ハピネスチャージプリキュア!夕映えのアーベント   作:Leona

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第19話『サッカー対決! チームプリキュア結成!/つなぐパスと、ひとりで走る影』

第19話『サッカー対決! チームプリキュア結成! /つなぐパスと、ひとりで走る影』

 

 ブルースカイ王国大使館のテーブルいっぱいに、色とりどりのプリカードが並んでいた。

 

「見て見て!」

 

 めぐみがカードファイルを掲げる。

 

「もうこんなに集まったよ!」

 

「私のもあとちょっと!」

 

 ひめも自分のファイルを開き、何度もページをめくっていた。プリカードが収まったポケットはほとんど埋まり、空いている場所はもう僅かしかない。

 

 リボンが胸を張る。

 

「ファイルがプリカードでいっぱいになれば、どんな願いでも一つだけ叶いますわ!」

 

「どんな願いでも!?」

 

 めぐみの目が輝く。

 

「だったら、お母さんがもっと元気になりますようにってお願いしたい!」

 

 ゆうこは少し考える。

 

「私は、みんながおいしいご飯を食べられたらいいな」

 

「ゆうゆうらしい!」

 

「ひめは?」

 

 めぐみに聞かれ、ひめは一瞬だけ黙った。

 

「私は……」

 

 手元のカードへ視線を落とす。

 

「ブルースカイ王国を元に戻したい」

 

 いつもの勢いはなかった。

 

 鏡に閉じ込められた父と母。

 

 黒い結晶に覆われた城。

 

 プリキュアの力さえ弱められる故郷。

 

 その全部を思い出したのだろう。

 

「ひめ……」

 

「でも!」

 

 ひめはすぐに顔を上げた。

 

「どんな願いでも叶うんだから、絶対戻せるよ!」

 

 めぐみが笑う。

 

「うん!」

 

「では問題がありますわ」

 

 リボンが人差し指を立てた。

 

「願いを叶えられるのは、一つだけですの」

 

 三人が固まる。

 

「え?」

 

「一つ?」

 

「三人で一個?」

 

「そうですわ」

 

 ひめがファイルを抱き締めた。

 

「ケチ!」

 

「私に言われても困りますわ!」

 

 めぐみは母親の顔を思い浮かべたらしく、少し困った顔になる。

 

 ゆうこも考え込む。

 

「まだ全部集まったわけじゃないし、その時までに考えようか」

 

「そうだね」

 

 めぐみが頷く。

 

 その少し離れた場所で、悠は宿題をしていた。

 

 ひめが気づく。

 

「赤石くんなら何お願いする?」

 

 悠のペンが止まった。

 

「僕?」

 

「そう。どんな願いでも一個だけ!」

 

「僕はプリカード集めてないよ」

 

「もしもの話!」

 

 悠は窓の外を見る。

 

 どんな願いでも。

 

 世界を変える。

 

 誰かを救う。

 

 失ったものを戻す。

 

 そんな力が、本当にあるのなら。

 

 浮かんだ顔は一人だった。

 

「……会いたい人に会う」

 

 三人が悠を見る。

 

 めぐみが尋ねる。

 

「会いたい人?」

 

「うん」

 

「誰?」

 

 悠は少し迷ってから首を振った。

 

「秘密」

 

 ひめがじっと見る。

 

「また秘密?」

 

「これは危ない秘密じゃないよ」

 

「ならまあ、いいけど」

 

 ゆうこは悠の顔を見たが、名前を尋ねることはしなかった。

 

 悠は再びノートへ目を落とす。

 

 まりあ。

 

 願いで呼び戻すのではなく、自分で会いに行きたい。

 

 そう思う自分もいた。

 

 もし願いだけですべてが済むのなら、三つの約束を守る意味までなくなってしまうような気がした。

 

 ★★★

 

 同じ頃。

 

 町の別の場所では、紫色の光がサイアークを包んでいた。

 

「プリキュア・スターダストシュート!」

 

「サイアーク!」

 

 巨大な身体が浄化され、鏡に閉じ込められていた人間が解放される。

 

 キュアフォーチュンは着地すると、すぐに周囲を確認した。

 

「終わったわ」

 

「今日も余裕だったな!」

 

 ぐらさんが飛んでくる。

 

 浄化された場所には新しいプリカードが残されていた。

 

 ぐらさんが拾い、ファイルへ入れる。

 

「これでまたいっぱいに近づいたぜ」

 

 フォーチュンは自分のファイルを見る。

 

 こちらも空きはあと僅か。

 

「願いが叶うのも近いな」

 

「ええ」

 

「いおなは何願うんだ?」

 

 フォーチュンは迷わなかった。

 

「もっと強くなる」

 

 ぐらさんの表情が曇る。

 

「やっぱりそれか」

 

「ファントムを倒すためには、今のままじゃ足りないわ」

 

 白い剣。

 

 一瞬で間合いへ入る速度。

 

 世界中のプリキュアを狩ってきた技術。

 

 自分だけでは届かなかった。

 

 そして姉も。

 

「お姉ちゃんを取り戻す」

 

 フォーチュンは拳を握る。

 

「そのためなら、もっと強くならないと」

 

 ぐらさんは少し黙ったあとに言う。

 

「だったら、あいつらと組むって手もあるんじゃねえか?」

 

 フォーチュンの表情が硬くなった。

 

「それはできないわ」

 

「ラブリーやハニーとは悪くないだろ?」

 

 返事がない。

 

「黒い妙な奴とまで一緒にファントムと戦ったじゃねえか」

 

 フォーチュンの目が僅かに動く。

 

 黒い異形。

 

 ファントムの剣を受け止めた存在。

 

 その正体は、まだ分からない。

 

 そして。

 

 赤石悠。

 

 姉のことを「知らないとは言えない」と答えた少年。

 

 考えることが増えている。

 

「プリンセスがいる限り、無理よ」

 

 フォーチュンはそれだけ言った。

 

 ぐらさんはため息をつく。

 

「頑固だなあ」

 

 フォーチュンは返事をしなかった。

 

 ★★★

 

 夜。

 

 大使館のバルコニーに、ひめは一人で立っていた。

 

 手にはプリカードのファイル。

 

 後ろからブルーが来る。

 

「ひめ」

 

「何?」

 

「めぐみとゆうこに、まだ話していないね」

 

 ひめの肩が僅かに動いた。

 

「……何を?」

 

「アクシアのことだよ」

 

 表情が消える。

 

 ひめはファイルを強く抱いた。

 

「今、話さなくてもいいじゃん」

 

「いつまでも隠しておけることではない」

 

「分かってるよ!」

 

 思わず強い声になる。

 

 ひめはすぐに俯いた。

 

「分かってるけど……」

 

 怖い。

 

 声にしなくても分かった。

 

 ブルーは隣へ立つ。

 

「めぐみとゆうこを信じていないのかい?」

 

「違う!」

 

 即答。

 

「だから怖いの!」

 

 ひめの声が震える。

 

「友達になれたのに。やっと普通に一緒にいられるようになったのに」

 

 アクシア。

 

 自分が開けた箱。

 

 幻影帝国が解き放たれた始まり。

 

 それを知られれば。

 

「嫌われたらどうするの」

 

 ブルーは簡単に「嫌われない」とは言わなかった。

 

「それでも、いつかはひめ自身の口から話すべきだと思う」

 

「……分かってる」

 

「急がせたいわけではないよ」

 

 ひめは夜の町を見る。

 

「もう少しだけ」

 

 小さな声。

 

「もう少しだけ待って」

 

 ブルーは静かに頷いた。

 

 ★★★

 

 翌朝。

 

 悠がまだ朝食を食べている時間に、キュアラインが鳴った。

 

『赤石!』

 

「相楽君?」

 

『今日空いてるか?』

 

「空いてるけど」

 

『サッカーできるか?』

 

 悠の箸が止まる。

 

「ルールは知ってる」

 

『実際にやったことは?』

 

「ほとんどない」

 

『よし、来い』

 

「どうしてそれで“よし”なの?」

 

 通話の向こうで、めぐみたちの声も聞こえた。

 

『赤石くんも来るの!?』

 

『人数足りないんだって!』

 

『お団子出るかな?』

 

 最後はひめだった。

 

 誠司が続ける。

 

『ぴかりが丘商店街のサッカーチームが町内大会に出るんだけど、急に何人か来られなくなったんだ。助っ人が欲しい』

 

 悠は少し考えた。

 

「分かった」

 

『動けるか?』

 

 悠は胸へ手を当てる。

 

 ファントムから受けた傷はほぼ治まっている。

 

 ブルースカイ王国で起きた奇妙な反応も、こちらへ戻ってからは再発していない。

 

「今日は大丈夫」

 

『なら来い。場所送る』

 

 通話が切れる。

 

 悠は残った朝食を見た。

 

「サッカー……」

 

 三百年生きていても、やったことのないものはいくらでもあった。

 

 ★★★

 

 グラウンドへ到着すると、すでに商店街チームの選手たちが集まっていた。

 

 中心に立っているのは、日に焼けた熱血漢。

 

「絶対に負けられない戦いが、そこにはある!」

 

 大声がグラウンドへ響く。

 

「俺がこのチームの監督! ゴン隊長だ!」

 

「隊長なんだ……」

 

 悠が小さく言う。

 

 誠司が隣で答える。

 

「みんなそう呼んでる」

 

 めぐみ、ひめ、ゆうこの三人はプリカードを使い、すでにサッカー選手風のウェアへ着替えていた。

 

 ひめはユニフォーム姿でくるりと回る。

 

「どう? 似合う?」

 

「試合する服だぞ」

 

 誠司が言う。

 

「分かってる!」

 

 悠は普通に借りたユニフォームだった。

 

「赤石くんだけ普通だね」

 

 めぐみが言う。

 

「プリカードないから」

 

「それもそっか」

 

 ゴン隊長は助っ人たちを一人ずつ見て、力強く頷く。

 

「よし! 若さ! 気合い! 根性! 十分だ!」

 

 悠は首を傾げる。

 

「サッカーの技術は?」

 

「細かいことは後だ!」

 

「細かいのかな」

 

「赤石、考えるな」

 

 誠司に止められた。

 

 グラウンドの向こうには、対戦相手のおまんじゅう屋を中心としたチームが集まっている。

 

 ゴン隊長は拳を握る。

 

「団子屋の意地にかけて、まんじゅう屋には絶対負けられん!」

 

 ひめの耳が動いた。

 

「団子屋?」

 

「そうだ!」

 

 ゴン隊長はひめを見る。

 

「もし今日ゴールを決めたら!」

 

 大きく息を吸う。

 

「団子三十本だ!」

 

 ひめの目が輝いた。

 

「三十本!?」

 

 ゆうこも少し驚く。

 

「一人で食べる量じゃないね」

 

「取る!」

 

 ひめは拳を握った。

 

「絶対私がゴールする!」

 

 誠司が嫌な予感を覚える。

 

「急にやる気出たな」

 

「当然!」

 

 その時。

 

「遅くなったわ」

 

 いおながグラウンドへ入ってきた。

 

 悠の表情が僅かに変わる。

 

 ひめはもっと露骨だった。

 

「いおな!?」

 

 誠司が答える。

 

「もう一人の助っ人だ。氷川は運動神経いいからな」

 

「聞いてない!」

 

「今言った」

 

 いおなはひめを一瞥すると、めぐみとゆうこへ軽く頭を下げる。

 

「よろしく」

 

「よろしくね、氷川さん!」

 

 めぐみが笑う。

 

 ゆうこも頷く。

 

「よろしくね」

 

 最後に、いおなの視線が悠へ向いた。

 

「赤石君」

 

「氷川さん」

 

 短い挨拶。

 

 それだけで少し空気が硬くなる。

 

 誠司が二人を見る。

 

「何かあったのか?」

 

「何も」

 

「別に」

 

 二人の返答が重なった。

 

 誠司は眉を上げたが、試合前なので追及しなかった。

 

 ★★★

 

 試合開始の笛が鳴った。

 

「行くよ!」

 

 めぐみがボールを追う。

 

 誠司が中盤から指示する。

 

「めぐみ、右!」

 

「うん!」

 

 パス。

 

 ゆうこが受ける。

 

「ひめちゃん!」

 

「こっちこっち!」

 

 ひめは大きく手を振る。

 

 ボールが来る。

 

「三十本!」

 

 全力で蹴った。

 

 ボールはゴールの遥か上へ飛んでいった。

 

「ええーっ!?」

 

 ひめが頭を抱える。

 

「力入れすぎだ!」

 

 誠司が叫ぶ。

 

「最初に言ってよ!」

 

「普通分かる!」

 

 悠は守備側にいた。

 

 相手のパスコースを見る。

 

 走る。

 

 ボールが来る前に先へ入る。

 

 奪う。

 

「赤石、ナイス!」

 

 誠司が声を上げる。

 

 悠は前を見る。

 

 ゴールまで距離がある。

 

 右にはめぐみ。

 

 左にはゆうこ。

 

 少し前にはいおな。

 

 全員が走っている。

 

 それでも悠は自分でボールを運んだ。

 

 一人目をかわす。

 

 二人目。

 

 三人目が来る。

 

 身体の動きだけなら対応できる。

 

 しかし、人間として不自然な動きをしないよう力を抑えながらボールまで制御することには慣れていない。

 

 足元からボールが離れた。

 

「あ」

 

 相手選手に奪われる。

 

「赤石!」

 

 誠司が走って戻る。

 

 相手の攻撃を何とか止めた。

 

 いおなが悠の近くへ来る。

 

「どうして出さなかったの?」

 

「何を?」

 

「パスよ」

 

「自分で行けると思ったから」

 

「行けなかったでしょう」

 

 正論だった。

 

「……うん」

 

「サッカーは一人でやるものじゃないわ」

 

 少し離れた場所でひめが聞く。

 

「それ私にも言ってる?」

 

「あなたにはもっと言いたいわ」

 

「何よ!」

 

 試合は続く。

 

 今度はいおながボールを受けた。

 

 一人をかわす。

 

 二人目。

 

 誠司が走る。

 

 めぐみも横へ開く。

 

 しかし、いおなはそのまま突破した。

 

「氷川さん!」

 

 めぐみが呼ぶ。

 

 いおなは自分でシュートする。

 

 鋭いボールがゴールネットへ突き刺さった。

 

「ゴール!」

 

 歓声が上がった。

 

「すごい!」

 

 めぐみが駆け寄る。

 

 ゆうこも拍手する。

 

 ゴン隊長は雄叫びを上げた。

 

「素晴らしいぞ氷川ーっ!」

 

 ひめは悔しそうに口を尖らせる。

 

「私の三十本……」

 

 悠は少し離れたところで、いおなのプレーを見ていた。

 

 確かに強い。

 

 一人で突破できる。

 

 だから、パスを出さない。

 

「氷川さんも一人で行った」

 

 いおなが聞きつける。

 

「私は決めたでしょう」

 

「それならいいの?」

 

 いおなが言葉に詰まった。

 

「状況が違うわ」

 

「どう違う?」

 

「赤石、試合中に議論するな!」

 

 誠司が割って入る。

 

 二人とも走り出した。

 

 ★★★

 

 時間が進むにつれ、相手チームも調子を上げてきた。

 

 一点を返される。

 

 一対一。

 

 ひめは何としても自分で点を取りたくて仕方がない。

 

「私にパス!」

 

 めぐみからボールを受ける。

 

 前には相手が二人。

 

 右に悠。

 

 左に誠司。

 

 いおなも前へ走っている。

 

「三十本!」

 

「それ忘れろ!」

 

 誠司の叫びも届かない。

 

 ひめは一人目へ突っ込む。

 

 簡単に奪われた。

 

「ああーっ!」

 

 いおながため息をつく。

 

「だからチームプレーをしなさい」

 

「分かってる!」

 

「分かっている人の動きじゃないわ」

 

「いおなだってさっき一人でシュートしたじゃん!」

 

「決められる状況だったからよ」

 

「私だって決めようとした!」

 

「できてないでしょう!」

 

「何よ!」

 

 二人が睨み合う。

 

 ボールはすでに反対側へ行っている。

 

 悠が横を走り抜けながら言う。

 

「喧嘩してる場合じゃないと思う」

 

「赤石くんは黙ってて!」

 

「赤石君もパスを覚えなさい!」

 

「僕まで?」

 

 結局、前半終了の笛が鳴るまで追加点は入らなかった。

 

 一対一。

 

 選手たちはテントへ戻る。

 

 ゴン隊長は両手を叩いた。

 

「いいぞ! 気持ちは負けていない!」

 

「点は同じだけどね……」

 

 ひめは地面へ座り込む。

 

「団子が遠い……」

 

 ゆうこが水筒を渡す。

 

「まず水分ね」

 

「ありがと」

 

 悠もベンチへ座る。

 

 誠司が隣へ来た。

 

「赤石、初めてにしては動けてる」

 

「でも取られた」

 

「パス出せばよかったな」

 

「それ、氷川さんにも言われた」

 

「俺も言う」

 

 悠はグラウンドを見る。

 

「自分で運べるなら、自分で行った方が早くない?」

 

「相手が一人ならな」

 

「二人なら?」

 

「空いてる味方に出す」

 

「味方が取られたら?」

 

「また取り返す」

 

「自分で全部やった方が確実じゃない?」

 

 誠司は悠を見る。

 

「お前、それサッカーの話してるか?」

 

 悠が止まる。

 

「……してるつもり」

 

「だったら覚えろ。ボールは渡してもなくならない」

 

 その言葉に、悠の目が僅かに動いた。

 

「戻ってくる?」

 

「状況次第じゃな」

 

 誠司はタオルで顔を拭く。

 

「渡した先のやつが、もっといいところにいるかもしれない。そいつから別のやつへ繋いだ方が早いこともある」

 

 悠は少し考えた。

 

「全部、自分で持ってなくてもいい」

 

「サッカーではな」

 

 誠司は苦笑する。

 

「お前の場合、他でも覚えた方がいいかもしれないけど」

 

 悠は返さなかった。

 

 その少し先。

 

 いおなは一人でスポーツドリンクを飲んでいた。

 

 ぐらさんの言葉が頭をよぎる。

 

 一人より。

 

 チーム。

 

 必要ない。

 

 そう思ってきた。

 

 自分には、自分の目的がある。

 

 姉を助ける。

 

 ファントムを倒す。

 

 そのために、誰かへ合わせている時間はない。

 

 だが。

 

 目の前の試合は、一人ではできない。

 

「氷川さん」

 

 悠が近くへ来た。

 

「何?」

 

「さっきはごめん」

 

 いおなが意外そうな顔をする。

 

「何が?」

 

「パスを出さなかったこと」

 

「私に謝ることではないわ」

 

「そう?」

 

「チームにでしょう」

 

 悠は少し困る。

 

「全員に謝るの?」

 

「次から出せばいいのよ」

 

「分かった」

 

 悠は戻ろうとした。

 

「待ちなさい」

 

 いおなが呼び止める。

 

「何?」

 

「お姉ちゃんのこと」

 

 空気が変わる。

 

 悠の視線がいおなへ戻る。

 

「あなたは、どこで知ったの?」

 

「……今ここで聞く?」

 

「ずっと誤魔化されているもの」

 

 悠は黙った。

 

 いおなの目は真剣だった。

 

 怒っているだけではない。

 

 不安なのだ。

 

 姉を知っていると言う、正体の分からない少年。

 

「会ったことがある」

 

 悠はようやく答えた。

 

 いおなの目が見開かれる。

 

「お姉ちゃんと?」

 

「うん」

 

「いつ?」

 

 そこには答えられない。

 

 正確に話せば、自分自身について説明する必要が出る。

 

「それは……まだ言えない」

 

「またそれ?」

 

 いおなの声が冷たくなる。

 

「あなた、いつまでそうやって──」

 

「でも」

 

 悠は逃げずに続けた。

 

「まりあには、助けてもらった」

 

 いおなが完全に固まった。

 

「……まりあ?」

 

 悠も気づいた。

 

 普段より自然に名前が出た。

 

 いおなの目が鋭くなる。

 

「お姉ちゃんを、名前で呼ぶのね」

 

「……うん」

 

「どういう関係だったの?」

 

 答えられない。

 

 だが「知らない」とも言えない。

 

 悠は口を閉じる。

 

 そこへゴン隊長の声が響いた。

 

「みんなーっ! 後半戦の前に団子でエネルギーチャージだ!」

 

 緊張した空気が途切れる。

 

 いおなは悠から目を離さなかった。

 

「この話、終わってないから」

 

「分かってる」

 

「必ず聞かせてもらうわ」

 

 悠は小さく頷いた。

 

「うん」

 

 今度は逃げなかった。

 

 ★★★

 

 ゴン隊長は大量の団子を抱えていた。

 

「腹が減っては戦はできん! 食え!」

 

 ひめの目が輝く。

 

「いただきます!」

 

「得点してなくても食うのか」

 

 誠司が言う。

 

「これは補給!」

 

 ひめが一本取ろうとした、その瞬間。

 

「実にくだらん!」

 

 聞き覚えのある声が響いた。

 

 ゴン隊長が振り返る。

 

「何者だ!」

 

 オレスキーが腕を組んで立っていた。

 

「チームだと? 仲間だと? 一番とは常にただ一人!」

 

 ひめが嫌そうな顔をする。

 

「またオレスキー」

 

「またとは何だ!」

 

 オレスキーはゴン隊長を指す。

 

「全員で力を合わせて勝つなど、ナンバーワンを目指す者の風上にも置けん!」

 

「サッカーはチームスポーツだ!」

 

 ゴン隊長が言い返す。

 

「一人で十一人を相手にできるか!」

 

「俺様ならできる!」

 

「絶対無理!」

 

 めぐみが反射的に言った。

 

「うるさい!」

 

 鏡が現れる。

 

「鏡に映る未来を最悪に変えよ! 来たれ! サイアーク!」

 

「うおおっ!?」

 

 ゴン隊長が鏡へ閉じ込められる。

 

 黒い霧。

 

 巨大なサッカーボールを身体の中心へ持つサイアークが現れた。脚は太く、両腕にはゴールネットのようなものが巻きついている。

 

「サイアーク!」

 

「監督!」

 

 選手たちが騒ぎ出す。

 

 誠司が即座に動いた。

 

「全員グラウンドの外へ!」

 

 悠も周囲を見る。

 

「こっち! ベンチから離れて!」

 

 二人で一般選手を誘導する。

 

 めぐみ、ひめ、ゆうこは人目のない場所へ走った。

 

 いおなは逆方向へ姿を消す。

 

 悠はそれを見た。

 

 やはり。

 

 そう思っただけで、何も言わない。

 

 三色の光がグラウンドへ広がる。

 

 ★★★

 

「プリキュア・くるりんミラーチェンジ!」

 

「世界に広がるビッグな愛! キュアラブリー!」

 

「天空に舞う蒼き風! キュアプリンセス!」

 

「大地に実る命の光! キュアハニー!」

 

 三人がサイアークの前へ立つ。

 

 オレスキーは腕を組んだ。

 

「チームワークなど弱者が群れるための言い訳! サイアーク、まとめて蹴散らせ!」

 

「サイアーク!」

 

 巨大な脚がサッカーボールを蹴る。

 

「来るよ!」

 

 ラブリーが受け止めようとする。

 

「うわっ!」

 

 予想以上の衝撃。

 

 ボールごと後ろへ押される。

 

 プリンセスとハニーが支える。

 

「重い!」

 

「三人でも押される!」

 

「だったら!」

 

 ラブリーが力を抜いて横へ跳ぶ。

 

 ボールが通り過ぎる。

 

「避ければいい!」

 

「そうだった!」

 

 プリンセスが笑う。

 

 三人が散開する。

 

 ラブリーが右。

 

 プリンセスが左。

 

 ハニーが中央。

 

 サイアークが一瞬迷った。

 

「今!」

 

 三方向から攻撃。

 

 ラブリーの拳。

 

 プリンセスの蹴り。

 

 ハニーのバトン。

 

 サイアークがよろめく。

 

「いいぞ!」

 

 離れた場所から誠司が叫ぶ。

 

 悠も見ている。

 

 一人へ攻撃を集中させず、相手の意識を分散させる。

 

 サッカーと同じ。

 

 そう思った瞬間。

 

 サイアークの両腕が広がった。

 

「サイアーク!」

 

 巨大なゴールネットが三人へ飛ぶ。

 

「えっ!?」

 

 ラブリーが避けようとする。

 

 広すぎる。

 

 三人まとめてネットに包み込まれた。

 

「きゃあっ!」

 

 地面へ落とされる。

 

「動けない!」

 

 プリンセスが暴れる。

 

「絡まって余計締まるよ!」

 

 ハニーが止める。

 

 オレスキーが高笑いする。

 

「見たか! まとめているからまとめて捕まるのだ!」

 

「それチームワークと関係ないでしょ!」

 

 プリンセスが叫ぶ。

 

 サイアークが巨大なボールを構える。

 

 三人は動けない。

 

 悠の胸が脈打った。

 

 助ける。

 

 人目はほぼ避難している。

 

 ダークネスミラーチェンジャーへ手を伸ばしかける。

 

「赤石」

 

 誠司の声。

 

 悠が見る。

 

「出るつもりか?」

 

「三人が動けない」

 

「まだだ」

 

「でも」

 

「見ろ」

 

 誠司がグラウンドの反対側を示す。

 

 紫色の光。

 

 悠は手を下ろした。

 

 ★★★

 

 サイアークのボールが蹴られる。

 

 その直前。

 

 紫の星がネットを切り裂いた。

 

「何!?」

 

 オレスキーが振り向く。

 

「夜空にきらめく希望の星! キュアフォーチュン!」

 

 フォーチュンが着地する。

 

「フォーチュン!」

 

 ラブリーの顔が明るくなる。

 

 ネットから抜け出したプリンセスだけは複雑そうな表情をした。

 

 フォーチュンはサイアークだけを見る。

 

「下がっていて」

 

「待って!」

 

 ラブリーが呼ぶ。

 

「一緒に戦おうよ!」

 

「必要ないわ」

 

「でもさっき助けてくれたじゃん!」

 

「助けただけよ」

 

 フォーチュンが走る。

 

 鋭い蹴りがサイアークの胸へ入る。

 

 拳。

 

 回転蹴り。

 

 一人でも圧倒している。

 

「すごい……」

 

 ラブリーが見つめる。

 

 しかしサイアークのネットが背後から迫った。

 

 フォーチュンは気づいていない。

 

「フォーチュン、後ろ!」

 

 ラブリーが飛び込む。

 

 ネットを拳で弾く。

 

「!」

 

 フォーチュンが振り返る。

 

 別方向からボール。

 

 プリンセスが風を放つ。

 

「プリンセス・トルネード!」

 

 軌道が逸れる。

 

「今だよ、フォーチュン!」

 

 ハニーの黄色い光がサイアークの脚へ絡みつく。

 

 動きが止まる。

 

 フォーチュンの前に、一直線の道が開いた。

 

「……!」

 

 一瞬だけ迷う。

 

 一人で戦うなら、すべて自分で警戒しなければならない。

 

 後ろ。

 

 横。

 

 敵の反撃。

 

 それを今は、三人が止めている。

 

「行って!」

 

 ラブリーが叫ぶ。

 

 フォーチュンは地面を蹴った。

 

「はあっ!」

 

 拳がサイアークへ直撃する。

 

 大きく後退。

 

 フォーチュンは着地すると、プリチェンミラーを構えた。

 

「星の光を聖なる力に!」

 

 紫色の星々が広がる。

 

「プリキュア・スターダストシュート!」

 

 光がサイアークを包み込む。

 

「サイアーク!」

 

 巨大な身体が浄化され、鏡が砕けた。

 

 ゴン隊長が解放される。

 

「やった!」

 

 ラブリーが飛び上がった。

 

「フォーチュンすごい!」

 

 ハニーも笑う。

 

「一気に浄化しちゃったね」

 

 フォーチュンは三人へ背を向けたまま、少し黙った。

 

「……後ろを気にしなくてよかったから」

 

「え?」

 

「一人なら、あそこまで簡単にはいかなかったわ」

 

 ラブリーの顔が明るくなる。

 

「じゃあ!」

 

「勘違いしないで」

 

 フォーチュンはすぐに釘を刺す。

 

 それでも。

 

「助かったわ」

 

 小さな一言。

 

 ぐらさんが満足そうに笑った。

 

 プリンセスは何も言えずにフォーチュンを見ていた。

 

 悠も遠くからその姿を見る。

 

 一人で何でもできるように見えるフォーチュンですら。

 

 背中を任せれば、もっと前へ進める。

 

「パスみたいだね」

 

 誠司が聞く。

 

「何が?」

 

「力を渡したわけじゃないけど、役目を渡してる」

 

 誠司は少し笑った。

 

「分かってきたじゃないか」

 

 ★★★

 

 黒い霧の中で、オレスキーは悔しそうに拳を振り上げた。

 

「チームワークなど俺様には必要ない! 頂点とは常に一人なのだ!」

 

 そのまま姿を消す。

 

 ゴン隊長は意識を取り戻すと、サイアークにされたことなど忘れたように立ち上がった。

 

「何だか途中の記憶がないが!」

 

 拳を上げる。

 

「プリキュアが助けてくれたらしい! ならば俺たちも後半戦、全力で行くぞ!」

 

「おーっ!」

 

 選手たちの声が響く。

 

 試合は再開された。

 

 ひめはグラウンドへ戻りながら、自分の足元を見る。

 

「チームプレー……」

 

 いおなが隣を通る。

 

 ひめは一瞬だけ睨む。

 

 しかし今度は何も言わなかった。

 

 後半開始。

 

 ボールがめぐみへ渡る。

 

「ひめ!」

 

 パス。

 

 ひめが受ける。

 

 前には相手が二人。

 

 以前なら、そのまま突っ込んでいた。

 

 右を見る。

 

 悠が走っている。

 

「赤石くん!」

 

 ボールを蹴る。

 

 悠の足元へ届く。

 

「僕?」

 

「前!」

 

「分かった!」

 

 悠は運ぶ。

 

 一人目が来る。

 

 自分で抜けるかもしれない。

 

 でも、左から誠司が上がっている。

 

 今度は迷わない。

 

「相楽君!」

 

 パス。

 

「ナイス!」

 

 誠司が受ける。

 

 さらにゆうこへ。

 

 ゆうこがヘディングで前へ送る。

 

「めぐみちゃん!」

 

 めぐみが走り込む。

 

 相手が寄る。

 

 めぐみは無理に撃たない。

 

「氷川さん!」

 

 いおなへパス。

 

 シュート。

 

「はあっ!」

 

 ボールはゴールネットへ吸い込まれた。

 

 笛が鳴る。

 

「ゴール!」

 

 その直後。

 

 試合終了を告げる長いホイッスル。

 

「勝ったーっ!」

 

 めぐみが飛び上がる。

 

 ゴン隊長が雄叫びを上げた。

 

「勝利だああああっ!」

 

 選手たちが喜び合う。

 

 悠は少し遅れて集団へ歩く。

 

 ひめが振り返る。

 

「赤石くん!」

 

「何?」

 

「パスできたじゃん!」

 

「白雪さんも」

 

「私は最初からできるし!」

 

「前半は?」

 

「忘れた!」

 

 誠司が笑う。

 

「都合いいな」

 

 いおなはゴールの前に立っていた。

 

 自分が決めた。

 

 それでも、最後の一点は自分一人では生まれていない。

 

 ひめから悠。

 

 悠から誠司。

 

 誠司からゆうこ。

 

 ゆうこからめぐみ。

 

 めぐみから自分。

 

 ボールが繋がってきた。

 

 ゴン隊長が大量の団子を持ってくる。

 

「約束だ! 決勝点を決めた氷川へ団子三十本!」

 

 ひめが崩れ落ちる。

 

「私の三十本……」

 

 いおなは団子を見る。

 

 以前なら、そのまま受け取っていたかもしれない。

 

「みんなで分けましょう」

 

 全員がいおなを見る。

 

 ひめまで顔を上げた。

 

「え?」

 

 いおなは少し居心地悪そうに続ける。

 

「最後のゴールは、私一人で取ったものじゃないから」

 

 めぐみが笑う。

 

「うん!」

 

「じゃあ一人何本!?」

 

 ひめが立ち上がる。

 

「結局そこなんだ」

 

 ゆうこが笑った。

 

 悠は一本受け取った団子を見る。

 

 自分が点を決めたわけではない。

 

 それでも、自分にも回ってきた。

 

「これもパス?」

 

 誠司が眉を上げる。

 

「団子は普通に分けただけだ」

 

「似てる気がする」

 

「まあ、好きに考えろ」

 

 悠は団子を一口食べた。

 

 甘かった。

 

 ★★★

 

 片付けが終わる頃には、空が橙色へ変わり始めていた。

 

 悠は借りたユニフォームを返し、グラウンド脇で鞄を持ち上げる。

 

「赤石君」

 

 声に振り返る。

 

 いおなが立っていた。

 

「少しいい?」

 

「うん」

 

 二人は他のメンバーから少し離れた。

 

 いおなはまっすぐ悠を見る。

 

「さっきの話」

 

「まりあのこと?」

 

 今度は悠の方から名前を出した。

 

 いおなの表情が僅かに変わる。

 

「やっぱり、普通に名前で呼ぶのね」

 

「そう呼んでたから」

 

「お姉ちゃんも、あなたを知っているの?」

 

「知ってる」

 

「あなたのことを何て呼んでいたの?」

 

 悠は少し迷う。

 

「悠」

 

 いおなの息が止まる。

 

 姉が名前で呼んでいた。

 

 ただの知り合いではない。

 

「いつ会ったの?」

 

 悠はまた答えられない。

 

 いおなの眉が寄る。

 

「そこだけは言えないの?」

 

「今は」

 

「どうして?」

 

「話したら、まりあのことだけじゃ済まないから」

 

 いおなは悠を見る。

 

「あなた自身の秘密?」

 

 悠は頷かなかった。

 

 否定もしなかった。

 

 それで十分だった。

 

「赤石君」

 

 声が少し硬くなる。

 

「お姉ちゃんがいなくなったことに、あなたは関係しているの?」

 

 悠はすぐに顔を上げた。

 

「違う」

 

 今度だけは迷わない。

 

「それは違う」

 

「本当に?」

 

「うん」

 

 いおなはその返答を見た。

 

 嘘が下手な悠。

 

 今は視線を逸らしていない。

 

 声も早すぎない。

 

「……分かったわ」

 

 完全に信用したわけではない。

 

 それでも一つだけ、保留にする。

 

 悠は逆に尋ねた。

 

「氷川さん」

 

「何?」

 

「まりあを助けたいんだよね」

 

「当たり前でしょう」

 

「僕も」

 

 いおなの目が見開かれる。

 

 悠はそれ以上説明しなかった。

 

「僕も、まりあに会いたい」

 

 しばらく二人とも何も言わなかった。

 

 同じ人を探している。

 

 理由も。

 

 関係も。

 

 互いにまだ分からない。

 

 それでも、その一点だけは同じだった。

 

「なら」

 

 いおなが言う。

 

「いつか全部話して」

 

 悠は少し考えた。

 

「全部は、すぐには無理かもしれない」

 

 いおなの目が厳しくなる。

 

「でも」

 

 悠は続ける。

 

「話せるところから話す」

 

 いおなは僅かに驚いた。

 

 以前なら、悠はすべて閉じただろう。

 

「……約束よ」

 

「うん」

 

 いおなは踵を返した。

 

 数歩進んでから止まる。

 

「それから」

 

「何?」

 

「今日の最後のパス、悪くなかったわ」

 

 悠は瞬きをする。

 

「ありがとう」

 

「次はもっと早く離しなさい」

 

「そこまで?」

 

「そこまでよ」

 

 いおなは歩いていった。

 

 悠は少しだけ笑った。

 

 ★★★

 

 グラウンドを出たところで、いおながめぐみたちを呼び止めた。

 

「愛乃さん。大森さん」

 

「ん?」

 

 めぐみとゆうこが振り返る。

 

 ひめも足を止めた。

 

「私?」

 

 いおなは一瞬だけひめを見る。

 

「……二人に話があるの」

 

 ひめの顔から少し笑みが消えた。

 

「二人だけ?」

 

「ええ」

 

 短い答え。

 

 ひめは何か言おうとしたが、やめた。

 

「じゃあ私、先帰る」

 

「ひめ?」

 

 めぐみが呼ぶ。

 

「大丈夫。お団子もあるし!」

 

 明るく言って先へ歩く。

 

 しかし、悠には分かった。

 

 歩き方が少しだけ速い。

 

「白雪さん」

 

「何?」

 

 ひめが振り返る。

 

「一緒に帰る」

 

「赤石くん、話聞かなくていいの?」

 

「僕は呼ばれてないから」

 

 誠司も肩をすくめる。

 

「俺もだな」

 

「じゃあ帰ろ!」

 

 ひめはまた笑った。

 

 三人で歩き出す。

 

 悠は一度だけ後ろを振り返る。

 

 めぐみ。

 

 ゆうこ。

 

 そしていおな。

 

 何を話すのか、おおよそ分かっていた。

 

 それでも聞かない。

 

 いおなが自分で話すと決めた秘密だから。

 

 ★★★

 

 人通りの少ない公園。

 

 いおなはめぐみとゆうこの前に立っていた。

 

 ぐらさんも姿を現す。

 

「ぐらさん!?」

 

 めぐみが目を丸くする。

 

 ゆうこも驚いた。

 

「ということは……」

 

 いおなは鞄から一つの鏡を取り出す。

 

 紫色の装飾。

 

 プリチェンミラー。

 

 二人の表情が変わった。

 

「氷川さん……」

 

「私は」

 

 いおなは鏡を握る。

 

「キュアフォーチュンよ」

 

 めぐみの口が開く。

 

「えええええっ!?」

 

 ゆうこも珍しく目を丸くしていた。

 

 いおなは少しだけ視線を外す。

 

「今日分かったわ。一人で戦うより、誰かと一緒に戦った方ができることもある」

 

 サッカー。

 

 サイアークとの戦い。

 

 自分一人なら警戒しなければならない背中を、誰かが守ってくれた。

 

「愛乃さん。大森さん」

 

 二人を見る。

 

「私とチームを組んでほしい」

 

 めぐみの顔がぱっと明るくなる。

 

「もちろん!」

 

 一瞬で答えた。

 

「だったら、ひめも呼んで四人で──」

 

「それはできないわ」

 

 めぐみの笑顔が止まった。

 

 ゆうこの表情も変わる。

 

 いおなの瞳には、先ほどまでとは違う強い感情が浮かんでいる。

 

「私はキュアプリンセスとは一緒に戦えない」

 

「どうして?」

 

 めぐみが尋ねる。

 

 いおなは拳を握った。

 

 ずっと閉じ込めてきた過去。

 

 姉。

 

 ファントム。

 

 幻影帝国。

 

 そして。

 

 ブルースカイ王国の王女。

 

「理由があるの」

 

 夕暮れの公園を風が抜ける。

 

 いおなのプリチェンミラーが、紫色の光を反射した。

 

 次回予告

 

 いおな:

「私はプリンセスとはチームを組めない」

 

 めぐみ:

「どうして!? ひめだって一緒に戦ってきた仲間だよ!」

 

 いおな:

「そのプリンセスが、すべての始まりだからよ」

 

 ひめ:

「やめて……」

 

 ゆうこ:

「ひめちゃん……?」

 

 いおな:

「アクシアを開け、幻影帝国を解放したのは白雪ひめよ」

 

 悠:

「……それ、本当?」

 

 ひめ:

「赤石くん……」

 

 いおな:

「そのせいで、お姉ちゃんはファントムに倒された」

 

 悠:

「まりあが……?」

 

 めぐみ:

「次回、第20話『悲しい過去!! キュアフォーチュンの涙/知らなかった罪と、知っていた人』」

 

 ひめ:

「みんなに嫌われる……!」

 

 悠:

「白雪さん、待って!」

 

 いおな:

「赤石君。あなたも知っていることを話しなさい」

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