ハピネスチャージプリキュア!夕映えのアーベント 作:Leona
第11話『謎のメッセージ! キュアハニーの秘密!! /知らないことと、聞けないこと』
朝のぴかりが丘学園。愛乃めぐみが自分の下駄箱を開けると、一枚の黄色い封筒が上履きの上へ落ちてきた。
「何これ?」
封筒の中央には、小さな蜂蜜壺のような絵が描かれている。差出人の名前はない。めぐみが裏返していると、隣の下駄箱からひめの声が上がった。
「めぐみ! 私のところにも入ってる!」
「ひめも?」
「怪しい……」
ひめは黄色い封筒を両手で持ち、目を細めた。
「こういうのって絶対、何かの罠だよ」
「昨日まで占いを信じすぎてた人が、今日は疑いすぎだな」
後ろから来た誠司が呆れたように言う。少し遅れて悠も下駄箱を開けたが、そこにも同じ黄色い封筒が入っていた。
「赤石くんにも!?」
「僕も関係者らしいね」
「ますます怪しい!」
ひめは封筒を耳元で振った。
「中から変な音はしない……」
「爆発物なら振らない方がいいと思うよ、白雪さん」
悠に指摘され、ひめの動きが止まる。
「そういう怖いこと先に言ってよ!」
「普通の紙だと思うけど」
「じゃあ言わないで!」
四人が揃って封筒を開けると、中には短い文章が書かれていた。
『放課後、ぴかりが丘公園の丘まで来てください。お腹を空かせておくこと。──H』
「H……」
めぐみの目が輝く。
「ハニーだよ!」
ひめも同時に叫んだ。
「ゆうこじゃん!」
二人が顔を見合わせる。
数秒の沈黙。
「……もう正体知ってるんだった」
ひめが肩を落とした。
誠司は手紙を覗き込む。
「本人に聞けば早いだろ」
「そうだよ!」
めぐみは教室へ向かおうとして、廊下の向こうから歩いてきたゆうこを発見した。
「ゆうゆう!」
「おはよう、めぐみちゃん」
ゆうこが微笑む。
めぐみは黄色い封筒を突きつけた。
「これ、ゆうゆうでしょ?」
「何のこと?」
「顔がちょっと笑ってる!」
「そうかな?」
「絶対そうだよ!」
ひめも自分の封筒を見せる。
「正体を知ってる相手に匿名で手紙を送る意味ある?」
ゆうこは少し考えた。
「放課後になったら分かるんじゃないかな」
「認めた!」
「まだ何も言ってないよ」
ゆうこはそう答えると、自分の教室へ向かって歩き始めた。
ひめはその背中を見送りながら腕を組む。
「怪しい」
「昨日まで毎日一緒にごはん食べてた大森さんだよ」
悠が言う。
「それと怪しいのは別!」
「白雪さんは、知っている人ほど疑うんだね」
「赤石くんは、もう少し人を疑った方がいいんじゃない?」
「僕はかなり疑っている方だと思う」
誠司が二人の間へ入る。
「朝からやってないで教室へ行くぞ」
悠は黄色い封筒を鞄へしまった。自分へまで手紙が届いた理由は分からない。
プリキュアではない自分を、ゆうこはなぜ呼んだのか。
少しだけ気になった。
★★★
放課後、五人は指定されたぴかりが丘公園の丘へ向かった。なだらかな斜面を登り切った先には、町を一望できる芝生の広場がある。
そこにはすでに、大きな敷物といくつもの重箱が並べられていた。
中央で、ゆうこが両手を広げる。
「いらっしゃい」
ひめはしばらく無言で光景を見つめた。
「……これだけ?」
「うん」
「謎のメッセージの正体が、ピクニック?」
「お腹を空かせてきてって書いたでしょう?」
「学校で普通に言ってよ!」
ゆうこは困ったように笑う。
「キュアハニーとして、ちゃんと話したいことがあったから。少し特別にしたかったの」
その言葉で、めぐみとひめの表情が変わる。
誠司は敷物の端へ座りながら、重箱を一つ開けた。中には色とりどりのおにぎりや卵焼き、煮物、唐揚げが詰められている。
「話の前に食べるのか?」
「先に食べよう」
ゆうこは即答した。
「お腹が空いたまま大事な話をすると、途中でごはんのことを考えちゃうから」
「それはゆうこだけじゃない?」
ひめが言う。
「ひめちゃんも朝から『何が入ってるんだろう』って三回言ってたよ」
「聞こえてたの!?」
めぐみはすでにおにぎりへ手を伸ばしている。
「いただきまーす!」
「めぐみちゃん、みんなが座ってからね」
「あっ」
慌てて手を戻すめぐみを見て、誠司が笑った。
悠は敷物の端で少し迷ったが、前のように「自分は帰る」とは言わなかった。ゆうこが自分の前へ小さめのおにぎりを置く。
「赤石君のは少し小さくしてあるよ」
「どうして?」
「急にたくさん食べるより、ゆっくり食べた方がよさそうだから」
「大森さんは、僕の食事量まで分かるようになったの?」
「まだ分からないよ。だから様子を見ながらなの」
ゆうこは当然のように答えた。
全員が食べ始めてしばらくすると、ひめが我慢できなくなったように箸を置いた。
「それで、ハニーの秘密って何?」
「ひめちゃん、早いね」
「もうおにぎり二個食べたから大丈夫!」
「基準が分からない」
誠司が呟く。
ゆうこは自分の膝へ手を置いた。
「昨日、私がキュアハニーだって話したでしょう?」
「うん!」
めぐみが頷く。
「でも、どうしてプリキュアになったのかは話してなかったなって思って」
ひめも姿勢を正す。
「それは聞きたい」
ゆうこは少し空を見上げた。
「私ね、最初からすごい理由があったわけじゃないの」
めぐみが瞬きをする。
「そうなの?」
「うん」
ゆうこは小さく笑った。
「大森ごはんに来る人って、いろんな人がいるでしょう? 仕事で疲れてる人、喧嘩してる家族、試験に落ちて落ち込んでる人。すごく嬉しそうな人もいるし、一人で静かに食べたい人もいるの」
ゆうこは重箱へ視線を落とす。
「でも、みんな何か食べて、少し休んで、それから帰っていくんだよね」
「それがプリキュアと関係あるの?」
ひめが尋ねる。
「あると思ったの」
ゆうこは頷いた。
「幻影帝国が来たら、普通にごはんを食べることもできなくなるでしょう。家へ帰れなくなったり、家族と一緒に食べられなくなったりする人もいる」
ひめの表情が僅かに曇る。
ブルースカイ王国を思い出したのだ。
ゆうこはその反応へ気づいたが、そこで話を止めなかった。
「だから守りたいと思ったの。大きな夢というより、みんなが普通に『いただきます』って言える毎日を」
めぐみの顔が明るくなる。
「ゆうゆうらしい!」
「そうかな?」
「すっごくゆうゆうだよ!」
「確かに」
ひめも頷く。
「でも、どうして最初から私たちに言わなかったの?」
「一人でもできると思ってたから」
ゆうこの返事は簡単だった。
「それに、めぐみちゃんとひめちゃんが二人で頑張ってるところへ、私が急に入っていいのかなって少し迷ってたの」
めぐみはすぐに身を乗り出す。
「いいに決まってるよ!」
「今は分かってるよ」
「じゃあ最初から聞いてよ!」
ひめが言う。
「そうだね」
ゆうこは素直に頷いた。
「今ならそう思う」
悠は会話を聞きながら、手の中のおにぎりを見ていた。
一人でできる。
自分が入れば相手を巻き込む。
だから話さない。
理由の形だけなら、どこか似ている。
しかし、ゆうこは自分から考えを変えた。
「大森さん」
悠が呼ぶ。
「何?」
「どうして途中で、一人ではなく三人で戦おうと思ったの?」
ゆうこは少し考えた。
「一人でできないから、ではないかな」
「違うの?」
「一人でできることもあるよ」
ゆうこはめぐみとひめを見る。
「でも、一緒にやった方がいいこともあるって分かったの。私だけなら思いつかないことを、二人がやってくれることもあるし」
ひめが得意そうに胸を張る。
「でしょ?」
「ひめちゃんは思いつく前に動くこともあるけどね」
「そこは言わなくていいじゃん!」
「めぐみちゃんも」
「あたしも!?」
二人が抗議すると、ゆうこは笑った。
悠はもう一度尋ねる。
「自分の秘密を話すことで、危険が増えるとは思わなかった?」
今度は、ゆうこがすぐには答えなかった。
「思ったよ」
悠が顔を上げる。
「プリキュアだって知られたら、みんなを巻き込むかもしれない。でも、黙ってても一緒にいるなら、危ない時はあるでしょう?」
「うん」
「だったら、知っててもらった方が助けを頼めることもあるかなって」
ゆうこは、そこで悠へ結論を押しつけなかった。
「私はそう思っただけだよ」
「僕にも同じようにしろとは言わない?」
「言わないよ」
ゆうこの答えは穏やかだった。
「赤石君の秘密が何なのか、私は知らないもの」
それは、めぐみの「怖いかどうかもまだ分からない」という言葉と似ていた。
分からないものを、先に全部理解したふりはしない。
悠は小さく頷いた。
「ありがとう、大森さん」
「どういたしまして」
ひめが二人を交互に見る。
「何か最近、赤石くんってゆうこと話す時だけ質問が多くない?」
悠が止まる。
「そうかな」
「そうだよ」
「ひめちゃん」
ゆうこが少し困ったように笑った。
「赤石君が聞きたいなら、聞いていいんじゃないかな」
「別にダメとは言ってないけど」
ひめはおにぎりを一つ取りながら、悠へちらりと視線を向けた。
「私にも聞いていいんだからね」
「白雪さんに?」
「その『何を聞けばいいの』みたいな顔やめて!」
悠は本当に何を尋ねればよいのか分からなかった。
★★★
食事が一段落すると、ゆうこは小さな籠を取り出した。
中には、透明な包みに入った黄色い飴が並んでいる。
「これもハニーの秘密?」
ひめがすぐに手を伸ばす。
「食べてもいい?」
「一個ずつね」
ひめは飴を口へ入れ、目を輝かせた。
「甘い!」
「蜂蜜味だよ」
めぐみも一つ食べる。
「おいしい!」
誠司は包みを眺める。
「普通の飴なのか?」
「大森ごはんで作った蜂蜜入りの飴だよ。プリキュアの道具じゃないの」
「普通なんだ」
ひめが少し残念そうに言う。
「普通でも、おいしいよ」
ゆうこは笑った。
悠も一つ渡される。
「赤石君もどうぞ」
「ありがとう」
悠は包みを開き、飴を口へ入れた。直接の動力にはならない。それでも甘味が舌へ広がると、緊張していた身体が僅かに緩む。
「どう?」
「甘いね」
「蜂蜜だからね」
「さっき白雪さんも同じ感想だったよ」
「悪かったね!」
ひめが反応する。
その時、リボンが空から飛んできた。
「皆さーん! 大変ですわー!」
勢いよく飛び込んだリボンは、敷物の上の重箱へ突っ込みそうになり、急停止する。
「危ない!」
ひめが重箱を抱える。
「食べ物を守る方が先ですの!?」
「リボンは飛べるでしょ!」
「そういう問題ではありませんわ!」
めぐみが立ち上がる。
「どうしたの?」
リボンは息を整える。
「町の方で、サイアークの反応ですわ!」
悠もほぼ同時に胸へ手を当てていた。
「南側」
「赤石さんも分かりますの?」
リボンが聞き返す。
悠は一瞬止まったが、もう完全に隠すつもりはなかった。
「負の力なら、ある程度は」
リボンは不思議そうな顔をしたものの、今は質問している時間ではない。
「急ぎますわ!」
めぐみとひめが駆け出す。
ゆうこも重箱の蓋を閉じる。
「誠司くん、これお願いしてもいい?」
「ああ。赤石と片づけてから追う」
「ありがとう」
悠はゆうこを見る。
「大森さんは?」
ゆうこは一度、普段の自分と、戦う自分の間で呼吸を整えた。
「行ってくるね」
そして、めぐみとひめの後を追った。
★★★
サイアークが現れたのは、公園から少し離れた住宅街だった。
一人の少年が、家の前で母親と言い争っていた。
「なんで何も言ってくれなかったんだよ!」
少年の手には、学校から渡された進路希望の紙が握られている。
母親は仕事の都合で、家族が近いうちに遠方へ引っ越す可能性を黙っていた。決まってから話せばいいと思っていたが、少年は偶然その話を聞いてしまった。
「まだ決まってなかったから」
「だからって、俺に関係あることだろ!」
「心配させたくなかったの」
「俺のことなのに、勝手に決めるなよ!」
その言葉を、電柱の上からナマケルダが聞いていた。
「何も知らない方が幸せなこともありますぞ」
少年と母親が振り返る。
ナマケルダは面倒そうに傘を肩へ乗せた。
「大切な話をすれば揉める。秘密にすれば怒られる。ならば最初から、何も話さず、何も聞かず、関わらなければよろしい」
「誰だよ、あんた!」
「面倒な親子喧嘩には、もっと面倒でない世界をプレゼントしましょう」
ナマケルダが杖を向ける。
少年の背後へ鏡が現れた。
「鏡に映る未来を最悪に変えよ! 来たれ! サイアーク!」
少年が鏡の中へ閉じ込められ、巨大なサイアークが出現する。身体は何重もの封筒と鍵のついた箱で構成され、顔の前には大きな口を塞ぐような錠前が取りつけられていた。
サイアークが両腕を振る。
黒い封筒が住宅街へ降り注いだ。
封筒へ触れた人々は、互いに口を閉ざしていく。聞きたいことがあっても尋ねられず、伝えたいことがあっても声が出ない。
母親も、自分の息子が閉じ込められた鏡へ手を伸ばしながら、声を失っていた。
そこへ、めぐみとひめが走り込む。
「その子を返して!」
ナマケルダは二人を見る。
「人の秘密へ首を突っ込むのは感心しませんなあ」
「秘密を話すかどうかは本人が決めることだよ!」
ひめが言い返す。
「でも、関係ある人のことまで勝手に決めるのは違うじゃん!」
めぐみも頷いた。
「あたしたちだって、全部何でも話せるわけじゃないよ。でも、聞きたいことまで聞いちゃダメって決めるのはおかしいよ!」
二人は人目のない角へ走り込む。
その途中で、ゆうこが追いついた。
「待って!」
「ゆうゆう!」
三人は視線を合わせる。
今度は、誰もゆうこへ「来なくていい」とは言わなかった。
「一緒に行こう!」
めぐみが手を差し出す。
「うん!」
ゆうこが握り返した。
★★★
「プリキュア・くるりんミラーチェンジ!」
桃、青、黄の光が同時に広がる。
「世界に広がるビッグな愛! キュアラブリー!」
「天空に舞う蒼き風! キュアプリンセス!」
「大地に実る命の光! キュアハニー!」
三人のプリキュアが並んでサイアークの前へ着地した。
「三人になりましたか」
ナマケルダは大きく欠伸をする。
「人数が増えれば、それだけ秘密も増えますぞ。誰が何を隠しているのか疑い始めれば、仲間など面倒なだけですなあ」
プリンセスが一瞬だけハニーを見る。
昨日まで、ゆうこがプリキュアだとは知らなかった。
それでも今、彼女は隣にいる。
「秘密があったら、すぐ敵になるわけじゃないよ!」
プリンセスが言う。
「でも、隠されたら怒ることはあるけど!」
ハニーが苦笑する。
「それはごめんね」
「今はいいの!」
サイアークが黒い封筒を大量に放つ。
ラブリーが前へ出る。
「ラブリー・シールド!」
桃色の光が封筒を防ぐ。しかし、封筒は盾へ貼りつき、表面へ黒い文字を浮かび上がらせた。
『聞くな』
『話すな』
『知らない方がいい』
黒い文字がラブリーの腕へ伸びる。
「ラブリー、離れて!」
プリンセスが風を放ち、封筒を吹き飛ばす。
ハニーは空中へ飛び上がり、バトンを振る。黄色い光の帯が散らばった封筒を束ね、地面へ落とした。
「二人とも、封筒そのものに力が入ってるよ!」
「じゃあ全部壊せばいいんだね!」
ラブリーが拳を構える。
「待って」
ハニーが止める。
「中に人の気持ちまで閉じ込められてるかもしれない」
プリンセスがサイアークを見る。
身体を構成する封筒の中には、黒いものだけではなく、白い封筒も混ざっていた。母親から少年へ渡すはずだった手紙や、言えなかった謝罪、少年自身が友達へ伝えたかった言葉までが、サイアークの身体へ取り込まれている。
「全部壊したらダメなんだ」
ラブリーが拳を下ろす。
ナマケルダが笑う。
「面倒でしょう? 何が言ってよい言葉で、何が隠すべき秘密なのか、一つずつ考えなければならない」
「面倒でも考えるよ!」
ラブリーが言い返す。
「大切なことだから!」
サイアークが巨大な鍵を振り回す。
三人は左右へ散る。
プリンセスが青い風で鍵の軌道を逸らし、ラブリーが地面を蹴って懐へ入る。だが、拳を打ち込もうとした瞬間、ハニーが声をかけた。
「ラブリー、胸の白い封筒には当てないで!」
「分かった!」
ラブリーは拳の軌道を変え、黒い錠前だけを狙って殴る。
大きな亀裂が入った。
「プリンセス、右側の鍵をお願い!」
「任せて!」
プリンセスは上空から蹴りを叩き込み、別の錠前を破壊する。
三人が少しずつ黒い部分だけを削っていく。
しかし、サイアークは突然、口元の巨大な錠を開いた。
中から黒い声が噴き出す。
『言えば嫌われる』
『聞けば傷つく』
『知らない方が楽だ』
その声に、プリンセスの動きが鈍る。
占いの時に感じた恐怖が蘇る。
ラブリーも、自分が母親の身体のことをどこまで友達へ話してよいのか迷ったことを思い出す。
ハニーは、自分がプリキュアであることを黙っていた時の気持ちを思い出した。
誰にでも、言えないことはある。
「全部話さなくてもいいと思う」
ハニーが静かに言った。
ラブリーとプリンセスが彼女を見る。
「言えないことがあるから、友達じゃないってことにはならないよ」
ナマケルダが肩をすくめる。
「なら、何も聞かなくていいでしょう」
「それも違うと思うな」
ハニーは首を振った。
「聞いてほしい時もあるから」
鏡の中の少年を見る。
「誰かに関係することなら、一人だけで決めない方がいいこともあるよ」
プリンセスが頷く。
「そうだよ。言いたくないことまで無理に聞くのはダメ。でも、聞かれるのが怖いからって、相手の気持ちまで勝手に決めるのも違う!」
ラブリーも拳を握る。
「あたし、分からなかったら聞くよ! それで、言えないって言われたら待つ!」
「待ってもらえるとは限りませんぞ?」
ナマケルダが言う。
ラブリーは少しだけ詰まった。
それでも、すぐに答える。
「その時は、その時に考える!」
プリンセスが吹き出す。
「めぐみらしい!」
「今笑うところ!?」
「でも、その方がいいよ!」
三人の表情から、黒い声の影響が薄れていく。
ハニーがバトンを掲げた。
「まず、黒い錠前だけ外そう!」
「うん!」
三人が同時に動いた。
★★★
少し離れた住宅街の角では、誠司と悠が黒い封筒へ閉じ込められた人々を助けていた。
封筒そのものには、幻影帝国が付加した人工的な負の力がある。
悠なら吸収できる。
だが、封筒の中には人々の言えなかった感情も混ざっている。
「難しいな」
悠は一枚へ手を触れながら呟いた。
「何が?」
誠司が尋ねる。
「敵の力だけ取る。中の人の気持ちには触れない」
「できるのか?」
「一枚ずつなら」
以前なら、町を覆う負の力を一度に取り込もうとしたかもしれない。
今は違う。
悠は手のひらへ入ってくる力を確かめ、人工的な部分だけをゆっくり吸収していく。
黒い封筒が普通の白い紙へ戻った。
近くにいた男性の声が戻る。
「話せる……?」
「次」
悠が言う。
誠司は別の封筒を運ぼうとした。
その時、悠が止める。
「相楽君」
「何だ?」
「一度休む」
誠司は少し驚いた。
悠は右手を握ったり開いたりする。
「吸収経路が熱い。今続けると、人工的な力と人の感情を分けにくくなる」
「分かった。じゃあ俺が封筒を集めておく」
「お願い」
悠は壁へ背を預けた。
休むことに、以前ほど強い抵抗はなかった。
誠司は封筒を数枚まとめ、安全な場所へ置く。
「赤石」
「何?」
「さっきの話だけど」
「さっき?」
「全部話す必要はないってやつだ」
戦場から、ハニーたちの声が聞こえていた。
誠司は悠を見ず、作業を続けながら言う。
「俺もそう思う」
悠は黙って聞く。
「でも、お前が危なくなることまで隠すのは違う。それは周りにも関係する」
「うん」
「今みたいに『休む』って言えばいい」
悠は自分の右手を見る。
「僕にとっては、それも秘密を話すことになるのかもしれない」
「全部じゃなくていいだろ」
「相楽君は、待てる?」
誠司は少し考えた。
「いつまでも、とは言わない」
悠が顔を上げる。
「俺たちが危ないと思ったら聞く。お前が答えないなら、止めることもある」
「うん」
「でも、今すぐ全部吐けとも言わない」
悠はそれを聞き、小さく息を吐いた。
「それなら、助かる」
「なら次は、休む前に危なくなる兆候も教えろ」
「要求が増えたね」
「お前が少しずつ話すからだ」
誠司の口元が僅かに緩む。
悠も、ほんの少しだけ笑った。
★★★
戦場では、三人のプリキュアがサイアークの黒い錠前を次々と破壊していた。
「プリンセス、上!」
「分かってる!」
プリンセスが青い風で巨大な鍵を吹き上げる。
「ラブリー!」
ハニーの声に、ラブリーが踏み込む。
「ラブリー・パンチングパンチ!」
連続の拳が最後の黒い錠前を砕いた。
サイアークの身体を覆っていた黒い封筒が一斉に剥がれ落ちる。
残ったのは、白い手紙に包まれた巨大な核だった。
ハニーがその前へ降り立つ。
「これは、壊さなくていいよ」
「じゃあ、サイアークだけ浄化する!」
ラブリーとプリンセスが並ぶ。
桃色と青の光が二人のラブプリブレスへ集まっていく。
「愛と勇気の力を一つに!」
「プリキュア・ツインミラクルパワーシュート!」
二色の巨大な光がサイアークの身体を包んだ。
「ラブリー!」
「プリンセス!」
黒い外殻だけが浄化され、白い手紙の束が光の中から舞い上がる。
鏡に閉じ込められていた少年も解放され、母親の腕の中へ戻った。
ナマケルダは大きく欠伸をする。
「結局、話し合うのですか。何とも面倒なことですなあ」
「面倒でもいいよ!」
ラブリーが答える。
「大切な人なら、話したいもん!」
プリンセスも頷く。
「話したくない時は待つけどね!」
ハニーは少し笑った。
「待ってる間に、ごはんくらい一緒に食べられるよ」
ナマケルダは顔をしかめる。
「また食事ですか」
「おいしいよ?」
「聞いておりませんぞ」
黒い霧がナマケルダを包み、その姿を消した。
★★★
戦いのあと、少年と母親は家の前で向き合っていた。
母親は何度も言葉を探した末、ようやく口を開く。
「引っ越しは、まだ決まったわけじゃないの。でも可能性があるなら、先に話すべきだったね」
少年はすぐには頷かなかった。
「俺、転校したくない」
「うん」
「友達と離れるのも嫌だ」
「分かった」
「でも、仕事が大事なのも分かる」
「ありがとう」
親子は一度で結論を出さなかった。
これからどうするか、家族で改めて話すことにした。
少し離れた場所から、変身を解いためぐみ、ひめ、ゆうこが見守っている。
「すぐ解決しなかったね」
めぐみが言う。
ゆうこは頷いた。
「すぐ決められないこともあるよ」
「でも、話せたからいいじゃん」
ひめが少し安心したように笑う。
「知らないまま勝手に決められるより、ずっといいよ」
めぐみはその横顔を見る。
「ひめも、前より聞くようになったね」
「何それ。私が前は人の話を聞かなかったみたいじゃん」
「うん」
「否定してよ!」
「本当だから!」
二人のいつものやり取りを見て、ゆうこが笑う。
その時、悠と誠司も歩いてきた。
「終わったみたいだな」
誠司が言う。
めぐみは悠の顔を見る。
「赤石くん、大丈夫?」
悠はすぐに答えず、自分の身体の状態を確かめた。
「少し休んだから、今は大丈夫」
ひめの眉が上がる。
「ちゃんと休んだの?」
「うん」
「自分から?」
「うん」
ひめは何か褒めようと口を開きかけたが、悠の顔を見て止めた。
「……じゃあ、よかった」
それだけだった。
悠には、そのくらいがちょうどよかった。
ゆうこが尋ねる。
「吸収したの?」
めぐみとひめがゆうこを見る。
悠も僅かに驚いた。
「大森さん、知っていたの?」
「この前、黒いカードが赤石君の手に消えてたのを少しだけ見たの」
「言わなかったんだね」
「確信がなかったから」
ゆうこは悠を見る。
「今日は?」
悠は少し迷った。
以前なら、ここで「何でもない」と答えたかもしれない。
「敵が作った負の力だけを少し吸収した」
めぐみの顔から笑みが消える。
「身体は平気なの?」
「続けると危ないと思ったから、途中で止めた」
「人の気持ちは?」
ひめが尋ねる。
「取っていない」
短い答えだった。
三人はすぐには何も言わなかった。
悠の胸が少しだけ冷たくなる。
怖がられるかもしれない。
当然だ。
それでも、めぐみが最初に口を開いた。
「そっか」
それだけだった。
悠が目を上げる。
「もっと聞かないの?」
「聞きたいよ」
めぐみは正直に答える。
「でも、今はそこまでなんでしょ?」
「うん」
「じゃあ、今日はそこまで」
ひめも腕を組む。
「でも、危なくなりそうなら言ってよ」
「分かった」
「本当に?」
「今度は、相楽君にも先に言う」
誠司が横から口を挟む。
「俺だけにするな。状況によってはこいつらにも言え」
「要求が増えていくね」
「当然だろ」
ゆうこが少し笑う。
「その時は、一緒にどうするか考えよう」
悠は四人を見た。
秘密を話したわけではない。
自分が何者なのかも言っていない。
それでも、知られてしまった力の一部を、もう完全には隠さなかった。
「うん」
悠は静かに答えた。
★★★
夕方、一行は再び丘の上へ戻っていた。
戦いで途中になったピクニックの続きをするためだった。
「冷めちゃったね」
ひめが卵焼きを口へ入れる。
「でもおいしい!」
「冷めてもおいしいように作ったからね」
ゆうこが答える。
めぐみは黄色い飴を一つ口へ入れた。
「ハニーの秘密って、もっとすごい必殺技とかだと思ってた」
「ごめんね」
「謝らなくていいよ! ゆうゆうがどうしてハニーになったのか聞けて嬉しかった!」
ひめも頷く。
「ごはんを守るためにプリキュアになるなんて、ゆうこくらいだと思うけど」
「ごはんだけじゃないよ」
「分かってるって!」
誠司は残ったおにぎりを一つ取り、悠へ渡した。
「食べるか?」
「相楽君から食べ物を渡されるのは珍しいね」
「余ってるだけだ」
「そういうことにしておくよ」
悠は受け取る。
めぐみが気づき、笑う。
「誠司、照れてる?」
「違う」
「返事が早いよ」
ひめが言う。
悠まで誠司を見る。
「相楽君も嘘が下手なの?」
「赤石まで乗るな」
丘の上へ笑い声が広がった。
悠はおにぎりを口へ運びながら、今日聞いたゆうこの話を思い返す。
知らないことがある。
聞けないこともある。
話せないこともある。
それだけで、誰かとの関係がすべて偽物になるわけではない。
けれど、誰かに関係する危険まで一人で抱え込めば、それはもう自分だけの秘密ではなくなる。
悠には、まだその境界が分からない。
それでも以前よりは、考えるようになった。
まりあが二つ目の約束を残した理由も、少しだけ。
『危険な時は一人で抱えず、助けを求めること』
秘密を全部明かせという意味ではなかった。
一人で終わらせようとするなという意味だったのかもしれない。
悠は夕焼けの向こうへ目を向ける。
まだ答えは出ない。
その隣で、めぐみとひめが残った唐揚げを巡って言い争い、ゆうこが取り箸を使うよう注意し、誠司が呆れている。
悠は少しだけ身体の力を抜いた。
答えが出るまで、この場所にいてもいいのかもしれない。
今は、そう思えた。
次回予告
めぐみ:
「大変! プリキュアなのに、あたしがプリキュア失格!?」
ひめ:
「めぐみが!? 何したの!?」
誠司:
「聞く前から決めつけるなよ」
ゆうこ:
「めぐみちゃん、まず落ち着こう。話はそれからだよ」
悠:
「愛乃さんがプリキュアでなくなると、何が起きるの?」
リボン:
「それが大問題なんですわー!」
めぐみ:
「次回、第12話『めぐみピンチ! プリキュア失格の危機!!/助けたい心と、助けすぎる手』」
ひめ:
「赤石くんまで勝手に助けに行かないでよ!」
悠:
「愛乃さんと同じことを言われるとは思わなかった」