚くほど平穏だった。
気がつけば私は、巨大で美しい門をくぐり、エルフ女王国へと足を踏み入れていた。
王都へ向かう道中、まず目を奪われたのはエルフたちの美しさだった。
どの女性もまるで幻想の世界から現れたかのように美しかった。
エルフ自体を見るのは初めてではなかったが、これほど多くを一度に目にしたことはない。
圧倒されるほどだった。
しかし、その感動は長く続かなかった。
「下等種が何をしている?」
「弱くて醜い人間が奴隷でもないのにここへ住むだと? 笑わせる。」
そんな言葉を浴びせられることが日常になっていった。
王宮へ近づくほど、その罵声は激しさを増していった。
私が最初に出会った人物の一人は、ミカエルという男だった。
「女王国へようこそ。私は宰相の息子、ミカエルです。どうぞこちらの人間の使用人たちについて宿舎へお向かいください。滞在をお楽しみいただければ幸いです。」
彼は丁寧な笑みを浮かべていた。
だが私は、その裏にある感情を見抜いていた。
父のもとで育った私は、人の本心を読むことだけは得意だった。
その笑顔の奥には、純粋な憎悪しかなかった。
それは王都での生活を通して、何度も目にすることになる感情だった。
そんな中、唯一私に価値あるものを与えてくれたのが、白騎士団団長ハーディだった。
彼もまた私を歓迎してはいなかった。
だが少なくとも、その感情を隠そうとはしなかった。
そして私が覚悟と努力を示す限り、彼は剣を教え続けてくれた。
その二つだけは、私は誰にも負けなかった。
五年の歳月が流れた。
ハーディ団長と白騎士団の指導のもと、私は人間として到達できる限界まで己を鍛え上げた。
外見はそれほど変わらない。
髪は伸び、短い髭を蓄えた程度だ。
だが肉体は、終わりのない鍛錬によって見違えるほど強靭になっていた。
中でもニアとキアは、実戦形式の訓練で容赦がなかった。
彼女たちは私の受け流しや回避技術を徹底的に鍛え上げてくれた。
一方、マストは剣術の基礎と、一撃の重さを教えてくれた。
長年の修練を経て、私は胸を張って言えた。
人間の中では、誰にも負けない強さを手に入れた、と。
他種族と比べれば取るに足らない力かもしれない。
それでも、私にとっては何より誇れる成果だった。
そして、ある日。
私は彼女と出会った。
生まれて初めて目にするほど美しい女性――エルフ貴族のサーシャだった。
彼女は私を見るなり、露骨に嫌悪の表情を浮かべた。
だが、その奥には別の感情も見えた。
悲しみ。
そして、誰にも理解されない孤独。
ある日の訓練帰り、私は勇気を振り絞って彼女に声をかけた。
「サーシャ様。ようやくお話しできて光栄です。以前から王宮で何度もお見かけしていました。私は人間王国の大使、アッシャー・ブラックと申します。」
彼女は、まるで私が話しかけたこと自体が信じられないというような表情を浮かべた。
やがてその表情は冷たく変わり、何も言わず立ち去ってしまった。
それでも私は諦めなかった。
むしろ、彼女と本当の意味で話がしたいという思いは、ますます強くなっていった。
何度挑戦しても失敗した。
だがある日、貴族たちの会話を偶然耳にした。
「まさか、あの半端者の女を王子の妃に迎えるとはな。」
その瞬間、私はすべてを理解した。
そして、彼女にかけるべき言葉も。
「半分しか貴族の血を引いていないというだけで、その立場に立ち続けるのは、とても苦しいことでしょう。それでも気高く、美しくあり続けるあなたは、本当に強い方です。」
その時、彼女の表情が変わった。
驚きは残っていた。
だが、そこに嫌悪はなかった。
「下等種のお前に……私の苦しみなど分かるものか。」
言葉は冷たかった。
それでも、その声には悪意がなかった。
「あなたが思うより、ずっと分かります。」
私は、自分の過去をすべて話した。
本当の名前。
本当の身分。
そして、自分が何者なのかを。
その日初めて、私たちは互いを理解し合えた。
望まれずに生まれた者同士。
孤独を知る者同士として。
それから少しずつ、すべてが変わっていった。
私は鍛錬を続け、サーシャ様との会話も増えていった。
いつしか彼女は、私を「下等種」と呼ばなくなっていた。
そして気づけば――
私は彼女に恋をしていた。
もちろん、その想いを口にすることなどできない。
人間がエルフ貴族に恋をするなど、考えただけでも処刑されかねない。
だが、そんな日々も長くは続かなかった。
ある日――
巨大魔女の塔が姿を現した。
そして私はまだ知らなかった。
あれこそが、すべての絶望の始まりだったということを。
第一章・完