ハピネスチャージプリキュア!夕映えのアーベント   作:Leona

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第3話『秘密がばれちゃった!? プリキュアの正体は絶対秘密!!/見つめる少年、見抜く幼なじみ』

 第3話『秘密がばれちゃった!? プリキュアの正体は絶対秘密!!/見つめる少年、見抜く幼なじみ』

 

 幻影帝国の城に広がる鏡の一枚へ、ぴかりが丘の様子が映し出されていた。映っているのは、キュアラブリーとキュアプリンセスが手を取り合い、サイアークを浄化する光景だった。

 

「新しいプリキュアが増えたと思ったら、もうお友達ごっこですの?」

 

 甘ったるい声とともに、ホッシーワが鏡の前へ姿を現す。指先で髪を巻きながら、仲良く笑う二人を不愉快そうに眺めていた。

 

「友情だの秘密だの、面倒なものを大切にしているのね。隠し事があるなら疑えばいいのよ。信じて傷つくくらいなら、最初から誰も信用しなければいいんだわ」

 

 鏡の映像が切り替わる。愛乃めぐみの隣には、幼なじみの相楽誠司がいた。長い付き合いのためか、誠司はめぐみのわずかな表情の変化にも気づいている。

 

 別の鏡には、教室の窓際に座る赤石悠が映っていた。悠もまた、めぐみがプリキュアであることを知りながら、その事実を誰にも話していない。

 

 ホッシーワは目を細めた。

 

「秘密を守るための嘘が、大切な相手との間にどれだけ大きな亀裂を作るのか。見せてもらおうかしら」

 

 鏡の表面が黒く染まり、ぴかりが丘の朝焼けを映し出した。

 

 ★★★

 

 前日の夕方、ブルースカイ王国大使館の広間では、めぐみとひめがソファへ並んで座っていた。二人の前に立つブルーの手には、桃色と青色の小さな端末がある。

 

「二人に、これを渡しておこう」

 

 ブルーが端末を差し出す。

 

「これはキュアライン。プリキュア同士で連絡を取り合うための道具だ」

 

「スマートフォンみたい!」

 

 めぐみは桃色のキュアラインを受け取り、目を輝かせた。画面を触ると、ひめやリボンの顔が連絡先に表示される。

 

「写真も撮れるのかな?」

 

「遊ぶためのものではありませんわ」

 

 リボンが注意したが、ひめも青色のキュアラインを手にして、さっそく自分の顔を撮影している。

 

「この角度が一番可愛いかも」

 

「ひめも遊んでるよ!」

 

「わたしは使い方を確認してるだけ!」

 

 めぐみとひめが端末を取り合うように操作する姿を見て、ブルーは穏やかに微笑んだ。しかし、その表情はすぐに真剣なものへ変わる。

 

「二人に、一つ大切なことを伝えておかなければならない」

 

 めぐみとひめは顔を上げた。

 

「プリキュアであることは、誰にも話してはいけない」

 

「どうして?」

 

 めぐみは不思議そうに尋ねる。

 

「正体を知られたら、応援してくれる人も増えるんじゃないかな」

 

「君たちの正体を知る者は、幻影帝国から狙われる可能性がある。家族や友人を戦いへ巻き込むことになるかもしれない」

 

 めぐみの笑顔が曇った。母親のかおりや幼なじみの誠司、大切な友人たちの顔が浮かぶ。

 

 プリキュアになったことを知らせれば、きっと驚くだろう。応援してくれるかもしれない。だが、そのせいで危険な目に遭わせる可能性もある。

 

「分かった。絶対に秘密にする」

 

 めぐみはキュアラインを握り締めた。

 

「本当に大丈夫?」

 

 ひめが疑いの目を向ける。

 

「めぐみ、隠し事がすっごく苦手そうだけど」

 

「失礼だなあ。私だって秘密くらい守れるよ!」

 

「昨日、赤石君に怪物を見たか聞いたとき、顔に全部出てたよ」

 

「見てたの!?」

 

「少し離れたところにいたもん」

 

 めぐみは頬を押さえた。

 

「赤石君、気づいてないよね」

 

「多分ね」

 

 ひめはそう答えたが、完全には信じていなかった。悠はめぐみの下手な言い訳を聞いても、何も追及しなかった。気づいていないのではなく、気づいたうえで黙っているようにも見えた。

 

 ブルーは二人を見比べる。

 

「秘密を守ることは、相手を信用しないこととは違う。話さないことで相手を守る場合もある。ただし、嘘を重ねすぎれば、かえって大切な関係を傷つけることもある」

 

「じゃあ、どうすればいいの?」

 

「簡単な答えはないよ。誰かを守りたいという気持ちと、相手を遠ざけたくないという気持ち。その両方を忘れずに、自分で考えることが大切なんだ」

 

 めぐみは難しい顔でキュアラインを見つめた。

 

 ひめがその肩を軽く叩く。

 

「とにかく、変身するところを見られなければいいんだよ」

 

「それなら大丈夫!」

 

「その自信はどこから来るの?」

 

 二人のやり取りを聞きながら、リボンは早くも不安そうな顔をしていた。

 

 ★★★

 

 翌朝、ぴかりが丘学園の教室では、めぐみが机の下でキュアラインを操作していた。

 

 ひめから送られてくるメッセージが、次々と画面に表示される。

 

『おはよう』

 

『起きてる?』

 

『今日のおやつは何がいい?』

 

『めぐみの部屋も見てみたい』

 

『返事が遅いよ』

 

 めぐみは教師に見つからないよう、机の陰で短い返事を打つ。

 

『授業中だから、あとでね』

 

 すぐに新しいメッセージが届く。

 

『学校って退屈なんだね』

 

 めぐみは思わず笑いそうになり、口元を手で押さえた。

 

「朝から何をにやにやしてるんだ?」

 

 隣の列から誠司が声をかける。めぐみは慌ててキュアラインを机の中へ隠した。

 

「な、何でもないよ!」

 

「何でもない顔じゃないだろ」

 

「本当に何でもないの!」

 

 誠司の疑い深い視線に耐えきれず、めぐみは教科書を顔の前へ持ち上げた。

 

 窓際の席にいた悠は、二人の様子を静かに見ていた。

 

 めぐみは秘密を守ろうとしている。だが、隠そうと意識するほど不自然になっている。誠司の方も、何かを話していないことにはすでに気づいているようだった。

 

 教師が黒板へ向き直った隙に、めぐみは再びキュアラインを確認する。ところが、机の中から取り出そうとしたプリチェンミラーまで一緒に滑り落ちた。

 

 硬い音を立て、鏡が床を滑っていく。

 

「わあっ!」

 

 めぐみが立ち上がるより早く、悠が足元へ届いたプリチェンミラーを拾った。

 

「愛乃さん、落としたよ」

 

「ありがとう!」

 

 めぐみは勢いよく鏡を受け取り、胸元へ抱き締める。その動きがあまりにも大げさだったため、誠司の目が細くなった。

 

「それ、普通の鏡じゃないよな」

 

「ふ、普通だよ!」

 

「普通の鏡をそんなに必死で隠すのか?」

 

「これは、その……」

 

 めぐみは言葉を探したが、何も浮かばない。

 

 悠が机へ視線を戻したまま口を開く。

 

「ブルースカイ王国の化粧用コンパクトじゃないかな」

 

「化粧用?」

 

 誠司が悠を見る。

 

「白雪さんが持っていたものと似ていたから」

 

「そ、そう! ひめからもらったの!」

 

 めぐみは大きく頷いた。

 

 誠司は納得していない様子だったが、授業中であるため、それ以上は聞かなかった。

 

 めぐみは小声で悠へ囁く。

 

「ありがとう、赤石君」

 

「何のこと?」

 

「今、助けてくれたでしょ」

 

「僕は思ったことを言っただけだよ」

 

 悠はプリチェンミラーが化粧用ではないことを知っている。嘘をついたことには違いない。

 

 胸の奥にわずかな違和感が残った。

 

 まりあは、嘘をすべて悪いものだとは教えなかった。秘密を守るため、誰かを危険から遠ざけるため、事実を話せないことはある。

 

 だが、嘘をつく相手が大切な人であるほど、その重さは増していくとも言っていた。

 

 悠は誠司の横顔を見る。

 

 誠司は黒板を見ているものの、時折めぐみへ視線を向けていた。

 

 長く近くにいたからこそ、隠し事に気づく。

 

 その関係が悠には少し羨ましく、同時に恐ろしく思えた。

 

 ★★★

 

 昼休み、めぐみは中庭で誠司に呼び止められた。

 

「めぐみ。最近、何か隠してるだろ」

 

「何も隠してないよ」

 

 答えが早すぎた。

 

 誠司は腕を組む。

 

「白雪と知り合ってから、急に変な鏡を持ち歩き始めた。昨日はサイアークが出た場所にいたのに、何があったのかほとんど話そうとしない。さっきも見たことのない端末を隠してた」

 

「偶然だよ!」

 

「何が偶然なんだ」

 

「全部!」

 

「その説明で納得できると思うか?」

 

 めぐみは俯いた。

 

 本当のことを言いたい。誠司なら、きっと自分を助けてくれる。だが、話せば誠司を幻影帝国との戦いへ巻き込むかもしれない。

 

「ごめん。言えない」

 

 誠司の表情がわずかに変わった。

 

「俺を信用できないのか?」

 

「違うよ!」

 

 めぐみは顔を上げる。

 

「誠司だから言えないの」

 

「どういう意味だ」

 

「それも言えない」

 

「何だよ、それ」

 

 誠司の声には怒りよりも寂しさが混じっていた。

 

 めぐみは何も答えられない。

 

 幼い頃から、困ったことがあれば何でも話してきた。めぐみが先に走り出し、誠司が危なっかしい背中を追いかける。それが二人の日常だった。

 

 初めて、明確に誠司を置いていかなければならない秘密ができた。

 

「分かった」

 

 誠司はめぐみから目をそらす。

 

「話せないなら、無理に聞かない」

 

「誠司……」

 

「ただ、危ないことをしてるならやめろ。お前は自分のことを後回しにしすぎる」

 

 誠司はそれだけ告げ、校舎へ戻っていった。

 

 めぐみはその背中を追えなかった。

 

 少し離れた渡り廊下に、悠が立っている。二人の会話を聞くつもりはなかったが、名前を呼ぶ声が耳に入ってしまった。

 

 めぐみは悠に気づき、困ったように笑う。

 

「聞こえちゃった?」

 

「少しだけ」

 

「秘密を守るって難しいね」

 

「そうだね」

 

「赤石君にも、誰にも言えない秘密ってある?」

 

 悠はすぐに答えられなかった。

 

 胸の奥には、人間ではない自分を形作るレッドストーンがある。身体を維持するには負の感情を必要とする。三百年前、レッドによって人間の愛を絶望へ反転させるために作られた。

 

 すべてを話せば、めぐみはどうするだろう。

 

 怖がるかもしれない。

 

 プリキュアとして、自分を倒そうとするかもしれない。

 

 それが正しい反応なのだと理解していても、実際に拒まれることを想像すると胸の奥が冷えた。

 

「あるよ」

 

 悠は答えた。

 

「話せないの?」

 

「話せば、相手を巻き込むかもしれない」

 

「私と同じだね」

 

「同じではないと思う」

 

 悠の秘密は、誰かを守るためだけのものではない。自分が拒まれることを恐れているから隠している部分もある。

 

「それでも、話せない気持ちは少し分かるよ」

 

 めぐみは悠の隣へ並ぶ。

 

「誠司を信用してないわけじゃないんだ。むしろ、大事だから巻き込みたくないの」

 

「その気持ちを、誠司君へ言えばよかったんじゃないかな」

 

「言ったら秘密のことをもっと聞かれそうで」

 

「確かに」

 

「赤石君、正直だね」

 

「嘘が苦手だから」

 

「さっきは助けてくれたのに?」

 

「上手に嘘をつけたとは思っていないよ」

 

 思い返せば、誠司はまったく納得していなかった。

 

 めぐみは小さく笑う。

 

「赤石君も秘密を守るのが苦手そう」

 

「そうかもしれない」

 

 二人は中庭を歩いていく誠司の背中を見つめた。

 

 秘密を話さないことが、大切な相手を守ることになるのか。

 

 話さないことで生まれた距離が、別の危険を生むのか。

 

 その答えは、どちらにも分からなかった。

 

 ★★★

 

 翌朝。

 

 空がまだ薄暗い時間に、めぐみの部屋へキュアラインの着信音が響いた。

 

「ううん……」

 

 めぐみは布団の中で寝返りを打つ。画面には、ひめからの緊急連絡が表示されている。

 

 着信は何度も続いた。

 

 めぐみはようやく手を伸ばし、眠ったまま通話ボタンを押す。

 

「もしもし……」

 

『めぐみ、起きて! サイアークだよ!』

 

 ひめの叫び声に、めぐみは飛び起きた。

 

「サイアーク!?」

 

『ぴかりが丘公園に出たの! 早く来て!』

 

 ぴかりが丘公園。

 

 その名前を聞いた瞬間、眠気が消えた。

 

 誠司が毎朝ランニングをしている場所だった。

 

「誠司がいるかもしれない!」

 

 めぐみは寝間着の上から上着を羽織り、プリチェンミラーとキュアラインを掴んで家を飛び出した。

 

 ★★★

 

 早朝のぴかりが丘公園では、新聞を模した大きな紙が風に舞っていた。紙面には、人々を不安にさせる言葉が黒い文字で並んでいる。

 

『友達はあなたを裏切る』

 

『秘密を持つ人間は信用できない』

 

『信じれば傷つくだけ』

 

 巨大な新聞紙を身体へ巻きつけたサイアークが、芝生を踏み荒らしながら進んでいた。その周囲には何体ものチョイアークが集まり、逃げる人々を追い回している。

 

 ホッシーワはベンチの上へ優雅に腰かけ、朝刊を広げていた。

 

「朝から運動なんて、ご苦労なことね。どうせ毎日同じ道を走るだけなのに」

 

 ランニング中だった誠司は、逃げ遅れた子供を背後へ庇い、チョイアークと向き合っていた。

 

「この子から離れろ!」

 

 チョイアークが一斉に飛びかかる。

 

 誠司は一体の腕を受け流し、空手の突きを腹部へ打ち込んだ。続けて蹴りを放ち、別の一体を転倒させる。

 

 しかし、相手の数が多すぎた。

 

 背後の子供を守りながらでは、自由に動くこともできない。

 

「チョイ!」

 

 横から伸びた腕が誠司の肩を捉える。体勢を崩したところへ別の一体が突進し、誠司は地面へ倒された。

 

「逃げろ!」

 

 誠司は子供へ叫ぶ。

 

 子供は泣きながら走り出したが、チョイアークの一体が追いかけようとする。

 

 その進路へ、制服ではない黒い上着を着た少年が飛び込んだ。

 

 悠だった。

 

 サイアークの出現と同時に、胸のレッドストーンが強く反応した。朝から突然膨れ上がった飢えに耐えながら、公園まで様子を見に来ていた。

 

 悠は子供を背後へ押しやり、チョイアークの腕をかわす。足を払って転倒させると、そのまま子供へ声をかけた。

 

「振り返らずに走って」

 

「お兄ちゃんは?」

 

「僕は大丈夫だから」

 

 子供が公園の出口へ走っていく。

 

 悠は誠司へ近づき、差し出されたチョイアークの腕を横から蹴り払った。

 

「赤石?」

 

 誠司は驚きながら立ち上がる。

 

「どうしてここに」

 

「散歩だよ」

 

「こんな朝早くに制服でもない格好でか?」

 

「君に説明している時間はなさそうだ」

 

 再びチョイアークが迫る。

 

 誠司と悠は背中を合わせた。

 

「戦えるのか?」

 

 誠司が尋ねる。

 

「少しだけ」

 

「その立ち方で少しだけは無理があるだろ」

 

 悠は答えず、正面から来たチョイアークの攻撃を受け流した。力を使いすぎれば、人間ではないことを悟られる。あくまで普通の少年に可能な動きへ抑えなければならない。

 

 だが、チョイアークの数は増え続けていた。

 

 サイアークが巨大な新聞紙を振ると、黒い紙片が刃となって飛んでくる。

 

「伏せて!」

 

 悠は誠司の肩を引き、二人で地面へ倒れ込んだ。紙片が頭上を通過し、背後の木へ突き刺さる。

 

「今のをどうして分かった?」

 

 誠司が尋ねる。

 

「風の音が変わったから」

 

 それは半分だけ真実だった。悠はサイアークの力の流れを感知できる。同種のエネルギーで作られた攻撃なら、視界に入る前から方向を感じ取れた。

 

 ホッシーワが悠に目を留める。

 

「あら?」

 

 一瞬、その表情から余裕が消えた。

 

 人間の少年にしか見えない。だが、その身体からわずかにサイアークと似た気配がする。

 

 悠はホッシーワと目を合わせないよう、誠司を立ち上がらせた。

 

「ここから離れて」

 

「お前はどうする」

 

「僕もあとから行く」

 

「信用できる言い方じゃないな」

 

 チョイアークが再び二人を囲む。

 

 誠司は悠の隣で拳を構えた。

 

「一人で残るつもりなら断る」

 

 悠はわずかに目を見開く。

 

 自分をほとんど知らない相手が、置いて逃げることを拒んだ。

 

 その理由を尋ねる前に、チョイアークが一斉に襲いかかってきた。

 

 ★★★

 

 公園の入口へ、めぐみとひめが駆け込んだ。

 

「誠司!」

 

 めぐみの目に、チョイアークに囲まれる誠司と悠の姿が映る。誠司の額には傷があり、悠も肩へ攻撃を受けて片膝をついていた。

 

「二人とも!」

 

 めぐみはプリチェンミラーを取り出そうとしたが、途中で手を止めた。

 

 誠司がいる。

 

 ここで変身すれば、正体が知られてしまう。

 

 ひめも同じことへ気づき、周囲を見回した。

 

「どうするの、めぐみ」

 

「でも、変身したら……」

 

「秘密がばれちゃうよ」

 

 誠司がチョイアークの攻撃を腕で受け、顔を歪める。

 

 悠は黒い紙片を肩へ受けながらも、誠司の前へ立った。傷口から血は流れていない。代わりに、一瞬だけ黒い霧が漏れ出した。

 

 悠はすぐに上着で隠したが、誠司はその異変を見ていた。

 

「赤石、お前の肩……」

 

「今は見ないで」

 

 悠は低い声で告げる。

 

 胸のレッドストーンが、周囲に満ちた負の力へ強く引かれている。気を抜けば、人間形態の一部が崩れるかもしれない。

 

 めぐみは二人の姿を見て、プリチェンミラーを強く握り締めた。

 

 秘密を守れば、誠司を危険から遠ざけられると思っていた。

 

 だが、今はその秘密を守ろうとすることが、誠司を助ける妨げになっている。

 

 秘密と命を比べることなどできない。

 

 それでも、今選ばなければならなかった。

 

「ひめ」

 

 めぐみは顔を上げる。

 

「私、変身する」

 

「誠司にも赤石君にも見られるよ」

 

「うん」

 

「ブルーに怒られるかもしれないよ」

 

「それでも、二人を見捨てられない!」

 

 めぐみは誠司を見つめた。

 

「隠し事をしてごめん。でも、今は助けさせて!」

 

 カードをプリチェンミラーへ装着する。

 

 ひめも覚悟を決め、めぐみの隣へ並んだ。

 

「プリキュア・くるりんミラーチェンジ!」

 

 桃色と青の光が公園へ広がる。

 

「世界に広がるビッグな愛! キュアラブリー!」

 

「天空に舞う蒼き風! キュアプリンセス!」

 

 二人のプリキュアが、誠司と悠を守るように降り立った。

 

 誠司は驚きに目を見開く。

 

「めぐみ……白雪……?」

 

 ラブリーは振り返らなかった。

 

「話はあとで! 今は安全なところへ行って!」

 

「お前たちが戦ってたのか」

 

「誠司、お願い!」

 

 誠司は言いたいことを飲み込み、肩を押さえながら後退した。悠もその隣へ移動する。

 

 プリンセスが小声でラブリーへ尋ねる。

 

「赤石君も驚いてた?」

 

「今は確認できないよ!」

 

 悠は二人の正体を以前から知っていた。だが、それを説明するつもりはなかった。

 

 ホッシーワはベンチから立ち上がる。

 

「秘密を見られちゃったわね。あなたたちがプリキュアだと分かった以上、その二人はこれから何度でも狙われるわよ」

 

 ラブリーの表情が曇る。

 

「あなたたちが嘘をついたせいで、今度はあの子たちも戦いへ巻き込まれるの。全部、あなたたちのせいね」

 

「違う!」

 

 プリンセスが叫ぶ。

 

「悪いのは、人を不幸にしようとする幻影帝国でしょ!」

 

「でも、秘密を知らなければ狙われなかったかもしれないわよ?」

 

「それでも、助けない理由にはならない!」

 

 ラブリーは拳を構えた。

 

「誠司に正体を知られたことは、あとでちゃんと話す。怒られても、困らせても、逃げないよ!」

 

 ホッシーワが鼻で笑う。

 

「きれいなことを言っていられるのも今のうちよ。やってしまいなさい!」

 

 チョイアークたちが二人へ襲いかかる。

 

 ラブリーは正面から拳を振るい、プリンセスは青い風をまとって側面へ回る。しかし、敵の数は多く、サイアークが放つ新聞紙の刃も二人を狙っていた。

 

 プリンセスが風を起こして紙片の軌道をそらす。

 

「ラブリー、チョイアークをお願い!」

 

「うん!」

 

 ラブリーはチョイアークの集団へ飛び込んだ。

 

 だが、倒しても倒しても新たな敵が迫る。そのうちの一体がラブリーをすり抜け、誠司へ向かって走り出した。

 

「誠司!」

 

 ラブリーは追いかけようとしたが、別のチョイアークに足を掴まれる。

 

 悠が誠司の前へ出た。

 

 チョイアークの拳が迫る。

 

 悠は受け止めようとしたが、胸の飢えと人間形態の不調で反応が遅れた。

 

 誠司が悠を横へ突き飛ばし、自分の腕で攻撃を受ける。

 

「ぐっ!」

 

 誠司の身体が地面へ転がった。

 

「誠司!」

 

 ラブリーの声が震える。

 

 自分が秘密を守ろうと迷った間に、誠司は傷ついた。何もできない人間だからではない。誰かを守ろうとして、逃げなかったからだ。

 

 怒りが胸の奥から噴き上がった。

 

 だが、それは誠司を傷つけた敵への怒りだけではない。

 

 迷い続けた自分への怒り。

 

 誠司へ本当のことを言えず、距離を作ってしまった自分への怒りでもあった。

 

 プリチェンミラーが光を放つ。

 

 新しいプリカードが、ラブリーの手元へ現れた。

 

「ラブリー、それは!」

 

 プリンセスが目を見開く。

 

 ラブリーはカードをプリチェンミラーへ装着した。

 

「プリキュア・くるりんミラーチェンジ!」

 

 赤い炎がラブリーの周囲で渦を巻く。桃色の衣装が情熱的な赤へ変わり、髪飾りとスカートがフラメンコを思わせる姿へ変化した。

 

「チェリーフラメンコ!」

 

 ラブリーは片足を強く踏み鳴らす。

 

 赤い炎が円を描いて広がり、チョイアークたちを取り囲んだ。鋭い手拍子と足音に合わせ、炎の輪が激しく燃え上がる。

 

「プリキュア・パッションダイナマイト!」

 

 情熱の炎が一斉に弾け、チョイアークたちを吹き飛ばした。

 

 誠司は地面へ座り込んだまま、その姿を見上げる。

 

「めぐみが、あんな力を……」

 

 悠もラブリーを見つめていた。

 

 怒りを破壊の衝動へ変えるのではなく、大切な者を守る力へ変えている。

 

 悠の中にも怒りはある。

 

 まりあを奪ったファントムへの怒り。

 

 自分を作ったレッドへの怒り。

 

 人間の不幸を必要としなければ生きられない身体への怒り。

 

 だが、悠はそれを誰かを守る力へ変える方法を知らなかった。

 

「赤石、大丈夫か?」

 

 誠司が尋ねる。

 

「君の方が傷ついている」

 

「俺は慣れてる」

 

「攻撃されることに?」

 

「めぐみの無茶へ付き合うことにだ」

 

 誠司は痛みをこらえながら立ち上がる。

 

「俺たちにできることをするぞ」

 

「僕たち?」

 

「逃げ遅れた人を公園の外へ誘導する。あいつらが戦ってる間にだ」

 

 誠司は傷ついてなお、自分にできる役割を探していた。

 

 悠は少しだけ迷ったあと、頷く。

 

「分かった」

 

 二人は公園に残る人々のもとへ走った。

 

 ★★★

 

 チェリーフラメンコの炎でチョイアークを退けたラブリーは、元のキュアラブリーへ戻った。

 

 サイアークが巨大な新聞紙を広げ、黒い文字を空へ放つ。

 

『秘密を持つ者を信じるな』

 

『嘘をつかれたら関係は終わり』

 

『本当のことを話せない者は仲間ではない』

 

 文字が黒い帯となってラブリーとプリンセスへ絡みつく。

 

「身体が動かない!」

 

 プリンセスが腕を引こうとするが、帯はさらに強く締まった。

 

 ホッシーワが笑う。

 

「秘密があるということは、信用していない証拠よ。相手が本当に大切なら、全部話せるはずでしょう?」

 

 ラブリーは誠司の顔を思い浮かべた。

 

 本当に大切だからこそ、話せなかった。

 

 だが、話せない理由すら伝えず、ただ嘘だけを重ねたことは間違っていたのかもしれない。

 

 秘密そのものではなく、相手の気持ちへ向き合うことから逃げていた。

 

「私は、誠司に謝る」

 

 ラブリーが黒い帯を掴む。

 

「秘密にしたことじゃない。何も説明せずに、誠司なら分かってくれるって勝手に思ってたことを謝る!」

 

 桃色の光が腕から広がり、黒い文字へ亀裂が走る。

 

「話せないことがあっても、相手を大事に思うことはできる!」

 

 プリンセスも力を込める。

 

「秘密があるからって、今までの全部が嘘になるわけじゃない!」

 

 二人は黒い帯を引きちぎった。

 

 ラブリーが正面からサイアークの新聞紙を押さえ、プリンセスが青い風をまとって上空へ飛ぶ。

 

「プリンセス・弾丸マシンガン!」

 

 青い光弾が新聞紙の端へ集中して命中する。紙面が破れ、サイアークの胸元が露出した。

 

「今だよ、ラブリー!」

 

「ありがとう、ひめ!」

 

 ラブリーは地面を蹴り、サイアークの胸へ拳を打ち込む。

 

「ラブリー・パンチングパンチ!」

 

 桃色の光が爆発し、サイアークが大きく後退した。

 

 ラブリーは着地すると、ラブプリブレスへ愛の光を集める。

 

「愛の光を聖なる力に!」

 

 大きな桃色のハートが形作られた。

 

「プリキュア・ピンキーラブシュート!」

 

 桃色の光がサイアークを包み込む。

 

「ラブリー!」

 

 新聞紙を模した身体が光へ変わり、空へ昇っていく。鏡に封じられていた新聞配達員が解放され、公園を覆っていた黒い文字も消滅した。

 

 ホッシーワは悔しそうに扇を閉じる。

 

「秘密を知られたことを、あとで後悔するのね!」

 

 黒い霧がホッシーワを包み、その姿が消えた。

 

 灰色の空へ朝日が差し込み、荒らされていた公園も元の姿へ戻っていった。

 

 ★★★

 

 戦いが終わると、めぐみとひめは誠司の前へ並んで座っていた。

 

 二人とも変身を解いている。

 

 誠司は腕へ簡単な手当てを受けながら、黙って二人を見ていた。

 

 めぐみは落ち着かず、何度も手を組み直す。

 

「その、ごめんなさい!」

 

 勢いよく頭を下げた。

 

「プリキュアになったことを黙っててごめん。それから、誠司に何も説明しないで嘘ばっかりついたことも、ごめん!」

 

 ひめも隣で頭を下げる。

 

「わたしからもごめんなさい。プリキュアの正体は秘密にしなくちゃいけなくて」

 

 誠司はしばらく何も答えなかった。

 

「顔を上げろよ」

 

 めぐみとひめがおそるおそる顔を上げる。

 

「プリキュアだったことは驚いた。何も話してくれなかったことにも、少し腹は立ってる」

 

「やっぱり怒ってる?」

 

「怒ってる」

 

 めぐみの肩が落ちる。

 

「でも、言えなかった理由は分かった」

 

 誠司はめぐみの額を指で軽く弾いた。

 

「痛っ!」

 

「俺を巻き込みたくなかったんだろ」

 

「うん」

 

「だったら、せめて危険なことをしてるくらいは教えろ。理由を全部話せなくても、何かあるってことくらいは言えただろ」

 

「ごめん」

 

「それに、お前一人で何とかしようとするな。プリキュアじゃなくても、避難を手伝ったり、周りを守ったりはできる」

 

 誠司は公園の外へ避難していく人々を見る。

 

「俺にもできることがあるなら、手伝わせろ」

 

 めぐみの目が潤む。

 

「誠司、ありがとう!」

 

 抱きつこうとするめぐみの額を、誠司が片手で押さえた。

 

「まだ怪我してる。飛びつくな」

 

「ごめんごめん!」

 

「まったく、お前は昔から変わらないな」

 

「誠司だって、昔から私のことを心配しすぎだよ」

 

「お前が心配させるからだろ」

 

 二人のやり取りを見て、ひめは首を傾げる。

 

「めぐみと誠司って、付き合ってるの?」

 

「違うよ!」

 

「違う!」

 

 二人の声が重なった。

 

「小さい頃から一緒だから、兄妹みたいなものだよ」

 

 めぐみが笑う。

 

「どっちが上なの?」

 

「俺だろ」

 

「ええっ、私がお姉さんじゃない?」

 

「世話される側が何を言ってるんだ」

 

 いつものような言い合いが始まり、ひめもようやく安心して笑った。

 

 少し離れた場所では、悠がサイアークの浄化後に残された黒い残滓を集めていた。

 

 今日は戦場へ長く留まり、チョイアークの攻撃も受けた。レッドストーンの飢えは強く、周囲へ漂う残滓を逃す余裕はない。

 

 誰にも見られていないことを確認し、手のひらへ黒い粒子を集める。

 

 人工的に生み出された負の力が、皮膚を通して胸へ吸収されていった。

 

「赤石」

 

 誠司の声が聞こえ、悠はすぐに手を閉じた。

 

 残っていた黒い粒子が消える。

 

「何をしてた?」

 

「落とし物を探していた」

 

「前にも同じことを言ってなかったか?」

 

「よく物を落とすんだ」

 

 誠司は明らかに疑っていたが、めぐみがこちらへ駆けてきたため、それ以上は追及しなかった。

 

「赤石君も、助けに来てくれたんだね!」

 

「偶然、公園にいただけだよ」

 

「また偶然?」

 

「散歩していた」

 

「朝早くに?」

 

 誠司と同じことを聞かれ、悠は答えに詰まる。

 

 ひめも近づいてくる。

 

「赤石君、わたしたちのことを見て驚かなかったよね」

 

「驚いていたよ」

 

「全然そう見えなかった」

 

「表情に出にくいんだ」

 

「前から知ってたんじゃないの?」

 

 悠は三人の視線を受ける。

 

 嘘を重ねれば、さらに疑われる。

 

 かといって、戦いを見ていたことを話せば、なぜ毎回サイアークの出現場所にいるのかと聞かれる。

 

「一度だけ、変身するところを見た」

 

 めぐみの顔色が変わった。

 

「いつ!?」

 

「愛乃さんが初めてプリキュアになった日」

 

「最初から知ってたの!?」

 

「ごめん」

 

 悠は素直に頭を下げた。

 

「誰にも話していないよ」

 

「どうして黙ってたの?」

 

「僕が話すことではないと思ったから」

 

 めぐみは悠の顔を見つめた。

 

「秘密を守ってくれたんだ」

 

「守ったというほどのことではないよ」

 

 ひめは腕を組む。

 

「でも、赤石君には正体がばれちゃってたんだね」

 

「俺は今日初めて知ったのに、赤石は先に知ってたのか」

 

 誠司が少し不満そうに言う。

 

「そこを競うものじゃないよ!」

 

 めぐみが止める。

 

 悠は胸元を押さえた。人間形態を維持するための力は戻りつつあるが、肩へ受けた傷の違和感は残っている。

 

 めぐみがその動きに気づく。

 

「赤石君、怪我してるの?」

 

「大したことはないよ」

 

「見せて」

 

「必要ない」

 

「チョイアークの攻撃を受けたんでしょ?」

 

 めぐみが上着へ手を伸ばそうとし、悠は反射的に一歩下がった。

 

 傷口を見られれば、人間の血が流れていないことに気づかれる。

 

「触らないで」

 

 思ったより強い声が出た。

 

 めぐみが驚いて手を止める。

 

「ごめん」

 

「僕の方こそ、ごめん」

 

 悠は目を伏せた。

 

「少し休めば治るから」

 

 誠司は肩の傷と、悠が先ほど黒い粒子を隠した手を見比べる。

 

 何かがおかしい。

 

 普通の怪我ではない。

 

 それでも、悠が話すことを恐れているのは分かった。

 

 誠司はめぐみの肩へ手を置く。

 

「今は無理に聞くな」

 

「でも……」

 

「赤石にも話せない事情があるんだろ」

 

 悠は誠司を見る。

 

 誠司の目には疑いがある。信用されたわけではない。それでも、今すぐ正体を暴こうとはしていなかった。

 

「ありがとう」

 

 悠は小さく告げる。

 

「礼を言うのはまだ早い」

 

 誠司は真剣な顔で答えた。

 

「めぐみたちを危険に巻き込む秘密なら、いつか話してもらう」

 

「分かった」

 

 悠は否定しなかった。

 

 そのときが来れば、誠司は自分を敵と判断するかもしれない。

 

 それでも今は、秘密を抱えたまま同じ場所に立つことを許された。

 

 ★★★

 

 ブルースカイ王国大使館へ戻ると、ブルーは誠司にプリキュアと幻影帝国について説明した。

 

 誠司は驚きながらも、最後まで口を挟まずに話を聞いた。

 

「つまり、めぐみと白雪がサイアークを浄化して、鏡に閉じ込められた人たちを助けてるんですね」

 

「そうだ」

 

 ブルーが頷く。

 

「正体を隠すよう伝えたのは、君たちのような大切な人々を危険へ巻き込まないためだった」

 

「それは分かります。でも、めぐみは秘密を守るためなら、一人で危険へ飛び込むと思います」

 

「誠司!」

 

 めぐみが抗議する。

 

「事実だろ」

 

 誠司はブルーへ視線を戻す。

 

「俺はプリキュアにはなれません。でも、何も知らないままより、知っていた方が助けられることもあると思います」

 

 ブルーはしばらく誠司を見つめた。

 

「君は、めぐみにとって大切な存在なんだね」

 

「小さい頃から一緒なので。兄妹みたいなものです」

 

「私がお姉さんだからね!」

 

「まだ言うのか」

 

 二人のやり取りを見て、ブルーは微笑んだ。

 

「それなら、君も仲間として力を貸してほしい」

 

 ブルーの手に、一台のキュアラインが現れる。

 

「僕も持っていいんですか?」

 

「プリキュアの仲間である証しだ。戦う力がなくても、君にしかできないことがある」

 

 誠司はキュアラインを受け取った。

 

「分かりました。めぐみたちのことは、俺も守ります」

 

「誠司、よろしくね!」

 

「まずはお前が無茶をしないことからだ」

 

「それは難しいかも」

 

「最初から諦めるな!」

 

 ひめとリボンが笑う。

 

 誠司の参加によって、ハピネスチャージプリキュアを支える輪が少しだけ広がった。

 

 悠はその場にはいなかった。

 

 めぐみは大使館へ誘おうとしたが、悠は傷を理由に断った。ブルーと会えば、正体を見抜かれる可能性がある。

 

 今はまだ、その輪の中へ入ることはできなかった。

 

 ★★★

 

 夕方、悠は一人でぴかりが丘公園へ戻っていた。

 

 戦いの痕跡は消え、朝と同じように人々が行き交っている。子供たちの声が響き、犬を連れた人が散歩をしていた。

 

 悠はベンチへ腰を下ろし、傷ついた肩へ手を当てる。人間の皮膚を形作っていた部分はほぼ再生している。だが、サイアークの攻撃を受けた影響で、レッドストーンの振動が安定しない。

 

「やっぱり、ここにいたか」

 

 誠司が公園の入口から歩いてきた。

 

 悠は立ち上がろうとしたが、誠司が片手で制する。

 

「座ってろ。怪我人だろ」

 

「君も同じだよ」

 

「俺は空手で慣れてる」

 

「攻撃されることに慣れない方がいいと思う」

 

「お前に言われたくない」

 

 誠司は悠の隣へ座った。

 

 しばらく、二人の間に沈黙が流れる。

 

「お前、めぐみたちのことを前から知ってたんだな」

 

「うん」

 

「どうして誰にも話さなかった?」

 

「彼女たちの秘密だから」

 

「秘密を知ってることを利用しようとは思わなかったのか?」

 

「何に利用するの?」

 

「分からないけど、脅したり、何かを要求したり」

 

 悠は不思議そうに誠司を見る。

 

「それをして、僕に何の得があるの?」

 

「お前、本当に変なやつだな」

 

「よく言われる」

 

 めぐみと同じ返事になり、悠はわずかに目を伏せた。

 

 誠司は公園の景色を眺めながら尋ねる。

 

「お前にも、誰にも言えない秘密があるんだろ」

 

「あるよ」

 

「今朝の傷と関係してるのか?」

 

「答えられない」

 

「めぐみたちを傷つけるものか?」

 

 悠はすぐには答えなかった。

 

 レッドによって与えられた命令が、今も胸の奥に残っている。人間の愛を観測し、絶望へ反転させる。その目的を実行するつもりはない。

 

 だが、飢えが限界を超えれば、自分がどうなるのか分からない。レッドから強制命令を受ければ、いつまで抵抗できるかも分からない。

 

「可能性はある」

 

 悠は嘘をつかなかった。

 

 誠司の表情が険しくなる。

 

「それでも、めぐみたちの近くにいるつもりか?」

 

「離れた方がいいと思っている」

 

「思っているだけか」

 

「愛乃さんと白雪さんは、離れようとしても話しかけてくるから」

 

「それは分かる」

 

 誠司は苦笑する。

 

「特にめぐみは、一度気にした相手を簡単に放っておかない」

 

「君も同じじゃないの?」

 

「俺はめぐみが心配だから、お前を見てるだけだ」

 

「十分、放っておいていないと思う」

 

 誠司は返す言葉を失い、やがて小さく笑った。

 

「お前が何者なのか、今すぐ無理に聞くつもりはない」

 

「いいの?」

 

「話せない理由があるんだろ。ただし、めぐみに危害を加えるなら俺が止める」

 

「君には特別な力がない」

 

「なくても止める」

 

 迷いのない答えだった。

 

 悠は朝の光景を思い出す。誠司はプリキュアでもないのに、子供を庇い、チョイアークの前へ立った。悠を置いて逃げることも拒んだ。

 

 まりあも、人間は力の有無だけで価値が決まるのではないと言っていた。

 

「そのときは、僕も君に止めてほしい」

 

 悠が静かに告げる。

 

「自分で止まる努力はしろ」

 

「努力はするよ」

 

「なら、今はそれでいい」

 

 誠司は立ち上がり、悠へ手を差し出した。

 

 悠はその手を見る。

 

 助けを求めたわけではない。

 

 誠司も、自分を完全に信用したわけではない。

 

 それでも、差し出された手を拒む理由は見つからなかった。

 

 悠は誠司の手を掴み、ベンチから立ち上がる。

 

「帰るぞ」

 

「どこへ?」

 

「大使館だ。めぐみがお前の怪我を心配してる」

 

「行かないよ」

 

「俺一人で戻ったら、今度はめぐみがここまで捜しに来るぞ」

 

 悠は簡単に想像できた。

 

「それは困るね」

 

「だろ?」

 

 二人は夕暮れの公園を歩き出す。

 

 大使館へ入るつもりはない。門の前まで行き、無事であることだけを伝える。

 

 それでも悠にとっては、誰かと並んで同じ場所へ帰る初めての経験だった。

 

 空は夕映えに染まり、二人の影が長く伸びている。

 

 人間ではない怪物と、特別な力を持たない人間。

 

 正反対の二人の間に、この日、まだ名前のつかない関係が生まれ始めていた。

 

 次回予告

 

 めぐみ:

「ひめが、私たちの学校へ転校してくることになったよ!」

 

 ひめ:

「友達百人くらい、簡単に作ってみせるんだから!」

 

 誠司:

「昨日まで知らない人と話すのを怖がってなかったか?」

 

 ひめ:

「昨日のわたしと今日のわたしは違うの!」

 

 悠:

「友達を作るために、忍者の格好をする必要はないと思う」

 

 ひめ:

「どうして作戦を知ってるの!?」

 

 めぐみ:

「次回、第4話『転校生はお姫様!! ひめの友達ゲット大作戦!! /友達を探す姫と、ひとりを選ぶ少年』」

 

 悠:

「僕は静かに授業を受けたいんだけど」

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