ハピネスチャージプリキュア!夕映えのアーベント 作:Leona
第19話『サッカー対決! チームプリキュア結成! /つなぐパスと、ひとりで走る影』
ブルースカイ王国大使館のテーブルいっぱいに、色とりどりのプリカードが並んでいた。
「見て見て!」
めぐみがカードファイルを掲げる。
「もうこんなに集まったよ!」
「私のもあとちょっと!」
ひめも自分のファイルを開き、何度もページをめくっていた。プリカードが収まったポケットはほとんど埋まり、空いている場所はもう僅かしかない。
リボンが胸を張る。
「ファイルがプリカードでいっぱいになれば、どんな願いでも一つだけ叶いますわ!」
「どんな願いでも!?」
めぐみの目が輝く。
「だったら、お母さんがもっと元気になりますようにってお願いしたい!」
ゆうこは少し考える。
「私は、みんながおいしいご飯を食べられたらいいな」
「ゆうゆうらしい!」
「ひめは?」
めぐみに聞かれ、ひめは一瞬だけ黙った。
「私は……」
手元のカードへ視線を落とす。
「ブルースカイ王国を元に戻したい」
いつもの勢いはなかった。
鏡に閉じ込められた父と母。
黒い結晶に覆われた城。
プリキュアの力さえ弱められる故郷。
その全部を思い出したのだろう。
「ひめ……」
「でも!」
ひめはすぐに顔を上げた。
「どんな願いでも叶うんだから、絶対戻せるよ!」
めぐみが笑う。
「うん!」
「では問題がありますわ」
リボンが人差し指を立てた。
「願いを叶えられるのは、一つだけですの」
三人が固まる。
「え?」
「一つ?」
「三人で一個?」
「そうですわ」
ひめがファイルを抱き締めた。
「ケチ!」
「私に言われても困りますわ!」
めぐみは母親の顔を思い浮かべたらしく、少し困った顔になる。
ゆうこも考え込む。
「まだ全部集まったわけじゃないし、その時までに考えようか」
「そうだね」
めぐみが頷く。
その少し離れた場所で、悠は宿題をしていた。
ひめが気づく。
「赤石くんなら何お願いする?」
悠のペンが止まった。
「僕?」
「そう。どんな願いでも一個だけ!」
「僕はプリカード集めてないよ」
「もしもの話!」
悠は窓の外を見る。
どんな願いでも。
世界を変える。
誰かを救う。
失ったものを戻す。
そんな力が、本当にあるのなら。
浮かんだ顔は一人だった。
「……会いたい人に会う」
三人が悠を見る。
めぐみが尋ねる。
「会いたい人?」
「うん」
「誰?」
悠は少し迷ってから首を振った。
「秘密」
ひめがじっと見る。
「また秘密?」
「これは危ない秘密じゃないよ」
「ならまあ、いいけど」
ゆうこは悠の顔を見たが、名前を尋ねることはしなかった。
悠は再びノートへ目を落とす。
まりあ。
願いで呼び戻すのではなく、自分で会いに行きたい。
そう思う自分もいた。
もし願いだけですべてが済むのなら、三つの約束を守る意味までなくなってしまうような気がした。
★★★
同じ頃。
町の別の場所では、紫色の光がサイアークを包んでいた。
「プリキュア・スターダストシュート!」
「サイアーク!」
巨大な身体が浄化され、鏡に閉じ込められていた人間が解放される。
キュアフォーチュンは着地すると、すぐに周囲を確認した。
「終わったわ」
「今日も余裕だったな!」
ぐらさんが飛んでくる。
浄化された場所には新しいプリカードが残されていた。
ぐらさんが拾い、ファイルへ入れる。
「これでまたいっぱいに近づいたぜ」
フォーチュンは自分のファイルを見る。
こちらも空きはあと僅か。
「願いが叶うのも近いな」
「ええ」
「いおなは何願うんだ?」
フォーチュンは迷わなかった。
「もっと強くなる」
ぐらさんの表情が曇る。
「やっぱりそれか」
「ファントムを倒すためには、今のままじゃ足りないわ」
白い剣。
一瞬で間合いへ入る速度。
世界中のプリキュアを狩ってきた技術。
自分だけでは届かなかった。
そして姉も。
「お姉ちゃんを取り戻す」
フォーチュンは拳を握る。
「そのためなら、もっと強くならないと」
ぐらさんは少し黙ったあとに言う。
「だったら、あいつらと組むって手もあるんじゃねえか?」
フォーチュンの表情が硬くなった。
「それはできないわ」
「ラブリーやハニーとは悪くないだろ?」
返事がない。
「黒い妙な奴とまで一緒にファントムと戦ったじゃねえか」
フォーチュンの目が僅かに動く。
黒い異形。
ファントムの剣を受け止めた存在。
その正体は、まだ分からない。
そして。
赤石悠。
姉のことを「知らないとは言えない」と答えた少年。
考えることが増えている。
「プリンセスがいる限り、無理よ」
フォーチュンはそれだけ言った。
ぐらさんはため息をつく。
「頑固だなあ」
フォーチュンは返事をしなかった。
★★★
夜。
大使館のバルコニーに、ひめは一人で立っていた。
手にはプリカードのファイル。
後ろからブルーが来る。
「ひめ」
「何?」
「めぐみとゆうこに、まだ話していないね」
ひめの肩が僅かに動いた。
「……何を?」
「アクシアのことだよ」
表情が消える。
ひめはファイルを強く抱いた。
「今、話さなくてもいいじゃん」
「いつまでも隠しておけることではない」
「分かってるよ!」
思わず強い声になる。
ひめはすぐに俯いた。
「分かってるけど……」
怖い。
声にしなくても分かった。
ブルーは隣へ立つ。
「めぐみとゆうこを信じていないのかい?」
「違う!」
即答。
「だから怖いの!」
ひめの声が震える。
「友達になれたのに。やっと普通に一緒にいられるようになったのに」
アクシア。
自分が開けた箱。
幻影帝国が解き放たれた始まり。
それを知られれば。
「嫌われたらどうするの」
ブルーは簡単に「嫌われない」とは言わなかった。
「それでも、いつかはひめ自身の口から話すべきだと思う」
「……分かってる」
「急がせたいわけではないよ」
ひめは夜の町を見る。
「もう少しだけ」
小さな声。
「もう少しだけ待って」
ブルーは静かに頷いた。
★★★
翌朝。
悠がまだ朝食を食べている時間に、キュアラインが鳴った。
『赤石!』
「相楽君?」
『今日空いてるか?』
「空いてるけど」
『サッカーできるか?』
悠の箸が止まる。
「ルールは知ってる」
『実際にやったことは?』
「ほとんどない」
『よし、来い』
「どうしてそれで“よし”なの?」
通話の向こうで、めぐみたちの声も聞こえた。
『赤石くんも来るの!?』
『人数足りないんだって!』
『お団子出るかな?』
最後はひめだった。
誠司が続ける。
『ぴかりが丘商店街のサッカーチームが町内大会に出るんだけど、急に何人か来られなくなったんだ。助っ人が欲しい』
悠は少し考えた。
「分かった」
『動けるか?』
悠は胸へ手を当てる。
ファントムから受けた傷はほぼ治まっている。
ブルースカイ王国で起きた奇妙な反応も、こちらへ戻ってからは再発していない。
「今日は大丈夫」
『なら来い。場所送る』
通話が切れる。
悠は残った朝食を見た。
「サッカー……」
三百年生きていても、やったことのないものはいくらでもあった。
★★★
グラウンドへ到着すると、すでに商店街チームの選手たちが集まっていた。
中心に立っているのは、日に焼けた熱血漢。
「絶対に負けられない戦いが、そこにはある!」
大声がグラウンドへ響く。
「俺がこのチームの監督! ゴン隊長だ!」
「隊長なんだ……」
悠が小さく言う。
誠司が隣で答える。
「みんなそう呼んでる」
めぐみ、ひめ、ゆうこの三人はプリカードを使い、すでにサッカー選手風のウェアへ着替えていた。
ひめはユニフォーム姿でくるりと回る。
「どう? 似合う?」
「試合する服だぞ」
誠司が言う。
「分かってる!」
悠は普通に借りたユニフォームだった。
「赤石くんだけ普通だね」
めぐみが言う。
「プリカードないから」
「それもそっか」
ゴン隊長は助っ人たちを一人ずつ見て、力強く頷く。
「よし! 若さ! 気合い! 根性! 十分だ!」
悠は首を傾げる。
「サッカーの技術は?」
「細かいことは後だ!」
「細かいのかな」
「赤石、考えるな」
誠司に止められた。
グラウンドの向こうには、対戦相手のおまんじゅう屋を中心としたチームが集まっている。
ゴン隊長は拳を握る。
「団子屋の意地にかけて、まんじゅう屋には絶対負けられん!」
ひめの耳が動いた。
「団子屋?」
「そうだ!」
ゴン隊長はひめを見る。
「もし今日ゴールを決めたら!」
大きく息を吸う。
「団子三十本だ!」
ひめの目が輝いた。
「三十本!?」
ゆうこも少し驚く。
「一人で食べる量じゃないね」
「取る!」
ひめは拳を握った。
「絶対私がゴールする!」
誠司が嫌な予感を覚える。
「急にやる気出たな」
「当然!」
その時。
「遅くなったわ」
いおながグラウンドへ入ってきた。
悠の表情が僅かに変わる。
ひめはもっと露骨だった。
「いおな!?」
誠司が答える。
「もう一人の助っ人だ。氷川は運動神経いいからな」
「聞いてない!」
「今言った」
いおなはひめを一瞥すると、めぐみとゆうこへ軽く頭を下げる。
「よろしく」
「よろしくね、氷川さん!」
めぐみが笑う。
ゆうこも頷く。
「よろしくね」
最後に、いおなの視線が悠へ向いた。
「赤石君」
「氷川さん」
短い挨拶。
それだけで少し空気が硬くなる。
誠司が二人を見る。
「何かあったのか?」
「何も」
「別に」
二人の返答が重なった。
誠司は眉を上げたが、試合前なので追及しなかった。
★★★
試合開始の笛が鳴った。
「行くよ!」
めぐみがボールを追う。
誠司が中盤から指示する。
「めぐみ、右!」
「うん!」
パス。
ゆうこが受ける。
「ひめちゃん!」
「こっちこっち!」
ひめは大きく手を振る。
ボールが来る。
「三十本!」
全力で蹴った。
ボールはゴールの遥か上へ飛んでいった。
「ええーっ!?」
ひめが頭を抱える。
「力入れすぎだ!」
誠司が叫ぶ。
「最初に言ってよ!」
「普通分かる!」
悠は守備側にいた。
相手のパスコースを見る。
走る。
ボールが来る前に先へ入る。
奪う。
「赤石、ナイス!」
誠司が声を上げる。
悠は前を見る。
ゴールまで距離がある。
右にはめぐみ。
左にはゆうこ。
少し前にはいおな。
全員が走っている。
それでも悠は自分でボールを運んだ。
一人目をかわす。
二人目。
三人目が来る。
身体の動きだけなら対応できる。
しかし、人間として不自然な動きをしないよう力を抑えながらボールまで制御することには慣れていない。
足元からボールが離れた。
「あ」
相手選手に奪われる。
「赤石!」
誠司が走って戻る。
相手の攻撃を何とか止めた。
いおなが悠の近くへ来る。
「どうして出さなかったの?」
「何を?」
「パスよ」
「自分で行けると思ったから」
「行けなかったでしょう」
正論だった。
「……うん」
「サッカーは一人でやるものじゃないわ」
少し離れた場所でひめが聞く。
「それ私にも言ってる?」
「あなたにはもっと言いたいわ」
「何よ!」
試合は続く。
今度はいおながボールを受けた。
一人をかわす。
二人目。
誠司が走る。
めぐみも横へ開く。
しかし、いおなはそのまま突破した。
「氷川さん!」
めぐみが呼ぶ。
いおなは自分でシュートする。
鋭いボールがゴールネットへ突き刺さった。
「ゴール!」
歓声が上がった。
「すごい!」
めぐみが駆け寄る。
ゆうこも拍手する。
ゴン隊長は雄叫びを上げた。
「素晴らしいぞ氷川ーっ!」
ひめは悔しそうに口を尖らせる。
「私の三十本……」
悠は少し離れたところで、いおなのプレーを見ていた。
確かに強い。
一人で突破できる。
だから、パスを出さない。
「氷川さんも一人で行った」
いおなが聞きつける。
「私は決めたでしょう」
「それならいいの?」
いおなが言葉に詰まった。
「状況が違うわ」
「どう違う?」
「赤石、試合中に議論するな!」
誠司が割って入る。
二人とも走り出した。
★★★
時間が進むにつれ、相手チームも調子を上げてきた。
一点を返される。
一対一。
ひめは何としても自分で点を取りたくて仕方がない。
「私にパス!」
めぐみからボールを受ける。
前には相手が二人。
右に悠。
左に誠司。
いおなも前へ走っている。
「三十本!」
「それ忘れろ!」
誠司の叫びも届かない。
ひめは一人目へ突っ込む。
簡単に奪われた。
「ああーっ!」
いおながため息をつく。
「だからチームプレーをしなさい」
「分かってる!」
「分かっている人の動きじゃないわ」
「いおなだってさっき一人でシュートしたじゃん!」
「決められる状況だったからよ」
「私だって決めようとした!」
「できてないでしょう!」
「何よ!」
二人が睨み合う。
ボールはすでに反対側へ行っている。
悠が横を走り抜けながら言う。
「喧嘩してる場合じゃないと思う」
「赤石くんは黙ってて!」
「赤石君もパスを覚えなさい!」
「僕まで?」
結局、前半終了の笛が鳴るまで追加点は入らなかった。
一対一。
選手たちはテントへ戻る。
ゴン隊長は両手を叩いた。
「いいぞ! 気持ちは負けていない!」
「点は同じだけどね……」
ひめは地面へ座り込む。
「団子が遠い……」
ゆうこが水筒を渡す。
「まず水分ね」
「ありがと」
悠もベンチへ座る。
誠司が隣へ来た。
「赤石、初めてにしては動けてる」
「でも取られた」
「パス出せばよかったな」
「それ、氷川さんにも言われた」
「俺も言う」
悠はグラウンドを見る。
「自分で運べるなら、自分で行った方が早くない?」
「相手が一人ならな」
「二人なら?」
「空いてる味方に出す」
「味方が取られたら?」
「また取り返す」
「自分で全部やった方が確実じゃない?」
誠司は悠を見る。
「お前、それサッカーの話してるか?」
悠が止まる。
「……してるつもり」
「だったら覚えろ。ボールは渡してもなくならない」
その言葉に、悠の目が僅かに動いた。
「戻ってくる?」
「状況次第じゃな」
誠司はタオルで顔を拭く。
「渡した先のやつが、もっといいところにいるかもしれない。そいつから別のやつへ繋いだ方が早いこともある」
悠は少し考えた。
「全部、自分で持ってなくてもいい」
「サッカーではな」
誠司は苦笑する。
「お前の場合、他でも覚えた方がいいかもしれないけど」
悠は返さなかった。
その少し先。
いおなは一人でスポーツドリンクを飲んでいた。
ぐらさんの言葉が頭をよぎる。
一人より。
チーム。
必要ない。
そう思ってきた。
自分には、自分の目的がある。
姉を助ける。
ファントムを倒す。
そのために、誰かへ合わせている時間はない。
だが。
目の前の試合は、一人ではできない。
「氷川さん」
悠が近くへ来た。
「何?」
「さっきはごめん」
いおなが意外そうな顔をする。
「何が?」
「パスを出さなかったこと」
「私に謝ることではないわ」
「そう?」
「チームにでしょう」
悠は少し困る。
「全員に謝るの?」
「次から出せばいいのよ」
「分かった」
悠は戻ろうとした。
「待ちなさい」
いおなが呼び止める。
「何?」
「お姉ちゃんのこと」
空気が変わる。
悠の視線がいおなへ戻る。
「あなたは、どこで知ったの?」
「……今ここで聞く?」
「ずっと誤魔化されているもの」
悠は黙った。
いおなの目は真剣だった。
怒っているだけではない。
不安なのだ。
姉を知っていると言う、正体の分からない少年。
「会ったことがある」
悠はようやく答えた。
いおなの目が見開かれる。
「お姉ちゃんと?」
「うん」
「いつ?」
そこには答えられない。
正確に話せば、自分自身について説明する必要が出る。
「それは……まだ言えない」
「またそれ?」
いおなの声が冷たくなる。
「あなた、いつまでそうやって──」
「でも」
悠は逃げずに続けた。
「まりあには、助けてもらった」
いおなが完全に固まった。
「……まりあ?」
悠も気づいた。
普段より自然に名前が出た。
いおなの目が鋭くなる。
「お姉ちゃんを、名前で呼ぶのね」
「……うん」
「どういう関係だったの?」
答えられない。
だが「知らない」とも言えない。
悠は口を閉じる。
そこへゴン隊長の声が響いた。
「みんなーっ! 後半戦の前に団子でエネルギーチャージだ!」
緊張した空気が途切れる。
いおなは悠から目を離さなかった。
「この話、終わってないから」
「分かってる」
「必ず聞かせてもらうわ」
悠は小さく頷いた。
「うん」
今度は逃げなかった。
★★★
ゴン隊長は大量の団子を抱えていた。
「腹が減っては戦はできん! 食え!」
ひめの目が輝く。
「いただきます!」
「得点してなくても食うのか」
誠司が言う。
「これは補給!」
ひめが一本取ろうとした、その瞬間。
「実にくだらん!」
聞き覚えのある声が響いた。
ゴン隊長が振り返る。
「何者だ!」
オレスキーが腕を組んで立っていた。
「チームだと? 仲間だと? 一番とは常にただ一人!」
ひめが嫌そうな顔をする。
「またオレスキー」
「またとは何だ!」
オレスキーはゴン隊長を指す。
「全員で力を合わせて勝つなど、ナンバーワンを目指す者の風上にも置けん!」
「サッカーはチームスポーツだ!」
ゴン隊長が言い返す。
「一人で十一人を相手にできるか!」
「俺様ならできる!」
「絶対無理!」
めぐみが反射的に言った。
「うるさい!」
鏡が現れる。
「鏡に映る未来を最悪に変えよ! 来たれ! サイアーク!」
「うおおっ!?」
ゴン隊長が鏡へ閉じ込められる。
黒い霧。
巨大なサッカーボールを身体の中心へ持つサイアークが現れた。脚は太く、両腕にはゴールネットのようなものが巻きついている。
「サイアーク!」
「監督!」
選手たちが騒ぎ出す。
誠司が即座に動いた。
「全員グラウンドの外へ!」
悠も周囲を見る。
「こっち! ベンチから離れて!」
二人で一般選手を誘導する。
めぐみ、ひめ、ゆうこは人目のない場所へ走った。
いおなは逆方向へ姿を消す。
悠はそれを見た。
やはり。
そう思っただけで、何も言わない。
三色の光がグラウンドへ広がる。
★★★
「プリキュア・くるりんミラーチェンジ!」
「世界に広がるビッグな愛! キュアラブリー!」
「天空に舞う蒼き風! キュアプリンセス!」
「大地に実る命の光! キュアハニー!」
三人がサイアークの前へ立つ。
オレスキーは腕を組んだ。
「チームワークなど弱者が群れるための言い訳! サイアーク、まとめて蹴散らせ!」
「サイアーク!」
巨大な脚がサッカーボールを蹴る。
「来るよ!」
ラブリーが受け止めようとする。
「うわっ!」
予想以上の衝撃。
ボールごと後ろへ押される。
プリンセスとハニーが支える。
「重い!」
「三人でも押される!」
「だったら!」
ラブリーが力を抜いて横へ跳ぶ。
ボールが通り過ぎる。
「避ければいい!」
「そうだった!」
プリンセスが笑う。
三人が散開する。
ラブリーが右。
プリンセスが左。
ハニーが中央。
サイアークが一瞬迷った。
「今!」
三方向から攻撃。
ラブリーの拳。
プリンセスの蹴り。
ハニーのバトン。
サイアークがよろめく。
「いいぞ!」
離れた場所から誠司が叫ぶ。
悠も見ている。
一人へ攻撃を集中させず、相手の意識を分散させる。
サッカーと同じ。
そう思った瞬間。
サイアークの両腕が広がった。
「サイアーク!」
巨大なゴールネットが三人へ飛ぶ。
「えっ!?」
ラブリーが避けようとする。
広すぎる。
三人まとめてネットに包み込まれた。
「きゃあっ!」
地面へ落とされる。
「動けない!」
プリンセスが暴れる。
「絡まって余計締まるよ!」
ハニーが止める。
オレスキーが高笑いする。
「見たか! まとめているからまとめて捕まるのだ!」
「それチームワークと関係ないでしょ!」
プリンセスが叫ぶ。
サイアークが巨大なボールを構える。
三人は動けない。
悠の胸が脈打った。
助ける。
人目はほぼ避難している。
ダークネスミラーチェンジャーへ手を伸ばしかける。
「赤石」
誠司の声。
悠が見る。
「出るつもりか?」
「三人が動けない」
「まだだ」
「でも」
「見ろ」
誠司がグラウンドの反対側を示す。
紫色の光。
悠は手を下ろした。
★★★
サイアークのボールが蹴られる。
その直前。
紫の星がネットを切り裂いた。
「何!?」
オレスキーが振り向く。
「夜空にきらめく希望の星! キュアフォーチュン!」
フォーチュンが着地する。
「フォーチュン!」
ラブリーの顔が明るくなる。
ネットから抜け出したプリンセスだけは複雑そうな表情をした。
フォーチュンはサイアークだけを見る。
「下がっていて」
「待って!」
ラブリーが呼ぶ。
「一緒に戦おうよ!」
「必要ないわ」
「でもさっき助けてくれたじゃん!」
「助けただけよ」
フォーチュンが走る。
鋭い蹴りがサイアークの胸へ入る。
拳。
回転蹴り。
一人でも圧倒している。
「すごい……」
ラブリーが見つめる。
しかしサイアークのネットが背後から迫った。
フォーチュンは気づいていない。
「フォーチュン、後ろ!」
ラブリーが飛び込む。
ネットを拳で弾く。
「!」
フォーチュンが振り返る。
別方向からボール。
プリンセスが風を放つ。
「プリンセス・トルネード!」
軌道が逸れる。
「今だよ、フォーチュン!」
ハニーの黄色い光がサイアークの脚へ絡みつく。
動きが止まる。
フォーチュンの前に、一直線の道が開いた。
「……!」
一瞬だけ迷う。
一人で戦うなら、すべて自分で警戒しなければならない。
後ろ。
横。
敵の反撃。
それを今は、三人が止めている。
「行って!」
ラブリーが叫ぶ。
フォーチュンは地面を蹴った。
「はあっ!」
拳がサイアークへ直撃する。
大きく後退。
フォーチュンは着地すると、プリチェンミラーを構えた。
「星の光を聖なる力に!」
紫色の星々が広がる。
「プリキュア・スターダストシュート!」
光がサイアークを包み込む。
「サイアーク!」
巨大な身体が浄化され、鏡が砕けた。
ゴン隊長が解放される。
「やった!」
ラブリーが飛び上がった。
「フォーチュンすごい!」
ハニーも笑う。
「一気に浄化しちゃったね」
フォーチュンは三人へ背を向けたまま、少し黙った。
「……後ろを気にしなくてよかったから」
「え?」
「一人なら、あそこまで簡単にはいかなかったわ」
ラブリーの顔が明るくなる。
「じゃあ!」
「勘違いしないで」
フォーチュンはすぐに釘を刺す。
それでも。
「助かったわ」
小さな一言。
ぐらさんが満足そうに笑った。
プリンセスは何も言えずにフォーチュンを見ていた。
悠も遠くからその姿を見る。
一人で何でもできるように見えるフォーチュンですら。
背中を任せれば、もっと前へ進める。
「パスみたいだね」
誠司が聞く。
「何が?」
「力を渡したわけじゃないけど、役目を渡してる」
誠司は少し笑った。
「分かってきたじゃないか」
★★★
黒い霧の中で、オレスキーは悔しそうに拳を振り上げた。
「チームワークなど俺様には必要ない! 頂点とは常に一人なのだ!」
そのまま姿を消す。
ゴン隊長は意識を取り戻すと、サイアークにされたことなど忘れたように立ち上がった。
「何だか途中の記憶がないが!」
拳を上げる。
「プリキュアが助けてくれたらしい! ならば俺たちも後半戦、全力で行くぞ!」
「おーっ!」
選手たちの声が響く。
試合は再開された。
ひめはグラウンドへ戻りながら、自分の足元を見る。
「チームプレー……」
いおなが隣を通る。
ひめは一瞬だけ睨む。
しかし今度は何も言わなかった。
後半開始。
ボールがめぐみへ渡る。
「ひめ!」
パス。
ひめが受ける。
前には相手が二人。
以前なら、そのまま突っ込んでいた。
右を見る。
悠が走っている。
「赤石くん!」
ボールを蹴る。
悠の足元へ届く。
「僕?」
「前!」
「分かった!」
悠は運ぶ。
一人目が来る。
自分で抜けるかもしれない。
でも、左から誠司が上がっている。
今度は迷わない。
「相楽君!」
パス。
「ナイス!」
誠司が受ける。
さらにゆうこへ。
ゆうこがヘディングで前へ送る。
「めぐみちゃん!」
めぐみが走り込む。
相手が寄る。
めぐみは無理に撃たない。
「氷川さん!」
いおなへパス。
シュート。
「はあっ!」
ボールはゴールネットへ吸い込まれた。
笛が鳴る。
「ゴール!」
その直後。
試合終了を告げる長いホイッスル。
「勝ったーっ!」
めぐみが飛び上がる。
ゴン隊長が雄叫びを上げた。
「勝利だああああっ!」
選手たちが喜び合う。
悠は少し遅れて集団へ歩く。
ひめが振り返る。
「赤石くん!」
「何?」
「パスできたじゃん!」
「白雪さんも」
「私は最初からできるし!」
「前半は?」
「忘れた!」
誠司が笑う。
「都合いいな」
いおなはゴールの前に立っていた。
自分が決めた。
それでも、最後の一点は自分一人では生まれていない。
ひめから悠。
悠から誠司。
誠司からゆうこ。
ゆうこからめぐみ。
めぐみから自分。
ボールが繋がってきた。
ゴン隊長が大量の団子を持ってくる。
「約束だ! 決勝点を決めた氷川へ団子三十本!」
ひめが崩れ落ちる。
「私の三十本……」
いおなは団子を見る。
以前なら、そのまま受け取っていたかもしれない。
「みんなで分けましょう」
全員がいおなを見る。
ひめまで顔を上げた。
「え?」
いおなは少し居心地悪そうに続ける。
「最後のゴールは、私一人で取ったものじゃないから」
めぐみが笑う。
「うん!」
「じゃあ一人何本!?」
ひめが立ち上がる。
「結局そこなんだ」
ゆうこが笑った。
悠は一本受け取った団子を見る。
自分が点を決めたわけではない。
それでも、自分にも回ってきた。
「これもパス?」
誠司が眉を上げる。
「団子は普通に分けただけだ」
「似てる気がする」
「まあ、好きに考えろ」
悠は団子を一口食べた。
甘かった。
★★★
片付けが終わる頃には、空が橙色へ変わり始めていた。
悠は借りたユニフォームを返し、グラウンド脇で鞄を持ち上げる。
「赤石君」
声に振り返る。
いおなが立っていた。
「少しいい?」
「うん」
二人は他のメンバーから少し離れた。
いおなはまっすぐ悠を見る。
「さっきの話」
「まりあのこと?」
今度は悠の方から名前を出した。
いおなの表情が僅かに変わる。
「やっぱり、普通に名前で呼ぶのね」
「そう呼んでたから」
「お姉ちゃんも、あなたを知っているの?」
「知ってる」
「あなたのことを何て呼んでいたの?」
悠は少し迷う。
「悠」
いおなの息が止まる。
姉が名前で呼んでいた。
ただの知り合いではない。
「いつ会ったの?」
悠はまた答えられない。
いおなの眉が寄る。
「そこだけは言えないの?」
「今は」
「どうして?」
「話したら、まりあのことだけじゃ済まないから」
いおなは悠を見る。
「あなた自身の秘密?」
悠は頷かなかった。
否定もしなかった。
それで十分だった。
「赤石君」
声が少し硬くなる。
「お姉ちゃんがいなくなったことに、あなたは関係しているの?」
悠はすぐに顔を上げた。
「違う」
今度だけは迷わない。
「それは違う」
「本当に?」
「うん」
いおなはその返答を見た。
嘘が下手な悠。
今は視線を逸らしていない。
声も早すぎない。
「……分かったわ」
完全に信用したわけではない。
それでも一つだけ、保留にする。
悠は逆に尋ねた。
「氷川さん」
「何?」
「まりあを助けたいんだよね」
「当たり前でしょう」
「僕も」
いおなの目が見開かれる。
悠はそれ以上説明しなかった。
「僕も、まりあに会いたい」
しばらく二人とも何も言わなかった。
同じ人を探している。
理由も。
関係も。
互いにまだ分からない。
それでも、その一点だけは同じだった。
「なら」
いおなが言う。
「いつか全部話して」
悠は少し考えた。
「全部は、すぐには無理かもしれない」
いおなの目が厳しくなる。
「でも」
悠は続ける。
「話せるところから話す」
いおなは僅かに驚いた。
以前なら、悠はすべて閉じただろう。
「……約束よ」
「うん」
いおなは踵を返した。
数歩進んでから止まる。
「それから」
「何?」
「今日の最後のパス、悪くなかったわ」
悠は瞬きをする。
「ありがとう」
「次はもっと早く離しなさい」
「そこまで?」
「そこまでよ」
いおなは歩いていった。
悠は少しだけ笑った。
★★★
グラウンドを出たところで、いおながめぐみたちを呼び止めた。
「愛乃さん。大森さん」
「ん?」
めぐみとゆうこが振り返る。
ひめも足を止めた。
「私?」
いおなは一瞬だけひめを見る。
「……二人に話があるの」
ひめの顔から少し笑みが消えた。
「二人だけ?」
「ええ」
短い答え。
ひめは何か言おうとしたが、やめた。
「じゃあ私、先帰る」
「ひめ?」
めぐみが呼ぶ。
「大丈夫。お団子もあるし!」
明るく言って先へ歩く。
しかし、悠には分かった。
歩き方が少しだけ速い。
「白雪さん」
「何?」
ひめが振り返る。
「一緒に帰る」
「赤石くん、話聞かなくていいの?」
「僕は呼ばれてないから」
誠司も肩をすくめる。
「俺もだな」
「じゃあ帰ろ!」
ひめはまた笑った。
三人で歩き出す。
悠は一度だけ後ろを振り返る。
めぐみ。
ゆうこ。
そしていおな。
何を話すのか、おおよそ分かっていた。
それでも聞かない。
いおなが自分で話すと決めた秘密だから。
★★★
人通りの少ない公園。
いおなはめぐみとゆうこの前に立っていた。
ぐらさんも姿を現す。
「ぐらさん!?」
めぐみが目を丸くする。
ゆうこも驚いた。
「ということは……」
いおなは鞄から一つの鏡を取り出す。
紫色の装飾。
プリチェンミラー。
二人の表情が変わった。
「氷川さん……」
「私は」
いおなは鏡を握る。
「キュアフォーチュンよ」
めぐみの口が開く。
「えええええっ!?」
ゆうこも珍しく目を丸くしていた。
いおなは少しだけ視線を外す。
「今日分かったわ。一人で戦うより、誰かと一緒に戦った方ができることもある」
サッカー。
サイアークとの戦い。
自分一人なら警戒しなければならない背中を、誰かが守ってくれた。
「愛乃さん。大森さん」
二人を見る。
「私とチームを組んでほしい」
めぐみの顔がぱっと明るくなる。
「もちろん!」
一瞬で答えた。
「だったら、ひめも呼んで四人で──」
「それはできないわ」
めぐみの笑顔が止まった。
ゆうこの表情も変わる。
いおなの瞳には、先ほどまでとは違う強い感情が浮かんでいる。
「私はキュアプリンセスとは一緒に戦えない」
「どうして?」
めぐみが尋ねる。
いおなは拳を握った。
ずっと閉じ込めてきた過去。
姉。
ファントム。
幻影帝国。
そして。
ブルースカイ王国の王女。
「理由があるの」
夕暮れの公園を風が抜ける。
いおなのプリチェンミラーが、紫色の光を反射した。
次回予告
いおな:
「私はプリンセスとはチームを組めない」
めぐみ:
「どうして!? ひめだって一緒に戦ってきた仲間だよ!」
いおな:
「そのプリンセスが、すべての始まりだからよ」
ひめ:
「やめて……」
ゆうこ:
「ひめちゃん……?」
いおな:
「アクシアを開け、幻影帝国を解放したのは白雪ひめよ」
悠:
「……それ、本当?」
ひめ:
「赤石くん……」
いおな:
「そのせいで、お姉ちゃんはファントムに倒された」
悠:
「まりあが……?」
めぐみ:
「次回、第20話『悲しい過去!! キュアフォーチュンの涙/知らなかった罪と、知っていた人』」
ひめ:
「みんなに嫌われる……!」
悠:
「白雪さん、待って!」
いおな:
「赤石君。あなたも知っていることを話しなさい」