石の世界で農業チートしてたら比べ物にならん程のチートがワラワラ湧いてきた件 作:史上最強のラーメン
コハクが連れてきたという余所者は村の外にあるクロムの住処にいた。
クロムは村の外に住み、日夜妖術の研究に励む変わり者だ。村の人間は原理の不明なものを全て妖術とみなして拒絶するきらいがあるため、白い目で見られがちな男だった。
スイショウは、クロムの研究はルリの病を治すために行なっているものだと知っているため、共にルリを大切に想う者として好ましく思っていた。本人も少々声がやかましいが快活な良いやつである。スイショウとクロムは、2人で時折素材集めの旅に出たり、村の職人が多忙の際、農具の簡単なメンテを頼るような間柄だった。
この場には、そんなクロムとコハク、そして、目つきが鋭く独特なヘアースタイルをした男がいた。
「スイショウにスイカじゃないか。どうしたのだ?」
「村の外から来た人のことが気になって見にきたんだよ」
このルリによく似た女性は、名をコハクと言いルリの実妹だ。ルリは病弱でお淑やかでお上品だが、コハクはその逆。身体能力お化け、脳みそ筋肉、お転婆のゴリラだ。
「なんであいつ殴られてんだ?」
「気にすんな千空、よくある光景だ」
何故かスイショウの考えを見透かして、頭にたんこぶが出来るくらいの拳骨を喰らわせてくるもう1人の姉のような存在、それがコハクだ。
コハクは昔からスイショウに戦闘技術を叩き込んでいた。
『踏み込みが甘い!』
『ハッ、中々いい肩をしているな。だが弱い!』
『隙だらけだ!』
『スイカを守るのではなかったのか!』
『そんなものではクマからスイカを守れないぞ!』
『キミはスイカが───』
『何言ってんだおまぇ!!!』
このように、コハクはよく分からないことを宣いながら稽古をつけてくる戦闘の師匠だった。
そんな無茶苦茶な存在だったが、スイショウに狩りの作法を教え、度々食用の猪や家畜実験用の鳥を生け捕りにしてきてくれる大助かりの存在だったため、スイショウもあまり文句を言うことはできなかった。
「ようスイショウにスイカ。この千空がルリの病気治す方法知ってるっつーんだよ」
「なに!?ルリ姉の病気を治せるのか!?」
村の外からやってきた余所者の名は千空と言い、千空は3700年前の人間で最近まで石像になっていたらしい。
千空の目的は、石像になってしまった全ての人間を元通りにして文明を復活させることなんだそうだ。そのために石化復活液なるものを開発したらしいのだが、最初に目覚めさせた獅子王司という人間が老人皆殺し計画をはじめてしまい、その科学力を危険視された千空は殺されかけ、なんとか逃げる途中にコハクと出会いこの村に辿り着いたらしい。
3700年前の世界はそれはもう栄えていたようで、千空はこの原始世界では持て余すレベルの知識を大量に保有しているそうだ。そしてその知識の中にルリの病を治せるであろう知識があるということで、クロムとコハクは千空に協力してるようだ。
「おう!だから2人も協力してくれねーか?」
「やるやる!手伝う手伝うー!」
「スイカもお役に立つんだよー!」
「そいつはおありがてぇ。今からやる鉄集めはチビの方が超絶有利だ。手伝ってくれるっつーんなら遠慮なくこき使わせて貰おうじゃねぇか。よろしく頼むぜスイカ、スイショウ」
スイショウとスイカが仲間になった。
千空曰く、ルリの病を治すためには沢山の種類の素材集めと製造が必要らしい。スイショウは千空が地面に書いたというロードマップを見る。鉄、ガラス、硫酸...様々書いてあるがその全ての先にサルファ剤と記してあった。
ルリの病を治すことが最優先事項だが、鉄やガラスなどを開発できれば石神村の文明はもっと栄え、飢饉なども防げるようになるだろう。この千空という男に協力することは、スイショウにとってメリットしかなかった。
「まずは鉄を作る!つっても簡単じゃねぇが、これがあるだけで文明のレベルが爆上げだ。早速川に行くぞ!」
『おーーー!!!』
千空の呼びかけに、スイショウ達石神村勢は元気な声で応じる。今ここに科学王国が誕生した。
〜〜〜
千空を筆頭に科学王国民は、村近くの川で磁石を用いて砂鉄を採取していた。
千空が言った通り、前かがみになりながらの作業だったため背の小さなスイショウとスイカがよく活躍した。2人は普段から農作業にて同じような姿勢をとることが多いため、尚のこと即戦力だった。
その様子を見ていた千空とクロムがサボりはじめ、コハクが叱責する。スイショウとスイカも水をかけ合い、遊びはじめてしまったため砂鉄取りは一時中断となった。
そしてスイカが、スイカモードになって川を下るという一発芸を見せた。
「どんぶらこ〜どんぶらこ〜!」
「桃太郎かよ!」
クロムのキレのあるツッコミに、千空が反応を示した。
「あ゛ぁ?クロムテメー、なんで桃太郎なんか知ってやがる」
「ルリに聞いたんだよ。桃太郎がクマとワニとライオンとゴリラを吉備団子で仲間にしたんだろ?」
「なんだそりゃ全然ちげぇわ!なんだその物騒な桃太郎!...いや、危険な動物を物語にして伝えてんのか?」
確かにスイショウの記憶にある桃太郎は、詳細は虫食いで分からないのだが親が幼い子に読み聞かせる物語だ。クマやライオンなど、そのような危険な動物を従えていたら桃太郎の敵対勢力は血祭りに上げられてしまうだろう。幼い子に読み聞かせる話としては少々違和感を覚えてしまう。
「ククク、俄然そのルリって女に興味が湧いてきやがった」
「っ!なんだルリに興味って。どういうことだ千空?」
「あ゛?」
「千空、千空先生。クロムは恐らくルリ姉に惚れているのだ。クロムは中々にお子ちゃまでな。無自覚なのがまた尊い」
「あ゛ぁ〜、そういうことか」
クロムと比較的仲の良い人間の間では周知の事実だが、クロムはルリのことを無意識に好いている。
コハクと千空に生暖かい視線を向けられ、クロムは憤慨していた。
「クロムとルリ姉といえばスイショウ、キミはどうなのだ?」
「なんのこと?」
「スイカのことを好いているのか?」
「本当女は好きな、そういう話。スイカは妹みたいなもんだよ」
「えー!それは違うよ!スイショウの方が弟なんだよ!」
「いや俺よりチビじゃん!」
「身長は関係ないんだよー!」
「私からしたら2人とも同じようなものだな!めっぽう可愛いぞ2人とも!」
「口じゃなく手動かせーチビ共とメスライオンー」
「メスライオンいうな!」
ある程度の量の砂鉄を集め終え、クロムの住処のある拠点に戻った。今度は製鉄作業だ。鉄を溶かすためには1500℃近くの炎がいるらしく、科学王国民総出で火に酸素を送ったがこれが腕が取れるかと思う程の重労働で、日の暮れまで頑張ったが鉄を溶かすことができなかった。
現在、科学王国のリーダーである千空を中心に夕食をとりながら対策会議中である。
「人だ!マンパワーがいる!どうにかして科学王国民増やすぞ!!」
「マンパワーが必要なら畑のメンバーを呼ぶのはどうなんだよ?」
「カブシキガイシャスイショウファームだったか?スイショウがやってる畑仕事」
「スイショウはたまによく分からない言葉を使うな」
畑仕事が軌道に乗ってきた頃から、スイショウは村長やその他の村人から人手や道具などの支援を受けるようになった。それを利用し効率的に作物を育て、出来上がった成果物を支援をしてくれた村人達を中心に還元していた。
そんな畑の運営形態が記憶に見た株式会社というシステムにそっくりだったため、スイショウは自身の畑仕事のことをふざけて、『株式会社スイショウファーム』と呼んでいた。
筆頭株主が村長であるコクヨウ、社長はスイショウ、社員がスイカ達、小株主がその他村人といったところか。
「株式会社だぁ?スイショウテメー、なんでそんなこと知ってやがる?」
まさか、記憶を基にふざけて名付けた会社名で窮地に陥るとは思ってもいないスイショウであった。
「ル、ルリ姉に教わったんだよー」
「そうかルリか!それなら納得だな!」
「マジで何モンだ?また聞かなきゃなんねーことが増えやがった」
「ゴメンルリネエ」
ルリは村伝承の、『百物語』という話をよく村の子供達にしている。スイショウが記憶の中に見た桃太郎のお伽話やスピーカーの話など、本来原始の村人が知らない筈の知識を持っているため、スイショウは敬愛する姉同然の存在を隠れ蓑にしたのだ。
前世らしき記憶があることは、出来るなら話たくはない。少なくとも話して得になることが思い浮かばない。
最も、この男にならば前世の記憶らしきものがあることを話したとしても、『唆るぜ!』とか言って面倒には至らなさそうではあるが。
「うちの人員は使えないな。俺が業務命令すれば手伝ってくれるだろうけど、村長筆頭に皆んな千空が余所から来たってことで警戒してるし、途中で村長からストップがかかりそう」
「なるほど。テメーが命令する形じゃなく、そいつらに進んでやらせなきゃなんねーっつーことか」
業務命令として労働者の意に反して無理矢理従わせることも出来なくはないが、パワハラで村長に訴えられると困る。
コンプラという概念の無い原始世界だが、村での人間関係がギスる。
「金狼銀狼はどうだ?」
「銀狼はいい、だが金狼がな」
金狼と銀狼は村の門番である。双子の兄弟で金狼が兄、銀狼が弟だ。金狼はルールを絶対遵守する人間で、対して銀狼はチャランポランなゲスだ。銀狼は早くも科学王国に靡いているらしいが、金狼はやはり難しいらしい。
「スイショウがシャチョウパワーで頼めばいいんだよ!」
「確かに俺は社長だが、あの2人は村長の直下だしな。それに権力関係的にはコハク、俺、スイカ、クロムの順だからコハクが頼んだ方がいけると思うよ?」
「俺が最下位かよ。流石にスイカとは同率だろ」
「...スイカはウチの労働力として周知されてて、クロムは村の外に住むよく分からん妖術使いって認識されてるから発言力の差は明確なんだ、すまんけど」
「マジかよ...」
クロムは基本的に村の外の拠点で生活しており必要な時にしか村には来ない。
対してスイカは村の重要事業に携わる一員だ。スイショウとの個人的な繋がりも深いため、スイカを通してスイショウに話がいくことも稀にあるのだ。スイショウも内心、『お役に立ち過ぎだわ』と思う程に村に貢献している。
クロムとスイカの村内における権限は、比べるまでも無かった。
「クロムが村ヒエラルキーダントツ最下層の雑魚村人っつーことはよぉく分かった」
「ひでぇなおい」
「マンパワー増やすのなんざ、考えりゃ簡単なこった。クラフトすんぞ、超絶唆りまくる科学アイテム...!」
悪い顔をして笑う千空。結成したばかりの科学王国民は、その表情を見て頼もしさと同時に一抹の不安を感じたのだった。