ハピネスチャージプリキュア!夕映えのアーベント   作:Leona

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第7話『友情全開!! 二人の新たなる力!!/並んで立つこと、背中を預けること』

第7話『友情全開!! 二人の新たなる力!! /並んで立つこと、背中を預けること』

 

 日曜日の朝、ぴかりが丘公園の広場では、めぐみとひめが向かい合って立っていた。二人の間には、空き缶を積み上げて作った小さな塔があり、少し離れたベンチではリボンと誠司、悠が特訓の様子を見守っている。

 

「今日こそ、私たちの完璧な連携を見せてあげる!」

 

 ひめは腰へ手を当て、得意げに胸を張った。

 

「うん! 二人で一緒に倒そう!」

 

 めぐみも拳を握る。

 

「それでは始めますわ。よーい──」

 

 リボンが旗を振り下ろすより先に、めぐみが地面を蹴った。

 

「今だよ、ひめ!」

 

「えっ、もう!?」

 

 ひめも慌てて駆け出す。二人は左右から空き缶の塔へ迫ったが、ほとんど同時に中央へ入り、肩と肩を正面からぶつけた。

 

「わあっ!」

 

「きゃっ!」

 

 二人は左右へ倒れ込み、空き缶には指一本触れられなかった。衝撃で塔だけがゆっくりと傾き、一番上の缶が落ちて、めぐみの額へ軽く当たる。

 

「いたっ」

 

 乾いた音が広場へ響いた。誠司は腕を組んだまま、深く息を吐く。

 

「さっきから同じことを何回やってるんだ」

 

「今のは、めぐみが急にこっちへ来たからだよ!」

 

 ひめは起き上がり、服についた土を払った。

 

「ひめが真ん中まで出てきたんでしょ! あたしは右から行くって言ったよ!」

 

「右って、めぐみから見て右でしょ? 私から見たら左じゃん!」

 

「だったら先に聞いてよ!」

 

「めぐみこそ聞きなよ!」

 

 空き缶を挟んで、二人は睨み合う。リボンが慌てて間へ飛び込んだ。

 

「け、喧嘩をしている場合ではありませんわ! 二人の息を合わせるための特訓ですのよ!」

 

「だから私は、息を合わせようとしてるの!」

 

「ひめが自分で決めて動くから、合わせられないんだよ!」

 

「それ、めぐみも同じじゃん!」

 

 二人の声が重なった。誠司はベンチに座ったまま、隣にいる悠へ視線を向ける。

 

「赤石。お前から見て、どっちが悪いと思う?」

 

 突然話を振られ、悠は少し考えた。左肩の傷はほとんど治っており、日常生活ではもう腕をかばわず動かせるほどまで回復している。それでも今日は、誠司から特訓への参加を止められていた。

 

「二人とも、相手が自分へ合わせると思っている」

 

 めぐみとひめが同時に振り返る。

 

「どっちの味方なの、赤石くん!」

 

「そういう言い方はずるいよ!」

 

「味方を決める話ではないと思う」

 

 悠は平然と答えた。

 

「愛乃さんは、白雪さんがどう動くか聞く前に助けようとする。白雪さんは、愛乃さんが勝手に動くと決めて、先に止めようとする」

 

「だって、めぐみは本当に勝手に動くじゃん」

 

「ひめだって勝手に前へ出るよ」

 

 再び二人の言葉が重なる。悠は誠司へ視線を戻した。

 

「やっぱり、二人ともだと思う」

 

「同感だ」

 

 誠司が頷く。

 

「二人とも、相手の話を聞く前に自分の言いたいことを言ってる」

 

「聞いてるよ!」

 

「聞いてるもん!」

 

 また同時だった。誠司は何も言わず、じっと二人を見る。数秒後、めぐみとひめは互いの顔を見合わせた。

 

「……今のは、ちょっとだけ合ってたね」

 

「ほんのちょっとだよ」

 

 言いながら、二人は気まずそうに目をそらした。

 

 ★★★

 

 今回の特訓を言い出したのはリボンだった。ここ数回の戦いで、ラブリーとプリンセスは互いに助け合えるようになってきた。しかし、その連携は偶然や勢いに頼る部分が大きい。ラブリーが前へ出ればプリンセスも前へ出て、プリンセスが危険へ飛び込めばラブリーも考える前に後を追う。二人とも相手を助けようとはするが、役割そのものを預けることが苦手だった。

 

「次は、二人三脚ですわ!」

 

 リボンが長い布を取り出す。

 

「二人の足を結び、息を合わせて歩くのです!」

 

 ひめは露骨に嫌そうな顔をした。

 

「転びそう」

 

「転ばないように合わせる特訓ですわ!」

 

「普通に歩いた方が早いよ」

 

「特訓の意味がありませんの!」

 

 リボンはめぐみの右足と、ひめの左足を布で結んだ。二人は肩を組み、慎重に立ち上がる。

 

「右からね」

 

 めぐみが言う。

 

「どっちの右?」

 

「今度は二人とも同じ右だよ!」

 

「あ、そっか」

 

「本当に大丈夫かよ」

 

 誠司が不安そうに呟く。リボンは小さな旗を構えた。

 

「位置について。よーい──」

 

「行くよ、ひめ!」

 

「まだ始まってない!」

 

 めぐみが先に足を出し、ひめの身体が横へ引っ張られる。

 

「ちょっと、待って!」

 

「止まったら転ぶよ!」

 

「めぐみが先に動くからでしょ!」

 

 二人は数歩進んだところで足をもつれさせ、そのまま芝生へ倒れ込んだ。

 

「失敗ですわ……」

 

 リボンが肩を落とす。めぐみは芝生へ頬を押しつけたまま言った。

 

「次は、ひめが合図してよ」

 

「分かった」

 

 二人はもう一度立ち上がった。ひめは大きく息を吸う。

 

「せーの!」

 

「待って。今の『せーの』で動くの?」

 

「普通は『の』で動くでしょ!」

 

「あたしは、その次だと思ってた!」

 

「どうして!?」

 

 また二人の足が絡まり、芝生へ転がった。

 

 悠はその様子を見ながら、リボンへ尋ねた。

 

「これで本当に戦えるようになるの?」

 

「私も少し不安になってきましたわ」

 

「言い出したのはリボンだろ」

 

 誠司が呆れたように言う。

 

 めぐみとひめは何度もやり直したが、進める距離はほとんど変わらなかった。片方が速く進もうとすれば、もう片方が引っ張られる。相手を待とうとすれば、今度は二人とも足を止めてしまう。何度目かの失敗のあと、ひめは自分から布をほどき、地面へ座り込んだ。

 

「もう無理! こういうの、私に向いてない!」

 

「そんなことないよ。もう少し練習すればできるって!」

 

「めぐみが先に動くからできないんじゃん!」

 

「あたしは、ひめが転ばないように引っ張ってるんだよ!」

 

「それが余計なの!」

 

 ひめは立ち上がり、めぐみを指さす。

 

「めぐみは、いつも私を助けなきゃって思ってるでしょ!」

 

 めぐみが言葉に詰まる。

 

「そんなこと……」

 

「あるよ!」

 

 ひめは勢いのまま続けた。

 

「私が怖がりだから。弱いから。すぐ逃げるから!」

 

「そんな言い方してないよ!」

 

「言ってなくても分かるもん!」

 

 ひめの声には、怒りだけではなく悔しさが混ざっていた。戦い始めた頃、自分は何度も逃げた。フォーチュンから弱いと責められ、実際にラブリーへ助けられてきた。めぐみが自分を大切にしてくれていることは分かっている。それでも、いつまでも守られるだけの存在だと思われるのは嫌だった。

 

「あたしは、ひめが心配なだけだよ!」

 

 めぐみも声を強くした。

 

「無理して前に出て、また怪我したらどうするの!」

 

「それはめぐみも同じでしょ!」

 

「ひめは怖いのに無理するから!」

 

 言った直後、めぐみは口を閉じた。ひめの表情から怒りが消え、代わりに傷ついたような色が浮かぶ。

 

「……もういい」

 

 ひめは鞄を掴んだ。

 

「ひめ?」

 

「一人で練習する」

 

「待ってよ!」

 

 めぐみが追いかけようとしたが、ひめは振り返らずに公園から走り去ってしまった。リボンが慌てて後を追う。

 

「姫! 待ってくださいまし!」

 

 公園へ気まずい沈黙が残る。めぐみは、ひめが消えた方を見つめたまま拳を握っていた。

 

「そんなつもりじゃなかったのに」

 

 誠司はすぐに何かを言おうとはせず、ベンチに置いてあった飲み物をめぐみへ差し出した。

 

「少し座れ」

 

「でも、ひめが」

 

「リボンがついてる。一度落ち着いた方がいい」

 

 めぐみは迷った末、ベンチへ腰を下ろした。悠はその隣ではなく、少し離れた場所へ立っている。今のめぐみへ何を言えばよいのか分からなかった。まりあなら、まず怪我を確かめ、落ち着くまで待っただろう。ゆうこなら飲み物か食べ物を渡し、本人が話し始めるまでそばにいるかもしれない。悠には、そのどちらも上手くできない。

 

「僕も、似たようなことをする」

 

 悠は静かに言った。めぐみが顔を上げる。

 

「赤石くんが?」

 

「相手が巻き込まれないように、一人で決める。相手がどうしたいかは聞かない」

 

 悠は自分の左肩へ目を向けた。

 

「それで安全になると思っていた。でも、相楽君たちには迷惑だったみたいだ」

 

「迷惑とは言ってないだろ」

 

 誠司が訂正する。

 

「心配するって言ったんだ」

 

「似たようなものだと思っていた」

 

「違う」

 

 誠司は短く答えた。

 

「迷惑なら放っておく。心配だから止めるんだ」

 

 悠は少し考えたあと、静かに頷く。

 

 めぐみは膝の上で手を握った。

 

「あたし、ひめのことを弱いって思ってたのかな」

 

「思ってないだろ」

 

 誠司が言う。

 

「でも、ひめが怖がる前に助けようとはしてた」

 

「だって、ひめが怖い思いをするのは嫌だよ」

 

「それを、ひめが望んでるか聞いたか?」

 

 めぐみは答えられなかった。助けたいと思った。守りたいと思った。その気持ちは本物だ。けれど、ひめが自分で立ちたいと思っていることを、ちゃんと聞いたことはなかった。

 

「聞いてくる」

 

 めぐみは立ち上がった。今度は勢いのまま走らず、一度だけ誠司と悠を見る。

 

「ひめを捜してくるね」

 

「俺たちも行く」

 

「ううん。最初は、あたし一人で話したい」

 

 誠司は少し考えてから頷いた。

 

「分かった。何かあったら連絡しろ」

 

「うん」

 

 めぐみは、ひめが走っていった方角へ向かった。悠はその背中を見送る。

 

「愛乃さんは、聞く前に動くんじゃなかったの?」

 

「今回は、聞くために動いたんだろ」

 

 誠司が答える。

 

 悠はその違いを、しばらく考えていた。

 

 ★★★

 

 ひめは商店街の外れにある小さな公園へ来ていた。ベンチへ座り、膝を抱えている。リボンはその隣へ降りたものの、すぐには話しかけなかった。

 

「私だって、少しは戦えるようになったのに」

 

 ひめがぽつりと言う。

 

「そうですわね」

 

「まだ怖いよ。サイアークが出たら、逃げたくなる時もある」

 

「はい」

 

「でも、怖くても戦いたいって思ってるの」

 

 リボンは黙って聞いていた。ひめは唇を尖らせる。

 

「めぐみは、私が何もできないって思ってる」

 

「めぐみは、そのようには言っていませんわ」

 

「でも!」

 

 ひめは言い返そうとして、声を弱めた。

 

「でも……私も、めぐみに任せればいいって思ってた時がある」

 

 戦うのが怖い時、めぐみが来れば何とかなると思った。助けてもらうことを期待しながら、助けられる立場だと思われることには腹を立てている。その矛盾へ気づき、ひめはますます膝を抱え込んだ。

 

「私、嫌なやつかな」

 

「ひめは、少し面倒なところがありますわ」

 

「そこは否定してよ!」

 

「ですが、めぐみもかなり面倒ですの」

 

 ひめは目を瞬かせた。リボンは小さく笑う。

 

「お互いに面倒だから、ちゃんと話さなければ分からないのではありませんこと?」

 

「リボンまで、難しいことを言うようになったね」

 

「おにぎり作りで成長しましたの」

 

「関係ある?」

 

 ひめが少しだけ笑った。その時、公園の入口から足音が聞こえる。めぐみが息を切らしながら立っていた。

 

「ひめ」

 

 ひめは反射的に顔をそらした。

 

「何?」

 

 めぐみはすぐ隣へ座らず、少し離れた場所に立った。

 

「あたし、ひめの話を聞きに来た」

 

「謝りに来たんじゃないの?」

 

「謝るけど、その前に聞きたい」

 

 めぐみはひめを真っすぐ見る。

 

「ひめは、戦う時どうしたいの?」

 

 質問されると思っていなかった。ひめは少し戸惑いながら答える。

 

「私だって、前で戦いたい」

 

「怖くても?」

 

「怖いよ」

 

 ひめは自分の腕を掴んだ。

 

「でも、怖いからって、ずっと後ろにいたくない。めぐみを助けたい時もあるの」

 

「そっか」

 

 めぐみはそれだけ言った。

 

「それだけ?」

 

「うん。ちゃんと聞こうと思って」

 

 ひめは不満そうに眉を寄せる。

 

「もっと何かないの?」

 

「あるよ」

 

 めぐみは小さく息を吸った。

 

「あたし、ひめが怖がる前に助けた方がいいと思ってた。ひめを守るのが、友達として正しいって」

 

「やっぱり」

 

「でも、それじゃひめがどうしたいか聞いてないよね」

 

 めぐみは頭を下げた。

 

「ごめん、ひめ」

 

 ひめは膝を抱えたまま、めぐみを見る。

 

「私も、めぐみが勝手に動くって決めつけてた」

 

「うん。あたし、実際に勝手に動くけど」

 

「そこは否定してよ!」

 

「本当だから!」

 

 二人は顔を見合わせた。先に吹き出したのはひめだった。

 

「もう。めぐみって、ほんと変」

 

「ひめに言われたくないよ」

 

 めぐみも笑う。ひめはベンチから立ち上がった。

 

「今度は、ちゃんと私に任せてよ」

 

「うん」

 

「途中で心配になっても、すぐ前に出ないで」

 

「努力する!」

 

「絶対じゃないんだ」

 

「だって、ひめが本当に危なかったら助けるよ!」

 

 ひめは少し考えたあと、手を差し出した。

 

「じゃあ、その時は助けてって言う」

 

 めぐみも、その手を握る。

 

「あたしも、助けてって言うね」

 

 二人の手が重なった瞬間、遠くから爆発音が響いた。黒い雲が商店街の上空へ広がっていく。リボンが飛び上がった。

 

「サイアークですわ!」

 

 めぐみとひめは頷き合う。今度は、どちらも先に走り出さなかった。

 

「行こう、ひめ」

 

「うん、めぐみ!」

 

 二人は並んで公園を飛び出した。

 

 ★★★

 

 商店街のイベント広場では、二人の少女が鏡の中へ閉じ込められていた。彼女たちは地域のダンス大会へ出場する予定だったが、幼い頃から一緒に踊ってきたにもかかわらず、今日はどちらが中央に立つかで言い争いになってしまった。

 

「二人で並ぶから、どちらが優れているのか分からなくなるのだ!」

 

 広場の中央で、オレスキーが赤いマントを翻している。

 

「一番とは、常に一人! 先頭に立つ者も一人! 勝利の栄光を手にする者も、このオレスキー様一人で十分なのだ!」

 

 その前には、左右に二つの顔を持つ巨大なサイアークが立っていた。両腕は互いに反対方向へ引っ張り合い、一方が前へ出ようとするたび、もう一方が足を止める。

 

 サイアークの身体から黒い光線が放たれ、広場にいた人々を二つの集団へ分けていく。

 

「自分が一番だ!」

 

「こっちの方が正しい!」

 

 人々は互いの話を聞かず、自分の主張だけを叫び始めた。

 

 遅れて到着した誠司と悠は、広場の混乱を確認する。

 

「二人は?」

 

 誠司が尋ねた。

 

「もう近くにいる」

 

 悠のレッドストーンが、プリキュアの光へ反応していた。

 

「僕たちは避難を手伝おう」

 

「肩は大丈夫か?」

 

「動かせるよ。でも、重いものは相楽君に頼む」

 

 誠司は一瞬だけ悠を見る。以前の悠なら、自分から役割の限界を口にすることはなかった。

 

「ああ。走れるやつは、お前が出口へ誘導してくれ。動けない人は俺が運ぶ」

 

「分かった」

 

 二人は別々の方向へ走った。

 

 ★★★

 

 商店街の裏路地で、めぐみとひめはプリチェンミラーを構えた。

 

「プリキュア・くるりんミラーチェンジ!」

 

 桃色と青の光が二人の身体を包む。

 

「世界に広がるビッグな愛! キュアラブリー!」

 

「天空に舞う蒼き風! キュアプリンセス!」

 

 ラブリーとプリンセスは同時に地面を蹴り、イベント広場へ飛び込んだ。

 

「そこまでだよ!」

 

 ラブリーがサイアークの拳を受け止める。プリンセスは鏡へ閉じ込められた少女たちの前へ着地した。

 

「二人で踊るのが嫌なら、一人で踊ればいい!」

 

 オレスキーが笑う。

 

「隣に誰かがいれば、どちらが一番か分からなくなるからな!」

 

「一番じゃなくてもいいよ!」

 

 プリンセスが言い返す。

 

「隣にいるから、できることもあるんだから!」

 

「負け惜しみだ!」

 

 オレスキーが指を鳴らした。サイアークの二つの顔が別々に叫び、左右の腕を同時に振り回す。

 

 ラブリーは右の拳を避け、プリンセスは左から迫る腕へ青い風を放った。しかし、互いの攻撃を避けるため移動した二人が、中央でぶつかりそうになる。

 

「プリンセス、危ない!」

 

 ラブリーは咄嗟にプリンセスを抱え、横へ飛び退いた。サイアークの拳が、二人のいた場所へ突き刺さる。

 

「もう! また勝手に助けた!」

 

 プリンセスが腕の中でもがく。

 

「だって危なかったから!」

 

「私も避けられたよ!」

 

「本当に?」

 

「疑わないで!」

 

 二人が言い合っている間に、サイアークの尻尾が振り払われた。ラブリーとプリンセスはまとめて吹き飛ばされ、建物の壁へ激突する。

 

「ハハハハ! 所詮、二人で戦うなど無駄なのだ!」

 

 オレスキーが高笑いした。

 

「一人が一人を守ろうとすれば、もう一人は自分で動けない! 互いに足を引っ張るだけではないか!」

 

 サイアークが左右の拳を構える。ラブリーは壁へ手をつき、ゆっくりと立ち上がった。

 

「プリンセス」

 

「何?」

 

「今度は、どうしたい?」

 

 プリンセスは少し驚いた。戦いの最中でも、めぐみは自分へ尋ねている。

 

 プリンセスはサイアークの二つの顔を見比べた。右の顔が命令を出すと左腕が動き、左の顔が叫ぶと右腕が攻撃する。互いに逆の動きをしているため、力は強いが動きには小さな遅れがあった。

 

「私が前に出る」

 

 プリンセスは答えた。

 

「風で二つの顔の視界を塞ぐ。ラブリーは後ろから足を止めて」

 

 ラブリーは頷く。

 

「分かった。前は任せる」

 

 プリンセスは青い光をまとい、サイアークへ向かって飛び出した。

 

「プリンセス・トルネード!」

 

 巻き起こった風が、サイアークの二つの顔を包み込む。

 

「見えん!」

 

「どちらへ進めばいいのだ!」

 

 二つの顔が別々の方向へ命令を出し、サイアークの足が止まる。ラブリーはその隙に背後へ回り込んだ。

 

 プリンセスの背中が目の前にある。すぐに前へ出て守りたくなる。けれど、今は任せると決めた。

 

「プリンセス、背中は任せて!」

 

「うん!」

 

 ラブリーはサイアークの両足へ腕を回し、力を込める。

 

「ラブリー・パワフルスロー!」

 

 巨体が持ち上がり、地面へ倒された。プリンセスは風を抜け、サイアークの胸へ蹴りを叩き込む。

 

「プリンセス・急降下ダイブ!」

 

 二人の攻撃が続けて命中し、サイアークの身体が大きく揺れる。

 

「今度はこちらから行くよ!」

 

 ラブリーが叫ぶ。

 

「分かった!」

 

 プリンセスはすぐ前へ出ず、ラブリーの動きを見る。ラブリーが正面から連続で拳を叩き込み、サイアークの両腕を上へ押し上げた。

 

 その瞬間、プリンセスが下から青い風を放つ。桃色と青の力が重なり、サイアークの巨体を空へ浮かせた。

 

 二人は初めて、ぶつかることなく同じ方向へ力を重ねた。

 

「何だ、この力は!」

 

 オレスキーの顔から余裕が消える。

 

 サイアークが空中で身体をひねり、黒い光を二人へ向けて放った。

 

「ラブリー!」

 

「プリンセス!」

 

 二人は互いのコードネームを呼び、同時に手を伸ばす。桃色と青の光が、繋いだ手を中心に広がった。

 

 ラブプリブレスが強く輝き始める。リボンが目を見開いた。

 

「二人の気持ちが、一つになっていますわ!」

 

 ラブリーとプリンセスは空中へ舞い上がり、並んで両手を前へ構えた。

 

「愛と勇気の力を一つに!」

 

 二人の前へ、桃色と青の巨大なハートが形作られる。

 

「プリキュア・ツインミラクルパワーシュート!」

 

 二色の光が一つの奔流となり、サイアークを包み込んだ。

 

「ラブリー!」

 

「プリンセス!」

 

 二つの顔が同時に穏やかな表情へ変わる。サイアークの巨体は桃色と青の光となって夕空へ昇り、鏡へ閉じ込められていた二人の少女も解放された。

 

 オレスキーは拳を震わせる。

 

「二人で一つなど認めん! 一番は常に一人なのだ!」

 

「一番じゃなくても、私たちは強いよ!」

 

 プリンセスが胸を張った。

 

 ラブリーも笑顔で頷く。

 

「二人だからできたことだもん!」

 

「覚えていろ、プリキュア!」

 

 オレスキーは黒い煙をまとい、その場から姿を消した。

 

 ★★★

 

 戦いが終わると、二人のダンサーは広場の端で目を覚ました。

 

「私、あなたより目立ちたいって思ってた」

 

 一人が俯きながら言う。

 

「私も。ずっと合わせてもらってると思ってた」

 

 もう一人も答えた。二人は少し気まずそうに視線を交わす。

 

「でも、一人で踊るより、二人の方が楽しいよね」

 

「うん。立つ場所は、もう一度一緒に決めよう」

 

 二人は手を取り合い、壊れかけたステージへ戻っていった。

 

 変身を解いためぐみとひめは、少し離れた場所からその様子を眺めている。

 

「私たちも、もう一度決める?」

 

 ひめが尋ねた。

 

「何を?」

 

「次の戦いで、どっちが前に出るか」

 

 めぐみは少し考える。

 

「その時に聞けばいいんじゃないかな」

 

「また戦いながら?」

 

「うん。相手が毎回同じ動きをするとは限らないし」

 

 ひめは笑った。

 

「めぐみにしては、いいこと言うじゃん」

 

「あたしだって考えてるよ!」

 

「時々ね」

 

「もう、ひめ!」

 

 めぐみがひめの腕へ飛びつき、ひめも笑いながら押し返した。

 

 そこへ、誠司と悠が歩いてくる。

 

「赤石くん、見てた?」

 

 ひめが尋ねた。

 

「途中から」

 

「私たちの新しい技、すごかったでしょ!」

 

「うん。最初のぶつかり方よりは、ずっとよかったよ」

 

「比較するところがおかしい!」

 

 めぐみが笑う。

 

 誠司は二人の身体を確認するように見た。

 

「怪我はないのか?」

 

「大丈夫だよ!」

 

「私も平気!」

 

 二人がほとんど同時に答える。誠司は少し疑うように目を細めた。

 

「返事が早いな」

 

 悠が静かに言う。

 

 めぐみとひめが同時に悠へ向き直った。

 

「赤石くんにだけは言われたくないよ!」

 

「そうだよ!」

 

 今度の声は、ぴったり重なった。全員が一瞬黙り、その後で笑い声が広がった。

 

 ★★★

 

 帰り道、悠と誠司は、めぐみたちより少し後ろを歩いていた。

 

 戦いの最中、悠は避難する人々の誘導に徹した。大きな瓦礫は誠司へ任せ、自分は走れる人々を安全な通路へ案内した。一人で全部を引き受けようとはしなかった。

 

 それでも、悠にはまだ分からないことがあった。

 

「背中を任せるって、どういう感覚なんだろう」

 

 悠が呟く。

 

「急にどうした」

 

 誠司が横を見る。

 

「愛乃さんたちは、相手が後ろにいることを信じて戦っていた」

 

「そうだな」

 

「僕は後ろに誰かがいると、気になる」

 

「攻撃されると思うのか?」

 

「分からない」

 

 悠は少し考えた。

 

 試作体だった頃、背後に立つ者は監視者か命令者だった。まりあだけは違った。彼女は背後から命令するのではなく、隣に立った。

 

 それでも、誰かへ無防備な背中を向けることには慣れていない。人間の姿で暮らし始めてからも、悠は常に周囲の気配を探っていた。

 

「慣れれば、気にならなくなるんじゃないか」

 

 誠司が言う。

 

「どうやって慣れるの?」

 

「誰かと一緒に歩くところからでいいだろ」

 

「今も一緒に歩いているよ」

 

「なら、少し前を歩け」

 

 悠は誠司を見る。

 

「相楽君へ背中を向けて?」

 

「ああ。嫌なら無理にとは言わない」

 

 悠は少し迷った。やがて歩幅を速め、誠司より半歩前へ出る。

 

 背後から足音が聞こえる。いつでも振り返れるよう、身体へ力が入った。しかし、誠司は何もしてこない。ただ同じ速度で歩いている。

 

 しばらく進んだところで、通行人が悠の左側を急いで通り抜けようとした。まだ完全には治っていない肩へ、ぶつかるかもしれない。

 

 悠は反射的に右へ避けようとしたが、その前に誠司が悠の左側へ移動し、通行人との間へ入った。

 

「気をつけろ」

 

 誠司が通行人へ声をかける。

 

 悠は立ち止まった。

 

「どうした?」

 

「何でもない」

 

 悠は再び歩き出した。今度も、誠司より半歩前を歩く。

 

 数歩進んだあと、悠は小さな声で言った。

 

「もう少し、このままでいい?」

 

 誠司は大げさに反応しなかった。

 

「ああ」

 

 夕暮れの道を、二人は前後に並んで歩いた。悠は何度か背後の足音を確かめたが、最後まで振り返らなかった。

 

 ★★★

 

 ぴかりが丘を見下ろす高い建物の屋上に、キュアフォーチュンが立っていた。その足元では、ぐらさんが腕を組んでいる。

 

「ラブリーとプリンセス、新しい技を使ったな」

 

「ええ」

 

 フォーチュンは、遠ざかるめぐみとひめの姿を見つめていた。以前のプリンセスなら、敵へ立ち向かう前に足が止まっていた。今日も恐怖が消えていたわけではない。それでも、自分から前へ出る役割を選び、ラブリーへ背中を預けていた。

 

「少しは強くなったんじゃねえか?」

 

 ぐらさんが尋ねる。

 

「二人で戦えるようになっただけよ」

 

 フォーチュンは厳しい口調で答えた。

 

「幻影帝国を倒すには、まだ足りないわ」

 

「相変わらず厳しいな」

 

「事実を言っているだけよ」

 

 そう答えながらも、フォーチュンはすぐに立ち去ろうとはしなかった。視線の先には、ラブリーとプリンセスだけでなく、少し離れて歩く悠の姿もある。

 

 戦いが起きるたび、赤石悠は現場にいる。プリキュアと一緒に戦うわけではない。それでも、サイアークの出現を誰より早く察知し、危険な場所へ自分から入っていく。

 

「赤石君……」

 

 フォーチュンは小さく呟いた。

 

 彼は何者なのか。なぜ、傷ついても戦場へ近づくのか。疑いは消えていない。

 

 だが今日、悠が誠司へ瓦礫の処理を任せていた姿も、フォーチュンは見ていた。以前の彼なら、一人で無理に動かそうとしたかもしれない。

 

 プリンセスだけではない。悠もまた、少しずつ変わっている。

 

「いおな?」

 

 ぐらさんに呼ばれ、フォーチュンは表情を引き締めた。

 

「帰りましょう、ぐらさん」

 

「おう」

 

 二人は夕暮れの屋上から姿を消した。けれど、フォーチュンの胸に生まれた疑問は、次第に大きくなっていた。

 

 次回予告

 

 ひめ:

「大変! ミスフォーチュンの占いで、私とめぐみの友情が壊れるって!」

 

 めぐみ:

「占いだけで、そんなこと決まらないよ!」

 

 いおな:

「油断しない方がいいわ。悪い予感を無視しても、何も解決しないもの」

 

 誠司:

「占いより、目の前で起きてることを見た方がいいだろ」

 

 悠:

「氷川さんは、僕のことも疑っているみたいだ」

 

 ひめ:

「何かしたの?」

 

 悠:

「何も話していないからだと思う」

 

 めぐみ:

「次回、第8話『友情の危機!! ミスフォーチュンの不吉な予言!! /信じたい言葉と、疑われる影』」

 

 いおな:

「赤石君。今度こそ、あなたに聞かせてもらうわ」

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