ハピネスチャージプリキュア!夕映えのアーベント 作:Leona
第7話『友情全開!! 二人の新たなる力!! /並んで立つこと、背中を預けること』
日曜日の朝、ぴかりが丘公園の広場では、めぐみとひめが向かい合って立っていた。二人の間には、空き缶を積み上げて作った小さな塔があり、少し離れたベンチではリボンと誠司、悠が特訓の様子を見守っている。
「今日こそ、私たちの完璧な連携を見せてあげる!」
ひめは腰へ手を当て、得意げに胸を張った。
「うん! 二人で一緒に倒そう!」
めぐみも拳を握る。
「それでは始めますわ。よーい──」
リボンが旗を振り下ろすより先に、めぐみが地面を蹴った。
「今だよ、ひめ!」
「えっ、もう!?」
ひめも慌てて駆け出す。二人は左右から空き缶の塔へ迫ったが、ほとんど同時に中央へ入り、肩と肩を正面からぶつけた。
「わあっ!」
「きゃっ!」
二人は左右へ倒れ込み、空き缶には指一本触れられなかった。衝撃で塔だけがゆっくりと傾き、一番上の缶が落ちて、めぐみの額へ軽く当たる。
「いたっ」
乾いた音が広場へ響いた。誠司は腕を組んだまま、深く息を吐く。
「さっきから同じことを何回やってるんだ」
「今のは、めぐみが急にこっちへ来たからだよ!」
ひめは起き上がり、服についた土を払った。
「ひめが真ん中まで出てきたんでしょ! あたしは右から行くって言ったよ!」
「右って、めぐみから見て右でしょ? 私から見たら左じゃん!」
「だったら先に聞いてよ!」
「めぐみこそ聞きなよ!」
空き缶を挟んで、二人は睨み合う。リボンが慌てて間へ飛び込んだ。
「け、喧嘩をしている場合ではありませんわ! 二人の息を合わせるための特訓ですのよ!」
「だから私は、息を合わせようとしてるの!」
「ひめが自分で決めて動くから、合わせられないんだよ!」
「それ、めぐみも同じじゃん!」
二人の声が重なった。誠司はベンチに座ったまま、隣にいる悠へ視線を向ける。
「赤石。お前から見て、どっちが悪いと思う?」
突然話を振られ、悠は少し考えた。左肩の傷はほとんど治っており、日常生活ではもう腕をかばわず動かせるほどまで回復している。それでも今日は、誠司から特訓への参加を止められていた。
「二人とも、相手が自分へ合わせると思っている」
めぐみとひめが同時に振り返る。
「どっちの味方なの、赤石くん!」
「そういう言い方はずるいよ!」
「味方を決める話ではないと思う」
悠は平然と答えた。
「愛乃さんは、白雪さんがどう動くか聞く前に助けようとする。白雪さんは、愛乃さんが勝手に動くと決めて、先に止めようとする」
「だって、めぐみは本当に勝手に動くじゃん」
「ひめだって勝手に前へ出るよ」
再び二人の言葉が重なる。悠は誠司へ視線を戻した。
「やっぱり、二人ともだと思う」
「同感だ」
誠司が頷く。
「二人とも、相手の話を聞く前に自分の言いたいことを言ってる」
「聞いてるよ!」
「聞いてるもん!」
また同時だった。誠司は何も言わず、じっと二人を見る。数秒後、めぐみとひめは互いの顔を見合わせた。
「……今のは、ちょっとだけ合ってたね」
「ほんのちょっとだよ」
言いながら、二人は気まずそうに目をそらした。
★★★
今回の特訓を言い出したのはリボンだった。ここ数回の戦いで、ラブリーとプリンセスは互いに助け合えるようになってきた。しかし、その連携は偶然や勢いに頼る部分が大きい。ラブリーが前へ出ればプリンセスも前へ出て、プリンセスが危険へ飛び込めばラブリーも考える前に後を追う。二人とも相手を助けようとはするが、役割そのものを預けることが苦手だった。
「次は、二人三脚ですわ!」
リボンが長い布を取り出す。
「二人の足を結び、息を合わせて歩くのです!」
ひめは露骨に嫌そうな顔をした。
「転びそう」
「転ばないように合わせる特訓ですわ!」
「普通に歩いた方が早いよ」
「特訓の意味がありませんの!」
リボンはめぐみの右足と、ひめの左足を布で結んだ。二人は肩を組み、慎重に立ち上がる。
「右からね」
めぐみが言う。
「どっちの右?」
「今度は二人とも同じ右だよ!」
「あ、そっか」
「本当に大丈夫かよ」
誠司が不安そうに呟く。リボンは小さな旗を構えた。
「位置について。よーい──」
「行くよ、ひめ!」
「まだ始まってない!」
めぐみが先に足を出し、ひめの身体が横へ引っ張られる。
「ちょっと、待って!」
「止まったら転ぶよ!」
「めぐみが先に動くからでしょ!」
二人は数歩進んだところで足をもつれさせ、そのまま芝生へ倒れ込んだ。
「失敗ですわ……」
リボンが肩を落とす。めぐみは芝生へ頬を押しつけたまま言った。
「次は、ひめが合図してよ」
「分かった」
二人はもう一度立ち上がった。ひめは大きく息を吸う。
「せーの!」
「待って。今の『せーの』で動くの?」
「普通は『の』で動くでしょ!」
「あたしは、その次だと思ってた!」
「どうして!?」
また二人の足が絡まり、芝生へ転がった。
悠はその様子を見ながら、リボンへ尋ねた。
「これで本当に戦えるようになるの?」
「私も少し不安になってきましたわ」
「言い出したのはリボンだろ」
誠司が呆れたように言う。
めぐみとひめは何度もやり直したが、進める距離はほとんど変わらなかった。片方が速く進もうとすれば、もう片方が引っ張られる。相手を待とうとすれば、今度は二人とも足を止めてしまう。何度目かの失敗のあと、ひめは自分から布をほどき、地面へ座り込んだ。
「もう無理! こういうの、私に向いてない!」
「そんなことないよ。もう少し練習すればできるって!」
「めぐみが先に動くからできないんじゃん!」
「あたしは、ひめが転ばないように引っ張ってるんだよ!」
「それが余計なの!」
ひめは立ち上がり、めぐみを指さす。
「めぐみは、いつも私を助けなきゃって思ってるでしょ!」
めぐみが言葉に詰まる。
「そんなこと……」
「あるよ!」
ひめは勢いのまま続けた。
「私が怖がりだから。弱いから。すぐ逃げるから!」
「そんな言い方してないよ!」
「言ってなくても分かるもん!」
ひめの声には、怒りだけではなく悔しさが混ざっていた。戦い始めた頃、自分は何度も逃げた。フォーチュンから弱いと責められ、実際にラブリーへ助けられてきた。めぐみが自分を大切にしてくれていることは分かっている。それでも、いつまでも守られるだけの存在だと思われるのは嫌だった。
「あたしは、ひめが心配なだけだよ!」
めぐみも声を強くした。
「無理して前に出て、また怪我したらどうするの!」
「それはめぐみも同じでしょ!」
「ひめは怖いのに無理するから!」
言った直後、めぐみは口を閉じた。ひめの表情から怒りが消え、代わりに傷ついたような色が浮かぶ。
「……もういい」
ひめは鞄を掴んだ。
「ひめ?」
「一人で練習する」
「待ってよ!」
めぐみが追いかけようとしたが、ひめは振り返らずに公園から走り去ってしまった。リボンが慌てて後を追う。
「姫! 待ってくださいまし!」
公園へ気まずい沈黙が残る。めぐみは、ひめが消えた方を見つめたまま拳を握っていた。
「そんなつもりじゃなかったのに」
誠司はすぐに何かを言おうとはせず、ベンチに置いてあった飲み物をめぐみへ差し出した。
「少し座れ」
「でも、ひめが」
「リボンがついてる。一度落ち着いた方がいい」
めぐみは迷った末、ベンチへ腰を下ろした。悠はその隣ではなく、少し離れた場所へ立っている。今のめぐみへ何を言えばよいのか分からなかった。まりあなら、まず怪我を確かめ、落ち着くまで待っただろう。ゆうこなら飲み物か食べ物を渡し、本人が話し始めるまでそばにいるかもしれない。悠には、そのどちらも上手くできない。
「僕も、似たようなことをする」
悠は静かに言った。めぐみが顔を上げる。
「赤石くんが?」
「相手が巻き込まれないように、一人で決める。相手がどうしたいかは聞かない」
悠は自分の左肩へ目を向けた。
「それで安全になると思っていた。でも、相楽君たちには迷惑だったみたいだ」
「迷惑とは言ってないだろ」
誠司が訂正する。
「心配するって言ったんだ」
「似たようなものだと思っていた」
「違う」
誠司は短く答えた。
「迷惑なら放っておく。心配だから止めるんだ」
悠は少し考えたあと、静かに頷く。
めぐみは膝の上で手を握った。
「あたし、ひめのことを弱いって思ってたのかな」
「思ってないだろ」
誠司が言う。
「でも、ひめが怖がる前に助けようとはしてた」
「だって、ひめが怖い思いをするのは嫌だよ」
「それを、ひめが望んでるか聞いたか?」
めぐみは答えられなかった。助けたいと思った。守りたいと思った。その気持ちは本物だ。けれど、ひめが自分で立ちたいと思っていることを、ちゃんと聞いたことはなかった。
「聞いてくる」
めぐみは立ち上がった。今度は勢いのまま走らず、一度だけ誠司と悠を見る。
「ひめを捜してくるね」
「俺たちも行く」
「ううん。最初は、あたし一人で話したい」
誠司は少し考えてから頷いた。
「分かった。何かあったら連絡しろ」
「うん」
めぐみは、ひめが走っていった方角へ向かった。悠はその背中を見送る。
「愛乃さんは、聞く前に動くんじゃなかったの?」
「今回は、聞くために動いたんだろ」
誠司が答える。
悠はその違いを、しばらく考えていた。
★★★
ひめは商店街の外れにある小さな公園へ来ていた。ベンチへ座り、膝を抱えている。リボンはその隣へ降りたものの、すぐには話しかけなかった。
「私だって、少しは戦えるようになったのに」
ひめがぽつりと言う。
「そうですわね」
「まだ怖いよ。サイアークが出たら、逃げたくなる時もある」
「はい」
「でも、怖くても戦いたいって思ってるの」
リボンは黙って聞いていた。ひめは唇を尖らせる。
「めぐみは、私が何もできないって思ってる」
「めぐみは、そのようには言っていませんわ」
「でも!」
ひめは言い返そうとして、声を弱めた。
「でも……私も、めぐみに任せればいいって思ってた時がある」
戦うのが怖い時、めぐみが来れば何とかなると思った。助けてもらうことを期待しながら、助けられる立場だと思われることには腹を立てている。その矛盾へ気づき、ひめはますます膝を抱え込んだ。
「私、嫌なやつかな」
「ひめは、少し面倒なところがありますわ」
「そこは否定してよ!」
「ですが、めぐみもかなり面倒ですの」
ひめは目を瞬かせた。リボンは小さく笑う。
「お互いに面倒だから、ちゃんと話さなければ分からないのではありませんこと?」
「リボンまで、難しいことを言うようになったね」
「おにぎり作りで成長しましたの」
「関係ある?」
ひめが少しだけ笑った。その時、公園の入口から足音が聞こえる。めぐみが息を切らしながら立っていた。
「ひめ」
ひめは反射的に顔をそらした。
「何?」
めぐみはすぐ隣へ座らず、少し離れた場所に立った。
「あたし、ひめの話を聞きに来た」
「謝りに来たんじゃないの?」
「謝るけど、その前に聞きたい」
めぐみはひめを真っすぐ見る。
「ひめは、戦う時どうしたいの?」
質問されると思っていなかった。ひめは少し戸惑いながら答える。
「私だって、前で戦いたい」
「怖くても?」
「怖いよ」
ひめは自分の腕を掴んだ。
「でも、怖いからって、ずっと後ろにいたくない。めぐみを助けたい時もあるの」
「そっか」
めぐみはそれだけ言った。
「それだけ?」
「うん。ちゃんと聞こうと思って」
ひめは不満そうに眉を寄せる。
「もっと何かないの?」
「あるよ」
めぐみは小さく息を吸った。
「あたし、ひめが怖がる前に助けた方がいいと思ってた。ひめを守るのが、友達として正しいって」
「やっぱり」
「でも、それじゃひめがどうしたいか聞いてないよね」
めぐみは頭を下げた。
「ごめん、ひめ」
ひめは膝を抱えたまま、めぐみを見る。
「私も、めぐみが勝手に動くって決めつけてた」
「うん。あたし、実際に勝手に動くけど」
「そこは否定してよ!」
「本当だから!」
二人は顔を見合わせた。先に吹き出したのはひめだった。
「もう。めぐみって、ほんと変」
「ひめに言われたくないよ」
めぐみも笑う。ひめはベンチから立ち上がった。
「今度は、ちゃんと私に任せてよ」
「うん」
「途中で心配になっても、すぐ前に出ないで」
「努力する!」
「絶対じゃないんだ」
「だって、ひめが本当に危なかったら助けるよ!」
ひめは少し考えたあと、手を差し出した。
「じゃあ、その時は助けてって言う」
めぐみも、その手を握る。
「あたしも、助けてって言うね」
二人の手が重なった瞬間、遠くから爆発音が響いた。黒い雲が商店街の上空へ広がっていく。リボンが飛び上がった。
「サイアークですわ!」
めぐみとひめは頷き合う。今度は、どちらも先に走り出さなかった。
「行こう、ひめ」
「うん、めぐみ!」
二人は並んで公園を飛び出した。
★★★
商店街のイベント広場では、二人の少女が鏡の中へ閉じ込められていた。彼女たちは地域のダンス大会へ出場する予定だったが、幼い頃から一緒に踊ってきたにもかかわらず、今日はどちらが中央に立つかで言い争いになってしまった。
「二人で並ぶから、どちらが優れているのか分からなくなるのだ!」
広場の中央で、オレスキーが赤いマントを翻している。
「一番とは、常に一人! 先頭に立つ者も一人! 勝利の栄光を手にする者も、このオレスキー様一人で十分なのだ!」
その前には、左右に二つの顔を持つ巨大なサイアークが立っていた。両腕は互いに反対方向へ引っ張り合い、一方が前へ出ようとするたび、もう一方が足を止める。
サイアークの身体から黒い光線が放たれ、広場にいた人々を二つの集団へ分けていく。
「自分が一番だ!」
「こっちの方が正しい!」
人々は互いの話を聞かず、自分の主張だけを叫び始めた。
遅れて到着した誠司と悠は、広場の混乱を確認する。
「二人は?」
誠司が尋ねた。
「もう近くにいる」
悠のレッドストーンが、プリキュアの光へ反応していた。
「僕たちは避難を手伝おう」
「肩は大丈夫か?」
「動かせるよ。でも、重いものは相楽君に頼む」
誠司は一瞬だけ悠を見る。以前の悠なら、自分から役割の限界を口にすることはなかった。
「ああ。走れるやつは、お前が出口へ誘導してくれ。動けない人は俺が運ぶ」
「分かった」
二人は別々の方向へ走った。
★★★
商店街の裏路地で、めぐみとひめはプリチェンミラーを構えた。
「プリキュア・くるりんミラーチェンジ!」
桃色と青の光が二人の身体を包む。
「世界に広がるビッグな愛! キュアラブリー!」
「天空に舞う蒼き風! キュアプリンセス!」
ラブリーとプリンセスは同時に地面を蹴り、イベント広場へ飛び込んだ。
「そこまでだよ!」
ラブリーがサイアークの拳を受け止める。プリンセスは鏡へ閉じ込められた少女たちの前へ着地した。
「二人で踊るのが嫌なら、一人で踊ればいい!」
オレスキーが笑う。
「隣に誰かがいれば、どちらが一番か分からなくなるからな!」
「一番じゃなくてもいいよ!」
プリンセスが言い返す。
「隣にいるから、できることもあるんだから!」
「負け惜しみだ!」
オレスキーが指を鳴らした。サイアークの二つの顔が別々に叫び、左右の腕を同時に振り回す。
ラブリーは右の拳を避け、プリンセスは左から迫る腕へ青い風を放った。しかし、互いの攻撃を避けるため移動した二人が、中央でぶつかりそうになる。
「プリンセス、危ない!」
ラブリーは咄嗟にプリンセスを抱え、横へ飛び退いた。サイアークの拳が、二人のいた場所へ突き刺さる。
「もう! また勝手に助けた!」
プリンセスが腕の中でもがく。
「だって危なかったから!」
「私も避けられたよ!」
「本当に?」
「疑わないで!」
二人が言い合っている間に、サイアークの尻尾が振り払われた。ラブリーとプリンセスはまとめて吹き飛ばされ、建物の壁へ激突する。
「ハハハハ! 所詮、二人で戦うなど無駄なのだ!」
オレスキーが高笑いした。
「一人が一人を守ろうとすれば、もう一人は自分で動けない! 互いに足を引っ張るだけではないか!」
サイアークが左右の拳を構える。ラブリーは壁へ手をつき、ゆっくりと立ち上がった。
「プリンセス」
「何?」
「今度は、どうしたい?」
プリンセスは少し驚いた。戦いの最中でも、めぐみは自分へ尋ねている。
プリンセスはサイアークの二つの顔を見比べた。右の顔が命令を出すと左腕が動き、左の顔が叫ぶと右腕が攻撃する。互いに逆の動きをしているため、力は強いが動きには小さな遅れがあった。
「私が前に出る」
プリンセスは答えた。
「風で二つの顔の視界を塞ぐ。ラブリーは後ろから足を止めて」
ラブリーは頷く。
「分かった。前は任せる」
プリンセスは青い光をまとい、サイアークへ向かって飛び出した。
「プリンセス・トルネード!」
巻き起こった風が、サイアークの二つの顔を包み込む。
「見えん!」
「どちらへ進めばいいのだ!」
二つの顔が別々の方向へ命令を出し、サイアークの足が止まる。ラブリーはその隙に背後へ回り込んだ。
プリンセスの背中が目の前にある。すぐに前へ出て守りたくなる。けれど、今は任せると決めた。
「プリンセス、背中は任せて!」
「うん!」
ラブリーはサイアークの両足へ腕を回し、力を込める。
「ラブリー・パワフルスロー!」
巨体が持ち上がり、地面へ倒された。プリンセスは風を抜け、サイアークの胸へ蹴りを叩き込む。
「プリンセス・急降下ダイブ!」
二人の攻撃が続けて命中し、サイアークの身体が大きく揺れる。
「今度はこちらから行くよ!」
ラブリーが叫ぶ。
「分かった!」
プリンセスはすぐ前へ出ず、ラブリーの動きを見る。ラブリーが正面から連続で拳を叩き込み、サイアークの両腕を上へ押し上げた。
その瞬間、プリンセスが下から青い風を放つ。桃色と青の力が重なり、サイアークの巨体を空へ浮かせた。
二人は初めて、ぶつかることなく同じ方向へ力を重ねた。
「何だ、この力は!」
オレスキーの顔から余裕が消える。
サイアークが空中で身体をひねり、黒い光を二人へ向けて放った。
「ラブリー!」
「プリンセス!」
二人は互いのコードネームを呼び、同時に手を伸ばす。桃色と青の光が、繋いだ手を中心に広がった。
ラブプリブレスが強く輝き始める。リボンが目を見開いた。
「二人の気持ちが、一つになっていますわ!」
ラブリーとプリンセスは空中へ舞い上がり、並んで両手を前へ構えた。
「愛と勇気の力を一つに!」
二人の前へ、桃色と青の巨大なハートが形作られる。
「プリキュア・ツインミラクルパワーシュート!」
二色の光が一つの奔流となり、サイアークを包み込んだ。
「ラブリー!」
「プリンセス!」
二つの顔が同時に穏やかな表情へ変わる。サイアークの巨体は桃色と青の光となって夕空へ昇り、鏡へ閉じ込められていた二人の少女も解放された。
オレスキーは拳を震わせる。
「二人で一つなど認めん! 一番は常に一人なのだ!」
「一番じゃなくても、私たちは強いよ!」
プリンセスが胸を張った。
ラブリーも笑顔で頷く。
「二人だからできたことだもん!」
「覚えていろ、プリキュア!」
オレスキーは黒い煙をまとい、その場から姿を消した。
★★★
戦いが終わると、二人のダンサーは広場の端で目を覚ました。
「私、あなたより目立ちたいって思ってた」
一人が俯きながら言う。
「私も。ずっと合わせてもらってると思ってた」
もう一人も答えた。二人は少し気まずそうに視線を交わす。
「でも、一人で踊るより、二人の方が楽しいよね」
「うん。立つ場所は、もう一度一緒に決めよう」
二人は手を取り合い、壊れかけたステージへ戻っていった。
変身を解いためぐみとひめは、少し離れた場所からその様子を眺めている。
「私たちも、もう一度決める?」
ひめが尋ねた。
「何を?」
「次の戦いで、どっちが前に出るか」
めぐみは少し考える。
「その時に聞けばいいんじゃないかな」
「また戦いながら?」
「うん。相手が毎回同じ動きをするとは限らないし」
ひめは笑った。
「めぐみにしては、いいこと言うじゃん」
「あたしだって考えてるよ!」
「時々ね」
「もう、ひめ!」
めぐみがひめの腕へ飛びつき、ひめも笑いながら押し返した。
そこへ、誠司と悠が歩いてくる。
「赤石くん、見てた?」
ひめが尋ねた。
「途中から」
「私たちの新しい技、すごかったでしょ!」
「うん。最初のぶつかり方よりは、ずっとよかったよ」
「比較するところがおかしい!」
めぐみが笑う。
誠司は二人の身体を確認するように見た。
「怪我はないのか?」
「大丈夫だよ!」
「私も平気!」
二人がほとんど同時に答える。誠司は少し疑うように目を細めた。
「返事が早いな」
悠が静かに言う。
めぐみとひめが同時に悠へ向き直った。
「赤石くんにだけは言われたくないよ!」
「そうだよ!」
今度の声は、ぴったり重なった。全員が一瞬黙り、その後で笑い声が広がった。
★★★
帰り道、悠と誠司は、めぐみたちより少し後ろを歩いていた。
戦いの最中、悠は避難する人々の誘導に徹した。大きな瓦礫は誠司へ任せ、自分は走れる人々を安全な通路へ案内した。一人で全部を引き受けようとはしなかった。
それでも、悠にはまだ分からないことがあった。
「背中を任せるって、どういう感覚なんだろう」
悠が呟く。
「急にどうした」
誠司が横を見る。
「愛乃さんたちは、相手が後ろにいることを信じて戦っていた」
「そうだな」
「僕は後ろに誰かがいると、気になる」
「攻撃されると思うのか?」
「分からない」
悠は少し考えた。
試作体だった頃、背後に立つ者は監視者か命令者だった。まりあだけは違った。彼女は背後から命令するのではなく、隣に立った。
それでも、誰かへ無防備な背中を向けることには慣れていない。人間の姿で暮らし始めてからも、悠は常に周囲の気配を探っていた。
「慣れれば、気にならなくなるんじゃないか」
誠司が言う。
「どうやって慣れるの?」
「誰かと一緒に歩くところからでいいだろ」
「今も一緒に歩いているよ」
「なら、少し前を歩け」
悠は誠司を見る。
「相楽君へ背中を向けて?」
「ああ。嫌なら無理にとは言わない」
悠は少し迷った。やがて歩幅を速め、誠司より半歩前へ出る。
背後から足音が聞こえる。いつでも振り返れるよう、身体へ力が入った。しかし、誠司は何もしてこない。ただ同じ速度で歩いている。
しばらく進んだところで、通行人が悠の左側を急いで通り抜けようとした。まだ完全には治っていない肩へ、ぶつかるかもしれない。
悠は反射的に右へ避けようとしたが、その前に誠司が悠の左側へ移動し、通行人との間へ入った。
「気をつけろ」
誠司が通行人へ声をかける。
悠は立ち止まった。
「どうした?」
「何でもない」
悠は再び歩き出した。今度も、誠司より半歩前を歩く。
数歩進んだあと、悠は小さな声で言った。
「もう少し、このままでいい?」
誠司は大げさに反応しなかった。
「ああ」
夕暮れの道を、二人は前後に並んで歩いた。悠は何度か背後の足音を確かめたが、最後まで振り返らなかった。
★★★
ぴかりが丘を見下ろす高い建物の屋上に、キュアフォーチュンが立っていた。その足元では、ぐらさんが腕を組んでいる。
「ラブリーとプリンセス、新しい技を使ったな」
「ええ」
フォーチュンは、遠ざかるめぐみとひめの姿を見つめていた。以前のプリンセスなら、敵へ立ち向かう前に足が止まっていた。今日も恐怖が消えていたわけではない。それでも、自分から前へ出る役割を選び、ラブリーへ背中を預けていた。
「少しは強くなったんじゃねえか?」
ぐらさんが尋ねる。
「二人で戦えるようになっただけよ」
フォーチュンは厳しい口調で答えた。
「幻影帝国を倒すには、まだ足りないわ」
「相変わらず厳しいな」
「事実を言っているだけよ」
そう答えながらも、フォーチュンはすぐに立ち去ろうとはしなかった。視線の先には、ラブリーとプリンセスだけでなく、少し離れて歩く悠の姿もある。
戦いが起きるたび、赤石悠は現場にいる。プリキュアと一緒に戦うわけではない。それでも、サイアークの出現を誰より早く察知し、危険な場所へ自分から入っていく。
「赤石君……」
フォーチュンは小さく呟いた。
彼は何者なのか。なぜ、傷ついても戦場へ近づくのか。疑いは消えていない。
だが今日、悠が誠司へ瓦礫の処理を任せていた姿も、フォーチュンは見ていた。以前の彼なら、一人で無理に動かそうとしたかもしれない。
プリンセスだけではない。悠もまた、少しずつ変わっている。
「いおな?」
ぐらさんに呼ばれ、フォーチュンは表情を引き締めた。
「帰りましょう、ぐらさん」
「おう」
二人は夕暮れの屋上から姿を消した。けれど、フォーチュンの胸に生まれた疑問は、次第に大きくなっていた。
次回予告
ひめ:
「大変! ミスフォーチュンの占いで、私とめぐみの友情が壊れるって!」
めぐみ:
「占いだけで、そんなこと決まらないよ!」
いおな:
「油断しない方がいいわ。悪い予感を無視しても、何も解決しないもの」
誠司:
「占いより、目の前で起きてることを見た方がいいだろ」
悠:
「氷川さんは、僕のことも疑っているみたいだ」
ひめ:
「何かしたの?」
悠:
「何も話していないからだと思う」
めぐみ:
「次回、第8話『友情の危機!! ミスフォーチュンの不吉な予言!! /信じたい言葉と、疑われる影』」
いおな:
「赤石君。今度こそ、あなたに聞かせてもらうわ」