レイヴンウッドの私生児 (Reivun'uddo no Shiseiji) 作:T_rav_weezi1997
第5章 ~新たなる決意~
「おお、なんと興味深い。実に興味深いな。貴様のような忌々しい劣等種が、この私に対してほんの僅かでも抵抗を見せるとはな。」
エルフの指揮官は、冷たく満足げな笑みを浮かべながら言った。まるでアッシャーの反抗など、ただの珍しい見世物に過ぎないかのようだった。
「私がこれほど苦痛のない死を与えてやったというのに、たかが人間ごときが生き延びるとは……実に腹立たしい。だが、生き残ったことを勝利と勘違いするな。次に貴様を殺す時は、己の死の一瞬一瞬を理解できるほど、ゆっくりと苦しませてやろう。」
その言葉から愉悦が消え、むき出しの憎悪へと変わった。
「そうだな……この私、アリエル・アルイエル卿自らが、貴様を生きたまま王都へ引きずり戻してやろう。貴様が自分の身の程を忘れたすべての劣等種への見せしめとなるよう、十分に息をさせておいてやる。お前たち三人、奴を捕らえろ。」
指揮官が言い終えると、残った四人の兵士たちは即座に命令に従い、アッシャーへと近づいていった。
アッシャーは黙ったまま立っていた。
まるで、自分が攻撃する番をただ待っているかのように。
二人の兵士が正面から迫り、剣を抜いてアッシャーへと斬りかかった。
再び、黒い稲妻が走ったかのように、アッシャーはその斬撃をかわす。
そして、今や黒と深紅に染まった剣を滑らかに振り抜いた。
右側にいた兵士の首が、一瞬で胴体から離れる。
その勢いのまま剣はもう一人の兵士の腹部へと食い込み、完全に身体を切り裂いた。
二人の兵士は、その場に倒れ、絶命した。
それを目にした残りの二人は、足を止めた。
そして振り返り、逃げようとした。
しかし――
「――見苦しいな。」
指揮官が二人を斬り払った。
二人の兵士は、瞬く間に命を奪われた。
指揮官は再びアッシャーへと振り返る。
「幸運な劣等種ごときから逃げ出すとは、誇り高きエルフの男として、なんと情けないことか。貴様らは自らの名誉を汚したのだ。ゆっくりと死ぬ恥を味わわずに済んだことを、せいぜい私に感謝するんだな。」
指揮官はアッシャーを睨みつけた。
「さて……坊や。覚悟するがいい。これから貴様に、本当の力というものを見せてやろう。光栄に思え。これまで忌々しい人間どもの前で、この力を使う必要など一度もなかったのだからな。」
そう言うと、指揮官はシャツの下から黄金の護符を取り出し、短く、聞き覚えのない祈りを唱えた。
祈りが終わった瞬間、彼の鎧から黄金のオーラが放たれ始めた。
同じ輝きが彼の長剣を包み込み、その刀身は完全な黄金色へと変化する。
そして、剣からは冷たい蒸気が立ち昇っていた。
「ああ、そうだ。誰にも分からんことだが……もし奴らがようやく貴様に死を許した時、あの忌々しい雑種のサーシャが地獄で貴様を待っているかもしれんな。きっともうあそこにいるだろう。自分が属するべき化け物どもの中で、腐り果てながらな。」
その言葉と共に、指揮官は黄金の剣を手にして突進した。
彼はすでにアッシャーの次の動きを予測していた。
アッシャーが攻撃をかわす、その瞬間を狙うつもりだった。
しかし――
予想に反し、アッシャーは動かなかった。
黄金の剣がアッシャーの肩へと食い込む。
だが、そこから流れ出したのは血ではなかった。
黒い液体だった。
そして次の瞬間――
その液体が硬化し、指揮官の剣をアッシャーの肩へと完全に閉じ込めた。
アッシャーは深紅の剣を振り上げる。
そして、無数の斬撃を放った。
一撃一撃には、指揮官を殺さない程度の力しか込められていない。
――意図的に。
アリエル・アルイエル卿の身体が地面へと叩きつけられる。
彼は着地した瞬間、口から血を吐き出した。
「な……なんだ貴様は?! 貴様は一体、どんな呪われた劣等種なんだ?!」
指揮官が叫ぶ。
その声は、初めて本物の恐怖によって震えていた。
アッシャーがゆっくりと近づきながら、口を開く。
「なあ……一つだけ、あんたの言う通りだったことがある。」
倒れた指揮官を見下ろす。
「俺は子供の頃からずっと、呪われた子供だと言われ続けてきた。」
アッシャーは剣を握る手に力を込めた。
「俺が家族に、そして周りにいる人間すべてに、闇をもたらす存在だってな。」
「何か悪いことが起きるたび、まるで俺が原因であるかのように見られた。誰かが苦しむたびに、それが俺のせいなんだと、必ず思い知らされた。」
アッシャーは、自分自身の手へと視線を落とした。
「だが……今ほどはっきりしたことはない。」
「これは呪いなんかじゃない。」
指がゆっくりと剣の柄へと絡みつく。
「俺に与えられた……力だ。」
「なぜ俺に与えられたのか。それだけは、まだ分からないけどな。」
アッシャーは指揮官の胸元へ剣を突きつけた。
「だが、あんたは一つ間違えた。」
その瞳が細くなる。
「俺が必死に守ってきたものを、全部奪おうとしたことだ。」
指揮官はアッシャーを見上げていた。
その顔から、これまでの傲慢さは完全に消え失せていた。
「俺が大切に思っている人間のことを侮辱した。」
「そして、自分自身がどれほど哀れで弱い存在なのかも知らずに、俺を侮辱し続けた。」
アッシャーは剣を彼の胸へと押し当てた。
「……あんたは間違っていた。」
声が、囁きへと落ちる。
「俺には……あんたにくれてやる慈悲なんてない。」
アッシャーは一瞬だけ沈黙した。
「お前たちは皆、同じなんだな。」
「人を傷つけ、それを正義と呼ぶ。そして、傷つけられた人間に感謝されることまで期待する。」
アッシャーは黙り込んだ。
指揮官――アリエル・アルイエルが、必死に声を絞り出す。
「頼む、待――」
アッシャーはエルフの胸へと剣を突き刺した。
黒い物質が指揮官の身体へと流れ込む。
彼は苦しみに悶え始めた。
そして数瞬後。
そこに残されていたのは、かつて強大な力と傲慢さを誇っていた高位エルフの姿ではなかった。
そこにあったのは、崩れ落ちた黒く血まみれの骨だけだった。
まるで、長い間アッシャーの肩にのしかかっていた重圧が、一気に取り払われたかのようだった。
――それでも。
胸の奥には、沈み込むような感覚が残っていた。
空虚さ。
彼は勝った。
だが、その勝利は何一つ答えを与えてはくれなかった。
サーシャは未だ行方不明。
正確な居場所も分からない。
家族は、東の地平線の向こうで今も待ち続けている。
そして、自分の中で目覚めつつある力は、未だ謎に包まれている。
それが危険なものであることだけは、嫌というほど分かっていた。
もし感情だけで考えるなら、できるだけ早くサーシャを助けたい。
だが、どうやって助ければいいのか、その始め方すら分からない。
次に頭へ浮かんだのは、人間王国へ向かい、父と兄に立ち向かうことだった。
だが、それについても今の時点では決心がつかなかった。
「……くそっ。」
盲目的に王都へ突っ込むことなどできない。
かといって、自分を「呪い」と決めつけた家族のもとへ戻ることも、自分が一体何者へと変わったのかを理解するまではできなかった。
今の彼に残された道は――東へ向かうことだけだった。
アッシャーは倒れた者たちの身体を調べ、隠せる証拠を可能な限り隠した。
そして、戦場を後にする。
目立たぬように行動し、人間王国へ辿り着く。
そして、サーシャを救う方法を決める前に、自分が必要とする答えを見つけ出す。
だが、東へ続く道が静かなままであるはずもなかった。
エルフたちは、間もなく自分たちの指揮官が死んだことを知るだろう。
そして、女王国から提出された最終報告書には、すでにアッシャーが敵として記されている。
アッシャーが人間王国へ辿り着くよりも先に、彼を追う者たちが現れる。
――そして次に来る者たちは、彼がその身に宿す「闇」に対して、すでに備えているかもしれない。
その考えを胸に抱えながら、アッシャーは人間王国へ向かって東へ歩き始めた。
彼はまだ知らなかった。
その一歩一歩が、自らの家族へ。
敵へ。
そして、たった今生き延びた戦いよりも遥かに大きな争いへと――
自分を近づけていることを。