レイヴンウッドの私生児 (Reivun'uddo no Shiseiji) 作:T_rav_weezi1997
第4章 ― 覚醒
私は反射的に、目の前へ差し出された青白い手へと手を伸ばした。
その手には、不思議な安心感があった。まるで、ずっと求めていたものがそこにあるかのような感覚だった。
そして、私たちの手が触れた瞬間――
まるで神々しい光に目を焼かれたかのように、眩い光が一気に私を包み込んだ。
その光が何なのか、そして自分の中に湧き上がっている感情が何なのか、言葉では到底説明できなかった。
やがてすべてが静まり、先ほどまで闇に包まれていた空間は、果てのない光の海へと変わっていた。
「ふふ……それで、あなたはこれからどうするの?」
聞き覚えのある声。
私が誰よりもよく知っている声だった。
私はもう涙を抑えることができなかった。
振り返ると――
そこには、かつてと変わらない……いや、それ以上に美しい姿のサーシャが立っていた。
そして、彼女は笑顔を浮かべていた。
私は彼女のもとへ駆け寄り、傷つけてしまうのではないかと思うほど強く抱きしめた。
「……会いたかった」
声が震える。
「でも、あなたの答えを聞かせて。これから……どうするの?」
「君を連れてここを離れたい。そして、すべてを捨てて最初からやり直したい。後悔なんて何もない……僕たち二人だけで」
それが、その瞬間に私の頭へ浮かんだ唯一の答えだった。
すべてを置き去りにして、彼女と新しい人生を始める。
彼女と再び会えたことで、私は一つだけ確信した。
私は――彼女を愛している。
「そんなことを言ってくれるなんて嬉しいわ。私もそれ以上望むものなんてない。アッシャー……そんな未来、とても素敵ね」
サーシャは微笑んでいた。
だが、その声にはどこか違和感があった。
不気味なほどに。
私は彼女を抱きしめたまま顔を上げた。
そして――
恐怖に襲われ、後ずさった。
足がもつれ、その場に尻もちをつく。
私の目の前にいたのは、もう私が愛した美しいエルフではなかった。
顔は焼けただれ、無数の傷に覆われている。
身体もまた、見る影もないほど歪んでいた。
「あなたには私を救えない」
それはサーシャの姿をしていた。
しかし、決してサーシャではない。
「あなたは弱すぎる。私を救えるほど強くない」
その声は、私を責め立てるようだった。
一言一言が、胸の奥へ突き刺さってくる。
「いいえ……」
「あなたは私を愛してすらいない。だから、私を救おうとすることさえできない」
「違う……」
私は必死に言葉を絞り出した。
「これは現実じゃない。お前は本物のサーシャじゃない」
深いところでは分かっていた。
本物のサーシャは連れ去られた。
そして、その行方は今も分からない。
「お前は僕の妄想が生み出した幻にすぎない!」
私は立ち上がった。
「僕はサーシャを救う! そして、二人で話した平穏な人生を必ず手に入れる!」
胸の奥で、何かが燃え上がった。
「彼女を守る。たとえ、この命を犠牲にすることになっても!」
その瞬間、目の前の存在が再び口を開いた。
「まだそんなに弱いのに……誰かを救えると思っているの?」
その姿は徐々に崩れ始めた。
溶けるように消えていき、最後には何も残らなかった。
「自分自身すら救えないくせに……愚かな子供ね」
――別の声がした。
背後から。
聞き覚えのある声だった。
振り返る。
そこに立っていたのは――父だった。
そして、その隣には兄の姿があった。
「お前は昔から呪われた子供だった」
父が冷たく言う。
「何度そう言ったと思う? あれは全部、本当だったんだ」
その言葉が、まるで剣のように私の胸を貫いた。
「お前はいつだって失敗作だった。そして家の恥だ」
兄が続ける。
「お前は、我々の家名にまとわりつく汚点でしかない」
「妹たちはまだ幼いから理解していないだけだ」
父の言葉が続く。
「いずれあの子たちも成長すれば、お前を他の誰とも変わらない目で見るようになる。お前はただの呪われた疫病だ。ラヴェンウッドの名を腐らせるだけの存在だ」
彼らが本物ではないことは分かっていた。
それでも――
胸の奥から湧き上がる怒りを抑えることはできなかった。
裏切られたという感情。
一度も本当に自分を大切にしてくれなかったという憎しみ。
結局、私は父にとって都合のいい身代わりでしかなかった。
「お前の腹にその剣を突き刺して、捻り込んでやる!」
私は二人を睨みつけた。
「そして、お前たちが死ぬまでの苦痛を一秒残らず見届けてやる!」
「二人とも、俺が抱えている憎しみを……その身で味わえ!」
その言葉と同時に――
父と兄の姿もまた、醜く歪み始めた。
そして、先ほどのサーシャと同じように、何も残さず溶けて消えていった。
すると突然――
黄金の光に包まれた女性のようなシルエットが、私の前に現れた。
その存在は、穏やかでありながら、強い意志と威厳を感じさせる声で語りかけてきた。
「あなたが夢見るすべてを……それ以上のものさえ、手に入れることができるわ」
その存在が、私へ手を差し伸べる。
「必要なのは、手を伸ばして受け入れることだけ」
「あなたが望むものは、すべて手の届くところにある」
「私をあなたの導きの光としなさい。そうすれば、あなたが望むものすべてを手に入れる力を与えましょう」
私の頭に浮かんだのは、ただ一つ。
サーシャ。
彼女が無事なのか確かめたい。
そして、彼女が今どんな苦境に置かれていたとしても、必ず救い出したい。
何を犠牲にしてでも。
そして――
もう一つ。
父。
父は私を身代わりにして、何もなかったかのように自分の人生を続けようとしている。
そして兄、カレン。
兄は昔から、私を人間として扱う価値すらない犬のように見下していた。
あいつが私を大切にしたことなど、一度もない。
ならば、父の計画に協力していたとしても不思議ではない。
むしろ、私を利用する計画を父にけしかけていた可能性すらある。
私は彼らに復讐したい。
そして、サーシャを救いたい。
彼女がどんな苦痛にさらされているのだとしても。
「受け入れる!」
私は黄金の存在へ向かって叫んだ。
「代償が何であろうと構わない!」
「俺は自分の正義を取り戻したい!」
「俺が味わった悲しみも、苦しみも……そのすべてを奴らに味わわせたい!」
「そしてサーシャを救う!」
「彼女がずっと夢見ていた幸せな人生を、必ず守ってみせる!」
私は叫んだ。
「だから教えてくれ! お前は俺に何を望んでいる!」
黄金の存在は静かに答えた。
「あなたが望むすべては、あなたが歩み続ける先で明らかになり、そして成し遂げられるでしょう」
再び、黄金に輝く手が差し出された。
「もう一度、この手を取りなさい」
「そうすれば、真の力というものが何なのか理解できるでしょう」
「あなたは時間とともに、さらに強くなる」
そして、その声は少しだけ厳しくなった。
「ただし……今すぐサーシャを探してはいけません」
「新たな力を得たとしても、あなたはまだ、待ち受ける深淵へ挑む準備ができていない」
「前へ進みなさい」
「そして、あなたが復讐を望む者たちを探しなさい」
「十分な力を得たその時……あなたはそのダンジョンへ入り、望むものを手に入れるのです」
私はゆっくりと、その手へ自分の手を伸ばした。
触れる直前――
凄まじい力を感じた。
魔力なのか、それとも別の何かなのか。
私には分からなかった。
そして――
手と手が触れた瞬間。
凄まじいエネルギーが、全身を駆け抜けた。
これまで感じたことのない力だった。
言葉では到底表現できない。
そして次に意識を取り戻した時――
私はもう、あの光に満ちた場所にはいなかった。
森に戻っていた。
先ほどまで剣で貫かれ、矢を受けていた場所。
しかし――
傷は消えていた。
痛みもない。
「おや……まだ戦う力が残っていたか」
聞き覚えのある声がした。
あのエルフの指揮官だった。
「さあ、さっさと始末しろ。もしかしたら褒美が出るかもしれんぞ」
指揮官が、近くにいた数人の兵士の一人へ命じる。
兵士がゆっくりと私へ近づいてくる。
その時だった。
私の隣に何かが落ちていることに気づいた。
――剣。
かつて錆びついていた、あの剣だった。
だが、今の姿はまるで別物だった。
漆黒の刀身。
そこには、深紅の文字と紋様が刻み込まれていた。
まるで刀身そのものが、内側から力を放っているようだった。
私は手を伸ばし、その剣を掴んだ。
手が触れた瞬間――
分かった。
自分の中で目覚めた力が、この剣にも宿っている。
兵士が剣を振り上げる。
そして、私へ向かって振り下ろした。
その瞬間――
赤い稲妻のような閃光が走った。
私は一瞬で兵士の背後へ回り込んでいた。
そして、剣を振り抜く。
まるでバターを切るかのように、兵士の身体を一閃した。
私はゆっくりと振り返った。
残りの三人の兵士は、完全に凍りついていた。
その顔には、明らかな恐怖と驚愕が浮かんでいる。
しかし――
指揮官だけは違った。
彼は感情のない表情で、私を見つめていた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「これは……驚いたな」
彼は剣を握り直した。
「面白くしてくれて感謝するべきかな」
そして――
不敵な笑みを浮かべた。
「劣等種が必死に抵抗してくれる方が……俺は好きなんだよ」
第4章 ― 完